ラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータおよびカムの製造方法
【課題】外周側部材および内周側部材の半径方向に大型化することを抑制可能なラジアルピストンポンプを提供する。
【解決手段】相対回転可能な外周側部材3および内周側部材5と、外周側部材3に設けられたカム面20と、内周側部材5に設けられたピストン7,8と、外周側部材3と内周側部材5とが相対回転してピストン7,8が動作した場合に流体が吸入・吐出される流体室9とを有するラジアルピストンポンプにおいて、カム面20に傾斜カム領域K1,K2および同軸カム領域K3が設けられており、ピストン7,8をカム面20の同軸カム領域K3または傾斜カム領域K1,K2に選択的に接触させることにより、ピストン7,8の動作量を制御し、流体室9に吸入・吐出される流体の流量を可変とする容量可変機構21が設けられている。
【解決手段】相対回転可能な外周側部材3および内周側部材5と、外周側部材3に設けられたカム面20と、内周側部材5に設けられたピストン7,8と、外周側部材3と内周側部材5とが相対回転してピストン7,8が動作した場合に流体が吸入・吐出される流体室9とを有するラジアルピストンポンプにおいて、カム面20に傾斜カム領域K1,K2および同軸カム領域K3が設けられており、ピストン7,8をカム面20の同軸カム領域K3または傾斜カム領域K1,K2に選択的に接触させることにより、ピストン7,8の動作量を制御し、流体室9に吸入・吐出される流体の流量を可変とする容量可変機構21が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外周側部材と内周側部材とを相対回転させることにより、ピストンを軸線を中心とする半径方向に動作させて、流体室に流体を吸入・吐出するラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータに関し、さらには、ラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータに用いるカムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、外周側部材および内周側部材を軸線を中心として相対回転させることにより、ピストンを軸線を中心とする半径方向に動作させて、流体室に流体を吸入・吐出するラジアルピストンポンプが知られており、そのラジアルピストンポンプを有する無段変速機の一例が、特許文献1に記載されている。この特許文献1においては、ミッションケース内に、入力軸および出力軸が同軸上に、かつ、相対回転可能に配置されている。また、入力軸にはシリンダボディが取り付けられており、そのシリンダボディの外周面には、放射状に第1、第2シリンダ孔が設けられている。さらに、第1シリンダ孔には第1プランジャが摺動自在に配置されており、第2シリンダ孔には内周側部材プランジャが摺動自在に配置されている。さらに、第1、第2シリンダ孔には、それぞれポンプポートが開口されている。一方、前記ミッションケースには第1ポンプリングが取り付けられており、この第1ポンプリングは前記シリンダボディを取り囲むように配置されている。また、前記第1ポンプリングは、前記入力軸と平行な枢軸を介して、前記ミッションケースにより揺動自在に支持されている。一方、前記出力軸には第2ポンプリングが設けられており、前記シリンダボディに対して一側方へ所定距離偏心するように配置されている。
【0003】
上記の第1シリンダ孔、第1プランジャ、第1ポンプリングなどにより、第1油圧ポンプが構成され、上記の第2シリンダ孔、第2プランジャ、第2ポンプリングなどにより、第2油圧ポンプが構成されているとともに、第1シリンダ孔と第2シリンダ孔とが接続されている。そして、前記入力軸を回転させると、前記第1プランジャの先端が前記第1ポンプリングの内周面に接触した状態で、前記第1プランジャが入力軸の半径方向に往復移動し、オイルの吸入・吐出がおこなわれる。さらに、前記シリンダボディに対する前記第1ポンプリングの偏心方向および偏心量を変えることにより、第2油圧ポンプの吸入吐出量域を反転させたり、その容量を調節できるものとされている。なお、ピストンを回転部材の半径方向に動作させるとともに、半径方向におけるピストンのストロークを可変としたトルク伝達装置が、特許文献2に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−303526号公報
【特許文献2】特開平2−120520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1に記載されているラジアルピストンポンプにおいては、前記シリンダボディに対して前記第1ポンプリングを半径方向に稼働させる必要があるため、ラジアルピストンポンプが回転部材の半径方向に大型化する恐れがあった。
【0006】
この発明は上記事情を背景としてなされたものであって、軸線を中心とする半径方向に大型化することを抑制可能なラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータを提供し、ラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータに用いるカム部材の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため請求項1の発明は、回転中心となる軸線を中心として相対回転可能に、かつ、前記軸線を中心として内外周に配置された外周側部材および内周側部材と、前記外周側部材に設けられ、かつ、前記軸線に沿った方向の平面内の中心線を取り囲むように円筒形状に構成されたカム面と、前記内周側部材に設けられ、かつ、前記カム面に追従して前記軸線を中心とする半径方向に動作可能なピストンと、前記内周側部材に設けられ、かつ、前記外周側部材と内周側部材とが相対回転して前記ピストンが前記軸線を中心とする半径方向に動作した場合に流体が吸入・吐出される流体室とを有するラジアルピストンポンプにおいて、前記カム面は、前記軸線と前記中心線とが交差している傾斜カム面と、前記軸線と前記中心線とが同軸である同軸カム面とを含み、前記外周側部材と内周側部材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させて、前記軸線を中心とする半径方向で前記ピストンを前記同軸カム面または傾斜カム面の内側に選択的に位置させることにより、前記半径方向における前記ピストンの動作量を制御し、前記流体室に吸入・吐出される流体の流量を可変とする容量可変機構が設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記傾斜カム面には、前記軸線に沿った方向で異なる位置に配置された第1の傾斜カム面および内周側部材の傾斜カム面が含まれており、前記軸線に沿った方向で、前記第1の傾斜カム面と前記傾斜カム面との間に前記同軸カム面が配置されており、前記軸線に沿った方向の平面内で、前記中心線は、前記第1の傾斜カム面および前記第2の傾斜カム面で共に前記軸線に対して同じ方向に傾斜されているとともに、前記容量可変機構は、前記外周側部材と内周側部材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させることにより、前記ピストンを前記第1の傾斜カム面と前記同軸カム面と前記第2の傾斜カム面との間で相互に行き来させることが可能であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2の構成に加えて、前記軸線を中心として回転可能に設けられ、かつ、前記外周側部材と相対回転可能な動力伝達部材と、この動力伝達部材に設けられ、かつ、前記カム面に追従して前記軸線を中心とする半径方向に動作可能な第2ピストンと、前記動力伝達部材に設けられ、かつ、前記流体室と油路を介して接続された第2流体室とを有するラジアルピストンモータが設けられており、前記ラジアルピストンモータは、前記流体室から前記第2流体室に流体が供給されて前記第2ピストンが半径方向の外側に向けて動作する場合に、前記第2ピストンが前記カム面に押し付けられた場合の反力で、前記動力伝達部材を前記軸線を中心として回転させる向きのトルクが発生する構成と、前記ピストンが半径方向で内側に押し付けられた場合に、前記第2流体室から吐出された流体が前記流体室に供給される構成とを有しており、前記容量可変機構は、前記外周側部材と内周側部材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させると同時に、前記外周側部材と動力伝達部材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させる構成と、前記半径方向における前記第2ピストンの動作量を制御し、前記第2流体室に吸入される流体の流量を可変とする構成と、を有していることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項3の構成に加えて、前記可変容量機構は、前記ピストンおよび第2ピストンを前記第1の傾斜カム面に追従して動作させる状態と、前記ピストンを前記同軸カム面または傾斜カム面に追従して動作させ、かつ、第2ピストンを前記第1の傾斜カム面に追従して動作させる状態とを、選択的に切り替え可能な構成を有していることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5の発明は、回転中心となる軸線を中心として相対回転可能であり、かつ、軸線を中心として内外周に配置された外周側部材および内周側部材と、前記外周側材に設けられ、かつ、前記軸線に沿った方向の平面内の中心線を取り囲むように円筒形状に構成されたカム面と、前記内周側材に設けられ、かつ、前記カム面に追従して前記軸線を中心とする半径方向に動作可能な第3ピストンと、前記内周側材に設けられ、かつ、流体が供給される第3流体室とを有し、この第3流体室に流体を供給して前記ピストンを半径方向で外側に向けて動作させることにより、前記カム面で発生する反力で前記内周側材を回転させる向きのトルクを生じさせるとともに、前記第3流体室の容量を変更可能なラジアルピストンモータにおいて、前記カム面には、前記軸線と前記中心線とが交差している傾斜カム面と、前記軸線と前記中心線とが同軸である同軸カム面とが含まれており、前記外周側材と内周側材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させて、前記第3ピストンを、前記軸線を中心とする半径方向で前記同軸カム面または傾斜カム面の内側に選択的に位置させることにより、前記半径方向における前記第3ピストンの動作量を制御し、前記第3流体室に供給される流体の流量を可変とする容量可変機構が設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項6の発明は、請求項5の構成に加えて、前記傾斜カム面には、前記軸線に沿った方向で異なる位置に配置された第1の傾斜カム面および第2の傾斜カム面が含まれており、前記軸線に沿った方向で、前記第1の傾斜カム面と前記第2の傾斜カム面との間に前記同軸カム面が配置されており、前記軸線に沿った方向の平面内で、前記中心線は、前記第1の傾斜カム面および前記第2の傾斜カム面で共に前記軸線に対して同じ方向に傾斜されているとともに、前記容量可変機構は、前記外周側材と内周側材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させることにより、前記第3ピストンを前記第1の傾斜カム面と前記同軸カム面と前記第2の傾斜カム面との間で相互に行き来させることが可能であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項7の発明は、加工対象物に穴をあけることにより、動作する際の中心となる軸線を中心として半径方向に動作するピストンが接触し、かつ、前記軸線を取り囲む円筒形状のカム面を形成する、カムの製造方法において、前記軸線に沿った方向に分割された複数の加工対象物を用意する第1工程と、前記第1工程で用意された第1の加工対象物に、軸線と一致する中心線を中心とする同軸カム面を形成する第2工程と、前記第1工程で用意された第2の加工対象物に、軸線と交差する中心線を中心とする傾斜カム面を形成する第3工程と、前記第2工程で同軸カム面が形成された第1の加工対象物と、前記第2工程で傾斜カム面が加工された第2の加工対象物とを接触させて前記同軸カム面と前記傾斜カム面とを接続した後、第1の加工対象物と第2の加工対象物とを相互に固定する第4工程と、を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、軸線を中心として外周側部材と内周側部材とが相対回転すると、カム面に接触した状態でピストンが半径方向に往復動し、流体室に流体が吸入・吐出される。また、ピストンがカム面の傾斜カム面に接触した状態で、外周側部材と内周側部材とを軸線に沿った方向に相対移動させると、外周側部材と内周側部材とが相対回転した場合、半径方向でピストンの動作量が変化する。すると、流体室に吸入・吐出される流体の流量が可変となる。したがって、前記軸線を中心とする半径方向に、ラジアルピストンポンプが大型化することを抑制できる。さらに、ピストンをカム面の同軸カム面に接触させた状態で、外周側部材と内周側部材とが相対回転した場合、ピストンが半径方向に動作しなくなり、流体室への流体の吸入、および流体室からの流体の吐出がおこなわれなくなる。
【0015】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、ピストンが第1の傾斜カム面に接触している場合と、ピストンが第2の傾斜カム面に接触している場合とでは、前記軸線を中心とする円周方向で、前記流体室に流体が吸入される位相と、前記流体室から流体が吐出される位相とが逆になる。
【0016】
請求項3の発明によれば、請求項1または2の発明と同様の効果を得られる他に、流体室から吐出された流体が第2流体室に供給され、かつ、前記第2流体室から吐出された流体が前記流体室に供給される。そして、ラジアルピストンモータの第2流体室に流体が供給されて前記第2ピストンが半径方向の外側に向けて動作する場合に、前記第2ピストンが前記カム面に押し付けられ、その反力で前記動力伝達部材を前記軸線を中心として回転させる向きのトルクが発生する。
【0017】
請求項4の発明によれば、請求項3の発明と同様の効果を得られる他に、外周側部材の回転方向に対して、動力伝達部材の回転状態を正回転状態及び逆回転状態ならびに停止状態に切替可能である。
【0018】
請求項5の発明によれば、第3ピストンがカム面の傾斜カム面に接触しているとともに、外周側材と内周側材とが相対回転すると、ラジアルピストンモータの第3流体室に流体が供給されて、第3ピストンが半径方向の外側に向けて動作する場合に、第3ピストンがカム面に押し付けられ、その反力で前記内周側材を前記軸線を中心として回転させる向きのトルクが発生する。また、外周側材と内周側材とを軸線に沿った方向に相対移動させると、ラジアルピストンモータに供給され、かつ、ラジアルピストンモータから吐出される流体の容量を可変とすることができる。これに対して、第3ピストンが同軸カム面に接触されると、ラジアルピストンモータへの流体の供給がおこなわれなくなり、かつ、ラジアルピストンモータから流体が吐出されなくなる。
【0019】
請求項6の発明によれば、請求項5の発明と同様の効果を得られる他に、外周側材と内周側材との円周方向における位相が同じであっても、ラジアルピストンモータにおける流体の供給作用と吐出作用とを逆転させることが可能である。
【0020】
請求項7の発明によれば、ピストンが接触するカム面を有するカムを製造する場合、第1工程では、軸線に沿った方向に分割された複数の加工対象物を用意して、中心線が互いに交差する第1カム面と第2カム面とを分離することができるので、第1のカム面および第2カム面の加工を容易におこなうことができる。したがって、カムの製造が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
この発明において、外周側部材と内周側部材とが相対回転可能に構成されている。例えば、何れか一方が回転可能であり、他方が固定されている(回転不可能)第1の構成、または、外周側部材および内周側部材の両方が、共に回転可能である内周側部材の構成のいずれでもよい。さらに上記第1の構成と第2の構成とを切り替えることが可能であってもよい。そして、外周側部材または内周側部材の何れか一方が、動力源に対して動力伝達可能に連結される。さらに、前記動力源の動力が前記一方の部材に伝達されて、外周側部材と内周側部材とが相対回転する。ここで、前記動力源に連結される一方の部材は、カム面が設けられている部材、またはピストンが設けられている部材の何れでもよい。また、前記動力源は、熱エネルギを運動エネルギに変換する動力装置、電気エネルギを運動エネルギに変換する動力装置、流体の運動エネルギを回転軸の運動エネルギに変換する動力装置などのいずれであってもよい。また、この発明において、ピストンは軸線を中心とする半径方向に動作するピストンであり、形状、長さなどは問われず、ピストン、プランジャなどにより構成される。さらに、この発明におけるピストンには、ピストン自体、及びピストンに取り付けられているローラ、ボールなどの転動体が含まれる。この発明において、軸線および中心線は、工学上の仮想線であり、この軸線および中心線は物理的に存在するわけでなない。軸線は、回転可能な要素の回転中心を示す基準線である、また、中心線とは、円形のカム面の中心を通過する線分である。この発明における外周側部材および内周側部材および動力伝達部材が、回転可能に設けられている場合は、これらの部材を経由して動力伝達がおこなわれる。これらの部材としては、回転軸、プーリ、ギヤ、キャリヤ、コネクティングドラムなどが挙げられる。また、外周側部材または内周側部材のいずれか一方が固定されている場合、その部材はケーシングまたはハウジングまたはブラケットなどにより回転不可能に支持される。
【0022】
また、この発明におけるラジアルピストンポンプは、動力が与えられて流体を吸入・吐出する流体機械であり、ラジアルピストンポンプを車両に搭載することが可能である。例えば、駆動力源から車輪に至る動力伝達経路に、前記ラジアルピストンポンプを配置することが可能である。さらに、この発明において、可変容量機構は、外周側部材と内周側部材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させる動力を発生するアクチュエータであり、例えば、油圧式アクチュエータ、電磁式アクチュエータ、手動式アクチュエータなどを用いることができる。油圧式アクチュエータは、油圧室の油圧を制御することにより、各部材同士を相対移動させる動作力が制御されるように構成される。電磁式アクチュエータは、磁気吸引力を制御することにより、各部材同士を相対移動させる動作力が制御されるように構成される。手動式アクチュエータは、人間の操作力がリンク、ワイヤ、ロッドなどを経由して伝達されて動作力が発生するように構成される。また、容量可変機構は、前記軸線を中心とする半径方向でのピストンの動作量(ストローク量)を制御して、ラジアルピストンポンプの容量を変更する。
【0023】
さらに、この発明におけるラジアルピストンモータは、流体の運動エネルギを回転部材の運動エネルギに変換する流体式モータである。より具体的には、流体の圧力を、回転要素の動力に変換する流体装置である。また、この発明のラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータにおいて、回転可能に設けられる部材は、トルク伝達可能な部材であり、例えば、回転軸、回転円板、キャリヤ、ギヤ、コネクティングドラムなどが含まれる。また、回転不可能に固定される部材には、ケーシング、ハウジング、フレーム、ボス部、ブラケット、隔壁などが含まれる。この発明におけるラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータは、非圧縮性の流体を取り扱う流体装置であり、非圧縮性の流体には、液体、例えば、オイル、冷却液、水などが含まれる。さらに、オイルには、焼き付き・発熱・摩耗・摺動する部位を潤滑・冷却する潤滑油、油圧機器・流体機械を動作させる作動油が含まれる。
