説明

ロウ付けcBN工具

【課題】 裏打板との接合強度の高い超高圧焼結体を提供する。
【解決手段】 切刃を有するcBN焼結体5の下面に接合した裏打板4を超硬合金製の台金2の所定位置にロウ付け7接合したロウ付けcBN工具1において、裏打板4のcBN焼結体5側は角部の曲率半径が0.1μm以上のWC粒子が全WC粒子の50面積%以上を含むWC粒子を鉄族金属12〜30面積%で結合した超硬合金からなり、裏打板4のロウ材7側は角部の曲率半径が0.1μm以上のWC粒子が全WC粒子の20面積%以下のWC粒子を鉄族金属8〜30面積%で結合した超硬合金からなることを特徴とするロウ付けcBN工具1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬合金製の台金の所定位置にロウ材を介してcBN焼結体をロウ付け接合したロウ付けcBN工具に関する。
【背景技術】
【0002】
cBN焼結体を工具として用いる場合、WC−Co系超硬合金製の裏打板上にcBN焼結体の原料粉末を載置して超高圧焼成により0.5〜2.0mm程度の厚みを持つcBN焼結体の工具素材(ブランク)を作製し、これを所定の形状に切り出して超硬合金製の台金の刃先部分にロウ付けする方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
かかるcBN焼結体が好適に用いられる焼入れ鋼の切削加工では、加工面粗度を平滑化することが重視される精密加工や刃先の突発欠損が発生しない安定加工が求められ、そのためにcBN原料粉末の粒径を小さくしてcBN焼結体中のcBN粒子を微粒化することが試みられている。そして、このようにcBN原料粉末を微粒化すると焼結時の収縮が大きくなるが、超高圧焼成では加圧圧力が局所的に不均一であることから焼成時にcBN焼結体中にマイクロクラックが発生してしまい、このマイクロクラックを起点として切削加工時にcBN工具が欠損するという問題があった。
【0004】
そこで、特許文献2では、平均粒径が2μm未満のcBN粒子のcBN焼結体からなる切刃部を超硬合金製の台金にロウ付けする際に、台金の表面に粒径が2μmより大きいcBN粉末と焼結助剤粉末との混合物を敷き、その上に平均粒径2μm未満のcBN原料粉末を含む成形体を載置して超高圧焼結して、cBN焼結体製の切刃部と超硬合金製の台金との間に平均粒径2〜10μmのcBN粒子からなる中間部を形成したロウ付けcBN工具が開示され、台金の超硬合金中のCoが多量にcBN焼結体側に溶浸して両者の界面に脆いCo化合物が生成することを抑制し、切刃部の欠けやチッピングの発生を抑制できることが記載されている。
【特許文献1】特開2007−30096号公報
【特許文献2】特開平4−63607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載されるように、平均粒径2μm未満のcBN焼結体製の切刃部と超硬合金製の台金との間に平均粒径2〜10μmのcBN粒子からなるcBN焼結体製の中間部を形成したロウ付けcBN工具では、Coの溶浸はないので界面に脆いCo化合物が生成されることはないものの、超硬合金製台金ごと超高圧焼成する必要があることから不経済であり、かつ焼成時の熱収縮差が大きくて切刃部と中間部との界面に大きな歪みが生じてしまい、過酷な切削条件では剥離や欠損が発生するという問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解消し、cBN焼結体製の切刃部と超硬合金製の台金との接合強度の高いロウ付けcBN工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のロウ付けcBN工具は、切刃を有するcBN焼結体の下面に接合した裏打板を超硬合金製の台金の所定位置にロウ付け接合したロウ付けcBN工具において、前記裏打板の前記cBN焼結体側は角部の曲率半径が0.1μm以上のWC粒子が全WC粒子の50面積%以上を含むWC粒子を鉄族金属12〜30面積%で結合した超硬合金からなり、該裏打板の前記ロウ材側は角部の曲率半径が0.1μm以上のWC粒子が全WC粒子の20面積%以下のWC粒子を鉄族金属8〜30面積%で結合した超硬合金からなることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の他のロウ付けcBN工具は、切刃を有するcBN焼結体からなる繊維状の芯材の周囲を硬質焼結体にて結合したcBN複合焼結体の下面に接合した裏打板を超硬合金製の台金の所定位置にロウ付け接合したロウ付けcBN工具において、前記裏打板の前記cBN複合焼結体側は角部の曲率半径が0.1μm以上のWC粒子が全WC粒子の50面積%以上を含むWC粒子を鉄族金属12〜30面積%で結合した超硬合金からなり、該裏打板の前記ロウ材側は角部の曲率半径が0.1μm以上のWC粒子が全WC粒子の20面積%以下のWC粒子を鉄族金属8〜30面積%で結合した超硬合金からなることを特徴とする。
