説明

レプリカモールドの製造方法

【課題】マスターモールドの微細パターンをマザーモールドに精度よく転写でき、マザーモールドの微細パターンをレプリカモールドに精度よく転写でき、1つのマザーモールドから複数のレプリカモールドを作製できるレプリカモールドの製造方法を提供する。
【解決手段】(a)マスターモールド20の微細パターン22を、官能基(x)を有する基体(A)12と官能基(x)と反応性の反応性基(y)を有する含フッ素重合体(II)からなる中間層(C)14と含フッ素重合体(I)からなる表面層(B)16とを有するモールド前駆体に転写して微細パターンを有するマザーモールド11を得る工程と、(b)表面層(B)16の表面に導電層を形成する工程と、(c)導電層の表面に電鋳法にて金属層を形成して微細パターンを有するレプリカモールドを得る工程と、(d)マザーモールドとレプリカモールドとを分離する工程とを有する製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レプリカモールドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表面に微細パターンを有するモールドと基材とを接触させて微細パターンを基材の表面に転写する方法、いわゆるナノインプリント法が注目されている。
【0003】
ナノインプリント用のモールドとしては、石英製モールドが知られている。しかし、石英製モールドは、微細パターンの形成に時間がかかり、また、高価である。そのため、基材の表面に転写微細パターンを有する物品をナノインプリント法で量産する際には、石英製モールドをマスターモールドとし、該マスターモールドを複製したレプリカモールドを多数作製し、該レプリカモールドを用いることが行われている。
【0004】
レプリカモールドの製造方法としては、マスターモールドの微細パターンを、基体の表面に樹脂層を有するモールド前駆体の樹脂層側の表面に転写して、マザーモールドを得た後、該マザーモールドの樹脂層の表面に無電解めっき法で導電層、ついで電解めっき法(電鋳法)で金属層を形成して、金属製のレプリカモールドを得る方法が知られている(たとえば、特許文献1)。
【0005】
しかし、該方法には、下記の問題点がある。
(i)マスターモールドとモールド前駆体の樹脂層との間の離型性が悪いため、マスターモールドとマザーモールドとを分離する際に、微細パターンの変形、欠損等が発生する。その結果、マザーモールドへの微細パターンの転写精度が悪くなる。
(ii)マスターモールドの微細パターンの、モールド前駆体の樹脂層の表面への転写は、通常、熱ナノインプリント法にて行われる。しかし、樹脂層を構成する樹脂が結晶性樹脂の場合、加熱時の流動性が低いため、熱ナノインプリントの際に溶融樹脂がマスターモールドの微細パターンに追随しにくい。その結果、マザーモールドへの微細パターンの転写精度が悪くなる。
(iii)マザーモールドの樹脂層の耐薬品性が低いため、該樹脂層の微細パターンが無電解めっき液や電解めっき液におかされやすい。その結果、レプリカモールドへの微細パターンの転写精度が悪くなる。
(iv)マザーモールドの樹脂層とレプリカモールドの導電層との間の離型性が悪いため、マザーモールドとレプリカモールドとを分離する際に、微細パターンの変形、欠損等が発生する。その結果、レプリカモールドへの微細パターンの転写精度が悪くなる。
(v)マザーモールドの微細パターンの変形、欠損、侵食等のため、1つのマザーモールドから作製できるのは、通常、1つのレプリカモールドのみである。
【特許文献1】特開2006−219752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、マスターモールドの微細パターンをマザーモールドに精度よく転写でき、マザーモールドの微細パターンをレプリカモールドに精度よく転写でき、1つのマザーモールドから複数のレプリカモールドを作製できるレプリカモールドの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のレプリカモールドの製造方法は、下記工程(a)〜(d)を有することを特徴とする。
(a)表面に微細パターンを有するマスターモールドの前記微細パターンを、下記基体(A)と、下記表面層(B)と、前記基体(A)の表面に形成され、かつ前記基体(A)と前記表面層(B)との間に存在する中間層(C)とを有するモールド前駆体の前記表面層(B)側の表面に転写して、表面に前記マスターモールドの微細パターンが反転した微細パターンを有するマザーモールドを得る工程。
(b)前記マザーモールドの表面層(B)の表面に導電層を形成する工程。
(c)前記導電層の表面に電鋳法にて金属層を形成して、前記導電層と前記金属層とを有し、かつ前記導電層側の表面に前記マザーモールドの微細パターンが反転した微細パターンを有するレプリカモールドを得る工程。
(d)前記マザーモールドと前記レプリカモールドとを分離する工程。
基体(A):中間層(C)が形成される前には、中間層(C)が形成される表面に官能基(x)を有し、中間層(C)が形成された後には、中間層(C)が形成された表面に前記官能基(x)と下記反応性基(y)とに基づく化学結合を有する基体。
表面層(B):主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有し、かつ下記反応性基(y)を実質的に有しない含フッ素重合体(I)からなる層。
中間層(C):主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有し、かつ前記官能基(x)と反応性の反応性基(y)を有する含フッ素重合体(II)からなる層。
【0008】
