説明

リン脂質誘導体

リポソーム表面のポリアルキレンオキシドの構造の広がりを抑えることによって表面の水和層を増大することができ、リポソームの安定性を上げることができる下式(I)(RCO及びRCOはアシル基を示し;Rは水素原子又は炭化水素基を示し;aは0〜4の整数を示し:bは0又は1を示すが、aが0の場合bは0であり;Xは水素原子を示すか、アルカリ金属原子、アンモニウム、若しくは有機アンモニウムを示し;AO、AO及びAOはオキシアルキレン基を示すが、AO及びAOの中のオキシエチレン基の割合が重量比で0.5以上であり;m、n及びqは平均付加モル数を示し;ただし、5≦m≦600、1≦n≦45、0≦q≦200、10≦m+n+q≦600、0.04≦n/(m+n+q)、q/(m+n+q)≦0.8である。)で表されるリン脂質誘導体。


【発明の詳細な説明】
本発明は、2種類以上のアルキレンオキシドからなるポリオキシアルキレン基を含むリン脂質誘導体、及び該リン脂質誘導体を含む界面活性剤、可溶化剤、化粧料用分散剤、及び脂質膜構造体に関する。
【背景技術】
リポソーム製剤に代表される微粒子性薬剤キャリアー及び蛋白製剤等のポリペプチドは静脈内に投与した場合に血液中での滞留性が悪く、肝臓、脾臓などの細網内皮系組織(reticuloendothelial system:以下「RES」と略する。)に捕捉され易いことが知られている。RESの存在は、RES以外の臓器へ医薬を送達させるターゲッティング型製剤や、長時間にわたって血液中に製剤を滞留させ、医薬の放出をコントロールする徐放型製剤としての微粒子性医薬キャリヤーを利用するに際して大きな障害となる。
従来から、上記製剤に微小循環性を付与するための研究がなされてきた。例えば、リポソームの脂質二分子膜の物理化学的性質は比較的容易に調節可能であることから、リポソームのサイズを小さくすることで血中濃度を高く維持させる方法(バイオキミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ、761巻、142頁、1983年)、相転移温度の高いレシチンを利用する方法(バイオケミカル・ファーマコロジー、32巻、3381頁、1983年)、レシチンの代わりにスフィンゴミエリンを用いる方法(バイオケミカル・ファーマコロジー、32巻、3381頁、1983年)、リポソームの膜成分としてコレステロールを添加する方法(バイオキミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ、761巻、142頁、1983年)などが提案されている。しかしながら、これらの方法で、血中滞留性がよく、かつRESに取り込まれにくい微粒子性医薬キャリヤーを提供した例は知られていない。
また、その他の解決方法として、リポソームの膜表面を糖脂質、糖タンパク質、アミノ酸脂質、又はポリエチレングリコール脂質などで修飾し、微小循環性を付与するとともにRESを回避する研究が行われている。例えば、グリコフォン(日本薬学会第106年会講演要旨集、336頁、1986年)、ガングリオシドGM1(FEBSレター、223巻、42頁、1987年)、ホスファチジルイノシトール(FEBSレター、223巻、42頁、1987年)、グリコフォンとガングリオシドGM3(特開昭63−221837号公報)、ポリエチレングリコール誘導体(FEBSレター、268巻、235頁、1990年)、グルクロン酸誘導体(ケミカル・アンド・ファーマシューティカル・ブレタン、38巻、1663頁、1990年)、グルタミン酸誘導体(バイオキミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ、1108巻、257頁、1992年)、ポリグリセリンリン脂質誘導体(特開平6−228012号公報)などがその修飾物質として報告されている。
例えばポリエチレングリコール脂質でリポソーム表面を修飾する場合、その水和相と血中安定性とは相関関係があり、水和層を厚くすると血中安定性が増大すると報告されている(Pharm.Tech.Japan、12巻、7号、925頁、1996年)。水和層を増大させる目的で、ポリエチレングリコール脂質の添加量を増やすことや、ポリエチレングリコール鎖の分子量を大きくすることが検討されている。このように添加量及び分子量を増大すると、リポソーム表面でのポリエチレングリコール鎖の構造がパンケーキ構造からマッシュルーム構造、さらにブラシ構造と三次元的な横への広がりを抑えられ、縦方向に伸びることにより水和層を増大するからと考えられている(Langmuir、11巻、3975頁)。しかしながら、添加量を上げ過ぎるとリポソーム脂質膜のパッキングが弱まり、リポソームの安定性が悪くなると報告されている(Biophysical Journal、74巻、1371頁、1998年)。またポリエチレングリコール鎖の分子量を上げると凝固点及び粘度が高くなり、実使用に際しては、溶解の必要がある等、常温でのハンドリングに問題のある場合があった。
【発明の開示】
本発明の課題は、新規なリン脂質誘導体を提供することにある。より具体的には、通常のポリエチレングリコールリン脂質と同様の添加量で使用することができるとともに、脂質膜構造体の表面、特にリポソーム表面のポリアルキレンオキシドの構造の広がりを抑えることによって表面の水和層を増大することができ、リポソームの安定性を上げることができるリン脂質誘導体を提供することが本発明の課題である。また、安定性及び生体に対する安全性が高く、かつ凝固点が低く常温での操作性がよくリン脂質誘導体を提供することも本発明の課題である。さらに、生理活性物質等の可溶化及び分散、あるいはリポソームなどドラッグデリバリーシステム又は化粧料の分野において好適に利用することができるリン脂質誘導体を提供することが本発明の課題である。
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、下記の一般式(I)及び(II)で表される新規なリン脂質誘導体を提供することに成功した。
すなわち、本発明は、下記の一般式(I):

(式中、RCO及びRCOはそれぞれ独立に炭素数8〜22のアシル基を示し;Rは水素原子又は炭素数1〜4の炭化水素基を示し;aは0〜4の整数を示し;bは0又は1を示すが、aが0の場合bは0であり;Xは水素原子を示すか、又はアルカリ金属原子、アンモニウム、若しくは有機アンモニウムを示し;AO及びAOはそれぞれ独立にオキシエチレン基を含有する炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示すが、AO及びAO中の炭素数2〜4のオキシアルキレン基に対するオキシエチレン基の割合が重量比で0.5以上であり;AOは炭素数3又は4のオキシアルキレン基を示し;m、及びqはそれぞれ炭素数2〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し;nは炭素数3〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し;
ただし、5≦m≦600、1≦n≦45、0≦q≦200、10≦m+n+q≦600、0.04≦n/(m+n+q)、q/(m+n+q)≦0.8である。)で表されるリン脂質誘導体を提供するものである。
また、第二の観点からは、本発明により、下記の一般式(II):

(式中、RCO及びRCOはそれぞれ独立に炭素数8〜22のアシル基を示し;Rは水素原子又は炭素数1〜4の炭化水素基を示し;aは0〜4の整数を示し;bは0又は1を示すが、aが0の場合bは0であり;Xは水素原子を示すか、又はアルカリ金属原子、アンモニウム、若しくは有機アンモニウムを示し;EOはオキシエチレン基を示し;AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基を示し;{(EO)s/(AO)t}はオキシエチレン基と炭素数3〜4のオキシアルキレン基がランダム状に結合した基を示すが、{(EO)s/(AO)t}中の炭素数2〜4のオキシアルキレン基に対するオキシエチレン基の割合が重量比で0.5〜0.95であり;sはオキシエチレン基の平均付加モル数を示し;tは炭素数3又は4のオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し;ただし、5≦s≦500、0<t≦100、6≦(s+t)≦500である。)で表されるリン脂質誘導体を提供するものである。
