説明

ロータコアの加熱処理方法および加熱処理装置

【課題】永久磁石埋め込み型モータを組み立てる際のロータコアの加熱時間を短縮する。
【解決手段】永久磁石が埋設されるスロット部をロータコアの周方向に沿って複数備えたロータコアを加熱処理する方法である。ロータコアの外周面側および内周面側にそれぞれ加熱コイルを配置し、双方の加熱コイルによる加熱処理を同時にまたは内周側加熱コイルによる加熱処理を先行して開始する。スロット部のロータ内周側の温度が目標温度に到達する前に、スロット部のロータ外周側の温度が上記目標温度以上となるまで昇温させ、以降は外周側加熱コイルによる加熱処理を断って内周側加熱コイルのみによる加熱処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの回転子となるロータコアを加熱処理するための加熱処理方法および加熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば永久磁石埋め込み型同期モータ等の組立工程においては、ロータコアのスロット部に永久磁石が埋め込まれるが、その永久磁石の固定のために使用される樹脂層や接着剤層の熱硬化、さらにはロータコアに対するシャフトの焼きばめによる圧入を目的として、磁石埋め込み後のロータコアを加熱処理することが行われる。そして、上記ロータコアの加熱処理を目的とした加熱装置および加熱方法が特許文献1にて提案されている。
【0003】
この特許文献1に記載された技術では、加熱対象となる円筒状のロータコアの外周側および内周側のそれぞれに高周波誘導加熱のためのコイルを配置し、外周側のコイルによる加熱の開始と終了は内周側のコイルによるそれと同時、または外周側のコイルによる加熱の開始と終了は内周側のコイルによるそれよりも遅れて行われることとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−22168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術では、ロータコアの内周側からの加熱効率が外周側に比べて低く当該外周側の昇温が緩慢であるとの観点から、外周側のコイルによる加熱の開始と終了は内周側のコイルによるそれと同時、または外周側のコイルによる加熱の開始と終了は内周側のコイルによるそれよりも遅れて行われるとしているものである。しかしながら、ロータコアの外周面側が目標温度に到達する時期は、外周側のコイルによる加熱が完了した時期にほかならず、加熱時間が長くなることとなって好ましくない。
【0006】
この加熱時間を短縮するためには温度勾配を高くすることが有効であるが、特にロータコアの内周側のコイルによる加熱の際に、目標温度よりも高い温度まで一旦オーバーシュートしてしまうようなことがあると、目標温度に落ち着くまでの冷却に時間がかかり、結果としてその冷却時間を含んだ加熱時間が長くなってしまうことになる。
【0007】
逆に、例えば外周側のコイルによる加熱量(熱エネルギーまたは熱投与量)を相対的に低下させた場合には、ロータコアの外周側から内周側へ伝達される熱量も減少することになるため、必然的にロータコアの内周側の温度上昇も緩慢なものとならざるを得ず、加熱時間の短縮化が図れないことになる。
【0008】
言い換えるならば、加熱時間を短縮するために、内周側のコイルによる加熱量を増加させると、先にも述べたようにオーバーシュートした際の冷却に時間を要することになるため、内周側のコイルによる加熱量を増加させるにも自ずと限度がある。他方、外周側のコイルによる加熱量をロータコアの内周側の温度上昇に合わせて低下させた場合には、ロータコアの外周側から内周側へ伝達される熱量も減少してしまい、結果として加熱時間が長くならざるを得ないことになる。
【0009】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、とりわけ加熱時間の短縮化を図ったロータコアの加熱処理方法および加熱処理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、永久磁石が埋設されるスロット部をロータコアの周方向に沿って複数備えたモータ用のロータコアを加熱処理するにあたり、上記ロータコアの外周面側および内周面側にそれぞれ加熱手段を配置しておくものとする。
【0011】