前記微細パターンは、凹凸構造からなり、該凹凸構造における凸構造部の高さの平均または凹構造部の深さの平均は、1nm〜500μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のレプリカモールドの製造方法によれば、マスターモールドの微細パターンをマザーモールドに精度よく転写でき、マザーモールドの微細パターンをレプリカモールドに精度よく転写でき、1つのマザーモールドから複数のレプリカモールドを作製できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を、化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。また、重合体を構成する、モノマーに基づく繰り返し単位を、単に、モノマー単位と記す。
【0011】
(マスターモールド)
マスターモールドの材料としては、石英、シリコン、金属(ニッケル、銅、クロム、アルミニウム、チタン、タングステン、モリブデン、これらのうちの少なくとも1種を主成分とする合金等。)、酸化アルミニウム等が好ましい。
微細パターンとしては、凹凸構造からなる微細パターンが好ましい。
凹凸構造における凸構造部および/または凹構造部は、マスターモールドの表面に線状および/または点状に存在する。
【0012】
線状の凸構造部または凹構造部は、直線であってもよく、曲線であってもよく、折れ曲がり形状であってもよい。また、線状の凸構造部または凹構造部が、多数平行に存在して縞状をなしていてもよい。線状の凸構造部または凹構造部の断面形状(長手方向に直交する方向の断面の形状。)としては、長方形、台形、三角形、半円形等が挙げられる。
点状の凸構造部または凹構造部の形状としては、四角柱、三角柱、円柱、角錐、円錐、半球、多面体等が挙げられる。
【0013】
線状の凸構造部の最大幅の平均または凹構造部の最大幅の平均は、1nm〜500μmが好ましく、10nm〜300μmがよりに好ましい。
点状の凸構造部の底面の長さの平均または凹構造部の開口面の長さの平均は、1nm〜500μmが好ましく、10nm〜300μmがより好ましい。ただし、点状の凸構造部の底面の長さは、点が線に近い形状に伸びている場合は、長手方向に直交する方向の長さであり、そうでない場合は、底面の最大長さである。また、点状の凹構造部の開口面の長さは、点が線に近い形状に伸びている場合は、長手方向に直交する方向の長さであり、そうでない場合は、開口面の最大長さである。
【0014】
凸構造部の高さの平均または凹構造部の深さの平均は、1nm〜500μmが好ましく、10nm〜300μmがより好ましく、10nm〜10μmが特に好ましい。
凹凸構造が密集している部分において、隣接する凸構造部の間の間隙の平均または凹構造部の間の間隙の平均は、1nm〜500μmが好ましく、10nm〜300μmがより好ましい。
凸構造部または凹構造部における最小寸法は、500μm以下が好ましい。下限は1nmが好ましい。最小寸法は、凸構造部または凹構造部の幅、長さおよび高さのうち、最小の寸法である。
【0015】
(モールド前駆体)
モールド前駆体は、基体(A)と、表面層(B)と、基体(A)の表面に形成され、かつ基体(A)と表面層(B)との間に存在する中間層(C)とを有する。
【0016】
基体(A):
基体(A)は、中間層(C)が形成される前には、中間層(C)が形成される表面に官能基(x)を有し、中間層(C)が形成された後には、中間層(C)が形成された表面に前記官能基(x)と反応性基(y)とに基づく化学結合を有する基体である。
【0017】
基体(A)の材料としては、ガラス、石英、シリコン、セラミックス、樹脂、金属等が挙げられる。
樹脂としては、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、フルオレン系ポリエステル、シクロオレフィン系樹脂、ポリアリレート、芳香族ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリエーテルスルホン、全芳香族ポリケトン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
金属としては、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等が挙げられる。
【0018】
基体(A)の形状は、平板状(四角形状、ディスク状)であってよく、フィルム状であってもよく、曲面状(レンズ状、円筒状、円柱状等。)であってもよい。
基体(A)の形状が平板状である場合、基体(A)の厚さは、0.4mm以上20mm未満が好ましく、0.5mm以上15mm未満がより好ましく、0.5mm以上8mm未満が特に好ましい。基体(A)の厚さが0.4mm以上であれば、たわみにくい。基体(A)の厚さが20mm以下であれば、材料の無駄が少なく、また、重くならないため、取り扱い性がよい。
基体(A)の厚さが0.4mm未満であっても、基体(A)の裏面に剛直な支持体を貼り付ければ、取り扱い性が向上する。支持体の形状は、平板状であってもよく、円筒状であってもよい。
【0019】
官能基(x)としては、水酸基、オキシラニル基、またはアミノ基が好ましい。官能基(x)は、基体(A)の材料に由来する官能基であってもよく、官能基(x)を導入する表面処理により基体(A)の表面に付与された官能基であってもよい。官能基(x)の種類および量を任意に制御できる点から、後者の官能基が好ましい。
【0020】
官能基(x)を導入する表面処理の方法は、官能基(x)を有するシランカップリング剤で基体(A)を表面処理する方法、またはプラズマ処理により基体(A)を表面処理する方法、またはグラフト重合処理により基体(A)を表面処理する方法、またはUVオゾン処理によって基体(A)を表面処理する方法、または基体(A)上に官能基(x)を有するプライマーを塗布する方法が好ましい。
【0021】
官能基(x)を有するシランカップリング剤としては、下記の化合物が好ましい。