別の観点からは、上記の一般式(I)又は(II)で表されるリン脂質誘導体を含む脂質膜構造体、好ましくはリポソームである脂質膜構造体が本発明により提供される。また、医薬を保持した上記の脂質膜構造体を含む医薬組成物及び医薬が抗腫瘍剤である上記の医薬組成物も本発明により提供される。さらに、本発明により、上記の一般式(I)又は(II)で表されるリン脂質誘導体を含む界面活性剤、上記の一般式(I)又は(II)で表されるリン脂質誘導体を含む可溶化剤、及び上記の一般式(I)又は(II)で表されるリン脂質誘導体を含む分散剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
上記一般式(I)及び(II)において、RCO及びRCOはそれぞれ独立に炭素数8〜22のアシル基、好ましくは炭素数12〜20のアシル基である。好ましくは、上記のアシル基として脂肪酸に由来するアシル基を用いることができる。RCO及びRCOとしては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキン酸、ベヘン酸、エルカ酸、リグノセリン酸などの飽和及び不飽和の直鎖又は分岐鎖の脂肪酸由来のアシル基を挙げることができる。RCO及びRCOは互いに同じであっても異なっていてもよい。
は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。炭素数1〜4のアルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、より具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基を用いることができるが、メチル基が好ましい。Xは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム、又は有機アンモニウムを示し、好ましくは水素原子又はアルカリ金属原子である。例えば、アルカリ金属原子としてナトリウム及びカリウム、有機アンモニウムとしてトリエチルアンモニウムなどを挙げることができる。bは0又は1の整数であり、bが1である場合にはaが1〜4の整数であることが好ましく、aが2又は3であることがさらに好ましい。bが0である場合にはaが0であることが好ましい。
一般式(I)において、AO及びAOはそれぞれオキシエチレン基を含有する炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示す。
炭素数2〜4のオキシアルキレン基としては、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシトリメチレン基、オキシブチレン基およびオキシテトラメチレン基を挙げることができる。
O及びAOはオキシエチレン基を重量比で0.5以上含有する炭素数2〜4のオキシアルキレン基である。オキシエチレン基単独であっても、オキシエチレン基と炭素数3〜4のオキシアルキレン基とが共重合していてもよい。炭素数3〜4のオキシアルキレン基を含む場合は、それぞれがブロック状又はランダム状に結合していてもよい。炭素数3〜4のオキシアルキレン基は1種又は2種以上を用いて良く、2種以上の場合、その重合形態はブロック状であってもランダム状であってもよい。
(AO)m及び(AO)qは、例えば、オキシエチレン基単独、オキシエチレン基とオキシプロピレン基とのブロック重合体又はランダム重合体、オキシエチレン基とオキシブチレン基とのブロック重合体又はランダム重合体、オキシエチレン基、オキシプロピレン基とオキシブチレン基とのブロック重合体又はランダム重合体等が挙げられる。
(AO)m及び(AO)q中の炭素数2〜4のオキシアルキレン基に対するオキシエチレン基の割合は重量比で0.5以上であり、好ましくは0.6以上であり、より好ましくは1であるオキシエチレン基単独である。オキシエチレン基の割合が0.5を下回る場合、脂質膜構造体粒子の表面に水和層を保持し安定性を高める効果が得られない。重合形態がブロック状である場合、リン脂質との結合に関与する末端についてはオキシエチレン基であることが好ましい。
また、組み合わせによっては、リン脂質との結合末端にオキシエチレン基を介さず直接炭素数3〜4のオキシアルキレン基がある場合、薬物を保持した医薬組成物として使用する場合その薬物の保持が効率よく得られないことがあるため、リン脂質との結合末端はオキシエチレン基であることが好ましい。
m及びqは、それぞれオキシエチレン基を含有する炭素数2〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、mは5〜600、好ましくは15〜120である。qは0〜200、好ましくは0〜120、より好ましくは0〜80である。mが5より小さい場合、脂質との結合末端に隣接する場合、薬物の保持が効率よく得られない。mが600より大きい場合、AOのポリオキシアルキレン基に由来する粒子の安定性を高められる効果が得られにくい。qが200より大きい場合、脂質膜構造体等に用いた場合、粒子上で安定に存在しにくく、AOのポリオキシアルキレン基に由来する粒子の安定性を高められる効果も得られにくい。
一般式(I)においてAOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基を示す。炭素数3〜4のオキシアルキレン基としては、例えばオキシプロピレン基、オキシトリメチレン基、オキシブチレン基およびオキシテトラメチレン基を挙げることができるが、オキシプロピレン基が好ましい。炭素数3〜4のオキシアルキレン基は、1種又は2種以上を用いてもよく、2種以上を共重合する場合、その形態はブロック状であってもランダム状であってもよい。nは炭素数3〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜45であり、好ましくは2〜30であり、さらに好ましくは2〜15である。nが1未満の場合は、脂質膜構造体粒子表面の水和層の厚さを増大する効果が低く、水溶液中での安定性又は血液中での滞留性を増大する効果が得られにくい。さらに同一分子量での凝固点が高く、常温での操作性が劣る。45より大きい場合は、脂質膜構造体粒子の表面から抜け易く、粒子表面に水和層を保持し安定性を高める効果が得られにくい。
またm+n+qは10〜600であり、好ましくは30〜300である。
m+n+qが10より小さいと、本発明のリン脂質誘導体を脂質膜構造体添加剤及び界面活性剤として使用した場合、安定性の効果が小さい。また600より大きいと、脂質膜構造体等に用いた場合、本発明のリン脂質誘導体が粒子上安定に存在しないため、粒子の安定性において従来品に比較してより大きな効果が得られない。さらに製造する際、ポリアルキレンオキシド誘導体とリン脂質との反応において、反応性が低下するほか、前記式(2)のポリアルキレンオキシド誘導体の粘度が上昇して作業性が低下し好ましくない。
上記m、n及びqの使用有効な範囲より、さらに薬物保持の効率を得るためには、0.04≦n/(m+n+q)の範囲であり、使用される粒子の安定性を高めるためにはq/(m+n+q)≦0.8の範囲である。
一般式(II)において、EOはオキシエチレン基を示し、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基を示す。炭素数3〜4オキシアルキレン基としては、例えばオキシプロピレン基、オキシトリメチレン基、オキシブチレン基およびオキシテトラメチレン基を挙げることができるが、オキシプロピレン基が好ましい。{(EO)s/(AO)t}はオキシエチレン基と炭素数3〜4のオキシアルキレン基がランダム状に結合した基である。
sはオキシエチレン基の平均付加モル数であり、tは炭素数3〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数である。sは5〜500、好ましくは20〜200である。tは0より大きく、100以下、好ましくは1〜100、より好ましくは2〜18である。s+tは6〜500であり、好ましくは20〜200である。
{(EO)s/(AO)t}中の炭素数2〜4のオキシアルキレン基に対するオキシエチレン基の割合は重量比で0.5〜0.95であり、好ましくは0.6〜0.95である。オキシエチレン基の割合が0.5を下回る場合、脂質膜構造体粒子の表面に水和層を保持し安定性を高める効果が得られない。また0.95より大きい場合、本発明の脂質膜構造体の膜上の水和層の増大効果が得られない。