【0024】
この発明におけるラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータは、支持部材により支持される。この支持部材は、ラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータを収容する要素であり、支持部材は、軸線に沿った方向に移動することが不可能に配置される。この支持部材には、内部中空のケーシングまたは内部中空のハウジングの他、ブラケット、枠部材、フレーム部材、壁部材などが含まれる。この発明におけるカム部材は、ラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータに用いられる。また、第2工程と第3工程とは、いずれか工程を先におこない、他の工程を後におこなってもよい。あるいは、第2工程と第3工程とを同時におこなってもよい。以下、この発明におけるラジアルピストンポンプの具体例、およびカム部材の製造方法の具体例を、図面に基づいて説明する。
【0025】
(具体例1)
この具体例1は、ラジアルピストンポンプの具体例であり、図1に基づいてラジアルピストンポンプ1の構成を説明する。このラジアルピストンポンプ1は、内部中空の支持部材、例えば、ケーシング100内に設けられている。ケーシング100は内部中空に構成されており、ケーシング100は、ラジアルピストンポンプ1およびその他の部品を収容し、かつ、支持する要素である。ラジアルピストンポンプ1は回転軸2およびカム3を有している。前記回転軸2とカム3とは、軸線A1を中心として相対回転可能に構成されている。前記軸線A1は水平に配置されており、図1は、軸線A1に沿った方向における断面図である。前記回転軸2には、動力源4が動力伝達可能に接続されている。この動力源4としては、熱エネルギを運動エネルギに変換するエンジン、または、電気エネルギを運動エネルギに変換する電動機などを用いることができる。さらには、動力源4としてエンジンおよび電動機の両方を用いることも可能である。また、前記動力源4から前記回転軸2に至る経路にクラッチ(図示せず)を設けることも可能である。また、この回転軸2と一体回転する構成のインナーレース5が設けられている。
【0026】
図2は、軸線A1と垂直な平面内における断面図である。このインナレース5は、軸線A1を中心として環状に構成されており、そのインナーレース5の外周には、円周方向に沿って複数のシリンダ6が配置されている。図2に示す例では、シリンダ6が8箇所形成されている。各シリンダ6は、インナーレース5の外周面に開口された円柱形状の凹部もしくは窪みであり、軸線中心線C1に沿ってシリンダ6が設けられている。中心線C1は軸線A1と直交する。そして、各シリンダ6内にはピストン7が各々配置されており、各ピストン7は、中心線C1に沿った平面内で、前記軸線A1を中心として半径方向に動作可能である。また各ピストン7には転動体8が取り付けられている。この転動体8はボールを用いることが可能である。一方、前記シリンダ6内には油圧室9が形成されている。この油圧室9には、圧縮コイルばね10が設けられており、前記ピストン7を前記シリンダ6の外に押し出す向きの力が、圧縮コイルばね10からピストン7に加えられる。
【0027】
前記油圧室9に接続された油圧回路の構成を、図1および図3および図4に基づいて説明する。前記ケーシング100には、油路11および油路12が設けられている。なお、図1に示されているケーシング100は、具体的にはケーシング100の一部を構成する隔壁、カバーなどであり、これらの隔壁、カバーは、軸線A1に対して垂直な方向に延ばされているか、または張り出している。隔壁、カバーは、ケーシング100の内部と外部とを区画する要素、またはケーシング100の内部に形成された空間同士を区画する要素のいずれでもよい。以下、ケーシング100に代えて、便宜上「隔壁100」と記す。そして、軸線A1に沿った方向で、カム3と動力源4との間に隔壁100が配置されている。また、前記油路11はオイルパン13に接続されている。オイルパン13は、ケーシングの内部またはケーシングの外部に設けられたオイル溜めである。一方、前記油路12はオイル必要部16に接続されている。このオイル必要部16では、オイルを潤滑油として用いたり、制御機器の作動油として用いる。オイル必要部16には、ケーシング内またはケーシングの外部に設けられた油圧室、ケーシング内に設けられた動力伝達装置、具体的にはギヤ同士の噛み合い部、チェーンとスプロケットとの噛み合い部、プーリとベルトとの接触部などが含まれる。またオイル必要部16には、オイルにより潤滑・冷却される軸受が含まれる。
【0028】
また、前記隔壁100には油路切替バルブ101が取り付けられている。この油路切替バルブ101は、軸線A1を中心とする円筒形状に構成されており、隔壁100に対して、油路切替バルブ101が回転不可能に、かつ、軸線A1に沿った方向にも移動不可能に固定されている。具体的には、隔壁100に設けられた孔に対して、油路切替バルブ101が圧入固定されている。そして、油路切替バルブ101は軸孔108を有している。この軸孔108は軸線A1を中心として形成されており、軸孔108内に回転軸2が挿入されている。また、油路切替バルブ101には油路102,103が設けられており、油路102が油路12に接続され、油路103が油路11に接続されている。また、前記軸線A1に沿った方向における油路切替バルブ101の端面、具体的には、前記インナレース5に近い側の端面には、油路104,105が形成されている。図3は、油路切替バルブ101の端面図であり、油路104,105は、軸線A1を中心として共に円弧形状に構成されている。より具体的には、油路104,105は、共に略半円形状を有している。また、油路104,105は、油路切替バルブ101において軸線A1を中心とする同一円周上に配置されている。さらに、油路104と油路105とは円周方向で異なる位相に配置されている。そして、油路104が油路102と接続され、油路105が油路103と接続されている。
【0029】
一方、前記インナーレース5には、前記油圧室9に接続された油路106が設けられている。油路106は、油圧室9にそれぞれ独立して複数設けられており、各油路106が、インナレース5の円周方向に等間隔で配置されている。そして、各油路106は、インナレース5の端面、具体的は油路切替バルブ101に接触した側の端面に開口されている。各油路106の開口部と同一円周上に、前記油路104,105が配置されている。さらに、インナレース5の端面と油路切替バルブ101の端面とが接触した状態で、インナレース5と油路切替バルブ101とが相対回転することが可能となるように、インナレース5が回転軸2に取り付けられている。インナレース5と回転軸2とが一体回転するように連結、具体的にはスプライン結合されている。また、回転軸2およびインナレース5は軸線A1に沿った方向には移動することが不可能となるように、軸受およびスナップリング等(図示せず)により支持されている。したがって、インナレース5が回転している場合、または停止している場合のいずれにおいても、油路106は油路104または油路105に対して接続することが可能である。なお、軸線A1を中心とする円周方向で、油路106が油路104と油路105との間に位置する場合、油路106が、油路104,105と遮断される。さらに、インナレース5が回転すると、油路106が油路104に接続された状態と、油路106が油路105に接続された状態とが交互に切り替わる。このように、油路切替バルブ101は、油圧室9を、油路104または油路105に対して選択的に接続する機構である。また、油路切替バルブ101は、インナレース5の回転により、油圧室9に接続される油路を切り替えるロータリバルブである。
【0030】
前記カム3の構成を説明する。このカム3は前記ケーシング内に、前記軸線A1に沿った方向に動作可能に配置されており、かつ、カム3は、軸線A1を中心として回転することが不可能に構成されている。例えば、ケーシングに対してカム3はスプライン結合、またはセレーション結合、またはキー結合されている。また、前記カム3には貫通孔19が設けられており、前記軸線A1と直交する平面内において、前記貫通孔19の内周面がカム面20を構成しいる。
【0031】
このカム面20の構成を具体的に説明すると、図2に示すように、前記軸線A1と垂直な平面内において、カム面20は円形に構成されている。図1に示すように、カム面20は、中心線B1を中心とする傾斜カム面20と、中心線B2を中心とする傾斜カム面20Bと、中心線B3を中心とする同軸カム面20Cとを有している。傾斜カム面20Aと同軸カム面20Cとが互いに連続しており、傾斜カム面20Bと同軸カム面20Cとが互いに連続している。さらに、軸線A1に沿った方向の平面内で、軸線A1と中心線B1とが交差し、軸線A1と中心線B2とが交差し、軸線A1と中心線B3とが同軸となっている。軸線A1に沿った方向で、傾斜カム面20Aが形成された範囲が、傾斜カム領域K1であり、傾斜カム面20Bが形成された範囲が、傾斜カム領域K1であり、同軸カム面20Cが形成された範囲が、同軸カム領域K3である。
【0032】
そして、軸線A1に沿った方向の平面内で、傾斜カム領域K1と傾斜カム領域K2との間に、同軸カム領域K3が配置されている。これら、傾斜カム領域K1,傾斜カム領域K2および同軸カム領域K3は、共に軸線A1に沿った方向で一定の長さに亘っている。さらに、軸線B1と軸線A1との間に形成される鋭角側の角度と、軸線B2と軸線A1との間に形成される鋭角側の角度とが同一となっている。また、軸線A1に対して、軸線B1,B2が同じ方向に傾斜されている。さらに、軸線A1に沿った方向で、傾斜カム領域K2に対応する部分では、中心線B1と軸線A1とが交差して交点P1となっている。さらに、軸線A1に沿った方向で、傾斜カム領域K1に対応する部分では、中心線B2と軸線A1とが交差して交点P2となっている。図1の例では、交点P1よりも左側に交点P2が位置している。
【0033】
さらに、前記カム3を前記軸線A1に沿った方向に動作させるスライド機構21が設けられている。このスライド機構21は、前記軸線A1に沿った方向の動作力(推力)を前記カム3に与えてそのカム3を動作させ、かつ、カム3を停止させる機構である。カム3が軸線A1に沿った方向に移動すると、前記軸線A1上で交点P1の位置が移動する。このスライド機構21としては、油圧式アクチュエータ、電磁式アクチュエータ、手動式アクチュエータなどを用いることができる。前記油圧式アクチュエータは、油圧室と、この油圧室に設けられたバネなどを有しており、前記油圧室の油圧を制御することにより、前記カム3を軸線A1に沿った方向に動作させることが可能である。前記電磁式アクチュエータは、ソレノイドおよびバネなどを有しており、前記ソレノイドに供給する通電量を制御して磁気吸引力を制御し、その磁気吸引力とバネの力との関係により、前記カム3を前記軸線A1に沿った方向に動作させるものである。前記手動アクチュエータは、手動で動作されるレバーの操作力を、ロッド、リンク、ワイヤなどを経由させて機械的にカム3に伝達し、そのカム3を軸線A1に沿った方向に動作させる装置である。
【0034】
つぎに、前記ラジアルピストンポンプ1におけるオイルの吸入・吐出作用を説明する。まず、前記軸線A1に沿った方向で前記カム3の位置が制御されて、図5に示すように、前記軸線A1に沿った方向で、中心線C1が交点P1と交点P2との間に位置された場合について説明する。この場合は、前記転動体8がカム面20と同軸カム領域K3で接触する。この場合、カム面20の中心線B1が、軸線A1と同軸になるため、前記動力源4のトルクを前記回転軸2に伝達して前記インナーレース5を回転させても、前記ピストン7は前記軸線A1を中心とする半径方向に動作しない。したがって、前記油圧室9にはオイルが吸入されず、かつ、前記油圧室9からオイルが吐出もされない。
【0035】
これに対して、前記軸線A1に沿った方向における前記カム3の位置が制御されて、図1に示すように、前記軸線A1に沿った方向で、前記中心線C1が前記交点P1から外れた位置に制御された場合を説明する。具体的には、中心線C1が交点P1よりも右側に位置する。この場合は、図2に示すように、前記中心線C1上で、前記中心線B1が軸線A1よりも下方に偏心する。つまり、軸線A1に対して中心線B1が偏心量e分だけ、図2で下方に離れた位置にある。このため、前記動力源4のトルクを前記回転軸2に伝達して前記インナーレース5を回転させると、前記転動体8が前記カム面20に接触したまま転動し、かつ、前記ピストン7が前記軸線A1を中心として半径方向に動作する。図2においては、便宜上、前記インナーレース5が時計方向に回転するものとして示されている。
【0036】
また、図2においてはインナーレース5の回転方向の位相に対して、右側の領域D1と左側の領域E1とに2分割されている。そして、領域D1に位置しているピストン7では、前記回転軸2が回転することにともない、カム面20に沿って前記ピストン7が圧縮コイルばね10のばね荷重により押し出されて上昇し、油圧室9内が負圧となる。このとき、前記油圧室9が油路105に接続されている。したがって、前記オイルパン13のオイルが、油路11および油路103を経由して前記油圧室9に吸入される。
【0037】
これに対して、領域E1に位置しているピストン7では、前記回転軸2が回転することにともない、カム面20に沿ってピストン7が圧縮コイルばね10のばね荷重に抗して下降し、油圧室9内のオイルが吐出される。このとき、油圧室9は油路106に接続されており、前記油圧室9から吐出されたオイルが、油路102および油路12を経由して、前記オイル必要部16に供給される。以後、前記回転軸2の回転により、各ピストン7が半径方向に往復動して、各油圧室9ではオイルの吸入・吐出が繰り返される。なお、インナーレース5の回転により、ピストン7が領域D1から領域E1に移行すると、油圧室9にオイルが吸入される状態から、油圧室9からオイルが吐出される状態に切り替わる。また、インナーレース5の回転により、ピストン7が領域E1から領域D1に移行すると、油圧室9からオイルが吐出される状態から、油圧室9にオイルが吸入される状態に切り替わる。さらに、ピストン7が領域D1と領域E1との境界に位置する時点では、油圧室9へのオイルの吸入、および油圧室9からのオイルの吐出はおこなわれない。この具体例1において、転動体8とカム面20との接触点について説明する。図5の場合は、転動体8とカム面20との接触点が中心線C1上に位置する。これに対して、図1および図6の場合は、転動体8とカム面20との接触点が、厳密には中心線C1から外れた位置となる。しかしながら、各具体例では、便宜上、転動体8とカム面20との接触点が中心線C1上に位置するものとして説明する。
【0038】
つぎに、具体例1のラジアルピストンポンプ1において、前記カム3の他の動作例を、図6に基づいて説明する。図6に基づいて説明するカム3の他の動作例は、前記軸線A1に沿った方向で、前記交点P2よりも左側に前記中心線C1が位置する場合に相当する。この図6においては、中心線C1上において、軸線A1の上方に中心線B1が偏心している。具体的には、偏心量e分だけ軸線A1と中心線B1とが離れている。この図6に示すカム3の動作例について、ラジアルピストンポンプ1の作用を、図7に基づいて説明する。この図7は、前記軸線A1と垂直な平面、特に、中心線C1に沿った方向における概念図である。図7では、インナーレース5の円周方向における位相を、左右の領域E1,D1に2分割して示してある。そして、回転軸2にトルクが伝達されて前記インナーレース5が時計方向に回転すると、以下のような作用により、各油圧室9でオイルの吸入・吐出がおこなわれる。
【0039】
すなわち、ピストン7が領域D1に位置するとき、カム面20により押されるピストン7は、圧縮コイルばね10のばね荷重に抗して下降し、油圧室9からオイルが吐出される。また、ピストン7が領域D1に位置している場合、油路106が油路105に接続されている。したがって、油圧室9から吐出されたオイルが、油路12を経由してオイル必要部16に供給される。これに対して、ピストン7が領域E1に位置するときにおいては、ピストン7は圧縮コイルばね10のばね荷重により上昇し、油圧室9が負圧となる。また、ピストン7が領域E1に位置している場合、油路106が油路104に接続されている。したがって、オイルパン13から油路11および油路113を通って油圧室9にオイルが吸入される。つまり、図2と図7とを比較すると、前記インナーレース5の回転方向が同じであり、ピストン7が同じ領域D1に位置している場合でも、図2の場合は油圧室9にオイルが吸入され、図7の場合は油圧室9からオイルが吐出される。また、前記インナーレース5の回転方向が同じであり、ピストン7が同じ領域E1に位置している場合でも、図2の場合は油圧室9からオイルが吐出され、図7の場合は油圧室9にオイルが吸入される。つまり、同じ領域にピストン7が位置している場合でも、油圧室9におけるオイルの吸入・吐出の関係が逆転(反転)する。
【0040】
つぎに、具体例1において、カム3の動作量(スライド量)と、オイルポンプ1の容量(V)、偏心量との関係を、図8の線図に基づいて説明する。なお、スライド量とは、前記軸線A1に沿った方向で、前記カム3の端面3Aから中心線C1までの距離(長さ)を意味する。端面3Aは、カム3における動力源4の反対側に配置された端面である。端面3Aは軸線A1と垂直な平坦面である。ここでは、前記中心線C1がカム3の端面3Aに最も近づいた状態が、スライド量(距離)「零」として示されている。また、容量Vとは、前記ラジアルピストンポンプ1の容量[rev ]である。より具体的には、インナーレース5が軸線A1を中心として1回転する間に、各油圧室9から吐出されるオイルの合計体積であり、実際のピストン7のストロークに比例した量である。すなわち、ピストン7のストロークが大きくなれば容量が増加し、ピストン7のストロークが少なくなれば容量が減少する。さらに、図8において、偏心量「零」とは、軸線A1に沿った方向で、前記中心線C1が交点P1と交点P2との間に位置することを意味している。さらに、図8において、容量「零」とは、ラジアルピストンポンプ1からオイルが吐出されず、かつ、オイルが吸入されないことを意味する。そして、ラジアルピストンポンプ1の容量Vは、次式で求められる。
V=A*e*n
ここで、Aは油圧室9の面積、具体的には、中心線C1と垂直な平面における面積である。また、nはピストン7の本数である。
【0041】
この図8に示すように、軸線A1に沿った方向で、交点P1と交点P2との間に中心線C1が位置している場合は、カム3が停止している場合、またはカム3が動作している場合のいずれにおいても、偏心量は「零」であり、かつ、容量も「零」である。一方、中心線C1が交点P1よりも右側の領域にある場合、つまり、図1に示すように中心線C1が傾斜カム領域K2内にある場合は、カム3のスライド量が増加することに比例して、偏心量および容量が増加する特性となる。これに対して、中心線C1が交点P1よりも左側の領域にある場合、つまり、図6に示すように、中心線C1が傾斜カム領域K1内にある場合は、カム3のスライド量が減少することに比例して、偏心量および容量が増加する特性となる。このように、図1および図6においては、偏心量が増加するほど、前記ピストン7の上死点から下死点までの間のストローク量が長くなり、ラジアルピストンポンプ1の容量が増加する。つまり、ラジアルピストンポンプ1は、可変容量形のオイルポンプである。また、図1ないし図8に示された例では、前記カム3を前記軸線A1に沿った方向に動作させることにより、前記ラジアルピストンポンプ1の容量を変更することができる。言い換えれば、軸線A1を中心とする半径方向では、前記カム3の動作スペースを確保せずに済む。したがって、ラジアルピストンポンプ1が前記軸線A1を中心とする半径方向に大型化することを抑制できる。
