リーダ・ライタ及び通信方法
【課題】 リーダ・ライタと非接触で無線通信を行う際に、ヌル状態の発生を効果的に防止する。
【解決手段】 所定の周波数の搬送波を出力させて、近接した無線通信端末と近距離無線通信を行うリーダ・ライタにおいて、搬送波を送信し、無線通信端末から送信される所定状態に変調された信号と搬送波との合成波を受信して、受信した合成波に含まれる変調成分の検出が困難であることを判定した場合に、搬送波を弱めるように作用させる。
【解決手段】 所定の周波数の搬送波を出力させて、近接した無線通信端末と近距離無線通信を行うリーダ・ライタにおいて、搬送波を送信し、無線通信端末から送信される所定状態に変調された信号と搬送波との合成波を受信して、受信した合成波に含まれる変調成分の検出が困難であることを判定した場合に、搬送波を弱めるように作用させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触型のICカード等と称される近距離無線通信機能を備えた無線通信端末と通信を行うリーダ・ライタ、及びそのリーダ・ライタでの通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通機関の乗車券、会員証や社員証、店での代金決済手段用のカード等として、非接触型のICカードの利用が急速に広まっている。非接触型のICカードは、近接したリーダ・ライタとの間で無線通信を行って、認証処理を行うので、財布やパスケースなどの中に入れたままで使用でき、磁気カードなどに比べて使い勝手がよい。
【0003】
一方、このような非接触型のICカード(或いはICカードと同等の機能の回路部品)を、携帯電話端末などの携帯用の電子機器に内蔵させて、これらの機器を使用して、同様の認証や決済を行えるようにすることが提案されている。なお、携帯端末にICカード機能部を組み込む場合などには、ICカード機能部が必ずしもカード型の形状をしているとは限らないが、以下の説明ではICカードと称した場合、特に説明がない限りはICカード機能を有する部分を含むものである。また、この種の非接触型のICカードは、RFID(Radio Frequency Identification)や無線ICタグなどとも称され、単体で使用される場合でもカード型以外にラベル型、コイン型、スティック型など、種々の形状のものが想定されるが、本明細書では便宜上ICカードと称する。
【0004】
ICカード機能部がリーダ・ライタと無線通信を行う場合には、リーダ・ライタからの電磁誘導で、ICカード機能部が作動するようにしてある。即ち、ICカード側では、リーダ・ライタが出力する所定の周波数の搬送波に同調させる処理を行って、その検出された搬送波をASK(Amplitude shift keying)変調などで変調して、リーダ・ライタ側にデータを送るようしてある。ASK変調は、デジタル信号を搬送波の振幅の違いで表わす振幅変調である。
【0005】
図7は、リーダ・ライタとICカードとの通信状態の概要を示した図である。この図に示すように、リーダ・ライタ1は、ループアンテナ2を備えて、所定の周波数の搬送波F1(x)を送信する。ICカード3についてもループアンテナ4を備え、そのループアンテナ4でASK変調された応答波形F2(x)を送信し、リーダ・ライタ1のループアンテナ2は、搬送波F1(x)と応答波形F2(x)の合成波を受信する。
【0006】
特許文献1には、非接触型のICカードについての開示がある。
【特許文献1】特開2003−67693号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ICカード機能部がリーダ・ライタと無線通信を行う場合には、リーダ・ライタからの電磁誘導で、ICカード機能部が作動するので、基本的には、ICカードに組み込まれたアンテナとリーダ・ライタとが、出来るだけ近接した状態である方が、正しく無線通信ができる。ところが、ICカード機能部とリーダ・ライタとが非常に近接した状態の場合に、あるポイントで通信ができない状態が発生することがある。
【0008】
この通信が出来ない状態の発生について説明すると、ICカード機能部とリーダ・ライタとの無線通信は、それぞれが備える専用のアンテナ間で行われるが、両アンテナは搬送周波数に合わせて同調を取っており、伝送特性が最適になるように調整されている。しかし、それぞれのアンテナは、自由空間上で共振周波数の調整がされているので、距離が近づいてアンテナ同士、又はアンテナと金属体が結合してしまうと、本来の特性を出すことができなくなってしまう。結合状態によっては、アンテナの同調周波数がずれることで、送受信波形間の位相ずれが大きくなり、あるポイントで位相が反転してしまう現象が起こる。
【0009】
図8は、ICカードとリーダ・ライタとの距離と、リーダ・ライタの共振周波数の関係を示した図で、ICカードとリーダ・ライタとの距離が近づくに従って、共振周波数faは、ある距離まではほぼ一定であるが、ある距離よりも近づくと、上昇してしまう。
【0010】
このような共振周波数の変化があると、送受信波形間の位相ずれが発生するが、非接触型のICカードで広く使用されているASK変調の場合、送受信波形の合成波のデータ振幅で通信を行うので、波形間の位相が中途半端な状態になってしまうと、データ振幅変化がキャンセルされてしまう。このようにキャンセルされるポイントは通信が成立しないので、ヌル(Null)状態と称される。
【0011】
図9、図10、図11は、ICカード機能部とリーダ・ライタとの無線通信状態の例を示した図である。この図9〜図11の各図において、(a)はリーダ・ライタが送信する搬送波波形を示し、(b)はICカード機能部からのASK変調された応答波形を示し、(c)は両波形の合成波を示し、この合成波がリーダ・ライタで検出されて、ICカードから送信されたデータを受信できる。
【0012】
ここで、図9は、リーダ・ライタからの搬送波とICカード機能部からの応答波とが同相状態の場合であり、図11は、リーダ・ライタからの搬送波とICカード機能部からの応答波とが逆相状態の場合であり、図10は、図9の状態と図11の状態の中間の中途半端な位相差の状態を示してある。
【0013】
図9に示すように、リーダ・ライタからの搬送波とICカード機能部からの応答波とが同相状態の場合には、図9(c)に示す合成波には、ASK変調された応答波形に対応したレベル変化が現れ、リーダ・ライタで正しくデータを受信できる。また、図11に示すように、リーダ・ライタからの搬送波とICカード機能部からの応答波とが逆相状態の場合には、図11(c)に示す合成波には、ASK変調された応答波形と逆のレベル変化が現れ、波形変化が図9の同相状態とは逆であるが、この場合にもリーダ・ライタで正しくデータを受信できる。
【0014】
これに対して、図10の中途半端な位相差の状態の場合には、図10(c)に示す合成波として、ほとんどレベル変化がなく、リーダ・ライタでデータを受信不可能な状態となってしまう。この図10の状態が上述したヌル状態である。
【0015】
このような図9〜図11の状態の変化は、ICカード側のアンテナとリーダ・ライタ側のアンテナとの距離によって変化し、例えばある程度ICカードとリーダ・ライタとの距離がある場合には、図9に示す同相状態となり、ICカードとリーダ・ライタとの距離が極めて接近した場合には、図11に示す逆相状態となり、その途中の特定のポイントで、図10に示したヌル状態が発生する。
【0016】
図12は、ICカード(タグ)の同調周波数f0とリーダ・ライタの同調周波数f0との関係の例を示した図で、両周波数が一定の関係となる範囲で、通信が出来ないヌル領域が発生している。
