説明

モータ用ブレーキ装置

【課題】 圧力調整機構を備えることによって内部圧力の変化を吸収することができるモータ用ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】 密閉空間内に磁性流体を充填し、該磁性流体に磁場を与えることによって前記磁性流体を磁化してモータに制動力を付与するモータ用ブレーキ装置において、前記磁性流体4の温度上昇に伴う体積変動に応じて容積を拡大または縮小するように位置を変え、前記密閉空間S内の内部圧力を調整する内部圧力調整用部材として高分子材料シート6を前記磁性流体4の体積変動に応動するように配設したことにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性流体を用いたモータ用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のモータ用ブレーキ装置としては、例えば特開2002−340059号公報(特許文献1参照。)がある。
この先行技術によれば、図9および図10に示すように、モータ用励磁作動型電磁ブレーキ101は、モータ102のケース102a端部に、取付けられる電磁ブレーキ本体103と、前記モータ102の回転子出力軸である回転軸102bに固着されたブレーキ可動部材106とからなる。電磁ブレーキ本体103は、内部に前記回転軸102bを中心軸に巻回される励磁コイル巻線104が配設され、中心部分を前記回転軸102bに貫通させるとともに、前記励磁コイル巻線104の内周側に段部105cを有する磁性材からなる第1のヨーク部材105aと、該第1のヨーク部材105aの端部に、固着、密封される段部105dを有する、磁性材からなる第2のヨーク105bとからなる。前記ブレーキ可動部材106は、回転軸102bに固着された磁性材からなる円板部107を有する部材である。前記第1のヨーク部材105aと回転軸102bの間には、シール部材109が配設されている。
【0003】
前記円板部107は第1のヨーク部材105aおよび第2のヨーク105bによって形成される空隙108内に配設され、該空隙108内には磁性流体110が充填されている。
前記励磁コイル巻線104に通電して励磁するとき、該励磁コイル巻線104により発生する磁束は、第1のヨーク部材105a→磁性流体110→円板部107→第2のヨーク105bを通り、再び第1のヨーク部材105aに入る磁路を形成する。
【特許文献1】特開2002−340059号公報
【特許文献2】実開昭60−160056号公報
【特許文献3】特開昭58−36150号公報
【特許文献4】実公平2−29807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記先行技術では、前記空隙108内に、前記磁性流体110を封入するとき、シール部材109で密閉した空隙108内に前記磁性流体110を100%充填していた。このとき、モータおよびブレーキ部の温度上昇により、磁性流体110が熱膨張を起こし、その結果、シール部材109が内部圧力に耐え切れず前記磁性流体110およびベース液漏れが発生する課題がある。
このような内圧を調整するためにベローズを用いる構造が考えられる(特許文献2参照)が、密閉性を保つためにOリングを介する必要があり、また取り付けの作業性も悪いという問題がある。さらにベローズは、高価である上、スペースを取るという問題もある。
さらに、内圧を吸収するために、弾性体の膜を設けて、弾性膜の伸縮で吸収する方法がある(特許文献3、特許文献4)が、磁性流体の体積変動を吸収するには、強度的に不十分である。
【0005】
本発明は、上記課題を解決し、圧力調整機構を備えることによって内部圧力の変化を吸収することができるモータ用ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、密閉空間内に磁性流体を充填し、該磁性流体に磁場を与えることによって前記磁性流体を磁化してモータに制動力を付与するモータ用ブレーキ装置において、前記磁性流体の温度上昇に伴う体積変動に応じて容積を拡大または縮小するように位置を変え、前記密閉空間内の内部圧力を調整する内部圧力調整用部材として高分子材料シートを前記磁性流体の体積変動に応動するように配設したことにある。
また、本発明は、前記密閉空間内に充填された磁性流体の表面に前記高分子材料シートを配置し、前記モータの温度が上昇していない時には、収縮する前記磁性流体の体積変動に応じて前記高分子材料シートが前記密閉空間内に窪んだ状態になるように構成されたことにある。
