説明

リチウムイオン二次電池

【課題】 電極体の内周部の面圧が極端に低い値となって、電極体に巻きゆるみが発生するのを防止した電池を提供する。
【解決手段】 リチウムイオン二次電池1は、いずれも帯状の正極板40と負極板50とを、帯状のセパレータ60を介して軸線AXの周りに捲回してなる円筒状の電極体30を備え、電極体の径方向内側に配置され、電極体の径方向内側から径方向外側に向けて、電極体の内周面31を弾性的に押圧する内側部材10を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状の捲回型電極体を備えるリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド自動車、電気自動車などの車両や、ノート型パソコン、ビデオカムコーダなどのポータブル電子機器の駆動用電源に、充放電可能なリチウムイオン二次電池(以下、単に電池ともいう)が利用されている。このような電池として、いずれも帯状の正極板と負極板とを、帯状のセパレータを介して軸線の周りに捲回してなる円筒状の電極体を備える電池がある。
この電池の電極体は、正極板等を芯材の周りに張力をかけつつ巻き付けて製造される。なお、一般に、芯材の周りに巻き付けた部材の面圧の分布は、芯材に近い径方向内側から外側に向かって徐々に小さくなる。これは、径方向内側ほど、捲回による巻き締まりがより強く生じるためであると考えられる。図1において破線で示す、初期充電前の電池の電極体について調査した面圧の径方向の分布も、ほぼ径方向内側から外側に向かって面圧が低下しており、上述の説明と適合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−47462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者らの研究によれば、正極板、負極板及びセパレータを円筒状に捲回した電極体を有する電池において、電極体における面圧の径方向分布は、電極体の充電状態によって変化することが判ってきた。例えば、図1に実線で示す、満充電の電池の電極体では、そのうち、最内周付近(最内周及び最内周から数えて径方向外側に数周程度、以下、内周部ともいう)の面圧、及び、最外周付近(最外周及び最外周から数えて径方向内側に数周程度、以下、外周部ともいう)の面圧がそれぞれ、内周部と外周部との間の中間部の面圧に比べて大きく低下した分布となる。
【0005】
その理由は以下であると考えられる。電池を充電すると、負極板の負極活物質層の厚みが増えるため、電極体は全体に面圧が上がると共に拡径する。但し、満充電にされた電極体のうち、内周部は他の部分によって径方向内側から径方向外側に向けて押圧されることがない。一方、内周部より径方向外側の部位は拡径する。このため、内周部では面圧が逆に低下すると考えられる。
一方、電極体のうち外周部は、この外周部自身を径方向外側から内側に向けて押圧する部材が径方向外側に存在しないため、もともと面圧が低い。電池が満充電であってもこの点は変わらないので、この外周部の面圧は低いままとなる。
【0006】
特に、図1において、電極体の内周部について見ると、満充電の電極体における内周部の面圧は、初期充電前の電極体(或いは、この初期充電前の状態に近い、充電状態(SOC)の十分低い(例えば、SOC0%程度の)電池の電極体)の面圧よりも低下することが判る。さらに、満充電の電極体の内周部における面圧の値が、電極体に捲回ゆるみを生じない面圧の下限値V1を下回ることがある。このため、この電池について充放電を繰り返すと、電極体の内周部の面圧が下限値V1を何度も下回り、その内周部から電極体の捲回がゆるんでしまう虞がある。なお、図1に示すように、充電状態の十分低い電池において、電極体のうち中間部が下限値V1を下回ることがあるが、この中間部付近で面圧分布の変化が小さいため、そこから電極体の捲回ゆるみが生じにくい。
【0007】
ところで、電池の面圧について考慮した電池に関する技術として、特許文献1が存在するが、この特許文献1は、負極板或いは正極板を巻きつけることによって生じる段差による面圧の違いを問題とするものであり、この問題点もそれに対する解決手法も、前述した本件の課題とは関係がなく、本件の課題を解決することはできない。