【0017】
このようなヌル状態の発生を防止するためには、位相反転が起こらないようにアンテナ形状を工夫するか、或いはICカード機能部を携帯端末に組み込む際に、金属体を出来るだけ使用しない構造にする等が考えられるが、アンテナ形状などでの対処には限りがあり、ヌル状態の発生を完全に防ぐことは困難であった。
【0018】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、リーダ・ライタと非接触で無線通信を行う際に、ヌル状態の発生を効果的に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、所定の周波数の搬送波を出力させて、近接した無線通信端末と近距離無線通信を行うリーダ・ライタにおいて、搬送波を送信し、無線通信端末から送信される所定状態に変調された信号と搬送波との合成波を受信して、受信した合成波に含まれる変調成分の検出が困難であることを判定した場合に、搬送波を弱めるように作用させるものである。
【0020】
このようにしたことで、受信した合成波に含まれる変調成分の検出が困難である状態、即ち無線通信端末との位置関係として、ヌル状態が発生する状態となったことが検出された場合に、リーダ・ライタが扱う搬送波が弱められて、結果的にヌル状態が回避される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、リーダ・ライタでヌル状態が発生する状態となったことが検出された場合に、ヌル状態が回避されるように処理される。従って、リーダ・ライタに無線通信端末を近づけた状態で通信が出来ない状態となることがなく、リーダ・ライタに無線通信端末を短時間近接させるだけで、確実に無線通信が行える。また、リーダ・ライタ側での処理でヌル状態を回避するようにしたので、無線通信端末側では、アンテナの形状や金属部の配置などを、ヌル状態を回避する形状などに考慮する必要がなくなり、それだけ端末装置の設計の自由度が向上する。
【0022】
この場合、搬送波を打ち消すように作用する信号を、リーダ・ライタのアンテナの近傍に設置した補助アンテナから無線送信させることで、リーダ・ライタのアンテナから送受信される信号には手を加えることなく、ヌル状態を良好に回避できるようになる。
【0023】
また、リーダ・ライタのアンテナが受信した合成波に、その合成波に含まれる搬送波成分を弱める信号を混合することで、リーダ・ライタが受信した信号の処理で、ヌル状態を良好に回避できるようになる。
【0024】
また、リーダ・ライタのアンテナが送信する搬送波の出力レベルを低下させることで、リーダ・ライタが送信する信号の処理で、ヌル状態を良好に回避できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の第1の実施の形態を、図1〜図4を参照して説明する。
【0026】
本例においては、非接触型のICカードと通信を行うリーダ・ライタに適用した例としてある。図1はシステム構成例を示してあり、非接触型のICカードとしては、ここでは非接触型のICカード機能に相当するRFID部51を内蔵させた携帯端末機50を使用してある。単体のICカードの場合には、RFID部51だけで構成される。このような構成の携帯端末機50を、所定の場所に設置されたリーダ・ライタ10に近接させて、リーダ・ライタ10と双方向の通信を行って、リーダ・ライタ10側でRFID部51を認証する処理や、課金処理などが行われる。リーダ・ライタ10とRFID部51とが通信可能な距離としては、数cmから数十cm程度の非常に近接した距離である。
【0027】
ここで本例の場合には、リーダ・ライタ10に隣接した位置に、補助送信機30を設置し、リーダ・ライタ10側で検出した通信状態に応じて、補助送信機30のアンテナ31から所定周波数の信号を送信するようにしてある。補助送信機30から信号を送信させる処理及び構成については後述する。
【0028】
リーダ・ライタ10とRFID部51との通信状態としては、リーダ・ライタ10のアンテナ11が所定周波数(例えば13.56MHz)の搬送波F1(x)を送信させて、その搬送波F1(x)をRFID部51で受信させる。RFID部51では、受信した搬送波F1(x)に対する応答波F2(x)を生成させて、その応答波F2(x)を送信させる。応答波F2(x)は、ASK変調(振幅変調)された波形である。そして、リーダ・ライタ10では、自身が送信する搬送波F1(x)と、RFID部51が送信する応答波F2(x)との合成波F1(x)+F2(x)が受信される。
【0029】
そして、リーダ・ライタ10では、その受信した合成波F1(x)+F2(x)が、発明が解決しようとする課題の欄で説明したヌル状態であるか否か判断して、ヌル状態であることを検出した場合には、補助送信機30を起動させて、補助送信機30のアンテナ31から、ヌル状態を回避させる信号F3(x)を送信させる。この信号F3(x)の送信で、リーダ・ライタ10が受信する合成波は、F1(x)+F2(x)+F3(x)となる。なお、各信号F1(x)、F2(x)、F3(x)は、全て同じ周波数であり、ヌル状態を回避させる信号F3(x)としては、リーダ・ライタ10が送信させる搬送波F1(x)を弱めるように作用する信号である。
【0030】
具体的な例を示して説明すると、搬送波F1(x)=Asin(ωx)とし、再合成用信号F3(x)=Bsin(ωx+θ)とし、A=B、θ=πとすると、
F3(x)=Asin(ωx+π)=−Asin(ωx)=−F1(x)となる。従って、F1(x)+F2(x)+F3(x)=F1(x)+F2(x)−F1(x)=F2(x)となり、搬送波F1(x)と応答波F2(x)の位相ずれにより埋もれていた応答波F2(x)を、リーダ・ライタ10側で抽出できるようになる。
【0031】
図2は、リーダ・ライタ10の具体的な構成例を示した図である。まず受信構成について説明すると、アンテナ11は、同調部12を介してアンプ・フィルタ部13に供給し、アンプ・フィルタ部13で増幅及びフィルタリングされた受信信号を、送受信ブロック20内の復調回路21に供給する。復調回路21では、ASK変調されたデータを復調し、その復調データを制御部24に供給する。復調回路21は、PLL(Phase Locked Loop)回路22から受信信号に同期した基準周波数信号が供給され、その基準信号を使用して復調処理が行われる。PLL回路22は、クロック発生部23から、基準クロックが供給されて、このクロックと受信データを使用したPLL処理が行われる。基準クロックは、送受信ブロック20内の制御部24などにも供給される。
【0032】
図2に示したリーダ・ライタ10の送信構成としては、制御部24からの出力された送信データを、変調回路25に供給し、搬送波周波数で変調された送信信号とし、その送信信号を、ドライブ回路14に供給して、所定の送信出力とする。ドライブ回路14は、抵抗器15を介して、同調部12及びアンテナ11に接続してあり、アンテナ11から無線送信される。なお、同調部12は、アンテナ11の同調周波数特性を、搬送波周波数とする回路である。また、抵抗器15は無線通信状態を検出するために接続された、比較的抵抗値の小さな抵抗器である。
【0033】
