説明

ロボットハンド等の関節機構

【課題】 外径寸法を増加させることなく、関節軸の駆動トルクを高めることのできるロボットハンド等に用いる間接機構を提案すること。
【解決手段】 関節機構100は、ロボットハンドの多関節指ユニットの関節機構として用いることができ、垂直関節軸101を挟み、前後から第1、第2のアクチュエータ110、130が対向配置され、それらの出力軸113および133の先端には第1、第2の駆動側ベベルギア114、134が同軸状態に連結固定されている。垂直関節軸101に同軸状態で固着された従動側ベベルギア140は、第1、2の駆動側ベベルギア114、134に噛み合っている。2台のアクチュエータ110、130によって垂直関節軸101が回転駆動され、そこに連結されている旋回ブラケット120が左右に旋回する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速で正確に飛来物体などを掴むことができるロボットハンドの指ユニット等に用いる関節機構に関し、特に、外径寸法を大きくすることなく、関節軸の駆動トルクを高めることのできる関節機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロボットハンドに用いる指ユニットは一般に多関節構造とされており、かかる多関節の指ユニットにより物体の把握、摘み、投擲動作を高速かつ確実に行い得るようにするために、各指関節を高精度で駆動可能な、小型かつ軽量で、しかも、高トルクのアクチュエータが求められる。このようなアクチュエータを構成するためには、指の寸法以内に収まる高速で、高瞬時最大トルクを発生可能なモータ、高減速比で極小背隙の減速機、及び精密エンコーダが必要になる。しかし、市場にはこの様なアクチュエータはもとより、この仕様を満たす構成要素となる関連製品も見当たらない。即ちサーボモータの瞬時最大出力トルクは不足しており、減速機は多段遊星の場合でも出力軸にて角1°もの大きな背隙が有り、エンコーダも適合する小径・軽量・高分解能の製品が見当たらない。
【0003】
また、多関節指ユニットにおけるアクチュエータの回転出力軸から出力される回転を、これに直交する関節軸の回転運動に変換するために、従来技術として、ネジ及びラック・ピニオンの組み合せ、クランク機構、ウオームギヤ、ワイヤ及びシーブ方式等が有る。しかしながら、何れも関節部寸法並びに質量を過大にし、動作切り替え速度の不足を来す等の不具合がある。普通の傘歯車を用いる場合には、背隙及び円滑回転の点で問題がある。
【0004】
本発明者等は、このような問題点を解消するためのロボットハンドの多関節指ユニットを下記特許文献1において提案している。図3、4は、この文献に開示されている多関節指ユニットを示す平面図および断面図である。これらの図に示すように、多関節指ユニット1は、取付用フランジ2と、この取付用フランジ2に取り付けられたアクチュエータ3と、このアクチュエータ3の回転出力軸4に連結された多関節の指本体ユニット5とを有しており、指本体ユニット5は、アクチュエータ3の回転出力軸4の前端に連結された指付け根側関節部6と、この指付け根側関節部6の前側に連結された指付け根部7と、この指付け根部7の先端に連結された指先側関節部8と、この指先側関節部8の前側に連結された指先部9から構成されている。
【0005】
円柱形状のアクチュエータ3は前向き状態で、その前端部分が取付用フランジ2の円形開口枠部分2aに固定されており、その前端面からは回転出力軸4が円形開口枠部分2aを貫通して前方に突出している。この回転出力軸4の先端部には同軸状態に駆動側傘歯車11が固定されている。
【0006】
取付用フランジ2の前面の上下端からは、駆動側傘歯車11の上側および下側位置を通って、一対の指付け根側軸受ハウジング2b、2cが平行に張り出している。駆動側傘歯車11よりも前方に突出しているこれら指付け根側軸受ハウジング2b、2cの先端部分には、同軸位置となるようにそれぞれ上側ボールベアリング12および下側ボールベアリング13が取り付けられている。これらのボールベアリング12、13によって、上下の端が回転自在の状態で回転出力軸4の軸線方向に直交する方向、本例では垂直に指付け根側関節軸14が支持されている。
【0007】
この関節軸14におけるその軸線方向の上側の外周面部分には同軸状態で従動側傘歯車15が固定され、この従動側傘歯車15が駆動側傘歯車11に噛み合っている。関節軸14における軸線方向の中央位置には、連結部材16の円環状ボス16aが固定されている。連結部材16は、円環状ボス16aと、この円環状ボス16aから前方に延びている首部分16bと、この首部分16bの先端から前方にコの字状に延びているフォーク部分16cとを備えている。このフォーク部分16cには円筒状の付け根側カバー17が同軸状態に連結されている。
