説明

レーザ加工用光学装置

【課題】高い集光位置精度を有する高速加工可能なレーザ加工用光学装置を提供する。
【解決手段】ガルバノミラー4により偏向されたレーザ光を集光するfθレンズ6とプリント基板7との間の光路上に、当該fθレンズ6により集光されるレーザ光を複数のレーザ光に分岐する回折型光学素子8を導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を熱源として用い、その熱によってプリント基板等の加工対象物を高速で局所的に加熱し、穴開けなどのレーザ加工を行う技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ光をガルバノミラーで偏向させてレンズで集光し、加工対象物に瞬時に穴開け等の加工をするレーザ加工用光学装置として、ガルバノミラー及びガルバノスキャナと、ガルバノミラーにより反射されたレーザ光を集光するfθレンズと、加工対象物をXY方向に移動させ、走査エリアを変えるXYテーブルとを備えたものがある。しかし、市場から要求されている加工時間の短縮を図ることは、ガルバノスキャナ、XYテーブルの能力が限界に近づいているため困難である。そのため、ガルバノミラーとfθレンズのほかに、レーザ光を複数のレーザ光に分岐する回折型光学素子(DOE)を光路に導入したレーザ加工用光学装置が知られている。このような装置として、例えば特許文献1に記載のものでは、レーザ発振器とガルバノミラーとの間の光路上に回折型光学素子を配置し、偏向された分岐レーザ光をfθレンズで集光することにより高速加工を可能としている。
【特許文献1】特許第3458759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1のレーザ加工用光学装置で、加工対象物に微細な穴開け加工を行う場合、回折型光学素子で分岐された分岐レーザ光は、角度調整された二つのガルバノミラーで偏向されfθレンズを通って走査される。その際、加工対象物上の走査する箇所により、分岐レーザ光のスポット群のピッチが若干変わってしまうという原理上の問題がある。そのため、レーザ光の走査時における集光位置にズレが生じ、加工する穴のピッチ精度が低下するという問題がある。
これは、各分岐レーザ光の分岐角度(光軸と成す角度)とガルバノミラーによるレーザ光の偏向角度とが単純な和とならないことに原因がある。すなわち、ある分岐レーザ光の分岐角度のX成分、Y成分をα、β、X方向、Y方向の2つのガルバノミラーによる偏向角度(ミラー揺動によるビーム振り角)をξ、ζとすると、fθレンズへの入射角度のX成分、Y成分がそれぞれγ=α+ξ、η=β+ζのような単純和となれば、加工対象物上のスポットのピッチはΔX=f×Δγ=f×Δα、ΔY=f×Δη=f×Δβとなり、偏向角度ξ、ζによってピッチが変化することはない。ここで、fはfθレンズの焦点距離である。しかしながら、実際には、上記のような分岐角度と偏向角度の単純和は原理的に成立しない。詳細の説明は割愛するが、結論としては、γ≒(α+ξ)√(1+tanη)、η≒β√(1+tanξ)+ζというような複雑な関係式となってしまう。従って、スポットのピッチは、ΔX≒f×Δα√(1+tan(β√(1+tanξ)+ζ))、ΔY≒f×Δβ√(1+tanξ)となり、偏向角度ξ、ζによってピッチが変化することになるのである。
本発明はこのような従来技術の問題点に鑑み、高い集光位置精度を有する高速加工可能なレーザ加工用光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、本発明は次の技術的手段を講じた。
すなわち本発明は、レーザ光を発生させるレーザ発振器と、このレーザ発振器より発生した前記レーザ光を所定の偏向角度で偏向させるガルバノミラーと、このガルバノミラーにより偏向されたレーザ光を集光するfθレンズと、このfθレンズと加工対象物との間の光路上に配置され、前記fθレンズにより集光されるレーザ光を複数のレーザ光に分岐する回折型光学素子とを備えていることを特徴とするレーザ加工用光学装置である。
【0005】
上記本発明のレーザ加工用光学装置によれば、fθレンズで集光されたレーザ光が回折型光学素子により複数のレーザ光に分岐されるため、高速加工が可能となっている。