そして本例のリーダ・ライタ10は、ドライブ回路14と同調部12との間に接続された抵抗器15の一端(a点)及び他端(b点)の電圧を、送受信ブロック20内の比較部26で比較し、両電圧の差を制御部24で判断する構成としてある。制御部24では、この比較部26で検出される電圧差が所定状態の場合に、このリーダ・ライタ10と近接した携帯端末機50(又はICカード)との無線通信状態が、既に説明したヌル状態(或いはヌル状態に近い状態)であると判断する。ヌル状態であると判断した場合には、制御信号を補助送信機30に出力する。
【0034】
ここで、制御部24が抵抗器15の両端の電位差からヌル状態を判断する原理について説明すると、ドライブ回路14の出力側である抵抗器15の一端(a点)の電位は、ICカードなどと無線通信中と、無線通信していない状態のいずれでもほぼ一定となる。これに対して、ICカードや携帯端末機などがリーダ・ライタ10に接近すると、リーダ・ライタ10の共振周波数が上昇し、共振周波数が搬送波周波数から外れて、アンテナとドライブ回路14の出力との間にインピーダンス不整合が生じ、その結果、抵抗器15の他端(b点)の電圧が降下する。この電圧の降下を検出して、予め設定した基準となる電圧値以下となったことを制御部24で判断することで、ICカードや携帯端末機などの相手がリーダ・ライタ10に近接した距離が推定され、基準となる電圧(即ち比較部26での電圧差)を適正に設定することで、ヌル状態が発生する可能性の高い距離であることが判断(推定)される。このようにして判断することで、制御部24でヌル状態か否かの判断が行われ、ヌル状態であると判断された場合に、補助送信機30に信号F3(x)を送信させることを指示する制御信号を送信する。
【0035】
図3は、補助送信機30の構成例を示したものである。補助送信機30は制御部32を備え、リーダ・ライタ10から伝送される制御信号を受信して、その制御信号で指示された内容に応じて、周波数発生回路33で、搬送波周波数の信号を発生させ、その発生された信号をドライブ回路34で所定の送信出力として、アンテナ31に供給し、アンテナ31から無線送信させる。この補助送信機30から送信される信号が、図1を参照して説明した信号F3(x)となり、ヌル状態の場合に搬送波F1(x)を弱めるように作用する信号として機能する。なお、信号F3(x)は、リーダ・ライタ10から送信される搬送波F1(x)と同じ周波数であるが、位相が逆相の信号であり、搬送波F1(x)より若干レベルが弱い信号としてある。
【0036】
ここで、図4を参照して本例での処理でヌル状態が回避される例について説明すると、通常時(即ち信号F3(x)が送信されていないとき)に、リーダ・ライタ10で通信中に受信される信号としては、リーダ・ライタ自身が送信する搬送波F1(x)と、RFID側が送信する応答波F2(x)との合成波F1(x)+F2(x)となる。図4(a)は、合成波F1(x)+F2(x)の波形例を示しており、この状態ではヌル状態となって振幅変化がほとんどない状態となっている。
【0037】
このような信号状態となっている場合に、図4(b)に示すように、ヌル状態の発生を打ち消すような搬送波周波数の信号F3(x)を生成させる。このような信号の送信があると、結果的にリーダ・ライタで受信される信号は、図4(c)に示す合成波F1(x)+F2(x)+F3(x)となり、搬送波F1(x)の信号成分が弱められて、信号F2(x)に対応した振幅変化が現れるようになり、相手から送信されたデータを復調できるようになる。
【0038】
このようにしてリーダ・ライタ10と近接して配置された補助送信機30からの信号でヌル状態の発生を回避できることで、リーダ・ライタとRFID側との間で良好に無線通信が行えるようになる。特に、ICカードや携帯端末機などで構成されるRFID側でのヌル状態への対処が必要なく、種々のRFIDと良好に近距離無線通信できるようになる。
【0039】
次に、本発明の第2の実施の形態を、図5を参照して説明する。本実施の形態においても、ICカードや携帯端末機などに構成されるRFIDと近距離無線通信を行うリーダ・ライタに適用させた例としてあり、本実施の形態においては、リーダ・ライタ単独でヌル状態を回避する構成としたものである。
【0040】
図5は、本実施の形態におけるリーダ・ライタ100の構成を示した図である。まず受信構成について説明すると、アンテナ101は、同調部102を介してアンプ・フィルタ部103に供給し、アンプ・フィルタ部103で増幅及びフィルタリングされた受信信号を、送受信ブロック120内の復調回路121に供給する。復調回路121では、ASK変調されたデータを復調し、その復調データを制御部124に供給する。復調回路121は、PLL回路122から受信信号に同期した基準周波数信号が供給され、その基準信号を使用して復調処理が行われる。PLL回路122は、クロック発生部123から、基準クロックが供給されて、このクロックと受信データを使用したPLL処理が行われる。基準クロックは、送受信ブロック120内の制御部124などにも供給される。
【0041】
リーダ・ライタ100の送信構成としては、制御部124からの出力された送信データを、変調回路125に供給し、搬送波周波数で変調された送信信号とし、その送信信号を、ドライブ回路104に供給して、所定の送信出力とする。ドライブ回路104は、同調部102及びアンテナ101に接続してあり、アンテナ101から無線送信される。
【0042】
そして本例のリーダ・ライタ100は、ヌル状態判別部105を備え、ドライブ回路104と同調部102との接続点に得られる信号などから、ヌル状態に相当する状態か否かを判別して、その判別した結果を制御部124に供給する。ヌル状態判別部105の具体的な構成としては、例えば第1の実施の形態で説明した図2の抵抗器15と比較部26を使用できる。
【0043】
そして、送受信ブロック120は、F3(x)発生回路126と、その発生回路126で発生した信号と、アンプ・フィルタ103が出力する受信信号に混合するミキサ127とを備える。F3(x)発生回路126が発生させる信号F3(x)は、第1の実施の形態で説明した搬送波F1(x)を弱めるように作用する信号であり、搬送波と同一周波数で逆位相の信号である。
【0044】
このような構成として、ヌル状態判別部105から制御部124にヌル状態であることを示す信号が供給された場合には、制御部124の制御で、F3(x)発生回路126で信号F3(x)を発生させて、受信信号に混合させることで、送受信ブロック120内の復調回路121に供給される受信信号として、ヌル状態が回避された振幅変化が現れる良好な信号となり、良好に通信相手からのデータが復調できるようになる。即ち、既に説明した図4(a)に示した信号と、図4(b)に示した信号とが、ミキサ127で混合されることになり、図4(c)に示す合成波が、復調回路121に入力されることになる。従って、上述した第1の実施の形態の場合と同様の良好な近距離無線通信が可能になる。
【0045】
次に、本発明の第3の実施の形態を、図6を参照して説明する。本実施の形態においても、ICカードや携帯端末機などに構成されるRFIDと近距離無線通信を行うリーダ・ライタに適用させた例としてあり、本実施の形態においては、リーダ・ライタの送信側での処理で、ヌル状態を回避する構成としたものである。
【0046】
図6は、本実施の形態におけるリーダ・ライタ200の構成を示した図である。まず受信構成について説明すると、アンテナ201は、同調部202を介してアンプ・フィルタ部203に供給し、アンプ・フィルタ部203で増幅及びフィルタリングされた受信信号を、送受信ブロック220内の復調回路221に供給する。復調回路221では、ASK変調されたデータを復調し、その復調データを制御部224に供給する。復調回路221は、PLL回路222から受信信号に同期した基準周波数信号が供給され、その基準信号を使用して復調処理が行われる。PLL回路222は、クロック発生部223から、基準クロックが供給されて、このクロックと受信データを使用したPLL処理が行われる。基準クロックは、送受信ブロック220内の制御部224などにも供給される。