その上で、上記外周面側加熱手段による加熱処理と内周面側加熱手段による加熱処理を同時にまたは上記外周面側加熱手段による加熱処理に先行して内周面側加熱手段による加熱処理を開始し、上記スロット部のロータ内周側の温度が目標温度に到達する前に上記スロット部のロータ外周側での温度が上記目標温度以上となるまで昇温させ、以降は上記外周面側加熱手段による加熱処理を断って内周面側加熱手段のみによる加熱処理を施すものである。
【0012】
かかる加熱処理方法に用いる加熱処理装置としては、例えば請求項8に記載のように、加熱処理ステージとその下方の退避ステージとの間を昇降可能で且つ加熱処理対象となるロータコアが搭載される昇降式のテーブルと、上記加熱処理ステージにおいてロータコアの外周面側と内周面側とに配置される外周面側加熱手段および内周面側加熱手段と、上記加熱処理ステージにおいてロータコアを軸心方向に加圧拘束する拘束手段と、上記ロータコアの少なくとも上記スロット部のロータ外周側および内周側の温度を検出する温度検出手段と、上記温度検出手段からの検出出力を入力として外周面側加熱手段および内周面側加熱手段の出力制御を司る制御手段と、を備えていることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スロット部のロータ内周側での温度が目標温度に到達する前にスロット部のロータ外周側での温度が上記目標温度以上となるまで昇温させ、以降は外周面側加熱手段による加熱処理を断って内周面側加熱手段のみによる加熱処理を施すことにより、外周面側加熱手段による加熱処理を断った以降のスロット部の外周側でのいわゆる放冷が、内周面側加熱手段のみによる加熱処理と並行して行われることになるので、加熱処理時間を短縮することができ、モータを組み立てる際の生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】永久磁石埋め込み型モータにおけるロータコアの平面説明図。
【図2】図1のA−A線に沿う断面説明図。
【図3】本発明の実施の形態を示す図で、図1,2に示したロータコアの加熱処理に用いる加熱処理装置の概略説明図。
【図4】図3の加熱処理装置での処理手順を示すフローチャート。
【図5】図3の加熱処理装置での加熱時間と加熱温度との関係を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1以下の図面は本発明を実施するためのより具体的な形態を示していて、特に図1は例えば永久磁石埋め込み型同期モータにおけるロータコア1の平面図を、図2は図1のA−A線に沿う断面図を示している。さらに、図3は図1,2に示したロータコア1に対して加熱処理を施すための装置の概略を示している。
【0016】
図1,2に示すように、モータのロータは、薄板状の電磁鋼板、より具体的には珪素鋼板等の積層体からなる円筒状のロータコア1を主要素として構成されていて、そのロータコア1の円周方向の等分位置に磁石収納のための穴部として偏平矩形状の複数のスロット部2,3を形成してある。ここでは、ロータコア1の円周方向の八等分位置であって且つそれ自体の外周面寄りの位置には外周面側のスロット部2が形成されているとともに、それぞれの外周面側のスロット部2の内側、より具体的にはそれぞれの外周面側のスロット部2よりも内周面寄りの位置には左右で対をなす内周側のスロット部3が八の字状またはハの字状に形成されれている。すなわち、外周面側のスロット部2と一対の内周側のスロット部3とでロータコア1極分のスロットを構成しており、以下ではこの1極分のスロット部(外周面側のスロット部2と内周側のスロット部3)を総称して単にスロット部と言う。また、本実施例の形態においてはロータの径方向内側を内周側もしくは内周面側、ロータの径方向外側を外周側もしくは外周面側と記載する。
【0017】
それぞれのスロット部2,3はロータコア1をその軸心(回転中心)方向に貫通してロータコア1の両端面に開口していて、外周側のスロット部2には当該スロット部2の形状よりも一回り小さな板状またはバー状の永久磁石4を外側磁石としてそれぞれに挿入してある。同様に内周側のスロット部3には当該スロット部3の形状よりも一回り小さな板状またはバー状の永久磁石5を内側磁石としてそれぞれに挿入してある。そして、各永久磁石4,5はスロット部2または3と永久磁石4または5との隙間に注入または充填される図示外のエポキシ樹脂等の熱硬化性の樹脂材料にていわゆる樹脂モールドのかたちで位置決め固定してある。樹脂材料はスロット部2または3と永久磁石4または5との間の四周に介装されている。
【0018】
