説明

レーザ印字方法及び印字装置

【課題】装置を大型化することなく、記録媒体に対して所望の印字情報を迅速且つ高精度に記録することのできるレーザ印字装置を提供する。
【解決手段】印字データメモリ50から供給される印字データに従ってゲート信号をオンオフ制御するとともに、パルス幅データメモリ52から供給されるパルス幅データに従って前記ゲート信号のパルス幅を制御し、このゲート信号を用いてAODドライバ40に供給される周波数変調用電圧信号を制御してAOD34を駆動することにより、照射位置に依存することのない一定のエネルギからなるレーザビームLをウエブ14に照射して製品情報を記録する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体の所定部位にレーザビームを偏向照射して印字情報を記録するレーザ印字方法及び印字装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、製造される製品の管理を行うため、製品に係る製品名、品種、製造装置番号等の製品情報をレーザビームを用いて当該製品に印字するようにしたレーザ印字装置が開発されている(特許文献1参照)。
【0003】
このレーザ印字装置では、音響光学偏向器(AOD)を用い、製品情報に応じてレーザビームを記録媒体の搬送方向と直交する方向に偏向させることにより、製品情報を記録媒体に二次元的に記録している。
【0004】
ところで、AODは、PbMoO4等の結晶素子からなる媒質を圧電素子を用いて振動させ、振動により生成された回折格子によってレーザビームを所望の方向に回折させる光学的偏向素子である。この場合、例えば、媒質の密度が不均一であると、回折方向によってAODを透過したレーザビームの強度にむらが発生し、このむらに起因して、記録媒体に記録される製品情報の印字状態にむらが生じてしまう。
【0005】
特に、記録媒体が感光材料、あるいは、フイルム状の包装材料のように、レーザビームの熱エネルギを利用して記録媒体の一部を発泡させることで製品情報を記録するものにおいては、均一のエネルギを記録媒体に付与できないと、レーザビームの照射位置によって発泡状態が異なり、製品情報が正確に記録できなくなってしまう。
【0006】
従来のレーザ印字装置では、AODによって偏向されたレーザビームが記録媒体の各偏向位置に照射される時間が偏向角度によらず一定に設定されている。従って、レーザビームの出力を増加させると、偏向位置によっては過度の発泡状態となり、場合によっては、記録媒体が燃焼し、あるいは、溶融してしまう事態を惹起するおそれがある。特に、記録媒体が感光材料からなる場合、製品情報の印字部分以外の部分も感光する、いわゆる、かぶりが生じてしまう。また、記録媒体が製品の包装材料である場合には、包装材料によって包装されている製品がレーザビームによって焼損してしまうおそれがある。
【0007】
一方、他の構成からなるレーザ印字装置として、複数のレーザ光源を独立にオンオフ制御することで、記録媒体に製品情報を記録するように構成した装置がある(特許文献2参照)。
【0008】
このレーザ印字装置では、各レーザ光源から出力されるレーザビームのエネルギ密度及びパルス幅を制御することで、所望の形状からなるドットを記録媒体に記録するようにしているため、記録媒体に製品情報を高精度に記録することが可能である。
【0009】
しかしながら、多数のレーザ光源を使用しているため、装置が大型化する不具合が生じる。また、各レーザ光源を小型化すると、出力されるレーザビームのエネルギも低下するため、製品情報の記録に長時間を要してしまう不具合が発生する。
【0010】
【特許文献1】英国特許出願公開第2133352号明細書
【特許文献2】特許第3191201号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の不具合に鑑みてなされたものであり、装置を大型化することなく、記録媒体に対して所望の印字情報を迅速且つ高精度に記録することのできるレーザ印字方法及び印字装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のレーザ印字方法は、記録媒体の所定部位にレーザビームを偏向照射して印字情報を記録するレーザ印字方法において、
前記記録媒体に照射される前記レーザビームの各偏向位置におけるエネルギが一定となるよう、前記レーザビームの前記偏向位置毎の照射時間を制御することを特徴とする。
【0013】
また、本発明のレーザ印字装置は、記録媒体の所定部位にレーザビームを偏向照射して印字情報を記録するレーザ印字装置において、
前記印字情報に応じて供給される駆動信号に基づき、前記レーザビームを偏向する光学的偏向素子と、