また、分岐ビームをガルバノミラーで偏向するのではないので、分岐角度と偏向角度とが単純な和とならないためにスポットのピッチ精度が低下するという前出の問題がなくなる。従って、レーザ光の走査時における集光位置精度を高めることができ、加工対象物に開ける穴のピッチ精度を向上させることができる。
【0006】
上記本発明の前記fθレンズとして、像側テレセントリック光学系のものが最適である。像側テレセントリックでないfθレンズでは、ガルバノミラーによるビーム偏向角度に依存してfθレンズからの出射レーザ光に角度が付く。偏向角度が小さくて光軸に近い場合には光軸にほぼ平行となるが、偏向角度が大きくなるに従って、レーザ光がfθレンズから斜めに出射されるようになる。その斜めのレーザ光が回折型光学素子に入射すると、垂直入射の場合とは微妙に異なる分岐角度にレーザ光が分岐されるのである。数式では、sinα+sinθin∝λと表される。ここで、θinはレーザ光が回折型光学素子に入射する角度、λはレーザ光の波長である。一方、像側テレセントリックのfθレンズの場合は、ガルバノミラーによるビーム偏向角度に依らずfθレンズからの出射レーザ光はほぼ垂直となる。像側テレセントリックのfθレンズを使用することでレーザ光がほぼ垂直に回折型光学素子に入射するようになり(sinθin≒0)、斜入射の場合に発生する分岐角度のバラツキが抑制されるので、加工対象物上での集光位置精度を更に向上させる効果がある。
【0007】
上記本発明において、光軸方向における前記回折型光学素子の位置を調整する位置調整手段を備えていることが好ましい。
この場合、回折型光学素子の光軸方向における位置を調整し、回折型光学素子と加工対象物間の間隔を変えることで、分岐スポット群のピッチを比較的大きな範囲で変えることができる。
【0008】
上記本発明において、記回折型光学素子の軸心を回転軸とした回転角度を調整する角度調整手段を備えていることが好ましい。
この場合、回折型光学素子の軸心を回転軸とした回転角度を変えれば、分岐レーザ光のスポット群も同様に回転し向きが変わるため、分岐レーザ光のスポット群を加工対象物に対して適切な向きに簡単に調整することができる。
【発明の効果】
【0009】
上記の通り、本発明のレーザ加工用光学装置によれば、ガルバノミラーで偏向されたレーザ光の角度がfθレンズにより光路軸に対しおおよそ平行に修正され、加工対象物に対してほぼ垂直となった状態のレーザ光が回折型光学素子により分岐されることで、加工対象物上の走査する箇所により、分岐レーザ光のスポット群のピッチが変わってしまうという原理上の問題がなくなるので、高い集光位置精度で高速加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明に係るレーザ加工用光学装置の一実施形態を示す概略図であり、図2は、その要部を説明する模式図である。このレーザ加工用光学装置1は、レーザ光を発生させるレーザ発振器2と、レーザ発振器2の近傍に設けられたベンドミラー3と、レーザ光を偏向させる一対のガルバノミラー4と、ガルバノミラーを駆動するガルバノスキャナ5と、ガルバノミラー4により偏向されたレーザ光を集光するfθレンズ6と、このfθレンズ6と加工対象物7との間の光路上に配置された回折型光学素子8と、回折型光学素子8の位置調整手段と角度調整手段とが一体的に構成されたステージ機構10と、レーザ発振器2及びガルバノスキャナ5を制御する制御装置9とを備えている。
【0011】
加工対象物はプリント基板7であり、レーザ照射によりその表面に複数の穴開け加工が行われる。レーザ発振器2で発生させるレーザ光は、例えば炭酸ガスレーザやYAGレーザ(基本波あるいはその高調波を含む)である。一対のガルバノミラー4は、レーザ発振器2より出力されたレーザ光を、所定の偏向角度で偏向させてプリント基板7上におけるX軸方向及びY軸方向に振らせるものである。制御装置9は、レーザ発振器2によるレーザ光出射を制御し、並びにガルバノスキャナ5を駆動してガルバノミラー4を揺動させfθレンズ6へのレーザ光入射位置を変化させる。fθレンズ6は、像側テレセントリック光学系とされており、当該fθレンズ6を用いることにより、ガルバノミラー4で様々な方向に偏向された光軸上及び光軸外のレーザ光が共に光軸に略平行となり、プリント基板7の表面にほぼ垂直入射し、その表面上で焦点を結ぶ。そうすることで、プリント基板7の表面に、例えば離散的に配置された複数の穴が開けられる。