なお、ロータコア1の中心の軸穴となるべき内周面6には図示外の回転軸が挿入固定されるほか、ロータコア1の両端面に円板状のエンドプレート(端板)を積層配置することもある。さらに、熱硬化性の樹脂材料に代えて熱硬化性の接着剤を用いることもある。
【0019】
こうして樹脂モールドのかたちで各永久磁石4,5が固定されたロータコア1は、熱硬化性の樹脂材料または接着剤の加熱硬化を目的として加熱処理が施される。ロータコア1の加熱処理はそのロータコア1の内外周面側から均等に加熱する必要があり、図3に示した加熱処理装置を用いて加熱処理される。なお、この加熱処理は、スロット部2または3と永久磁石4または5との隙間に熱硬化性の樹脂材料を充填した後に該樹脂材料が硬化しやすくすることを目的として、樹脂材料の充填前に予めロータコア1を加熱する所謂予備加熱の処理として行われるものであっても良く、更には永久磁石4及び5の挿入前に行われるものであっても良い。
【0020】
この加熱処理装置では、図3に示すように、加熱処理ステージP1とその下側の退避ステージP2が用意されているとともに、それらの両ステージP1,P2間をリフタテーブル7が昇降動作するようになっている。リフタテーブル7は油圧または空圧式のリフトシリンダ8の伸縮作動に応じて昇降動作する。加熱処理ステージP1では、リフタテーブル7にてリフトアップされたロータコア1に対する加熱処理が実行され、他方、退避ステージP2では、リフタテーブル7への加熱処理前のロータコア1の投入(搭載)・位置決めと加熱処理後のロータコア1の取り出しが行われる。
【0021】
なお、図3では、図面の錯綜化を避けるためにリフタテーブル7を退避ステージP2に留めたままとして図示しているが、同図のように加熱対象となるロータコア1が加熱処理ステージP1にある場合には、リフタテーブル7はその加熱処理ステージP1にあるロータコア1を支えていることになる。
【0022】
加熱処理ステージP1には、ロータコア1をその内周面側および外周面側からそれぞれ高周波誘導加熱にて加熱処理するために外周面側加熱手段としての外周側加熱コイル9と内周面側加熱手段としての内周側加熱コイル10を固定配置してある。これらの外周側加熱コイル9と内周側加熱コイル10の通電制御は、それぞれに整合器および電源を含む外周側加熱コイル制御部11および内周側加熱コイル制御部12によって行われ、さらに外周側加熱コイル制御部11および内周側加熱コイル制御部12のON−OFF制御は上位の制御手段であるシーケンサ13によって実行される。
【0023】
また、加熱ステージP1には、リフタテーブル7上に位置決めされたロータコア1をその軸心方向から加圧拘束するための拘束手段としてのコア押さえパッド14を設けてある。このコア押さえパッド14は油圧式または空圧式のシリンダ15の伸縮作動に応じて昇降動作するもので、リフタテーブル7上に位置決めされているロータコア1を下方に向けて押圧し、後述するようにロータコア1を高周波誘導加熱方式にて加熱する際に、ロータコア1の磁化による珪素鋼板同士の反発力を拘束する役目をする。なお、このコア押さえパッド14はロータコア1の上面のうち円環状領域の全面を拘束し得る形状のものである。
【0024】
ここで、上記リフタテーブル7およびコア押さえパッド14には循環型水冷機構16が付帯していて、少なくとも加熱処理ステージP1でのロータコア1の加熱処理中はこれらのリフタテーブル7およびコア押さえパッド14が循環する冷却水にて強制冷却されることになる。
【0025】
さらに、上記加熱処理ステージP1には温度検出手段としての複数の非接触式の温度センサ17を設けてある。これの温度センサ17は、図1の三箇所、より具体的には、機能上重要な外周側スロット部としての外周側のスロット部2であるところのQ1点の温度と、内周側スロット部としての内周側のスロット部3であるところのQ2点の温度のほか、ロータコア1の内周面6であるところのQ3点の温度をそれぞれにリアルタイムで検出するようになっている。そして、各温度センサ17の実測値は測温機構部18を経て上位の制御手段であるシーケンサ13に取り込まれるようになっている。なお、本実施の形態においては上述の通り外周側のスロット部2と内周側のスロット部3とを合わせて1極分のスロット部を形成しており、従ってQ1点の温度は1極分のスロット部の外周側の温度であり、Q2点の温度は1極分のスロット部の内周側の温度と言い換えることができる。
【0026】