式(I)及び(II)で表される本発明の化合物の製造方法は特に限定されないが、ポリアルキレンオキシド化合物の活性化エステル誘導体、あるいは活性カーボネート化したポリアルキレンオキシド誘導体とリン脂質化合物とを反応させることにより製造することができる。またリン脂質化合物の活性化エステル誘導体と、ポリアルキレンオキシド化合物とを反応させることによっても製造できる。
例えば、ポリアルキレンオキシド誘導体は、後述するようにポリアルキレンオキシド化合物とジカルボン酸無水物とを反応させることにより容易に製造することができる。用いるポリアルキレンオキシド化合物は公知の方法によって製造することができる。リン脂質は天然リン脂質でも合成リン脂質でもよく、天然リン脂質の場合、例えば大豆及び大豆水添ホスファチジルジエタノールアミン、卵黄及び卵黄水添ホスファチジルジエタノールアミン等の天然及び合成ホスファチジルエタノールアミンなどが挙げられる。リン脂質化合物も公知の方法により製造することができる。
ポリアルキレンオキシド誘導体とリン脂質化合物、あるいはポリアルキレンオキシド化合物とリン脂質誘導体との反応は、有機溶媒中で塩基性触媒の存在下に行うことができ、通常は脱水縮合剤を用いて行うことができる。
塩基性触媒の種類は特に限定されないが、例えば、窒素含有物質としてはトリエチルアミン、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、酢酸アンモニウム等が、有機塩としてはリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ホウ酸ナトリウム及び酢酸ナトリウム等が挙げられる。有機溶媒としては水酸基等の反応性官能基を有しないものであれば特に制限なく使用することができる。例えば酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン及びトルエンなどが挙げられる。
上記活性化エステル誘導体は、ポリアルキレンオキシド化合物あるいはリン脂質化合物と活性化剤とを脱水縮合剤の存在下で反応させることにより得ることができる。上記活性化剤の種類は特に限定されないが、例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N,N’−ジコハク酸イミドカーボネート、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド、N−ヒドロキシフタルイミド、4−ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウム・メチルサルフェート、イソブチルクロロホルメートなどが挙げられる。これらの中ではN−ヒドロキシコハク酸イミドが好ましい。
脱水縮合剤を用いる場合、ポリアルキレンオキシド化合物のカルボキシル誘導体とリン脂質のアミノ基、あるいはN−ヒドロキシコハク酸イミド等の水酸基とを脱水縮合できるものであれば特に制限なく使用できる。このような脱水縮合剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド誘導体が挙げられ、特にジシクロヘキシルカルボジイミドが好ましい。
上記一般式(I)又は(II)で表される本発明の化合物は、リポソームの脂質膜構造体の構成リン脂質として用いることができる。本発明の化合物を用いることにより、リポソームの血中滞留時間を増大することができる。この効果は脂質膜構造体に本発明の化合物を少量添加することにより達成できる。通常のポリエチレングリコールリン脂質では、リポソームへの添加量を増やすことにより水和相を大きくすることができるが、添加量を上げ過ぎるとリポソーム脂質膜のパッキングが弱まり、リポソームの安定性が悪くなるという問題がある。一方、本発明の化合物のリン脂質を脂質膜構造体の構成リン脂質として用いることにより、ポリオキシエチレン鎖末端の疎水鎖が水分子との水素結合を断つことにより、脂質膜構造体の膜上のリポソーム表面において二次元的な広がりが抑えられ三次元的に延びることにより、水溶液中でのリポソーム表面の水和層の厚さを増大させることができる。
脂質膜構造体中への本発明の化合物の配合量は、医薬の薬効を生体内で有効に発現させるのに充分な量であればよく、特に限定されることはない。例えば、脂質膜構造体に保持させるべき医薬の種類、治療や予防などの用途、脂質膜構造体の形態などにより適宜選択可能である。本発明により提供される脂質膜構造体に保持される医薬の種類は特に限定されないが、例えば、抗腫瘍剤として用いられる化合物が好ましい。これら化合物としては、例えば、塩酸イリノテカン、塩酸ノギテカン、エキサテカン、RFS−2000、Lurtotecan、BNP−1350、Bay−383441、PNU−166148、IDEC−132、BN−80915、DB−38、DB−81、DB−90、DB−91、CKD−620、T−0128、ST−1480、ST−1481、DRF−1042、DE−310等のカンプトテシン誘導体、ドセタキセル水和物、パクリタキセル、IND−5109、BMS−184476、BMS−188797、T−3782、TAX−1011、SB−RA−31012、SBT−1514、DJ−927等のタキサン誘導体、イホスファミド、塩酸ニムスチン、カルボコン、シクロホスファミド、ダカルバジン、チオテパ、ブスルファン、メルファラン、ラニムスチン、リン酸エストラムスチンナトリウム、6−メルカプトプリンリボシド、エノシタビン、塩酸ゲムシタビン、カルモフール、シタラビン、シタラビンオクホスファート、テガフール、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトプリン、リン酸フルダラビン、アクチノマイシンD、塩酸アクラルビシン、塩酸イダルビシン、塩酸エビルビシン、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、塩酸ピラルビシン、塩酸ブレオマイシン、ジノスタチンスチマラマー、ネオカルチノスタチン、マイトマイシンC、硫酸ブレオマイシン、硫酸ペプロマイシン、エトポシド、酒石酸ビノレルビン、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンデシン、硫酸ビンブラスチン、塩酸アムルビシン、ゲフィニチブ、エキセメスタン、カペシタビン、TNP−470、TAK−165、KW−2401、KW−2170、KW−2871、KT−5555、KT−8391、TZT−1027、S−3304、CS−682、YM−511、YM−598、TAT−59、TAS−101、TAS−102、TA−106、FK−228、FK−317、E7070、E7389、KRN−700、KRN−5500、J−107088、HMN−214、SM−11355、ZD−0473等を挙げることができる。
また、本発明の脂質膜構造体には遺伝子などを封入してもよい。遺伝子としては、オリゴヌクレオチド、DNA及びRNAのいずれでもよく、特に形質転換等のイン・ビトロにおける導入用遺伝子や、イン・ビボで発現することにより作用する遺伝子、例えば、遺伝子治療用遺伝子、実験動物や家畜等の産業用動物の品種改良に用いられる遺伝子を挙げることができる。遺伝子治療用遺伝子としては、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、酵素、サイトカイン等の生理活性物質をコードする遺伝子等を挙げることができる。
上記の脂質膜構造体は、さらにリン脂質、コレステロール、コレスタノール等のステロール類、その他の炭素数8〜22の飽和及び不飽和のアシル基を有する脂肪酸類、α−トコフェロール等の酸化防止剤を含んでいてもよい。リン脂質としては、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファリジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール、セラミドホスホリルグリセロールホスファート、1、2−ジミリストイル−1,2−デオキシホスファチジルコリン、プラスマロゲン及びホスファチジン酸等を挙げることができ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのリン脂質の脂肪酸残基は特に限定されないが、例えば、炭素数12から20の飽和又は不飽和の脂肪酸残基を挙げることができ、具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等の脂肪酸由来のアシル基を挙げることができる。また、卵黄レシチン及び大豆レシチンのような天然物由来のリン脂質を用いることもできる。
