説明

レンズ心取り加工装置及びレンズ心取り加工方法

【課題】カム式心取り機とNC式心取り機とのそれぞれの利点を活かしてコストパフォーマンスを良好なものとしたレンズ心取り加工の手法を提供する。
【解決手段】基準心取り機4は、数値入力に基づきホイール10を移動させてレンズ8の外径研削及び面取り研削を行ってレンズの心取り加工を行うと、この心取り加工におけるホイール10の移動の軌跡を横送りチャート16及び縦送りチャート17に記録する。研削工具の移動がカムの形状に基づいて制御されるカム式レンズ心取り加工装置における該カムを、この移動の軌跡に基づいて製作し、製作されたカムを装着したカム式レンズ心取り加工装置にレンズの心取り加工を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工レンズの外周や端面の加工や面取りなどの加工を被加工レンズの光学中心軸に合わせて行うレンズ心取り加工の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズを心取り加工する心取り機として、カムによってその加工動作の制御を行う心取り機(以降、「カム式心取り機」と称することとする。)が古くから知られており、現在でも多く使われている。また、昨今では、サーボモータ駆動により加工を行うNC(数値制御:Numerical Control )制御方式の心取り機(以降、「NC式心取り機」と称することとする)もよく使用されている。
【0003】
まず心取り加工であるが、本発明において述べる心取り加工は全てベル式心取りを前提としている。心取り加工とは両面を研磨されたレンズの光学中心軸を決める加工であり、両面に形成された球面の球心を通る1つの軸、つまり光学中心軸を形成するために、該中心軸を基準としてレンズの外径を削る加工である。その中でベル式心取り手法とは、互いの中心軸を予め合わせたカップ状の治具をレンズ両面からあてつけ、レンズを挟み込むようにすることで両面の球面を通る軸を一致させ、該状態でレンズの外径を削り成形する手法である。この手法では、予め対向する2つのカップの同軸度を高めておけば、レンズをカップで挟み込むことで自然と両球面の軸が一致し、光学軸が定まることから、球面レンズの心取り加工としては最も多く利用されている。
【0004】
次にカム式心取り機であるが、前記ベル式心取り法を実現する心取り機として、古くから利用されている装置である。代表的な装置としては(株)湘南光学工業所から販売されている装置が一般的であり、レンズの心取り加工を行う上で、2つのカムによる動作で加工を実施する。1つのカムは、心取り加工で光学中心軸を形成するためのレンズ外径の研削加工に関する動作を司るカムで、他方は研削した外径部などへ面取り加工を司る役割を有している。装置の動作全てを該2つのカムで制御するため、比較的安価で連続的に安定した動作が得られるためにカム心取り機として広く利用されている。
【0005】
NC式心取り機の一例として、特許文献1に開示されているものを説明する。これは、カムにより行われていた既存の心取り機の動作制御を、サーボモータ及びその制御装置へ置き換えたものである。すなわち、既存のカム式心取り機は、レンズ外径の切込み動作及び面取り加工の動作をカム形状に倣って行っていたが、特許文献1に開示のものは、制御装置が発するパルス信号でサーボモータを駆動させ、このモータの動作を制御することでカム式心取り機の動きを再現するというものである。
【0006】
カム式心取り機では、その動作を司るカムを被研削物に応じて専用で準備する必要があるのに対し、NC式心取り機では、サーボモータの動作設定をプログラム化することで多種多様な被研削物に対処することができる。従って、カムの製作費の削減と操作性の向上という効果を得ることができる。
【特許文献1】特開昭59−1143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら上掲した特許文献1に開示のNC式心取り機では、レンズの種類に応じたカムの製作は不要となったものの、心取り機ごとに専用でサーボモータやその制御機構を搭載する必要がある。このことは、多品種でありながら各品種のレンズ生産数量が少なく、頻繁に被研削物を入れ替える段取り作業が発生するような多品種少量生産での心取り加工を行う場合には便利である。しかし、デジタルカメラの普及等に伴い多くの光学製品の生産が求められる現在の製造環境は、多品種でありながら各品種とも非常に大量のレンズを生産する多品種多量生産といったものである。このため、上述したNC式心取り機は、こういった現在の製造環境には不向きである。
