説明

ランプ点灯装置

【課題】ランプを垂直配置しても、電極の突起が無くなることを抑制することができるランプ点灯装置を提供すること。
【解決手段】放電容器内に、先端に突起が形成された一対の電極が2mm以下の間隔で対向配置され、この放電容器に水銀とハロゲンが封入された高圧放電ランプを垂直配置して点灯させる際、定常点灯周波数の交流電流を供給するとともに周期的に低周波を挿入する。そして、上側電極が陽極動作する時間をtaとし、下側電極が陽極動作する時間をtcとし、ランプに流れる電流の上側電極の陽極比率を(ta/ta+tc)とし、下側電極の体積(mm)をV1、上側電極の体積(mm)をV2、ランプ電流(A)をIとしたとき、上側電極の陽極比率が以下の式を満たすようにしてランプを点灯させる。
1−0.65/(I/V1)≦(ta/(ta+tc))≦0.45/(I/V2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀が0.15mg/mm以上封入された高圧放電ランプを備えたランプ点灯装置に関し、プロジェクタ装置や露光装置に用いられるランプ点灯装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロジェクタ装置や露光装置に用いられる光源装置として、従来から例えば特許文献1〜3に記載のものが知られている。
特許文献1には、プロジェクタ装置に用いられる水銀が0.15mg/mm以上封入された高圧放電ランプの点灯装置について記載されている。
図8(a)は、特許文献1に開示されるランプの構成例を示す図である。放電ランプ800は、石英ガラスからなる放電容器によって形成された概略球形の発光管810を有する。この発光管810の中には一対の電極820,830が2mm以下の間隔で対向配置している。また、発光管810の両端部には封止部812が形成される。この封止部812には、モリブデンよりなる導電用金属箔841,842が気密に埋設される。金属箔841,842の一端には電極820,830の軸部が接合しており、また、金属箔841,842の他端には外部リード851,852が接合して外部の給電装置から給電が行なわれる。
発光管810には、水銀と、希ガスと、ハロゲンガスが封入されている。水銀は、0.2mg/mm以上封入されている。
【0003】
希ガスは、例えば、アルゴンガスが約13kPa封入される。
ハロゲンは、沃素、臭素、塩素などが水銀あるいはその他の金属と化合物の形態で封入される。ハロゲンの封入量は、10−6μmol/mm〜10−2μmol/mmの範囲から選択される。
電極820,830の先端には、ランプの点灯に伴い、突起821,831が形成される。電極先端に突起を形成することにより、突起を起点としたアークが形成され放電ランプの点灯を安定させることができる。
図8(b)は上記特許文献1において、ランプに供給される電流波形の一例を示す図であり、縦軸は電流値、横軸は時間を表す。
同図に示すように、上記放電ランプの電流波形は、定常周波数で駆動される中で、間欠的に当該定常周波数より低い低周波数が挿入される。このように、低周波数点灯を定常周波数点灯の中に周期的に挿入することで、放電ランプの電極に余計な突起が形成されるのを防止し、本来必要となるべき突起を形成させることができる。
【0004】
特許文献2には、水銀が0.15mg/mm以上封入された高圧放電ランプにおいて、投入電力を変更して調光することが記載されている(特許文献2の段落0015の記載参照)。また、特許文献3には、150mg/cm(=0.15mg/mm)を越える水銀が封入された高圧放電ランプを露光用に用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−059790
【特許文献2】特開2002−050202
【特許文献3】特開2006−344383
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記高圧放電ランプは、上記したようにプロジェクタ装置や露光装置に用いられているが、次のような問題点を有している。
(1)特許文献1に記載される突起を有するランプは、プロジェクタ用に用いられており、例えば、特許文献2に記載されるように投入電力を変更することで調光することができる。
このように突起を有するランプを水平配置した状態(ランプの一対の電極を水平に配置)で光量が増加するように調光しても、突起がなくなることは無かった。しかし、垂直配置した状態(ランプの一対の電極を上下方向に配置)で光量が増加するように調光すると、上側の電極の突起が無くなる問題が生じた。これは、垂直配置の場合、発光管内の熱対流を受けて上側電極が加熱されるため、上側電極の突起が無くなってしまったものと推測される。