他方、退避ステージP2には冷却手段としての冷却ファン19を設けてある。この冷却ファン19はシーケンサ13からの指令により起動し、加熱処理ステージp1での加熱処理を終えたロータコア1が退避ステージP2に移動するのを待って、その加熱処理後のロータコア1を強制冷却することになる。
【0027】
このように構成された加熱処理装置では、図3に示すように、退避ステージP2においてリフタテーブル7上に加熱処理対象となるロータコア1を搭載したならば、リフタテーブル7をリフトアップ動作させて、加熱処理対象となるロータコア1を加熱処理ステージP1に位置決めする。リフタテーブル7のリフトアップ動作によって、加熱処理ステージP1にロータコア1が位置決めされると、そのロータコア1の外周面側に外周側加熱コイル9が、ロータコア1の内周面側に内周側加熱コイル10がそれぞれセットされることになる。そして、シーケンサ13かからの指令により外周側加熱コイル9および内周側加熱コイル10にそれぞれ通電されて、ロータコア1の加熱処理が実行される。
【0028】
加熱処理ステージP1でのロータコア1の加熱処理を終えると、リフタテーブル7が下降してロータコア1は退避ステージP2に戻り、冷却ファン19による強制冷却に供されることになる。
【0029】
ここで、双方の加熱コイル9,10同士の周波数の干渉を回避するために、双方の周波数を異ならせるものとする。局部的な過昇温を極力回避する上では、使用する周波数が低いほど磁束の浸透深さが大きくなるが、周波数が低すぎると加熱効率が低下することになる。そこで、外周側加熱コイル9の周波数よりも内周側加熱コイル10の周波数を大きくし、例えば内周側加熱コイル10の周波数を100kHz以下としたならば、外周側加熱コイル9の周波数は20kHz以下とする。
【0030】
また、外周側加熱コイル9および内周側加熱コイル10それぞれからのロータコア1への熱投入エネルギー(熱投与量)は、最終的にロータコア1全体を均等に昇温させることが可能な目標温度から算定するものとし、且つロータコア1の外周面側と内周面側とでの放熱性特性をも考慮し、少なくとも外周側加熱コイル9よりも内周側加熱コイル10による熱投入エネルギーの方が多くなるようにその熱投入エネルギー量の比率を選定するものとする。そして、この熱投入エネルギー量の比率をもとにそれぞれの加熱コイル9,10の出力(例えば、外周側加熱コイル9の出力を10kWとした場合には、内周側加熱コイル10の出力を7kWとする。)および加熱時間を決定するものとする。
【0031】
さらに、内周面側加熱手段としての内周側加熱コイル10に代えて、鉄芯にコイルを巻いたものを採用し、ロータコア1の内周面側についていわゆる磁気加熱の原理で加熱するようにしても良い。なお、この磁気加熱については、例えば特開2006−244763号公報等で公知である。
【0032】
上記のような一連の加熱処理手順を図3のほか図を参照しながら詳しく説明する。なお、図4は上記加熱処理装置での処理手順のフローチャートを、図5は加熱時間と加熱温度との相関特性を示している。
【0033】
図3に示すリフタテーブル7上に加熱処理対象となるロータコア1が予め搭載されて位置決めされているものとすると、起動スイッチの投入を条件にリフタテーブル7が上昇動作し、ロータコア1が加熱処理ステージP1に位置決めされる(図4のステップS1,S2)。続いて、コア押さえパッド14が下降し、ロータコア1の上面に当接して当該ロータコア1を加圧拘束する(図4のステップS3)。
【0034】
この状態で内周側加熱コイル10に通電されるとともに、外周側加熱コイル9にも通電され、ロータコア1の加熱処理が実行される(図4のステップS4,S5)。通電開始のタイミングは上記のように内周側加熱コイル10が先行してもよく、また内周側加熱コイル10と外周側加熱コイル9への通電開始タイミングが同時であってもよい。
【0035】
ここで、本実施の形態では、図5に示すように、機能上重要な図1の外周側スロット部としての外周側のスロット部2のQ1点および内周側スロット部としての内周側のスロット部3のQ2点の加熱温度の目標温度をT0(例えば150℃)に設定するととももに、T0±αをその目標温度T0の許容域として設定してある。例えば、T0±αの許容域を例えば140〜165℃に設定してある。同時に、先に述べた外周側のスロット部2のQ1点の温度と内周側のスロット部3のQ2点の温度、およびロータコア1の内周面6のQ3点の温度が該当する温度センサ17によりそれぞれにリアルタイムで検出され、それらの温度データが逐一シーケンサ13に取り込まれる。なお、この加熱工程はスロット部2または3と永久磁石4または5との隙間に注入または充填される熱硬化性の樹脂材料または接着剤の加熱硬化を目的として行われる。従って上記目標温度T0は当然に、熱硬化性の樹脂材料または接着剤を硬化させるために必要な温度が設定され、その温度は熱硬化性の樹脂材料または接着剤の材質に応じて、設計的あるいは実験的に求めた予め定められた所定の温度が設定されることになる。