【0008】
このように、アクチュエータ3の回転出力軸4の前端に連結された指付け根側関節部6が、取付用フランジ2に形成した上下の指付け根側ハウジング2b、2cと、上下のボールベアリング12、13と、指付け根側関節軸14と、指付け根側従動側傘歯車15と、指付け根側連結部材16とによって構成されている。また、指付け根部7が、指付け根側連結部材16のフォーク部16cに連結された円筒状の付け根側カバー17によって形成されている。
【0009】
次に、指付け根部7の先端に連結されている指先側関節部8および指先部9も、指付け根側関節部6および指付け根部7と同様な構造とされている。すなわち、付け根側カバー17の中空部には同軸状態で第2のアクチュエータ21が内蔵されており、このアクチュエータ21の前端部分は回転自在の状態で同じく付け根側カバー17の中空部に内蔵された円環状フランジ22に支持されている。この円環状フランジ22の外周面は付け根側カバー17の内周面に固定されている。
【0010】
アクチュエータ21の回転出力軸23は円環状フランジ22の中空部分を通って同軸状態で前方に突出しており、その先端部には指先側駆動傘歯車24が同軸状態に固定されている。円環状フランジ22の前面の上下端からは、駆動側傘歯車24の上側および下側位置を通って、一対の指先側軸受ハウジング22a、22bが平行に張り出している。駆動側傘歯車24よりも前方に突出しているこれら指先側軸受ハウジング22a、22bの先端部分には、同軸位置となるようにそれぞれ上側ボールベアリング25および下側ボールベアリング26が取り付けられている。これらのボールベアリング25、26によって、上下の端が回転自在の状態で回転出力軸23の軸線方向に直交する方向、本例では垂直に指先側関節軸27が支持されている。
【0011】
この関節軸27におけるその軸線方向の上側の外周面部分には同軸状態で従動側傘歯車28が固定され、この従動側傘歯車28が駆動側傘歯車24に噛み合っている。従動側傘歯車28における軸線方向の中央位置には、指先側連結部材29の円環状ボス29aが固定されている。連結部材29は、円環状ボス29aと、この円環状ボス29aから前方に延びている首部分29bと、この首部分29bの先端から前方にコの字状に延びているフォーク部分29cとを備えている。このフォーク部分29cには先端が半球状に閉鎖された円筒状の指先側カバー30が同軸状態に連結されている。
【0012】
多関節指ユニット1では、回転出力軸4の回転が一対の傘歯車11、15を介して関節軸14の回転運動に変換され、この関節軸14に一端が固定されている連結部材16が当該関節軸14を中心として左右に90°以上の角度まで旋回する。各関節部6、8を前後あるいは左右に90°以上の角度で折り曲げ制御可能であり、様々な動作を可能とする軽量で、高速および高精度の人工指を実現できる。
【0013】
アクチュエータ3、21は、高密度巻線と高密度部品配置による高速・高最大トルク短時間定格のサーボモータと、高減速比(例えば1/50〜1/100)の短寸法・高トルク・低背隙のユニット型波動歯車装置と、小型・軽量・高速対応・高分解能エンコーダを備えた構成となっている。また、各傘歯車11、15、24、28として、極小背隙・無給油傘歯車をしている。このような傘歯車は、歯切り後に表面硬化処理を行ない、高精度傘歯車ラップ盤を用い無背隙状態にてラップ加工をし、更に歯面に固体潤滑剤を含浸処理し、無給油にて無背隙運転を可能としたものである。
【0014】
各関節部に用いている傘歯車11、15および傘歯車24、28の無背隙運転構造は、スプリング板によって構成されている。例えば、指付け根側関節部6においては、その関節軸14の上下端を回転自在に支持している上側ボールベアリング12の上端面および下側ボールベアリング13の下端面に、当該関節軸14を傘歯車円錐中心方向に軸方向偏移量限定の軸方向推力を加えるスプリング板31、32を取り付けてある。同様に、指先側関節部8においても同様に機能するスプリング板33、34を取り付けてある。
【特許文献1】特開2004−122339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ここで、上記のようなロボットハンド等の関節機構において、関節軸のトルク向上を実現するための方法としては、アクチュエータを構成しているモータおよび減速機として、上のサイズ(型番)のものを用いる方法が一般的である。しかしながら、上の型番のモータおよび減速機は、通常、その外径寸法も大きい。このため、関節機構自体の寸法も必然的に大きくせざるを得ない。関節機構の寸法が大きくなると、それが組みつけられているロボットハンドの指ユニットの太さあるいは厚みも増加してしまうので好ましくない。