【0042】
なお、具体例1において、カム3に傾斜カム面20Bおよび同軸カム面20Cを設け、傾斜カム面20Aを設けない構成とすることも可能である。この具体例1に基づいて説明された構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、軸線A1が、この発明の軸線に相当し、カム3が、この発明における外周側部材に相当し、インナレース5が、この発明における内周側部材に相当し、中心線C1が、この発明における中心線に相当し、カム面20が、この発明のカム面に相当し、ピストン7および転動体8が、この発明におけるピストンに相当し、油圧室9が、この発明における流体室に相当し、ラジアルピストンポンプ1が、この発明におけるラジアルピストンポンプに相当する。また、傾斜カム面20A,20Bが、この発明における傾斜カム面に相当し、同軸カム面20Cが、この発明における同軸カム面に相当し、スライド機構21が、この発明における容量可変機構に相当する。
【0043】
(具体例2)
つぎに、ラジアルピストンポンプ1の具体例2を図9に基づいて説明する。この具体例2は、請求項1、2、3、4に対応するものである。この具体例2においては、隔壁107と動力源4との間に隔壁100が配置されている。隔壁107の技術的意味は、隔壁100の場合と同じである。そして、隔壁100と隔壁107との間の空間に、ラジアルピストンポンプ1に加えて、ラジアルピストンモータ35が設けられている。この具体例2では、隔壁100から隔壁107に向けて油路切替バルブ101が突出して取り付けられている。この具体例2において、ラジアルピストンポンプ1の構成および機能は、具体例1の場合と同様である。
【0044】
つぎに、ラジアルピストンモータ35の構成を説明する。このラジアルピストンモータ35は、インナーレース26および前記カム3を有している。つまり、カム3は、ラジアルピストンポンプ1およびラジアルピストンモータ35により共用されている。また、軸線A1に沿った方向で、インナレース5と隔壁107との間にインナレース26が配置されている。また、インナレース26の外周には、円周方向に沿って複数のシリンダ27が形成されている。複数のシリンダ27は、中心線F1を中心として円筒形状に構成されている。図10は、軸線A1と垂直な平面内における断面図、具体的には中心線F1に沿った断面図である。図10に示す例では、シリンダ27が8箇所形成されている。各シリンダ27は、インナーレース26の外周面に開口された円柱形状の凹部もしくは窪みである。そして、各シリンダ27内にはピストン28が各々配置されており、各ピストン28は、中心線F1に沿って前記半径方向に動作可能である。また各ピストン28には転動体29が取り付けられている。この転動体29はボールを用いることが可能である。一方、前記シリンダ27内には油圧室30が形成されている。この油圧室30の油圧が前記ピストン28の底面に加えられる。
【0045】
前記油圧室30に接続された油圧回路の構成を、図9に基づいて説明する。前記隔壁107には、油路109および油路110が設けられている。また、前記油路109が前記油路12に接続され、前記油路110が前記油路11に接続されている。このように、具体例2においては、具体例1で説明したオイルパン13およびオイル必要部16は設けられていない。また、前記隔壁107には油路切替バルブ111が取り付けられている。この油路切替バルブ111は、軸線A1を中心とする円筒形状に構成されており、油路切替バルブ111は軸孔150を有する。この油路切替バルブ111は、隔壁107に対して回転不可能に、かつ、軸線A1に沿った方向には移動不可能に固定されている。具体的には、隔壁107に設けられた孔に対して、油路切替バルブ111が圧入固定されている。この油路切替バルブ111は隔壁107からインナレース26に近づく向きで突出している。
【0046】
そして、油路切替バルブ111には油路112,113が設けられており、油路113が油路110に接続され、油路112が油路109に接続されている。また、前記軸線A1に沿った方向における油路切替バルブ111の端面、具体的には、前記インナレース26に近い側の端面には、油路114,115が形成されている。図11は、油路切替バルブ111の端面図であり、油路114,115は、軸線A1を中心として共に円弧形状に構成されている。また、油路114の周長と油路104の周長とが同一に構成され、油路115の周長と油路105の周長とが同一に構成されている。さらに、円周方向における油路114の配置位相と、円周方向における油路104の配置位相とが一致している。また、円周方向における油路115の配置位相と、円周方向における油路105の配置位相とが一致している。そして、油路114が油路112と接続され、油路115が油路113と接続されている。
【0047】
一方、前記インナーレース26には、前記油圧室30に接続された油路116が設けられている。油路116は、油圧室30にそれぞれ独立して複数設けられており、各油路116が、インナレース26の円周方向に等間隔で配置されている。そして、各油路116は、インナレース26の端面、具体的は油路切替バルブ111に接触した側の端面に開口されている。各油路116の開口部と同一円周上に、前記油路114,115が配置されている。さらに、インナレース26の端面と油路切替バルブ111の端面とが接触した状態で、インナレース26と油路切替バルブ111とが相対回転することが可能となるように、インナレース26が出力軸25に取り付けられている。この出力軸25は油路切替バルブ111の軸孔150内に配置されており、出力軸25は軸線A1を中心として回転可能である。
【0048】
また、出力軸25とインナレース26とが一体回転可能に接続、例えばスプライン結合されている。また、出力軸25およびインナレース26は軸線A1に沿った方向には移動することが不可能となるように、軸受およびスナップリングなど(図示せず)により支持されている。したがって、インナレース26が回転している場合、または停止している場合のいずれにおいても、単一の油路116は、油路114または油路115の何れか一方に対して接続される。さらに、インナレース26が回転すると、単一の油路116が油路114に接続された状態と、油路116が油路115に接続された状態とが交互に切り替わる。このように、油路切替バルブ111は、油圧室30を、油路12または油路11に対して選択的に接続する機構である。また、油路切替バルブ111は、インナレース26の回転により、油圧室30に対して接続される油路が切り替わるロータリバルブである。
【0049】
上記のように構成されたインナーレース26、ピストン27、転動体29、カム面20、出力軸25、油路112,113,114,115、油路109、油路110などの構成により、ラジアルピストンモータ(油圧モータ)35が構成されている。なお、ラジアルピストンポンプ1における油圧室9の断面積は、ラジアルピストンモータ35における油圧室30の断面積と同じである。ここで、断面積とは、ピストンの動作方向の中心線に沿った方向の平面内における断面積である。さらに、この具体例2においても、カム3を軸線A1に沿った方向に移動させ、かつ、停止させる機能を有するスライド機構21が共通に設けられている。
【0050】
つぎに、この具体例2におけるラジアルピストンポンプ1およびラジアルピストンモータ35の作用を説明する。この具体例2においては、前記軸線A1に沿った方向で、前記中心線C1と前記中心線F1との距離は一定である。そして、具体例2においても、具体例1と同様にして前記カム3を前記軸線A1に沿った方向に動作させ、かつ、停止させることが可能である。そして、具体例2においても、軸線A1に沿った方向に動作させることにより、転動体8を第1の傾斜カム領域K1または同軸カム領域K3または第2の傾斜カム領域K2の何れかに、選択的に接触させることが可能である。このように、転動体8を第1の傾斜カム領域K1または同軸カム領域K3または第2の傾斜カム領域K2に接触された場合のそれぞれにおけるラジアルピストンポンプ1の作用は、具体例1と同様である。
【0051】
この具体例2において、図12に示すように、転動体8が同軸カム領域K3に接触している場合は、ラジアルピストンポンプ1ではオイルの吸入・吐出がおこなわれないため、ラジアルピストンモータ35が動作することはなく、回転軸2と出力軸25との間では動力伝達はおこなわれない。すなわち、ニュートラル状態にある。これに対して、この具体例2において、転動体8が第1の傾斜カム領域K1または第2の傾斜カム領域K2に接触するとともに、回転軸2が回転すると、油圧室9においてオイルの吸入・吐出がおこなわれて、油圧室9と油圧室30との間でオイルが行き来する。まず、図9に示すように、転動体8が第2の傾斜カム領域K2に接触しているとともに、ラジアルピストンポンプ1でオイルの吸入・吐出がおこなわれた場合において、前記ラジアルピストンモータ35の作用を、図10に基づいて説明する。ラジアルピストンモータ35は、転動体29が第1の傾斜カム領域K1に接触した状態で動作する。また、前記中心線B1は前記インナーレース26の軸線A1よりも上方に変位している。
【0052】
このため、カム3とインナーレース26とが相対回転すると、ピストン30が軸線に沿って半径方向にストロークする。図10では、円周方向の位相が左右に領域E1と領域D1とに2分割されている。前記ピストン28の中心線F1が領域E1に位置している場合は、油路116が油路114に接続されている。このため、前記油圧室9から吐出された圧油が、油路102,12および油路109,112を経由して油圧室30に供給されて、その油圧室30の油圧が上昇する。すると、ピストン28を、中心線F1に沿って半径方向で外側に向けて押圧する力が増加し、転動体29とカム面20との接触点で反力が発生する。このようにして、前記ラジアルピストンポンプ1から吐出されたオイルが、ラジアルピストンモータ35に供給されて、そのラジアルピストンモータ35が駆動され、インナーレース26を図10で時計方向に回転させる向きのトルクが発生する。
【0053】
このように、領域E1に位置しているピストン28が上昇行程となる。これに対して、領域D1に位置するピストン28の作用を説明する。前記のようにインナーレース26が図10で時計方向に回転すると、カム面20に沿ってピストン28が下降する。すると、油圧室30からオイルが吐出され、そのオイルが油路113,110および油路11,103を経由して、上昇行程にあるピストン7を有する油圧室9に吸入される。すなわち、油圧室9と油圧室30との間で、油路102,103,112,113、および油路12,110、および油路11,109を介してオイルが循環する。
【0054】
なお、ピストン28が領域E1と領域D1との境界に位置している場合、その油圧室30の油路116は、油路114,115の両方と遮断される。すなわち、ピストン28が領域D1から領域E1に移行する時点で、油圧室30からオイルが吐出される状態から、油圧室30にオイルが供給される状態に切り替わる。すなわち、インナーレース26が図10で時計方向に回転する場合、ピストン28が領域D1から領域E1に移行する時点で、油圧室30からオイルが吐出される状態から、油圧室30にオイルが供給される状態に切り替わる。すなわち、ピストン28が領域D1から領域E1に移行する時点で、油圧室30からオイルが吐出される状態から、油圧室30にオイルが供給される状態に切り替わる。これに対して、ピストン28が領域E1から領域D1に移行する時点で、油圧室30にオイルが供給される状態から、油圧室30からオイルが吐出される状態に切り替わる。
【0055】
また、ラジアルピストンモータ35において、カム3のスライド量と、油圧室30に供給・吐出される圧油の容量V2と、偏心量eとの関係は、図8の交点P2の左側に示された特性と同じになる。すなわち、軸線A1に沿った方向で、端面3Aから中心線F1までの距離が減少することに比例して、偏心量および容量が増加する特性を示す。そして、この具体例2においては、図9に示すように、転動体8が第2の傾斜カム領域K3に接触し、かつ、転動体29が第1の傾斜カム領域K1に接触した状態で、前記カム3を軸線A1に沿った方向に動作させると、ラジアルピストンポンプ1の容量およびラジアルピストンモータ35の容量を共に変更することができる。つまり、ラジアルピストンモータ35も、可変容量形のモータである。そして、ラジアルピストンポンプ1およびラジアルピストンモータ35が、回転軸2と出力軸25との間における変速比を変更可能な変速機としての機能する。特に、回転軸2と出力軸25との間における変速比を無段階(連続的)に制御することができ、無段変速機として機能する。
【0056】
ここで、変速比γは次式により求められる。
γ=V2/V1=e2/e1
ここで、V1はラジアルピストンポンプ1の容量であり、V2はラジアルピストンモータ35の容量である。また、e1は、ラジアルピストンポンプ1における軸線A1と中心線B2との間の偏心量であり、e2は、ラジアルピストンモータ35における軸線A1と中心線B1との間の偏心量である。例えば、偏心量e2の方が、偏心量e1よりも大きい場合、ラジアルピストンポンプ1の容量V1の方が、ラジアルピストンモータ35の容量V2よりも少なくなる。このとき、変速比が「1」を越えて、前記回転軸2の回転数よりも出力軸25の回転数の方が低くなり、ラジアルピストンポンプ1およびラジアルピストンモータ35が減速機として機能する。
【0057】
ここで、前記カム3のスライド量sと変速比γとの関係を、図13に基づいて説明する。図13において、スライド量sとは、軸線A1に沿った方向でカム3の端面3Aと中心線C1との距離である。そして、中心線C1が、交点P2から交点P1までの範囲に位置するスライド量s0においては、前記ラジアルピストンポンプ1ではオイルの吸入・吐出がおこなわれず、回転軸2から出力軸25に動力が伝達されることはない。これに対して、スライド量sがスライド量s0よりも大きく、かつ、そのスライド量sが増加することに比例して、偏心量e1は増大する一方、偏心量e2が減少するため、変速比γが小さくなる(「零」に近づく)特性となる。また、回転軸2の回転数が一定であるとすれば、スライド量sがスライド量s0よりも大きく、かつ、そのスライド量sが増加することに比例して、出力軸25の回転数が上昇する特性となる。
【0058】
つぎに、転動体8および転動体29が、図14に示すように共に第1の傾斜カム領域K1に接触するとともに、回転軸2が図中矢印で示す方向に回転した場合における作用を説明する。この場合は、前記図7に示すように、インナーレース5の回転位相において、領域D1に中心線C1が位置する油圧室8から圧油が吐出される一方、領域E1に中心線C1が位置する油圧室9には圧油が吸入される。このため、ラジアルピストンモータ35においては、領域E1に中心線F1が位置する油圧室30に対して、油圧室9から吐出された圧油が供給される。すると、その油圧室30の油圧が上昇して、ピストン28をカム面20に向けて押し付ける力が上昇する。このため、転動体29とカム面20との接触点において反力が発生し、インナーレース26を図10で反時計方向に回転させる向きのトルクが発生する。
【0059】
一方、中心線F1が位置するピストン28においては、ピストン28が下降して油圧室30の油圧が上昇する。この油圧室30から吐出されたオイルが、領域E1にピストン28が位置する油圧室9に供給される。このように、転動体8および転動体29が共に第1の傾斜カム領域K1に接触している場合に、回転軸2が回転すると、出力軸25の回転方向が図9の場合とは逆になる。この具体例2において、具体例1と同様の構成部分については、具体例1と同様の作用効果を得られる。この具体例2で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、インナーレース26が、この発明における動力伝達部材に相当し、ピストン28および転動体29が、この発明における第2ピストンに相当し、ラジアルピストンモータ35が、この発明におけるラジアルピストンモータに相当する。
【0060】
(具体例3)
この発明の具体例3を、図10および図15および図16に基づいて説明する。この具体例3は、請求項5、6の発明に対応するものである。図15にはラジアルピストンモータ35およびカム3およびスライド機構21が示されている。図15に示されたラジアルピストンモータ35において、具体例2で説明した構成と同じ構成部分については、図9と同じ符号を付してある。この具体例3においては、具体例1で説明した構成のラジアルピストンポンプ1は設けられていない。この具体例3においては、オイルポンプ200が設けられている。このオイルポンプ200は、動力源、例えば、内燃機関(図示せず)または電動機(図示せず)などの動力により駆動されるように構成されている。オイルポンプ200は、回転式または往復式のいずれでもよい。さらに、回転式のオイルポンプとしては歯車ポンプ、ベーンポンプ、ねじポンプのいずれでもよい。往復式のオイルポンプとしては、アキシャルピストンポンプ、ラジアルピストンポンプのいずれでもよい。このオイルポンプ200の吐出口201は油路109,112を経由して油路114に接続されている。オイルポンプ200の吸入口202は、油路110,111を経由して油路115に接続されている。
【0061】
この具体例3においても、スライド機構21によりカム3が軸線A1に沿った方向に動作可能である。まず、転動体29が同軸カム領域K3に接触している場合に、オイルポンプ200の吐出口201から、油圧室30に圧油を供給しても、全てのピストン28が中心線F1に沿った方向で同じ位置に停止しているため、ピストン28は中心線F1に沿った方向に動作しない。このため、ラジアルピストンモータ35においては、油圧室30への圧油の供給、および油圧室30からの圧油の吐出のいずれもおこなわれない。つまり、出力軸25を回転させようとするトルクは発生しない。
【0062】
一方、前記具体例2で説明したように、転動体29が第1の傾斜カム領域K1に接触するとともに、前記オイルポンプ200の吐出口201から圧油を吐出すると、前記図10について説明したように、領域E1に位置する油圧室30に対して、油路114を経由して圧油が供給される。このようにして、領域E1に位置する油圧室30の油圧が上昇すると、前述と同様の原理により、出力軸25を図10で時計方向に回転させる向きのトルクが発生する。これと同時に、領域D1に位置する油圧室30においては、前述と同様の原理によりピストン28が下降して油圧室30の油圧が上昇する。この油圧室30から吐出された圧油は、油路116および油路111を経由して、吸入口202に吸い込まれる。このようにして、ラジアルピストンモータ35とオイルポンプ200との間でオイルが循環する。
【0063】
これに対して、転動体29が第2の傾斜カム領域K3に接触するとともに、前記オイルポンプ200の吐出口201から圧油を吐出する場合を、図16に基づいて説明する。図16は、軸線A1と垂直な平面におけるラジアルピストンモータ35の断面図である。図16に示すように、吐出口201から吐出された圧油が、油路114を経由して油圧室30に供給されると、領域E1に位置しているピストン28がカム面20に押し付けられて、具体例2で説明した原理と同様にして、インナレース26を図16で反時計方向に回転させようとする向きのトルクが発生する。これと同時に、領域D1に位置するピストン28は、シリンダ27内で下降するため、油圧室30の油圧が上昇する。そして、油圧室30から吐出された圧油が、油路115および油路110を経由して、吸入口202に吸い込まれる。このようにして、ラジアルピストンモータ35とオイルポンプ200との間で圧油が循環する。
【0064】