【0047】
リーダ・ライタ200の送信構成としては、制御部224からの出力された送信データを、変調回路225に供給し、搬送波周波数で変調された送信信号とし、その送信信号を、ドライブ回路204に供給して、所定の送信出力とする。ドライブ回路204は、同調部202及びアンテナ201に接続してあり、アンテナ201から無線送信される。なお、本例のドライブ回路204は、送信信号の送信出力を、制御部224からの指示で弱くすることができるようにしてある。
【0048】
そして本例のリーダ・ライタ200は、ヌル状態判別部205を備え、ドライブ回路204と同調部202との接続点に得られる信号などから、ヌル状態に相当する状態か否かを判別して、その判別した結果を制御部224に供給する。ヌル状態判別部205の具体的な構成としては、例えば第1の実施の形態で説明した図2の抵抗器15と比較部26を使用できる。
【0049】
そして、送受信ブロック220は、ヌル状態判別部205から制御部224にヌル状態であることの信号が供給された場合には、ドライブ回路204が出力する搬送波成分を弱める指示を行い、アンテナ201から無線送信される信号状態を変化させる。ここでの搬送波成分を弱める処理としては、既に説明した搬送波F1(x)に信号F3(x)を混合した状態の搬送波とする処理である。このような処理を行うことで、結果的にこのリーダ・ライタ200が受信する信号が、ヌル状態が回避された図4(c)に示した状態となり、図4(c)に示す合成波が受信されて、復調回路221に入力されることになる。従って、上述した第1及び第2の実施の形態の場合と同様の良好な近距離無線通信が可能になる。
【0050】
携帯電話端末装置以外の携帯端末装置(例えばPDA:Personal Digital Assistanceなどの携帯用情報処理端末)に、ICカードやICタグを内蔵又は装着させた場合にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1の実施の形態による例を示すシステム構成図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態によるリーダ・ライタの構成例を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態による補助送信機の構成例を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態による再合成処理例を示す波形図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態による構成例を示すブロック図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態による構成例を示すブロック図である。
【図7】従来のシステム構成例を示す構成図である。
【図8】リーダ・ライタとICカードとの距離と共振周波数との関係例を示す特性図である。
【図9】リーダ・ライタと通信部との同相の場合の通信状態を示す波形図である。
【図10】リーダ・ライタと通信部との中途半端な位相差の場合の通信状態を示す波形図である。
【図11】リーダ・ライタと通信部との逆相の場合の通信状態を示す波形図である。
【図12】リーダ・ライタと通信部との通信が出来ない範囲を示す周波数特性図である。
【符号の説明】
【0052】
1…リーダ・ライタ、2…アンテナ、3…ICカード、10…リーダ・ライタ、11…アンテナ、12…同調部、13…アンプ・フィルタ部、14…ドライブ回路、15…抵抗器、20…送受信ブロック、21…復調回路、22…PLL回路、23…クロック発生部、24…制御部、25…変調回路、26…比較部、30…補助送信機、31…アンテナ、32…制御部、33…周波数発生回路、34…ドライブ回路、50…携帯端末機、51…RFID部、100…リーダ・ライタ、101…アンテナ、102…同調部、103…アンプ及びフィルタ、104…ドライブ回路、105…ヌル状態判別部、120…送受信ブロック、121…復調回路、122…PLL回路、123…クロック発生部、124…制御部、125…変調回路、126…F3(x)発生回路、127…ミキサ、200…リーダ・ライタ、201…アンテナ、202…同調部、203…アンプ及びフィルタ、204…ドライブ回路、205…ヌル状態判別部、220…送受信ブロック、221…復調回路、222…PLL回路、223…クロック発生部、224…制御部、225…変調回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触型のICカード等と称される近距離無線通信機能を備えた無線通信端末と通信を行うリーダ・ライタ、及びそのリーダ・ライタでの通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通機関の乗車券、会員証や社員証、店での代金決済手段用のカード等として、非接触型のICカードの利用が急速に広まっている。非接触型のICカードは、近接したリーダ・ライタとの間で無線通信を行って、認証処理を行うので、財布やパスケースなどの中に入れたままで使用でき、磁気カードなどに比べて使い勝手がよい。
【0003】
一方、このような非接触型のICカード(或いはICカードと同等の機能の回路部品)を、携帯電話端末などの携帯用の電子機器に内蔵させて、これらの機器を使用して、同様の認証や決済を行えるようにすることが提案されている。なお、携帯端末にICカード機能部を組み込む場合などには、ICカード機能部が必ずしもカード型の形状をしているとは限らないが、以下の説明ではICカードと称した場合、特に説明がない限りはICカード機能を有する部分を含むものである。また、この種の非接触型のICカードは、RFID(Radio Frequency Identification)や無線ICタグなどとも称され、単体で使用される場合でもカード型以外にラベル型、コイン型、スティック型など、種々の形状のものが想定されるが、本明細書では便宜上ICカードと称する。
【0004】
ICカード機能部がリーダ・ライタと無線通信を行う場合には、リーダ・ライタからの電磁誘導で、ICカード機能部が作動するようにしてある。即ち、ICカード側では、リーダ・ライタが出力する所定の周波数の搬送波に同調させる処理を行って、その検出された搬送波をASK(Amplitude shift keying)変調などで変調して、リーダ・ライタ側にデータを送るようしてある。ASK変調は、デジタル信号を搬送波の振幅の違いで表わす振幅変調である。
【0005】
図7は、リーダ・ライタとICカードとの通信状態の概要を示した図である。この図に示すように、リーダ・ライタ1は、ループアンテナ2を備えて、所定の周波数の搬送波F1(x)を送信する。ICカード3についてもループアンテナ4を備え、そのループアンテナ4でASK変調された応答波形F2(x)を送信し、リーダ・ライタ1のループアンテナ2は、搬送波F1(x)と応答波形F2(x)の合成波を受信する。
【0006】
特許文献1には、非接触型のICカードについての開示がある。