(2)ランプは、点灯を継続すると、溶けて飛散した電極の部材が発光管の内面に付着するなどして、照度が低下していく。このため、高圧放電ランプを露光用に用いる場合、点灯時間が経過し照度が低下すると、入力電流を増加させて光量を増加させ、点灯初期の照度を維持させる必要がある。
このランプとして、特許文献1や2のように突起を有するランプを用いることが考えられるが、突起を有するランプを水平配置した状態で、点灯時間の経過による入力電流の増加を行なっても、突起がなくなることは無かった。しかし、ランプを垂直配置した状態で、点灯時間の経過による照度低下を防ぐために入力電流の増加を行なうと、上側の電極の突起が無くなる問題が生じた。
これは、上記(1)で説明したのと同様、垂直配置の場合、発光管内の熱対流を受けて上側電極が加熱されるため、上側電極の突起が無くなってしまったものと推測される。
【0007】
以上のように、電極先端に突起を有する高圧放電ランプにおいて、ランプを垂直配置した状態で入力電流を増加させると、上側の電極の突起が無くなるという問題があった。
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、本発明の目的は、ランプを垂直配置しても、電極の突起が無くなることを抑制することができるランプ点灯装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、上記課題を次のように解決する。
(1)放電容器内に、先端に突起が形成された一対の電極が2mm以下の間隔で対向配置され、この放電容器に0.15mg/mm以上の水銀と、10−6μmol/mm〜10−2μmol/mmの範囲のハロゲンが封入された高圧放電ランプを、上記一対の電極が上下方向になるように垂直配置して点灯させる高圧放電ランプの点灯方法において、上側電極が陽極動作する時間をtaとし、下側電極が陽極動作する時間をtcとし、ランプに流れる電流の上側電極の陽極比率を(ta/ta+tc)としたとき、ランプ電流の大きさに対して、上記高圧放電ランプの上側の電極の突起と下側の電極の突起が損失しない値に上記上側電極の陽極比率を設定して、上記ランプを点灯させる。
(2)放電容器内に、先端に突起が形成された一対の電極が2mm以下の間隔で対向配置され、この放電容器に0.15mg/mm以上の水銀と、10−6μmol/mm〜10−2μmol/mmの範囲のハロゲンが封入された高圧放電ランプと、この高圧放電ランプに対して交流電流を供給する給電装置とから構成され、該高圧放電ランプの一対の電極が上下方向になるように垂直配置された状態で点灯されるランプ点灯装置において、上記給電装置は、該ランプへ入力される電流値Iに対して、上側電極の陽極比率[ta/(ta+tc)]が以下の式を満たす交流電流をランプに供給してランプを点灯させる。
1−0.65/(I/V1)≦(ta/(ta+tc))≦0.45/(I/V2)
V1:下側電極の体積(mm
V2:上側電極の体積(mm
I:ランプ電流(A)
ta:上側電極が陽極動作する時間(msec)
tc:下側電極が陽極動作する時間(msec)
(3)放電容器内に、先端に突起が形成された一対の電極が2mm以下の間隔で対向配置され、この放電容器に0.15mg/mm以上の水銀と、10−6μmol/mm〜10−2μmol/mmの範囲のハロゲンが封入された高圧放電ランプと、この高圧放電ランプに対して交流電流を供給する給電装置とから構成され、該高圧放電ランプは、一対の電極が上下方向になるように垂直配置された状態で点灯されるランプ点灯装置において、上記給電装置を制御する制御部と、該ランプに入力される電流値Iを検出する電流検出手段を備える。
そして、上記制御部は、上記電流検出手段により検出された該ランプへ入力される電流値Iに応じて、上記ランプに供給される交流電流の上側電極の陽極比率[ta/(ta+tc)]が、以下の式を満たすように制御する。
1−0.65/(I/V1)≦(ta/(ta+tc))≦0.45/(I/V2)
V1:下側電極の体積(mm
V2:上側電極の体積(mm
I:ランプ電流(A)
ta:上側電極が陽極動作する時間(msec)
tc:下側電極が陽極動作する時間(msec)
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、以下の効果を得ることができる。