本発明の脂質膜構造体の形態及びその製造方法は特に限定されないが、存在形態としては、例えば、乾燥した脂質混合物形態、水系溶媒に分散した形態、さらにこれを乾燥させた形態や凍結させた形態等を挙げることができる。乾燥した脂質混合物の形態の脂質膜構造体は、例えば、使用する脂質成分をいったんクロロホルム等の有機溶媒に溶解させ、次いでエバポレータによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥を行うことによって製造することができる。脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態としては、一枚膜リポソーム、多重層リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル、ひも状ミセル、不定型の層状構造物などを挙げることができるが、これらのうちリポソームが好ましい。分散した状態の脂質膜構造体の大きさは特に限定されないが、例えば、リポソームやエマルションの場合には粒子径が50nmから5μmであり、球状ミセルの場合、粒子径が5nmから100nmである。ひも状ミセルや不定型の層状構造物の場合は、その1層あたりの厚みが5nmから10nmでこれらが層を形成していると考えればよい。
水系溶媒(分散媒)の組成も特に限定されず、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝化生理食塩液等の緩衝液、生理食塩水、細胞培養用の培地などであってもよい。これらの水系溶媒に対して脂質膜構造体を安定に分散させることができるが、さらにグルコース、乳糖、ショ糖などの糖水溶液、グリセリン、プロピレングリコールなどの多価アルコール水溶液等を加えてもよい。この水系溶媒に分散した脂質膜構造体を安定に長期間保存するには、凝集などの物理的安定性の面から、水系溶媒中の電解質を極力なくすことが望ましい。また、脂質の化学的安定性の面から、水系溶媒のpHを弱酸性から中性付近(pH3.0から8.0)に設定したり、窒素バブリングにより溶存酸素を除去することが望ましい。さらに凍結乾燥保存や噴霧乾燥保存をする場合には、例えば糖水溶液を凍結保存するに際して糖水溶液や多価アルコール水溶液をそれぞれ用いると効果的な保存が可能である。これらの水系溶媒の濃度は特に限定されるべきものではないが、例えば、糖水溶液においては、2〜20%(W/V)が好ましく、5〜10%(W/V)がさらに好ましい。また、多価アルコール水溶液においては、1〜5%(W/V)が好ましく、2〜2.5%(W/V)がさらに好ましい。緩衝液においては、緩衝剤の濃度が5〜50mMが好ましく、10〜20mMがさらに好ましい。水系溶媒中の脂質膜構造体の濃度は特に限定されないが、脂質膜構造体における脂質総量の濃度は、0.1mM〜500mMが好ましく、1mM〜100mMがさらに好ましい。
脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態は、上記の乾燥した脂質混合物を水系溶媒に添加し、さらにホモジナイザー等の乳化機、超音波乳化機、高圧噴射乳化機等により乳化することで製造することができる。また、リポソームを製造する方法としてよく知られている方法、例えば逆相蒸発法などによっても製造することもでき、分散体の製造方法は特に限定されることはない。脂質膜構造体の大きさを制御したい場合には、孔径のそろったメンブランフィルター等を用いて、高圧下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。
上記の水系溶媒に分散した脂質膜構造体を乾燥させる方法としては、通常の凍結乾燥や噴霧乾燥を挙げることができる。この際の水系溶媒としては、上記したように糖水溶液、好ましくはショ糖水溶液、乳糖水溶液を用いるとよい。水系溶媒に分散した脂質膜構造体をいったん製造した上でさらに乾燥すると、脂質膜構造体の長期保存が可能となるほか、この乾燥した脂質膜構造体に医薬水溶液を添加すると、効率よく脂質混合物が水和されるために医薬を効率よく脂質膜構造体に保持させることができるといったメリットがある。例えば、脂質膜構造体に医薬を添加することにより医薬組成物を製造することができ、該脂質膜構造体は疾病の治療及び/又は予防のための医薬組成物として用いることができる。医薬が遺伝子の場合は、遺伝子導入用キットとして用いることも可能である。
医薬組成物の形態としては、脂質膜構造体と医薬とが混合された形態のほか、該脂質膜構造体に医薬が保持された形態でもよい。ここでいう保持とは、医薬が脂質膜構造体の膜の中、表面、内部、脂質層中、及び/又は脂質層の表面に存在することを意味する。医薬組成物の存在形態及びその製造方法は、脂質膜構造体と同様に特に限定されることはないが、例えば、存在形態としては、混合乾燥物形態、水系溶媒に分散した形態、さらにこれを乾燥させた形態や凍結させた形態が挙げられる。
脂質類と医薬との混合乾燥物は、例えば、使用する脂質類成分と医薬とをいったんクロロホルム等の有機溶媒で溶解させ、次にこれをエバポレータによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥を行うことにより製造することができる。脂質膜構造体と医薬との混合物が水系溶媒に分散した形態としては、多重層リポソーム、一枚膜リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル、ひも状ミセル、不定形の層状構造物などを挙げることができるが、特に限定されることはない。混合物としての大きさ(粒子径)や水系溶媒の組成なども特に限定されることはないが、例えばリポソームの場合には10nm〜2μm、球状ミセルの場合は5〜100nm、エマルジョンを形成する場合は50nm〜5μmである。混合物としての水系溶媒における濃度も特に限定はされることはない。なお、脂質膜構造体と医薬との混合物が水系溶媒に分散した形態の製造方法としてはいくつかの方法が知られており、通常は脂質膜構造体と医薬との混合物の存在様式に応じて下記のように適宜の製造方法を選択する必要がある。
<製造方法1>
上記の脂質類と医薬との混合乾燥物に水系溶媒を添加し、さらにホモジナイザー等の乳化機、超音波乳化機、高圧噴射乳化機等による乳化を行う方法である。大きさ(粒子径)を制御したい場合には、さらに孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し慮過)を行えばよい。この方法の場合には、まず脂質類と医薬との混合乾燥物を作るために、医薬を有機溶媒に溶解する必要があるが、医薬と脂質膜構造体との相互作用を最大限に利用できるメリットがある。すなわち、脂質膜構造体が層状構造を有する場合にも、医薬は多重層の内部にまで入り込むことが可能であり、一般的にこの製造方法を用いると医薬の脂質膜構造体への保持率を高くすることができる。
<製造方法2>
脂質類成分を有機溶媒でいったん溶解後、有機溶媒を留去した乾燥物に、さらに医薬を含む水系溶媒を添加して乳化する方法である。大きさ(粒子径)を制御したい場合には、さらに孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し慮過)を行えばよい。有機溶媒には溶解しにくいが、水系溶媒には溶解する医薬に適用できる。脂質膜構造体がリポソームの場合、内水相部分にも医薬を保持できる長所がある。
<製造方法3>
水系溶媒に既に分散したリポソーム、エマルション、ミセル、又は層状構造物などの脂質膜構造体に、さらに医薬を含む水系溶媒を添加する方法である。この方法の適用は水溶性の医薬に限定される。既にできあがっている脂質膜構造体に外部から医薬を添加する方法であるため、医薬が高分子の場合には、医薬は脂質膜構造体内部には入り込めず、脂質膜構造体の表面に結合した存在様式をとる場合がある。脂質膜構造体としてリポソームを用いた場合、この製造方法3を用いると、医薬がリポソーム粒子同士の間に挟まったサンドイッチ構造(一般的には複合体あるいはコンプレックスと呼ばれている。)をとることが知られている。この製造方法では、脂質膜構造体単独の水分散液をあらかじめ製造するため、乳化時の医薬の分解を考慮する必要がなく、大きさ(粒子径)の制御もたやすいので、製造方法1や製造方法2に比べて比較的製造が容易である。
<製造方法4>
