説明

リステリア菌検出用のプライマーセット

【課題】特に高い病原性を有するListeria monocytogenesの菌株を特異的かつ迅速に検出、同定する方法を提供する。
【解決手段】Listeria monocytogenesが有するhlyA遺伝子、inlA遺伝子、clpC遺伝子、plcA遺伝子の一塩基多型によって分類し、各遺伝子内の一塩基多型に特異的な一塩基置換若しくは分類可能に特定された組み合わせからなる複数の一塩基多型を検出することにより、臨床株で見出された菌株と同じグループに属する病原性の高い菌株を検出する。このために、例えば、特定の塩基配列を有するプライマーと特定の塩基配列を有するプライマーとからなるプライマーセットを用いてPCR法を適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リステリア モノサイトゲネス菌(Listeria monocytogenes)の検出に用いられるプライマーセットに関する。
【背景技術】
【0002】
リステリア菌は、動物や土壌などの環境中に広く常在しており、食肉や乳製品を中心とする様々な食品から高頻度に検出される。ところが、リステリア菌は低温増殖能や高食塩濃度耐性をもつため(五十君ら、2003)、食品の一次汚染はもちろん製造工程での二次汚染を防ぐことも困難である。食品が高濃度で本菌に汚染されていると、食品の低温保存中に増殖し、食中毒を引き起こす恐れがある。
【0003】
分類学的にリステリア属には6菌種が知られているが、リステリア症の原因菌とされているのはリステリア モノサイトゲネス菌(L. monocytogenes)の1菌種だけである。本菌に感染した場合、成人は抵抗力が強いため、無症状感染や保菌状態となるが、新生児、高齢者及び免疫不全者などのハイリスク群では多くのリステリア症の発症がみられ、重症化した場合の致命率は30%と極めて高く、子宮内で胎児が感染すると死産や早産の原因となることが知られている(五十君ら、2003、2004)。
【0004】
リステリア菌に感染した場合、発症までに長時間を要し、個人差があるため(五十君、2004)、頻発して起こるリステリア症が同一の食品を介して発生した集団食中毒であるかを判断することは困難である。また、菌株によっては血清型による分類ができない場合があり、血清型による分類のみでは病原性の有無の判定や追跡調査が十分にできない。このような観点からも詳細な分類が必要である。
【0005】
リステリア菌の同定・分類方法して、例えばRFLPによる分類(非特許文献1参照)やPFGEによる分類(非特許文献2参照)が提案されているが、実験操作に熟練を必要とし、操作が煩雑で長時間を要する。また、簡易迅速検出法として、hlyA遺伝子をPCRにより増幅するためのプライマーセットも報告されているが(非特許文献3)、対象となる内部塩基配列を有しない菌株には無効であり、100%のL. monocytogenesを検出できるわけでは無いとの報告がある(非特許文献4)。これらの方法以外にも、PCRによりL. monocytogenesを検出したり、血清型を判定したりする試みが数々行われているが(特許文献1,2、非特許文献5,6、7など)、病原性の高い菌株との関連性については把握されていない。
【0006】
また、inlA遺伝子を増幅する方法として、タカラバイオ株式会社やABI(Applied Biosystems)社からそれぞれ異なる内部塩基配列を標的とした遺伝子増幅用のキットが販売されている。しかし、リステリア菌以外の類縁菌をも検出される可能性が高かった。
【0007】
このような状況下において、本願発明者らはL. monocytogenesを迅速に検出するとともに、病原性の有無を含めて分類同定する方法を提案し、特願2006−144723号として特許出願を行っている(特許文献3、非特許文献8)。この方法は、hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子においてそれぞれ見いだされる特徴的な一塩基置換(一塩基多型:SNP)を利用して分類する方法である(multi locus sequence typing(MLST)法)。
【0008】
MLST法では、hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子においてそれぞれ見いだされる特徴的な一塩基置換の類型によってグループ化される。これまでのところ、hlyA遺伝子における類型はグループ1〜グループ9の9つのグループに(特許文献3、図1参照)、clpC遺伝子における類型はグループ1〜グループ14の14のグループに(同文献、図2参照)、inlA遺伝子における類型はグループ1〜グループ17の17のグループに(同文献、図3参照)、plcA遺伝子における類型はグループ1〜21に分類される(同文献、図4参照)ことが明らかにされている。
【0009】
これらのうちで、病原性が高いと推定される臨床株(臨床から分離されたL. monocytogenes)は、特許文献1の表1に示されているように、グループA〜Lの12のグループに分類される(同文献表1参照)。従って、検出されたリステリア菌におけるhlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子における特徴的な一塩基置換の類型(グループ)が、同文献の表1に示されたグループA〜Lに一致すれば、当該検出菌は病原性が高いと類推できる。また、このとき、従来から用いられてきた血清型による分類を加味して判断することも可能であるが、血清型による分類を加味した場合にも、病原性が高いと類推可能な菌株は、前記グループA〜Lの12グループに分類される(同文献、表1参照)。
【0010】
すなわち、上記4つの遺伝子における特徴的な一塩基置換(SNP)を検出して、当該一塩基置換による類型を調べることにより、検出されたリステリア菌の病原性を推定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−233699号公報
【特許文献2】特開2004−154141号公報
【特許文献3】特開2007−312660号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Fukiko Ueda et al., Comparison of Genomic Structures in the Serovar 1/2a Listeria monocytogenes Isolated from Meats and Listeriosis Patients in Japan, Jpn. J. Infect. Dis., 58(2005), 289-293