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、電極体の内周部の面圧が極端に低い値となって、電極体に巻きゆるみが発生するのを防止したリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、いずれも帯状の正極板と負極板とを、帯状のセパレータを介して軸線の周りに捲回してなる円筒状の電極体を備えるリチウムイオン二次電池であって、上記電極体の径方向内側に配置され、上記電極体の上記径方向内側から上記径方向外側に向けて、上記電極体の内周面を弾性的に押圧する内側部材を備えるリチウムイオン二次電池である。
【0009】
上述の電池では、電極体の径方向内側から径方向外側に向けて、内側部材が電極体の内周面を弾性的に押圧するため、充電した電極体において、内周部の面圧の大きさが極端に低くなる(このため、内周部の面圧の値が前述した下限値V1を下回る)のを抑制することができる。これにより、充放電を繰り返しても電極体の巻きゆるみの発生を防止した電池となる。
【0010】
なお、内側部材の形状としては、中実の円柱形状や、中空の円筒形状や、平板を丸めて1周以上捲回した円筒螺旋形状や、同じく平板を1周に満たないで丸めて横断面をC字状とした湾曲形状が挙げられる。
また、内側部材としては、例えば、形状記憶合金や形状記憶樹脂からなる部材や、電解液を吸収して膨潤する、高吸収性ポリマーやセルローススポンジを含む部材が挙げられる。
【0011】
なお、内側部材を、例えば形状記憶合金(又は形状記憶樹脂)で構成する場合について説明する。形状記憶合金(又は形状記憶樹脂)は、形状記憶温度と、この形状記憶温度よりも低い温度である形状回復温度とを有し、形状記憶合金(又は形状記憶樹脂)の温度が形状記憶温度以上では、そのときの形態を記憶し、形状記憶合金(又は形状記憶樹脂)の温度が形状記憶温度未満、形状回復温度以上の温度範囲では、記憶させた形態に回復しようとする。
そこで、例えば、一旦、形状記憶温度以上の温度で内側部材を、電極体の内径よりも大きな外径の形態として、この形態を記憶させる。その後、内側部材を形状回復温度よりも低い温度にした上で、その内側部材の外径が電極体の内径よりも小さい形態に変形させる。このようにした内側部材を電極体の径方向内側に挿入(配置)した後、内側部材を形状回復温度以上の温度に上昇させ、内側部材の形態を、記憶されていた、内側部材の外径が電極体の内径より大きい状態に戻す。これにより、内側部材で、電極体の径方向内側から径方向外側に向けて、電極体の内周面を弾性的に押圧させることができる。
【0012】
また、内側部材を、電解液で膨潤する物質で構成した場合には、膨潤する前の(小体積の)内側部材を電極体の径方向内側に配置した後、その内側部材に電解液を注液して内側部材を膨潤させて、内側部材を径方向に拡径させる。これにより、この内側部材に、電極体の径方向内側から外側に向けて、電極体の内周面を弾性的に押圧させることができる。
【0013】
さらに、上述のリチウムイオン二次電池であって、前記電極体を前記径方向外側から取り囲み、上記電極体の上記径方向外側から上記径方向内側に向けて、上記電極体の外周面を弾性的に押圧する外側部材を備えるリチウムイオン二次電池とすると良い。
【0014】
上述の電池では、外側部材が電極体の径方向外側から径方向内側に向けて、電極体の外周面を弾性的に押圧することで、電極体において、前述の内周部に加えて、外周部においても、その面圧の大きさが極端に低くなる(このため、外周部の面圧の値が前述した下限値V1を下回る)のを抑制することができる。これにより、外周部においても、巻きゆるみの発生を抑制できる。
【0015】
なお、外側部材の形状としては、中空の円筒形状や、平板を丸めて1周以上捲回してなる円筒螺旋形状や、同じく平板を1周に満たないで丸めて横断面をC字状とした湾曲形状が挙げられる。
また、外側部材としては、内側部材と同様、例えば、形状記憶合金や形状記憶樹脂からなる部材や、電解液を吸収して膨潤する、高吸収性ポリマーやセルローススポンジを含む部材が挙げられる。
【0016】