水系溶媒に分散した脂質膜構造体をいったん製造した上でさらに乾燥させた乾燥物に、さらに医薬を含む水系溶媒を添加する方法である。この場合も製造方法3と同様に医薬は水溶性のものに限定される。製造方法3と大きく違う点は、脂質膜構造体と医薬との存在様式にある。すなわち、この製造方法4では、水系溶媒に分散した脂質膜構造体をいったん製造した上でさらに乾燥させた乾燥物を製造するために、この段階で脂質膜構造体は脂質膜の断片として固体状態で存在する。この脂質膜の断片を固体状態に存在させるために、前記したように水系溶媒として糖水溶液、好ましくはショ糖水溶液や乳糖水溶液を用いるのが好ましい。ここで、医薬を含む水系溶媒を添加すると、固体状態で存在していた脂質膜の断片は水の侵入とともに水和を速やかに始め、脂質膜構造体を再構成することができる。この時に、医薬が脂質膜構造体内部に保持された形態の構造体が製造できる。
製造方法3では、医薬が高分子の場合には、医薬は脂質膜構造体内部には入り込めず、脂質膜構造体の表面に結合した存在様式をとるが、製造方法4はこの点で大きく異なっている。この製造方法4は、脂質膜構造体単独の水分散液をあらかじめ製造するため、乳化時の医薬の分解を考慮する必要がなく、大きさ(粒子径)の制御もたやすいので、製造方法1や製造方法2に比べて比較的製造が容易であることが挙げられる。また、この他に、凍結乾燥あるいは噴霧乾燥を行うため、製剤としての保存安定性を保証しやすいこと、乾燥製剤を医薬水溶液で再水和しても大きさ(粒子径)を元にもどせること、高分子の医薬の場合でも脂質膜構造体内部に医薬を保持させやすいことなどが長所として挙げられる。
脂質膜構造体と医薬との混合物が水系溶媒に分散した形態を調製するための他の方法としては、リポソームを製造する方法としてよく知られる方法、例えば逆相蒸発法などを別途用いてもよい。大きさ(粒子径)を制御したい場合には、さらに孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し慮過)を行えばよい。また、上記の脂質膜構造体と医薬との混合物が水系溶媒に分散した分散液をさらに乾燥させる方法としては、凍結乾燥や噴霧乾燥が挙げられる。この時の水系溶媒としては、脂質膜構造体単独の場合と同様に糖水溶液、好ましくはショ糖水溶液や乳糖水溶液を用いるとよい。上記の脂質膜構造体と医薬との混合物が水系溶媒に分散した分散液をさらに凍結させる方法としては、通常の凍結方法が挙げられるが、この時の水系溶媒としては、脂質膜構造体単独の場合と同様に、糖水溶液や多価アルコール水溶液を用いるとよい。
医薬組成物において配合し得る脂質は、使用する医薬の種類などに応じて適宜選択すればよいが、例えば、医薬が遺伝子以外の場合には医薬1質量部に対して0.1から1000質量部が好ましく、0.5から200質量部がより好ましい。また、医薬が遺伝子の場合には、医薬(遺伝子)1μgに対して、1から500nmolが好ましく、10から200nmolがより好ましい。
本発明の脂質膜構造体を含む医薬組成物の使用方法は、その形態に応じて適宜決定することが可能である。ヒト等に対する投与経路は特に限定されず、経口投与又は非経口投与のいずれでもよい。経口投与の剤形としては、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、カプセル剤、内服液剤等を挙げることができ、非経口投与の剤形としては、例えば、注射剤、点滴剤、点眼剤、軟膏剤、座剤、懸濁剤、パップ剤、ローション剤、エアゾール剤、プラスター剤等を挙げることができる。医薬の分野においては、これらのうち注射剤又は点滴剤が好ましく、投与方法としては、静脈注射、皮下注射、皮内注射などのほか、標的とする細胞や臓器に対しての局所注射が好ましい。また、化粧料の分野においては、化粧料の形態としては、具体的には、ローション、クリーム、化粧水、乳液、フォーム剤、ファンデーション、口紅、パック剤、皮膚洗浄剤、シャンプー、リンス、コンディショナー、ヘアトニック、ヘアリキッド、ヘアクリーム等を挙げることができる。
上記一般式(I)又は(II)で表される本発明の化合物を界面活性剤として用いることにより、可溶化液、乳化液、分散液を得ることができる。本発明の界面活性剤を乳化剤、可溶化剤又は分散剤として用いる場合、乳化剤、可溶化剤又は分散剤は、本発明の界面活性剤のみを用いてもよく、また乳化、可溶化又は分散に用いられている公知の他の成分を含んでいてもよい。可溶化液又は分散液の形態は限定されず、水あるいは緩衝液などの分散媒に脂溶性物質等を溶解させた溶解液、水あるいは緩衝液などの分散媒に脂溶性物質等を分散させた分散液等が挙げられる。
乳化液又は可溶化液の形態は限定されず、本発明の界面活性剤によって形成されたミセル溶液、すなわちその内部に脂溶性物質を含有したミセル溶液、また水あるいは緩衝液などの分散媒に本発明の界面活性剤と脂溶性物質等による分散粒子が、コロイド粒子あるいはそれ以上大きな粒子として存在するエマルション溶液等が挙げられる。ミセル溶液としては、分散粒子径が10〜300nmであるものを特に高分子ミセル溶液として挙げられる。エマルション溶液は、油相に脂溶性物質を配合したO/W型又は、水相に脂溶性物質を配合したW/O/W型でもよい。可溶化又は乳化できる脂溶性物質は特に限定されないが、例えば、高級アルコール、エステル油、トリグリセリン、トコフェロール、高級脂肪酸等が挙げられる。化粧料分野における分散剤としての使用形態も特に限定されないが、例えば、アスコルビン酸等の水溶性物質を脂質膜構造体の内水相に保持し、又はトコフェロール等の脂溶性物質を脂質二重膜に保持しておく場合などにおいて、本発明の化合物を脂質膜構造体形成剤として用いることにより、より安定に対象物質を水溶液中に分散できる。界面活性剤及び分散剤として用いる場合、添加量としては可溶化、分散、乳化などの対象となる物質の全重量に対して0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜7重量%、より好ましくは0.5〜5重量%である。
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
合成例1 モノメチルポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンサクシニル(分子量2000)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの合成
(1)モノメチルポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレングリコールの合成
メタノール160g(5モル)とナトリウムメチラート28%メタノール溶液118.2gを5リットル容オートクレーブに採り、系内を窒素ガスに置換した後85℃まで昇温し、100〜120℃、0.6MPa以下の条件でプロピレンオキシド71583.2g(27.3モル)を攪拌下に連続的に圧入した。プロピレンオキシド添加終了後、115±5℃にて2時間攪拌反応を続け、次に窒素ガスを通じながら、75〜85℃、6〜14Kpaで1時間処理を行い未反応のプロピレンオキシドを留去した後、50℃まで冷却し生成物の1636gを抜き取った。続けて5リットル容オートクレーブ内の温度100℃まで上昇し、残った生成物に100〜130℃、0.6MPa以下の条件でエチレンオキシド2040g(46.4モル)を攪拌下に連続的に圧入した。エチレンオキシド添加終了後、120±5℃にて1時間攪拌反応を続けた。次に窒素ガスを通じながら、75〜85℃、6〜14Kpaで1時間処理を行い未反応のエチレンオキシドを留去した後、、85%リン酸を加えてpH7に調整した後、80〜110℃、6〜14Kpaで1時間脱水処理して、生成した中和塩をろ過により除き、分子量2077のモノメチルポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレングリコール1400gを得た。アルキレンオキシド付加反応後の分子量については、中和サンプルの水酸基価を測定することにより算出した。
(2)モノメチルポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン(分子量2000)サクシンイミジルサクシネートの合成