【0008】
また、心取り工程は、レンズを1枚ごとに加工せざるを得ない工程であるため、多品種多量生産では非常に多くの心取り機が必要となる。このため、既存のカム式心取り機の代わりにNC式心取り機を生産現場に多数台配備することは多額の設備投資が必要となり、却って経済性を低下させることになる。更に、古くから利用されてきたカム式心取り機を多数台保有している場合には、その全てをNC式に置き換えるためには多額の費用と時間が必要となり、製造コストに対して大きな重荷となる。
【0009】
また、デジタルカメラは、多品種とはいえ、短期間で多量のレンズを連続的に製造する生産形態であり、日常的にレンズの種類を交換することは少なく、新製品の生産時などに集中して心取り機の設定の変更作業が生じる。しかも、場合によっては、新製品であってもレンズは継続して旧製品のレンズを利用することもあるため、心取り工程としては新製品の生産時となってもレンズの種類が変わらない場合も多々ある。このため、レンズ形状に臨機応変に対応できるNC式心取り機で生産する場合、NC式心取り機が有している付加価値である臨機応変な設定変更を充分に生かしきれず、設備投資に見合った効果を得ることが難しくなる。このような場合には、寧ろ、カムを交換するだけで後は連続的に心取り加工を行うことができるカム式の心取り機を利用する方が、安価な装置で多量生産ができ、大きなメリットとなる。
【0010】
また、カム式心取り機であれば、NC式心取り機に比べ、動作用のモータ及び研削工具用のモータを駆動させるのみで作動させることができるので、装置全体の消費電力も少なく、省エネルギーかつ低コストでの生産が可能である。このことは、前述したデジタルカメラのような多品種多量生産で多くの心取り機を稼動させるような工場においては、特に効果的である。
【0011】
しかし、前述したように、カム式心取り機には、レンズの種類に応じてカムを用意する必要がある。一般に、殆どのレンズは汎用カム(メーカーより供給される標準カム)を用いれば専用のカムを製作しなくとも加工を行うことはできるものの、最適で効率の良い品質の安定したレンズの製造を行う点を重視すると、専用のカムを使用することがやはり望ましい。
【0012】
また、デジタルカメラは新製品の入れ代わりも早く、例え同じレンズを次製品にも採用したとしても、そのレンズの生産期間は年々短くなってきているため、そのレンズの生産用のカムを長期間に亘って維持し保管する必要性も薄れてきている。むしろ、その都度新しいレンズの生産に応じてその都度最適なカム形状を作成して使用するようにして、短い製品サイクルで短期間に大量のレンズを製造し、短期間に高効率・高品質かつ低コストで生産することが望まれている。
【0013】
しかしながら、個別のレンズに応じた最適なカム形状を机上理論の設計のみで得ることは難しい。このため、カムを製作して実際に心取り加工を行い検証することが重要である。特に、専用カムを必要とするようなレンズは、実際の加工も難しい点が多いため、机上理論での設計に加え、実際の心取り加工を通してカム形状の微調整を行うことが必要であり、この作業が最適で高効率な心取り加工を行うことにもつながる。つまり、レンズに最適なカム形状をいかに短時間で設定し製作するかが重要であり、カム設計からカム製作までのリードタイムの短縮化が必須となる。
【0014】
またカムの設計を誤った場合や、実際の心取り加工を行ってからカム形状の変更や修正の必要性が生じた場合などは、カムを作り直すことになるが、この場合には、再作費用や再作による時間ロスが大きな問題となる。なお、この点に関しては、前述したNC式心取り機が有利である。
【0015】
本発明は上述した問題に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、カム式心取り機とNC式心取り機とのそれぞれの利点を活かしてコストパフォーマンスを良好なものとしたレンズ心取り加工の手法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の態様のひとつであるレンズ心取り加工装置は、回転させている被加工物の外径研削及び面取り研削を、研削工具を数値入力に基づき移動させて行うことによってレンズの心取り加工を行う心取り機構と、上記心取り加工における上記研削工具の移動の軌跡を記録する記録部と、を有することを特徴とするものであり、この特徴によって前述した課題を解決する。
【0017】