【0016】
本発明の課題は、寸法の増加を伴うことなく関節軸の駆動トルクを高めることのできるロボットハンド等の関節機構を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、本発明のロボットハンド等の関節機構は、関節軸と、前記関節軸をその中心線回りに回転自在の状態で支持している支持部材と、前記関節軸に連結され、当該関節軸の回転に伴って前記中心線回りに旋回する旋回部材と、前記支持部材に取り付けられている第1のアクチュエータと、前記旋回部材に取り付けられている第2のアクチュエータと、前記関節軸に同軸状態に固着されている従動側傘歯車と、前記第1のアクチュエータの回転出力軸に同軸状態に連結され、前記従動側傘歯車に噛み合っている第1の駆動側傘歯車と、前記第2のアクチュエータの回転出力軸に同軸状態に連結され、前記従動側傘歯車に噛み合っている第2の駆動側傘歯車とを有していることを特徴としている。
【0018】
ここで、典型的な構成においては、前記支持部材は平行に延びる一対の支持腕を備え、これらの支持腕の先端部は、それぞれ、軸受を介して前記関節軸の両端部分を回転自在の状態で支持しており、前記旋回部材は平行に延びる一対の連結腕を備え、これらの連結腕の先端部が、それぞれ、前記関節軸の両端部分における前記支持腕よりも外側の部分に連結されており、前記従動側傘歯車は、前記関節軸における前記支持腕の内側の部分に固着される。
【発明の効果】
【0019】
本発明のロボットハンド等の関節機構では、傘歯車を用いて関節軸を回転駆動すると共に、関節軸を挟み、第1、2のアクチュエータを配置し、それぞれのアクチュエータの回転力を、傘歯車からなる歯車列を介して、関節軸に伝達可能としてある。双方のアクチュエータを同時に駆動することにより、関節軸の駆動トルクを高めることができる。
【0020】
よって、上の型番のモータおよび減速機からなるアクチュエータを用いる場合とは異なり、駆動トルクを高めるために外径寸法が増大してしまうという弊害が発生しない。したがって、本発明の関節機構を用いれば、ロボットハンドの指ユニットの太さあるいは厚みを増加させることなく、その駆動トルクを高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、図面を参照して本発明を適用したロボットハンド等の関節機構の例を説明する。
【0022】
図1はロボットハンドの指ユニットの関節機構を示す正面図、平面図、先端側から見た場合の端面図および後側から見た場合の端面図である。また、図2は図1のa−a線で部分切断した場合の矢視図、および図1のb−b線で部分切断した場合の矢視図である。
【0023】
本例の関節機構100は、上下方向に延びる円柱状の垂直関節軸101を備え、この垂直関節軸101は支持ブラケット102によって回転自在の状態で支持されている。支持ブラケット102は、円環状取付枠103と、この円環状取付枠103の上下の部分から前方に水平に延びる上下一対の支持腕104、105とを備えている。これら支持腕104、105の先端部分に、軸受106、107が水平に取り付けられており、これらの軸受106、107を介して垂直関節軸101が回転自在の状態で支持されている。支持ブラケット102の円環状取付枠103には、後側から第1のアクチュエータ110の前端部分が差し込まれて、ここに連結固定されている。
【0024】
垂直関節軸101の上下の端部分101a、101bは軸受106、107から上下に突出している。これらの端部分101a、101bには、垂直関節軸101の前側に位置している旋回ブラケット120が連結固定されている。旋回ブラケット120は、円環状取付枠121と、この円環状取付枠121の上下の部位から後方に水平に延びている上下一対の連結腕122、123とを備えている。これら連結腕122、123の先端部分に形成した軸穴に垂直関節軸101の上下の端部分101a、101bが圧入固定されている。したがって、旋回ブラケット120は、垂直関節軸101がその中心線101A回りに回転すると、それと一体となって左右に旋回する。旋回ブラケット120の円環状取付枠121には、後向きに配置された第2のアクチュエータ130の前端部分が後側から差し込まれて、ここに連結固定されている。
【0025】