【非特許文献2】Marc Yde, and Annie Genicot,Use of PFGE to characterize clonal relationships among Belgian clinical isolates of Listeria monocytogenes, J Med Microbiol, 53 (2004), 399-402
【非特許文献3】Lehner, et al., A rapid differentiation of Listeria monocytogenes by use of PCR-SSCP in the listeriolysin O (hlyA) locus, J. Microbiol. Med 34(1999), 165-171
【非特許文献4】五十君静信,山本茂貴,牧野壮一ら、2003年 食品由来リステリア菌の健康に関する研究 平成14年度 総括・分担研究報告書
【非特許文献5】Rodriguez-Lazaro, D. et al., Simultaneous quantitive detection of Listeria spp. and Listeria monocytogenes using a duplex real-time PCR-based assay, FEMS. Microbiol. Lett., 233(2004), 257-267
【非特許文献6】Thomas, E. J. G et al., Sensitive and Specific Detection of Listeria monocytogenes in Milk and Ground Beef with the Polymerase Chain Reaction, Appl. Environ. Microbiol., 57(1991), 2576-2580
【非特許文献7】Monica K. Borucki and Douglas R. Call, Listeria monocytogenes Serotype Identification by PCR, Journal of Clinical Microbiology, Vol. 41, No. 12(2003), 5537-5540
【非特許文献8】Ken-ichi Honjoh, Kumiko Fujihara et al., Subtyping of Listera monocytogenes Based on Nucleotide Polymorphism in the clpC, inlA, hlyA, and plcA Genes and Rapid Identification of L. monocytogenes Genetically Similar to Clinical Isolates, Food Sci. Technolo. Res., 14(6), 557-564, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本願発明者らは、引き続き、臨床由来又は食品・環境由来のリステリア菌について追加調査を行ったところ、hlyA遺伝子の塩基配列をもとに見いだされた特定の塩基配列を有するプライマーを組み合わせることによっても、リステリア菌のみを特異的に検出できることを見いだし、本願発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明においては、配列番号1に示す塩基配列を有するプライマーと配列番号12〜16及び18〜20に示す何れかの塩基配列を有するプライマーとからなるプライマーセット(表8におけるプライマーセットNo.1〜5及び7〜9の何れか)、若しくは配列番号11に示す塩基配列を有するプライマーと配列番号4に示す塩基配列を有するプライマーとからなるプライマーセット(表8におけるプライマーセットNo.12)を用いてPCR法(PCT−RT)法を適用することにしている。
【0015】
これらのプライマーは、それぞれ試験した全てのL. monocytogenesで保存され、類縁菌であるL. ivanovii 及び L. seeligeri ではSNPの多い領域の塩基配列から見いだされたものである。配列番号1で示される塩基配列を有するプライマーをforward側のプライマーとして用いる際には、配列番号12〜16及び18〜20に示す何れかの塩基配列を有するプライマーがreverse側のプライマーとして用いられる。配列番号11で示される塩基配列を有するプライマーをreverse側のプライマーとして用いる際には、配列番号4に示される塩基配列を有するプライマーがforward側のプライマーとして用いられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、L. monocytogenesを特異的かつ迅速に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】hlyA遺伝子内の塩基配列に基づくL. monocytogenesの分類系統樹を示す図である。
【図2】新たに分類系統樹に追加された菌グループにおけるhlyA遺伝子の1126−1527(402bp)塩基部分のCLUSTAL W multiple sequence alignmentを示す図である。
【図3】inlA遺伝子内の塩基配列に基づくL. monocytogenesの分類系統樹を示す図である。
【図4】新たに分類系統樹に追加された菌グループにおけるinlA遺伝子の1192−1799(608bp)塩基部分のCLUSTAL W multiple sequence alignmentの一部を示す図である。
【図5】図4の続図である。
【図6】clpC遺伝子内の塩基配列に基づくL. monocytogenesの分類系統樹を示す図である。
【図7】新たに分類系統樹に追加された菌グループにおけるclpC遺伝子の489−1124(636bp)塩基部分のCLUSTAL W multiple sequence alignmentを示す図である。
【図8】plcA遺伝子内の塩基配列に基づくL. monocytogenesの分類系統樹を示す図である。
【図9】新たに分類系統樹に追加された菌グループにおけるplcA遺伝子の153−865(713bp)塩基部分のCLUSTAL W multiple sequence alignmentの一部を示す図である。
【図10】図9の続図である。
【図11】MLST57グループの分類系統樹を示す図である。
【図12】(a)(b)はプライマーセット7を用いたL. monocytogenes(一部)の検出における蛍光強度の増加曲線であって、(a)は積分値、同図(b)は微分値を示す。(c)はRT−PCR終了後の電気泳動図である。(c)の下部に記載された数字は菌株No.である。
【図13】(a)(b)はプライマーセット7を用いたL. monocytogenes(残部)の検出における蛍光強度の増加曲線であって、(a)は積分値、同図(b)は微分値を示す。(c)はRT−PCR終了後の電気泳動図である。(c)の下部に記載された数字は菌株No.である。