なお、外側部材を形状記憶合金(又は形状記憶樹脂)で構成する場合には、例えば、一旦、形状記憶温度以上の温度で外側部材を、電極体の外径よりも小さな内径の形態として、この形態を記憶させる。その後、外側部材を形状回復温度よりも低い温度にした上で、その外側部材の内径が電極体の外径よりも大きい形態に変形させる。このようにした外側部材を電極体の径方向外側に配置した後、外側部材を形状回復温度以上の温度に上昇させ、外側部材の形態を、記憶されていた、外側部材の内径が電極体の外径より小さい状態に戻す。これにより、外側部材で、電極体の径方向外側から径方向内側に向けて、電極体の外周面を弾性的に押圧させることができる。
【0017】
また、外側部材を、電解液で膨潤する物質で構成した場合には、膨潤する前の(小体積の)外側部材を電池ケース内で電極体の径方向外側(電池ケースと電極体との間)に配置した後、その外側部材に電解液を注液して外側部材を膨潤させて、外側部材を電池ケースに当接させると共に、この外側部材を径方向に縮径させる。これにより、この外側部材に、電極体の径方向外側から内側に向けて、電極体の外周面を弾性的に押圧させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】電極体の径方向における面圧分布を示すグラフである。
【図2】実施形態にかかる電池の斜視図である。
【図3】実施形態にかかる電池の軸線を含む断面図である。
【図4】実施形態にかかる電池の断面図(図2のA−A矢視断面)である。
【図5】実施形態の電池における正極板の斜視図である。
【図6】実施形態の電池における負極板の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施形態)
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
まず、本実施形態にかかる電池1について説明する。図2に電池1の斜視図を、図3に軸線AXを含む縦断面図を、図4に断面図(図2のA−A矢視断面)をそれぞれ示す。
この電池1は、図2に示すように、略円柱状のリチウムイオン二次電池である。この電池1は、正極板40、負極板50及びセパレータ60を軸線AXの周りに捲回した円筒状の電極体30と、この電極体30の径方向内側に配置された内側部材10と、この電極体30の径方向外側に配置された外側部材20とを備える(図2〜4参照)。また、これらのほかに、電極体30の正極板40に溶接された正極集電部材70と、負極板50に溶接された負極集電部材80と、電極体30、正極集電部材70及び負極集電部材80を内部に収容する電池ケース90とを備える(図2,3参照)。
【0020】
このうち、電池ケース90は、有底円筒形状をなす金属製の電池ケース本体91と、円板形状をなす金属製の封口蓋92とを有する(図3参照)。封口蓋92は、電池ケース本体91との間に、絶縁性の樹脂からなる円環状のガスケット99を介在させて、電池ケース本体91の開口91Hでかしめられている。これにより、封口蓋92は、電池ケース本体91と電気的に絶縁されている。
【0021】
また、円筒状の電極体30は、いずれも帯状の正極板40と負極板50とを、ポリエチレンとポリプロピレンとを積層してなる帯状のセパレータ60を介して軸線AXの周りに捲回してなる(図2〜4参照)。この電極体30は、自身の径方向内側を向く内周面31と、径方向外側を向く外周面32とを有する(図3,4参照)。なお、電極体30の内周面31を含む内周部は、セパレータ60のみを捨て巻きした内側捨て巻き部61である。また、外周面32を含む外周部は、セパレータ60のみを捨て巻きした外側捨て巻き部62である。
また、この電極体30では、正極板40の正極集電部45が軸線方向DXの一方側(図3中、上方側)に、負極板50の負極集電部55が軸線方向DXの他方側(図3中、下方側)に、それぞれ渦巻状に配置されている。
【0022】
この電極体30をなす、薄板帯状の正極板40は、帯状でアルミニウムからなるアルミ箔41と、このアルミ箔41の両主面上に形成された帯状の正極活物質層49,49とを有している(図5参照)。このうち、アルミ箔41は、幅方向DW一方の側縁を含み、両面に正極活物質層49,49を担持する帯状の担持部42と、他方の側縁に沿って自身が帯状に露出する正極集電部45とを有する。
一方、薄板帯状の負極板50は、帯状で銅からなる銅箔51と、この銅箔51の両主面上に形成された帯状の負極活物質層59,59とを有している(図6参照)。このうち、銅箔51は、幅方向DW一方の側縁を含み、両面に負極活物質層59,59を担持する帯状の担持部52と、他方の側縁に沿って、自身が帯状に露出する負極集電部55とを有する。