アミノ基を有するシランカップリング剤:アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノエチル−アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチル−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等、
オキシラニル基を有するシランカップリング剤:グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等。
【0022】
基体(A)の表面に中間層(C)が形成されることによって、官能基(x)の一部または全部が、含フッ素重合体(II)の反応性基(y)の一部または全部と化学結合を形成する。基体(A)の官能基(x)の一部が化学結合を形成した場合には、モールド前駆体における基体(A)は、官能基(x)を有している。一方、基体(A)の官能基(x)の全部が化学結合を形成した場合には、モールド前駆体における基体(A)は、官能基(x)を有さない。
【0023】
いずれにしても、中間層(C)を形成した後の基体(A)の表面には、官能基(x)と反応性基(y)とから形成された化学結合が存在する。化学結合としては、反応性基(y)がカルボキシル基であり官能基(x)が水酸基またはオキシラニル基である場合のエステル結合、反応性基(y)がカルボキシル基であり官能基(x)がアミノ基である場合のアミド結合、反応性基(y)がシラノール基または炭素数が1〜4のアルコキシシラン基であり官能基(x)が水酸基である場合の化学結合等が挙げられる。したがって、モールド前駆体においては、基体(A)と中間層(C)が化学結合を介して強固に接着されている。
【0024】
表面層(B):
表面層(B)は、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有し、かつ下記反応性基(y)を実質的に有しない含フッ素重合体(I)からなる層である。
【0025】
主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体(I)は、無定形または非結晶性の重合体である。
主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有するとは、重合体における含フッ素脂肪族環の環を構成する炭素原子の1個以上が重合体の主鎖を構成する炭素原子であることをいう。含フッ素脂肪族環の環を構成する原子は、炭素原子以外に酸素原子、窒素原子等を含んでいてもよい。含フッ素脂肪族環としては、1〜2個の酸素原子を有する含フッ素脂肪族環が好ましい。含フッ素脂肪族環を構成する原子の数は、4〜7個が好ましい。
【0026】
主鎖を構成する炭素原子は、環状単量体を重合させて得た重合体である場合には重合性二重結合の炭素原子に由来し、ジエン系単量体を環化重合させて得た重合体である場合には2個の重合性二重結合の4個の炭素原子に由来する。
【0027】
環状単量体とは、含フッ素脂肪族環を有し、かつ該含フッ素脂肪族環を構成する炭素原子−炭素原子間に重合性二重結合を有する単量体、または、含フッ素脂肪族環を有し、かつ該含フッ素脂肪族環を構成する炭素原子と含フッ素脂肪族環外の炭素原子の間に重合性二重結合を有する単量体である。
ジエン系単量体とは、2個の重合性二重結合を有する単量体である。
【0028】
環状単量体およびジエン系単量体において、炭素原子に結合した水素原子および炭素原子に結合したフッ素原子の合計数に対する炭素原子に結合したフッ素原子の数の割合は、それぞれ、80%以上が好ましく、100%が特に好ましい。
【0029】
環状単量体としては、化合物(1)または化合物(2)が好ましい
【0030】
【化1】

【0031】
ただし、Xは、フッ素原子または炭素原子数1〜3のペルフルオロアルコキシ基を示し、RおよびRは、それぞれフッ素原子または炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基を示し、XおよびXは、それぞれフッ素原子または炭素原子数1〜9のペルフルオロアルキル基を示す。
【0032】
化合物(1)の具体例としては、化合物(1−1)〜(1−3)が挙げられる。
【0033】
【化2】

【0034】
化合物(2)の具体例としては、化合物(2−1)〜(2−2)が挙げられる。
【0035】
【化3】

【0036】
ジエン系単量体としては、化合物(3)が好ましい。
CF=CF−Q−CF=CF ・・・(3)。
ただし、Qは、炭素原子数1〜3のペルフルオロアルキレン基(エーテル性酸素原子を有していてもよい。)を示す。エーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキレン基である場合、エーテル性酸素原子は該基の一方の末端に存在していてもよく、該基の両末端に存在していてもよく、該基の炭素原子の間に存在していてもよい。環化重合性の点からは、該基の一方の末端に存在しているのが好ましい。
【0037】
化合物(3)の環化重合により、下式(α)〜(γ)のうちの1種以上のモノマー単位を有する含フッ素重合体が得られる。
【0038】
【化4】

【0039】
化合物(3)の具体例としては、化合物(3−1)〜(3−9)が挙げられる。
CF=CFOCFCF=CF ・・・(3−1)、
CF=CFOCF(CF)CF=CF ・・・(3−2)、
CF=CFOCFCFCF=CF ・・・(3−3)、
CF=CFOCF(CF)CFCF=CF ・・・(3−4)、
CF=CFOCFCF(CF)CF=CF ・・・(3−5)、
CF=CFOCFOCF=CF ・・・(3−6)、
CF=CFOC(CFOCF=CF ・・・(3−7)、
CF=CFCFCF=CF ・・・(3−8)、
CF=CFCFCFCF=CF ・・・(3−9)。
