説明

ロボット用回転関節における回転の機械的制限

【課題】機構の複雑化・大型化や周囲との干渉、美観の低下を抑制しつつ、許容回転角度の範囲が広い範囲に設定されたロボット用回転関節における回転を機械的に制限する。
【解決手段】ロボット用回転関節は、フレームと、フレームの内部に配置され中心軸回りに回転する略円柱形状の回転軸体と、回転軸体の回転を機械的に制限するメカニカルストッパと、を備える。メカニカルストッパは、穴を有すると共に、フレームにおける回転軸体の側面に対向する位置に固定されたフックと、両端が回転軸体の側面に固定されたワイヤであって、フックの穴を一度通ると共に、回転軸体の側面に沿って巻き付けられたワイヤと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット用回転関節における回転を機械的に制限する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボット用回転関節における回転を機械的に制限する機構として、フレームとフレームに対して相対的に回転する回転軸体とのそれぞれに突起を形成し、突起同士の干渉により回転を制限するメカニカルストッパが知られている。このようなメカニカルストッパは、突起の存在により、許容される回転角度の範囲が360度未満に抑えられるため、適用範囲が狭い。このようなメカニカルストッパにおいて、例えば突起を出し入れする可変機構を追加することにより、許容回転角度の範囲を360度以上とすることは可能であるが、機構が複雑化・大型化してしまう。
【0003】
ロボット用回転関節を介して接続された2つのアームの外部側面にワイヤを設けることにより、回転関節における回転を機械的に制限する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この技術によれば、ワイヤの長さを調整することにより、回転関節の許容回転角度の範囲を任意に設定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−178686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のワイヤを用いる技術では、ワイヤがアームの外部側面に設けられるため、ロボットの運用の際に周囲の物・人との干渉の恐れがあると共に、美観上も好ましくない。特に、上記従来のワイヤを用いる技術において、回転関節の許容回転角度の範囲を広くするためには、ワイヤを長くする必要があるが、この場合には、回転関節の角度によってはワイヤに大きな緩みが発生し、干渉や美観の点で問題が大きい。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、機構の複雑化・大型化や周囲との干渉、美観の低下を抑制しつつ、許容回転角度の範囲が360度以上の広い範囲に設定されたロボット用回転関節における回転を機械的に制限する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の少なくとも一部を解決するために、本発明は、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]ロボット用回転関節であって、
フレームと、
前記フレームの内部に配置され、中心軸回りに回転する略円柱形状の回転軸体と、
前記回転軸体の回転を機械的に制限するメカニカルストッパと、を備え、
前記メカニカルストッパは、
穴を有すると共に、前記フレームにおける前記回転軸体の側面に対向する位置に固定されたフックと、
両端が前記回転軸体の側面に固定されたワイヤであって、前記フックの前記穴を一度通ると共に、前記回転軸体の側面に沿って巻き付けられたワイヤと、を含む、ロボット用回転関節。
【0009】