なお、上述した本発明に係るレンズ心取り加工装置において、上記心取り機構は、上記研削工具を上記レンズの光軸方向と該光軸方向に垂直な方向とに移動させ、上記記録部は、上記研削工具の上記光軸方向の移動の軌跡を記録する第一の記録部と、上記研削工具の上記光軸方向に垂直な方向の移動の軌跡を記録する第二の記録部と、を有する、ように構成することができる。
【0018】
なお、このとき、前述した本発明に係るレンズ心取り加工装置において、上記第一の記録部は、上記被加工物を回転させているモータの回転力によって巻き取られる第一の記録用紙と、上記第一の記録用紙に対向して配置されており、上記研削工具の上記光軸方向の移動に連動して該移動の軌跡を該第一の記録用紙に描く第一のペンと、を有しており、上記第二の記録部は、上記モータの回転力によって回転する第二の記録用紙と、上記第二の記録用紙に対向して配置されており、上記研削工具の上記光軸方向に垂直な方向の移動に連動して該移動の軌跡を該第二の記録用紙に描く第二のペンと、を有している、ように構成することができる。
【0019】
なお、このとき、上記被加工物の回転数は、数値入力により制御可能であり、上記第一の記録部は、上記第一の記録用紙に対向して配置されており、所定の時間間隔で該第一の記録用紙に所定の印を描く第三のペンを更に有している、ように構成することができる。
【0020】
また、上記第一及び上記第二の記録部は、上記研削工具の上記光軸方向の移動の軌跡及び該光軸方向に垂直な方向の移動の軌跡を、上記数値入力に基づいて算出して記録するように構成することもできる。
【0021】
なお、上述した本発明に係るレンズ心取り加工装置を用いてレンズの心取り加工を行ったときの上記研削工具の移動の軌跡を上記記録部に記録させる記録工程と、回転させている被加工物の外径研削及び面取り研削を、研削工具を移動させて行うことによってレンズの心取り加工を行うものであって、該研削工具の移動がカムの形状に基づいて制御されるカム式レンズ心取り加工装置における該カムを、上記移動の軌跡に基づいて製作する製作工程と、上記製作工程によって製作された上記カムを装着した上記カム式レンズ心取り加工装置にレンズの心取り加工を行わせる加工工程と、を含むことを特徴とするレンズ心取り加工方法も本発明に係るものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、以上のようにすることにより、カム式心取り機とNC式心取り機とのそれぞれの利点を活かしてコストパフォーマンスを良好なものとしたレンズ心取り加工の手法の提供が可能となるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
まず、本発明の実施形態であるレンズ心取り加工の概要について説明する。
この加工においては、レンズの形状に応じて臨機応変に心取り条件を変更できるNC式心取り機をベースにして構成される基準心取り機を利用する。そして、この基準心取り機を用いて実際の心取り加工を行うことでレンズ心取り条件を抽出し、その条件を再現するためのカム形状の設計を行う。その後、実際のレンズの生産は、この基準心取り機で抽出されたカム形状に基づき製作されたカムを利用して既存のカム式心取り機で行うようにする。こうすることにより、省電力で連続した心取り加工を安定かつ安価に行うことができる。つまり、基準心取り機でレンズ心取り加工を実際に行って最適な心取り条件を抽出し、抽出された心取り条件と心取り加工動作とを再現するカム形状を導き出して専用カムを製作し、レンズの生産は既存のカム式心取り機を利用して行う。
【0024】
図1について説明する。図1は本発明を実施するレンズ心取り加工装置を含むレンズ心取り加工システムの概念図である。
図1に示す心取り製造システム1は、数値制御心取り機2及びカム形状出力装置3を備えている基準心取り機4と、カム式心取り機6とから成るものである。
【0025】
数値制御心取り機2は、被研削物であるレンズの心取り加工として、外径研削、面取り研削、レンズスラスト(端面)研削等を、任意の研削条件を設定して実施する心取り機構である。レンズに対する数値制御心取り機2による実際の心取り加工を通して、最適な加工条件の抽出が行われる。
【0026】
カム形状出力装置3は、数値制御心取り機2を用いて行われた数値制御による実際の加工を通して使用された数値制御データや心取り機の動作から加工条件を抽出し、その加工条件をカム式心取り機6で再現させるカム形状を導き出す。
【0027】