【0023】
円板形状で金属からなる正極集電部材70は、電極体30と電池ケース90の封口蓋92との間に配置されている(図3参照)。この正極集電部材70は、電極体30側(図3中、下方)を向く第1主面71と、この第1主面71の裏面であり、封口蓋92側(図3中、上方)を向く第2主面72とを有している。この正極集電部材70は、第1主面71において、上述した正極板40の正極集電部45と、また、第2主面72において、金属板を波状に屈曲させた金属部材98とそれぞれ接合している。なお、金属部材98と封口蓋92とは接合しているため、正極集電部材70及び金属部材98を通じて、正極板40と封口蓋92とが電気的に導通している。
【0024】
また、円板形状で金属からなる負極集電部材80は、電極体30と電池ケース90の電池ケース本体91との間に配置されている(図3参照)。この負極集電部材80は、電極体30側(図3中、上方)を向く第1主面81と、この第1主面81の裏面であり、電池ケース本体91の底部91B側(図3中、下方)を向く第2主面82とを有している。この負極集電部材80は、第1主面81において、前述した負極板50の負極集電部55と、また、第2主面82において、電池ケース本体91の底部91Bと、それぞれ接合(溶接)している。このため、この負極集電部材80を通じて、電極体30の負極板50と電池ケース本体91とが電気的に導通している。
【0025】
形状記憶合金(例えば、大同特殊鋼社製のKIOKALLOYシリーズ)からなる円筒形状の内側部材10は、電極体30の径方向内側に配置されている(図3,4参照)。なお、この内側部材10は、図3に示すように、内側部材10の軸線方向DX両側に、絶縁樹脂からなり円柱形状の樹脂部材PMをそれぞれ配置しており、この樹脂部材PMと共に、電極体30の軸芯をなしている。また、樹脂部材PMが、金属(合金)からなる内側部材10と、正極集電部材70又は負極集電部材80との間を電気的に絶縁している。
【0026】
上述の内側部材10は、電極体30の径方向内側から径方向外側に向けて、電極体30の内周面31を弾性的に押圧している。具体的には、電極体30の内径よりも大きな外径を予め記憶させた内側部材10について、形状回復温度よりも低い温度で、その内側部材10の外径を電極体30の内径よりも小さく変形させる。このようにした内側部材10を電極体30の径方向内側に挿入した後、内側部材10を形状回復温度以上(かつ形状記憶温度未満)の温度に上昇させて、内側部材10の外径を電極体30の内径よりも大きな形態に戻す。これにより、電極体30の内側で内側部材10自身が拡径し、内側部材10は、電極体30の径方向内側から径方向外側に向けて、電極体30の内周面31を弾性的に押圧することができる。
【0027】
また、内側部材10と同様の形状記憶合金からなる円筒形状の外側部材20は、電極体30の径方向外側に配置され、電極体30の最外周を囲んでいる(図2〜4参照)。
この外側部材20は、電極体30の径方向外側から径方向内側に向けて、電極体30の外周面32を弾性的に押圧している。具体的には、電極体30の外径よりも小さな内径を予め記憶させた外側部材20について、形状回復温度よりも低い温度で、その外側部材20の内径を電極体30の外径よりも大きく変形させる。このようにした外側部材20を電極体30の径方向外側に配置した後、外側部材20を形状回復温度以上(かつ形状記憶温度未満)の温度に上昇させて、外側部材20の内径を電極体30の外径よりも小さな形態に戻す。これにより、電極体30の外側で外側部材20自身が縮径し、外側部材20は、電極体30の径方向外側から径方向内側に向けて、電極体30の外周面32を弾性的に押圧することができる。
【0028】
ところで、本発明者らは、捲回型の電極体の径方向における面圧分布について、捲回型の電極体を備える試験電池C1を用いて調査した。なお、この試験電池C1は、前述した内側部材10及び外側部材20を有しない点で、本実施形態にかかる電池1と異なる。また、この試験電池C1では、電極体を構成する帯状のセパレータの径方向内側2,10,20,30,40,50,60及び69周目の位置に、フィルム式圧力センサ(Tekscan社製タクタイルセンサ)をセパレータとこれに隣接する電極板(又はセパレータ)との間に挿入している。