第1および第2のアクチュエータ110、130は、それらの軸線110A、130Aが垂直関節軸101の中心線101Aにおける上下方向の中心において交差し、当該中心線101Aから直交する方向に延びるように、配置されている。すなわち、前後方向に水平に延びるように配置されている。第1のアクチュエータ110は同軸状態に連結されたモータ111および減速機112を備え、減速機112の減速回転出力軸113が支持ブラケット104の円環状取付枠103から前方に突出しており、この先端に第1の駆動側ベベルギア114が同軸状態で連結固定されている。同様に、第2のアクチュエータ130は、同軸状態に連結されたモータ131および減速機132を備え、減速機132の減速回転出力軸133が旋回ブラケット120の円環状取付枠121から後方に突出しており、この先端に、第2の駆動側ベベルギア134が同軸状態で連結固定されている。
【0026】
このように前後から対向配置されている第1および第2の駆動側ベベルギア114、134の間に位置している垂直関節軸101には、上側の支持腕104の下側位置において、従動側ベベルギア140が同軸状態で固着されている。この従動側ベベルギア140には、前後の第1および第2の駆動側ベベルギア114、134がそれぞれ噛み合っている。
【0027】
この構成の関節機構100において、支持ブラケット102を固定し、この状態で、第1および第2のアクチュエータ110、130を回転駆動すると、双方のアクチュエータ110、130によって、垂直関節軸101を回転駆動させることができる。垂直関節軸101が回転すると、そこに連結固定されている旋回ブラケット120および第2のアクチュエータ130が図の中立位置から左右に旋回する。
【0028】
本例の関節機構100は、例えば、図3、4に示すロボットハンドの指ユニット1における指先側関節部8に適用することができる。この場合には、指先部9を2台のアクチュエータ110、130によって旋回させることができる。よって、図3、4に示すように1台のアクチュエータで指先部9を旋回させる場合に比べて、その外径寸法を増加させることなく、実質的に2倍の駆動トルクで指先部9を旋回させることが可能になる。また、一方のアクチュエータ110あるいは130が故障した場合には、他方のアクチュエータによって、指先部9の駆動を確保できるように構成することも可能である。
【0029】
なお、本発明の関節機構を、図3、4に示す構造の多関節指ユニット以外の関節機構として用いることができることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明を適用した関節機構の正面図、平面図、先端側の端面図、および後端側の端面図である。
【図2】図1のa−a線で部分切断した場合の矢視図および、b−b線で部分切断した場合の矢視図である。
【図3】多関節指ユニットの一例を示す平面図である。
【図4】図3の多関節指ユニットの縦断面図である。
【符号の説明】
【0031】
100 関節機構
101 垂直関節軸
101A 中心線
101a、101b 端部
102 支持ブラケット
103 円環状取付枠
104、105 支持腕
106、107 軸受
110 第1のアクチュエータ
111 モータ
112 減速機
113 減速回転出力軸
114 第1の駆動側ベベルギア
120 旋回ブラケット
121 円環状取付枠
122、123 連結腕
130 第2のアクチュエータ
131 モータ
132 減速機
133 減速回転出力軸
134 第2の駆動側ベベルギア
140 従動側ベベルギア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節軸と、
前記関節軸をその中心線回りに回転自在の状態で支持している支持部材と、
前記関節軸に連結され、当該関節軸の回転に伴って前記中心線回りに旋回する旋回部材と、
前記支持部材に取り付けられている第1のアクチュエータと、
前記旋回部材に取り付けられている第2のアクチュエータと、
前記関節軸に同軸状態に固着されている従動側傘歯車と、
前記第1のアクチュエータの回転出力軸に同軸状態に連結され、前記従動側傘歯車に噛み合っている第1の駆動側傘歯車と、
前記第2のアクチュエータの回転出力軸に同軸状態に連結され、前記従動側傘歯車に噛み合っている第2の駆動側傘歯車とを有しているロボットハンド等の関節機構。
【請求項2】
請求項1において、
前記支持部材は平行に延びる一対の支持腕を備え、これら支持腕の先端部は、それぞれ、軸受を介して前記関節軸の両端部分を回転自在の状態で支持しており、
前記旋回部材は平行に延びる一対の連結腕を備え、これら連結腕の先端部が、それぞれ、前記関節軸の両端部分における前記支持腕よりも外側の部分に連結されており、
前記従動側傘歯車は、前記関節軸における前記支持腕の内側の部分に固着されていることを特徴とするロボットハンド等の関節機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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