カム式心取り機6はレンズの心取り加工を行うものであるが、基準心取り機4により導き出されたカム形状を有するカム5が搭載されており、心取り加工の動作が、このカム5の形状によって制御される。
【0028】
心取り製造システム1では、生産を控え新規のカム5を必要とするレンズについて、心取り加工であるレンズの外径研削、面取り研削、スラスト(端面)研削の作業を、基準心取り機4(数値制御心取り機2)により実際に行う。このとき、基準心取り機4(数値制御心取り機2)における各軸の動作は数値制御がされており、その移動量や移動速度は作業者が数値を入力することで設定する。つまり、最初はレンズ形状に基づいた理論的な位置算出や製造部門が保有する心取り条件の設定標準書や経験則に応じた心取り条件を作業者が装置に入力して実際の試し加工を実施する。そして、この試し加工において最適な心取り条件の抽出を行う。なお、抽出される心取り条件は、基準心取り機4に備えられているカム形状出力装置3が記録する。更に、カム形状出力装置3は、同一の心取り条件での心取り加工動作をカム式心取り機6に行わせるためのカム5の形状データを生成して出力する。次に、カム形状出力装置3から出力されたカム形状データに基づいてカム式心取り機6用のカム5の製作を行う。
【0029】
このようにすることで、製造すべきレンズに最適な心取り条件をカム式心取り機6に与えるカム5の製作が容易になる上に、基準心取り機4で設定した最適条件をカム式心取り機6に移植することができるようになる。従って、カム式心取り機6の台数に応じてカム5を製作すれば、安価なカム式心取り機6に、基準心取り機4で行ったのと同一の心取り加工を並行して行わせることができるようになる。
【0030】
以下、本発明の実施例をより具体的に説明する。
【実施例1】
【0031】
本実施例では、数値制御により動作する心取り機に該心取り機の各動作軸の移動状態を記録する動作記録装置を搭載して、実際の加工を通して得た心取り機の動作を容易にカム化できるようにした基準心取り機4を使用し、この基準心取り機4を利用して得たカム線図をカム式心取り機に活用することで効率的にレンズの心取り製造を行う。
【0032】
図2Aについて説明する。同図は、本発明を実施するレンズ心取り加工装置である、本実施例で使用する基準心取り機4の構成を示しており、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【0033】
古くから利用されている機械動作によるカム式の心取り機、及び数値制御によりカムを不要として加工を行うNC式心取り機に関する原理及び構造に関しては、前掲した特許文献1にも記載されている。図2Aにおいて、機械動によるカム式として基準心取り機4を動作させるのであれば、ベルヤトイ11と称する円筒カップ状の治具でレンズ8を挟持し、レンズ8両面に有する球面の球心を一致させた上で、レンズ8の外径を研削するカム(以降、「縦カム」と称することとする)と、面取りを行うカム(以降、「横カム」と称することとする)とのカム線図に基づき、研削加工用の電着工具であるホイール10を動作させて心取り加工を行う。一方、本実施例では、数値制御によるNC式として基準心取り機4を動作させる。この場合、ベルヤトイ11でレンズ8を挟持して心取り加工を行う点はカム式によるものと同様であるが、心取り機の動作を数値化し制御装置21による数値制御で各モータを動作させて心取り加工を行う点が異なっている。
【0034】
なお、基準心取り機4における心取り加工の基本機構としては公知のベル式心取り手法を利用している。この公知の心取り機構や原理などに関しては説明を省略する。
基準心取り機4は、心取り加工を行うときの加工条件となる心取り機の動作、すなわち心取りホイール10の移動量とその移動に要する時間を記録すると共に、その記録結果をカム式心取り機6で利用するためのカム線図として抽出する動作記録装置を搭載している点が最大の特徴である。
【0035】
動作記録装置は、ホイール10がレンズ8に接近、後退してレンズ8の外径を加工する際の動作と、ホイール10の横移動に伴うレンズ8の面取り加工を行う動作に関して記録を行う機構である。本実施例では、これらの2つの動作をペンレコーダによってチャート用紙に記録する機構を動作記録装置として設けている。
【0036】
具体的な動作記録装置の構成について説明する。