このロボット用回転関節は、フックとワイヤとを含むメカニカルストッパを備える。フックは、穴を有すると共に、フレームにおける回転軸体の側面に対向する位置に固定されている。また、ワイヤは、両端が回転軸体の側面に固定されており、フックの穴を一度通ると共に、回転軸体の側面に沿って巻き付けられている。そのため、回転軸体を回転させていくと、ワイヤの張力により回転軸体をそれ以上回転させることができない状態に達する。従って、メカニカルストッパは、回転軸体の回転を機械的に制限することができる。また、このメカニカルストッパは、ワイヤの長さを調整するだけで、回転関節の回転軸体の許容回転角度の範囲を360度以上の広い範囲に設定することができる。また、上述した従来のメカニカルストッパのようにフレームと回転軸体とのそれぞれに形成された突起同士の干渉により回転を制限する場合には、許容される回転角度の範囲が360度未満(360度から突起の体積に相当する角度を差し引いた角度まで)に抑えられるが、このメカニカルストッパでは、例えばワイヤの長さを許容回転角度が360度となるように調整すれば、回転軸体をきちんと360度の範囲全体にわたって回転させることができる。また、このメカニカルストッパは、フックとワイヤとにより構成されるため、上述した従来のメカニカルストッパにおいて突起を出し入れする可変機構が追加される構成のように、機構の複雑化・大型化を招くこともない。さらに、このメカニカルストッパは、フレームの内部に配設されるため、メカニカルストッパの存在により、ロボットの運用の際における周囲の物・人との干渉の恐れが増大したり、美観が損なわれたりすることがない。また、このメカニカルストッパは、回転軸体が回転してもワイヤが回転軸体の側面に沿って巻き付けられた状態を維持し、ワイヤの緩みの発生が抑制されるため、メカニカルストッパをフレームの内部に問題なく配設することができる。従って、このロボット用回転関節では、機構の複雑化・大型化や周囲との干渉、美観の低下を抑制しつつ、許容回転角度の範囲が360度以上の広い範囲に設定されたロボット用回転関節における回転を機械的に制限することができる。
【0010】
[適用例2]適用例1に記載のロボット用回転関節であって、
前記ワイヤの両端の固定位置は、前記中心軸の方向に沿って互いにずれている、ロボット用回転関節。
【0011】
このロボット用回転関節では、回転軸体の側面に巻き付けられたワイヤの一部が他の部分と接触することを抑制することができる。
【0012】
[適用例3]適用例2に記載のロボット用回転関節であって、
前記フックの前記穴は、前記中心軸の方向に沿って、少なくとも、前記ワイヤの一端の固定位置に正対する位置から前記ワイヤの他端の固定位置に正対する位置までの長さを有する形状である、ロボット用回転関節。
【0013】
このロボット用回転関節では、回転軸体の回転に伴うワイヤとフックの穴との接点の中心軸方向に沿った移動が許容されるため、ワイヤの長さおよび固定位置をより精度良く設定することができ、回転軸体の回転に伴うワイヤの緩みの発生をより効果的に抑制することができる。
【0014】
[適用例4]適用例1ないし適用例3のいずれかに記載のロボット用回転関節であって、
前記ワイヤの前記回転軸体の側面に沿って巻き付けられる長さと前記ワイヤの両端の固定位置とは、前記メカニカルストッパにより制限すべき前記回転軸体の回転角度の範囲に応じて設定される、ロボット用回転関節。
【0015】
このロボット用回転関節では、許容回転角度の範囲が360度以上の広い範囲に設定されたロボット用回転関節における回転を機械的に制限することができる。
【0016】
[適用例5]適用例1ないし適用例4のいずれかに記載のロボット用回転関節であって、
前記回転軸体は、前記回転軸体の側面に巻き付けられた前記ワイヤの長さ方向とは異なる方向に沿った動きを制限するガイド部を有する、ロボット用回転関節。
【0017】
このロボット用回転関節では、ガイド部によって回転軸体の側面に巻き付けられたワイヤの長さ方向とは異なる方向に沿った動きが制限されるため、ワイヤの位置ずれによるワイヤの緩みやワイヤの部分同士の干渉の発生を効果的に抑制することができる。
【0018】
[適用例6]適用例5に記載のロボット用回転関節であって、
前記ガイド部は、前記回転軸体の側面に形成されて前記ワイヤを内部に収容する溝部である、ロボット用回転関節。
【0019】
このロボット用回転関節では、回転軸体の側面に形成されてワイヤを内部に収容する溝部により、回転軸体の側面に巻き付けられたワイヤの長さ方向とは異なる方向に沿った動きを制限することができる。
【0020】
[適用例7]ロボットシステムであって、
適用例1ないし適用例6のいずれかに記載のロボット用回転関節と、
前記回転軸体を回転駆動するモータと、
前記回転軸体の回転角度を検出する角度検出部と、
前記角度検出部により検出された前記回転軸体の回転角度に基づき、前記回転軸体の回転角度が、前記メカニカルストッパにより制限される前記回転軸体の回転角度の範囲より狭い回転角度の範囲内となるように、前記モータを制御する制御部と、を備える、ロボットシステム。