【特許文献1】特開2003−67693号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ICカード機能部がリーダ・ライタと無線通信を行う場合には、リーダ・ライタからの電磁誘導で、ICカード機能部が作動するので、基本的には、ICカードに組み込まれたアンテナとリーダ・ライタとが、出来るだけ近接した状態である方が、正しく無線通信ができる。ところが、ICカード機能部とリーダ・ライタとが非常に近接した状態の場合に、あるポイントで通信ができない状態が発生することがある。
【0008】
この通信が出来ない状態の発生について説明すると、ICカード機能部とリーダ・ライタとの無線通信は、それぞれが備える専用のアンテナ間で行われるが、両アンテナは搬送周波数に合わせて同調を取っており、伝送特性が最適になるように調整されている。しかし、それぞれのアンテナは、自由空間上で共振周波数の調整がされているので、距離が近づいてアンテナ同士、又はアンテナと金属体が結合してしまうと、本来の特性を出すことができなくなってしまう。結合状態によっては、アンテナの同調周波数がずれることで、送受信波形間の位相ずれが大きくなり、あるポイントで位相が反転してしまう現象が起こる。
【0009】
図8は、ICカードとリーダ・ライタとの距離と、リーダ・ライタの共振周波数の関係を示した図で、ICカードとリーダ・ライタとの距離が近づくに従って、共振周波数faは、ある距離まではほぼ一定であるが、ある距離よりも近づくと、上昇してしまう。
【0010】
このような共振周波数の変化があると、送受信波形間の位相ずれが発生するが、非接触型のICカードで広く使用されているASK変調の場合、送受信波形の合成波のデータ振幅で通信を行うので、波形間の位相が中途半端な状態になってしまうと、データ振幅変化がキャンセルされてしまう。このようにキャンセルされるポイントは通信が成立しないので、ヌル(Null)状態と称される。
【0011】
図9、図10、図11は、ICカード機能部とリーダ・ライタとの無線通信状態の例を示した図である。この図9〜図11の各図において、(a)はリーダ・ライタが送信する搬送波波形を示し、(b)はICカード機能部からのASK変調された応答波形を示し、(c)は両波形の合成波を示し、この合成波がリーダ・ライタで検出されて、ICカードから送信されたデータを受信できる。
【0012】
ここで、図9は、リーダ・ライタからの搬送波とICカード機能部からの応答波とが同相状態の場合であり、図11は、リーダ・ライタからの搬送波とICカード機能部からの応答波とが逆相状態の場合であり、図10は、図9の状態と図11の状態の中間の中途半端な位相差の状態を示してある。
【0013】
図9に示すように、リーダ・ライタからの搬送波とICカード機能部からの応答波とが同相状態の場合には、図9(c)に示す合成波には、ASK変調された応答波形に対応したレベル変化が現れ、リーダ・ライタで正しくデータを受信できる。また、図11に示すように、リーダ・ライタからの搬送波とICカード機能部からの応答波とが逆相状態の場合には、図11(c)に示す合成波には、ASK変調された応答波形と逆のレベル変化が現れ、波形変化が図9の同相状態とは逆であるが、この場合にもリーダ・ライタで正しくデータを受信できる。
【0014】
これに対して、図10の中途半端な位相差の状態の場合には、図10(c)に示す合成波として、ほとんどレベル変化がなく、リーダ・ライタでデータを受信不可能な状態となってしまう。この図10の状態が上述したヌル状態である。
【0015】
このような図9〜図11の状態の変化は、ICカード側のアンテナとリーダ・ライタ側のアンテナとの距離によって変化し、例えばある程度ICカードとリーダ・ライタとの距離がある場合には、図9に示す同相状態となり、ICカードとリーダ・ライタとの距離が極めて接近した場合には、図11に示す逆相状態となり、その途中の特定のポイントで、図10に示したヌル状態が発生する。
【0016】
図12は、ICカード(タグ)の同調周波数f0とリーダ・ライタの同調周波数f0との関係の例を示した図で、両周波数が一定の関係となる範囲で、通信が出来ないヌル領域が発生している。
【0017】
このようなヌル状態の発生を防止するためには、位相反転が起こらないようにアンテナ形状を工夫するか、或いはICカード機能部を携帯端末に組み込む際に、金属体を出来るだけ使用しない構造にする等が考えられるが、アンテナ形状などでの対処には限りがあり、ヌル状態の発生を完全に防ぐことは困難であった。
【0018】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、リーダ・ライタと非接触で無線通信を行う際に、ヌル状態の発生を効果的に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、所定の周波数の搬送波を出力させて、近接した無線通信端末と近距離無線通信を行うリーダ・ライタにおいて、搬送波を送信し、無線通信端末から送信される所定状態に変調された信号と搬送波との合成波を受信して、受信した合成波に含まれる変調成分の検出が困難であることを判定した場合に、搬送波を弱めるように作用させるものである。
【0020】
このようにしたことで、受信した合成波に含まれる変調成分の検出が困難である状態、即ち無線通信端末との位置関係として、ヌル状態が発生する状態となったことが検出された場合に、リーダ・ライタが扱う搬送波が弱められて、結果的にヌル状態が回避される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、リーダ・ライタでヌル状態が発生する状態となったことが検出された場合に、ヌル状態が回避されるように処理される。従って、リーダ・ライタに無線通信端末を近づけた状態で通信が出来ない状態となることがなく、リーダ・ライタに無線通信端末を短時間近接させるだけで、確実に無線通信が行える。また、リーダ・ライタ側での処理でヌル状態を回避するようにしたので、無線通信端末側では、アンテナの形状や金属部の配置などを、ヌル状態を回避する形状などに考慮する必要がなくなり、それだけ端末装置の設計の自由度が向上する。
【0022】
この場合、搬送波を打ち消すように作用する信号を、リーダ・ライタのアンテナの近傍に設置した補助アンテナから無線送信させることで、リーダ・ライタのアンテナから送受信される信号には手を加えることなく、ヌル状態を良好に回避できるようになる。
【0023】
また、リーダ・ライタのアンテナが受信した合成波に、その合成波に含まれる搬送波成分を弱める信号を混合することで、リーダ・ライタが受信した信号の処理で、ヌル状態を良好に回避できるようになる。
【0024】
また、リーダ・ライタのアンテナが送信する搬送波の出力レベルを低下させることで、リーダ・ライタが送信する信号の処理で、ヌル状態を良好に回避できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の第1の実施の形態を、図1〜図4を参照して説明する。
【0026】
本例においては、非接触型のICカードと通信を行うリーダ・ライタに適用した例としてある。図1はシステム構成例を示してあり、非接触型のICカードとしては、ここでは非接触型のICカード機能に相当するRFID部51を内蔵させた携帯端末機50を使用してある。単体のICカードの場合には、RFID部51だけで構成される。このような構成の携帯端末機50を、所定の場所に設置されたリーダ・ライタ10に近接させて、リーダ・ライタ10と双方向の通信を行って、リーダ・ライタ10側でRFID部51を認証する処理や、課金処理などが行われる。リーダ・ライタ10とRFID部51とが通信可能な距離としては、数cmから数十cm程度の非常に近接した距離である。