前記記録媒体に照射される前記レーザビームの各偏向位置におけるエネルギが一定となるよう、前記レーザビームの前記偏向位置毎の照射時間を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0014】
この場合、光学的偏向素子としては、音響光学偏向器、あるいは、電気光学偏光器を用いることができる。また、各偏向位置に対するレーザビームの照射時間は、光学的偏向素子を駆動する駆動信号のパルス幅を各偏向位置毎に制御するように設定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のレーザ印字方法及び印字装置では、記録媒体に照射されるレーザビームの各偏向位置におけるエネルギが一定となるように、レーザビームの各偏向位置での照射時間を調整することにより、装置を大型化することなく、記録媒体に所望の印字情報を迅速且つ高精度に記録することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明のレーザ印字方法及び印字装置が適用されるウエブ巻取装置10を示す。ウエブ巻取装置10は、送り出しロール12より感光材料であるウエブ14を送り出し、その所定部位に製品情報(印字情報)を印字した後、巻き取りロール16に巻き取る装置であり、送り出し・巻き取り処理が制御盤18により行われ、製品情報の印字処理がレーザ印字装置20により行われる。
【0017】
ウエブ巻取装置10において、送り出しロール12に巻回されたウエブ14は、基準駆動ロール22によって引き出され、複数の小径ロール24a〜24kを介して巻き取りロール16に供給される。なお、基準駆動ロール22には、ロータリエンコーダ26が接続されている。ロータリエンコーダ26は、ウエブ14の搬送量をエンコーダパルス信号として検出する。
【0018】
レーザ印字装置20は、ウエブ14の所定部位にレーザビームLによって製品情報21(図2参照)を記録する記録ヘッド28と、記録ヘッド28を制御するレーザ制御ユニット30とを備える。なお、製品情報21は、例えば、図2に示すように、会社名(FJI)、ウエブ14の品種(SHR)、ロット番号(233)、製造装置番号(131S)等をレーザビームLにより形成される複数のドットで構成したものである。
【0019】
記録ヘッド28は、図3に示すように、ウエブ14が掛けられている小径ロール24gの近傍に配設されており、レーザビームLを出力するレーザ発振器32と、レーザ発振器32から出力されたレーザビームLをウエブ14の搬送方向Yと直交する偏向方向Xに偏向する音響光学偏光器(AOD)34と、偏向されたレーザビームLを集光してウエブ14に導く集光レンズ35と、AOD34を偏向されることなく透過する0次光のレーザビームLを吸収するレーザ吸収体37とから構成される。なお、レーザ吸収体37は、例えば、水冷されたカーボン製ブロックにより構成することができる。
【0020】
図4は、レーザ印字装置20の制御ブロック図を示す。レーザ印字装置20を構成するレーザ制御ユニット30は、レーザ用アンプ36を介してレーザ発振器32を駆動制御するレーザ制御部38と、ロータリエンコーダ26からのエンコーダパルス信号に同期した周波数変調用電圧信号をAODドライバ40に供給する周波数変調用電圧制御部42とを備える。
【0021】
AODドライバ40は、周波数変調用電圧信号を周波数信号に変換し、この周波数信号をゲート信号制御部44からのゲート信号に従ってトランスデューサ46に供給する。トランスデューサ46は、周波数信号に従ってAOD34に超音波振動波を伝播させる。AOD34は、振動波によって生成される回折格子に従い、レーザ発振器32から出力されたレーザビームLを偏向方向Xに周波数信号に応じた偏向角度だけ偏向してウエブ14に導く。
【0022】
一方、ゲート信号制御部44には、印字トリガ信号生成部48、印字データメモリ50及びパルス幅データメモリ52が接続される。
【0023】
印字トリガ信号生成部48は、ロータリエンコーダ26から供給されるエンコーダパルス信号のカウント数と、印字位置データメモリ54から供給される印字位置データとを比較し、ウエブ14が所定の印字位置まで搬送されたと判断したとき、製品情報21の印字を開始するための印字トリガ信号をゲート信号制御部44に供給する。なお、印字位置データは、例えば、ウエブ14に対して製品情報21を所定の間隔で印字するためのエンコーダパルス信号のパルス数として設定することができる。
【0024】
印字データメモリ50は、ゲート信号制御部44からAODドライバ40に供給されるゲート信号をオンオフ制御することで製品情報21をウエブ14に露光記録する印字データを記憶する。印字データは、印字データ設定部56において製品情報21を入力することで設定される。例えば、図5に示すように、レーザビームLの偏向方向X及びウエブ14の搬送方向Yに配列される7×5の格子点を用いて製品情報21を形成する場合、「F」の製品情報21を形成するための印字データは、丸付き数字で示す1〜14の格子点上のドット58を形成するゲート信号をオンにするデータとして設定される。