この試験電池C1について、初期充電前の状態、及び、試験電池C1を充電した満充電の状態における電極体の各部位の面圧をそれぞれ測定した。
【0029】
図1に、試験電池C1の電極体のうち、初期充電前の状態における電極体の面圧分布のグラフを破線で示す。初期充電前の状態では、試験電池C1の電極体(セパレータ)の面圧が、径方向内側から外側に向かって徐々に小さくなっていることが判る。これは、径方向内側ほど、捲回による巻き締まりがより強く生じるためであると考えられる。
【0030】
次いで、試験電池C1の電極体のうち、試験電池C1が満充電の状態における電極体の面圧分布のグラフを、図1中、実線で示す。満充電の状態の電極体では、内周部(前述した内側捨て巻き部)の面圧、及び、外周部(前述した外側捨て巻き部)の面圧がそれぞれ、内周部と外周部との間の中間部(電極体の径方向内側10周目から60周ぐらいの部分)の面圧に比べて大きく低下していることが判る。
これは、試験電池C1を充電すると、負極板の負極活物質層の厚みが増えるため、電極体は全体に面圧が上がると共に拡径する。但し、満充電にされた電極体のうち、内周部は他の部分によって径方向内側から径方向外側に向けて押圧されることがない。一方、内周部より径方向外側の部位は拡径する。このため、内周部では面圧が逆に低下すると考えられる。
一方、電極体のうち外周部は、この外周部自身を径方向外側から内側に向けて押圧する部材が径方向外側に存在しないため、もともと面圧が低い。電池が満充電であってもこの点は変わらないので、この外周部の面圧は低いままとなる。
【0031】
また、初期充電前の状態における電極体の面圧分布と、満充電の状態における電極体の面圧分布とを比較すると、電極体の内周部について、満充電の電極体における内周部の面圧は、初期充電前の電極体(或いは、この初期充電前の状態に近い、充電状態(SOC)の十分低い電池の電極体)の面圧よりも低下することが判る。
さらに、満充電の状態の電極体の内周部における面圧の値が、電極体に捲回ゆるみを生じない面圧の下限値V1を下回ることがある。このため、試験電池C1について充放電を繰り返すと、電極体の内周部の面圧が下限値V1を何度も下回り、その内周部から電極体の捲回がゆるんでしまう。
【0032】
これに対し、本実施形態にかかる電池1では、電極体30の径方向内側から径方向外側に向けて、内側部材10が電極体30の内周面31を弾性的に押圧するため、充電した電極体30において、内周部の面圧の大きさが極端に低くなる(このため、内周部の面圧の値が上述した下限値V1を下回る)のを抑制することができる。これにより、充放電を繰り返しても電極体30の巻きゆるみの発生を防止した電池1となる。
【0033】
また、この電池1では、外側部材20が電極体30の径方向外側から径方向内側に向けて、電極体30の外周面32を弾性的に押圧することで、電極体30において、内周部に加えて、外周部においても、その面圧の大きさが極端に低くなる(このため、外周部の面圧の値が前述した下限値V1を下回る)のを抑制することができる。これにより、外周部においても、巻きゆるみの発生を抑制できる。
【0034】
次いで、本実施形態にかかる電池1の製造方法について、図面を参照しつつ説明する。
まず、電極体30をなす正極板40及び負極板50を公知の方法で作製する。
続いて、正極板40及び負極板50を、前述した2つの帯状のセパレータ60,60と共に捲回して電極体20とした。具体的には、円筒形状の芯部材(図示しない)の周りに、径方向外側に向けて、セパレータ60、負極板50、セパレータ60、正極板40の順に重ねた状態で捲回(具体的には、芯部材の周りに正極板40を70周捲回)した。なお、これら正極板40、負極板50及びセパレータ60を捲回する前に、芯部材の周りにセパレータ60のみを数周捲回して内側捨て巻き部61を形成しておく。また、正極板40、負極板50及びセパレータ60を捲回した後、さらにセパレータ60のみを数周捲回して、外側捨て巻き部62を形成する。
かくして、正極板40と負極板50とをセパレータ60を介して軸線AXの周りに捲回した捲回型の電極体30を製造した(図2〜4参照)。
【0035】
次いで、電極体30に内側部材10及び外側部材20をそれぞれ配置する。なお、内側部材10として、電極体30の内径よりも大きな外径を予め記憶させてあり、かつ、形状回復温度よりも低い温度で、外径を電極体30の内径よりも小さく変形させたものを用意する。