【0027】
ここで本例の場合には、リーダ・ライタ10に隣接した位置に、補助送信機30を設置し、リーダ・ライタ10側で検出した通信状態に応じて、補助送信機30のアンテナ31から所定周波数の信号を送信するようにしてある。補助送信機30から信号を送信させる処理及び構成については後述する。
【0028】
リーダ・ライタ10とRFID部51との通信状態としては、リーダ・ライタ10のアンテナ11が所定周波数(例えば13.56MHz)の搬送波F1(x)を送信させて、その搬送波F1(x)をRFID部51で受信させる。RFID部51では、受信した搬送波F1(x)に対する応答波F2(x)を生成させて、その応答波F2(x)を送信させる。応答波F2(x)は、ASK変調(振幅変調)された波形である。そして、リーダ・ライタ10では、自身が送信する搬送波F1(x)と、RFID部51が送信する応答波F2(x)との合成波F1(x)+F2(x)が受信される。
【0029】
そして、リーダ・ライタ10では、その受信した合成波F1(x)+F2(x)が、発明が解決しようとする課題の欄で説明したヌル状態であるか否か判断して、ヌル状態であることを検出した場合には、補助送信機30を起動させて、補助送信機30のアンテナ31から、ヌル状態を回避させる信号F3(x)を送信させる。この信号F3(x)の送信で、リーダ・ライタ10が受信する合成波は、F1(x)+F2(x)+F3(x)となる。なお、各信号F1(x)、F2(x)、F3(x)は、全て同じ周波数であり、ヌル状態を回避させる信号F3(x)としては、リーダ・ライタ10が送信させる搬送波F1(x)を弱めるように作用する信号である。
【0030】
具体的な例を示して説明すると、搬送波F1(x)=Asin(ωx)とし、再合成用信号F3(x)=Bsin(ωx+θ)とし、A=B、θ=πとすると、
F3(x)=Asin(ωx+π)=−Asin(ωx)=−F1(x)となる。従って、F1(x)+F2(x)+F3(x)=F1(x)+F2(x)−F1(x)=F2(x)となり、搬送波F1(x)と応答波F2(x)の位相ずれにより埋もれていた応答波F2(x)を、リーダ・ライタ10側で抽出できるようになる。
【0031】
図2は、リーダ・ライタ10の具体的な構成例を示した図である。まず受信構成について説明すると、アンテナ11は、同調部12を介してアンプ・フィルタ部13に供給し、アンプ・フィルタ部13で増幅及びフィルタリングされた受信信号を、送受信ブロック20内の復調回路21に供給する。復調回路21では、ASK変調されたデータを復調し、その復調データを制御部24に供給する。復調回路21は、PLL(Phase Locked Loop)回路22から受信信号に同期した基準周波数信号が供給され、その基準信号を使用して復調処理が行われる。PLL回路22は、クロック発生部23から、基準クロックが供給されて、このクロックと受信データを使用したPLL処理が行われる。基準クロックは、送受信ブロック20内の制御部24などにも供給される。
【0032】
図2に示したリーダ・ライタ10の送信構成としては、制御部24からの出力された送信データを、変調回路25に供給し、搬送波周波数で変調された送信信号とし、その送信信号を、ドライブ回路14に供給して、所定の送信出力とする。ドライブ回路14は、抵抗器15を介して、同調部12及びアンテナ11に接続してあり、アンテナ11から無線送信される。なお、同調部12は、アンテナ11の同調周波数特性を、搬送波周波数とする回路である。また、抵抗器15は無線通信状態を検出するために接続された、比較的抵抗値の小さな抵抗器である。
【0033】
そして本例のリーダ・ライタ10は、ドライブ回路14と同調部12との間に接続された抵抗器15の一端(a点)及び他端(b点)の電圧を、送受信ブロック20内の比較部26で比較し、両電圧の差を制御部24で判断する構成としてある。制御部24では、この比較部26で検出される電圧差が所定状態の場合に、このリーダ・ライタ10と近接した携帯端末機50(又はICカード)との無線通信状態が、既に説明したヌル状態(或いはヌル状態に近い状態)であると判断する。ヌル状態であると判断した場合には、制御信号を補助送信機30に出力する。
【0034】
ここで、制御部24が抵抗器15の両端の電位差からヌル状態を判断する原理について説明すると、ドライブ回路14の出力側である抵抗器15の一端(a点)の電位は、ICカードなどと無線通信中と、無線通信していない状態のいずれでもほぼ一定となる。これに対して、ICカードや携帯端末機などがリーダ・ライタ10に接近すると、リーダ・ライタ10の共振周波数が上昇し、共振周波数が搬送波周波数から外れて、アンテナとドライブ回路14の出力との間にインピーダンス不整合が生じ、その結果、抵抗器15の他端(b点)の電圧が降下する。この電圧の降下を検出して、予め設定した基準となる電圧値以下となったことを制御部24で判断することで、ICカードや携帯端末機などの相手がリーダ・ライタ10に近接した距離が推定され、基準となる電圧(即ち比較部26での電圧差)を適正に設定することで、ヌル状態が発生する可能性の高い距離であることが判断(推定)される。このようにして判断することで、制御部24でヌル状態か否かの判断が行われ、ヌル状態であると判断された場合に、補助送信機30に信号F3(x)を送信させることを指示する制御信号を送信する。
【0035】
図3は、補助送信機30の構成例を示したものである。補助送信機30は制御部32を備え、リーダ・ライタ10から伝送される制御信号を受信して、その制御信号で指示された内容に応じて、周波数発生回路33で、搬送波周波数の信号を発生させ、その発生された信号をドライブ回路34で所定の送信出力として、アンテナ31に供給し、アンテナ31から無線送信させる。この補助送信機30から送信される信号が、図1を参照して説明した信号F3(x)となり、ヌル状態の場合に搬送波F1(x)を弱めるように作用する信号として機能する。なお、信号F3(x)は、リーダ・ライタ10から送信される搬送波F1(x)と同じ周波数であるが、位相が逆相の信号であり、搬送波F1(x)より若干レベルが弱い信号としてある。
【0036】
ここで、図4を参照して本例での処理でヌル状態が回避される例について説明すると、通常時(即ち信号F3(x)が送信されていないとき)に、リーダ・ライタ10で通信中に受信される信号としては、リーダ・ライタ自身が送信する搬送波F1(x)と、RFID側が送信する応答波F2(x)との合成波F1(x)+F2(x)となる。図4(a)は、合成波F1(x)+F2(x)の波形例を示しており、この状態ではヌル状態となって振幅変化がほとんどない状態となっている。
【0037】
このような信号状態となっている場合に、図4(b)に示すように、ヌル状態の発生を打ち消すような搬送波周波数の信号F3(x)を生成させる。このような信号の送信があると、結果的にリーダ・ライタで受信される信号は、図4(c)に示す合成波F1(x)+F2(x)+F3(x)となり、搬送波F1(x)の信号成分が弱められて、信号F2(x)に対応した振幅変化が現れるようになり、相手から送信されたデータを復調できるようになる。
【0038】
このようにしてリーダ・ライタ10と近接して配置された補助送信機30からの信号でヌル状態の発生を回避できることで、リーダ・ライタとRFID側との間で良好に無線通信が行えるようになる。特に、ICカードや携帯端末機などで構成されるRFID側でのヌル状態への対処が必要なく、種々のRFIDと良好に近距離無線通信できるようになる。