【0025】
パルス幅データメモリ52は、ゲート信号制御部44からAODドライバ40に供給されるゲート信号のパルス幅を制御するパルス幅データを記憶する。パルス幅データは、パルス幅データ設定部60においてレーザビームLの偏向方向Xの格子点毎に設定される。パルス幅データは、例えば、図5に示す各ドット58にレーザビームLを照射する時間に対応しており、AOD34によって偏向されたレーザビームLのウエブ14上でのエネルギが偏向位置によらず一定となるように設定される。
【0026】
本実施形態のウエブ巻取装置10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次に、その動作について図6に示すフローチャート及び図7に示すタイミングチャートに従って説明する。
【0027】
先ず、パルス幅データ設定部60を用いて、レーザビームLの偏向方向Xに対するパルス幅データを設定する(ステップS1)。この場合、パルス幅データは、AOD34によってレーザビームLを偏向方向Xに偏向させたとき、偏向位置によらず、同一の状態、例えば、同一の濃度からなるドット58をウエブ14に形成することのできるレーザビームLの照射時間として設定する。設定されたパルス幅データは、パルス幅データメモリ52に記憶される。
【0028】
次いで、印字データ設定部56を用いて、ウエブ14に印字する製品情報21を入力し、この製品情報21に対応した印字データを印字データメモリ50に記憶する(ステップS2)。
【0029】
以上の準備作業が完了した後、ウエブ14の搬送を開始する(ステップS3)。基準駆動ロール22は、送り出しロール12からウエブ14を引き出し、レーザ印字装置20による製品情報21の印字部位を経由して巻き取りロール16にウエブ14を供給する。
【0030】
一方、レーザ制御部38は、レーザ用アンプ36を介してレーザ発振器32を駆動し、レーザビームLをAOD34に対して出力する(ステップS4)。なお、印字開始前の状態では、AOD34がトランスデューサ46によって駆動されておらず、従って、AOD34に入射したレーザビームLは、回折されることなく0次光としてレーザ吸収体37に導かれて吸収される。
【0031】
周波数変調用電圧制御部42は、ロータリエンコーダ26からのエンコーダパルス信号を受信すると(ステップS5)、周波数変調用電圧信号をAODドライバ40に出力する(ステップS6)。この周波数変調用電圧信号は、図7に示すように、エンコーダパルス信号を受信したタイミングで出力される電圧値が段階的に増加するステップ信号である。
【0032】
印字トリガ信号生成部48は、ロータリエンコーダ26から供給されるエンコーダパルス信号をカウントし、そのカウント数が印字位置データメモリ54から供給される印字位置データと一致したとき(ステップS7)、印字トリガ信号をゲート信号制御部44に出力する(ステップS8)。
【0033】
ゲート信号制御部44は、印字トリガ信号が供給されると、印字データメモリ50から供給される印字データに従ってゲート信号をオンオフ制御するとともに、オン状態に設定されたゲート信号のパルス幅をパルス幅データメモリ52から供給されるパルス幅データに従って制御し、AODドライバ40に出力する(ステップS9)。
【0034】
AODドライバ40は、ゲート信号制御部44から供給されたオン状態のゲート信号に従い、周波数変調用電圧制御部42から供給される周波数変調用電圧信号を周波数信号に変換してトランスデューサ46に出力する。トランスデューサ46は、周波数変調用電圧信号に応じた周波数信号に従ってAOD34に超音波振動波を伝播し、レーザビームLを偏向方向Xに偏向させる。
【0035】
ここで、レーザビームLは、周波数変調用電圧信号の電圧値に従った偏向角度で偏向方向Xに偏向される。例えば、図5に示す「F」の製品情報21を記録する場合、レーザビームLが1〜7の各格子点に照射される。また、各格子点にレーザビームLが照射されている時間は、パルス幅データメモリ52から供給されるパルス幅データに従ってゲート信号制御部44から供給されるオン状態のゲート信号のパルス幅で設定されている。この場合、ゲート信号のパルス幅は、偏向方向Xの各格子点1〜7に照射されるエネルギが一定となるように設定されているため、各格子点1〜7には、同一の濃度からなるドット58が記録されることになる。一方、ウエブ14は、搬送方向Yに搬送されており、同様にして、8〜14の各格子点にドット58が記録されることにより、均一な印字状態からなる「F」の製品情報21がウエブ14に印字される(ステップS10)。