【図14】(a)(b)はプライマーセット7を用いたL. monocytogenes以外の菌の検出における蛍光強度の増加曲線であって、(a)は積分値、同図(b)は微分値を示す。(c)はRT−PCR終了後の電気泳動図である。(c)の下部に記載された数字は菌株No.である。
【図15】(a)はタカラバイオ社のキットを用いたL. monocytogenes(一部)の検出における蛍光強度の増加曲線(積分値)、(b)はRT−PCR終了後の電気泳動図である。(b)の下部に記載された数字は菌株No.である。
【図16】(a)はタカラバイオ社のキットを用いたL. monocytogenes(一部)の検出における蛍光強度の増加曲線(積分値)、(b)(c)はRT−PCR終了後の電気泳動図である。(b)(c)の下部に記載された数字は菌株No.である。
【図17】(a)はタカラバイオ社のキットを用いたL. monocytogenes以外の菌の検出における蛍光強度の増加曲線(積分値)、(b)はRT−PCR終了後の電気泳動図である。(b)の下部に記載された数字は菌株No.である。
【図18】(a)はABI社のキットを用いたL. monocytogenes(一部)の検出における蛍光強度の増加曲線(積分値)、同図(c)はRT−PCR終了後の電気泳動図である。(b)の下部に記載された数字は菌株No.である。
【図19】(a)はABI社のキットを用いたL. monocytogenes(残部)の検出における蛍光強度の増加曲線(積分値)、(b)(c)はRT−PCR終了後の電気泳動図である。(b)(c)の下部に記載された数字は菌株No.である。
【図20】(a)はABI社のキットを用いたL. monocytogenes以外の菌の検出における蛍光強度の増加曲線(積分値)、同図(b)はRT−PCR終了後の電気泳動図である。(b)の下部に記載された数字は菌株No.である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、L. monocytogenes(以下、「リステリア菌」とのみ表記する場合がある)を検出する際に、リステリア菌のhlyA遺伝子における特徴的な一塩基変異部分を増幅させるために、配列番号1に示す塩基配列を有するプライマーと配列番号12〜16及び18〜20に示す何れかの塩基配列を有するプライマーとからなるプライマーセット、若しくは配列番号11に示す塩基配列を有するプライマーと配列番号4に示す塩基配列を有するプライマーとからなるプライマーセットを用いることに特徴がある。つまり、本発明のプライマーセットを用いてリステリア菌のhlyA遺伝子を増幅させる点が特許文献3に記載された方法と異なるものの、検出されたリステリア菌の分類・同定方法は、当該特許文献における考え方とは何ら異なるものではない。従って、本発明のプライマーセットを用いて増幅されたhlyA遺伝子をはじめ、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子における特徴的な一塩基置換の類型化(グループ化)は、特開2007−312660号公報に記載された方法と同一であり、本発明において、グループ化の説明部分は特開2007−312660号の記載が援用される。
【0019】
本発明においてはhlyA遺伝子の増幅に、配列番号1に示す塩基配列を有するプライマー(forward)と配列番号12〜16及び18〜20に示す何れかの塩基配列を有するプライマー(reverse)とからなるプライマーセット(プライマーセットNo.1〜5及び7〜9)若しくは配列番号11に示す塩基配列を有するプライマー(reverse)と配列番号4に示す塩基配列を有するプライマー(forward)とからなるプライマーセット(プライマーセットNo.12)の何れかが用いられる。この中でも、プライマーセット7に示される配列番号1で示される塩基配列を有するプライマー(forward)と配列番号8で示される塩基配列を有するプライマー(reverse)のプライマーセットが好ましく用いられる。食中毒の原因菌とされる大腸菌O157を検出せず、広範囲のDNA濃度(0.0001〜100ng/ml)で検出することができる。
【0020】
次に下記の実施例に基づいて本発明について詳細に説明する。
【実施例1】
【0021】
〔リステリア菌の分類〕
新たに臨床的に分離されたリステリア菌(臨床株)及び食品・環境から分離されたリステリア菌(食品・環境由来株)90株について、下記方法に基づき、hlyA遺伝子、clpC遺伝子、inlA遺伝子、plcA遺伝子の各一塩基置換についてグループ化を行った。
【0022】
L. monocytogenes hlyA遺伝子部分塩基配列の決定)
被検菌株をTSB 5mlで37℃、一晩静置培養し、培養液1mlを5,100×gで10分間遠心分離して集菌後、DNA Tissue Kit(キアゲン社)を用い、付属のプロトコールに従ってゲノムDNAの調製を行った。
【0023】
hlyA遺伝子の内部塩基配列を増幅するためのPCRに用いるプライマーとして、既に全塩基配列が決定されているL. monocytogenes EDG-e株(血清型1/2a)およびF2365(血清型4b)において共通性の高い塩基配列部分から作成されたF2−R2プライマーセット(F2:AAATCATCGACGGCAACCT(配列番号1)、R2:ATTTCGGATAAAGCGTGGTG(配列番号11))を用いた。このプライマーセットは、hlyA遺伝子の1070−1558塩基対を増幅するためのものである。なお、F2プライマー及びR2プライマーはそれぞれ特許文献3において用いられたプライマーと同じである。増幅は、熱変性(95℃、1min)の後、95℃、30sec→55℃、30sec→72℃、60secの反応を35サイクル行った。PCR産物のサイズはアガロースゲル電気泳動により確認した後,市販のPCR産物精製キットで精製し、その塩基配列は株式会社バイオマトリックス研究所(千葉県流山市)に依頼して決定した。
【0024】
(hlyA遺伝子の類型化)
塩基配列の決定の結果、hlyA遺伝子におけるグループは、特許文献3に開示された9グループから5グループ増えて計14グループに類型化された。表1には、hlyA遺伝子におけるグループ分けを示した。この表1には、特許文献3に示された菌株126株(菌株番号40、41、43、72、116は欠番)と、今回新たにグループ化された菌株66株(菌株番号132〜197)の計192株すべてについて、改めてグループ化した結果が示されている。その系統樹(Neighbor joining 法による)を図1に示した。また、追加された5グループ(グループ10〜14)のSNPを含む配列部分(1126−1527bp)を図2及び配列番号21〜25(それぞれグループ10〜14に対応)に示した。
【0025】
【表1】