さらに、本発明は、前記密閉空間内に充填された磁性流体の表面に前記高分子材料シートを配置し、前記モータの温度が上昇していない時には、収縮する前記磁性流体の体積変動に応じて前記高分子材料シートが半径方向に波形形状になるように構成されたことにある。
またさらに、本発明は、前記高分子材料シートを円形に形成するとともに、前記高分子材料シートの周縁部に、環状の肉厚部を形成したことにある。
また、本発明は、前記高分子材料シートの前記密閉空間内に窪んだ部分の容積が、モータ駆動時に前記磁性流体が熱膨張する容積の1/2に設定されたことにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明のモータ用ブレーキ装置によれば以下の効果を奏することができる。
請求項1の発明によれば、磁性流体の温度上昇に伴う体積変動に応じて容積を拡大または縮小するように高分子材料シートが位置を変えることができるので、従来と比較して安価で小型のモータ用ブレーキ装置を得ることができる。
請求項2の発明によれば、モータやブレーキ装置の発熱によってブレーキの内部圧力が上昇しても高分子材料シートがほとんど延びることが無いので、ゴムの劣化を防止することができる。
請求項3の発明によれば、モータやブレーキ装置の発熱によってブレーキの内部圧力が上昇しても高分子材料シートが位置変化するだけで、ほとんど延びることが無いことから、ゴムの劣化を防止することができる。
請求項4の発明によれば、高分子材料シートの肉厚部がOリングと同等の機能を持つので、新たにOリングを装着する必要がない。また取り付けも簡単である。また安価である。
請求項5の発明によれば、モータ駆動時の発熱状態にあっても、磁性流体の熱膨張による容積変化に、高分子材料シートが全く延びることなく対応できるので、ブレーキ内部の圧力が上昇しない。そのため、安定したブレーキ力を得ることができる。またブレーキ装置の寿命が長くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下図示の実施の形態を、図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0009】
図1はモータ用ブレーキ装置に用いる内部圧力調整機構を示したものである。
モータ用ブレーキ装置1は、筐体2内にモータシャフト3を導入し、このモータシャフト3の周囲に充填されるように筐体2内に、磁性流体4を密閉したものである。モータシャフト3はオイルシール5を介して筐体2に回転自在に支持されている。筐体2の一側面には開口部2aが形成されており、この開口部2aを塞ぐようにして高分子材料シート6が配置されて密閉空間Sを形成している。
【0010】
この高分子材料シート6は、クロロプレンゴムなどの硬度のある合成ゴムで成形され、図2(a)(b)に示すように、外形が円形で、断面が略半円状の椀形をした薄いシート状に形成されており、かつ周囲の縁部に沿って環状の肉厚部6aが形成されている。この高分子材料シート6は、前記筐体2の端面に環状に形成された凹部2bに肉厚部6aを配置し、固定プレート7によって肉厚部6aを挟むようにしてネジ止めされている。前記固定プレート7は、リング状に形成されたプレートで、開口部2aが形成された筐体2の端面2cにネジ8を介して組み付けられている。
【0011】
前記磁性流体4は、磁場を与えることによって磁化してモータシャフト3に制動力を付与するもので、MR流体とも呼ばれる素材である。MR流体は強磁性金属微粒子を媒体となる液体中に高濃度で分散させたスラリーで、外部磁場により磁化された粒子同士が強く引きつけ合うことで高粘度になる素材である。
【0012】
上記構成によると、磁性流体4に磁場を与えることによって、磁性流体4は、磁化して高粘度になる。こうして、高粘度になった磁性流体4がモータシャフト3に密着して、モータシャフト3に制動力を付与するものである。一方、磁性流体4は、図3に示すように熱による磁性流体4の温度上昇に伴って体積を拡大するように変動する。このとき、密閉空間S内の内部圧力を調整する内部圧力調整用部材としての高分子材料シート6は、磁性流体4が熱膨張してある程度の体積になると、図示破線のように密閉空間Sを拡大するように、開口部2aの外側に向けて図4(i)(ii)(iii)(iv)のように変形して位置を変え、密閉空間Sの容積を拡大する。
【0013】