【0036】
次の印字データがある場合(ステップS11)、ステップS5からの処理が繰り返される。このようにして、ウエブ14に所望の製品情報21が記録される。
【0037】
なお、上述した実施形態では、AODドライバ40に供給されるゲート信号のパルス幅を制御することで、ウエブ14に照射されるレーザビームLのエネルギを調整するようにしている。これに対して、図8に示すように、周波数変調用電圧制御部42からAODドライバ40に供給される周波数変調用電圧信号を構成する各ステップ信号のパルス幅をパルス幅データメモリ52からのパルス幅データによって制御するとともに、印字データメモリ50からの印字データに従って各ステップ信号をオンオフ制御し、この信号をAODドライバ40に供給してレーザビームLを制御するようにしてもよい。
【0038】
また、光学的偏向素子としては、AOD34に代えて、電気光学偏向器(EOD)を用いてレーザビームLを所望の偏向位置に導くように構成することもできる。この場合、EODに付与する電界を偏向角度に応じて変調すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のレーザ印字方法及び印字装置が適用されるウエブ巻取装置の構成図である。
【図2】図1に示すレーザ印字装置によって記録される製品情報の説明図である。
【図3】図1に示すレーザ印字装置を構成する記録ヘッドの説明図である。
【図4】図1に示すレーザ印字装置の制御ブロック図である。
【図5】図1に示すレーザ印字装置により製品に記録される製品情報の説明図である。
【図6】図1に示すレーザ印字装置による印字処理のフローチャートである。
【図7】図1に示すレーザ印字装置による印字処理のタイミングチャートである。
【図8】図1に示すレーザ印字装置による他の実施形態に係る印字処理のタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0040】
10…ウエブ巻取装置 14…ウエブ
20…レーザ印字装置 21製品情報
26…ロータリエンコーダ 28…記録ヘッド
30…レーザ制御ユニット 32…レーザ発振器
34…AOD 36…レーザ用アンプ
38…レーザ制御部 40…AODドライバ
42…周波数変調用電圧制御部 44…ゲート信号制御部
46…トランスデューサ 48…印字トリガ信号生成部
50…印字データメモリ 52…パルス幅データメモリ
54…印字位置データメモリ 56…印字データ設定部
58…ドット 60…パルス幅データ設定部
L…レーザビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体の所定部位にレーザビームを偏向照射して印字情報を記録するレーザ印字方法において、
前記記録媒体に照射される前記レーザビームの各偏向位置におけるエネルギが一定となるよう、前記レーザビームの前記偏向位置毎の照射時間を制御することを特徴とするレーザ印字方法。
【請求項2】
記録媒体の所定部位にレーザビームを偏向照射して印字情報を記録するレーザ印字装置において、
前記印字情報に応じて供給される駆動信号に基づき、前記レーザビームを偏向する光学的偏向素子と、
前記記録媒体に照射される前記レーザビームの各偏向位置におけるエネルギが一定となるよう、前記レーザビームの前記偏向位置毎の照射時間を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とするレーザ印字装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記光学的偏向素子は、音響光学偏向器であることを特徴とするレーザ印字装置。
【請求項4】
請求項2記載の装置において、
前記光学的偏向素子は、電気光学偏向器であることを特徴とするレーザ印字装置。
【請求項5】
請求項2記載の装置において、
前記制御手段は、前記各偏向位置毎に前記駆動信号のパルス幅を制御することを特徴とするレーザ印字装置。
【請求項6】
請求項2記載の装置において、
前記光学的偏向素子は、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に前記レーザビームを偏向することで前記印字情報を印字することを特徴とするレーザ印字装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−251643(P2006−251643A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70882(P2005−70882)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】