【0021】
このロボットシステムでは、制御部によって、回転軸体の回転角度が、メカニカルストッパにより制限される回転軸体の回転角度の範囲より狭い回転角度の範囲内となるように、モータが制御されるため、制御部による正常制御の際にはメカニカルストッパが作動することはなく、制御の不具合発生時やオペレータによるティーチングの際には、メカニカルストッパにより回転軸体の過回転による不具合の発生を抑制することができる。
【0022】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、ロボット用回転関節、ロボット用回転関節の制御方法、ロボット用回転関節を備えるロボットシステム、等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施例におけるロボットシステム10の概略構成を示す説明図である。
【図2】回転関節110の構成を模式的に示す説明図である。
【図3】回転関節110における回転軸体130の回転動作を模式的に示す説明図である。
【図4】回転関節110における回転軸体130の回転動作を模式的に示す説明図である。
【図5】回転関節110における回転軸体130の回転動作を模式的に示す説明図である。
【図6】第2実施例における回転関節110aの構成を模式的に示す説明図である。
【図7】第3実施例における回転関節110bの構成を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.第1実施例:
B.第2実施例:
C.第3実施例:
D.変形例:
【0025】
A.第1実施例:
図1は、本発明の第1実施例におけるロボットシステム10の概略構成を示す説明図である。ロボットシステム10は、多関節型の産業用ロボットであるロボット本体100と、ロボット本体100を制御する制御装置200と、制御装置200に接続され、ロボット本体100の動作のプログラミングを行うためのティーチングペンダント300と、を有している。
【0026】
ロボット本体100は、工場等の設置場所に固定されるベース部101と、水平方向に旋回可能にベース部101に支持されたショルダ部102と、鉛直方向に旋回可能にショルダ部102に下端が支持された下アーム103と、鉛直方向に旋回可能に下アーム103の先端に略中央部が支持された上アーム104と、鉛直方向に旋回可能に上アーム104の先端に支持された手首105と、を有している。手首105の先端には、手首105の円周方向に回転可能なフランジ部106が設けられている。フランジ部106には、例えばワークを把持するハンド(図示せず)が取り付けられる。
【0027】
制御装置200は、CPUとメモリとを有するコンピュータにより構成されている。制御装置200は、CPUがメモリに記憶された所定のコンピュータプログラムを読み出して実行することにより、ロボット本体100を制御する制御部として機能する。
【0028】
ロボット本体100の各パーツ間の接続位置には回転関節が設けられている。図2は、回転関節110の構成を模式的に示す説明図である。図2には、ロボット本体100の各パーツを接続する位置に設けられた回転関節の1つを示している。
【0029】
回転関節110は、フレーム150と、フレーム150の内部に配置され、所定の中心軸AX回りに回転する略円柱形状の回転軸体130と、回転軸体130を回転駆動するモータ122および減速機124と、を有している。モータ122および減速機124は、ギアードモータを構成する。なお、回転軸体130は、例えばティーチングペンダント300を用いたティーチングの際に、オペレータによって回転させられることもある。
【0030】
回転軸体130にはシャフト142が接続されている。シャフト142は、回転軸体130と一緒に回転する。また、シャフト142は、回転軸体130との接続部とは反対側で、隣接パーツに接続されている。そのため、回転関節110における回転軸体130の回転により、隣接パーツ間の相対回転動作が実現される。なお、本実施例では、シャフト142の形状を外側に湾曲した形状とすることにより、中心軸AX付近に、例えば機内配線144を収容するためのスペースを確保している。
【0031】