【0009】
ここで、上記構成において、前記台金が、角部の曲率半径が0.1μm以上のWC粒子が全WC粒子の20面積%以下のWC粒子を鉄族金属8〜30面積%で結合している超硬合金からなることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、cBN焼結体、またはcBN焼結体からなる繊維状の芯材の周囲を硬質焼結体にて結合したcBN複合焼結体と前記ロウ材との間に配設する超硬合金製の裏打板として、cBN焼結体側は角部の曲率半径が0.1μm以上のWC粒子が全WC粒子の50面積%以上を含むWC粒子を鉄族金属12〜30面積%で結合した超硬合金からなり、ロウ材側は角部の曲率半径が0.1μm以上のWC粒子が全WC粒子の20面積%以下のWC粒子を鉄族金属8〜30面積%で結合した超硬合金からなる構成とすることによって、cBN焼結体およびcBN複合焼結体と裏打板との界面において超高圧焼成時に発生する残留応力を吸収することができてcBN焼結体およびcBN複合焼結体と裏打板との界面にクラックが発生することを抑制できるとともに、超高圧焼成における加圧圧力ムラによってもcBN焼結体またはcBN複合焼結体にクラックが発生することなく安定した工具性能を発揮する。
【0011】
ここで、台金が、角部の曲率半径が0.1μm以上のWC粒子が全WC粒子の20面積%以下のWC粒子を鉄族金属8〜30面積%で結合している超硬合金からなることが、台金の塑性変形を抑制できるとともに、ロウ材との密着力が高い点で望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のロウ付けcBN工具の一実施態様について図面を基に詳細に説明する。
【0013】
図1、2はそれぞれcBN焼結体とcBN複合焼結体を切刃部に用いた切削工具を示し、図1、2(a)は概略斜視図、図1、2(b)は部分断面図である。
【0014】
図1、2の切削工具1、21は、平板状をなし、台金2の角部に形成された取付座3には、裏打板4、24とcBN焼結体5またはcBN複合焼結体25とが一体化された切刃チップ6、26がロウ材7にて台金2にロウ付けされている。また、この切削工具1、21によれば、すくい面8、28と横逃げ面9、29との交差稜線部に切刃10、30が構成されている。さらに、切削工具1、21の中央部には、バイトなどの工具に取り付けるためのクランプねじ等が挿通される取付孔11が形成されている。すなわち、切刃チップ6、26はcBN焼結体5またはcBN複合焼結体25を超硬合金からなる裏打板4、24の表面に接合したものである。
【0015】
ここで、図3にcBN焼結体5およびcBN複合焼結体25とロウ材7との間に配設する裏打板4、24の構成を示す。裏打板4、24をなす超硬合金31、36は、WC粒子32を鉄族金属33で結合した構成からなる。そして、図3によれば、裏打板4、24のcBN焼結体5およびcBN複合焼結体25側(以下、裏打板cBN側4a、24aと称す。)は角部の曲率半径が0.1μm以上のWC粒子34が全WC粒子32の50面積%以上を含む(以下、この比率を丸いWC粒子34の比率と称す。)WC粒子32を鉄族金属33の12〜30面積%で結合した超硬合金31で構成されており(図3(a)参照)、裏打板4、24のロウ材7側(以下、裏打板ロウ材側4b、24bと称す。)は丸いWC粒子34の比率が20面積%以下のWC粒子32を鉄族金属33の8〜30面積%で結合した超硬合金36で構成されている(図3(b)参照)。
【0016】
これによって、cBN焼結体5と裏打板4との界面およびcBN複合焼結体25と裏打板24との界面において焼成収縮時および冷却時に発生する残留応力を吸収することによってこれらの界面にクラックが発生することを抑制できるとともに、超高圧焼成による加圧圧力ムラを低減して焼結ムラによるクラックの発生も抑制できる。
【0017】