【0040】
含フッ素重合体(I)において、全モノマー単位(100モル%)に対する含フッ素脂肪族環構造を有するモノマー単位の割合は、20モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、100モル%が特に好ましい。含フッ素脂肪族環構造を有するモノマー単位とは、環状単量体の重合により形成されたモノマー単位、またはジエン系単量体の環化重合により形成されたモノマー単位である。
【0041】
含フッ素重合体(I)は、反応性基(y)を実質的に有さない。反応性基(y)を実質的に有さないとは、含フッ素重合体(I)中の反応性基(y)の含有量が検出限界以下であることをいう。また、含フッ素重合体(I)は反応性基(y)以外の反応性基も実質的に有さないことが好ましい。
【0042】
含フッ素重合体(I)の固有粘度は、0.1dL/g〜1.0dL/gが好ましい。固有粘度は含フッ素重合体の分子量と相関がある。固有粘度が0.1dL/g以上であれば、機械的強度の高い含フッ素重合体(I)となるため、微細パターンが損傷しにくい。固有粘度が1.0dL/g以下であれば、加熱時の含フッ素重合体(I)の流動性が良好になるため、微細パターンの形成が容易となる。含フッ素重合体(I)の固有粘度は、0.15dL/g〜0.75dL/gがより好ましい。
本発明における固有粘度は、ペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)中30℃で測定される固有粘度である。粘度測定は、ウベローデ粘度計(毛細管粘度計)を用いて、JIS Z8803にしたがって行う。
【0043】
含フッ素重合体(I)は、公知の方法にしたがって入手できる。たとえば、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体(P)、または反応性基(y)を有する含フッ素重合体(II)を後述の方法によって得た後、該含フッ素重合体(P)または含フッ素重合体(II)をフッ素ガスに接触させることにより、実質的に反応性基(y)を含まない含フッ素重合体(I)を入手できる。
【0044】
表面層(B)の厚さは、マスターモールドの微細パターンの最も高い凸構造部の高さ以上または最も深い凹構造部の深さ以上が好ましい。
【0045】
中間層(C):
中間層(C)は、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有し、かつ前記官能基(x)と反応性の反応性基(y)を有する含フッ素重合体(II)からなる層である。
【0046】
主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体(II)は、無定形または非結晶性の重合体である。
含フッ素重合体(II)は、反応性基(y)を有する以外は、前記含フッ素重合体(I)と同様の重合体である。
【0047】
含フッ素重合体(I)における含フッ素脂肪族環構造を有するモノマー単位と、含フッ素重合体(II)における含フッ素脂肪族環構造を有するモノマー単位は、中間層(C)と表面層(B)とがより強固に接着され、モールドの耐久性が優れる点から、同じモノマー単位であることが好ましい。
【0048】
含フッ素重合体(II)において、全モノマー単位(100モル%)に対する含フッ素脂肪族環構造を有するモノマー単位の割合は、20モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、100モル%が特に好ましい。
【0049】
含フッ素重合体(II)は、反応性基(y)を有する。反応性基(y)の種類は、官能基(x)の種類に応じて適宜選択される。官能基(x)が水酸基、オキシラニル基、またはアミノ基である場合、反応性基(y)としては、カルボキシ基、水酸基、シラノール基またはそれらの誘導体が好ましい。反応性基(y)は、オキシラニル基、またはアミノ基との反応性が高く、強固な結合を用意に形成できるという点でカルボキシル基が特に好ましい。また、官能基(x)が水酸基である場合は、強固な結合を容易に形成できることから、シラノール基または炭素数1〜4のアルコキシシラン基が好ましい。
【0050】
反応性基(y)の有無は赤外線スペクトルによって確認することが好ましい。また、必要に応じて特開昭60−240713号公報に記されている方法を用いて、10炭素原子当たりの反応性基の数として定量することが好ましい。
【0051】
含フッ素重合体(II)の固有粘度は、0.1dL/g〜1.0dL/gが好ましい。固有粘度は含フッ素重合体の分子量と相関がある。固有粘度が0.1dL/g〜1.0dL/gであることにより、含フッ素重合体(I)との親和性が高く、表面層(B)と中間層(C)との間で良好な密着性が得られる。含フッ素重合体(II)の固有粘度は、0.15dL/g〜0.75dL/gがより好ましい。
【0052】
含フッ素重合体(II)は、公知の方法にしたがって入手できる。たとえば、反応性基(y)がカルボキシル基である含フッ素重合体(II)は、炭化水素系ラジカル重合開始剤の存在下に、ジエン系単量体または環状単量体を重合して主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体(P)を得て、つぎに該含フッ素重合体(P)を酸素ガス雰囲気下に加熱処理し、さらに水中に浸漬することにより得られる。
【0053】
反応性基(y)がシラノール基である含フッ素重合体(II)は、特開平4−226177号公報に記載の方法のように、カルボキシル基を有する含フッ素重合体(II)の該カルボキシル基をエステル化してカルボン酸メチルエステルとし、さらにカルボン酸メチルエステルをアミノ基またはオキシラニル基を有するシランカップリング剤と反応させてアミド結合を形成させることにより得られる。
【0054】