動作記録装置は、基準心取り機4のベルヤトイ11に挟持された被研削物であるレンズ8を回転させるように接続されている主軸モータ12と、この主軸モータ12の回転軸に継承されており、主軸モータ12の回転力によって巻き取られながら進行するロール式の記録紙である横送りチャート16と、同様に主軸モータ12の回転に従って回転を行う記録紙である縦送りチャート17とが基準心取り機4に取り付けられて構成されている。更に、基準心取り機4の動作を横送りチャート16に書き込むための横送りペン18が、横送りチャート16に対向して配置されている。この横送りペン18は、横送りボールネジ22に横送りアーム20を介して取り付けられている。
【0037】
横送りボールネジ22は、横送りモータ15の回転運動を直線運動に変換する送り装置である。横送りボールネジ22には、心取り加工を行う研削工具であるホイール10とホイール10を回転させるホイールモータ13とを支えているホイールアーム23が、横送りアーム20と共に取り付けられている。従って、横送りモータ15による送り運動によりホイールアーム23に取り付けられたホイール10が横方向(横送りボールネジ22の向く方向、すなわちレンズ8の光軸方向)に移動し、この移動に連動して横送りアーム20を介して横送りペン18も横方向に移動する。
【0038】
一方、主軸モータ12の回転力によって回転運動を行う縦送りチャート17には、縦送りペン19が対向して配置されている。縦送りペン19は、ホイールアーム23の横方向移動に対して縦送りペン19が追従できるようにするために、ホイール10を支えるホイールアーム23にバネ24を介して押圧保持されている。
【0039】
ホイール10及びホイールモータ13を支持するホイールアーム23は、横送りボールネジ22によって横方向へ移動できることに加え、横送りボールネジ22の軸を中心に回動自在に継承されている。このホイールアーム23を横送りボールネジ22の軸を中心に回動させるために、ホイールアーム23の背後((a)におけるホイールアーム23の左側)には縦送りモータ14が送りネジ29を介して螺着されている。縦送りモータ14を回転させてホイールアーム23を回動させることにより、ホイール10が回動する。このときの回動に伴う位置変化に対応できるようにするために、縦送りモータ14は軸受け28を介して心取り機本体30に取り付けられている。従って、縦送りモータ14による送り運動によりホイールアーム23に取り付けられたホイール10が縦方向(送りネジ29の向く方向、すなわちレンズ8の光軸方向に垂直な方向)に移動し、この移動に連動して縦送りペン19も縦方向に移動する。
【0040】
また、横送りチャート16に対向して、横送りペン18と共にタイマーペン25が設けられている。タイマーペン25は、常に定められた時間間隔で記録用のペンを動作させる装置である。心取り加工中にレンズ回転数を変化させた場合には、横送りチャート16の送り速度も変化してしまうため、常に一定時間間隔で運動させて横送りチャート16に所定の印を描くように構成されている。タイマーペン25は、レンズ回転数を心取り加工中に変化させることができるカム式心取り機6のために設けられており、心取り加工中にレンズ8の回転数を変化させないような加工を行う場合には不要である。但し、レンズ8の心取り品質によってはプロセス中にレンズ8の回転数を変化させる場合もあるため、横送りチャート16の送り速度が変化したことを記録するために設けられている。
【0041】
なお、この基準心取り機4に備えられている主軸モータ12、縦送りモータ14、及び横送りモータ15は、制御装置21によりその回転動作を数値制御する。
以上のように構成されている基準心取り機4を使用してレンズ8の心取り加工を実際に行う。すると、上述した構成の動作記録装置における第一の記録用紙である横送りチャート16と、第二の記録用紙である縦送りチャート17とには、この心取り加工の記録、すなわち、研削工具であるホイール10の移動の軌跡が、第一のペンである横送りペン18と、第二のペンである縦送りペン19と、第三のペンであるタイマーペン25とによって描かれる。この横送りチャート16及び縦送りチャート17上の心取り加工の記録に基づいて、図2Bに示すような、縦カム5a及び横カム5bを製作する。
【0042】
ここで、横送りチャート16には横送りペン18で記録されたホイール10の横方向(横送りボールネジ22の向く方向、すなわちレンズ8の光軸方向)の移動量記録27と、タイマーペン25で記録された時間記録26とが記録されているので、横カム5bの設計及び製作は、これらの記録に基づいて導き出される、ホイール10の切込み速度となる横送り速度と切込み量となる移動量とに基づいて行う。また、縦カム5aの設計及び製作は、縦送りチャート17に記録されたホイール10の縦方向(送りネジ29の向く方向、すなわちレンズ8の光軸方向に垂直な方向)の移動量のデータに基づいて導き出される、レンズ8の外径切込み量及び切込み速度に基づいて行う。