【0036】
また、シーケンサ13では、図5に示すように、ロータコア1の内周面6のQ3点の実測温度データをもとに、そのロータコア1の内周面6の温度について過昇温モニタリングを実行し、そのロータコア1の内周面6の温度がT3−β〜T3の範囲に納まるように内周側加熱コイル10の断続的なON−OFF制御を実行する。すなわち、図4に示すように、ロータコア1の内周面6の温度が〈ロータコアの内周面の温度≧T3〉の関係を満たしたならばその内周側加熱コイル10を一旦OFFにし(図4のステップS6,S7)、さらに〈ロータコアの内周面の温度≦T3−β〉の関係を満たしたならば内周側加熱コイル10を再度ONにする(図4のステップS8,S9)。この場合において、内周側加熱コイル10が既にONであればONのままとする。
【0037】
なお、図4のステップS6において〈ロータコアの内周面の温度≧T3〉の関係を満たさない場合にはステップS9に移行し、同様にステップS8において〈ロータコアの内周面の温度≦T3−β〉の関係を満たさない場合にはステップS7に戻る。
【0038】
このような内周側加熱コイル10の断続的なON−OFF制御を行うことにより、ロータコア1の内周面6の過昇温が防止され、そのロータコア1の内周面6の温度は図5に示すようにT3−β〜T3の範囲に維持されることになる。
【0039】
次いで、図4のステップS10でロータコア1の内周面6の過昇温モニタリングに関する過温度(過昇温)フラグがFth=0であることを条件に、ステップS11において外周側のスロット部2の温度がT2に達しているか否かを判定し、〈外周側スロット部の温度≧T2〉の関係を満たしている場合には、次のステップS12において先の過温度フラグをFth=1にするとともに、外周側加熱コイル9をOFFにする。上記温度T2は図5に示すようにT0<T2<T3−βの関係にあり、機能上重要な外周側のスロット部2の最大加熱温度と言うべきものである。なお、ステップS11において〈外周側スロット部の温度≧T2〉の関係を満たさない場合にはステップS13に移行する。
【0040】
さらに、図4のステップS13において内周側のスロット部3の温度がT1に達しているか否かを判定し、〈内周側スロット部の温度≧T1〉の関係を満たしている場合には、次のステップS14において内周側加熱コイル10をOFFにする。上記温度T1は図5に示すようにT1<T0の関係にあり、機能上重要な内周側のスロット部3の最大加熱温度と言うべきものである。なお、ステップS13において〈内周側スロット部の温度≧T1〉の関係を満たさない場合にはステップS6に戻る。
【0041】
ここで、図5から明らかなように、加熱処理を開始した以降の内周側のスロット部3の温度上昇と外周側のスロット部2の温度上昇とを比較した場合に、内周側のスロット部3の温度上昇勾配に比べて外周側のスロット部2の温度上昇勾配が著しく大きくなっており、これは内周側のスロット部3の温度上昇を緩慢なものとする一方で、外周側のスロット部2の温度を急速に温度T2まで加熱しようとするものである。その上で、内周側のスロット部3の温度が目標温度T0に到達する前に、あえてステップS14において内周側加熱コイル10をOFFにするものである。
【0042】
なお、上記のように〈内周側スロット部の温度≧T1〉の関係を満たしていることを条件に、内周側加熱コイル10をOFFにすることにより、図5に示すようにロータコア1の内周面6の温度も急激に低下することになる。
【0043】
このように、図4のステップS12での外周側加熱コイル9のOFFに続いて、ステップS14で内周側加熱コイル10もOFFとすることにより、実質的に加熱処理ステージP1での加熱処理が終了することになる。
【0044】
そこで、図4のステップS15では、コア押さえパッド14が上昇してそれまでのコア押さえパッド14による加圧拘束を解除し、それに続いてリフタテーブル7が下降する(ステップS16)。これにより、加熱処理後のロータコア1は退避ステージP2に戻ることになる。
【0045】