反応性基(y)が水酸基である含フッ素重合体(II)は、カルボキシル基を有する含フッ素重合体の該カルボキシル基を還元することにより得られる。
【0055】
中間層(C)の厚さは、5〜2000nmが好ましい。中間層(C)の厚さが5nm以上であれば、均一な膜が形成でき、高い密着性が得られる。中間層(C)の厚さが2000nm以下であれば、材料の無駄が少ない。中間層(C)の厚さは、10〜1000nmがより好ましく、20〜500nmがさらに好ましい。
【0056】
モールド前駆体の製造方法としては、下記工程M1および工程M2を順に行う方法が挙げられる。
工程M1:表面に官能基(x)を有する基体(A)の該表面側に、含フッ素溶媒に含フッ素重合体(II)を溶解させた溶液を塗布し、つぎに、含フッ素溶媒を乾燥により除去して、含フッ素重合体(II)からなる中間層(C)を、表面に官能基(x)を有する基体(A)の該表面側に形成させる工程。
工程M2:中間層(C)の表面側に、含フッ素溶媒に含フッ素重合体(I)を溶解させた溶液を塗布し、つぎに、乾燥により含フッ素溶媒を除去して、中間層(C)の表面に含フッ素重合体(I)からなる表面層(B)を形成させる工程。
【0057】
工程M1における乾燥は、基体(A)の官能基(x)の一部または全部と、含フッ素重合体(II)の反応性基(y)の一部または全部との間に化学結合を形成しうる温度で行われる。乾燥温度は、通常100℃以上である。
工程M2における乾燥温度は、含フッ素重合体(II)のガラス転移温度以上、および含フッ素重合体(I)のガラス転移温度以上が好ましい。該温度で乾燥することにより、中間層(C)と表面層(B)が高強度に接着される。
【0058】
(マザーモールド)
マザーモールドは、モールド前駆体の表面層(B)側の表面に、マスターモールドの微細パターンを転写して得られるものである。
マザーモールドは、基体(A)と、表面層(B)と、基体(A)の表面に形成され、かつ基体(A)と表面層(B)との間に存在する中間層(C)とを有し、かつ表面層(B)側の表面にマスターモールドの微細パターンが反転した微細パターンを有する。
マザーモールドの微細パターンとしては、マスターモールドと同様の凹凸構造からなる微細パターンが挙げられる。
【0059】
(レプリカモールド)
レプリカモールドは、マザーモールドの表面層(B)の表面に導電層および金属層を形成して得られるものである。
レプリカモールドは、導電層と金属層とを有し、かつ導電層側の表面にマザーモールドの微細パターンが反転した微細パターンを有する。
レプリカモールドの微細パターンとしては、マスターモールドと同様の凹凸構造からなる微細パターンが挙げられる。
【0060】
(レプリカモールドの製造方法)
本発明のレプリカモールドの製造方法は、下記工程(a)〜(d)、必要に応じて工程(e)を有する方法である。
(a)表面に微細パターンを有するマスターモールドの微細パターンを、基体(A)と、表面層(B)と、基体(A)の表面に形成され、かつ基体(A)と表面層(B)との間に存在する中間層(C)とを有するモールド前駆体の表面層(B)側の表面に転写して、表面にマスターモールドの微細パターンが反転した微細パターンを有するマザーモールドを得る工程。
(b)マザーモールドの表面層(B)の表面に導電層を形成する工程。
(c)導電層の表面に電鋳法にて金属層を形成して、導電層と金属層とを有し、かつ導電層側の表面にマザーモールドの微細パターンが反転した微細パターンを有するレプリカモールドを得る工程。
(d)マザーモールドとレプリカモールドとを分離する工程。
(e)工程(c)と工程(d)との間に、または工程(d)の後に、金属層の裏面に支持体を貼り付ける工程。
【0061】
工程(a):
工程(a)は、具体的には、下記の工程(a1)および工程(a2)を有する工程である。
(a1)図1に示すように、基体(A)12と、表面層(B)16と、基体(A)12の表面に形成され、かつ基体(A)12と表面層(B)16との間に存在する中間層(C)14とを有するモールド前駆体10の表面層(B)16を含フッ素重合体(I)のガラス転移温度以上に加熱した後に、または微細パターン22を有するマスターモールド20を該ガラス転移温度以上に加熱した後に、表面層(B)16側の表面にマスターモールド20の微細パターン22を押しつけ、該微細パターン22を表面層(B)16の表面に転写して、表面に微細パターン22が反転した微細パターン18を有するマザーモールド11を得る工程。
(a2)図1に示すように、マスターモールド20およびマザーモールド11を含フッ素重合体(I)のガラス転移温度以下に冷却した後に、マスターモールド20とマザーモールド11とを分離する工程。
【0062】
マスターモールド20を表面層(B)16に押しつける際のプレス圧力(ゲージ圧)は、2MPa〜20MPaが好ましい。
【0063】
工程(b):
図2に示すように、マザーモールド11の表面層(B)16の表面に、微細パターン18の表面形状に沿うように導電層32を形成する。
【0064】
導電層32の材料としては、ニッケル、銅、クロム、アルミニウム、チタン、タングステン、モリブデン、錫、コバルト、金、銀、パラジウム、白金、これらのうちの少なくとも1種を主成分とする合金等が挙げられる。導電層32は、単一の層でもよく、複数の層からなってもよく、組成に分布のある構造を形成していてもよい。
導電層32の厚さ(複数の層よりなる場合は合計の厚さ)は、10〜10000nmが好ましく、20〜2000nmがより好ましい。導電層32の厚さが10nm〜10000nmであれば導電性と生産性に優れる。
【0065】
導電層32の形成方法としては、下記の方法(b1)または方法(b2)が挙げられる。導電層32を形成するために複数の手法を用いてもよい。
(b1)物理蒸着法にて、表面層(B)16の表面に導電性薄膜からなる導電層32を形成する方法。