【0043】
このようにして製作されるカム5(縦カム5a及び横カム5b)を、使用するカム式心取り機6の台数分製作し、図2Bに示すように、カム式心取り機6に各々装着する。この後は、このカム式心取り機6の各々でレンズ心取り加工を並行して行う。
【0044】
上述したレンズ心取り加工の手順を更に詳しく説明する。
まず、被研削物であるレンズ8を基準心取り機4のベルヤトイ11で挟持し、光学心を出す。そして、この状態で制御装置21の指示により主軸モータ12を回転させてレンズ8を回転させる。すると、連動して動作する横送りチャート16及び縦送りチャート17が回転を始め、当てつけてある横送りペン18、タイマーペン25、縦送りペン19が横送りチャート16及び縦送りチャート17にその軌跡を描くようになる。
【0045】
この状態で制御装置21より縦送りモータ14に動作指示を送ると、縦送りモータ14回転によってホイールアーム23が横送りボールネジ22を中心に回動し、ホイール10をレンズ8に接近させる。なお、このとき、ホイール10はホイールモータ13によって回転を行っている。
【0046】
ここで、制御装置21からの指示に従ってホイール10がレンズ8に近づいて接触することでレンズ8の外径が削られ、ベルヤトイ11で挟み心出しされた状態のレンズ8に対する心取り加工が行われる。このとき、ホイールアーム23の移動に応じて縦送りペン19が移動するので、主軸モータ12の回転に連動して回転している縦送りチャート17にはホイールアーム23の接近に伴う軌跡が描かれる。この軌跡は、ホイールアーム23の縦方向の移動軌跡、すなわちホイール10の縦方向の移動軌跡であり、これはレンズ8の外径を研削する研削切込み量に値する。
【0047】
なお、縦送りチャート17は円形チャートであるので、ホイールアーム23が移動しないときは同心円上に軌跡が描かれる。従って、縦送りチャート17の中心からの距離の差を導き出せば実際のホイール移動量となり、更に、縦送りチャート17の回転角度と後述する横送りチャート16上の時間記録26の軌跡間隔とから、そのときの経過時間を導き出すことができる。
【0048】
同様に、横送りチャート16上に横送りペン18で描かれた移動量記録27から、ホイールアーム23の横方向の移動量、すなわちホイール10の横方向の移動量を直接読み取ることができ、更に、タイマーペン25で描かれた時間記録26の軌跡間隔から経過時間を読み取ることができる。
【0049】
これらを元に、レンズ8の心取り加工を実際に行ったときの基準心取り機4の動作と同じ動作をカム式心取り機6に行わせるためのカム線図(カム設計図)を描く。こうして、カム式心取り機6で利用する縦カム5a及び横カム5bを、縦送りチャート17及び横送りチャート16から設計製作することができる。
【0050】
このように、本実施例においては、レンズ8の実際の心取り加工を通して容易に縦カム5a及び横カム5bの設計がされるので、カム式心取り機6の台数に応じて同じカムを多数枚製作すれば、基準心取り機4で設定した心取り条件を容易に移植することができ、安価なカム式心取り機6で効率の高い製造を行うことができる。また、縦送りチャート17では円形チャート、横送りチャート16ではロールペーパ式を採用しているので、それぞれに描かれた軌跡は、そのままそれぞれのカム線図に対応した形式となっている。従ってレンズ8の回転数が加工の間で一定であれば、描かれた軌跡をそのまま図面として利用することも可能であり、カム設計の煩わしさや失敗を防止することもできる。
【0051】
このように、本実施例によれば、実際の心取り加工を通して心取り機の動作記録を得ることで、複数のカム式心取り機への加工条件の移植が容易となり、効率の高い心取り製造システムの提供が可能となる。
【実施例2】
【0052】
本実施例では、数値制御式の基準心取り機に対する制御動作の記録をパーソナルコンピュータ(以降、「パソコン」と称することとする。)で記録することで、カム式心取り機と併用した効率の高い心取り製造システムを提供する。
【0053】
図3Aについて説明する。同図は、本発明を実施するレンズ心取り加工装置である、本実施例で使用する基準心取り機4’の構成を示しており、(a)は側面図、(b)は正面図である。なお、図3Aにおいて、図2Aに示した実施例1で使用するものと同一の構成要素については同一の符号を付しており、その説明を省略する。