このように具体例3においても、カム3が軸線A1に沿った方向に動作させることにより、中心線F1が交点P2よりも左側の領域に位置する状態と、中心線F1が交点P1と交点P2との間に位置する状態と、中心線F1が交点P1よりも右側の領域に位置する状態とを選択的に切り替えることができる。また、カム3を軸線A1に沿った方向に動作させた場合、カム3のスライド量と、中心線B1と軸線A1との間における偏心量、ラジアルピストンモータ35の容量との関係は、具体例1において説明した図8の線図と同様の特性となる。したがって、軸線A1を中心とする半径方向に、ラジアルピストンモータ35が大型化することを抑制できる。この具体例3に基づいて説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、カム3が、この発明における外周側材に相当し、インナーレース26が、この発明における内周側部材に相当し、ピストン28および転動体29が、この発明における第3ピストンに相当し、油圧室30が、この発明の第3流体室に相当する。この具体例3におけるその他の構成と、この発明の構成との対応関係は、具体例1の構成とこの発明の構成との対応関係、具体例2とこの発明の構成との対応関係と同じである。
【0065】
(具体例4)
つぎに、具体例1ないし具体例3で説明したカム3の製造方法を説明する。この具体例4は、請求項7および請求項8に対応する。まず、軸線A1に沿った方向に分割された複数の加工対象物300,301,302を用意する。この加工対象物301,302,303は、金属材料、例えばの塊もしくはブロックである。そして、加工対象物301に、軸線A1と一致する中心線B3を中心とする第1カム面(同軸カム面)304を形成する。この第1カム面304は、中心線A1と垂直な平面内における形状が円形とされた孔であり、加工対象物301を工具で切削加工して形成されたものである。一方、加工対象物300に、軸線A1と交差する中心線B1を中心とする第2カム面(傾斜カム面)305を形成する。この第2カム面305は、中心線A1と垂直な平面内における形状が円形とされた孔であり、加工対象物300を工具で切削加工して形成されたものである。また、加工対象物302に、軸線A1と交差する中心線B2を中心とする第3カム面(傾斜カム面)306を形成する。この第3カム面306は、中心線A1と垂直な平面内における形状が円形とされた孔であり、加工対象物302を工具で切削加工して形成されたものである。
【0066】
その後、第1カム面304を有する加工対象物301と、第2カム面305を有する加工対象物300と、第3カム面306を有する加工対象物302とを接触させる。具体的には、加工対象物300と加工対象物302との間に、加工対象物301を配置する。また、軸線A1は同軸上に配置する。そして、加工対象物300と加工対象物301とを、位置決めピンにより位置決めし、加工対象物301と加工対象物302とを、位置決めピンにより位置決めする。この位置決めは、加工対象物同士が軸線A1と垂直な平面に沿って相対移動することを防止するためにおこなわれる。そして、加工対象物同士をボルト、ナットなどを用いて締め付け固定し、カム3が組み立てられる。
【0067】
カム3が組み立てられた場合、第1カム面304が同軸カム面20Cとなり、第2カム面305が第1の傾斜カム面20Aに相当し、第3カム面306が第2の傾斜カム面20Bに相当する。このようにして、カム面20を有するカム3が製造される。なお、図1、図5、図6、図9、図12、図14、図15においては、カム3は便宜上、一体成型品として示されており、カム3のハッチングも一方向としてある。ここで、具体例3で説明した構成と、請求項7の発明の構成との対応関係を説明すると、加工対象物300,301,302が、この発明における加工対象物に相当し、第1カム面304および第2カム面305および第3カム面306が、この発明におけるカム面に相当し、軸線A1が、この発明における軸線A1に相当し、中心線B1,B2,B3が、この発明における中心線に相当する。
【0068】
(具体例5)
つぎに、カム3のカム面20の構成例を、図19に基づいて説明する。図19は軸線A1に沿った方向における平面におけるカム3の拡大断面図である。第1の傾斜カム面20Aと、同軸カム面20Cとを接続する部分には、湾曲部(円弧形状部)310が形成され、第2の傾斜カム面20Bと、同軸カム面20Cとを接続する部分には、湾曲部(円弧形状部)311が形成されている。そして、湾曲部310,311の半径は、転動体9,29の半径よりも大きく構成されている。このため、転動体8,29がカム面20を転動する場合に、傾斜カム面20Aまたは同軸カム面20Cの何れか一方に転動体8,29が接触し、両方に同時に接触することはない。また、傾斜カム面20Bまたは同軸カム面20Cの何れか一方に転動体8,29が接触する。言い換えれば、転動体8,29が、傾斜カム面20Aおよび同軸カム面20Cの両方に同時に接触することはなく、転動体8,29が、傾斜カム面20Bおよび同軸カム面20Cの両方に同時に接触することはない。したがって、転動体8,29の転動時における転がり摩擦の抵抗が増加することを抑制でき、動力の伝達効率が向上する。また、転動体8,9が、傾斜カム面20Aと同軸カム面20Cとの間で移動する場合、または、転動体8,29が、傾斜カム面20Bと同軸カム面20Cとの間で移動する場合において、振動・騒音を抑制できる。
【0069】
上記のラジアルピストンポンプ1およびラジアルピストンモータ35は、家屋、工場、建築物などに固定して設置されるオイル輸送機器(流体装置)として用いることが可能である。また、前記ラジアルピストンポンプ1またはラジアルピストンモータ35を、動力源の動力を被駆動部材に伝達する、動力伝達装置またはクラッチとして用いることも可能である。例えば、車両の動力源から車輪に至る動力伝達経路に配置することが可能であり、その一例を図20に基づいて説明する。図20は、車両320のパワートレーンを示す概念図であり、動力源4から車輪36に至る経路に、ラジアルピストンポンプ1またはラジアルピストンモータ35を設けることが可能である。具体的には、図1および図5および図6に示すラジアルピストンポンプ1を設ける構成、図9および図12および図14に示すラジアルピストンポンプ1およびラジアルピストンモータ35の両方を設ける構成の何れかを採用可能である。そして、前記ラジアルピストンポンプ1またはラジアルピストンモータ35から車輪36に至る経路には変速機37が設けられる。さらに、変速機37から車輪36に至る動力伝達経路には終減速機38が設けられている。
【0070】
まず、図1および図5および図6に示すラジアルピストンポンプ1を設ける構成を採用した場合、前記カム3を前記変速機37の入力部材に対して動力伝達可能に接続する。この場合、前記カム3は固定ではなく回転可能である。この変速機37は、入力回転数と出力回転数との間の変速比を変更可能な動力伝達装置であり、変速機37は、有段変速機または無段変速機のいずれでもよい。有段変速機とは、変速比を段階的(不連続)に変更可能な変速機である。無段変速機とは、変速比を無段階(連続的)に変更可能な変速機である。有段変速機としては、遊星歯車式変速機、選択歯車式変速機などを用いることができる。無段変速機としては、ベルト式無段変速機、トロイダル型無段変速機を用いることが可能である。
【0071】
そして、前記動力源4から車輪36に伝達されるトルクにより前記ラジアルピストンポンプ1が駆動されてオイルの吸入・吐出がおこなわれる。また、前記転動体8とカム面20との係合力に基づいて、前記回転軸2から前記カム3にトルクが伝達される。さらに、前記カム3のスライド量、前記ラジアルピストンポンプ1の油圧室9に吸入されるオイルの流量、油圧室9から吐出されるオイルの流量などの条件を制御することにより、前記回転軸2から前記カム3を経由して前記変速機37に伝達されるトルクを制御することが可能である。
【0072】
一方、前記変速機37として無段変速機を用いる場合、前記ラジアルピストンポンプ1およびラジアルピストンモータ35の両方を配置する構成を採用可能である。この場合、出力軸25が変速機(無段変速機)37の入力部材に連結される。そして、前記具体例2のようにカム3の動作を制御することにより、出力軸25の回転方向を正逆に切り換えれば、前記ラジアルピストンポンプ1および前記ラジアルピストンモータ34を、前後進切換装置として機能させることが可能である。すなわち、シフトポジションの操作に基づいて、前記カム3の動作を制御することとなる。具体的には、車両320を前進させるシフトポジションが選択された場合、図9に基づいて説明したように、カム3の動作が制御される。また、車両320を停止させるシフトポジション(ニュートラル)が選択された場合、図12に基づいて説明したように、カム3の動作が制御される。さらに、車両320を後退させるシフトポジション(リバース)が選択された場合は、図14に基づいて説明したように、カム3の動作が制御される。
【0073】
ここで、スライド機構21として油圧式アクチュエータまたは電磁式アクチュエータが用いられている場合、シフトポジションが電子制御装置で検知されると、電子制御装置の制御信号に基づいてスライド機構21が制御される。一方、スライド機構21として手動式アクチュエータが用いられている場合、シフトレバーの操作力が、リンク、ワイヤ、ロッドなどを経由してスライド機構21に伝達され、カム3が動作する。なお、前述のように、ラジアルピストンモータ35は無段変速機としての機能を有しているため、ラジアルピストンポンプ35を用いる場合は、変速機37自体を設けなくともよい。さらに、この発明のラジアルピストンポンプは、動力源から車輪に至る動力伝達経路に配置する場合、車両のフロアーの下方空間にケーシングが配置することが可能である。これに対して、ラジアルピストンポンプを、車両のエンジンルーム内に配置することも可能である。なお、各具体例では、前記インナーレースが軸線方向には移動不可能(固定して)に配置されており、前記カムが軸線方向に動作可能に構成されているが、前記インナーレースが軸線方向に移動可能に設けられ、前記カムが軸線方向に移動不可能(固定)配置されている構成であっても、各具体例と同様の効果を得られる。さらに、この発明を車両に用いる場合、前記車輪は前輪または後輪のいずれでもよいし、動力源の動力が前輪および後輪の両方に伝達されるように構成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】この発明のラジアルピストンポンプの具体例1を示し、軸線に沿った方向の断面図である。
【図2】図1に示されたラジアルピストンポンプであり、軸線と垂直な平面内における断面図である。
【図3】図1に示された油路切替バルブの構成を示す端面図である。
【図4】図1に示すラジアルピストンポンプに接続された油圧回路の構成を示す概念図である。
【図5】この発明のラジアルピストンポンプの具体例1を示し、軸線に沿った方向の断面図である。
【図6】この発明のラジアルピストンポンプの具体例1を示し、軸線に沿った方向の断面図である。
【図7】図6に示されたラジアルピストンポンプであり、軸線と垂直な平面内における断面図である。
【図8】ラジアルピストンポンプの具体例1において、カムのスライド量と容量との関係の一例を示す特性線図である。
【図9】この発明において、ラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータを有する具体例2であり、軸線に沿った方向の断面図である。
【図10】図9に示されたラジアルピストンモータであり、軸線と垂直な平面内における断面図である。
【図11】図9に示された油路切替バルブの構成を示す端面図である。
【図12】この発明において、ラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータを有する具体例2であり、軸線に沿った方向の断面図である。
【図13】図9に示された具体例2において、カムのスライド量と変速比との関係を示す図である。
【図14】この発明において、ラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータを有する具体例2であり、軸線に沿った方向の断面図である。
【図15】この発明における具体例3のラジアルピストンモータであり、軸線に沿った方向の断面図である。
【図16】図15に示されたラジアルピストンモータであり、軸線と垂直な平面における断面図である。
【図17】この発明における具体例4であり、ラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータに用いるカムの製造過程を示す断面図である。
【図18】この発明における具体例4であり、ラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータに用いるカムの製造過程を示す断面図である。
【図19】具体例1ないし具体例3で用いるカムの構造を示す拡大断面図である。
【図20】この発明を用いる車両のパワートレーンの一例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0075】
1…ラジアルピストンポンプ、 3…カム、 5,26…インナレース、 7,28…ピストン、 8,29…転動体、 9…油圧室、 20…カム面、 20A,20B…傾斜カム面、 20C…同軸カム面、 21…スライド機構、 35…ラジアルピストンモータ、 300,301,302…加工対象物、 304…同軸カム面、 305、306…傾斜カム面、 A1…軸線、 B1…中心線、 C1…中心線、 K1,K2…第2の傾斜カム領域、 K3…同軸カム領域。
【技術分野】
【0001】
この発明は、外周側部材と内周側部材とを相対回転させることにより、ピストンを軸線を中心とする半径方向に動作させて、流体室に流体を吸入・吐出するラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータに関し、さらには、ラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータに用いるカムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、外周側部材および内周側部材を軸線を中心として相対回転させることにより、ピストンを軸線を中心とする半径方向に動作させて、流体室に流体を吸入・吐出するラジアルピストンポンプが知られており、そのラジアルピストンポンプを有する無段変速機の一例が、特許文献1に記載されている。この特許文献1においては、ミッションケース内に、入力軸および出力軸が同軸上に、かつ、相対回転可能に配置されている。また、入力軸にはシリンダボディが取り付けられており、そのシリンダボディの外周面には、放射状に第1、第2シリンダ孔が設けられている。さらに、第1シリンダ孔には第1プランジャが摺動自在に配置されており、第2シリンダ孔には内周側部材プランジャが摺動自在に配置されている。さらに、第1、第2シリンダ孔には、それぞれポンプポートが開口されている。一方、前記ミッションケースには第1ポンプリングが取り付けられており、この第1ポンプリングは前記シリンダボディを取り囲むように配置されている。また、前記第1ポンプリングは、前記入力軸と平行な枢軸を介して、前記ミッションケースにより揺動自在に支持されている。一方、前記出力軸には第2ポンプリングが設けられており、前記シリンダボディに対して一側方へ所定距離偏心するように配置されている。
【0003】
上記の第1シリンダ孔、第1プランジャ、第1ポンプリングなどにより、第1油圧ポンプが構成され、上記の第2シリンダ孔、第2プランジャ、第2ポンプリングなどにより、第2油圧ポンプが構成されているとともに、第1シリンダ孔と第2シリンダ孔とが接続されている。そして、前記入力軸を回転させると、前記第1プランジャの先端が前記第1ポンプリングの内周面に接触した状態で、前記第1プランジャが入力軸の半径方向に往復移動し、オイルの吸入・吐出がおこなわれる。さらに、前記シリンダボディに対する前記第1ポンプリングの偏心方向および偏心量を変えることにより、第2油圧ポンプの吸入吐出量域を反転させたり、その容量を調節できるものとされている。なお、ピストンを回転部材の半径方向に動作させるとともに、半径方向におけるピストンのストロークを可変としたトルク伝達装置が、特許文献2に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−303526号公報
【特許文献2】特開平2−120520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1に記載されているラジアルピストンポンプにおいては、前記シリンダボディに対して前記第1ポンプリングを半径方向に稼働させる必要があるため、ラジアルピストンポンプが回転部材の半径方向に大型化する恐れがあった。
【0006】
この発明は上記事情を背景としてなされたものであって、軸線を中心とする半径方向に大型化することを抑制可能なラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータを提供し、ラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータに用いるカム部材の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため請求項1の発明は、回転中心となる軸線を中心として相対回転可能に、かつ、前記軸線を中心として内外周に配置された外周側部材および内周側部材と、前記外周側部材に設けられ、かつ、前記軸線に沿った方向の平面内の中心線を取り囲むように円筒形状に構成されたカム面と、前記内周側部材に設けられ、かつ、前記カム面に追従して前記軸線を中心とする半径方向に動作可能なピストンと、前記内周側部材に設けられ、かつ、前記外周側部材と内周側部材とが相対回転して前記ピストンが前記軸線を中心とする半径方向に動作した場合に流体が吸入・吐出される流体室とを有するラジアルピストンポンプにおいて、前記カム面は、前記軸線と前記中心線とが交差している傾斜カム面と、前記軸線と前記中心線とが同軸である同軸カム面とを含み、前記外周側部材と内周側部材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させて、前記軸線を中心とする半径方向で前記ピストンを前記同軸カム面または傾斜カム面の内側に選択的に位置させることにより、前記半径方向における前記ピストンの動作量を制御し、前記流体室に吸入・吐出される流体の流量を可変とする容量可変機構が設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記傾斜カム面には、前記軸線に沿った方向で異なる位置に配置された第1の傾斜カム面および内周側部材の傾斜カム面が含まれており、前記軸線に沿った方向で、前記第1の傾斜カム面と前記傾斜カム面との間に前記同軸カム面が配置されており、前記軸線に沿った方向の平面内で、前記中心線は、前記第1の傾斜カム面および前記第2の傾斜カム面で共に前記軸線に対して同じ方向に傾斜されているとともに、前記容量可変機構は、前記外周側部材と内周側部材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させることにより、前記ピストンを前記第1の傾斜カム面と前記同軸カム面と前記第2の傾斜カム面との間で相互に行き来させることが可能であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2の構成に加えて、前記軸線を中心として回転可能に設けられ、かつ、前記外周側部材と相対回転可能な動力伝達部材と、この動力伝達部材に設けられ、かつ、前記カム面に追従して前記軸線を中心とする半径方向に動作可能な第2ピストンと、前記動力伝達部材に設けられ、かつ、前記流体室と油路を介して接続された第2流体室とを有するラジアルピストンモータが設けられており、前記ラジアルピストンモータは、前記流体室から前記第2流体室に流体が供給されて前記第2ピストンが半径方向の外側に向けて動作する場合に、前記第2ピストンが前記カム面に押し付けられた場合の反力で、前記動力伝達部材を前記軸線を中心として回転させる向きのトルクが発生する構成と、前記ピストンが半径方向で内側に押し付けられた場合に、前記第2流体室から吐出された流体が前記流体室に供給される構成とを有しており、前記容量可変機構は、前記外周側部材と内周側部材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させると同時に、前記外周側部材と動力伝達部材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させる構成と、前記半径方向における前記第2ピストンの動作量を制御し、前記第2流体室に吸入される流体の流量を可変とする構成と、を有していることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項3の構成に加えて、前記可変容量機構は、前記ピストンおよび第2ピストンを前記第1の傾斜カム面に追従して動作させる状態と、前記ピストンを前記同軸カム面または傾斜カム面に追従して動作させ、かつ、第2ピストンを前記第1の傾斜カム面に追従して動作させる状態とを、選択的に切り替え可能な構成を有していることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5の発明は、回転中心となる軸線を中心として相対回転可能であり、かつ、軸線を中心として内外周に配置された外周側部材および内周側部材と、前記外周側材に設けられ、かつ、前記軸線に沿った方向の平面内の中心線を取り囲むように円筒形状に構成されたカム面と、前記内周側材に設けられ、かつ、前記カム面に追従して前記軸線を中心とする半径方向に動作可能な第3ピストンと、前記内周側材に設けられ、かつ、流体が供給される第3流体室とを有し、この第3流体室に流体を供給して前記ピストンを半径方向で外側に向けて動作させることにより、前記カム面で発生する反力で前記内周側材を回転させる向きのトルクを生じさせるとともに、前記第3流体室の容量を変更可能なラジアルピストンモータにおいて、前記カム面には、前記軸線と前記中心線とが交差している傾斜カム面と、前記軸線と前記中心線とが同軸である同軸カム面とが含まれており、前記外周側材と内周側材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させて、前記第3ピストンを、前記軸線を中心とする半径方向で前記同軸カム面または傾斜カム面の内側に選択的に位置させることにより、前記半径方向における前記第3ピストンの動作量を制御し、前記第3流体室に供給される流体の流量を可変とする容量可変機構が設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項6の発明は、請求項5の構成に加えて、前記傾斜カム面には、前記軸線に沿った方向で異なる位置に配置された第1の傾斜カム面および第2の傾斜カム面が含まれており、前記軸線に沿った方向で、前記第1の傾斜カム面と前記第2の傾斜カム面との間に前記同軸カム面が配置されており、前記軸線に沿った方向の平面内で、前記中心線は、前記第1の傾斜カム面および前記第2の傾斜カム面で共に前記軸線に対して同じ方向に傾斜されているとともに、前記容量可変機構は、前記外周側材と内周側材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させることにより、前記第3ピストンを前記第1の傾斜カム面と前記同軸カム面と前記第2の傾斜カム面との間で相互に行き来させることが可能であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項7の発明は、加工対象物に穴をあけることにより、動作する際の中心となる軸線を中心として半径方向に動作するピストンが接触し、かつ、前記軸線を取り囲む円筒形状のカム面を形成する、カムの製造方法において、前記軸線に沿った方向に分割された複数の加工対象物を用意する第1工程と、前記第1工程で用意された第1の加工対象物に、軸線と一致する中心線を中心とする同軸カム面を形成する第2工程と、前記第1工程で用意された第2の加工対象物に、軸線と交差する中心線を中心とする傾斜カム面を形成する第3工程と、前記第2工程で同軸カム面が形成された第1の加工対象物と、前記第2工程で傾斜カム面が加工された第2の加工対象物とを接触させて前記同軸カム面と前記傾斜カム面とを接続した後、第1の加工対象物と第2の加工対象物とを相互に固定する第4工程と、を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、軸線を中心として外周側部材と内周側部材とが相対回転すると、カム面に接触した状態でピストンが半径方向に往復動し、流体室に流体が吸入・吐出される。また、ピストンがカム面の傾斜カム面に接触した状態で、外周側部材と内周側部材とを軸線に沿った方向に相対移動させると、外周側部材と内周側部材とが相対回転した場合、半径方向でピストンの動作量が変化する。すると、流体室に吸入・吐出される流体の流量が可変となる。したがって、前記軸線を中心とする半径方向に、ラジアルピストンポンプが大型化することを抑制できる。さらに、ピストンをカム面の同軸カム面に接触させた状態で、外周側部材と内周側部材とが相対回転した場合、ピストンが半径方向に動作しなくなり、流体室への流体の吸入、および流体室からの流体の吐出がおこなわれなくなる。
【0015】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、ピストンが第1の傾斜カム面に接触している場合と、ピストンが第2の傾斜カム面に接触している場合とでは、前記軸線を中心とする円周方向で、前記流体室に流体が吸入される位相と、前記流体室から流体が吐出される位相とが逆になる。
【0016】
請求項3の発明によれば、請求項1または2の発明と同様の効果を得られる他に、流体室から吐出された流体が第2流体室に供給され、かつ、前記第2流体室から吐出された流体が前記流体室に供給される。そして、ラジアルピストンモータの第2流体室に流体が供給されて前記第2ピストンが半径方向の外側に向けて動作する場合に、前記第2ピストンが前記カム面に押し付けられ、その反力で前記動力伝達部材を前記軸線を中心として回転させる向きのトルクが発生する。
【0017】
請求項4の発明によれば、請求項3の発明と同様の効果を得られる他に、外周側部材の回転方向に対して、動力伝達部材の回転状態を正回転状態及び逆回転状態ならびに停止状態に切替可能である。
【0018】
請求項5の発明によれば、第3ピストンがカム面の傾斜カム面に接触しているとともに、外周側材と内周側材とが相対回転すると、ラジアルピストンモータの第3流体室に流体が供給されて、第3ピストンが半径方向の外側に向けて動作する場合に、第3ピストンがカム面に押し付けられ、その反力で前記内周側材を前記軸線を中心として回転させる向きのトルクが発生する。また、外周側材と内周側材とを軸線に沿った方向に相対移動させると、ラジアルピストンモータに供給され、かつ、ラジアルピストンモータから吐出される流体の容量を可変とすることができる。これに対して、第3ピストンが同軸カム面に接触されると、ラジアルピストンモータへの流体の供給がおこなわれなくなり、かつ、ラジアルピストンモータから流体が吐出されなくなる。
【0019】
請求項6の発明によれば、請求項5の発明と同様の効果を得られる他に、外周側材と内周側材との円周方向における位相が同じであっても、ラジアルピストンモータにおける流体の供給作用と吐出作用とを逆転させることが可能である。
【0020】
請求項7の発明によれば、ピストンが接触するカム面を有するカムを製造する場合、第1工程では、軸線に沿った方向に分割された複数の加工対象物を用意して、中心線が互いに交差する第1カム面と第2カム面とを分離することができるので、第1のカム面および第2カム面の加工を容易におこなうことができる。したがって、カムの製造が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
この発明において、外周側部材と内周側部材とが相対回転可能に構成されている。例えば、何れか一方が回転可能であり、他方が固定されている(回転不可能)第1の構成、または、外周側部材および内周側部材の両方が、共に回転可能である内周側部材の構成のいずれでもよい。さらに上記第1の構成と第2の構成とを切り替えることが可能であってもよい。そして、外周側部材または内周側部材の何れか一方が、動力源に対して動力伝達可能に連結される。さらに、前記動力源の動力が前記一方の部材に伝達されて、外周側部材と内周側部材とが相対回転する。ここで、前記動力源に連結される一方の部材は、カム面が設けられている部材、またはピストンが設けられている部材の何れでもよい。また、前記動力源は、熱エネルギを運動エネルギに変換する動力装置、電気エネルギを運動エネルギに変換する動力装置、流体の運動エネルギを回転軸の運動エネルギに変換する動力装置などのいずれであってもよい。また、この発明において、ピストンは軸線を中心とする半径方向に動作するピストンであり、形状、長さなどは問われず、ピストン、プランジャなどにより構成される。さらに、この発明におけるピストンには、ピストン自体、及びピストンに取り付けられているローラ、ボールなどの転動体が含まれる。この発明において、軸線および中心線は、工学上の仮想線であり、この軸線および中心線は物理的に存在するわけでなない。軸線は、回転可能な要素の回転中心を示す基準線である、また、中心線とは、円形のカム面の中心を通過する線分である。この発明における外周側部材および内周側部材および動力伝達部材が、回転可能に設けられている場合は、これらの部材を経由して動力伝達がおこなわれる。これらの部材としては、回転軸、プーリ、ギヤ、キャリヤ、コネクティングドラムなどが挙げられる。また、外周側部材または内周側部材のいずれか一方が固定されている場合、その部材はケーシングまたはハウジングまたはブラケットなどにより回転不可能に支持される。
【0022】
また、この発明におけるラジアルピストンポンプは、動力が与えられて流体を吸入・吐出する流体機械であり、ラジアルピストンポンプを車両に搭載することが可能である。例えば、駆動力源から車輪に至る動力伝達経路に、前記ラジアルピストンポンプを配置することが可能である。さらに、この発明において、可変容量機構は、外周側部材と内周側部材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させる動力を発生するアクチュエータであり、例えば、油圧式アクチュエータ、電磁式アクチュエータ、手動式アクチュエータなどを用いることができる。油圧式アクチュエータは、油圧室の油圧を制御することにより、各部材同士を相対移動させる動作力が制御されるように構成される。電磁式アクチュエータは、磁気吸引力を制御することにより、各部材同士を相対移動させる動作力が制御されるように構成される。手動式アクチュエータは、人間の操作力がリンク、ワイヤ、ロッドなどを経由して伝達されて動作力が発生するように構成される。また、容量可変機構は、前記軸線を中心とする半径方向でのピストンの動作量(ストローク量)を制御して、ラジアルピストンポンプの容量を変更する。
【0023】
さらに、この発明におけるラジアルピストンモータは、流体の運動エネルギを回転部材の運動エネルギに変換する流体式モータである。より具体的には、流体の圧力を、回転要素の動力に変換する流体装置である。また、この発明のラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータにおいて、回転可能に設けられる部材は、トルク伝達可能な部材であり、例えば、回転軸、回転円板、キャリヤ、ギヤ、コネクティングドラムなどが含まれる。また、回転不可能に固定される部材には、ケーシング、ハウジング、フレーム、ボス部、ブラケット、隔壁などが含まれる。この発明におけるラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータは、非圧縮性の流体を取り扱う流体装置であり、非圧縮性の流体には、液体、例えば、オイル、冷却液、水などが含まれる。さらに、オイルには、焼き付き・発熱・摩耗・摺動する部位を潤滑・冷却する潤滑油、油圧機器・流体機械を動作させる作動油が含まれる。
【0024】
この発明におけるラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータは、支持部材により支持される。この支持部材は、ラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータを収容する要素であり、支持部材は、軸線に沿った方向に移動することが不可能に配置される。この支持部材には、内部中空のケーシングまたは内部中空のハウジングの他、ブラケット、枠部材、フレーム部材、壁部材などが含まれる。この発明におけるカム部材は、ラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータに用いられる。また、第2工程と第3工程とは、いずれか工程を先におこない、他の工程を後におこなってもよい。あるいは、第2工程と第3工程とを同時におこなってもよい。以下、この発明におけるラジアルピストンポンプの具体例、およびカム部材の製造方法の具体例を、図面に基づいて説明する。
【0025】
(具体例1)
この具体例1は、ラジアルピストンポンプの具体例であり、図1に基づいてラジアルピストンポンプ1の構成を説明する。このラジアルピストンポンプ1は、内部中空の支持部材、例えば、ケーシング100内に設けられている。ケーシング100は内部中空に構成されており、ケーシング100は、ラジアルピストンポンプ1およびその他の部品を収容し、かつ、支持する要素である。ラジアルピストンポンプ1は回転軸2およびカム3を有している。前記回転軸2とカム3とは、軸線A1を中心として相対回転可能に構成されている。前記軸線A1は水平に配置されており、図1は、軸線A1に沿った方向における断面図である。前記回転軸2には、動力源4が動力伝達可能に接続されている。この動力源4としては、熱エネルギを運動エネルギに変換するエンジン、または、電気エネルギを運動エネルギに変換する電動機などを用いることができる。さらには、動力源4としてエンジンおよび電動機の両方を用いることも可能である。また、前記動力源4から前記回転軸2に至る経路にクラッチ(図示せず)を設けることも可能である。また、この回転軸2と一体回転する構成のインナーレース5が設けられている。
【0026】
図2は、軸線A1と垂直な平面内における断面図である。このインナレース5は、軸線A1を中心として環状に構成されており、そのインナーレース5の外周には、円周方向に沿って複数のシリンダ6が配置されている。図2に示す例では、シリンダ6が8箇所形成されている。各シリンダ6は、インナーレース5の外周面に開口された円柱形状の凹部もしくは窪みであり、軸線中心線C1に沿ってシリンダ6が設けられている。中心線C1は軸線A1と直交する。そして、各シリンダ6内にはピストン7が各々配置されており、各ピストン7は、中心線C1に沿った平面内で、前記軸線A1を中心として半径方向に動作可能である。また各ピストン7には転動体8が取り付けられている。この転動体8はボールを用いることが可能である。一方、前記シリンダ6内には油圧室9が形成されている。この油圧室9には、圧縮コイルばね10が設けられており、前記ピストン7を前記シリンダ6の外に押し出す向きの力が、圧縮コイルばね10からピストン7に加えられる。
【0027】
前記油圧室9に接続された油圧回路の構成を、図1および図3および図4に基づいて説明する。前記ケーシング100には、油路11および油路12が設けられている。なお、図1に示されているケーシング100は、具体的にはケーシング100の一部を構成する隔壁、カバーなどであり、これらの隔壁、カバーは、軸線A1に対して垂直な方向に延ばされているか、または張り出している。隔壁、カバーは、ケーシング100の内部と外部とを区画する要素、またはケーシング100の内部に形成された空間同士を区画する要素のいずれでもよい。以下、ケーシング100に代えて、便宜上「隔壁100」と記す。そして、軸線A1に沿った方向で、カム3と動力源4との間に隔壁100が配置されている。また、前記油路11はオイルパン13に接続されている。オイルパン13は、ケーシングの内部またはケーシングの外部に設けられたオイル溜めである。一方、前記油路12はオイル必要部16に接続されている。このオイル必要部16では、オイルを潤滑油として用いたり、制御機器の作動油として用いる。オイル必要部16には、ケーシング内またはケーシングの外部に設けられた油圧室、ケーシング内に設けられた動力伝達装置、具体的にはギヤ同士の噛み合い部、チェーンとスプロケットとの噛み合い部、プーリとベルトとの接触部などが含まれる。またオイル必要部16には、オイルにより潤滑・冷却される軸受が含まれる。
【0028】
また、前記隔壁100には油路切替バルブ101が取り付けられている。この油路切替バルブ101は、軸線A1を中心とする円筒形状に構成されており、隔壁100に対して、油路切替バルブ101が回転不可能に、かつ、軸線A1に沿った方向にも移動不可能に固定されている。具体的には、隔壁100に設けられた孔に対して、油路切替バルブ101が圧入固定されている。そして、油路切替バルブ101は軸孔108を有している。この軸孔108は軸線A1を中心として形成されており、軸孔108内に回転軸2が挿入されている。また、油路切替バルブ101には油路102,103が設けられており、油路102が油路12に接続され、油路103が油路11に接続されている。また、前記軸線A1に沿った方向における油路切替バルブ101の端面、具体的には、前記インナレース5に近い側の端面には、油路104,105が形成されている。図3は、油路切替バルブ101の端面図であり、油路104,105は、軸線A1を中心として共に円弧形状に構成されている。より具体的には、油路104,105は、共に略半円形状を有している。また、油路104,105は、油路切替バルブ101において軸線A1を中心とする同一円周上に配置されている。さらに、油路104と油路105とは円周方向で異なる位相に配置されている。そして、油路104が油路102と接続され、油路105が油路103と接続されている。
【0029】
一方、前記インナーレース5には、前記油圧室9に接続された油路106が設けられている。油路106は、油圧室9にそれぞれ独立して複数設けられており、各油路106が、インナレース5の円周方向に等間隔で配置されている。そして、各油路106は、インナレース5の端面、具体的は油路切替バルブ101に接触した側の端面に開口されている。各油路106の開口部と同一円周上に、前記油路104,105が配置されている。さらに、インナレース5の端面と油路切替バルブ101の端面とが接触した状態で、インナレース5と油路切替バルブ101とが相対回転することが可能となるように、インナレース5が回転軸2に取り付けられている。インナレース5と回転軸2とが一体回転するように連結、具体的にはスプライン結合されている。また、回転軸2およびインナレース5は軸線A1に沿った方向には移動することが不可能となるように、軸受およびスナップリング等(図示せず)により支持されている。したがって、インナレース5が回転している場合、または停止している場合のいずれにおいても、油路106は油路104または油路105に対して接続することが可能である。なお、軸線A1を中心とする円周方向で、油路106が油路104と油路105との間に位置する場合、油路106が、油路104,105と遮断される。さらに、インナレース5が回転すると、油路106が油路104に接続された状態と、油路106が油路105に接続された状態とが交互に切り替わる。このように、油路切替バルブ101は、油圧室9を、油路104または油路105に対して選択的に接続する機構である。また、油路切替バルブ101は、インナレース5の回転により、油圧室9に接続される油路を切り替えるロータリバルブである。
