説明

ロープ溝形状測定装置およびロープ溝形状測定方法

【課題】ロープ溝の摩耗量の測定では、ロープ溝の全周に渡る測定を実施せず、ロープ溝のある部分の代表値の測定のみであり、ロープ溝に偏摩耗などがある場合は正確に検出できない。
【解決手段】ロープ溝21の特定部位の位置を測定する位置センサ4と、この位置センサを溝車2の中心軸方向に沿って移動する軸方向移動手段6と、溝車の回転角度を検出する回転角検出手段9と、位置センサの検出値(位置データ)と軸方向移動手段の駆動量(駆動データ)と回転角検出手段の検出値(回転角度データ)とからロープ溝の断面形状を算出する溝形状演算手段10とを備え、溝車のロープ溝の全周に渡る摩耗状態を測定できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動モータにより回転駆動されるエレベータの巻き上げ機等の溝車のロープ溝形状を測定するロープ溝形状測定装置およびロープ溝形状測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロープにより昇降されるカゴを有するエレベータにおいて、駆動モータによって回転駆動される巻き上げ機は、ロープと溝車(ツナ車、ソラセ車などの総称とする)のロープ溝の摩擦力によりカゴを昇降する。ロープおよび溝車のロープ溝は、その摩擦力のために、徐々に摩耗が進行する。その摩耗により、ロープ溝の形状が設計形状から大きく逸脱すると、十分な摩擦力を確保できなくなる。その場合、ロープが滑ってカゴが振動する、停止状態でカゴと床に段差ができる、最悪の場合は、ロープが滑って落下する、などの不具合が発生する。そこで、摩耗量が設計基準を越えた場合、ロープの交換、溝車のロープ溝の補修、あるいは、溝車の交換を行う。このように、ロープおよび溝車のロープ溝の摩耗量の測定は設計通りのエレベータ走行を確保するために大変に重要である。
【0003】
従来のロープ溝の摩耗量の測定では、ロープ溝の全周に渡る測定を実施せず、ロープ溝のある部分の代表値の測定のみであった。
例えば、ゲージ法と称するものでは、ロープ溝にロープと同等の半径の治具を接触させ、溝の「肩」(「耳部」や「溝の表面部」とも呼ぶ)からの溝深さを計測する。(例えば、特許文献1〜2参照)
また、例えば、ロープ法と称するものでは、溝車を駆動するそれぞれのモータを回転させてその速度を検出し、それぞれのモータの速度比から各溝車の摩耗量の差を求め、その差に基づいて溝車の摩耗量を算出したり、またロープが移動するときの溝車の回転角度あるいは回転数を算出し、これら算出した複数の算出値から溝車の有効径を演算して溝車の摩耗量を算出する。(例えば、特許文献3〜4参照)
また、例えば、断面法と称するものでは、光センサで溝断面形状を測定し、設計値との比較により摩耗量を算出する。(例えば、特許文献5〜6参照)
【0004】
【特許文献1】特開2005−225655号公報
【特許文献2】特開2002−338157号公報
【特許文献3】特開2006−282309号公報
【特許文献4】特開平5−139644号公報
【特許文献5】特開平11−6716号公報
【特許文献6】特開平10−197236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2のようなゲージ法によるロープ溝測定装置にあっては、ロープ溝にロープと同等の半径の治具を接触させるため、ロープ溝が摩耗したために設計形状から逸脱したロープ溝と治具との接触において、測定に適さない部分に治具が接触して、測定が意味を成さない場合があった。
例えば、ロープ溝とロープと同形の円形ゲージとの接触の様子を示す図10の断面図において、摩耗のないロープ溝100、および、ロープによって均一に摩耗したロープ溝101は、円形ゲージ200と適正に接触する。しかし、摩耗によって細くなったロープは、その相手となるロープ溝の中央部をより摩耗させるため、ロープ溝は102の形状になる可能性が高い。この場合、円形ゲージ200はロープ溝の側面部103に当接し、ロープ溝102の中央部に適正に接触しないため、実際の摩耗量を測定できない、という問題点があった。
【0006】
また、特許文献3および4のようなロープ法によるロープ溝測定装置にあっては、ロープ溝一周のある部分に偏摩耗が存在していた場合、これを検出できないという問題があった。
図9は、溝車のロープ溝の底について、溝車の回転軸に垂直な面に関する断面形状の一例を示す。図9において、破断線110は摩耗する前のロープ溝底の形状であり、ほぼ真円である。エレベータの使用により、溝車のロープ溝に摩耗が進行する。巻き上げ機の溝車は、通常、鋳物で製作される。鋳物は湯口の位置等の形状的不均一や、重力に対する上下等の製作過程における熱流的不均一があるため、その湯注入工程や冷却工程で、材料物性に不均一が発生する。よって、摩耗に対する耐性も不均一になる。つまり、摩耗後のロープ溝底111のように、摩耗の多い部分112や摩耗の少ない部分113が存在し、偏摩耗が生じる。