【0039】
次に、本発明の第2の実施の形態を、図5を参照して説明する。本実施の形態においても、ICカードや携帯端末機などに構成されるRFIDと近距離無線通信を行うリーダ・ライタに適用させた例としてあり、本実施の形態においては、リーダ・ライタ単独でヌル状態を回避する構成としたものである。
【0040】
図5は、本実施の形態におけるリーダ・ライタ100の構成を示した図である。まず受信構成について説明すると、アンテナ101は、同調部102を介してアンプ・フィルタ部103に供給し、アンプ・フィルタ部103で増幅及びフィルタリングされた受信信号を、送受信ブロック120内の復調回路121に供給する。復調回路121では、ASK変調されたデータを復調し、その復調データを制御部124に供給する。復調回路121は、PLL回路122から受信信号に同期した基準周波数信号が供給され、その基準信号を使用して復調処理が行われる。PLL回路122は、クロック発生部123から、基準クロックが供給されて、このクロックと受信データを使用したPLL処理が行われる。基準クロックは、送受信ブロック120内の制御部124などにも供給される。
【0041】
リーダ・ライタ100の送信構成としては、制御部124からの出力された送信データを、変調回路125に供給し、搬送波周波数で変調された送信信号とし、その送信信号を、ドライブ回路104に供給して、所定の送信出力とする。ドライブ回路104は、同調部102及びアンテナ101に接続してあり、アンテナ101から無線送信される。
【0042】
そして本例のリーダ・ライタ100は、ヌル状態判別部105を備え、ドライブ回路104と同調部102との接続点に得られる信号などから、ヌル状態に相当する状態か否かを判別して、その判別した結果を制御部124に供給する。ヌル状態判別部105の具体的な構成としては、例えば第1の実施の形態で説明した図2の抵抗器15と比較部26を使用できる。
【0043】
そして、送受信ブロック120は、F3(x)発生回路126と、その発生回路126で発生した信号と、アンプ・フィルタ103が出力する受信信号に混合するミキサ127とを備える。F3(x)発生回路126が発生させる信号F3(x)は、第1の実施の形態で説明した搬送波F1(x)を弱めるように作用する信号であり、搬送波と同一周波数で逆位相の信号である。
【0044】
このような構成として、ヌル状態判別部105から制御部124にヌル状態であることを示す信号が供給された場合には、制御部124の制御で、F3(x)発生回路126で信号F3(x)を発生させて、受信信号に混合させることで、送受信ブロック120内の復調回路121に供給される受信信号として、ヌル状態が回避された振幅変化が現れる良好な信号となり、良好に通信相手からのデータが復調できるようになる。即ち、既に説明した図4(a)に示した信号と、図4(b)に示した信号とが、ミキサ127で混合されることになり、図4(c)に示す合成波が、復調回路121に入力されることになる。従って、上述した第1の実施の形態の場合と同様の良好な近距離無線通信が可能になる。
【0045】
次に、本発明の第3の実施の形態を、図6を参照して説明する。本実施の形態においても、ICカードや携帯端末機などに構成されるRFIDと近距離無線通信を行うリーダ・ライタに適用させた例としてあり、本実施の形態においては、リーダ・ライタの送信側での処理で、ヌル状態を回避する構成としたものである。
【0046】
図6は、本実施の形態におけるリーダ・ライタ200の構成を示した図である。まず受信構成について説明すると、アンテナ201は、同調部202を介してアンプ・フィルタ部203に供給し、アンプ・フィルタ部203で増幅及びフィルタリングされた受信信号を、送受信ブロック220内の復調回路221に供給する。復調回路221では、ASK変調されたデータを復調し、その復調データを制御部224に供給する。復調回路221は、PLL回路222から受信信号に同期した基準周波数信号が供給され、その基準信号を使用して復調処理が行われる。PLL回路222は、クロック発生部223から、基準クロックが供給されて、このクロックと受信データを使用したPLL処理が行われる。基準クロックは、送受信ブロック220内の制御部224などにも供給される。
【0047】
リーダ・ライタ200の送信構成としては、制御部224からの出力された送信データを、変調回路225に供給し、搬送波周波数で変調された送信信号とし、その送信信号を、ドライブ回路204に供給して、所定の送信出力とする。ドライブ回路204は、同調部202及びアンテナ201に接続してあり、アンテナ201から無線送信される。なお、本例のドライブ回路204は、送信信号の送信出力を、制御部224からの指示で弱くすることができるようにしてある。
【0048】
そして本例のリーダ・ライタ200は、ヌル状態判別部205を備え、ドライブ回路204と同調部202との接続点に得られる信号などから、ヌル状態に相当する状態か否かを判別して、その判別した結果を制御部224に供給する。ヌル状態判別部205の具体的な構成としては、例えば第1の実施の形態で説明した図2の抵抗器15と比較部26を使用できる。
【0049】
そして、送受信ブロック220は、ヌル状態判別部205から制御部224にヌル状態であることの信号が供給された場合には、ドライブ回路204が出力する搬送波成分を弱める指示を行い、アンテナ201から無線送信される信号状態を変化させる。ここでの搬送波成分を弱める処理としては、既に説明した搬送波F1(x)に信号F3(x)を混合した状態の搬送波とする処理である。このような処理を行うことで、結果的にこのリーダ・ライタ200が受信する信号が、ヌル状態が回避された図4(c)に示した状態となり、図4(c)に示す合成波が受信されて、復調回路221に入力されることになる。従って、上述した第1及び第2の実施の形態の場合と同様の良好な近距離無線通信が可能になる。
【0050】
携帯電話端末装置以外の携帯端末装置(例えばPDA:Personal Digital Assistanceなどの携帯用情報処理端末)に、ICカードやICタグを内蔵又は装着させた場合にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1の実施の形態による例を示すシステム構成図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態によるリーダ・ライタの構成例を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態による補助送信機の構成例を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態による再合成処理例を示す波形図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態による構成例を示すブロック図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態による構成例を示すブロック図である。
【図7】従来のシステム構成例を示す構成図である。
【図8】リーダ・ライタとICカードとの距離と共振周波数との関係例を示す特性図である。
【図9】リーダ・ライタと通信部との同相の場合の通信状態を示す波形図である。
【図10】リーダ・ライタと通信部との中途半端な位相差の場合の通信状態を示す波形図である。
【図11】リーダ・ライタと通信部との逆相の場合の通信状態を示す波形図である。