(b2)表面層(B)16の表面に触媒を付着させた後、無電解めっき法にて表面層(B)16の表面に無電解めっき膜からなる導電層32を形成する方法。
【0066】
物理蒸着法としては、スパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
物理蒸着法にて導電層32を形成する際の温度は、微細パターン18の変形を抑える点から、含フッ素重合体(I)のガラス転移温度以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。
【0067】
無電解めっき法とは、金属塩、還元剤等を含む無電解めっき液に、表面に触媒が付着したマザーモールド11を浸漬し、還元剤から生じる電子の還元力によって、触媒が付着した表面において選択的に金属を析出させ、無電解めっき膜を形成する方法である。
【0068】
無電解めっき法に用いる触媒としては、金属微粒子、金属を担持した微粒子、コロイド、有機金属錯体等が挙げられる。
無電解めっき液に含まれる金属塩としては、ニッケル塩(硫酸ニッケル、塩化ニッケル、次亜リン酸ニッケル等。)、第二銅塩(硫酸銅、塩化銅、ピロリン酸等。)、コバルト塩(硫酸コバルト、塩化コバルト等。)、貴金属塩(塩化白金酸、塩化金酸、ジニトロジアンミン白金、硝酸銀等。)等が挙げられる。
無電解めっき液に含まれる還元剤としては、次亜リン酸ナトリウム、ホルムアルデヒド、テトラヒドロほう酸ナトリウム、ジアルキルアミンボラン、ヒドラジン等が挙げられる。
【0069】
無電解めっき法にて導電層32を形成する際の温度は、微細パターン18の変形を抑える点から、含フッ素重合体(I)のガラス転移温度以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。
【0070】
工程(c):
図3に示すように、導電層32の表面に電鋳法にて金属層34を形成して、導電層32側の表面にマザーモールド11の微細パターン18が反転した微細パターン36を有するレプリカモールド30を得る。
【0071】
金属層34の材料としては、ニッケル、銅、クロム、アルミニウム、チタン、タングステン、モリブデン、これらのうちの少なくとも1種を主成分とする合金等が挙げられる。
金属層34の厚さは、0.03〜30mmが好ましく、0.1〜5mmがより好ましい。金属層34の厚さが0.03〜30mmであれば、取扱い性と生産性に優れる。
【0072】
電鋳法とは、電解めっき液に、表面に導電層32が形成されたマザーモールド11を浸漬し、導電層32とこれに対向する外部電極との間に直流を通電し、通電による電子の還元力により、導電層32の表面に金属を析出させ、金属層34を形成する方法である、
析出させる金属がニッケルの場合の電解めっき液としては、内部応力が小さく、かつ硬度が比較的高い金属層34が形成される点から、スルファミン酸ニッケルを含む電解めっき液が好ましい。
【0073】
電鋳法にて金属層34を形成する際の温度は、微細パターン18の変形を抑える点から、含フッ素重合体(I)のガラス転移温度以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。
【0074】
工程(d):
図4に示すように、マザーモールド11とレプリカモールド30とを、表面層(B)16と導電層32との界面にて分離する。
使用済みのマザーモールド11は、前記工程(b)におけるマザーモールドとして再利用しても構わない。
【0075】
工程(e):
金属層34の厚さが薄い場合、金属層34の裏面に支持体を貼り付け、レプリカモールド30を補強してもよい。
支持体としては、金属板、ガラス板、コンクリート、金属粉末強化熱硬化樹脂等が挙げられる。
【0076】
得られたレプリカモールド30は、ナノインプリント法による、表面に転写微細パターンを有する物品の製造に用いられる。また、レプリカモールド30は、前記工程(a)におけるマスターモールドとして用いても構わない。
【0077】
転写微細パターンを有する物品としては、たとえば、下記のものが挙げられる。
光学素子:マイクロレンズアレイ、光導波路、光スイッチング、フレネルゾーンプレート、バイナリー素子、ブレーズ素子、フォトニクス結晶、ワイヤグリッド偏光子等、
反射防止部材:AR(Anti Reflection)コート部材等、
チップ類:バイオチップ、μ−TAS(Micro−Total Analysis Systems)用のチップ、マイクロリアクターチップ等、
その他:記録メディア、ディスプレイ材料、触媒の担持体、フィルター、センサー部材等。
【0078】
以上説明した本発明のレプリカモールドの製造方法にあっては、下記の理由から、マスターモールドの微細パターンをマザーモールドに精度よく転写でき、マザーモールドの微細パターンをレプリカモールドに精度よく転写でき、1つのマザーモールドから複数のレプリカモールドを作製できる。
【0079】
(i)モールド前駆体の表面層(B)が含フッ素重合体(I)からなる層であるため、マスターモールドとモールド前駆体の表面層(B)との間の離型性がよい。そのため、マスターモールドとマザーモールドとを分離する際に、微細パターンの変形、欠損等が発生しにくい。その結果、マザーモールドへの微細パターンの転写精度がよくなる。
(ii)モールド前駆体の表面層(B)を構成している含フッ素重合体(I)が無定形または非結晶性の重合体であるため、加熱時の流動性が比較的高い。そのため、表面層(B)を構成している含フッ素重合体(I)がマスターモールドの微細パターンに追随しやすい。その結果、マザーモールドへの微細パターンの転写精度がよくなる。
(iii)マザーモールドの表面層(B)が含フッ素重合体(I)からなる層であるため、耐薬品性が高い。そのため、表面層(B)の微細パターンが無電解めっき液や電解めっき液におかされにくい。その結果、レプリカモールドへの微細パターンの転写精度がよくなる。