すなわち、裏打板cBN側4a、24aにおいて丸いWC粒子34の比率が50面積%未満であると、残留応力を吸収する働きが弱くてクラックの進展を抑制する効果がなく、切刃チップ6、26のチッピングや剥離につながる。また、裏打板cBN側4a、24aにおいて鉄族金属33の含有比率が12面積%よりも少ないと、c裏打板cBN側4a、24a付近の界面にCo欠乏層が形成されてしまい、これらの界面からチッピングや剥離が発生するおそれがある。さらに、裏打板cBN側4a、24aにおいて鉄族金属33の含有比率が30面積%よりも多いと、鉄族金属33の拡散がcBN焼結体5およびcBN複合焼結体25全体へ進行し、焼結体5、25の耐摩耗性を低下させるという不具合がある。一方、裏打板4、24のロウ材7側において丸いWC粒子34の比率が20面積%より多い割合で存在すると超高圧焼成時の圧力ムラによって裏打板4、24の変形が発生してしまい、鉄族金属33の含有割合が8〜30面積%から外れると熱膨張係数差による残留応力が大きくなり、裏打板4、24内にクラックが発生する。
【0018】
なお、本発明における超硬合金31と36中のWC粒子32の角部の曲率半径とは、図3に示すように、裏打板4、24の逃げ面側の表面または逃げ面に平行な断面に位置する超硬合金31、36の走査型電子顕微鏡観察において、それぞれのWC粒子32を横切る線分のうち最も長い線分LがWC粒子の外周両端部と交わる2点、すなわち2つの角部におけるそれぞれの曲率半径rを指し、超硬合金31と36におけるWC粒子32の角部の曲率半径を算出する際には、任意のWC粒子5個の平均値で指す。
【0019】
また、鉄族金属の好ましい含有量は、cBN焼結体5の裏打板4においては12〜22面積%であり、cBN複合焼結体25の裏打板24においては18〜28面積%である。
【0020】
ここで、台金2は、丸いWC粒子34の比率が20面積%以下のWC粒子を鉄族金属8〜30面積%で結合している構成からなることが、台金2の塑性変形を抑制できるとともに、ロウ材7との密着力が高い点で望ましい。
【0021】
また、cBN複合焼結体25は、図4(a)に示すような超高圧焼結体からなる繊維状の芯材51単芯の周囲を硬質焼結体からなる被覆層52にて結合した単芯繊維体53s、または図4(b)に示すような超高圧焼結体からなる繊維状の芯材51複数本の周囲を被覆層52にて結合した多芯繊維体53mを、例えば、図5(a)に示すように一方向に並べて整列させたものからなり、またそのシートを図5(b)、(c)に示すように複合繊維体53の軸方向をシート間で任意の角度(例えば0°、45°、90°等)に変化させて積層することも可能である。さらに、図5(d)のように、複合繊維体53を断面方向にスライスしたものであってもよい。
【0022】
繊維の配列方向は、図5(a)に示すように単層のシート状であってもよいが、単層のシートを厚み方向に複数層積層した多層の複合シートであることが超高圧複合焼結体16中でより高い応力分散効果がある点で望ましい。また、本発明によれば、図5(c)に示すように、多層シート状については、シート同士の向きが隣接するシート内の複合繊維体53,53の向きが異なるように積層することが望ましく、これによって切刃チップ26の靭性をさらに高めることができる。繊維の配列方向のその他の例として、異方性をなくすために繊維体をランダムに混合して押し固めたランダムな配置であってもよい。
【0023】
また、複合繊維体53のサイズは、裏打板24との密着性向上および工具21としての耐欠損性を高めるために、芯材51の直径が5〜300μm、被覆層52を含めた複合繊維体53の1本の直径が6〜500μmであることが望ましい。
【0024】
本発明において、cBN焼結体5またはcBN複合焼結体25中のcBN焼結体は、立方晶窒化ホウ素(cBN)を50面積%以上含有してなり、コバルト(Co)を必須として、所望によりニッケル(Ni)を含有せしめた結合金属にて結合させた超高圧材料からなる。なお、cBN焼結体材料中に適宜周期表4、5および6族金属の炭化物、窒化物および炭窒化物の1種以上からなる硬質粒子を含有することが、cBN焼結体の焼結性を改善できる点で望ましい。
【0025】
一方、芯材51の周囲に存在して芯材51を結合する被覆層52をなす硬質焼結体は、周期表4、5および6族金属の炭化物、窒化物および炭窒化物からなる群より選ばれる硬質粒子を結合金属にて結合した硬質焼結体または周期表4、5および6族金属、AlおよびSiの酸化物、炭化物、窒化物、炭窒化物および硼化物からなる群より選ばれるセラミック粒子を焼結助剤にて結合したセラミックスにて構成される。