【0026】
hlyA遺伝子と同様に特許文献3に記載された方法に準じて、inlA遺伝子、clpC遺伝子、plcA遺伝子の各一塩基置換についてもグループ化を行った。その結果をそれぞれ表2〜表4に示した。この結果、inlA遺伝子ではこれまでの17グループから27グループに、clpC遺伝子ではこれまでの14グループから17グループに、plcA遺伝子ではこれまでの21グループから30グループにそれぞれ増加した。改めてグループ化されたinlA遺伝子の系統樹が図3に示され、inlA遺伝子において追加された11グループのSNPを含む配列部分(1192−1799bp)が図4〜5及び配列番号26〜35(それぞれグループ18〜27に対応)に示された。改めてグループ化されたclpC遺伝子の系統樹が図6に示され、clpC遺伝子において追加された3グループのSNPを含む配列部分(489−1124bp)が図7及び配列番号36〜38(それぞれグループ15〜17に対応)に示された。また、改めてグループ化されたplcA遺伝子における系統樹が図8に示され、plcA遺伝子において追加された9グループのSNPを含む塩基配列(153−865bp)が図9〜10及び配列番号39〜47(それぞれグループ22〜30に対応)に示された。
【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
これらの結果から、これまでに分離された臨床株、食品・環境株計192株のMLSTは、表5及び図11に示す計57グループに分類された。また、各菌株の属性が表6及び表7に示された。これらの菌株について血清型による分類から見ると、血清型1/2aでは食品・環境株は17の群に、臨床株は8つの群に分類された。これらのうち食品・環境株は特定のグループに集中することはなかったが、臨床株は11株中4株がMLSTグループ45にまとまって分類され、当該MLSTグループ45が比較的病原性が高いと類推される。一方、血清型1/2bでは食品・環境株は11の群に、臨床株は5つの群に分類された。これらのうち、食品・環境株はMLSTグループ4及び13にまとまって分類されたが、臨床株は特定のグループに集中して分類されることはなかった。血清型4bでは食品・環境株、臨床株共にMLSTグループ7群に分類され、そのほとんどがMLSTグループ22及び24に分類された。
【0031】
従って、調査対象となる検体から検出されたリステリア菌が、MLSTグループ22、24、45に属すると判断されるならば当該リステリア菌は病原性が高いものと類推される。一方、MLSTグループ4及び13に属すると判断されるならば当該リステリア菌が病原性である可能性が低いものと類推される。
【0032】
【表5】