(1)上側電極が陽極動作する時間をtaとし、下側電極が陽極動作する時間をtcとし、ランプに流れる電流の上側電極の陽極比率を(ta/ta+tc)としたとき、ランプ電流の大きさに対して、上記高圧放電ランプの上記上側電極陽極比率を、上側の電極の突起と下側の電極の突起が共に損失しない値に設定してランプを点灯させるようにしたので、ランプを垂直配置しても、ランプの上側電極及び下側電極の突起が無くなることを防ぎランプを安定に点灯させることができる。
(2)給電装置を制御する制御部と、該ランプに入力される電流値Iを検出する電流検出手段を設け、ランプ電流Iに対して上側電極陽極比率(ta/ta+tc)を前記式満たすように制御することにより、ランプへの投入電力を変更した場合でも、ランプの上側電極及び下側電極の突起の損失を防ぐことができ、垂直配置されたランプを常に安定に点灯させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例のランプ点灯装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例のランプ点灯装置に具備される高圧放電ランプの説明図である。
【図3】本発明においてランプに供給される電流波形の一例を示す図である。
【図4】本発明の実施例のランプ点灯装置の制御部に設けられるテーブルの一例を示す図である。
【図5】制御部による制御動作の一例を説明する図である。
【図6】実験結果をグラフ上にプロットして示した図である。
【図7】実験結果である具体的な数値を示す図である。
【図8】従来例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の実施例のランプ点灯装置100の装置構成を示すブロック図である。
本発明のランプ点灯装置100は、100Vの商用交流電源が供給される給電装置10と、該給電装置から交流電力が供給される高圧放電ランプ20(以下、単にランプ20ともいう)から構成される。該ランプ20は一対の電極が上下方向(垂直方向)になるように配置されている。
給電装置10は、例えば100Vの商用交流電圧を270Vの直流に変換するDC電源と、この直流電圧を所望の電圧(例えば70V)に変換するDC/DCコンバータ12と、DC/DCコンバータ12が出力する直流電圧を交流に変換するDC/ACインバータ13と、ランプ20の点灯時に高電圧を発生する高圧発生器14を備える。
上記DC/DCコンバータ12は、例えば、チョッパ回路等から構成され、制御部15の出力に応じて上記チョッパ回路のスイッチング素子を所定のオン/オフ比(オン時間とオフ時間の比)で駆動することにより、入力直流電圧をこのオン/オフ比に応じた電圧に降圧する。
上記DC/ACインバータ13は、例えば4個のスイッチング素子からなるフルブリッジ回路などから構成され、制御部15が出力する駆動信号に応じて、上記スイッチング素子を駆動することにより、上記DC/DCコンバータ12が出力する直流電圧を矩形波状の交流電圧に変換して出力する。
上記高圧発生器14は、ランプ点灯時、高電圧をランプ20に印加することにより放電を開始させる。
【0012】
また、上記点灯電源10は、ランプに印加される電圧を検出する電圧検出器16と、ランプ20に流れる電流を検出する電流検出器17とを備え、この検出器16,17で検出された電圧、電流は制御部15に送られる。
制御部15は、例えばマイクロプロセッサ等の処理装置で構成することができ、電流−陽極比率記憶テーブル15aと、演算部15bと、コンバータ駆動部15cと、インバータ駆動部15dを備え、電圧検出器16、電流検出器17により検出されたランプ電圧、ランプ電流に基づき、演算部15bで駆動信号を生成し、コンバータ駆動部15c,インバータ駆動部15dにより上記DC/DCコンバータ12、DC/ACインバータ13を制御する。
すなわち、制御部15は、上記電圧検出器16により検出されたランプ電圧と、ランプに投入される電力の値から演算部15bにおいて必要なランプ電流を求め、ランプ電流がこの値になるようにコンバータ駆動部15cにより上記DC/DCコンバータ12を制御する。
【0013】
また、制御部15は、上記インバータ駆動部15dにより上記DC/ACインバータ13を制御して、ランプ20に所定の点灯周波数の交流電流を供給しランプを点灯させる。ランプ20には、予め設定された定常周波数の交流電流が供給されるとともに、後述する図3に示すように所定の周期で、上記定常周波数より周波数が低い低周波の交流電流が挿入される。
さらに、上記制御部15は、ランプ20の上側電極の突起を損失させないために、また、下側電極の突起を損失させないために、上記DC/ACコンバータ13を制御して、ランプ電流に応じて上側電極が陽極動作する時間tまたは下側電極が陽極動作する時間tを、後述する式を満たすように制御する。