上記で得られたモノメチルポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレングリコール50g(0.025mol)に酢酸ナトリウムを0.2g(2.4mmol)を加えて、100℃に加温し均一にした後、無水コハク酸を2.75g(0.027mol)加え、110℃で8時間反応を行った。冷却後イソプロピルアルコール200mLを加えて、モノメチルポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンサクシネートの結晶を得た。その結晶にトルエン150mLを添加して40℃で加温溶解した後、N−ヒドロキシコハク酸イミド3.45g(0.03mol)及びジシクロヘキシルカルボジイミド6.18g(0.03mol)を添加し、40℃で2時間反応した。反応後濾過し、下記式(5)で示される粗モノメチルオキシプロピレン−ポリオキシエチレンサクシンイミジルサクシネート活性化体45gを得た。
(3)モノメチルポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン(分子量2000)サクシンニルジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの合成
ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン14.96g(0.02mol)にトルエン75mLを加えて60℃に加温し、リン脂質トルエン溶液を得た。またリン酸水素二ナトリウム7.2g(0.05mol)に蒸留水7.5mLと30%水酸化ナトリウム水溶液0.75mLとを加えて加温溶解し、リン酸緩衝液を得た。このリン酸緩衝液を前記リン脂質トルエン溶液に添加し、60℃で撹拌しリン脂質緩衝混合液を得た。このリン脂質緩衝混合液に、前記式(2)の粗モノメチルオキシプロピレン−ポリオキシエチレンサクシンイミジルサクシネート活性化体22.15g(0.01mol)を添加し、60℃で5時間反応を行った。反応後0.5N水酸化ナトリウム水溶液でpH7に中和した。その後、硫酸ナトリウム150gを添加して1時間撹拌し、脱水を行った。
脱水工程後濾過にて不溶物を除去し、ろ液にヘキサンを400mL添加し1時間撹拌し、結晶を析出させた。この結晶を濾過にて得た。得られた粗結晶を酢酸エチル100mLに50℃で加温溶解し、吸着剤としてキョーワード700及びキョーワード1000(協和化学工業(株)製)をそれぞれ0.5g加えて30分間撹拌した。吸引濾過にてキョーワードを除去し、得られたろ液にヘキサン50mLを添加して結晶析出させた。この結晶を濾過により得た。その結晶にアセトン300mLを加えて50℃で加温溶解し、熱時濾過して未反応のリン脂質を不溶物として除去した。その後15℃以下に冷却し、結晶を析出させた。この結晶を濾過して得た。得られた結晶に酢酸エチル180mLを加えて60℃に加温して溶解し、その後15℃以下に冷却し、結晶を析出させた。この結晶を濾過して採取した。加温溶解時に不溶物がある場合は、濾過にて除去し次の工程に進んだ。さらに得られた結晶を再度同様に酢酸エチル200mLに加温溶解し、ヘキサン100mLを加えて析出した結晶を濾過して最終純度98%の結晶50gを得た。ポリオキシエチレン活性化体を基準として収率は90.8%であった。生成物の分析は、シリカゲルプレートを用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)によって行った。展開溶媒にはクロロホルムとメタノールの混合比が85:15重量比の混合溶媒を用い、ヨウ素蒸気にて発色させて既知量の標準物質との比較により含有物質の定量を行った。
合成例2 モノメチルポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレングルタリル(分子量2000)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの合成
(1)モノメチルポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン(分子量2000)サクシンイミジルグルタレートの合成
上記で得られたモノメチルポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレングリコール50g(0.025mol)に酢酸ナトリウムを0.2g(2.4mmol)を加えて、100℃に加温し均一にした後、無水グルタル酸を3.08g(0.027mol)加え、110℃で8時間反応を行った。冷却後イソプロピルアルコール200mLを加えて、モノメチルポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレングルタレートの結晶を得た。その結晶にトルエン150mLを添加して40℃で加温溶解した後、N−ヒドロキシコハク酸イミド3.45g(0.03mol)及びジシクロヘキシルカルボジイミド6.18g(0.03mol)を添加し、40℃で2時間反応した。反応後濾過し、下記式(5)で示される粗モノメチルオキシプロピレン−ポリオキシエチレンサクシンイミジルグルタレート活性化体46gを得た。
(2)モノメチルポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン(分子量2000)グルタリルジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの合成
粗モノメチルオキシプロピレン−ポリオキシエチレンサクシンイミジルグルタレート活性化体22gを用いて、合成例1−(3)と同様にしてモノメチルポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン(分子量2000)グルタリルジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの結晶51gを得た。
合成例3 モノメチルポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンカルバミル(分子量2000)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの合成
合成例1−(1)で得られたモノメチルポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレングリコール(分子量2000、50g(25mmol)を用いて、炭酸ナトリウム(53g、500mmol)及びトルエン(200mL)を入れ、75℃に加温した。p−ニトロフェニルクロロホルメート(12.6g、62.5mmol)を添加し、9時間反応させた。65℃に冷却後、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(28.1g、37.5mmol)を入れ、7.5時間反応させた。
炭酸ナトリウムを濾過後、濾液にヘキサン(500mL)を入れ、5℃に冷却後、析出した結晶を濾過した。この結晶にアセトン(200mL)を加え、50℃に加温した後、グラスフィルターにて濾過し、不溶物を除去した(工程(B))。濾液にヘキサン(500mL)を加えた後、5℃まで冷却した。析出した結晶を濾過後、工程(C)へ供した。工程(C)では、酢酸エチル(750mL)を加えて65℃にて溶解し、30分攪拌後、5℃に冷却し、析出した結晶を濾過した。同様に酢酸エチルを用いた工程(C)をもう1回おこなった。結晶を酢酸エチル(750mL)にて溶解し、吸着剤としてキョーワード2000(12g)、キョーワード700(協和化学工業(株)製)(1g)を加え、60℃で1時間攪拌した。吸着剤を濾過後、5℃に冷却し、析出した結晶を濾過した(工程(D))。同様に、工程(D)の吸着剤による処理を2回おこなった。ヘキサン(300mL)にて結晶洗浄後、濾過、乾燥し、目的化合物38.2g(収率54.6%)を得た。合成例1と同様TLC分析を行った結果、純度は99.5%であった。
合成例4 モノメチル−ポリオキシプロピレン/ポリオキシエチレン(75/25)(分子量2000)サクシニルジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの合成
(1)モノメチル−ポリオキシプロピレン/ポリオキシエチレン(75/25)グリコールの合成