回転関節110は、回転軸体130の回転角度を検出する図示しない角度センサを有している。角度センサは、モータ122の回転軸の回転角度を検出することによって回転軸体130の回転角度を検出するものであってもよいし、回転軸体130の回転角度を直接検出するものであってもよい。本実施例のロボットシステム10では、制御装置200が、各回転関節110における角度センサの検出結果に基づきモータ122を制御して、回転関節110の回転軸体130の回転角度を制御する。これにより、ロボット本体100の姿勢制御が実現される。なお、本明細書では、このような制御装置200による回転軸体130の回転角度制御を、ソフトウェア制御と呼ぶものとする。
【0032】
回転関節110は、また、回転関節110の回転軸体130の回転を機械的に制限するメカニカルストッパ160を有している。メカニカルストッパ160は、フック170とワイヤ180とを含んでいる。フック170は、フレーム150における回転軸体130の側面に対向する位置に固定されており、穴172を有している。穴172の内径は、ワイヤ180の外径よりも大きい。ワイヤ180は、両端が固定位置182で回転軸体130の側面に固定されており、フック170の穴172を一度通ると共に、回転軸体130の側面に沿って巻き付けられている。
【0033】
以下に説明するように、メカニカルストッパ160におけるワイヤ180の回転軸体130の側面に沿って巻き付けられる長さやワイヤ180の両端の固定位置182は、メカニカルストッパ160により制限すべき回転軸体130の回転角度の範囲に応じて設定される。メカニカルストッパ160により制限すべき回転軸体130の回転角度の範囲は、ソフトウェア制御により許容される回転軸体130の回転角度の範囲より僅かに広い範囲となるように設定される。すなわち、ソフトウェア制御は、回転軸体130の回転角度が、メカニカルストッパ160により機械的に制限される回転軸体130の回転角度の範囲より狭い回転角度の範囲内となるように実行される。
【0034】
図3ないし図5は、回転関節110における回転軸体130の回転動作を模式的に示す説明図である。図3(a)、図4(a)、図5(a)には、回転関節110の回転軸体130およびメカニカルストッパ160を中心軸AXに平行な方向から見た構成を模式的に示しており、図3(b)、図4(b)、図5(b)には、回転関節110の回転軸体130およびメカニカルストッパ160を斜視した構成を模式的に示している。
【0035】
例えば図3(a)に示すように、本実施例では、ワイヤ180の長さは、回転軸体130の円形断面の外周2周分の長さと、フック170の穴172から回転軸体130の円形断面への接線上における穴172から接点までの線分の長さの2倍と、の合計に等しくなるように設定されている。
【0036】
なお、図3ないし図5では、ワイヤ180の存在をわかりやすく示すために、ワイヤ180が回転軸体130の側面から浮いているような表現を採用しているが、実際には、ワイヤ180は、回転軸体130の側面とフック170の穴172とを連絡する部分(以下、「フック連絡部」とも呼ぶ)を除き、回転軸体130の側面に接している。また、例えば図3(b)に示すように、回転軸体130の側面に巻き付けられたワイヤ180の一部が他の部分と接触することがないように、ワイヤ180の両端の固定位置182は中心軸AXの方向に沿って互いに僅かにずれている。従って、ワイヤ180は、厳密には、回転軸体130の側面に螺旋状に巻き付けられており、ワイヤ180の長さは上述した長さよりも僅かに長い。
【0037】
図3は、回転関節110の回転軸体130の回転角度が0度である中間状態を示している。中間状態では、ワイヤ180の2つの固定位置182(182aおよび182b)が、フック170の穴172から回転軸体130の円形断面への接線における2つの接点に位置している。また、ワイヤ180は、一方の固定位置182(182a)から回転軸体130の側面に沿って1周分巻き付けられ、その先にフック170の穴172を通るフック連結部が位置し、さらにその先において回転軸体130の側面に沿って1周分巻き付けられて、他方の固定位置182(182b)に至る状態となっている。この状態では、回転軸体130は、時計回り方向CWにも反時計回り方向CCWにも回転可能である。なお、回転軸体130の円形断面における2つの固定位置182の為す角度をDと表すものとする。
【0038】