加熱処理後のロータコア1が退避ステージP2に戻ると、図3の冷却ファン19がONとなって起動するとともに、その冷却ファン19のためのタイマーが起動して、予め設定されている冷却ファン起動時間のタイムカウントを開始する(図4のステップS17,S18)。これにより、加熱処理後のロータコア1に対して予め設定されている冷却ファン起動時間だけ冷却ファン19から送風されて、ロータコア1が冷却ファン19による送風にて強制冷却されることになる。
【0046】
この後、冷却ファン起動時間のタイムアップを条件に冷却ファン19が停止し(図4のステップS19,S20)、さらに起動スイッチをOFFにするとともに、過温度フラグをFth=0にして一連の処理を終了する(図4のステップS21)。
【0047】
ここで、図5から明らかなように、外周側加熱コイル9をOFFにしたタイミングで外周側のスロット部2の温度は低下傾向となる一方、それよりも遅れて内周側加熱コイル10がOFFとなっても、ロータコア内周側からの余熱が伝達されることによって内周側のスロット部3の温度はなおも昇温傾向を続け、最終的には外周側のスロット部2の温度および内周側のスロット部3の温度は共にT0±αの範囲に収束することになる。
【0048】
本発明者が実験を行った結果では、加熱処理の開始から60秒程度で内周側加熱コイル10をOFFにした場合、上記冷却ファン19による強制冷却を行わず放冷(自然冷却)としても、加熱処理の開始から85秒程度で外周側のスロット部2の温度および内周側のスロット部3の温度は共にT0±αの範囲に収束することが確認できた。これよって、従来に比べてロータコアの加熱処理を要する時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0049】
これは次のように説明できる。すなわち、ロータコア1の加熱時間を短縮するためには温度上昇勾配を大きくすることが有効であるが、特に内周側加熱コイル10からの熱エネルギー投入量を大きくすると逆に冷却に時間がかかり、加熱時間を短縮化できないことは先に述べたとおりであって、加熱時間の短縮化の上では、外周側加熱コイル9からの熱エネルギー投入量に基づく内周面側への熱伝導も最大限に活用する必要がある。
【0050】
そこで、本実施の形態では、ロータコア1の外周面側は内周面6側に比べて放熱面積が大きく放熱量も大きいことから、必然的に外周側のスロット部2は内周側のスロット部3よりも冷却速度が高いものとなるとの観点から、図5に示すように、外周側のスロット部2に対して外周側加熱コイル9から大きな熱エネルギー投入量を与えて目標温度以上に昇温させるも、その後の目標温度まで冷却させるのに必要な時間を、内周側のスロット部3の昇温に必要な時間とラップさせることで全体の加熱時間を短縮化していることになる。
【0051】
なお、上記冷却ファン19による強制冷却を併用した場合には、外周側加熱コイル9の出力をさらにに高めて温度上昇勾配を高くすることが可能であり、加熱時間のさらなる短縮化を図ることが可能である。
【0052】
ここで、本実施の形態においてはロータの径方向に外周側のスロット部2と内周側のスロット部3の二つのスロット部2,3を設けた例を挙げて説明した。しかしながら、外周側のスロット部2のみの1のスロット部しか備えない場合であっても、上記発明を適用可能である。すなわち、本実施の形態のようにロータの径方向に外周側のスロット部2と内周側のスロット部3を設けた場合ほど顕著でないものの、外周側のスロット部2しか備えない場合であっても、外周側のスロット部2の外周面側の温度は内周面側の温度よりも上昇し易く且つ、冷却時の外周面側の温度は内周面側の温度よりも低下し易い。従って、外周側のスロット部2のみしか備えないロータコアにおいても本発明は適用可能であり、スロット部の数に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0053】
1…ロータコア
2…外周側のスロット部(外周側スロット部)
3…内周側のスロット部(内周側スロット部)
4…永久磁石(外側磁石)
5…永久磁石(内側磁石)
6…内周面
7…リフタテーブル
9…外周側加熱コイル(外周面側加熱手段)
10…内周側加熱コイル(内周面側加熱手段)
13…シーケンサ(制御手段)
14…コア押さえパッド(拘束手段)
17…温度センサ(温度検出手段)
19…冷却ファン(冷却手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石が埋設されるスロット部をロータコアの周方向に沿って複数備えたモータ用のロータコアを加熱処理する方法であって、