メタノール32g(1モル)とナトリウムメチラート28%メタノール溶液(SM−28)21.4gを5リットル容オートクレーブに採り、系内を窒素ガスに置換した後85℃まで昇温し、110〜120℃、0.6MPa以下の条件で、先にプロピレンオキシド/エチレンオキシドを重量比75/25で均一に混合したものを435g攪拌下に連続的に圧入した。プロピレンオキシド/エチレンオキシド(75/25)添加終了後、115±5℃にて1時間攪拌反応を続け、50℃まで冷却し生成物の200gを抜き取った。続けて5リットル容オートクレーブ内の温度100℃まで上昇し、残った生成物に110〜120℃、0.6MPa以下の条件でプロピレンオキシド/エチレンオキシド(75/25)1640gを攪拌下に連続的に圧入した。エチレンオキシド添加終了後、120±5℃にて1時間攪拌反応を続けた。次に窒素ガスを通じながら、75〜85℃、6〜14Kpaで1時間処理を行い未反応のプロピレンオキシド/エチレンオキシド(75/25)を留去した後、85%リン酸を加えてpH7に調整した後、80〜110℃、6〜14Kpaで1時間脱水処理して、生成した中和塩をろ過により除き、分子量2004のモノメチル−ポリオキシプロピレン/ポリオキシエチレン(75/25)グリコール1600gを得た。
(2)モノメチル−ポリオキシプロピレン/ポリオキシエチレン(75/25)(分子量2000)サクシンイミジルサクシネートの合成
上記で得られたモノメチル−ポリオキシプロピレン/ポリオキシエチレン(75/25)グリコール 50g(0.025mol)を用いて合成例1−(2)と同様にして、粗モノメチル−ポリオキシプロピレン/ポリオキシエチレンサクシンイミジルサクシネート活性化体42gを得た
(3)モノメチル−ポリオキシプロピレン/ポリオキシエチレン(75/25)(分子量2000)サクシンニルジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの合成
前記式(2)の粗モノメチル−ポリオキシプロピレン/ポリオキシエチレン(75/25)(分子量2000)サクシンイミジルサクシネート活性化体22.15g(0.01mol)を用いて、合成例1−(3)と同様にして、純度95%のモノメチル−ポリオキシプロピレン/ポリオキシエチレン(75/25)(分子量2000)サクシンニルジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを90%の収率で得た。
合成例5 モノメチルポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンサクシニル(分子量2000)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの合成
(1)モノメチルポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレングリコール(分子量2000)の合成
メタノール32g(1モル)とナトリウムメチラート28%メタノール溶液(SM−28)21.4gを5リットル容オートクレーブに採り、系内を窒素ガスに置換した後80℃まで昇温し、100〜130℃、0.6MPa以下の条件で、エチレンオキシドを931g(21.2mol)攪拌下に連続的に圧入した。エチレンオキシド添加終了後、120±5℃にて1時間攪拌反応を続け、次に窒素ガスを通じながら、75〜85℃、6〜14Kpaで1時間処理を行い未反応のエチレンオキシドを留去した。その後続けて5リットル容オートクレーブ内の温度100℃まで上昇し、残った生成物に110〜120℃、0.6MPa以下の条件でプロピレンオキシド180g(3.1mol)を攪拌下に連続的に圧入した。プロピレンオキシド添加終了後、110〜120℃にて1時間攪拌反応を続けた。次に窒素ガスを通じながら、75〜85℃、6〜14Kpaで1時間処理を行い未反応のプロピレンオキシドを留去した。その後続けて5リットル容オートクレーブ内の温度100℃まで上昇し、残った生成物に100〜130℃、0.6MPa以下の条件でエチレンオキシド931g(21.2mol)を攪拌下に連続的に圧入した。エチレンオキシド添加終了後、120±5℃にて1時間攪拌反応を続けた。85%リン酸を加えてpH7に調整した後、80〜110℃、6〜14Kpaで1時間脱水処理して、生成した中和塩をろ過により除き、分子量2025のモノメチルポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン(3.2mol)−ポリオキシエチレングリコール1670gを得た。
(2)モノメチルポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレングリコール(分子量2000)サクシンイミジルサクシネートの合成
上記で得られたモノメチルポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレングリコール(分子量2000)50g(0.025mol)を用いて合成例1−(2)と同様にして、粗モノメチルポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレングリコール(分子量2000)サクシンイミジルサクシネート活性化体42gを得た
(3)モノメチルポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレングリコール(分子量2000)サクシンニルジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの合成
前記式(2)の粗モノメチルポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレングリコール(分子量2000)サクシンイミジルサクシネート活性化体22.15g(0.01mol)を用いて、合成例1−(3)と同様にして、純度95%のモノメチルポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレングリコール(分子量2000)サクシニルジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを90%の収率で得た。
合成例6 モノメチルポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンカルバミル(分子量2000)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの合成
合成例5−(1)で得られたモノメチルポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレングリコール(分子量2000、50g(25mmol)を用いて、炭酸ナトリウム(53g、500mmol)及びトルエン(200mL)を入れ、75℃に加温した。p−ニトロフェニルクロロホルメート(12.6g、62.5mmol)を添加し、9時間反応させた。65℃に冷却後、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(28.1g、37.5mmol)を入れ、7.5時間反応させた。
炭酸ナトリウムを濾過後、濾液にヘキサン(500mL)を入れ、5℃に冷却後、析出した結晶を濾過した。この結晶にアセトン(200mL)を加え、50℃に加温した後、グラスフィルターにて濾過し、不溶物を除去した(工程(B))。濾液にヘキサン(500mL)を加えた後、5℃まで冷却した。析出した結晶を濾過後、工程(C)へ供した。工程(C)では、酢酸エチル(750mL)を加えて65℃にて溶解し、30分攪拌後、5℃に冷却し、析出した結晶を濾過した。同様に酢酸エチルを用いた工程(C)をもう1回おこなった。結晶を酢酸エチル(750mL)にて溶解し、吸着剤としてキョーワード2000(12g)、キョーワード700(1g)を加え、60℃で1時間攪拌した。吸着剤を濾過後、5℃に冷却し、析出した結晶を濾過した(工程(D)。同様に、工程(D)の吸着剤による処理を2回おこなった。ヘキサン(300mL)にて結晶洗浄後、濾過、乾燥し、目的化合物38.2g(収率54.6%)を得た。合成例1と同様TLC分析を行った結果、純度は99.5%であった。
実施例1:血中滞留性リポソームとしての評価
(1)リポソームの調製
表1に示した膜組成比率(処方例1〜6、対照例1〜2)の脂質を各々秤取し、クロロホルム・メタノール混液(2:1)に溶解させた後、エバポレーターにより有機溶媒を留去し、さらに1時間減圧乾固させた。次に、この脂質乾燥物(リピドフィルム)に、予め65℃に加温しておいた155mM硫酸アンモニウム水溶液(pH5.5)10mlを加え、湯浴につけながらボルテックスミキサーにて軽く撹拌した(ナスフラスコから脂質が剥がれる程度まで)。この脂質分散液をホモジナイザーに移して、10strokeホモジナイズした後、種々孔径のポリカーボネートメンブレンフィルターを用いてサイジング(0.2μm×3回、0.1μm×3回、0.05μm×3回及び0.03μm×3回)を行い、粒子径100nm前後の空リポソーム分散液を調製した。