図4は、回転軸体130が、図3に示す中間状態から反時計回り方向CCWに360度回転した状態を示している。この状態では、2つの固定位置182(182aおよび182b)が、フック170の穴172から回転軸体130の円形断面への接線における2つの接点に位置している。また、ワイヤ180は、一方の固定位置182(182a)から直接フック170の穴172を通るフック連結部に至り、その先において回転軸体130の側面に沿って2周分巻き付けられて、他方の固定位置182(182b)に至る状態となっている。この状態では、回転軸体130は、機械的には、時計回り方向CWにも反時計回り方向CCWにも回転可能である。しかし、本実施例では、ソフトウェア制御において、図4に示した状態における回転軸体130の回転角度を、反時計回り方向CCWの限界回転角度に設定している。すなわち、ソフトウェア制御では、回転軸体130が図4に示した状態からさらに反時計回り方向CCWに回転しないように、モータ122が制御される。図4に示す状態を、反時計回り方向CCWのソフトウェア制御限界状態と呼ぶ。
【0039】
なお、図3に示す中間状態から時計回り方向CWに360度回転した状態は、図4(a)に示した状態を左右反転した状態となる。本実施例では、ソフトウェア制御において、この状態(図3に示す中間状態から時計回り方向CWに360度回転した状態。以下、「時計回り方向CWのソフトウェア制御限界状態」と呼ぶ)における回転軸体130の回転角度を、時計回り方向CWの限界回転角度に設定している。すなわち、本実施例のソフトウェア制御では、許容される回転軸体130の回転角度の範囲は、中間状態から反時計回り方向CCWに360度回転した角度から、中間状態から時計回り方向CWに360度回転した角度までの、合計720度の範囲である。
【0040】
図5は、回転軸体130が、図4に示す反時計回り方向CCWのソフトウェア制御限界状態からさらに反時計回り方向CCWに回転した状態を示している。図4に示す反時計回り方向CCWのソフトウェア制御限界状態からさらに反時計回り方向CCWに回転軸体130を回転させていくと、ワイヤ180が受ける張力により、回転軸体130をそれ以上反時計回り方向CCWに回転させることができない状態(以下、「反時計回り方向CCWのメカニカル限界状態」と呼ぶ)に達する。すなわち、この状態では、回転軸体130をさらに反時計回り方向CCWに回転させようとする力が作用すると、ワイヤ180に両端を引っ張る力が作用するため、ワイヤ180によって回転軸体130の回転が制限される。図5は、反時計回り方向CCWのメカニカル限界状態を示している。なお、時計回り方向CWについても同様に、時計回り方向CWのソフトウェア制御限界状態からさらに反時計回り方向CCWに回転軸体130を回転させていくと、ワイヤ180の張力により、回転軸体130をそれ以上時計回り方向CWに回転させることができない状態(以下、「時計回り方向CWのメカニカル限界状態」と呼ぶ)に達する。
【0041】
例えば、ソフトウェア制御の不具合発生時やオペレータによるティーチングの際には、反時計回り方向CCWのソフトウェア制御限界状態(図4)からさらに反時計回り方向CCWに回転軸体130を回転させる力が加えられる場合(あるいは時計回り方向CWについての同様の場合)がある。本実施例のロボットシステム10における回転関節110は、フック170とワイヤ180とを含むメカニカルストッパ160を有しているため、このような場合も、メカニカルストッパ160によって回転軸体130の回転がメカニカル限界状態で機械的に止められるため、回転軸体130の過回転による不具合の発生を抑制することができる。
【0042】
また、本実施例では、メカニカルストッパ160のワイヤ180の長さを調整するだけで、回転関節110の回転軸体130の許容回転角度の範囲を360度以上の広い範囲に設定することができる。また、本実施例では、メカニカルストッパ160がフック170とワイヤ180とにより構成されるため、機構の複雑化・大型化を招くこともない。さらに、本実施例では、メカニカルストッパ160がフレーム150の内部に配設されるため、メカニカルストッパ160の存在により、ロボットシステム10の運用の際における周囲の物・人との干渉の恐れが増大したり、美観が損なわれたりすることがない。また、本実施例では、少なくともソフトウェア制御において許容される回転角度の範囲においては、回転軸体130が回転しても、ワイヤ180が、フック連絡部を除いて、回転軸体130の側面に沿って巻き付けられた状態を維持し、ワイヤ180の緩みの発生が抑制されるため、メカニカルストッパ160をフレーム150の内部に問題なく配設することができる。従って、本実施例の回転関節110によれば、機構の複雑化・大型化や周囲との干渉、美観の低下を抑制しつつ、許容回転角度の範囲が360度以上の広い範囲に設定されたロボット用回転関節110における回転を機械的に制限することができる。