(iv)マザーモールドの表面層(B)が含フッ素重合体(I)からなる層であるため、マザーモールドの表面層(B)とレプリカモールドの導電層との間の離型性がよい。そのため、マザーモールドとレプリカモールドとを分離する際に、微細パターンの変形、欠損等が発生しにくい。その結果、レプリカモールドへの微細パターンの転写精度がよくなる。
(v)マザーモールドの表面層(B)が含フッ素重合体(I)からなる層であるため、マザーモールドの微細パターンに変形、欠損、侵食等が発生しにくい。そのため、1つのマザーモールドから複数のレプリカモールドを作製できる。
【0080】
なお、通常、含フッ素重合体は各種基体との接着性が悪いため、微細パターンの転写の際に、含フッ素重合体からなる層が基体から剥離しやすい。本発明においては、モールド前駆体やマザーモールドとして、基体(A)と表面層(B)との間に、基体(A)および表面層(B)の両方への接着性に優れた含フッ素重合体(II)からなる中間層(C)を有するものを用いているため、微細パターンの転写の際に、含フッ素重合体(I)からなる表面層(B)が剥離することはない。
【実施例】
【0081】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0082】
(固有粘度)
含フッ素重合体の固有粘度は、ガラスウベローデ管を用い、30℃のペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)中にて測定した。
【0083】
(ガラス転移温度)
含フッ素重合体のガラス転移温度は、示差走査熱量計(ブルカー・エイエックスエス社製、DSC3100)を用い、昇温速度10℃/分の条件で測定した。なお、ガラス転移温度の測定は、JIS K7121:1987に準じて測定を行い、中間点ガラス転移温度をガラス転移温度とした。
【0084】
(赤外吸収スペクトル)
含フッ素重合体の赤外吸収スペクトルは、フーリエ変換赤外分光計(ニコレット社製、20DXC)を用いて測定した。
【0085】
(厚さ)
含フッ素重合体を塗布して形成された層の厚さは、光干渉式膜厚測定装置(浜松ホトニクス社製、C10178)を用いて測定した。含フッ素重合体(I−1)、含フッ素重合体(II−1)の屈折率はそれぞれ1.34とした。
【0086】
〔例1〕
含フッ素重合体(P−1)の製造:
オートクレーブ(耐圧ガラス製)に、化合物(3−3)の100g、メタノールの0.5g、および化合物(4−1)の0.7gを加え、懸濁重合法にて化合物(3−3)の重合を行って含フッ素重合体(P−1)を得た。含フッ素重合体(P−1)は下式(α−1)で表されるモノマー単位からなる重合体である。含フッ素重合体(P−1)の固有粘度は、0.34dL/gであった。含フッ素重合体(P−1)のガラス転移温度は、108℃であった。
CF=CFOCFCFCF=CF ・・・(3−3)、
((CHCHOCOO) ・・・(4−1)。
【0087】
【化5】

【0088】
〔例2〕
上式(α−1)で表されるモノマー単位からなる重合体で、末端が−CFである含フッ素重合体(以下、含フッ素重合体(I−1)と記す。)の製造:
含フッ素重合体(P−1)を、オートクレーブ(ニッケル製、内容積1L)に入れ、オートクレーブ内を窒素ガスで3回置換してから4.0kPa(絶対圧)まで減圧した。オートクレーブ内に窒素ガスで14体積%に希釈したフッ素ガスを101.3kPaまで導入してから、オートクレーブの内温を230℃に6時間保持した。オートクレーブの内容物を回収して含フッ素重合体(I−1)を得た。含フッ素重合体(I−1)の赤外吸収スペクトルを測定した結果、カルボキシル基に起因するピークは確認されなかった。含フッ素重合体(I−1)の固有粘度は、0.33dL/gであった。
【0089】
含フッ素重合体(I−1)を含む溶液組成物(以下、溶液組成物1と記す。)の調製:
含フッ素重合体(I−1)の9質量%を含むペルフルオロトリブチルアミン溶液を調製し、該溶液をメンブレンフィルター(孔径0.2μm、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す。)製)で濾過して溶液組成物1を得た。
【0090】
〔例3〕
上式(α−1)で表されるモノマー単位からなる重合体で、末端が反応性基(y)(カルボキシル基)である含フッ素重合体(以下、含フッ素重合体(II−1)と記す。)の製造:
含フッ素重合体(P−1)を、大気圧雰囲気下の熱風循環式オーブン中で300℃にて1時間熱処理し、つぎに超純水中に110℃にて1週間浸漬し、さらに真空乾燥機中で100℃にて24時間乾燥して、含フッ素重合体(II−1)を得た。含フッ素重合体(II−1)の赤外吸収スペクトルを測定した結果、1810cm−1にカルボキシル基に由来するピークが確認された。含フッ素重合体(II−1)の固有粘度は、0.34dL/gであった。
【0091】
含フッ素重合体(II−1)を含む溶液組成物(以下、溶液組成物2と記す。)の調製:
含フッ素重合体(II−1)の1質量%を含むペルフルオロトリブチルアミン溶液を調製し、該溶液をメンブレンフィルター(孔径0.2μm、PTFE製)で濾過して溶液組成物2を得た。
【0092】
〔例4〕
モールド前駆体の製造:
基体として石英基板(縦25mm×横25mm×厚さ1mm)を用意した。
アミノ基を有するシランカップリング剤(信越化学工業社製、KBE−903)の0.5質量%と水の5質量%とを含むエタノール溶液を、基体の表面にスピンコート法を用いて塗布した。基体を水洗してから、窒素気流中で100℃にて30分加熱乾燥して、該シランカップリング剤由来のアミノ基を基体の表面に導入する表面処理を行った。
【0093】
つぎに、基体の表面処理面にスピンコート法を用いて溶液組成物2を塗布し、140℃にて1時間、加熱乾燥して、溶液組成物2中のペルフルオロトリブチルアミンを揮発させた。同時に、基体の表面のアミノ基と、含フッ素重合体(II−1)のカルボキシル基とを化学結合させ、含フッ素重合体(II−1)からなる中間層(厚さ0.1μm)が表面に形成された基体を得た。