この空リポソーム分散液4mlを生理食塩水で2.5倍希釈し、この希釈したリポソーム分散液を超遠心用チューブに入れ、65000rpmで1時間遠心分離した後、上清を捨て、生理食塩水で遠心前のリポソーム分散液量10mlになるように再懸濁させた(この時点で、トータル脂質濃度として50mMとなるよう調整した)。上記の外水相を生理食塩水に置換した空リポソーム分散液(トータル脂質濃50mM)及びドキソルビシン溶液(医薬濃度:3.3mg/ml 生理食塩水)を予め60℃に加温しておき、容量比で空リポソーム分散液4に対しドキソルビシン溶液6を加えた後(即ち、最終医薬濃度は2.0mg/ml、最終脂質濃度は20mM)、1時間、60℃でインキュベートした。次いでこれを室温にて冷却し、ドキソルビシン含有リポソーム分散液とした。
(2)リポソームの物性
ドキソルビシンのリポソームへの保持率は、上記リポソーム分散液の一部を取ってゲル濾過(セファデックスG−50;移動相は生理食塩水)を行い、ボイドボリュームに溶出したリポソーム分画中のドキソルビシンを液体クロマトグラフィーにて定量することにより求めた。また粒子径は、上記リポソーム分散液の一部を取って準弾性光散乱(QELS)法にて測定した。その結果、表1に示すように、処方例4、5及び6のリポソームでは、主薬ドキソルビシンの保持率がほぼ100%であったため、元のリポソーム分散液をそのまま用い、下に示すラットでの血中滞留性実験用に生理食塩水にて4/3倍希釈した(したがって、最終医薬濃度は1.5mg/ml、最終脂質濃度は15mM)。また、処方例1、2及び3のリポソームは、超遠心分離(65000rpm、1時間)操作を行い、上清の未封入薬物を除去した後、生理食塩水にて最終薬物濃度が1.5mg/mlとなるように調製した(したがって、最終脂質濃度は処方例1が約16.9mM、処方例2が約17.1mM、処方例3が約18.9mM)。なお、いずれのリポソームもその粒子径はほぼ100nmであった。
(3)ラットでの血中滞留性実験
上記処方例1〜6、対照例1〜2を用いて、SD系雄性ラット(6週令)における血中滞留性実験を行った。エーテル麻酔下でラット頸静脈より各リポソーム分散液を投与し(1群5匹;投与量は7.5mgドキソルビシン/5ml/kg)、その後、各採血時点(2、4、8、24、48、72、120、168時間)でエーテル麻酔下、頸静脈よりヘパリン採血(0.5ml〜1ml)を行い、血漿分離を行った。その後、常法に従い、前処理してHPLC法にて血漿中医薬濃度を測定した。各リポソーム分散液処方の血漿中医薬濃度から台形法にてAUC(0〜∞)を算出した。表1に示すように、対照例1の本発明の脂質誘導体を含まないリポソーム、あるいは対照例2の本発明の脂質誘導体のリン脂質部分(DSPE;ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン)のみを添加したリポソームのAUCに比して、本発明の脂質誘導体を含むリポソーム処方(処方例1〜6)では1オーダー以上大きなAUCが得られ、明らかな血中滞留性が認められた。

実施例2:乳液の調製(界面活性剤としての評価)
合成例3のモノメチルポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンカルバミル(分子量2000)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを使用して乳液を作製した。すなわち、表2の組成からなる基材のうち乳化剤を含む油相部を60℃に加温し均一に溶解した後、撹拌しながら水相部を同温度で添加し乳液を得た。

作製した乳液を40℃で一か月保存した後も安定な乳化状態であった。
【産業上の利用可能性】
本発明のリン脂質は、通常のポリエチレングリコールリン脂質と同様の添加量で使用することができるとともに、リポソーム表面のポリアルキレンオキシドの構造の広がりを抑えることによって水和層を増大することができ、リポソームの安定性を上げることができる。また、本発明のリン脂質は、安定性及び生体に対する安全性が高く、かつ凝固点が低く常温での操作性がよいという特徴を有するので、生理活性物質等の可溶化及び分散、あるいはリポソームなどドラッグデリバリーシステム又は化粧料の分野において好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)

(式中、RCO及びRCOはそれぞれ独立に炭素数8〜22のアシル基を示し;Rは水素原子又は炭素数1〜4の炭化水素基を示し;aは0〜4の整数を示し;bは0又は1を示すが、aが0の場合bは0であり;Xは水素原子を示すか、又はアルカリ金属原子、アンモニウム、若しくは有機アンモニウムを示し;AO及びAOはそれぞれ独立にオキシエチレン基を含有する炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示すが、AO及びAO中の炭素数2〜4のオキシアルキレン基に対するオキシエチレン基の割合が重量比で0.5以上であり;AOは炭素数3又は4のオキシアルキレン基を示し;m、及びqはそれぞれ炭素数2〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し;nは炭素数3〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し;ただし、5≦m≦600、1≦n≦45、0≦q≦200、10≦m+n+q≦600、0.04≦n/(m+n+q)、q/(m+n+q)≦0.8である。)で表されるリン脂質誘導体。
【請求項2】
下記の一般式(II)

(式中、RCO及びRCOはそれぞれ独立に炭素数8〜22のアシル基を示し;Rは水素原子又は炭素数1〜4の炭化水素基を示し;aは0〜4の整数を示し;bは0又は1を示すが、aが0の場合bは0であり;Xは水素原子を示すか、又はアルカリ金属原子、アンモニウム、若しくは有機アンモニウムを示し;EOはオキシエチレン基を示し;AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基を示し;{(EO)s/(AO)t}はオキシエチレン基と炭素数3〜4のオキシアルキレン基がランダム状に結合した基を示すが、{(EO)s/(AO)t}中の炭素数2〜4のオキシアルキレン基に対するオキシエチレン基の割合が重量比で0.5〜0.95であり;sはオキシエチレン基の平均付加モル数を示し;tは炭素数3又は4のオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し;ただし、5≦s≦500、0<t≦100、6≦(s+t)≦500である。)で表されるリン脂質誘導体。
【請求項3】
OおよびAOがオキシエチレン基である請求の範囲第1項に記載のリン脂質誘導体。
【請求項4】
OおよびAOがオキシエチレン基であり、AOがオキシプロピレン基である請求の範囲第1項に記載のリン脂質誘導体。
【請求項5】
Oがオキシエチレン基であり、かつAOがオキシプロピレン基であり、かつqが0である請求の範囲第1項に記載のリン脂質誘導体。
【請求項6】
AOがオキシプロピレン基であり、かつオキシエチレン基とオキシプロピレン基に対する、オキシエチレン基の割合が重量比で0.60〜0.95である請求の範囲第2項に記載のリン脂質誘導体。
【請求項7】
請求の範囲第1項ないし第6項に記載のリン脂質誘導体を含む脂質膜構造体。
【請求項8】
請求の範囲第7項に記載の脂質膜構造体と薬物を含む医薬組成物。
【請求項9】
薬物が抗腫瘍剤である請求の範囲第8項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
請求の範囲第1項ないし第6項に記載のリン脂質誘導体を含む界面活性剤。

【国際公開番号】WO2004/083219
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【発行日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503767(P2005−503767)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003789
【国際出願日】平成16年3月19日(2004.3.19)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】