【0026】
具体的には、被覆層52を構成する材質としては、周期表4、5および6族金属の炭化物、窒化物および炭窒化物の1種以上の硬質粒子として、特に炭化タングステン、炭化チタン、炭窒化チタン、窒化チタン、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化ジルコニウム、窒化ジルコニウム、炭化バナジウム、炭化クロムおよび炭化モリブデンの群から選ばれる少なくとも1種、さらには炭化タングステン、炭化チタンまたは炭窒化チタンの群から選ばれる少なくとも1種を50〜97面積%を、コバルトを必須として所望によりニッケルを含有せしめた結合金属3〜50面積%にて結合してなる硬質焼結体が好適に使用可能である。
【0027】
ここで、被覆層52が超硬合金からなる場合、cBN複合焼結体25と裏打板24との密着性がさらに高い点で望ましい。また、被覆層52としては芯材とは異なる組成のcBN焼結体であってもよい。
【0028】
なお、本発明によれば、切削工具としてはソリッドタイプの工具であっても良いが、低コスト、製造の容易さ等の点で図1、2のようにスローアウェイ式の工具1,21であることが望ましい。また、図1〜2では切削工具について例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、掘削工具や刃物等の他の工具への応用も可能である。
【0029】
(製造方法)
次に、本発明のロウ付けcBN工具の製造方法について説明する。
【0030】
まず、超硬合金製の台金2および裏打板ロウ材側4b、24bを作製する。具体的には、平均粒径0.1〜10μmのWC粉末と、平均粒径0.5〜10μmの少なくともCoを含有する鉄族金属粉末を5〜20面積%、さらに必要に応じてW以外の周期表第4、5および6族金属の群から選ばれる少なくとも1種の炭化物、窒化物、炭窒化物を添加した混合粉末を調整する。次に、この混合粉末を所定の形状に成形し、1350〜1600℃の温度域において0.5〜2時間焼成する。この際、窒化物およびまたは炭窒化物を添加して焼成の雰囲気を制御することもできる。その後、所望により研削加工を施して裏打板ロウ材側板状体41を作製する。
【0031】
また、平均粒径0.1〜5μmのWC粉末を所定量と、平均粒径0.1〜3μmのCo粉末を7〜20質量%との割合で調合、混合して、裏打板cBN側用混合粉末42を準備する。
【0032】
一方、cBN焼結体5を用いる場合には、cBN焼結体5を作製するための原料粉末を混合し、所定の成形した図6(a)のcBN成形体40を作製する。他方、cBN複合焼結体25を用いる場合には、以下の方法により図6(b)のcBN複合成形体61を作製する。図7、図8は、図4の複合繊維体53の製造方法を説明するための工程図である。
【0033】
複合繊維体53を作製するにあたり、まず、芯材用成形体51aを作製する。芯材用成形体51aを作製する方法は基本的には公知の粉末冶金法、つまり原料粉末と結合剤(バインダ)とを混合して成形する方法によって作製することができる。
【0034】
具体的な方法として、まず、原料粉末として0.2〜3μmの平均粒径を有するcBN原料粉末、平均粒径0.2〜3μmの周期表第4、5および6族金属から選ばれる1種または2種以上の元素の炭化物粉末、窒化物粉末、および必要により平均粒径0.5〜5μmのAlあるいは鉄族金属の内の少なくとも一種の原料粉末を特定の組成に秤量し粉砕混合する。この混合粉末を用いて芯材用成形体51a形状に成形する。
【0035】
一方、芯材用成形体51aとは異なる組成の被覆層をなす材料を前述したバインダとともに混錬してプレス成形、押出成形または鋳込み成形等の成形方法により半割円筒形状の2本の被覆層用成形体52aを作製し、この被覆層用成形体52aを芯材用成形体51aの外周を覆うように配置した成形体53aを作製する(図7(b)および(c)参照)。
【0036】
そして、押出機100を用いて芯材用成形体51aと被覆層用成形体52aとからなる上記成形体53aを共押出成形することにより、芯材用成形体51aの周囲に被覆層用成形体52aが被覆され、細い径に伸延された図4(a)のシングルタイプの単芯繊維体53sを作製することができる(図7(d)参照)。
【0037】