【0030】
前記カム3の構成を説明する。このカム3は前記ケーシング内に、前記軸線A1に沿った方向に動作可能に配置されており、かつ、カム3は、軸線A1を中心として回転することが不可能に構成されている。例えば、ケーシングに対してカム3はスプライン結合、またはセレーション結合、またはキー結合されている。また、前記カム3には貫通孔19が設けられており、前記軸線A1と直交する平面内において、前記貫通孔19の内周面がカム面20を構成しいる。
【0031】
このカム面20の構成を具体的に説明すると、図2に示すように、前記軸線A1と垂直な平面内において、カム面20は円形に構成されている。図1に示すように、カム面20は、中心線B1を中心とする傾斜カム面20と、中心線B2を中心とする傾斜カム面20Bと、中心線B3を中心とする同軸カム面20Cとを有している。傾斜カム面20Aと同軸カム面20Cとが互いに連続しており、傾斜カム面20Bと同軸カム面20Cとが互いに連続している。さらに、軸線A1に沿った方向の平面内で、軸線A1と中心線B1とが交差し、軸線A1と中心線B2とが交差し、軸線A1と中心線B3とが同軸となっている。軸線A1に沿った方向で、傾斜カム面20Aが形成された範囲が、傾斜カム領域K1であり、傾斜カム面20Bが形成された範囲が、傾斜カム領域K1であり、同軸カム面20Cが形成された範囲が、同軸カム領域K3である。
【0032】
そして、軸線A1に沿った方向の平面内で、傾斜カム領域K1と傾斜カム領域K2との間に、同軸カム領域K3が配置されている。これら、傾斜カム領域K1,傾斜カム領域K2および同軸カム領域K3は、共に軸線A1に沿った方向で一定の長さに亘っている。さらに、軸線B1と軸線A1との間に形成される鋭角側の角度と、軸線B2と軸線A1との間に形成される鋭角側の角度とが同一となっている。また、軸線A1に対して、軸線B1,B2が同じ方向に傾斜されている。さらに、軸線A1に沿った方向で、傾斜カム領域K2に対応する部分では、中心線B1と軸線A1とが交差して交点P1となっている。さらに、軸線A1に沿った方向で、傾斜カム領域K1に対応する部分では、中心線B2と軸線A1とが交差して交点P2となっている。図1の例では、交点P1よりも左側に交点P2が位置している。
【0033】
さらに、前記カム3を前記軸線A1に沿った方向に動作させるスライド機構21が設けられている。このスライド機構21は、前記軸線A1に沿った方向の動作力(推力)を前記カム3に与えてそのカム3を動作させ、かつ、カム3を停止させる機構である。カム3が軸線A1に沿った方向に移動すると、前記軸線A1上で交点P1の位置が移動する。このスライド機構21としては、油圧式アクチュエータ、電磁式アクチュエータ、手動式アクチュエータなどを用いることができる。前記油圧式アクチュエータは、油圧室と、この油圧室に設けられたバネなどを有しており、前記油圧室の油圧を制御することにより、前記カム3を軸線A1に沿った方向に動作させることが可能である。前記電磁式アクチュエータは、ソレノイドおよびバネなどを有しており、前記ソレノイドに供給する通電量を制御して磁気吸引力を制御し、その磁気吸引力とバネの力との関係により、前記カム3を前記軸線A1に沿った方向に動作させるものである。前記手動アクチュエータは、手動で動作されるレバーの操作力を、ロッド、リンク、ワイヤなどを経由させて機械的にカム3に伝達し、そのカム3を軸線A1に沿った方向に動作させる装置である。
【0034】
つぎに、前記ラジアルピストンポンプ1におけるオイルの吸入・吐出作用を説明する。まず、前記軸線A1に沿った方向で前記カム3の位置が制御されて、図5に示すように、前記軸線A1に沿った方向で、中心線C1が交点P1と交点P2との間に位置された場合について説明する。この場合は、前記転動体8がカム面20と同軸カム領域K3で接触する。この場合、カム面20の中心線B1が、軸線A1と同軸になるため、前記動力源4のトルクを前記回転軸2に伝達して前記インナーレース5を回転させても、前記ピストン7は前記軸線A1を中心とする半径方向に動作しない。したがって、前記油圧室9にはオイルが吸入されず、かつ、前記油圧室9からオイルが吐出もされない。
【0035】
これに対して、前記軸線A1に沿った方向における前記カム3の位置が制御されて、図1に示すように、前記軸線A1に沿った方向で、前記中心線C1が前記交点P1から外れた位置に制御された場合を説明する。具体的には、中心線C1が交点P1よりも右側に位置する。この場合は、図2に示すように、前記中心線C1上で、前記中心線B1が軸線A1よりも下方に偏心する。つまり、軸線A1に対して中心線B1が偏心量e分だけ、図2で下方に離れた位置にある。このため、前記動力源4のトルクを前記回転軸2に伝達して前記インナーレース5を回転させると、前記転動体8が前記カム面20に接触したまま転動し、かつ、前記ピストン7が前記軸線A1を中心として半径方向に動作する。図2においては、便宜上、前記インナーレース5が時計方向に回転するものとして示されている。
【0036】
また、図2においてはインナーレース5の回転方向の位相に対して、右側の領域D1と左側の領域E1とに2分割されている。そして、領域D1に位置しているピストン7では、前記回転軸2が回転することにともない、カム面20に沿って前記ピストン7が圧縮コイルばね10のばね荷重により押し出されて上昇し、油圧室9内が負圧となる。このとき、前記油圧室9が油路105に接続されている。したがって、前記オイルパン13のオイルが、油路11および油路103を経由して前記油圧室9に吸入される。
【0037】
これに対して、領域E1に位置しているピストン7では、前記回転軸2が回転することにともない、カム面20に沿ってピストン7が圧縮コイルばね10のばね荷重に抗して下降し、油圧室9内のオイルが吐出される。このとき、油圧室9は油路106に接続されており、前記油圧室9から吐出されたオイルが、油路102および油路12を経由して、前記オイル必要部16に供給される。以後、前記回転軸2の回転により、各ピストン7が半径方向に往復動して、各油圧室9ではオイルの吸入・吐出が繰り返される。なお、インナーレース5の回転により、ピストン7が領域D1から領域E1に移行すると、油圧室9にオイルが吸入される状態から、油圧室9からオイルが吐出される状態に切り替わる。また、インナーレース5の回転により、ピストン7が領域E1から領域D1に移行すると、油圧室9からオイルが吐出される状態から、油圧室9にオイルが吸入される状態に切り替わる。さらに、ピストン7が領域D1と領域E1との境界に位置する時点では、油圧室9へのオイルの吸入、および油圧室9からのオイルの吐出はおこなわれない。この具体例1において、転動体8とカム面20との接触点について説明する。図5の場合は、転動体8とカム面20との接触点が中心線C1上に位置する。これに対して、図1および図6の場合は、転動体8とカム面20との接触点が、厳密には中心線C1から外れた位置となる。しかしながら、各具体例では、便宜上、転動体8とカム面20との接触点が中心線C1上に位置するものとして説明する。
【0038】
つぎに、具体例1のラジアルピストンポンプ1において、前記カム3の他の動作例を、図6に基づいて説明する。図6に基づいて説明するカム3の他の動作例は、前記軸線A1に沿った方向で、前記交点P2よりも左側に前記中心線C1が位置する場合に相当する。この図6においては、中心線C1上において、軸線A1の上方に中心線B1が偏心している。具体的には、偏心量e分だけ軸線A1と中心線B1とが離れている。この図6に示すカム3の動作例について、ラジアルピストンポンプ1の作用を、図7に基づいて説明する。この図7は、前記軸線A1と垂直な平面、特に、中心線C1に沿った方向における概念図である。図7では、インナーレース5の円周方向における位相を、左右の領域E1,D1に2分割して示してある。そして、回転軸2にトルクが伝達されて前記インナーレース5が時計方向に回転すると、以下のような作用により、各油圧室9でオイルの吸入・吐出がおこなわれる。
【0039】
すなわち、ピストン7が領域D1に位置するとき、カム面20により押されるピストン7は、圧縮コイルばね10のばね荷重に抗して下降し、油圧室9からオイルが吐出される。また、ピストン7が領域D1に位置している場合、油路106が油路105に接続されている。したがって、油圧室9から吐出されたオイルが、油路12を経由してオイル必要部16に供給される。これに対して、ピストン7が領域E1に位置するときにおいては、ピストン7は圧縮コイルばね10のばね荷重により上昇し、油圧室9が負圧となる。また、ピストン7が領域E1に位置している場合、油路106が油路104に接続されている。したがって、オイルパン13から油路11および油路113を通って油圧室9にオイルが吸入される。つまり、図2と図7とを比較すると、前記インナーレース5の回転方向が同じであり、ピストン7が同じ領域D1に位置している場合でも、図2の場合は油圧室9にオイルが吸入され、図7の場合は油圧室9からオイルが吐出される。また、前記インナーレース5の回転方向が同じであり、ピストン7が同じ領域E1に位置している場合でも、図2の場合は油圧室9からオイルが吐出され、図7の場合は油圧室9にオイルが吸入される。つまり、同じ領域にピストン7が位置している場合でも、油圧室9におけるオイルの吸入・吐出の関係が逆転(反転)する。
【0040】
つぎに、具体例1において、カム3の動作量(スライド量)と、オイルポンプ1の容量(V)、偏心量との関係を、図8の線図に基づいて説明する。なお、スライド量とは、前記軸線A1に沿った方向で、前記カム3の端面3Aから中心線C1までの距離(長さ)を意味する。端面3Aは、カム3における動力源4の反対側に配置された端面である。端面3Aは軸線A1と垂直な平坦面である。ここでは、前記中心線C1がカム3の端面3Aに最も近づいた状態が、スライド量(距離)「零」として示されている。また、容量Vとは、前記ラジアルピストンポンプ1の容量[rev ]である。より具体的には、インナーレース5が軸線A1を中心として1回転する間に、各油圧室9から吐出されるオイルの合計体積であり、実際のピストン7のストロークに比例した量である。すなわち、ピストン7のストロークが大きくなれば容量が増加し、ピストン7のストロークが少なくなれば容量が減少する。さらに、図8において、偏心量「零」とは、軸線A1に沿った方向で、前記中心線C1が交点P1と交点P2との間に位置することを意味している。さらに、図8において、容量「零」とは、ラジアルピストンポンプ1からオイルが吐出されず、かつ、オイルが吸入されないことを意味する。そして、ラジアルピストンポンプ1の容量Vは、次式で求められる。
V=A*e*n
ここで、Aは油圧室9の面積、具体的には、中心線C1と垂直な平面における面積である。また、nはピストン7の本数である。
【0041】
この図8に示すように、軸線A1に沿った方向で、交点P1と交点P2との間に中心線C1が位置している場合は、カム3が停止している場合、またはカム3が動作している場合のいずれにおいても、偏心量は「零」であり、かつ、容量も「零」である。一方、中心線C1が交点P1よりも右側の領域にある場合、つまり、図1に示すように中心線C1が傾斜カム領域K2内にある場合は、カム3のスライド量が増加することに比例して、偏心量および容量が増加する特性となる。これに対して、中心線C1が交点P1よりも左側の領域にある場合、つまり、図6に示すように、中心線C1が傾斜カム領域K1内にある場合は、カム3のスライド量が減少することに比例して、偏心量および容量が増加する特性となる。このように、図1および図6においては、偏心量が増加するほど、前記ピストン7の上死点から下死点までの間のストローク量が長くなり、ラジアルピストンポンプ1の容量が増加する。つまり、ラジアルピストンポンプ1は、可変容量形のオイルポンプである。また、図1ないし図8に示された例では、前記カム3を前記軸線A1に沿った方向に動作させることにより、前記ラジアルピストンポンプ1の容量を変更することができる。言い換えれば、軸線A1を中心とする半径方向では、前記カム3の動作スペースを確保せずに済む。したがって、ラジアルピストンポンプ1が前記軸線A1を中心とする半径方向に大型化することを抑制できる。
【0042】
なお、具体例1において、カム3に傾斜カム面20Bおよび同軸カム面20Cを設け、傾斜カム面20Aを設けない構成とすることも可能である。この具体例1に基づいて説明された構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、軸線A1が、この発明の軸線に相当し、カム3が、この発明における外周側部材に相当し、インナレース5が、この発明における内周側部材に相当し、中心線C1が、この発明における中心線に相当し、カム面20が、この発明のカム面に相当し、ピストン7および転動体8が、この発明におけるピストンに相当し、油圧室9が、この発明における流体室に相当し、ラジアルピストンポンプ1が、この発明におけるラジアルピストンポンプに相当する。また、傾斜カム面20A,20Bが、この発明における傾斜カム面に相当し、同軸カム面20Cが、この発明における同軸カム面に相当し、スライド機構21が、この発明における容量可変機構に相当する。
【0043】
(具体例2)
つぎに、ラジアルピストンポンプ1の具体例2を図9に基づいて説明する。この具体例2は、請求項1、2、3、4に対応するものである。この具体例2においては、隔壁107と動力源4との間に隔壁100が配置されている。隔壁107の技術的意味は、隔壁100の場合と同じである。そして、隔壁100と隔壁107との間の空間に、ラジアルピストンポンプ1に加えて、ラジアルピストンモータ35が設けられている。この具体例2では、隔壁100から隔壁107に向けて油路切替バルブ101が突出して取り付けられている。この具体例2において、ラジアルピストンポンプ1の構成および機能は、具体例1の場合と同様である。
【0044】
つぎに、ラジアルピストンモータ35の構成を説明する。このラジアルピストンモータ35は、インナーレース26および前記カム3を有している。つまり、カム3は、ラジアルピストンポンプ1およびラジアルピストンモータ35により共用されている。また、軸線A1に沿った方向で、インナレース5と隔壁107との間にインナレース26が配置されている。また、インナレース26の外周には、円周方向に沿って複数のシリンダ27が形成されている。複数のシリンダ27は、中心線F1を中心として円筒形状に構成されている。図10は、軸線A1と垂直な平面内における断面図、具体的には中心線F1に沿った断面図である。図10に示す例では、シリンダ27が8箇所形成されている。各シリンダ27は、インナーレース26の外周面に開口された円柱形状の凹部もしくは窪みである。そして、各シリンダ27内にはピストン28が各々配置されており、各ピストン28は、中心線F1に沿って前記半径方向に動作可能である。また各ピストン28には転動体29が取り付けられている。この転動体29はボールを用いることが可能である。一方、前記シリンダ27内には油圧室30が形成されている。この油圧室30の油圧が前記ピストン28の底面に加えられる。
【0045】
前記油圧室30に接続された油圧回路の構成を、図9に基づいて説明する。前記隔壁107には、油路109および油路110が設けられている。また、前記油路109が前記油路12に接続され、前記油路110が前記油路11に接続されている。このように、具体例2においては、具体例1で説明したオイルパン13およびオイル必要部16は設けられていない。また、前記隔壁107には油路切替バルブ111が取り付けられている。この油路切替バルブ111は、軸線A1を中心とする円筒形状に構成されており、油路切替バルブ111は軸孔150を有する。この油路切替バルブ111は、隔壁107に対して回転不可能に、かつ、軸線A1に沿った方向には移動不可能に固定されている。具体的には、隔壁107に設けられた孔に対して、油路切替バルブ111が圧入固定されている。この油路切替バルブ111は隔壁107からインナレース26に近づく向きで突出している。
【0046】
そして、油路切替バルブ111には油路112,113が設けられており、油路113が油路110に接続され、油路112が油路109に接続されている。また、前記軸線A1に沿った方向における油路切替バルブ111の端面、具体的には、前記インナレース26に近い側の端面には、油路114,115が形成されている。図11は、油路切替バルブ111の端面図であり、油路114,115は、軸線A1を中心として共に円弧形状に構成されている。また、油路114の周長と油路104の周長とが同一に構成され、油路115の周長と油路105の周長とが同一に構成されている。さらに、円周方向における油路114の配置位相と、円周方向における油路104の配置位相とが一致している。また、円周方向における油路115の配置位相と、円周方向における油路105の配置位相とが一致している。そして、油路114が油路112と接続され、油路115が油路113と接続されている。
【0047】
一方、前記インナーレース26には、前記油圧室30に接続された油路116が設けられている。油路116は、油圧室30にそれぞれ独立して複数設けられており、各油路116が、インナレース26の円周方向に等間隔で配置されている。そして、各油路116は、インナレース26の端面、具体的は油路切替バルブ111に接触した側の端面に開口されている。各油路116の開口部と同一円周上に、前記油路114,115が配置されている。さらに、インナレース26の端面と油路切替バルブ111の端面とが接触した状態で、インナレース26と油路切替バルブ111とが相対回転することが可能となるように、インナレース26が出力軸25に取り付けられている。この出力軸25は油路切替バルブ111の軸孔150内に配置されており、出力軸25は軸線A1を中心として回転可能である。
【0048】
また、出力軸25とインナレース26とが一体回転可能に接続、例えばスプライン結合されている。また、出力軸25およびインナレース26は軸線A1に沿った方向には移動することが不可能となるように、軸受およびスナップリングなど(図示せず)により支持されている。したがって、インナレース26が回転している場合、または停止している場合のいずれにおいても、単一の油路116は、油路114または油路115の何れか一方に対して接続される。さらに、インナレース26が回転すると、単一の油路116が油路114に接続された状態と、油路116が油路115に接続された状態とが交互に切り替わる。このように、油路切替バルブ111は、油圧室30を、油路12または油路11に対して選択的に接続する機構である。また、油路切替バルブ111は、インナレース26の回転により、油圧室30に対して接続される油路が切り替わるロータリバルブである。
【0049】
上記のように構成されたインナーレース26、ピストン27、転動体29、カム面20、出力軸25、油路112,113,114,115、油路109、油路110などの構成により、ラジアルピストンモータ(油圧モータ)35が構成されている。なお、ラジアルピストンポンプ1における油圧室9の断面積は、ラジアルピストンモータ35における油圧室30の断面積と同じである。ここで、断面積とは、ピストンの動作方向の中心線に沿った方向の平面内における断面積である。さらに、この具体例2においても、カム3を軸線A1に沿った方向に移動させ、かつ、停止させる機能を有するスライド機構21が共通に設けられている。
【0050】