具体的には、制御部15の演算部15bは、例えばランプに流れる電流Iの値に対応する上側電極の陽極比率(ta/(ta+tc))を記憶した電流−陽極比率記憶テーブル15aを参照して、上記電流検出器17で検出された電流Iに対する上側電極の陽極比率を求め、ランプ20に入力される交流電流における上側電極の陽極比率が、上記陽極比率になるようにDC/ACコンバータ13を制御する。
【0014】
図2に本発明の対象となる高圧放電ランプの一例を示す。
高圧放電ランプ20は、前記図8(a)に示したように、石英ガラスからなる放電容器によって形成された概略球形の発光管211を有する。この発光管211の中には一対の電極220,230が2mm以下の間隔で対向配置している。また、発光管211の両端部には封止部212が形成される。この封止部212には、モリブデンよりなる導電用金属箔241が、例えばシュリンクシールにより気密に埋設される。金属箔241の一端には電極220,230の軸部が接合しており、また、金属箔241の他端には外部リード251が接合して外部の給電装置から給電が行なわれる。
発光管211には、水銀と、希ガスと、ハロゲンガスが封入されている。水銀は、必要な可視光波長、例えば、波長360〜780nmの放射光を得るためのもので、0.15mg/mm以上封入されている。この封入量は、温度条件によっても異なるが、点灯時200気圧以上で極めて高い蒸気圧となる。また、水銀をより多く封入することで点灯時の水銀蒸気圧250気圧以上、300気圧以上という高い水銀蒸気圧の放電ランプを作ることができ、水銀蒸気圧が高くなるほどプロジェクタ装置に適した光源を実現できる。
【0015】
希ガスは、例えば、アルゴンガスが約13kPa封入される。その機能は点灯始動性を改善することにある。ハロゲンは、沃素、臭素、塩素などが水銀あるいはその他の金属と化合物の形態で封入される。ハロゲンの封入量は、10−6μmol/mm〜10−2μmol/mmの範囲から選択される。ハロゲンの機能は、いわゆるハロゲンサイクルを利用した長寿命化であるが、本発明の放電ランプのように極めて小型できわめて高い点灯蒸気圧のものは、放電容器の失透防止をいう作用もある。
放電ランプの数値例を示すと、例えば、発光管の最大外径9.5mm、電極間距離1.5mm、発光管内容積75mm、定格電圧70V、定格電力200Wであり交流点灯さ
れる。
また、この種の放電ランプは、小型化するプロジェクタ装置に内蔵されるものであり、全体寸法として極めて小型化が要請される一方で高い発光光量も要求される。このため、発光管内の熱的影響は極めて厳しいものとなる。ランプの管壁負荷値は0.8〜2.0W /mm、具体的には1.5W/mmとなる。
このような高い水銀蒸気圧や管壁負荷値を有することがプロジェクタ装置やオーバー
ヘッドプロジェクターのようなプレゼンテーション用機器に搭載された場合に、演色性の
良い放射光を提供することができる。
【0016】
電極220,230の先端(他方の電極に対向する端部)には、ランプの点灯に伴い、突起221,231が形成される。このような突起221,231が形成される現象は、必ずしも明らかではないが、以下のように推測できる。
すなわち、ランプ点灯中に電極先端付近の高温部から蒸発したタングステン(電極の構成材料)は、発光管内に存在するハロゲンや残留酸素と結合して、例えばハロゲンがBrならWBr、WBr2、WO、WO、WOBr、WOBrなどのタングステン化合物として存在する。これら化合物は電極先端付近の気相中の高温部においては分解してタングステン原子または陽イオンとなる。温度拡散(気相中の高温部=アーク中から、低温部=電極先端近傍に向かうタングステン原子の拡散)、および、アーク中でタングステン原子が電離して陽イオンになり、陰極動作しているとき電界によって陰極方向へ引き寄せられる(=ドリフト)ことによって、電極先端付近における気相中のタングステン蒸気密度が高くなり、電極先端に析出し、突起を形成するものと考えられる。
【0017】
図2(b)は、本発明に係る突起と電極部分を説明するための図である。
本発明における突起221,231は、対向する電極220,230の突起に対向するものであって、電極最大外径よりも外径が小さいものを言う。数値例を挙げると、電極220,230の最大外径L1は1.6mmであり、突起221,231の最大外径L2が0.5mmである。
なお、本発明でいう電極の体積とは、図2(a)に示す部分、すなわち、放電容器内に突出する部分の体積である。