こうして、磁性流体4は熱膨張によって体積を拡大しても、密閉空間Sの容積が拡大しているので、内部圧力の上昇を抑制することができる。高分子材料シート6の外周部に環状の肉厚部分6aを設けているので、Oリングと同様の機能を持たせることができる。よって、オイルシール5が破損して磁性流体4が外部に漏れたり、ベース液が漏れたりする不具合を防止することができる。密閉空間Sの容積の拡大量Lは、磁性流体4が熱膨張によって体積を拡大する量Mに相当している。
【0014】
また、内部温度が低下すると、磁性流体4も温度が下がり、体積が縮小すると、密閉空間S内の内部圧力が低下する。こうして、密閉空間S内の内部圧力の低下にともなって、高分子材料シート6は密閉空間Sの容積を縮小するように変形して位置を変え、密閉空間Sの内側に窪んだ状態となるので、磁性流体4が密閉空間S内で不規則に流動する不具合を防止できる。
【0015】
また、図5および図6は、本発明の他の実施の形態による、モータに併設したモータ用ブレーキ装置を示したもので、モータシャフトの制動に磁性流体を用いたものである。
【0016】
この場合、モータ本体10に、ブレーキ装置11を併設したもので、モータ本体10に、ブレーキ装置11のハウジング12がネジ20により組み付けられている。ハウジング12内には、密閉空間Sが形成され、この密閉空間S内に、モータ本体10からモータシャフト13の先端部13aが導入されている。モータシャフト13の先端部13aには、密閉空間S内に広がるように、円盤状のブレーキディスク21が装着されており、このブレーキディスク21およびモータシャフト13の先端部13aを覆うように密閉空間S内に磁性流体14が充填されている。密閉空間Sへのモータシャフト13の先端部13aの導入部にはオイルシール15が設けられており、かつ、モータシャフト13の先端部13aの端面側の開口端部12aには、高分子材料シート16が装着されている。高分子材料シート16は、クロロプレンゴムなどの硬度のある合成ゴムで構成されており、一定以上の圧力で変形して位置を変えるように構成されている。
【0017】
この高分子材料シート16は、周縁部に環状の肉厚部16aを形成した円形のシート状に形成されている。ハウジング12の開口端部12aの周囲には、環状の凹部12bが形成されており、この凹部12bに肉厚部16aを配置し、この肉厚部16aの外側に固定プレート17がネジ18によって固定されている。固定プレート17の外側には、高分子材料シート16を外部と遮断するプレート19がネジ22を介してハウジング12に固定されている。ハウジング12の内部には、密閉空間Sの外周側に電磁石となるコイル23が配置され、磁性流体14の磁化を行なう。
【0018】
こうして、コイル23に通電して電磁石として動作させると、磁性流体14が磁化して粘性を高め、ブレーキディスク21に制動力を付与する。そして、モータシャフト13に制動力がかけられモータを停止させる。このとき、磁性流体14が熱膨張してある程度の体積になると、高分子材料シート16が、図示破線のように密閉空間Sを拡大するように、開口部12aの外側に向けて変形して位置を変え、密閉空間Sの容積を拡大する。これによって、密閉空間Sの内部圧力が低下し、オイルシール15の破損を防止する。
【0019】
以上のように、上記実施の形態によれば、磁性流体14の温度上昇に伴う体積変動に応じて容積を拡大または縮小するように高分子材料シート16が位置を変えることができるので、従来と比較して安価で小型のモータ用ブレーキ装置を得ることができる。
また、モータやブレーキ装置11の発熱によってブレーキの内部圧力が上昇しても高分子材料シート16がほとんど延びることが無いので、ゴムの劣化を防止することができる。
さらに、高分子材料シート16の肉厚部16aがOリングと同等の機能を持つので、新たにOリングを装着する必要がない。また取り付けも簡単で、安価である。
またさらに、モータ駆動時の発熱状態にあっても、磁性流体14の熱膨張による容積変化に、高分子材料シート16が全く延びることなく対応できるので、ブレーキ内部の圧力が上昇しない。そのため、安定したブレーキ力を得ることができる。またブレーキ装置11の寿命が長くなる。
【0020】
次に、図7(a)(b)は、高分子材料シート26の変形例で、肉厚部26aの内側に、半径方向の波形26bを同心円状に形成したものである。この場合も、図8(i)(ii)(iii)(iv)のように変形して、磁性流体14の熱膨張による容積変化によって、波形26bの凹凸が移動して、最終的に外側に湾曲し(図8(iv))、内部圧力の変化に追従することができる。