【図12】リーダ・ライタと通信部との通信が出来ない範囲を示す周波数特性図である。
【符号の説明】
【0052】
1…リーダ・ライタ、2…アンテナ、3…ICカード、10…リーダ・ライタ、11…アンテナ、12…同調部、13…アンプ・フィルタ部、14…ドライブ回路、15…抵抗器、20…送受信ブロック、21…復調回路、22…PLL回路、23…クロック発生部、24…制御部、25…変調回路、26…比較部、30…補助送信機、31…アンテナ、32…制御部、33…周波数発生回路、34…ドライブ回路、50…携帯端末機、51…RFID部、100…リーダ・ライタ、101…アンテナ、102…同調部、103…アンプ及びフィルタ、104…ドライブ回路、105…ヌル状態判別部、120…送受信ブロック、121…復調回路、122…PLL回路、123…クロック発生部、124…制御部、125…変調回路、126…F3(x)発生回路、127…ミキサ、200…リーダ・ライタ、201…アンテナ、202…同調部、203…アンプ及びフィルタ、204…ドライブ回路、205…ヌル状態判別部、220…送受信ブロック、221…復調回路、222…PLL回路、223…クロック発生部、224…制御部、225…変調回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数の搬送波を出力させて、近接した無線通信端末と近距離無線通信を行うリーダ・ライタにおいて、
前記搬送波を送信し、前記無線通信端末から送信される所定状態に変調された信号と前記搬送波との合成波を受信するアンテナと、
前記無線通信端末が近接した状態で、前記アンテナで受信した合成波に含まれる変調成分の検出が困難であることを判定する判定部と、
前記判定部で、変調成分の検出が困難であることを判定した場合に、前記搬送波を弱めるように作用させる処理を行う搬送波制御部とを備えたことを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項2】
請求項1記載のリーダ・ライタにおいて、
前記搬送波制御部は、前記搬送波を打ち消すように作用する信号を、前記アンテナの近傍に設置した補助アンテナから無線送信させることを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項3】
請求項1記載のリーダ・ライタにおいて、
前記搬送波制御部は、前記アンテナが受信した合成波に、その合成波に含まれる搬送波成分を弱める信号を混合することを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項4】
請求項1記載のリーダ・ライタにおいて、
前記搬送波制御部は、前記アンテナが送信する搬送波の出力レベルを低下させることを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項5】
請求項1記載のリーダ・ライタにおいて、
前記アンテナが受信する合成波は、前記無線通信端末で振幅変調された信号を含む合成波であり、
前記判定部での、変調成分の検出が困難であることの判定は、前記合成波の振幅変化が判別不能な状態の判定であることを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項6】
所定の周波数の搬送波を出力させて、近接した無線通信端末との間で近距離無線通信を行い、前記無線通信端末との間でデータの双方向の伝送を行う通信方法において、
前記搬送波を送信し、前記無線通信端末から送信される所定状態に変調された信号と前記搬送波との合成波を受信する送受信処理と、
前記無線通信端末が近接した状態で、前記送受信処理で受信した合成波に含まれる変調成分の検出が困難であることを判定処理と、
前記判定処理で、変調成分の検出が困難であることを判定した場合に、前記搬送波を弱めるように作用させる搬送波制御処理とを行うことを特徴とする
通信方法。
【請求項1】
所定の周波数の搬送波を出力させて、近接した無線通信端末と近距離無線通信を行うリーダ・ライタにおいて、
前記搬送波を送信し、前記無線通信端末から送信される所定状態に変調された信号と前記搬送波との合成波を受信するアンテナと、
前記無線通信端末が近接した状態で、前記アンテナで受信した合成波に含まれる変調成分の検出が困難であることを判定する判定部と、
前記判定部で、変調成分の検出が困難であることを判定した場合に、前記搬送波を弱めるように作用させる処理を行う搬送波制御部とを備えたことを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項2】
請求項1記載のリーダ・ライタにおいて、
前記搬送波制御部は、前記搬送波を打ち消すように作用する信号を、前記アンテナの近傍に設置した補助アンテナから無線送信させることを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項3】
請求項1記載のリーダ・ライタにおいて、
前記搬送波制御部は、前記アンテナが受信した合成波に、その合成波に含まれる搬送波成分を弱める信号を混合することを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項4】
請求項1記載のリーダ・ライタにおいて、
前記搬送波制御部は、前記アンテナが送信する搬送波の出力レベルを低下させることを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項5】
請求項1記載のリーダ・ライタにおいて、
前記アンテナが受信する合成波は、前記無線通信端末で振幅変調された信号を含む合成波であり、
前記判定部での、変調成分の検出が困難であることの判定は、前記合成波の振幅変化が判別不能な状態の判定であることを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項6】
所定の周波数の搬送波を出力させて、近接した無線通信端末との間で近距離無線通信を行い、前記無線通信端末との間でデータの双方向の伝送を行う通信方法において、
前記搬送波を送信し、前記無線通信端末から送信される所定状態に変調された信号と前記搬送波との合成波を受信する送受信処理と、
前記無線通信端末が近接した状態で、前記送受信処理で受信した合成波に含まれる変調成分の検出が困難であることを判定処理と、
前記判定処理で、変調成分の検出が困難であることを判定した場合に、前記搬送波を弱めるように作用させる搬送波制御処理とを行うことを特徴とする
通信方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−74153(P2007−74153A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256969(P2005−256969)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(501431073)ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ株式会社 (810)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(501431073)ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ株式会社 (810)
【Fターム(参考)】
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