【0018】
次に、本実施例のランプ点灯装置の動作について説明する。
ランプ点灯開始時、給電装置10は、商用電源100Vの交流をDC電源11によって例えば270Vの直流に変換し、DC/DCコンバータ12によって、所望の電圧の例えば70Vに変換する。そして、DC/DCコンバータ12から入力された直流をDC/ACインバータ13によって交流に変換し、高圧発生器14によってランプに高圧をかけて放電を開始させる。ランプ20の放電が開始すると、高圧発生器14を用いずに、DC/ACインバータ13が出力する交流をランプ20に入力して点灯させる。
ランプ20の点灯が開始されると、ランプ20の電極間における電圧が電圧検出器16によって検出され、またランプ20に入力される電流が電流検出器17によって検出される。
電極の体積が例えば4mmのランプを260Wで点灯させるとき、制御部15には、ランプ電圧検出器16により検出されたランプの電極間の電圧値が入力されていることから、制御部15は、ランプ電圧と上記ランプ電力から必要な入力電流Iを演算にて求める。
そして、電流検出器17により検出された電流が、上記演算で求めた電流Iになるように、DC/DCコンバータ12を制御する。
【0019】
また、制御部15は、ランプ20の上側電極の突起を損失させないために、且つ、下側電極の突起を損失させないために、DC/ACインバータ13を制御して、下記(1)及び式の範囲を満たすように、上側電極が陽極動作する時間t及び/又は下側電極が陽極動作する時間tを制御する。
1−0.65/(I/V1)≦(t/(t+t))≦0.45/(I/V2)
……(1)
ここで、V1:下側電極の体積(mm)、V2:上側電極の体積(mm)、I:ランプ電流(A)、ta:上側電極が陽極動作する時間(msec)、tc:下側電極が陽極動作する時間(msec)
【0020】
図3に上記ランプ20に供給される交流電流波形の一例を示す。
図3(a)は上側電極の陽極比率(ta/(ta+tc))が0.5の場合を示し、(b)は上記上側電極の陽極比率が0.3の場合を示す。
ランプ20は、例えば220Wから275Wの間の選択した電力で点灯し、ランプ20点灯時の基本周波数(定常周波数)は、例えば周波数350Hzである。そして、同図に示すように、所定の周期(たとえば0.1秒に一回の周期)で例えば70Hzの低周波が挿入される。また、ランプは3Aから3.7Aの間の選択した電流で点灯する。
制御部15は、DC/ACインバータ13を制御して、ランプに流れる電流Iに応じて、図3に示すように、上側電極の陽極比率(ta/(ta+tc))を制御する。
このため、制御部15には、前述したように、ランプ電流Iに対応する上側電極の陽極比率(ta/ta+tc)を記憶したテーブル15aを備える。
【0021】
図4に上記テーブル15aの一例を示す、該テーブル15aには、同図に示すようにランプ電流Iに対する上側電極陽極比率が記憶されており、制御部15は、該テーブル15aを参照して、電流検出器17により検出され電流値Iに応じた上側電極陽極比率を読み出し、上側電極の陽極比率(ta/(ta+tc))がこの値になるようにDC/ACインバータ13を制御する。なお、図4は、下側電極の体積V1と上側電極の体積V2が共に4mmの場合を示している。
例えばランプ電力が260Wでランプ20を点灯させるときの入力電流Iが3.5Aであるとき、上記図4のテーブルを参照すると、上側電極の陽極比率は0.45なので、制御部15は上側電極の陽極比率は0.45になるように制御する。
【0022】
なお、上述では、制御部15にテーブル15aを設ける場合について説明したが、制御部15の演算部15bで上式(1)を演算し、式(1)満たすように上側電極が陽極動作する時間t及び/又は下側電極が陽極動作する時間tを制御するようにしてもよい。
この場合は、制御部15に、あらかじめ取り付けられたランプ20の上側電極と下側電極の電極体積V1,V2を入力しておき、制御部15は、上記電極体積V1,V2とランプへの入力電流Iから上側電極陽極比率(t/(t+t)の範囲を演算する。
そして、上側電極の陽極比率(t/(t+t)が(1)式の範囲内にあるかを確認し、上側電極の陽極比率が上記範囲内にあれば、そのまま点灯を行い、範囲内になければ上側電極の陽極比率を変更する。
【0023】
具体的には、例えば、制御部15は次のように給電装置10を制御する。
ランプ点灯開始後、プロジェクタ用途における電力を上げる調光を行なうときや、露光装置における点灯時間経過に伴って電力を上げるときに、給電装置10はランプ20への入力電流を上昇させる。