【0033】
【表6】

【0034】
【表7】

【0035】
〔新たなhlyA遺伝子検出用のプライマーセットの設計〕
次に、上記で決定された塩基配列をもとに試験を行った全てのリステリア菌で保存され、リステリア菌の類縁菌であるL. ivanovii 及び L. seeligeriでSNPの多い領域の塩基配列から数種のプライマーを作製し、その検出精度の検討を行った。ここでは、遺伝子型グループ間で最もSNPが少なく、プライマーの塩基配列を決定しやすいと考えられたhlyA遺伝子の塩基配列を基にプライマーセットを設計した。そして、表8に示す18通りの組み合わせでPCR反応を行い,最も検出感度および特異性の高いプライマーセットを選択した。用いられたプライマーの塩基配列を表9(配列番号1〜20)に示す。
【0036】
【表8】

【0037】
【表9】

【0038】
(供試菌と鋳型DNA濃度)
供試菌としてL. monocytogenes No.4株を選択した。鋳型ゲノムDNA濃度を100ng/μl、10ng/μl、1.0ng/μl、0.1ng/μl、0.01ng/μl、0.001ng/μl,、0.0001ng/μlとした。また、大腸菌O157のゲノムDNA(45ng/μl)をNegative controlに用いた。
【0039】
(リアルタイムPCRの条件)
反応にはSYBR Premix Ex Taq(タカラバイオ社)を用いた。Mx3000P(登録商標) Real-Time PCR System(STRATAGENE社)を用いて以下の条件でリアルタイムPCR(RT−PCR)を行った。
【0040】
<反応液組成>
2×SYBR Premix Ex Taq 5.0μl
Forward primer(20mM) 0.1μl
Reverse primer(20mM) 0.1μl
50×Rox Reference Dye II 0.2μl
Template 0.4μl
水 4.2μl
Total 10.0μl
<反応条件> サイクル数:35サイクル
95℃で10min、
95℃ 5sec、57℃ 15sec、72℃ 10secを1サイクルとした。
【0041】
各プライマーセットによるリアルタイムPCR検出結果を表10に示す。表10は各鋳型濃度ごとにCt値の低い順(検出感度の高い順)にプライマーセットの番号を上から下に並べたものである。プライマーセット6,10,11及び13〜18ではNegative controlである大腸菌O157(鋳型DNA濃度45ng/ml)でも強い増幅が認められたため、これらの結果は表10には記載されていない。この試験では、プライマーセット7が各鋳型濃度で平均的に検出感度が高いことが示された。このプライマーセット7によって、L. monocytogenesを特異的かつ高感度に検出できると言える。もっとも、プライマーセット7以外の各プライマーセット(プライマーセット1〜5,8,9,12)においても、同様にhlyA遺伝子増幅用のプライマーセットとして用いることができる。これらのプライマーセットも、プライマーセット7と同様に大腸菌O157を検出せず、L. monocytogenesを特異的に検出できると言える。
【0042】
【表10】