また、外側部材20として、電極体30の外径よりも小さな内径を予め記憶させてあり、かつ、形状回復温度よりも低い温度で、内径を電極体30の外径よりも大きく変形させたものを用意する。
このような内側部材10を電極体30の径方向内側に挿入すると共に、外側部材20をその電極体30の径方向外側に配置する。そして、これら内側部材10及び外側部材20を、図示しないヒータを用いて電極体30と共に加熱して、内側部材10及び外側部材20の温度を、形状回復温度以上(かつ形状記憶温度未満)にする。すると、内側部材10が電極体30の内側で拡径し、また、外側部材20が電極体30の外側で縮径する。かくして、内側部材10は、電極体30の径方向内側から径方向外側に向けて、電極体30の内周面31を弾性的に押圧し、外側部材20は、電極体30の径方向外側から径方向内側に向けて、電極体30の外周面32を弾性的に押圧する。
【0036】
その後、内側部材10の軸線方向両側に樹脂部材PMをそれぞれ配置する。そして、電極体30の正極板40の正極集電部45に、円板形状の正極集電部材70を、また、電極体30の負極板50の負極集電部55に、円板形状の負極集電部材80を、公知の手法でそれぞれ溶接する。さらに、正極集電部材70及び負極集電部材80をそれぞれ溶接した電極体30を、図示しない電解液と共に電池ケース本体91内に収容する。そして、公知のかしめ法で、電池ケース本体91の開口91Hを、封口蓋92及びガスケット99を用いて封口した。なお、このとき、封口蓋92と正極集電部材70との間に金属部材98を配置する。
かくして、本実施形態にかかる電池1ができあがる。
【0037】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば、実施形態では、内側部材の形状を中空の円筒形状としたが、例えば、中実の円柱形状や、平板を丸めて1周以上捲回した円筒螺旋形状や、同じく平板を1周に満たないで丸めて横断面をC字状とした湾曲形状としても良い。また、内側部材として形状記憶合金からなる部材を用いたが、例えば、形状記憶樹脂からなる部材や、電解液を吸収して膨潤する、高吸収性ポリマーやセルローススポンジを含む部材を用いても良い。
また、外側部材の形状を中空の円筒形状としたが、例えば、平板を丸めて1周以上捲回してなる円筒螺旋形状や、同じく平板を1周に満たないで丸めて横断面をC字状とした湾曲形状としても良い。また、外側部材として形状記憶合金からなる部材を用いたが、例えば、形状記憶樹脂からなる部材や、電解液を吸収して膨潤する、高吸収性ポリマーやセルローススポンジを含む部材を用いても良い。
また、実施形態では、内側部材の材質と外側部材の材質とを同様としたが、内側部材の材質と内側部材の材質を異ならせても良い。また、内側部材の材質と外側部材の材質とを同じ形状記憶合金としたが、特性(例えば、形状回復温度)の異なる形状記憶合金を用いても良い。
【符号の説明】
【0038】
1 リチウムイオン二次電池
10 内側部材
20 外側部材
30 電極体
31 内周面
32 外周面
40 正極板
50 負極板
60 セパレータ
AX 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
いずれも帯状の正極板と負極板とを、帯状のセパレータを介して軸線の周りに捲回してなる円筒状の電極体を備える
リチウムイオン二次電池であって、
上記電極体の径方向内側に配置され、上記電極体の上記径方向内側から上記径方向外側に向けて、上記電極体の内周面を弾性的に押圧する内側部材を備える
リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池であって、
前記電極体を前記径方向外側から取り囲み、上記電極体の上記径方向外側から上記径方向内側に向けて、上記電極体の外周面を弾性的に押圧する外側部材を備える
リチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−185925(P2012−185925A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46457(P2011−46457)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】