【0043】
また、本実施例では、メカニカルストッパ160のワイヤ180の両端の固定位置182が、回転軸体130の中心軸AXの方向に沿って互いにずれているため、回転軸体130の側面に巻き付けられたワイヤ180の一部が他の部分と接触することが抑制される。
【0044】
B.第2実施例:
図6は、第2実施例における回転関節110aの構成を模式的に示す説明図である。第2実施例における回転関節110aは、フック170の穴172aの形状の点が、図3等に示した第1実施例と異なっており、その他の構成は第1実施例と同じである。
【0045】
第2実施例では、フック170の穴172aが、回転軸体130の中心軸AXの方向に沿って、少なくとも、ワイヤ180の一端の固定位置182に正対する位置Paからワイヤ180の他端の固定位置182に正対する位置Pbまでの長さを有する形状となっている。そのため、第2実施例では、回転軸体130の回転に伴うワイヤ180とフック170の穴172aとの接点の中心軸AX方向に沿った移動が許容される。従って、第2実施例では、ワイヤ180の長さおよび固定位置182をより精度良く設定することができ、回転軸体130の回転に伴うワイヤ180の緩みの発生をより効果的に抑制することができる。
【0046】
C.第3実施例:
図7は、第3実施例における回転関節110bの構成を模式的に示す説明図である。第3実施例における回転関節110bは、回転軸体130の側面に螺旋状の溝132が形成され、ワイヤ180が溝132の内部に収容されている点が、図3等に示した第1実施例と異なっており、その他の構成は第1実施例と同じである。
【0047】
第3実施例では、回転軸体130の側面に螺旋状の溝132が形成され、ワイヤ180が溝132の内部に収容されているため、回転軸体130の側面に巻き付けられたワイヤ180が長さ方向とは異なる方向に沿って動くことが制限される。すなわち、中心軸AX方向に沿ったワイヤ180の位置ずれが抑制される。従って、第3実施例では、ワイヤ180の位置ずれによるワイヤ180の緩みやワイヤ180の部分同士の干渉の発生を効果的に抑制することができる。
【0048】
D.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0049】
上記各実施例におけるロボットシステム10の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記各実施例では、ロボット本体100は多関節型の産業用ロボットであるとしているが、ロボット本体100が単関節型ロボットであるとしてもよい。また、上記各実施例において、ロボット本体100のすべての回転関節がメカニカルストッパ160を有するとしてもよいし、ロボット本体100の回転関節の少なくとも1つがメカニカルストッパ160を有するとしてもよい。
【0050】
また、上記各実施例における、メカニカルストッパ160におけるワイヤ180の回転軸体130の側面に沿って巻き付けられる長さやワイヤ180の両端の固定位置182は、あくまで一例であり、これらはメカニカルストッパ160により制限すべき回転軸体130の回転角度の範囲に応じて設定される。例えば、上記各実施例では、ソフトウェア制御における回転軸体130の許容回転角度の範囲を合計720度の範囲とし、それより広い範囲でメカニカルストッパ160により回転軸体130の回転制限を行うために、ワイヤ180の長さを、回転軸体130の円形断面の外周2周分の長さと、フック170の穴172から回転軸体130の円形断面への接線上における穴172から接点までの線分の長さの2倍と、の合計に等しくなるように設定している。これに代えて、ソフトウェア制御における許容回転角度の範囲を合計1080度の範囲とし、それより広い範囲でメカニカルストッパ160により回転軸体130の回転制限を行うために、ワイヤ180の長さを、回転軸体130の円形断面の外周3周分の長さと、フック170の穴172から回転軸体130の円形断面への接線上における穴172から接点までの線分の長さの2倍と、の合計に等しくなるように設定するとしてもよい。また、ワイヤ180の両端の固定位置182を、中間状態において、フック170の穴172から回転軸体130の円形断面への接線における2つの接点とする必要はなく、メカニカルストッパ160により制限すべき回転軸体130の回転角度の範囲に応じた適切な位置にすればよい。