【0043】
L. monocytogenes検出用市販PCRキットとの比較〕
次に、上記プライマーセット7と市販されているL. monocytogenes検出用キットとの検出比較を行った。供試菌には、今回分類されたMLST57グループのうちから遺伝子型の異なる49グループについて、各グループから任意に取り出した代表株各1株と、L. monocytogenes以外のリステリア属細菌とリボプリンターシステムで同定されたリステリア属細菌12株の菌株を用いてリアルタイムPCRを行った。鋳型としてDNA濃度が5pg/μlのものをそれぞれ1μl用いた。市販品にはタカラバイオ社CycleavePCR(登録商標) L. monocytogenes (inlA gene) Detection KitおよびABI社遺伝子増幅キットTaqMan(登録商標) L. monocytogenes Detection Kitを用いた。各キットによる検出は,各附属の方法に従って実施した。鋳型としては同様にDNA濃度5pg/μlのものをそれぞれ1μl用いた。Mx3000P(登録商標) Real-Time PCR System (STRATAGENE社) を用いてリアルタイムPCRを行ない、得られた各菌株毎のCt値を表11,12に示した。表11はL. monocytogenesの結果を、表12はそれ以外の菌株の結果を示す。また、プライマーセット7を用いた検出における蛍光強度の増加曲線及び反応終了後の電気泳動写真を図12〜14に示す。同様にタカラバイオ社のキットによる結果を図15〜17に,ABI社のキットによる結果を図18〜20に示す。なお、電気泳動では、図15〜17では4%のゲルが使用され、その他では1.5%のゲルが使用された。
【0044】
【表11】

【0045】
【表12】

【0046】
本発明のプライマーセット及びタカラバイオ社及びABI社キットでも全てのL. monocytogenes株を検出できた。しかしながら、新たに設計されたプライマーセット7を用いた場合には、L. monocytogenes以外のリステリア属細菌では2株のL. innocuaで増幅が認められたが、他のL. monocytogenes以外のリステリア属細菌(LIS30,LIS31,LIS33,LIS34,LM40,LM41,LM43)では目的の産物は増幅されなかった(図14参照)。これに対してタカラバイオ社のキットでは、L. monocytogenes以外のリステリア属細菌9株でバンドの増幅が認められたが、他のLIS33,LIS35,LM40株では増幅が認められなかった(図17参照)。ABI社のキットでは、L. monocytogenes以外のリステリア属細菌では1株(LIS30)のL. innocuaではCt値が41.48と40サイクル以上であったが、他のL. monocytogenes以外のリステリア属細菌では40サイクル以前に蛍光強度の立ち上がりが認められた。なお、ABI社のキットでは、IPCと目的遺伝子の増幅産物のサイズがほとんど同じ為バンドが分離できず、L. monocytogenes以外の全ての株で増幅が認められた(図20参照)。
【0047】
これらの結果から、プライマーセット7では、全てのL. monocytogenesを検出でき、更にL. monocytogenes以外のリステリア属細菌を検出してしまう率は、市販のキットよりもかなり低く、L. monocytogenesに対する特異性が高いことが示された。
【0048】
以上のように、本発明のプライマーセット、特に配列番号1に示される塩基配列を有するプライマーと配列番号18に示される塩基配列を有するプライマーセットを用いて、RT−PCRを行うことにより、L. monocytogenesのみを比較的高い精度で検出することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リステリア モノサイトゲネス菌(Listeria monocytogenes)のhlyA遺伝子内の特定の一塩基置換を挟む配列領域を増幅する核酸増幅用プライマーセットであって、
配列番号1に示す塩基配列を有するプライマーと配列番号12〜16及び18〜20に示す何れかの塩基配列を有するプライマーとからなるプライマーセット、若しくは配列番号11に示す塩基配列を有するプライマーと配列番号4に示す塩基配列を有するプライマーとからなるプライマーセット。
【請求項2】
リステリア モノサイトゲネス菌(Listeria monocytogenes)のhlyA遺伝子内の特定の一塩基置換を挟む配列領域を増幅する核酸増幅用プライマーセットであって、
配列番号1で示される塩基配列を有するプライマーと配列番号18で示される塩基配列を有するプライマーとからなるプライマーセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−263873(P2010−263873A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120420(P2009−120420)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】