また、複合繊維体53の形成にあたり、図8に示すように、上記共押出した長尺状の単芯繊維体53sを複数本集束した集束体54を再度共押出成形することによって、図4(b)に示すような繊維密度の高いマルチタイプの多芯繊維体53mを作製することができる。なお、複合繊維体53s、53mの断面は、円形のみならず、四角形、三角形でもよい。
【0038】
そして、図5(a)〜(c)に示したように、この長尺状の複合繊維体53を2列〜100列に整列させて型内で加熱加圧して複合シート55を得て、所望によりさらにこの複合シート55の複数枚を、隣接する複合シート55、55の複合繊維体53同士の向きが異なる角度となるように複合シート55を厚み方向に複数枚積層して多層構造の複合構造成形体56を得る。また、この複合構造体を必要に応じ、図5(d)に示すように、複合繊維体53の断面方向に切断することもできる。または、複合繊維体53を整列させずにランダムに配列することも可能である。
【0039】
次に、単層の複合シート55、多層の複合構造成形体56を超硬合金製の裏打板24上に載置して、300〜700℃、10〜200時間で昇温または保持させて脱バインダ処理を行ってcBN複合焼結体用成形体61を作製する。
【0040】
そして、図6(a)(b)に示すように、裏打板4、24のロウ材7側となる上記板状の超硬合金の表面に、cBN複合焼結体25側を形成するための混合粉末をプレス成形によって敷き詰めて、さらに、cBN成形体40または脱バインダ処理したcBN複合焼結体用成形体61(複合構造成形体55、56)を載置した状態で超高圧装置内にセットして加圧圧力4〜6GPa、温度1200〜1600℃、時間10〜30分で焼成して一体化することにより裏打板4、24と接合一体化する。その後、これを、ワイヤ放電加工機、切削、研磨等で切刃チップ形状に加工して切刃チップ6、26を得る。
【0041】
本発明によれば、裏打板ロウ材側4b、24bの超硬合金は無加圧状態で焼成されるためWC粒子は粒成長によって角ばった形状となり、裏打板cBN側4a、24aは超高圧状態で焼成されるためWC粒子は角が丸い形状となる。
【0042】
さらに、裏打板4、24と上記cBN焼結体5またはcBN複合焼結体25とが一体化された切刃チップ6、26を、台金2の角部に形成された取付座3に銀ロウ7などを用いてロウ付け接合する。また、所望により、得られた工具に対してCVD法やPVD法によって工具1、21の表面にコーティング層を形成してもよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0044】
裏打板のロウ材側をなす超硬合金を作製するために、WC原料粉末と、平均粒径0.8μmの金属Co原料粉末と、平均粒径1.5μmのCr粉末、VC粉末、TiC粉末、TaC粉末を用いて表1に示す比率となるように調合・成形し、表1に示す条件で焼成した。そして、得られた超硬合金を片面のみ研削加工し、厚み3mmの板状体とした。また、表1に示すcBN焼結体側の裏打板を作製するために、WC原料粉末と、平均粒径0.8μmの金属Co原料粉末と、平均粒径1.5μmのCr粉末、VC粉末、TiC粉末、TaC粉末を用いて表1に示す割合の混合粉末を調整した。なお、WC原料粉末の平均粒径は後述する超高圧焼成後の裏打板が表1に示す平均粒径となるように調整した。
【0045】
また、平均粒径0.5μmのcBN原料粉末、平均粒径1.0μmのTiC原料粉末、平均粒径1.0μmのTiN原料粉末、平均粒径1.5μmの金属Al原料粉末を用いて、焼結体の組成が表1に示す組成となるように調合し、この粉体を、アルミナ製ボールを用いてボールミルで15時間混合した。この混合した粉体を圧力98MPaでプレス成形してcBN成形体を作製した。
【表1】

【0046】
そして、上記超硬合金製の板状体を超高圧焼成用の冶具であるMo製のカプセル中に挿入した状態で、超硬合金製の板状体の表面にcBN焼結体側の裏打板用の混合粉末を敷き詰め、プレス成形機を用いて0.05MPa程度の低圧で混合粉末を加圧することによって混合粉末を平坦に均し、その上に上記cBN成形体を載置した。
【0047】
そして、このカプセルを超高圧焼成装置に配置し、5.5GPa、1450℃で20分焼成し、cBN焼結体と裏打板が一体化した焼結体を作製した。その後、この構造体の上下面のカプセルを研削除去し、さらに、作製したcBN焼結体に対してワイヤ放電加工によって所定の寸法に切り出し、図1に示されるようなCNGA120408の形状の表3に示す超硬合金からなる台金の切り込み段部である取付座に銀ロウにてロウ付けを行ってスローアウェイチップ型の切削工具を作製した。そして、この切削工具の切刃に対してダイヤモンドホイールを用いて刃先処理(チャンファホーニング)を施した。