ここで、ランプ20は、後述するように上下の電極において引き寄せられるタングステン(電極の構成材料)の量がなるべく均一になるようにするため、上側電極陽極比率が0.5に近い値になるように点灯させるのが望ましく、点灯開始時には、上側電極陽極比率は0.5に設定される。
上記のように入力電流Iを上昇させると、一対の電極は共に放電による加熱が大きくなるが、特に上側電極が熱対流によって加熱された状態となり、上側電極が損失する可能性がある。
そのため、制御部15は、電流Iが上昇することにより、電流検出器17から入力される電流値が上昇することを受けて、前記テーブル15aを参照して、その電流値が上記(1)式の範囲にあるかの確認を行なう。
電流値が例えば3.5Aから3.7Aになったとき、許容される上側電極陽極比率は、0.44となり、上側電極陽極比率が0.5では許容できなくなる。このため、制御部15は、上側電極の陽極比率が上記値になるように、DC/ACインバータ13を制御してランプを点灯させる。これにより、上側電極の突起が損失することを抑制できる。
【0024】
上記動作を図5により説明する。図5は、ランプ電流Iと上記上側電極の陽極比率の関係を示す図であり、横軸は上側電極の陽極比率、縦軸はランプの入力電流を示し、曲線A、曲線Bは前記(1)式により定まる上側電極陽極比率が取りうる値の範囲の境界値を示す。すなわち、上側電極陽極比率は、図5の曲線A,Bの下側の領域内(ハッチングされていない領域、許容範囲という)にあるように制御される。
ランプの点灯開始時、図5に示すように、上記上側電極陽極比率は例えば0.5に設定される。ランプ点灯開始後、制御部15は点灯時間経過に伴って電力を上昇させ、ランプ20への入力電流を上昇させる。ランプへの電流を上昇させるに際し、制御部15は前記テーブル15aを参照して、電流値に対する上側電極陽極比率(最初は0.5)が、図5の許容範囲内にあるかを確認する。
ランプ20の電流値を上昇させることにより、上側電極陽極比率が0.5のままでは許容範囲内を超えそうになると、制御部15は上側電極陽極比率を変更し、上記許容範囲内に入るようにする。すなわち、図5に示すa点に到達すると、制御部15は上側電極陽極比率を例えば0.5より小さな値に設定する(図5のb点)。そして、さらにランプ20に入力される電流値Iが上昇し、許容範囲内を超えそうになると、すなわち、図5に示すc点に到達すると、制御部15は上側電極陽極比率をさらに小さな値に設定する(図5のd点)。以下同様に、制御部15は、電流値の上昇に従い曲線Aに沿って上側電極陽極比率を変更していく。
図5に示す例では、上側電極陽極比率が0.4近くのとき電流値Iが最大となり、これ以上電流を増加させると許容範囲外となる。
【0025】
ここで、前記したように、本実施例のランプは、上側電極陽極比率ができるだけ0.5に近い値になるように点灯させるのが望ましいが、以下、その理由について簡単に説明する。
ランプ20の電極の先端(他方の電極に対向する端部)には、ランプ20の点灯に伴い、突起が形成される。このような突起が形成される現象は、必ずしも明らかではないが、以下のように推測できる。
すなわち、前記したようにランプ点灯中に電極先端付近の高温部から蒸発したタングステン(電極の構成材料)は、発光管内に存在するハロゲンや残留酸素と結合して、例えばハロゲンがBrならWBr、WBr、WO、WO、WOBr、WOBrなどのタングステン化合物として存在する。これら化合物は電極先端付近の気相中の高温部においては分解してタングステン原子または陽イオンとなる。
【0026】
温度拡散(気相中の高温部=アーク中から、低温部=電極先端近傍に向かうタングステン原子の拡散)、および、アーク中でタングステン原子が電離して陽イオンになり、陰極動作しているとき電界によって陰極方向へ引き寄せられる(=ドリフト)ことによって、電極先端付近における気相中のタングステン蒸気密度が高くなり、電極先端に析出し、突起を形成するものと考えられる。
このとき、上下の電極が陽極として動作する時間を異ならせる、例えば上側陽極時間比率0.4、下側陽極時間比率0.6とすると、つまりは上側陰極時間比率は0.6、下側陰極時間比率は0.4となるので、下側の電極においてタングステン陽イオンが引き寄せられる効果が小さくなる。上側陽極時間比率が前記式(1)の範囲内にあれば突起が消失することは無いが、長期間点灯させた場合に下側電極先端が損耗し電極間距離が広がってしまうことになる。
そこで、上下の電極において引き寄せられるタングステンの量をなるべく均一にするために、突起の潰れない範囲で上側陽極時間比率を0.5に近い値に設定するのが望ましい。