ロープ法ではこれらの部分的な摩耗量の差異は平均化されてしまうため、重大な不具合原因と成りうる摩耗の多い部分112の摩耗量を検出できない、という問題点があった。
【0007】
さらに、特許文献5および6のような断面法によるロープ溝測定装置にあっては、ロープ溝一周の測定を行う場合、多大な測定時間を必要とする。
図10に基づき断面法の問題点を説明する。ロープ溝の断面形状である100,101、102の測定は、二次元の座標値の測定であるため多大なデータ量となる(不具合の原因として測定すべき位置は溝の底部近傍のみでよいが、溝車の「肩」104から溝底部までの連続した形状データを取得するために多大のデータを収集する必要がある)。さらに、溝の側面部103の測定方向はz方向であるべきで、上方(+y方向)からの測定では対応できない。よって、ア)「肩」104と底部近傍の測定のみ、イ)斜め上方からの測定も同時に実施、などの工夫が必要である。しかし、ロープ溝のどこかにあるかもしれない偏摩耗部(図9の摩耗の多い部分112)を検出するためには、全周測定が必要である。
この場合、断面法では、ア)一断面測定後、次の断面測定へと移動回転するため、多くの時間が必要になる、イ)巻き上げ機を一定量の微小角度づつ回転・停止動作させる必要がある、という問題点がある。
【0008】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、溝車のロープ溝の全周に渡る摩耗状態を簡単にしかも正確に測定でき、またロープ溝に偏摩耗が存在する場合でも確実に測定できるロープ溝形状測定装置およびロープ溝形状測定方法を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、ロープが巻き掛けられるロープ溝を外周部に有し、駆動モータにより回転駆動される溝車の溝形状を測定するロープ溝形状測定装置において、溝車のロープ溝の特定部位の位置を測定する位置センサ、この位置センサを溝車の中心軸方向に沿って駆動する軸方向移動手段、溝車の回転角度を検出する回転角検出手段、および位置センサの位置データと、軸方向移動手段の駆動データと、回転角検出手段の回転角度データとからロープ溝の断面形状を算出する溝形状演算手段とを備えたものである。
【0010】
またこの発明は、ロープが巻き掛けられるロープ溝を外周部に有し、駆動モータにより回転駆動される溝車の溝形状を測定するロープ溝形状測定方法において、溝車を回転させ、溝車のロープ溝の特定部位の位置を測定する位置センサの位置データと、位置センサを溝車の中心軸方向に沿って移動する軸方向移動手段の駆動データと、溝車の回転角度を検出する回転角検出手段の回転角度データとを同時に測定・保存し、この測定・保存動作を溝車の一回転以上繰り返した後、保存した位置データと駆動データと回転角度データとから溝車のロープ溝の断面形状を算出することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、選択的にロープ溝の特定部位の位置を測定できるので、ロープ溝の摩耗形状(摩耗量)を適正に測定できる、といった効果を奏するものである。
また、この発明によれば、ロープ溝の特定部位の位置の測定と同時に、角度検出手段により溝車の回転角度を検出できるので、溝車の一回転(全周)のロープ溝の溝形状(摩耗量)を測定できる、といった効果を奏するものである。
以上の2項目の効果により、摩耗の評価に適したロープ溝の特定部位の位置に関して、溝車の回転軸に垂直な断面での溝形状を確実に検出できる。つまり、偏摩耗等の異常摩耗を確実に検出できる、という従来にない顕著な効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1におけるロープ溝形状測定装置および測定方法を図に基づいて説明する。図1はこの発明の実施の形態1によるロープ溝形状測定装置を示す概略側面図と構成図、図2はこの発明の実施の形態1による溝車のロープ溝とロープを示す概略断面図、図3はこの発明の実施の形態1によるロープ溝形状測定装置の溝形状測定手順を示すフローチャート、図4はこの発明の実施の形態1によるアンダーカットを有する溝車のロープ溝を示す概略側面図である。
なお、ここでは溝車としてエレベータの巻き上げ機に使用される溝車について説明するが、この発明はこれに限定されるものでない。また本図では説明を分かりやすくするためにロープを適宜省略して表示する。
【0013】