【0012】
fθレンズ6とプリント基板7との間の光路上に配置された回折型光学素子8(DOE)は、一本の入射ビームを回折によって出射角度の相違する所望の空間分布をもつ複数のビームに分岐するものであり、各分岐レーザ光はfθレンズ6により集光されてプリント基板7に照射される。つまり、回折型光学素子8が一挙に複数本のレーザ光を作り出すので、ガルバノミラー4が静止した状態でプリント基板7上に瞬時に多数の穴を開けることができる。通常は、一度のレーザ光発振で1箇所の加工しかできないが、例えば25分光するように設計された回折型光学素子8とすることで、一度のレーザ発振で同時に25箇所の加工が可能となり、高速で穴開け加工ができる。
【0013】
図3にステージ機構10を示す。このステージ機構10は、光軸方向における回折型光学素子8の位置を調整する位置調整手段11と回折型光学素子8の軸心を回転軸とした回転角度を調整する角度調整手段12とが一体的に構成されたものである。位置調整手段11は、調整部本体11hや調整ローラ11r等からなり、この調整ローラ11rを回すことにより、回折型光学素子8がZ軸方向、すなわち光軸方向に動くようになっている。そうすることで、回折型光学素子8からプリント基板7までの距離Lが変化する。
一方、角度調整手段12は、調整部本体12hや調整ローラ12r等からなり、この調整ローラ12rを回すことにより、回折型光学素子8の軸心を回転軸とした回転角度が変化するようになっている。なお、位置調整手段11及び角度調整手段12の詳細な構成の説明は省略するが、これら各調整手段11,12は、市販されている公知のものを使用することができる。また、前記ステージ機構10では位置調整手段と角度調整手段が一体的に構成されているが、各手段が分離されて構成されても良い。角度調整手段を成すステージ機構を、位置調整手段を成す上下移動可能なステージ機構に接続する構成も取り得る。
【0014】
回折型光学素子8の光軸方向の位置に関して、分岐レーザ光のスポット群のピッチをP1とすると、P1=Ltanθ(L:回折型光学素子8から加工対象物7までの距離、θ:回折型光学素子8に対して、光軸上のスポットと他のスポットがなす角度)の関係式となるので、回折型光学素子8からプリント基板7までの距離を、例えば5%変えると、スポット群のピッチが5%変化することになる。
これに対し、仮に回折型光学素子をレーザ発振器とガルバノミラーとの間に位置させた場合のスポット群のピッチをP2とすると、P2 λf1−(M/f)Δ(λ:波長、f:焦点距離、M:倍率、Δ:回折型光学素子を動かした距離)の関係式となるが、M=1/10〜1/100と小さいので、Δの変化量に対するスポット群のピッチP2の変化量が非常に小さい。
【0015】
従って、位置調整手段11により回折型光学素子8からプリント基板7までの距離Lを変えると、ガルバノミラーの手間に回折型光学素子を位置させる場合よりも分岐レーザ光のスポット群のピッチP1を大きな範囲で変更することができる。
また、角度調整手段12により回折型光学素子8の軸心を回転軸とした回転角度を変えれば、分岐レーザ光のスポット群も同様に回転し向きを変えるので、分岐レーザ光のスポット群をプリント基板7に対して適切な向きに簡単に調整することができる。
【0016】
上記レーザ加工用光学装置1でプリント基板7に穴開け加工をする場合、レーザ発振器2で発生させたレーザ光は、発振器2により放出され、レーザ発振器2の近傍に設けられた2枚のベントミラー3により進行方向が変えられ、一対のガルバノミラー4で偏向されてfθレンズ6へ導かれる。ガルバノミラー4を出射したレーザ光が、fθレンズ6で集光されながら、ステージ機構10に保持された回折型光学素子8に入って分割され、分岐レーザ光となってfθレンズ6がもつ焦点距離に従ってプリント基板7に照射される。そして、ガルバノミラー4が、レーザ光の進行方向を振る(レーザ光を偏向する)ことにより、プリント基板7上の分岐レーザ光の照射位置を変化させ、プリント基板7に複数の穴開け加工が高速で行われる。
【0017】