【0021】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、例えば、高分子材料シート16としては、クロロプレンゴムなどの硬度のあるゴム材料であれば、他の高分子材料でもよく、また、形状も円形以外の多角形でも良い。など、その他本発明の要旨を変更しない範囲内で適宜変更して実施し得ることができることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態によるモータ用ブレーキ装置に用いる内部圧力調整機構を示す概念断面図である。
【図2】熱膨張によって磁性流体の体積が増大した場合の高分子材料シートの容積変化を示す断面図である。
【図3】高分子材料シートの形状を示し、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図4】高分子材料シートの変形過程を示す断面図である。
【図5】モータ本体に本発明によるモータ用ブレーキ装置を組み付けた状態を示す部分断面図である。
【図6】熱膨張によって磁性流体が体積を増大した場合の高分子材料シートの変化を示す部分断面図である。
【図7】高分子材料シートの変形例を示し、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図8】波形の高分子材料シートの変形過程を示す断面図である。
【図9】従来のモータ用励磁作動型電磁ブレーキを示す断面図である。
【図10】図9の部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 モータ用ブレーキ装置
2 筐体
3、13 モータのシャフト
4、14 磁性流体
5、15 オイルシール
6、16 高分子材料シート
7、17 固定プレート
10 モータ本体
11 ブレーキ装置
12 ハウジング
S 密閉空間
2a 開口部
2b 凹部
6a,16a 肉厚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉空間内に磁性流体を充填し、該磁性流体に磁場を与えることによって前記磁性流体を磁化してモータに制動力を付与するモータ用ブレーキ装置において、前記磁性流体の温度上昇に伴う体積変動に応じて容積を拡大または縮小するように位置を変え、前記密閉空間内の内部圧力を調整する内部圧力調整用部材として高分子材料シートを前記磁性流体の体積変動に応動するように配設したことを特徴とするモータ用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記密閉空間内に充填された磁性流体の表面に前記高分子材料シートを配置し、前記モータの温度が上昇していない時には、収縮する前記磁性流体の体積変動に応じて前記高分子材料シートが前記密閉空間内に窪んだ状態になるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のモータ用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記密閉空間内に充填された磁性流体の表面に前記高分子材料シートを配置し、前記モータの温度が上昇していない時には、収縮する前記磁性流体の体積変動に応じて前記高分子材料シートが半径方向に波形形状になるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のモータ用ブレーキ装置。
【請求項4】
前記高分子材料シートを円形に形成するとともに、前記高分子材料シートの周縁部に、環状の肉厚部を形成したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のモータ用ブレーキ装置。
【請求項5】
前記高分子材料シートの前記密閉空間内に窪んだ部分の容積が、モータ駆動時に前記磁性流体が熱膨張する容積の1/2に設定されたことを特徴とする請求項2に記載のモータ用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−293760(P2009−293760A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150197(P2008−150197)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000103792)オリエンタルモーター株式会社 (150)
【Fターム(参考)】