【0054】
図3Aに示した基準心取り機4’では、動作記録装置として、パソコン31が設けられている点に特徴を有している。
基準心取り機4’は、実施例1における基準心取り機4と同様、レンズ8の心取り加工における心取り条件を司るカム形状を見出すために利用する。このために、基準心取り機4では、心取り加工を行うホイール10の動作に関して、数値制御による制御動作を制御装置21で行うようにし、主軸モータ12、縦送りモータ14、及び横送りモータ15にはサーボモータを使用する。また、各サーボモータの駆動動作を制御する制御装置21とパソコン31とは専用のインタフェースを用いて接続し、制御装置21に対する各サーボモータの制御指示とその制御の記録とはパソコン31によって行う。
【0055】
以上のように構成されている基準心取り機4’でレンズ8の外径加工、面取り加工を実際に行うときには、制御装置21の通信機能を利用し、それぞれ縦送りモータ14及び横送りモータ15に対し、パソコン31から制御装置21を介して動作指示を送付する処理を、パソコン31内の演算処理装置に行わせる。また、このときに発行される動作指示をパソコン31内の記憶装置(例えばハードディスク装置)に記録させると共に、この動作指示に対応する実施例1と同様の横送りチャート16及び縦送りチャート17を作成して表示装置に表示させる処理をパソコン31内の演算処理装置に行わせる。
【0056】
なお、これらの制御処理をパソコン31内の演算処理装置に行わせるには、予め作成しておいた所定の制御プログラムを演算処理装置に読み込ませて実行させることで可能となる。ここで予め読み込ませる制御プログラムであるが、サーボモータなどのNC機器を製造するメーカより供給される市販の開発ツールを利用することができる。サーボモータは数値指令に基づき動作を行うが、システムの開発用ツールとして、モータのセットアップからチューニング、動作の解析・ソリューション機能など高度な作業を容易に行うことができるようになっている。これらのアプリケーションを利用すれば、サーボモータが動作している際の時間軸に対するモータの移動(回転)量などを、パソコンを通してグラフ化することが容易にできるため、該機能を利用して時間軸に多定するモータの回転量から加工軸の移動量に換算し、数値データとあわせてグラフ化を行う。得られたグラフは、そのままカム線図として利用することも可能であるため、わざわざ設計作業を行うこともなく実際の加工(装置の動作)を通して設計を完了させて利用することができる。
【0057】
こうして横送りチャート16及び縦送りチャート17が作成された後のレンズ心取り加工の手順は実施例1と同様である。
すなわち、まず、この横送りチャート16及び縦送りチャート17上の心取り加工の記録に基づいて、図3Bに示すような縦カム5a及び横カム5bを製作する。ここで、横カム5bの設計及び製作は、横送りチャート16に記録された移動量記録27と時間記録26とに基づいて導き出される、ホイール10の切込み速度となる横送り速度と切込み量となる移動量とに基づいて行い、縦カム5aの設計及び製作は、縦送りチャート17に記録されたホイール10の縦方向(送りネジ29の向く方向)の移動量のデータに基づいて導き出される、レンズ8の外径切込み量及び切込み速度に基づいて行う。なお、本実施例では、基準心取り機4’を使用して実際に行われた心取り加工の記録がパソコン31内に既に保存されているので、カム設計用の図面製作をパソコン31で行う場合に便利である。
【0058】
この後カム5(縦カム5a及び横カム5b)を、使用するカム式心取り機6の台数分製作し、図3Bに示すように、カム式心取り機6に各々装着する。この後は、このカム式心取り機6の各々でレンズ心取り加工を並行して行う。このように、レンズ8の実際の心取り加工を通して容易に縦カム5a及び横カム5bの設計がされるので、カム式心取り機6の台数に応じて同じカムを多数枚製作すれば、基準心取り機4’で設定した心取り条件を容易に移植することができ、安価なカム式心取り機6で効率の高い製造を行うことができる。
【0059】
このように、本実施例によれば、実際の心取り加工を通して心取り機の動作記録を数値データとして得ることができるので、複数のカム式心取り機への加工条件の移植が容易となり、効率の高い心取り製造システムの提供が可能となる。