【0027】
前記式(1)は次のような実験により求めた。以下にその実験について説明する。
実験に用いたランプは、以下の条件である。
発光管は、放電容器は、全長60mmの石英ガラスからなり、発光管の最大内径が5mm、発光管の最大外径が11.5mm、発光管の内容積が90mmである。
電極の最大外径が1.4mm、1.5mm、1.6mmの3種類の電極を用いた。電極の大径部の軸方向の長さ(図2のL3)が3.5mm、電極の全長(突起の先端から箔溶接部までの長さ(図2のL4))が8mmであり、電極の放電容器内に突出する部分の体積がそれぞれ約4mm、4.5mm、5mm電極間距離が1.2mmである。発光管内には、0.17mg/mmの水銀、13kPaのアルゴンガス、2.15×10−4μmol/mmの臭素を封入した。
ランプは、220Wから275Wの間の電力から選択した電力で点灯する。点灯時の基本周波数は350Hzで、0.1sに一回の周期で70Hzの低周波が挿入される。電流は3Aから3.7Aの間の電流から選択した電流で点灯する。それぞれの電力で100時間点灯させた後、上下の電極の突起の有無を確認した。この結果を示したのが図7であり、図7の結果をグラフでまとめたのが図6である。
なお、図7(a)はランプに投入する電力と、上側電極陽極比率と、電極体積を変えて、上側電極の先端突起が正常であるか異常であるかを観察した結果を示したものであり、図7(b)は同様に、ランプに投入する電力と、上側電極陽極比率と、電極体積を変えて、下側電極の先端突起が正常であるか異常であるかを観察した結果を示したものである。
【0028】
図6の縦軸は、電極の放電容器内に突出する部分の体積当たりの電流を示しており、横軸は上側電極の陽極比率を示している。なお、上側電極の陽極比率は、上側電極が陽極動作する時間をtとし、下側電極が陽極動作する時間をtとし、t/(t+t)の式から求めており、図6の横軸における数値は、上側電極の陽極動作時間tと下側電極の陽極動作時間tとの和が1のときの上側電極の陽極動作時間の数値を示している。
図6(a)は、図7(a)の結果から、上側電極の突起が損失していない場合は○とし、上側電極の突起が損失した場合は×としている。なお、図6(a)及び図7(a)では、下側電極の突起の損失は観察していない。
図6(b)は、図7(b)の結果から、下側電極の突起が損失していない場合は○とし、下側電極の突起が損失した場合は×としている。なお、図6(b)及び図7(b)では、上側電極の突起の損失は観察していない。
【0029】
図6(a)を見ると、上側電極の陽極比率が増加する場合と電流量が増加する場合とは、上側電極の突起が損失する傾向にある。これは、垂直配置したランプの場合、上側電極が熱対流を受けて加熱されており、上側電極の陽極比率が増加する場合や上側電極の電流量を増加する場合には、上側電極の加熱量が増えるためと推測される。
図6(a)においては、上側電極の突起が損失しない場合○と損失した場合×との間には、境界が存在し、上側電極の突起が損失しない領域として、Aを定数とした次式(2)のような関数が求められる。
(t/(t+t))×(I/V)≦A……(2)
この定数Aを図6(a)から求め、次式(3)が得られる。
(t/(t+t))×(I/V)≦0.45……(3)
【0030】
図6(b)を見ると、上側電極の陽極比率が低下する場合、下側電極の突起が損失する傾向にある。これは、上側電極の陽極比率が低下することは、すなわち下側電極の陽極比率が増加することを意味し、下側電極の陽極比率が増加することに伴って、下側電極が過剰に加熱されることから、下側電極の突起が損失してしまったものと推測される。また、上側電極の陽極比率が0.4以下であるときに、電流量が増加する場合、下側電極が損失する傾向にある。これは、下側で極の陽極比率が増加した状態で、電流量が増加することによって、下側電極が加熱されて、下側電極の突起が損失してしまったものと推測される。
図6(b)においては、下側電極の突起が損失しない場合○と損失する場合×との間には、境界が存在し、下側電極の突起が損失しない領域として、A’を定数とした次式(4)のような関数が求められる。
(t/(t+t))×(I/V)≦A’……(4)
この定数A’を図6(a)から求め、次式(5)が得られる。
(t/(t+t))×(I/V)
=(1−(t/(t+t)))×(I/V)≦0.65……(5)
ここで、(5)式は、(t/(t+t))+(t/(t+t))=1が成り立つことから導かれたものである。
【0031】
上下の電極の体積が等しい場合、(3)式及び(5)から、次の(6)が求められる。