図1および図2において、巻き上げ機は、主に、駆動モータ1、駆動モータ1により回転する溝車2(ツナ車とも言う)、また図示省略したブレーキとから構成されている。溝車2はロープ3が巻き掛けられる複数のロープ溝21(図1では4個)が設けられ、また複数のロープ溝21の間および溝車の両端面には肩部22が設けられる。
次にロープ溝21の形状を測定する溝形状測定装置の構成を説明する。ロープ溝形状測定装置には、ロープ溝21の特定部分(本図ではロープ溝の底210)の位置を測定する位置センサ4が設けられる。位置センサ4は、点測定が可能なことや溝表面が汚れていることを考慮すると、接触式位置センサが好ましく、たとえば、光学スケール式変位計、磁気スケール式変位計、差動トランス式変位計などがよい。機構方式は、直動式(プランジャ式)でも、てこ式でもよく、測定に際して、他の部品と干渉しなければよい。位置センサ4の接触子41をロープ溝21の特定部分210に接触させるために、位置センサ4は、接触子41を溝車2の径方向(y方向)へ移動する接触子移動手段5と、位置センサ4を溝車2の回転軸方向(z方向)へ移動する軸方向移動手段6とに取り付けられている。
【0014】
接触子移動手段5および軸方向移動手段6は、モータ、ボールネジ、リニアガイドなどの直動案内部品、位置スケール等によって構成される通常の1軸ステージでよい。なお、接触子移動手段5は、空圧等で接触子41を位置センサ4内に引っ込めるような位置センサ4に付属する機能を流用しても良い。以上の構成部品は、巻き上げ機が固定された構造体に、固定足7によって固定される。
接触子移動手段5と軸方向移動手段6は制御装置8によって、接触子41がロープ溝21の特定部位に接触するように駆動される。
【0015】
一方、溝車2の回転角度は、駆動モータ1に接続された回転角検出手段9によって検出される。回転角検出手段9は、ロータリエンコーダが一般的であるが、駆動モータ1の制御装置(図示せず)の指令値の出力回路でもよい。また、駆動モータ1が定速回転である場合、回転角検出手段9は回転基準の位置検出器と時計によって構成し、回転基準を通過してからの経過時間と回転周期とから回転角度を換算するものでもよい。
【0016】
制御装置8の駆動データと位置センサ4で検出された位置データ、さらに、回転角検出手段9で検出された回転角度データは、溝形状演算手段10に入力される。溝形状演算手段10は、回転角度に対応したロープ溝底位置の形状データを算出する。さらに、摩耗量演算手段11は、溝形状演算手段10で算出した形状データと、溝車2のロープ溝形状の設計値または摩耗前(使用前)のロープ溝底位置の形状データをもとに、摩耗量(摩耗形状)を算出する。これらデータは、表示装置12によって、例えば図9のような溝形状のXY断面グラフとして表示される。
ロープ溝形状測定装置は、図2に示すロープ3が巻き掛けてない部分に設置することになり、通常ロープ3の影になり、視認できない。よってここでは、ロープ3を省略した図1で説明を行う。
【0017】
次にロープ溝形状測定装置によるロープ溝形状を測定する動作について、図1の構成図および図3の測定手順を示すフローチャートによって説明する。
測定が開始されると、制御装置8は、接触子移動手段5と軸方向移動手段6を、まず、巻き上げ機が固定された構造体を基準とした基本原点に復帰させる。この動作によって、位置センサ4の接触子41は、溝車2の摩耗測定に適した特定位置(例えばロープ溝の底210)を正確に検出できる。
原点復帰が完了すると、測定基準となるロープ溝2の肩部22に接触子41を接触させるために、制御装置8は、軸方向移動手段6によって位置センサ4のz方向の位置決めをした後、接触子移動手段5によって位置センサ4の接触子41をy方向に移動して、接触子41を測定基準である肩部22に接触させる(ステップS11)。
【0018】
制御装置8による位置センサ4の移動完了後、溝形状演算手段10は、接触子41が溝車2のロープ溝の肩部22に接触したときの位置センサ4の位置データと、制御装置8の(接触子移動手段5と軸方向移動手段6の)駆動データとから溝車2の肩部22の位置を基本原点基準で算出し、保存する(ステップS12)。
溝形状演算手段10により溝車2の肩部22の位置を測定した後、制御装置8は、接触子移動手段5によって、接触子41による溝車2の肩部22の接触を解除し(−y方向へ移動する)、軸方向移動(z方向)時の接触子41の干渉を回避する。次に、制御装置8は、軸方向移動手段6によって位置センサ4のz方向の位置決めをした後、接触子移動手段5によって位置センサ4の接触子41を+y方向に移動して、接触子41をロープ溝21の摩耗量の測定に適した特定位置に接触させる。この例ではロープ溝中央の底部210に接触させる(ステップS13)。