【0048】
得られた切削工具の断面を走査型電子顕微鏡にて5000倍の倍率で観察し、裏打板のcBN側とロウ材側それぞれの組織について、WC粒子の面積比率、曲率半径rが0.1μm以上であるWC粒子の面積比率、結合相の面積比率を画像解析装置によって測定した。結果は表2に示した。また、得られた切削工具を用いて以下の切削条件にて切削試験を行った。結果は表3に示した。
【0049】
(切削条件)
切削方法:軽断続端面加工
被削材 :SCM435(浸炭焼入鋼:HRC58〜62)、3個穴付き
切削速度:150m/min
送り :0.15mm/rev
切り込み:肩切り込み0.2mm、深さ切り込み0.4mm
切削状態:乾式
評価方法:欠損するまで加工を実施し、欠損までの衝撃回数により優劣を判断した。また、衝撃回数300回毎にチッピングなどの有無を顕微鏡にて確認した。
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
表1〜3より、裏打板として裏打板ロウ材側板状体のみを用い、裏打板全体の超硬合金において、丸いWC粒子の比率50面積%未満となった試料No.12では、裏打板とcBN焼結体との界面にクラックが発生して早期に欠損した。また、試料No.11は超高圧焼成条件によって裏打板cBN側の超硬合金が過焼結になってしまい、裏打板cBN側の超硬合金における丸いWC粒子の比率が50面積%未満となったが、これも裏打板とcBN焼結体との界面にクラックが発生して早期に欠損した。さらに、裏打板として裏打板cBN側用混合粉末のみを用い、裏打板ロウ材側の超硬合金において、角部の曲率半径が0.1μm以上のWC粒子が全WC粒子の20面積%より多い試料No.13では、超高圧焼成時に裏打板が変形してしまい切削試験においてもクラックが発生して早期に欠損した。また、鉄族金属量が12面積%より少ない試料No.9では、切削時に裏打板とcBN焼結体との界面にクラックが発生して早期に欠損した。さらに、鉄族金属量が30面積%より多い試料No.10では、cBN焼結体との熱膨張係数差が大きくなり、ロウ付け時にマイクロクラックが発生して、そのクラックをもとに早期に欠損した。
【0052】
これに対して、本発明の範囲内である試料No.1〜6は、いずれも工具寿命が長いものであった。
【0053】
実施例2
実施例1のcBN焼結体に代えて次のcBN複合焼結体を作製した。実施例1で用いた原料粉末を用いて焼結体中の芯材と被覆層の組成が表4となるように粉末を調合し、これに有機バインダとしてセルロース、ポリエチレングリコールを、溶剤としてポリビニルアルコールを総量で100体積部加えて混錬して、実施例1と同じ形状の芯材用成形体と被覆層用成形体を作製し、芯材用成形体の外周を被覆層用成形体が覆うように配置して複合繊維体を作製した。
【0054】
次に、上記複合繊維体を共押出して直径が1mmの伸延された単芯繊維成形体を作製した後、この伸延された複合成形体100本を集束して再度共押出成形し、直径が1mmのマルチフィラメント構造の多芯繊維成形体を作製した。さらに、上記マルチフィラメント構造の複合繊維体を100mmの長さにカットし、並列に整列させてシート状とし、この複合シート3枚を図5(c)のように積層して積層体を作製した。また、この積層体を300〜700℃まで100時間で昇温することによって脱バインダ処理を行い、cBN複合成形体(複合構造成形体56)とした(試料No.14〜20)。
【0055】
そして、このcBN複合成形体を用いて実施例1の試料No.6の裏打板ロウ材側用の超硬合金と表4の裏打板cBN側用の超硬合金原料粉末を用いて実施例1と同様に超高圧焼結を行い、試料No.6の台金にロウ付けした後、研削加工を施してcBN複合焼結体を作製し、実施例1と同じ条件で切削評価を行った。結果は表5に示した。
【表4】

【0056】
【表5】

【0057】