1−0.65/(I/V)≦(t/(t+t))≦0.45/(I/V)…(6)
なお、上記では、上側電極と下側電極の体積が等しいとしたが、下側電極の体積をV1、上側電極の体積をV2とし、上記(6)式の左辺のVをV1とし、右辺のVをV2とすることで、前記(1)式が得られる。
従って、この(1)式を満たす場合、上側電極の突起と下側電極の突起のいずれの突起も損失すること抑制することができる。
【符号の説明】
【0032】
10 給電装置
11 DC電源
12 DC/DCコンバータ
13 DC/ACインバータ
14 高圧発生器
15 制御部
15a テーブル
16 電圧検出器
17 電流検出器
20 高圧放電ランプ
100 ランプ点灯装置
210 放電容器
211 発光管
212 封止部
220 上側電極
221 突起
230 下側電極
231 突起
241,242 金属箔
251,252 外部リード
800 高圧放電ランプ
810 放電容器
811 発光管
812 封止部
820 一方の電極
821 突起
830 他方の電極
831 突起
841,842 金属箔
851,852 外部リード
L1 電極の最大外径
L2 突起の最大外径


【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電容器内に、先端に突起が形成された一対の電極が2mm以下の間隔で対向配置され、この放電容器に0.15mg/mm以上の水銀と、10−6μmol/mm〜10−2μmol/mmの範囲のハロゲンが封入された高圧放電ランプを、上記一対の電極が上下方向になるように垂直配置して点灯させる高圧放電ランプの点灯方法であって、
上側電極が陽極動作する時間をtaとし、下側電極が陽極動作する時間をtcとし、ランプに流れる電流の上側電極の陽極比率を(ta/ta+tc)としたとき、
上記上側電極の陽極比率を、ランプ電流の大きさに対して上記高圧放電ランプの上側の電極の突起と下側の電極の突起が共に損失しない範囲内の値に設定して、上記ランプを点灯させる
ことを特徴とする高圧放電ランプの点灯方法。
【請求項2】
放電容器内に、先端に突起が形成された一対の電極が2mm以下の間隔で対向配置され、この放電容器に0.15mg/mm以上の水銀と、10−6μmol/mm〜10−2μmol/mmの範囲のハロゲンが封入された高圧放電ランプと、
この高圧放電ランプに対して交流電流を供給する給電装置とから構成され、該高圧放電ランプの一対の電極が上下方向になるように垂直配置された状態で点灯されるランプ点灯装置において、
上記給電装置は、該ランプへ入力される電流値Iに対して、上側電極の陽極比率[ta/(ta+tc)]が以下の式を満たす交流電流をランプに供給してランプを点灯させる
ことを特徴とするランプ点灯装置。
1−0.65/(I/V1)≦(ta/(ta+tc))≦0.45/(I/V2)
V1:下側電極の体積(mm
V2:上側電極の体積(mm
I:ランプ電流(A)
ta:上側電極が陽極動作する時間(msec)
tc:下側電極が陽極動作する時間(msec)
【請求項3】
放電容器内に、先端に突起が形成された一対の電極が2mm以下の間隔で対向配置され、この放電容器に0.15mg/mm以上の水銀と、10−6μmol/mm〜10−2μmol/mmの範囲のハロゲンが封入された高圧放電ランプと、
この高圧放電ランプに対して交流電流を供給する給電装置とから構成され、該高圧放電ランプは、一対の電極が上下方向になるように垂直配置された状態で点灯されるランプ点灯装置において、
上記給電装置を制御する制御部と、該ランプに入力される電流値Iを検出する電流検出手段を備え、
該制御部は、上記電流検出手段により検出された該ランプへ入力される電流値Iに応じて、上記ランプに供給される交流電流の上側電極の陽極比率[ta/(ta+tc)]が、以下の式を満たすように制御する
ことを特徴とするランプ点灯装置。
1−0.65/(I/V1)≦(ta/(ta+tc))≦0.45/(I/V2)
V1:下側電極の体積(mm
V2:上側電極の体積(mm
I:ランプ電流(A)
ta:上側電極が陽極動作する時間(msec)
tc:下側電極が陽極動作する時間(msec)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−181196(P2011−181196A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41446(P2010−41446)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】