【0051】
また、上記第3実施例では、回転軸体130の側面に螺旋状の溝132が形成され、ワイヤ180が溝132の内部に収容されているとしているが、溝132を形成する代わりに、回転軸体130の側面に螺旋状の空間を形成するカバーを設け、ワイヤ180をカバー内に収容するとしてもよい。このようにしても、回転軸体130の側面に巻き付けられたワイヤ180が長さ方向とは異なる方向に沿って動くことが制限され、ワイヤ180の位置ずれによるワイヤ180の緩みやワイヤ180の部分同士の干渉の発生を効果的に抑制することができる。
【符号の説明】
【0052】
10…ロボットシステム
100…ロボット本体
101…ベース部
102…ショルダ部
103…下アーム
104…上アーム
105…手首
106…フランジ部
110…回転関節
122…モータ
124…減速機
130…回転軸体
132…溝
142…シャフト
144…機内配線
150…フレーム
160…メカニカルストッパ
170…フック
172…穴
180…ワイヤ
182…固定位置
200…制御装置
300…ティーチングペンダント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボット用回転関節であって、
フレームと、
前記フレームの内部に配置され、中心軸回りに回転する略円柱形状の回転軸体と、
前記回転軸体の回転を機械的に制限するメカニカルストッパと、を備え、
前記メカニカルストッパは、
穴を有すると共に、前記フレームにおける前記回転軸体の側面に対向する位置に固定されたフックと、
両端が前記回転軸体の側面に固定されたワイヤであって、前記フックの前記穴を一度通ると共に、前記回転軸体の側面に沿って巻き付けられたワイヤと、を含む、ロボット用回転関節。
【請求項2】
請求項1に記載のロボット用回転関節であって、
前記ワイヤの両端の固定位置は、前記中心軸の方向に沿って互いにずれている、ロボット用回転関節。
【請求項3】
請求項2に記載のロボット用回転関節であって、
前記フックの前記穴は、前記中心軸の方向に沿って、少なくとも、前記ワイヤの一端の固定位置に正対する位置から前記ワイヤの他端の固定位置に正対する位置までの長さを有する形状である、ロボット用回転関節。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のロボット用回転関節であって、
前記ワイヤの前記回転軸体の側面に沿って巻き付けられる長さと前記ワイヤの両端の固定位置とは、前記メカニカルストッパにより制限すべき前記回転軸体の回転角度の範囲に応じて設定される、ロボット用回転関節。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のロボット用回転関節であって、
前記回転軸体は、前記回転軸体の側面に巻き付けられた前記ワイヤの長さ方向とは異なる方向に沿った動きを制限するガイド部を有する、ロボット用回転関節。
【請求項6】
請求項5に記載のロボット用回転関節であって、
前記ガイド部は、前記回転軸体の側面に形成されて前記ワイヤを内部に収容する溝部である、ロボット用回転関節。
【請求項7】
ロボットシステムであって、
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のロボット用回転関節と、
前記回転軸体を回転駆動するモータと、
前記回転軸体の回転角度を検出する角度検出部と、
前記角度検出部により検出された前記回転軸体の回転角度に基づき、前記回転軸体の回転角度が、前記メカニカルストッパにより制限される前記回転軸体の回転角度の範囲より狭い回転角度の範囲内となるように、前記モータを制御する制御部と、を備える、ロボットシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−101324(P2012−101324A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252495(P2010−252495)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【Fターム(参考)】