表4、5の結果から明らかなとおり、裏打板として裏打板ロウ材側板状体のみを用い、裏打板cBN側の超硬合金において、丸いWC粒子の比率50面積%未満となった試料No.20では、裏打板とcBN焼結体との界面にクラックが発生して早期に欠損した。また、裏打板として裏打板cBN側用混合粉末のみを用い、裏打板ロウ材側の超硬合金において、角部の曲率半径が0.1μm以上のWC粒子が全WC粒子の20面積%より多い試料No.19では、超高圧焼成時に裏打板が変形してしまい切削試験においてもクラックが発生して早期に欠損した。さらに、鉄族金属量が12面積%より少ない試料No.18では、切削時に裏打板とcBN焼結体との界面にクラックが発生して早期に欠損した。
【0058】
これに対して、本発明の範囲内である試料No.14〜17は、いずれも工具寿命が長いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明のロウ付けcBN工具の一実施態様を示す(a)斜視図、(b)切刃チップ付近の部分断面図である。
【図2】本発明のロウ付けcBN工具の他の実施態様を示す(a)斜視図、(b)切刃チップ付近の部分断面図である。
【図3】図1、2の裏打板を構成する超硬合金について、(a)cBN側、(b)ロウ材側の組織を説明するための模式図である。
【図4】図2のcBN複合焼結体を構成する複合繊維体の構造を示し、(a)シングル構造の単芯繊維体、(b)マルチフィラメント構造の多芯繊維体の一例を示す概略斜視図である。
【図5】(a)〜(d)は、本発明にかかる超高圧(複合)構造焼結体中の複合繊維体の配置方法を説明するための図である。
【図6】cBN焼結体を超高圧焼成する際の成形体の配置状態を説明するための図である。
【図7】(a)〜(d)は、本発明にかかる超高圧複合焼結構造体について、シングルタイプの単芯繊維成形体の製造方法を示す工程図である。
【図8】本発明にかかる超高圧複合焼結構造体について、マルチタイプの多芯繊維成形体の製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0060】
1、21 切削工具
2 台金
3 取り付け座
4、24 裏打板
5 cBN焼結体
25 cBN複合焼結体
6、26 切刃チップ
7 ロウ材
8、28 すくい面
9、29 逃げ面
10、30 切刃
11、31 取付孔
40 cBN成形体
41 裏打板ロウ材側板状体
42 裏打板cBN側用混合粉末
51 芯材
51a 芯材用成形体
52 被覆層
52a 被覆層用成形体
53 複合繊維体
53a 成形体
53s シングル構造単芯繊維体
53m マルチフィラメント構造多芯繊維体
55 複合シート
56 複合構造成形体
61 cBN複合焼結体用成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切刃を有するcBN焼結体の下面に接合した裏打板を超硬合金製の台金の所定位置にロウ付け接合したロウ付けcBN工具において、前記裏打板の前記cBN焼結体側は角部の曲率半径が0.1μm以上のWC粒子が全WC粒子の50面積%以上を含むWC粒子を鉄族金属12〜30面積%で結合した超硬合金からなり、該裏打板の前記ロウ材側は角部の曲率半径が0.1μm以上のWC粒子が全WC粒子の20面積%以下のWC粒子を鉄族金属8〜30面積%で結合した超硬合金からなることを特徴とするロウ付けcBN工具。
【請求項2】
切刃を有するcBN焼結体からなる繊維状の芯材の周囲を硬質焼結体にて結合したcBN複合焼結体の下面に接合した裏打板を超硬合金製の台金の所定位置にロウ付け接合したロウ付けcBN工具において、前記裏打板の前記cBN複合焼結体側は角部の曲率半径が0.1μm以上のWC粒子が全WC粒子の50面積%以上を含むWC粒子を鉄族金属12〜30面積%で結合した超硬合金からなり、該裏打板の前記ロウ材側は角部の曲率半径が0.1μm以上のWC粒子が全WC粒子の20面積%以下のWC粒子を鉄族金属8〜30面積%で結合した超硬合金からなることを特徴とするロウ付けcBN工具。
【請求項3】
前記台金が、角部の曲率半径が0.1μm以上のWC粒子が全WC粒子の20面積%以下のWC粒子を鉄族金属8〜30面積%で結合している超硬合金からなることを特徴とする請求項1または2記載のロウ付けcBN工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−238337(P2008−238337A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82453(P2007−82453)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】