上記ロータコアの外周面側および内周面側にそれぞれ加熱手段を配置し、
上記外周面側加熱手段による加熱処理と内周面側加熱手段による加熱処理を同時にまたは上記外周面側加熱手段による加熱処理に先行して内周面側加熱手段による加熱処理を開始し、
上記スロット部のロータ内周側の温度が目標温度に到達する前に上記スロット部の外周側での温度が上記目標温度以上となるまで昇温させ、
以降は上記外周面側加熱手段による加熱処理を断って内周面側加熱手段のみによる加熱処理を施すことを特徴とするロータコアの加熱処理方法。
【請求項2】
上記スロット部は、ロータコアの外周面寄りの位置に設けられた外周側スロット部と、上記外周側スロット部よりもロータコアの内周面側の位置に、上記外周側スロット部に対応して設けられた内周側スロット部と、から構成され、
上記スロット部のロータ径方向内側は上記内周側スロット部のロータ径方向内側であって、上記スロット部のロータ径方向外側は上記外周側スロット部のロータ径方向外側であることを特徴とする請求項1に記載のロータコアの加熱処理方法。
【請求項3】
上記スロット部のロータ内周側の温度が目標温度に到達する前に上記スロット部のロータ外周側の温度が目標温度以上となるまで昇温させ、
以降は上記外周面側加熱手段による加熱処理を断って内周面側加熱手段のみによる加熱処理を上記内側磁石相当部での温度が所定温度になるまで施すことを特徴とする請求項1または2に記載のロータコアの加熱処理方法。
【請求項4】
上記スロット部のロータ内周側の温度が目標温度に到達する前に上記スロット部のロータ外周側の温度が目標温度以上となるまで昇温させ、
以降は上記外周面側加熱手段による加熱処理を断って内周面側加熱手段のみによる加熱処理を上記スロット部のロータ内周側の温度が上記目標温度よりも低い所定温度になるまで施すことを特徴とする請求項3に記載のロータコアの加熱処理方法。
【請求項5】
上記外周面側加熱手段および内周面側加熱手段による加熱処理を終えた後にロータコアの外周面を強制冷却することを特徴とする請求項3または4に記載のロータコアの加熱処理方法。
【請求項6】
上記強制冷却は送風によるものであることを特徴とする請求項5に記載のロータコアの加熱処理方法。
【請求項7】
上記ロータコアの内周面の温度を監視しながら上記内周面側加熱手段による加熱量を調整することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載のロータコアの加熱処理方法。
【請求項8】
永久磁石が埋設されるスロット部をロータコアの周方向に沿って複数備えたモータ用のロータコアを加熱処理する装置であって、
加熱処理ステージとその下方の退避ステージとの間を昇降可能で且つ加熱処理対象となるロータコアが搭載される昇降式のテーブルと、
上記加熱処理ステージにおいてロータコアの外周面側と内周面側とに配置される外周面側加熱手段および内周面側加熱手段と、
上記加熱処理ステージにおいてロータコアを軸心方向に加圧拘束する拘束手段と、
上記ロータコアの少なくとも上記スロット部のロータ外周側および内周側の温度を検出する温度検出手段と、
上記温度検出手段からの検出出力を入力として外周面側加熱手段および内周面側加熱手段の出力制御を司る制御手段と、
を備えていることを特徴とするロータコアの加熱処理装置。
【請求項9】
上記退避ステージに加熱処理後のロータコアを冷却する冷却手段を設けてあることを特徴とする請求項8に記載のロータコアの加熱処理装置。
【請求項10】
上記ロータコアの内周面の温度を検出する温度検出手段を有していることを特徴とする請求項8または9に記載のロータコアの加熱処理装置。
【請求項11】
上記制御手段は、ロータコアの内周面の温度を検出する温度検出手段の検出出力に基づいて、そのロータコアの内周面の温度が所定温度となるように内周面側加熱手段を断続的にON−OFF制御するものであることを特徴とする請求項10に記載のロータコアの加熱処理装置。
【請求項12】
上記外周面側加熱手段および内周面側加熱手段が共に誘導加熱のための加熱コイルであることを特徴とする請求項8〜11のいずれか一つに記載のロータコアの加熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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