上記本実施形態のレーザ加工用光学装置1によれば、fθレンズ6で集光されたレーザ光が回折型光学素子8により複数のレーザ光に分岐されるため、高速加工が可能となる。また、ガルバノミラー4で偏向されたレーザ光の角度がfθレンズ6により光路軸に対しほぼ平行に修正され、プリント基板7に対して垂直となった状態のレーザ光が回折型光学素子により分岐されることで、プリント基板7上の走査する箇所により、分岐レーザ光のスポット群のピッチが変わってしまうという原理上の問題がなくなる。従って、レーザ光の走査時における集光位置精度を高めることができ、プリント基板7に開ける穴のピッチ精度を向上させることができる。
【0018】
また、位置調整手段部11で回折型光学素子8の光軸方向における位置を変えることで、分岐レーザ光のスポット群のピッチP1を比較的大きな範囲で変更することができるため、プリント基板に開ける穴のピッチを簡単に変えることができる。さらに、角度調整手段12で分岐レーザ光のスポット群をプリント基板7に対して適切な向きに簡単に調整することができるため、作業性が向上する。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば加工対象物はプリント基板以外のものでもよく、使用されるレーザ光、fθレンズ、回折型光学素子を限定するものではない。上記実施形態では、回折型光学素子8は、入射面のどの位置にレーザ光が照射されても同じように分岐することを前提としている。つまり、回折型光学素子は全面で一様な特性を持っているのである。この場合、スポット群の配置の変更やピッチの大きな変更は、回折型光学素子の交換で対応する。予め機能の異なる複数の回折型光学素子を準備して、回折型光学素子の交換手段を設けておけば、加工対象の穴の配置やピッチの変更に応じて回折型光学素子を交換することが可能である。一方、回折型光学素子は、その表面を複数の領域に分割してそれぞれの領域で異なるビーム分岐機能を持たせることもできる。この場合、レーザ光が入射する場所によって分岐レーザ光のスポット群の配置やピッチが変化する。この方法は、加工対象物上の走査位置とスポット群の配置やピッチが明確に分離して対応づけられるような加工分野では非常に有効である。これにより、複数枚の回折型光学素子を準備する必要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係るレーザ加工用光学装置の概略図である。
【図2】レーザ加工用光学装置の要部を説明する模式図である。
【図3】ステージ機構の説明図である。
【符号の説明】
【0020】
1 レーザ加工用光学装置
2 レーザ発振器
4 ガルバノミラー
6 fθレンズ
7 プリント基板
8 回折型光学素子
10 ステージ機構
11 位置調整手段
12 角度調整手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を発生させるレーザ発振器と、このレーザ発振器より発生した前記レーザ光を所定の偏向角度で偏向させるガルバノミラーと、このガルバノミラーにより偏向されたレーザ光を集光するfθレンズと、このfθレンズと加工対象物との間の光路上に配置され、当該fθレンズにより集光されるレーザ光を複数のレーザ光に分岐する回折型光学素子とを備えていることを特徴とするレーザ加工用光学装置。
【請求項2】
前記fθレンズが、像側テレセントリック光学系とされている請求項1に記載のレーザ加工用光学装置。
【請求項3】
光軸方向における前記回折型光学素子の位置を調整する位置調整手段を備えている請求項1又は2に記載のレーザ加工用光学装置。
【請求項4】
前記回折型光学素子の軸心を回転軸とした回転角度を調整する角度調整手段を備えている請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザ加工用光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−253203(P2007−253203A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82077(P2006−82077)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】