つぎに、この具体例2におけるラジアルピストンポンプ1およびラジアルピストンモータ35の作用を説明する。この具体例2においては、前記軸線A1に沿った方向で、前記中心線C1と前記中心線F1との距離は一定である。そして、具体例2においても、具体例1と同様にして前記カム3を前記軸線A1に沿った方向に動作させ、かつ、停止させることが可能である。そして、具体例2においても、軸線A1に沿った方向に動作させることにより、転動体8を第1の傾斜カム領域K1または同軸カム領域K3または第2の傾斜カム領域K2の何れかに、選択的に接触させることが可能である。このように、転動体8を第1の傾斜カム領域K1または同軸カム領域K3または第2の傾斜カム領域K2に接触された場合のそれぞれにおけるラジアルピストンポンプ1の作用は、具体例1と同様である。
【0051】
この具体例2において、図12に示すように、転動体8が同軸カム領域K3に接触している場合は、ラジアルピストンポンプ1ではオイルの吸入・吐出がおこなわれないため、ラジアルピストンモータ35が動作することはなく、回転軸2と出力軸25との間では動力伝達はおこなわれない。すなわち、ニュートラル状態にある。これに対して、この具体例2において、転動体8が第1の傾斜カム領域K1または第2の傾斜カム領域K2に接触するとともに、回転軸2が回転すると、油圧室9においてオイルの吸入・吐出がおこなわれて、油圧室9と油圧室30との間でオイルが行き来する。まず、図9に示すように、転動体8が第2の傾斜カム領域K2に接触しているとともに、ラジアルピストンポンプ1でオイルの吸入・吐出がおこなわれた場合において、前記ラジアルピストンモータ35の作用を、図10に基づいて説明する。ラジアルピストンモータ35は、転動体29が第1の傾斜カム領域K1に接触した状態で動作する。また、前記中心線B1は前記インナーレース26の軸線A1よりも上方に変位している。
【0052】
このため、カム3とインナーレース26とが相対回転すると、ピストン30が軸線に沿って半径方向にストロークする。図10では、円周方向の位相が左右に領域E1と領域D1とに2分割されている。前記ピストン28の中心線F1が領域E1に位置している場合は、油路116が油路114に接続されている。このため、前記油圧室9から吐出された圧油が、油路102,12および油路109,112を経由して油圧室30に供給されて、その油圧室30の油圧が上昇する。すると、ピストン28を、中心線F1に沿って半径方向で外側に向けて押圧する力が増加し、転動体29とカム面20との接触点で反力が発生する。このようにして、前記ラジアルピストンポンプ1から吐出されたオイルが、ラジアルピストンモータ35に供給されて、そのラジアルピストンモータ35が駆動され、インナーレース26を図10で時計方向に回転させる向きのトルクが発生する。
【0053】
このように、領域E1に位置しているピストン28が上昇行程となる。これに対して、領域D1に位置するピストン28の作用を説明する。前記のようにインナーレース26が図10で時計方向に回転すると、カム面20に沿ってピストン28が下降する。すると、油圧室30からオイルが吐出され、そのオイルが油路113,110および油路11,103を経由して、上昇行程にあるピストン7を有する油圧室9に吸入される。すなわち、油圧室9と油圧室30との間で、油路102,103,112,113、および油路12,110、および油路11,109を介してオイルが循環する。
【0054】
なお、ピストン28が領域E1と領域D1との境界に位置している場合、その油圧室30の油路116は、油路114,115の両方と遮断される。すなわち、ピストン28が領域D1から領域E1に移行する時点で、油圧室30からオイルが吐出される状態から、油圧室30にオイルが供給される状態に切り替わる。すなわち、インナーレース26が図10で時計方向に回転する場合、ピストン28が領域D1から領域E1に移行する時点で、油圧室30からオイルが吐出される状態から、油圧室30にオイルが供給される状態に切り替わる。すなわち、ピストン28が領域D1から領域E1に移行する時点で、油圧室30からオイルが吐出される状態から、油圧室30にオイルが供給される状態に切り替わる。これに対して、ピストン28が領域E1から領域D1に移行する時点で、油圧室30にオイルが供給される状態から、油圧室30からオイルが吐出される状態に切り替わる。
【0055】
また、ラジアルピストンモータ35において、カム3のスライド量と、油圧室30に供給・吐出される圧油の容量V2と、偏心量eとの関係は、図8の交点P2の左側に示された特性と同じになる。すなわち、軸線A1に沿った方向で、端面3Aから中心線F1までの距離が減少することに比例して、偏心量および容量が増加する特性を示す。そして、この具体例2においては、図9に示すように、転動体8が第2の傾斜カム領域K3に接触し、かつ、転動体29が第1の傾斜カム領域K1に接触した状態で、前記カム3を軸線A1に沿った方向に動作させると、ラジアルピストンポンプ1の容量およびラジアルピストンモータ35の容量を共に変更することができる。つまり、ラジアルピストンモータ35も、可変容量形のモータである。そして、ラジアルピストンポンプ1およびラジアルピストンモータ35が、回転軸2と出力軸25との間における変速比を変更可能な変速機としての機能する。特に、回転軸2と出力軸25との間における変速比を無段階(連続的)に制御することができ、無段変速機として機能する。
【0056】
ここで、変速比γは次式により求められる。
γ=V2/V1=e2/e1
ここで、V1はラジアルピストンポンプ1の容量であり、V2はラジアルピストンモータ35の容量である。また、e1は、ラジアルピストンポンプ1における軸線A1と中心線B2との間の偏心量であり、e2は、ラジアルピストンモータ35における軸線A1と中心線B1との間の偏心量である。例えば、偏心量e2の方が、偏心量e1よりも大きい場合、ラジアルピストンポンプ1の容量V1の方が、ラジアルピストンモータ35の容量V2よりも少なくなる。このとき、変速比が「1」を越えて、前記回転軸2の回転数よりも出力軸25の回転数の方が低くなり、ラジアルピストンポンプ1およびラジアルピストンモータ35が減速機として機能する。
【0057】
ここで、前記カム3のスライド量sと変速比γとの関係を、図13に基づいて説明する。図13において、スライド量sとは、軸線A1に沿った方向でカム3の端面3Aと中心線C1との距離である。そして、中心線C1が、交点P2から交点P1までの範囲に位置するスライド量s0においては、前記ラジアルピストンポンプ1ではオイルの吸入・吐出がおこなわれず、回転軸2から出力軸25に動力が伝達されることはない。これに対して、スライド量sがスライド量s0よりも大きく、かつ、そのスライド量sが増加することに比例して、偏心量e1は増大する一方、偏心量e2が減少するため、変速比γが小さくなる(「零」に近づく)特性となる。また、回転軸2の回転数が一定であるとすれば、スライド量sがスライド量s0よりも大きく、かつ、そのスライド量sが増加することに比例して、出力軸25の回転数が上昇する特性となる。
【0058】
つぎに、転動体8および転動体29が、図14に示すように共に第1の傾斜カム領域K1に接触するとともに、回転軸2が図中矢印で示す方向に回転した場合における作用を説明する。この場合は、前記図7に示すように、インナーレース5の回転位相において、領域D1に中心線C1が位置する油圧室8から圧油が吐出される一方、領域E1に中心線C1が位置する油圧室9には圧油が吸入される。このため、ラジアルピストンモータ35においては、領域E1に中心線F1が位置する油圧室30に対して、油圧室9から吐出された圧油が供給される。すると、その油圧室30の油圧が上昇して、ピストン28をカム面20に向けて押し付ける力が上昇する。このため、転動体29とカム面20との接触点において反力が発生し、インナーレース26を図10で反時計方向に回転させる向きのトルクが発生する。
【0059】
一方、中心線F1が位置するピストン28においては、ピストン28が下降して油圧室30の油圧が上昇する。この油圧室30から吐出されたオイルが、領域E1にピストン28が位置する油圧室9に供給される。このように、転動体8および転動体29が共に第1の傾斜カム領域K1に接触している場合に、回転軸2が回転すると、出力軸25の回転方向が図9の場合とは逆になる。この具体例2において、具体例1と同様の構成部分については、具体例1と同様の作用効果を得られる。この具体例2で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、インナーレース26が、この発明における動力伝達部材に相当し、ピストン28および転動体29が、この発明における第2ピストンに相当し、ラジアルピストンモータ35が、この発明におけるラジアルピストンモータに相当する。
【0060】
(具体例3)
この発明の具体例3を、図10および図15および図16に基づいて説明する。この具体例3は、請求項5、6の発明に対応するものである。図15にはラジアルピストンモータ35およびカム3およびスライド機構21が示されている。図15に示されたラジアルピストンモータ35において、具体例2で説明した構成と同じ構成部分については、図9と同じ符号を付してある。この具体例3においては、具体例1で説明した構成のラジアルピストンポンプ1は設けられていない。この具体例3においては、オイルポンプ200が設けられている。このオイルポンプ200は、動力源、例えば、内燃機関(図示せず)または電動機(図示せず)などの動力により駆動されるように構成されている。オイルポンプ200は、回転式または往復式のいずれでもよい。さらに、回転式のオイルポンプとしては歯車ポンプ、ベーンポンプ、ねじポンプのいずれでもよい。往復式のオイルポンプとしては、アキシャルピストンポンプ、ラジアルピストンポンプのいずれでもよい。このオイルポンプ200の吐出口201は油路109,112を経由して油路114に接続されている。オイルポンプ200の吸入口202は、油路110,111を経由して油路115に接続されている。
【0061】
この具体例3においても、スライド機構21によりカム3が軸線A1に沿った方向に動作可能である。まず、転動体29が同軸カム領域K3に接触している場合に、オイルポンプ200の吐出口201から、油圧室30に圧油を供給しても、全てのピストン28が中心線F1に沿った方向で同じ位置に停止しているため、ピストン28は中心線F1に沿った方向に動作しない。このため、ラジアルピストンモータ35においては、油圧室30への圧油の供給、および油圧室30からの圧油の吐出のいずれもおこなわれない。つまり、出力軸25を回転させようとするトルクは発生しない。
【0062】
一方、前記具体例2で説明したように、転動体29が第1の傾斜カム領域K1に接触するとともに、前記オイルポンプ200の吐出口201から圧油を吐出すると、前記図10について説明したように、領域E1に位置する油圧室30に対して、油路114を経由して圧油が供給される。このようにして、領域E1に位置する油圧室30の油圧が上昇すると、前述と同様の原理により、出力軸25を図10で時計方向に回転させる向きのトルクが発生する。これと同時に、領域D1に位置する油圧室30においては、前述と同様の原理によりピストン28が下降して油圧室30の油圧が上昇する。この油圧室30から吐出された圧油は、油路116および油路111を経由して、吸入口202に吸い込まれる。このようにして、ラジアルピストンモータ35とオイルポンプ200との間でオイルが循環する。
【0063】
これに対して、転動体29が第2の傾斜カム領域K3に接触するとともに、前記オイルポンプ200の吐出口201から圧油を吐出する場合を、図16に基づいて説明する。図16は、軸線A1と垂直な平面におけるラジアルピストンモータ35の断面図である。図16に示すように、吐出口201から吐出された圧油が、油路114を経由して油圧室30に供給されると、領域E1に位置しているピストン28がカム面20に押し付けられて、具体例2で説明した原理と同様にして、インナレース26を図16で反時計方向に回転させようとする向きのトルクが発生する。これと同時に、領域D1に位置するピストン28は、シリンダ27内で下降するため、油圧室30の油圧が上昇する。そして、油圧室30から吐出された圧油が、油路115および油路110を経由して、吸入口202に吸い込まれる。このようにして、ラジアルピストンモータ35とオイルポンプ200との間で圧油が循環する。
【0064】
このように具体例3においても、カム3が軸線A1に沿った方向に動作させることにより、中心線F1が交点P2よりも左側の領域に位置する状態と、中心線F1が交点P1と交点P2との間に位置する状態と、中心線F1が交点P1よりも右側の領域に位置する状態とを選択的に切り替えることができる。また、カム3を軸線A1に沿った方向に動作させた場合、カム3のスライド量と、中心線B1と軸線A1との間における偏心量、ラジアルピストンモータ35の容量との関係は、具体例1において説明した図8の線図と同様の特性となる。したがって、軸線A1を中心とする半径方向に、ラジアルピストンモータ35が大型化することを抑制できる。この具体例3に基づいて説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、カム3が、この発明における外周側材に相当し、インナーレース26が、この発明における内周側部材に相当し、ピストン28および転動体29が、この発明における第3ピストンに相当し、油圧室30が、この発明の第3流体室に相当する。この具体例3におけるその他の構成と、この発明の構成との対応関係は、具体例1の構成とこの発明の構成との対応関係、具体例2とこの発明の構成との対応関係と同じである。
【0065】
(具体例4)
つぎに、具体例1ないし具体例3で説明したカム3の製造方法を説明する。この具体例4は、請求項7および請求項8に対応する。まず、軸線A1に沿った方向に分割された複数の加工対象物300,301,302を用意する。この加工対象物301,302,303は、金属材料、例えばの塊もしくはブロックである。そして、加工対象物301に、軸線A1と一致する中心線B3を中心とする第1カム面(同軸カム面)304を形成する。この第1カム面304は、中心線A1と垂直な平面内における形状が円形とされた孔であり、加工対象物301を工具で切削加工して形成されたものである。一方、加工対象物300に、軸線A1と交差する中心線B1を中心とする第2カム面(傾斜カム面)305を形成する。この第2カム面305は、中心線A1と垂直な平面内における形状が円形とされた孔であり、加工対象物300を工具で切削加工して形成されたものである。また、加工対象物302に、軸線A1と交差する中心線B2を中心とする第3カム面(傾斜カム面)306を形成する。この第3カム面306は、中心線A1と垂直な平面内における形状が円形とされた孔であり、加工対象物302を工具で切削加工して形成されたものである。
【0066】
その後、第1カム面304を有する加工対象物301と、第2カム面305を有する加工対象物300と、第3カム面306を有する加工対象物302とを接触させる。具体的には、加工対象物300と加工対象物302との間に、加工対象物301を配置する。また、軸線A1は同軸上に配置する。そして、加工対象物300と加工対象物301とを、位置決めピンにより位置決めし、加工対象物301と加工対象物302とを、位置決めピンにより位置決めする。この位置決めは、加工対象物同士が軸線A1と垂直な平面に沿って相対移動することを防止するためにおこなわれる。そして、加工対象物同士をボルト、ナットなどを用いて締め付け固定し、カム3が組み立てられる。
【0067】
カム3が組み立てられた場合、第1カム面304が同軸カム面20Cとなり、第2カム面305が第1の傾斜カム面20Aに相当し、第3カム面306が第2の傾斜カム面20Bに相当する。このようにして、カム面20を有するカム3が製造される。なお、図1、図5、図6、図9、図12、図14、図15においては、カム3は便宜上、一体成型品として示されており、カム3のハッチングも一方向としてある。ここで、具体例3で説明した構成と、請求項7の発明の構成との対応関係を説明すると、加工対象物300,301,302が、この発明における加工対象物に相当し、第1カム面304および第2カム面305および第3カム面306が、この発明におけるカム面に相当し、軸線A1が、この発明における軸線A1に相当し、中心線B1,B2,B3が、この発明における中心線に相当する。
【0068】
(具体例5)
つぎに、カム3のカム面20の構成例を、図19に基づいて説明する。図19は軸線A1に沿った方向における平面におけるカム3の拡大断面図である。第1の傾斜カム面20Aと、同軸カム面20Cとを接続する部分には、湾曲部(円弧形状部)310が形成され、第2の傾斜カム面20Bと、同軸カム面20Cとを接続する部分には、湾曲部(円弧形状部)311が形成されている。そして、湾曲部310,311の半径は、転動体9,29の半径よりも大きく構成されている。このため、転動体8,29がカム面20を転動する場合に、傾斜カム面20Aまたは同軸カム面20Cの何れか一方に転動体8,29が接触し、両方に同時に接触することはない。また、傾斜カム面20Bまたは同軸カム面20Cの何れか一方に転動体8,29が接触する。言い換えれば、転動体8,29が、傾斜カム面20Aおよび同軸カム面20Cの両方に同時に接触することはなく、転動体8,29が、傾斜カム面20Bおよび同軸カム面20Cの両方に同時に接触することはない。したがって、転動体8,29の転動時における転がり摩擦の抵抗が増加することを抑制でき、動力の伝達効率が向上する。また、転動体8,9が、傾斜カム面20Aと同軸カム面20Cとの間で移動する場合、または、転動体8,29が、傾斜カム面20Bと同軸カム面20Cとの間で移動する場合において、振動・騒音を抑制できる。
【0069】
上記のラジアルピストンポンプ1およびラジアルピストンモータ35は、家屋、工場、建築物などに固定して設置されるオイル輸送機器(流体装置)として用いることが可能である。また、前記ラジアルピストンポンプ1またはラジアルピストンモータ35を、動力源の動力を被駆動部材に伝達する、動力伝達装置またはクラッチとして用いることも可能である。例えば、車両の動力源から車輪に至る動力伝達経路に配置することが可能であり、その一例を図20に基づいて説明する。図20は、車両320のパワートレーンを示す概念図であり、動力源4から車輪36に至る経路に、ラジアルピストンポンプ1またはラジアルピストンモータ35を設けることが可能である。具体的には、図1および図5および図6に示すラジアルピストンポンプ1を設ける構成、図9および図12および図14に示すラジアルピストンポンプ1およびラジアルピストンモータ35の両方を設ける構成の何れかを採用可能である。そして、前記ラジアルピストンポンプ1またはラジアルピストンモータ35から車輪36に至る経路には変速機37が設けられる。さらに、変速機37から車輪36に至る動力伝達経路には終減速機38が設けられている。
【0070】
まず、図1および図5および図6に示すラジアルピストンポンプ1を設ける構成を採用した場合、前記カム3を前記変速機37の入力部材に対して動力伝達可能に接続する。この場合、前記カム3は固定ではなく回転可能である。この変速機37は、入力回転数と出力回転数との間の変速比を変更可能な動力伝達装置であり、変速機37は、有段変速機または無段変速機のいずれでもよい。有段変速機とは、変速比を段階的(不連続)に変更可能な変速機である。無段変速機とは、変速比を無段階(連続的)に変更可能な変速機である。有段変速機としては、遊星歯車式変速機、選択歯車式変速機などを用いることができる。無段変速機としては、ベルト式無段変速機、トロイダル型無段変速機を用いることが可能である。
【0071】
そして、前記動力源4から車輪36に伝達されるトルクにより前記ラジアルピストンポンプ1が駆動されてオイルの吸入・吐出がおこなわれる。また、前記転動体8とカム面20との係合力に基づいて、前記回転軸2から前記カム3にトルクが伝達される。さらに、前記カム3のスライド量、前記ラジアルピストンポンプ1の油圧室9に吸入されるオイルの流量、油圧室9から吐出されるオイルの流量などの条件を制御することにより、前記回転軸2から前記カム3を経由して前記変速機37に伝達されるトルクを制御することが可能である。
【0072】