【0060】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上述した各実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明を実施するレンズ心取り加工装置を含むレンズ心取り加工システムの概念図である。
【図2A】実施例1で使用する基準心取り機の構成を示す図である。
【図2B】実施例1におけるレンズ心取り加工の手順を示す図である。
【図3A】実施例2で使用する基準心取り機の構成を示す図である。
【図3B】実施例2におけるレンズ心取り加工の手順を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1 心取り製造システム
2 数値制御心取り機
3 カム形状出力装置
4、4’ 基準心取り機
5 カム
5a 縦カム
5b 横カム
6 カム式心取り機
8 レンズ
10 ホイール
11 ベルヤトイ
12 主軸モータ
13 ホイールモータ
14 縦送りモータ
15 横送りモータ
16 横送りチャート
17 縦送りチャート
18 横送りペン
19 縦送りペン
20 横送りアーム
21 制御装置
22 横送りボールネジ
23 ホイールアーム
24 バネ
25 タイマーペン
26 時間記録
27 移動量記録
28 軸受け
29 送りネジ
30 心取り機本体
31 パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転させている被加工物の外径研削及び面取り研削を、研削工具を数値入力に基づき移動させて行うことによってレンズの心取り加工を行う心取り機構と、
上記心取り加工における上記研削工具の移動の軌跡を記録する記録部と、
を有することを特徴とするレンズ心取り加工装置。
【請求項2】
上記心取り機構は、上記研削工具を上記レンズの光軸方向と該光軸方向に垂直な方向とに移動させ、
上記記録部は、
上記研削工具の上記光軸方向の移動の軌跡を記録する第一の記録部と、
上記研削工具の上記光軸方向に垂直な方向の移動の軌跡を記録する第二の記録部と、
を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のレンズ心取り加工装置。
【請求項3】
上記第一の記録部は、
上記被加工物を回転させているモータの回転力によって巻き取られる第一の記録用紙と、
上記第一の記録用紙に対向して配置されており、上記研削工具の上記光軸方向の移動に連動して該移動の軌跡を該第一の記録用紙に描く第一のペンと、
を有しており、
上記第二の記録部は、
上記モータの回転力によって回転する第二の記録用紙と、
上記第二の記録用紙に対向して配置されており、上記研削工具の上記光軸方向に垂直な方向の移動に連動して該移動の軌跡を該第二の記録用紙に描く第二のペンと、
を有している、
ことを特徴とする請求項2に記載のレンズ心取り加工装置。
【請求項4】
上記被加工物の回転数は、数値入力により制御可能であり、
上記第一の記録部は、上記第一の記録用紙に対向して配置されており、所定の時間間隔で該第一の記録用紙に所定の印を描く第三のペンを更に有している、
ことを特徴とする請求項3に記載のレンズ心取り加工装置。
【請求項5】
上記第一及び上記第二の記録部は、上記研削工具の上記光軸方向の移動の軌跡及び該光軸方向に垂直な方向の移動の軌跡を、上記数値入力に基づいて算出して記録することを特徴とする請求項2に記載のレンズ心取り加工装置。
【請求項6】
請求項1から5のうちのいずれか1項に記載のレンズ心取り加工装置を用いてレンズの心取り加工を行ったときの上記研削工具の移動の軌跡を上記記録部に記録させる記録工程と、
回転させている被加工物の外径研削及び面取り研削を、研削工具を移動させて行うことによってレンズの心取り加工を行うものであって、該研削工具の移動がカムの形状に基づいて制御されるカム式レンズ心取り加工装置における該カムを、上記移動の軌跡に基づいて製作する製作工程と、
上記製作工程によって製作された上記カムを装着した上記カム式レンズ心取り加工装置にレンズの心取り加工を行わせる加工工程と、
を含むことを特徴とするレンズ心取り加工方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【公開番号】特開2008−80426(P2008−80426A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−261777(P2006−261777)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】