【0094】
つぎに、スピンコート法を用いて溶液組成物1を中間層の表面に塗布し、140℃にて2時間、加熱乾燥して、溶液組成物1中のペルフルオロトリブチルアミンを揮発させた。その結果、含フッ素重合体(I−1)からなる表面層(表面層と中間層との合計の厚さ1.3μm)が最表面に形成されたモールド前駆体を得た。
【0095】
〔例5(実施例)〕
工程(a):
マスターモールドとして、高さ750nm、直径500nmの円柱状の凸構造が1000nmの間隔で配列した微細パターンを表面に有するニッケル製のマスターモールドを用意した。
該マスターモールドを130℃に加熱し、含フッ素重合体(I−1)からなる表面層側に10MPa(絶対圧)で5分間、圧着させ、マスターモールドの微細パターンを表面層の表面に転写して、表面に微細パターンを有するマザーモールドを得た。マスターモールドおよびマザーモールドの温度を80℃以下にしてからマスターモールドとマザーモールドとを分離した。
【0096】
工程(b):
スパッタ装置のチャンバ内にマザーモールドおよびターゲット(ニッケル)をセットし、スパッタ法にて、マザーモールドの表面層の表面に、微細パターンの表面形状に沿うようにニッケルを蒸着させ、厚さ1000nmの導電層を形成する。
【0097】
工程(c):
50℃に加熱されたスルファミン酸ニッケルを含む電解めっき液に、表面に導電層が形成されたマザーモールドを浸漬し、導電層とこれに対向するニッケルアノードとの間に直流を通電し、導電層の表面にニッケルを析出させ、厚さ0.3mmの金属層を形成し、導電層側の表面に微細パターンを有するレプリカモールドを得る。
【0098】
工程(d)、(e):
金属層の裏面に支持体(厚さ5mmの銅板)を接着剤(エポキシ樹脂)で貼り付けた後、マザーモールドと、支持体で補強されたレプリカモールドとを、表面層と導電層との界面にて分離する。
【0099】
得られたレプリカモールドの微細パターンを電子顕微鏡にて観察する。高さ750nm、直径500nmの円柱状の凸構造が1000nmの間隔で配列しており、マスターモールドの微細パターンを再現している。
マザーモールドを再利用して工程(b)〜工程(e)を繰り返し行い、10個のレプリカモールドを製造する。いずれのレプリカモールドも、その微細パターンがマスターモールドの微細パターンを再現している。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の製造方法で得られたレプリカモールドは、ナノインプリント用のモールドとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明のレプリカモールドの製造方法における工程(a)を示す断面図である。
【図2】本発明のレプリカモールドの製造方法における工程(b)を示す断面図である。
【図3】本発明のレプリカモールドの製造方法における工程(c)を示す断面図である。
【図4】本発明のレプリカモールドの製造方法における工程(d)を示す断面図である。
【符号の説明】
【0102】
10 モールド前駆体
11 マザーモールド
12 基体(A)
14 中間層(C)
16 表面層(B)
18 微細パターン
20 マスターモールド
22 微細パターン
30 レプリカモールド
32 導電層
34 金属層
36 微細パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(a)〜(d)を有する、レプリカモールドの製造方法。
(a)表面に微細パターンを有するマスターモールドの前記微細パターンを、下記基体(A)と、下記表面層(B)と、前記基体(A)の表面に形成され、かつ前記基体(A)と前記表面層(B)との間に存在する中間層(C)とを有するモールド前駆体の前記表面層(B)側の表面に転写して、表面に前記マスターモールドの微細パターンが反転した微細パターンを有するマザーモールドを得る工程。
(b)前記マザーモールドの表面層(B)の表面に導電層を形成する工程。
(c)前記導電層の表面に電鋳法にて金属層を形成して、前記導電層と前記金属層とを有し、かつ前記導電層側の表面に前記マザーモールドの微細パターンが反転した微細パターンを有するレプリカモールドを得る工程。
(d)前記マザーモールドと前記レプリカモールドとを分離する工程。
基体(A):中間層(C)が形成される前には、中間層(C)が形成される表面に官能基(x)を有し、中間層(C)が形成された後には、中間層(C)が形成された表面に前記官能基(x)と下記反応性基(y)とに基づく化学結合を有する基体。
表面層(B):主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有し、かつ下記反応性基(y)を実質的に有しない含フッ素重合体(I)からなる層。
中間層(C):主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有し、かつ前記官能基(x)と反応性の反応性基(y)を有する含フッ素重合体(II)からなる層。
【請求項2】
前記微細パターンが、凹凸構造からなり、
該凹凸構造における凸構造部の高さの平均または凹構造部の深さの平均が、1nm〜500μmである、請求項1に記載のレプリカモールドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−84162(P2010−84162A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251501(P2008−251501)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】