一方、前記変速機37として無段変速機を用いる場合、前記ラジアルピストンポンプ1およびラジアルピストンモータ35の両方を配置する構成を採用可能である。この場合、出力軸25が変速機(無段変速機)37の入力部材に連結される。そして、前記具体例2のようにカム3の動作を制御することにより、出力軸25の回転方向を正逆に切り換えれば、前記ラジアルピストンポンプ1および前記ラジアルピストンモータ34を、前後進切換装置として機能させることが可能である。すなわち、シフトポジションの操作に基づいて、前記カム3の動作を制御することとなる。具体的には、車両320を前進させるシフトポジションが選択された場合、図9に基づいて説明したように、カム3の動作が制御される。また、車両320を停止させるシフトポジション(ニュートラル)が選択された場合、図12に基づいて説明したように、カム3の動作が制御される。さらに、車両320を後退させるシフトポジション(リバース)が選択された場合は、図14に基づいて説明したように、カム3の動作が制御される。
【0073】
ここで、スライド機構21として油圧式アクチュエータまたは電磁式アクチュエータが用いられている場合、シフトポジションが電子制御装置で検知されると、電子制御装置の制御信号に基づいてスライド機構21が制御される。一方、スライド機構21として手動式アクチュエータが用いられている場合、シフトレバーの操作力が、リンク、ワイヤ、ロッドなどを経由してスライド機構21に伝達され、カム3が動作する。なお、前述のように、ラジアルピストンモータ35は無段変速機としての機能を有しているため、ラジアルピストンポンプ35を用いる場合は、変速機37自体を設けなくともよい。さらに、この発明のラジアルピストンポンプは、動力源から車輪に至る動力伝達経路に配置する場合、車両のフロアーの下方空間にケーシングが配置することが可能である。これに対して、ラジアルピストンポンプを、車両のエンジンルーム内に配置することも可能である。なお、各具体例では、前記インナーレースが軸線方向には移動不可能(固定して)に配置されており、前記カムが軸線方向に動作可能に構成されているが、前記インナーレースが軸線方向に移動可能に設けられ、前記カムが軸線方向に移動不可能(固定)配置されている構成であっても、各具体例と同様の効果を得られる。さらに、この発明を車両に用いる場合、前記車輪は前輪または後輪のいずれでもよいし、動力源の動力が前輪および後輪の両方に伝達されるように構成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】この発明のラジアルピストンポンプの具体例1を示し、軸線に沿った方向の断面図である。
【図2】図1に示されたラジアルピストンポンプであり、軸線と垂直な平面内における断面図である。
【図3】図1に示された油路切替バルブの構成を示す端面図である。
【図4】図1に示すラジアルピストンポンプに接続された油圧回路の構成を示す概念図である。
【図5】この発明のラジアルピストンポンプの具体例1を示し、軸線に沿った方向の断面図である。
【図6】この発明のラジアルピストンポンプの具体例1を示し、軸線に沿った方向の断面図である。
【図7】図6に示されたラジアルピストンポンプであり、軸線と垂直な平面内における断面図である。
【図8】ラジアルピストンポンプの具体例1において、カムのスライド量と容量との関係の一例を示す特性線図である。
【図9】この発明において、ラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータを有する具体例2であり、軸線に沿った方向の断面図である。
【図10】図9に示されたラジアルピストンモータであり、軸線と垂直な平面内における断面図である。
【図11】図9に示された油路切替バルブの構成を示す端面図である。
【図12】この発明において、ラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータを有する具体例2であり、軸線に沿った方向の断面図である。
【図13】図9に示された具体例2において、カムのスライド量と変速比との関係を示す図である。
【図14】この発明において、ラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータを有する具体例2であり、軸線に沿った方向の断面図である。
【図15】この発明における具体例3のラジアルピストンモータであり、軸線に沿った方向の断面図である。
【図16】図15に示されたラジアルピストンモータであり、軸線と垂直な平面における断面図である。
【図17】この発明における具体例4であり、ラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータに用いるカムの製造過程を示す断面図である。
【図18】この発明における具体例4であり、ラジアルピストンポンプおよびラジアルピストンモータに用いるカムの製造過程を示す断面図である。
【図19】具体例1ないし具体例3で用いるカムの構造を示す拡大断面図である。
【図20】この発明を用いる車両のパワートレーンの一例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0075】
1…ラジアルピストンポンプ、 3…カム、 5,26…インナレース、 7,28…ピストン、 8,29…転動体、 9…油圧室、 20…カム面、 20A,20B…傾斜カム面、 20C…同軸カム面、 21…スライド機構、 35…ラジアルピストンモータ、 300,301,302…加工対象物、 304…同軸カム面、 305、306…傾斜カム面、 A1…軸線、 B1…中心線、 C1…中心線、 K1,K2…第2の傾斜カム領域、 K3…同軸カム領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中心となる軸線を中心として相対回転可能に、かつ、前記軸線を中心として内外周に配置された外周側部材および内周側部材と、前記外周側部材に設けられ、かつ、前記軸線に沿った方向の平面内の中心線を取り囲むように円筒形状に構成されたカム面と、前記内周側部材に設けられ、かつ、前記カム面に追従して前記軸線を中心とする半径方向に動作可能なピストンと、前記内周側部材に設けられ、かつ、前記外周側部材と内周側部材とが相対回転して前記ピストンが前記軸線を中心とする半径方向に動作した場合に流体が吸入・吐出される流体室とを有するラジアルピストンポンプにおいて、
前記カム面は、前記軸線と前記中心線とが交差している傾斜カム面と、前記軸線と前記中心線とが同軸である同軸カム面とを含み、
前記外周側部材と内周側部材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させて、前記軸線を中心とする半径方向で前記ピストンを前記同軸カム面または傾斜カム面の内側に選択的に位置させることにより、前記半径方向における前記ピストンの動作量を制御し、前記流体室に吸入・吐出される流体の流量を可変とする容量可変機構が設けられていることを特徴とするラジアルピストンポンプ。
【請求項2】
前記傾斜カム面には、前記軸線に沿った方向で異なる位置に配置された第1の傾斜カム面および内周側部材の傾斜カム面が含まれており、前記軸線に沿った方向で、前記第1の傾斜カム面と前記傾斜カム面との間に前記同軸カム面が配置されており、前記軸線に沿った方向の平面内で、前記中心線は、前記第1の傾斜カム面および前記第2の傾斜カム面で共に前記軸線に対して同じ方向に傾斜されているとともに、
前記容量可変機構は、前記外周側部材と内周側部材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させることにより、前記ピストンを前記第1の傾斜カム面と前記同軸カム面と前記第2の傾斜カム面との間で相互に行き来させることが可能であることを特徴とする請求項1に記載のラジアルピストンポンプ。
【請求項3】
前記軸線を中心として回転可能に設けられ、かつ、前記外周側部材と相対回転可能な動力伝達部材と、この動力伝達部材に設けられ、かつ、前記カム面に追従して前記軸線を中心とする半径方向に動作可能な第2ピストンと、前記動力伝達部材に設けられ、かつ、前記流体室と油路を介して接続された第2流体室とを有するラジアルピストンモータが設けられており、
前記ラジアルピストンモータは、前記流体室から前記第2流体室に流体が供給されて前記第2ピストンが半径方向の外側に向けて動作する場合に、前記第2ピストンが前記カム面に押し付けられた場合の反力で、前記動力伝達部材を前記軸線を中心として回転させる向きのトルクが発生する構成と、前記ピストンが半径方向で内側に押し付けられた場合に、前記第2流体室から吐出された流体が前記流体室に供給される構成とを有しており、
前記容量可変機構は、前記外周側部材と内周側部材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させると同時に、前記外周側部材と動力伝達部材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させる構成と、前記半径方向における前記第2ピストンの動作量を制御し、前記第2流体室に吸入される流体の流量を可変とする構成と、を有していることを特徴とする請求項1または2に記載のラジアルピストンポンプ。
【請求項4】
前記可変容量機構は、前記ピストンおよび第2ピストンを前記第1の傾斜カム面に追従して動作させる状態と、前記ピストンを前記同軸カム面または傾斜カム面に追従して動作させ、かつ、第2ピストンを前記第1の傾斜カム面に追従して動作させる状態とを、選択的に切り替え可能な構成を有していることを特徴とする請求項3に記載のラジアルピストンモータ。
【請求項5】
回転中心となる軸線を中心として相対回転可能であり、かつ、軸線を中心として内外周に配置された外周側部材および内周側部材と、前記外周側材に設けられ、かつ、前記軸線に沿った方向の平面内の中心線を取り囲むように円筒形状に構成されたカム面と、前記内周側材に設けられ、かつ、前記カム面に追従して前記軸線を中心とする半径方向に動作可能な第3ピストンと、前記内周側材に設けられ、かつ、流体が供給される第3流体室とを有し、この第3流体室に流体を供給して前記ピストンを半径方向で外側に向けて動作させることにより、前記カム面で発生する反力で前記内周側材を回転させる向きのトルクを生じさせるとともに、前記第3流体室の容量を変更可能なラジアルピストンモータにおいて、
前記カム面には、前記軸線と前記中心線とが交差している傾斜カム面と、前記軸線と前記中心線とが同軸である同軸カム面とが含まれており、
前記外周側材と内周側材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させて、前記第3ピストンを、前記軸線を中心とする半径方向で前記同軸カム面または傾斜カム面の内側に選択的に位置させることにより、前記半径方向における前記第3ピストンの動作量を制御し、前記第3流体室に供給される流体の流量を可変とする容量可変機構が設けられていることを特徴とするラジアルピストンモータ。
【請求項6】
前記傾斜カム面には、前記軸線に沿った方向で異なる位置に配置された第1の傾斜カム面および第2の傾斜カム面が含まれており、前記軸線に沿った方向で、前記第1の傾斜カム面と前記第2の傾斜カム面との間に前記同軸カム面が配置されており、前記軸線に沿った方向の平面内で、前記中心線は、前記第1の傾斜カム面および前記第2の傾斜カム面で共に前記軸線に対して同じ方向に傾斜されているとともに、
前記容量可変機構は、前記外周側材と内周側材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させることにより、前記第3ピストンを前記第1の傾斜カム面と前記同軸カム面と前記第2の傾斜カム面との間で相互に行き来させることが可能であることを特徴とする請求項5に記載のラジアルピストンモータ。
【請求項7】
加工対象物に穴をあけることにより、動作する際の中心となる軸線を中心として半径方向に動作するピストンが接触し、かつ、前記軸線を取り囲む円筒形状のカム面を形成する、カムの製造方法において、
前記軸線に沿った方向に分割された複数の加工対象物を用意する第1工程と、
前記第1工程で用意された第1の加工対象物に、軸線と一致する中心線を中心とする同軸カム面を形成する第2工程と、
前記第1工程で用意された第2の加工対象物に、軸線と交差する中心線を中心とする傾斜カム面を形成する第3工程と、
前記第2工程で同軸カム面が形成された第1の加工対象物と、前記第2工程で傾斜カム面が加工された第2の加工対象物とを接触させて前記同軸カム面と前記傾斜カム面とを接続した後、第1の加工対象物と第2の加工対象物とを相互に固定する第4工程と、
を有することを特徴とするカムの製造方法。
【請求項1】
回転中心となる軸線を中心として相対回転可能に、かつ、前記軸線を中心として内外周に配置された外周側部材および内周側部材と、前記外周側部材に設けられ、かつ、前記軸線に沿った方向の平面内の中心線を取り囲むように円筒形状に構成されたカム面と、前記内周側部材に設けられ、かつ、前記カム面に追従して前記軸線を中心とする半径方向に動作可能なピストンと、前記内周側部材に設けられ、かつ、前記外周側部材と内周側部材とが相対回転して前記ピストンが前記軸線を中心とする半径方向に動作した場合に流体が吸入・吐出される流体室とを有するラジアルピストンポンプにおいて、
前記カム面は、前記軸線と前記中心線とが交差している傾斜カム面と、前記軸線と前記中心線とが同軸である同軸カム面とを含み、
前記外周側部材と内周側部材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させて、前記軸線を中心とする半径方向で前記ピストンを前記同軸カム面または傾斜カム面の内側に選択的に位置させることにより、前記半径方向における前記ピストンの動作量を制御し、前記流体室に吸入・吐出される流体の流量を可変とする容量可変機構が設けられていることを特徴とするラジアルピストンポンプ。
【請求項2】
前記傾斜カム面には、前記軸線に沿った方向で異なる位置に配置された第1の傾斜カム面および内周側部材の傾斜カム面が含まれており、前記軸線に沿った方向で、前記第1の傾斜カム面と前記傾斜カム面との間に前記同軸カム面が配置されており、前記軸線に沿った方向の平面内で、前記中心線は、前記第1の傾斜カム面および前記第2の傾斜カム面で共に前記軸線に対して同じ方向に傾斜されているとともに、
前記容量可変機構は、前記外周側部材と内周側部材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させることにより、前記ピストンを前記第1の傾斜カム面と前記同軸カム面と前記第2の傾斜カム面との間で相互に行き来させることが可能であることを特徴とする請求項1に記載のラジアルピストンポンプ。
【請求項3】
前記軸線を中心として回転可能に設けられ、かつ、前記外周側部材と相対回転可能な動力伝達部材と、この動力伝達部材に設けられ、かつ、前記カム面に追従して前記軸線を中心とする半径方向に動作可能な第2ピストンと、前記動力伝達部材に設けられ、かつ、前記流体室と油路を介して接続された第2流体室とを有するラジアルピストンモータが設けられており、
前記ラジアルピストンモータは、前記流体室から前記第2流体室に流体が供給されて前記第2ピストンが半径方向の外側に向けて動作する場合に、前記第2ピストンが前記カム面に押し付けられた場合の反力で、前記動力伝達部材を前記軸線を中心として回転させる向きのトルクが発生する構成と、前記ピストンが半径方向で内側に押し付けられた場合に、前記第2流体室から吐出された流体が前記流体室に供給される構成とを有しており、
前記容量可変機構は、前記外周側部材と内周側部材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させると同時に、前記外周側部材と動力伝達部材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させる構成と、前記半径方向における前記第2ピストンの動作量を制御し、前記第2流体室に吸入される流体の流量を可変とする構成と、を有していることを特徴とする請求項1または2に記載のラジアルピストンポンプ。
【請求項4】
前記可変容量機構は、前記ピストンおよび第2ピストンを前記第1の傾斜カム面に追従して動作させる状態と、前記ピストンを前記同軸カム面または傾斜カム面に追従して動作させ、かつ、第2ピストンを前記第1の傾斜カム面に追従して動作させる状態とを、選択的に切り替え可能な構成を有していることを特徴とする請求項3に記載のラジアルピストンモータ。
【請求項5】
回転中心となる軸線を中心として相対回転可能であり、かつ、軸線を中心として内外周に配置された外周側部材および内周側部材と、前記外周側材に設けられ、かつ、前記軸線に沿った方向の平面内の中心線を取り囲むように円筒形状に構成されたカム面と、前記内周側材に設けられ、かつ、前記カム面に追従して前記軸線を中心とする半径方向に動作可能な第3ピストンと、前記内周側材に設けられ、かつ、流体が供給される第3流体室とを有し、この第3流体室に流体を供給して前記ピストンを半径方向で外側に向けて動作させることにより、前記カム面で発生する反力で前記内周側材を回転させる向きのトルクを生じさせるとともに、前記第3流体室の容量を変更可能なラジアルピストンモータにおいて、
前記カム面には、前記軸線と前記中心線とが交差している傾斜カム面と、前記軸線と前記中心線とが同軸である同軸カム面とが含まれており、
前記外周側材と内周側材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させて、前記第3ピストンを、前記軸線を中心とする半径方向で前記同軸カム面または傾斜カム面の内側に選択的に位置させることにより、前記半径方向における前記第3ピストンの動作量を制御し、前記第3流体室に供給される流体の流量を可変とする容量可変機構が設けられていることを特徴とするラジアルピストンモータ。
【請求項6】
前記傾斜カム面には、前記軸線に沿った方向で異なる位置に配置された第1の傾斜カム面および第2の傾斜カム面が含まれており、前記軸線に沿った方向で、前記第1の傾斜カム面と前記第2の傾斜カム面との間に前記同軸カム面が配置されており、前記軸線に沿った方向の平面内で、前記中心線は、前記第1の傾斜カム面および前記第2の傾斜カム面で共に前記軸線に対して同じ方向に傾斜されているとともに、
前記容量可変機構は、前記外周側材と内周側材とを前記軸線に沿った方向に相対移動させることにより、前記第3ピストンを前記第1の傾斜カム面と前記同軸カム面と前記第2の傾斜カム面との間で相互に行き来させることが可能であることを特徴とする請求項5に記載のラジアルピストンモータ。
【請求項7】
加工対象物に穴をあけることにより、動作する際の中心となる軸線を中心として半径方向に動作するピストンが接触し、かつ、前記軸線を取り囲む円筒形状のカム面を形成する、カムの製造方法において、
前記軸線に沿った方向に分割された複数の加工対象物を用意する第1工程と、
前記第1工程で用意された第1の加工対象物に、軸線と一致する中心線を中心とする同軸カム面を形成する第2工程と、
前記第1工程で用意された第2の加工対象物に、軸線と交差する中心線を中心とする傾斜カム面を形成する第3工程と、
前記第2工程で同軸カム面が形成された第1の加工対象物と、前記第2工程で傾斜カム面が加工された第2の加工対象物とを接触させて前記同軸カム面と前記傾斜カム面とを接続した後、第1の加工対象物と第2の加工対象物とを相互に固定する第4工程と、
を有することを特徴とするカムの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2009−121421(P2009−121421A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298538(P2007−298538)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]