【0019】
制御装置8により、軸方向移動手段6および接触子移動手段5を駆動して、位置センサ4の接触子41をロープ溝21の摩耗量の測定に適した特定位置に接触させた後に、巻き上げ機の駆動モータ1により溝車2を回転させる(ステップS14)。
溝形状演算手段10は、位置センサ4で検出した位置データと、制御装置8の(接触子移動手段5と軸方向移動手段6の)駆動データと、さらに、回転角検出手段9で検出した回転角度データとを、同時測定し、保存する(ステップS15)。
ステップS15による測定動作は、溝車2の回転角が設定回転角、たとえば360度(1回転)に達するまで継続される(ステップS16)。
【0020】
溝車2の回転角が設定回転角になると、溝形状演算装置10は溝車2の肩部22の位置を基準として、回転角に対する溝位置を算出し、溝車2のロープ溝形状を測定する。これは回転角検出手段9で検出した回転角に対して位置センサ4で検出した溝位置をプロットして、それを線で結べば溝車2のロープ溝21における特定位置(ロープ溝中央の底部210)の形状が360度に渡って得られる(ステップS17)。
こうして得られた結果が、図9に示す溝車2のロープ溝21の摩耗溝形状111である。
【0021】
更にこのとき必要であれば、摩耗量演算手段11によって、溝車2のロープ溝21の設計値(または図9の溝形状110に示すような摩耗前の溝形状)と、溝形状演算装置10で測定したロープ溝形状との差から、回転角度に対する摩耗形状(摩耗量)、さらに設計基準値との差の算出も行う(ステップS18)。
溝形状演算装置10の出力、および摩耗量演算手段11の出力は、表示装置12に入力され、図9のような、溝車2の回転軸に垂直な面での溝断面形状や、摩耗形状などとして表示される(ステップS19)。
ステップS19の後に、ロープ溝の摩耗形状と設計基準値から、溝修正や溝車2の交換等を判断し、測定を終了する(ステップS20)。
【0022】
このようなロープ溝形状測定装置の構成および測定方法によれば、接触子移動手段5および軸方向移動手段6を持つことにより、ロープ溝21の摩耗測定に適した部分の位置を確実に測定できるため、摩耗量の測定が確実に行え、測定ミスや判断ミスがない。
また、ロープ溝21の深さ(位置)と溝車2の回転角度を同時計測することにより、ロープ溝全周に渡る摩耗量が得られるため、異常摩耗(偏摩耗)が確実に検出できる。
さらに、溝形状演算手段10で、回転角度データと位置データを保存し、回転完了後、回転角度に対する溝形状を算出することにより、測定時間は溝車2の1回転周期分で済むため、測定時間が短い。
【0023】
なお、図4に示すように溝車2のロープ溝21の中央底部にアンダーカット211と呼ばれるロープ把持力を増加する「くさび」構造がある場合は、位置センサ4の接触子41による測定位置を、図4に示すようにアンダーカット211から軸方向(z方向)にずらす必要がある。
また、設定回転角はこの実施の形態1では360度としたが、それ以上回転させて、同一回転角度のデータの測定バラツキ確認や平均化処理による測定精度の向上を図っても良い。
また、この実施形態1では溝車2の回転中も溝形状演算手段10で軸方向移動手段6などの駆動データを測定していたが、これは軸方向移動手段6などが誤作動等で移動していないことの確認のためのもので、軸方向移動手段6などが測定中に移動しないことが確かであれば、溝車2の回転中における軸方向移動手段6などの駆動データの測定は必要ない。
【0024】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2におけるロープ溝形状測定装置および測定方法を図に基づいて説明する。図5はこの発明の実施の形態2によるロープ溝形状測定装置を示す概略側面図と構成図である。
この実施の形態2は、位置センサを接触式位置センサ4から非接触式位置センサ40に変更したものである。非接触式位置センサ40としては、例えば、測定する部分が光学的に反射率などが均一であればレーザ変位計などが適用できる。また非接触式位置センサ40は実施の形態1の位置センサ4のような接触子41を持たないので、接触子41の干渉による故障を回避するための接触子移動手段5が不要になる。その他の構成は図1に示す実施の形態1と同じにつき、同じ符号を付して説明を省略する。
【0025】
この実施の形態2によるロープ溝形状測定装置によれば、ロープ溝21の測定点(例えば、溝の中央底部)と位置センサ40の距離(動作距離)がロープ溝21の溝深さ以上あり、また、測定範囲は溝深さ以上ある位置センサの選定が可能となる。溝車2のロープ溝21の特定部位の位置測定は、非接触式位置センサ40からレーザ光43をロープ溝21の特定部位に照射し、その反射光から検出できる。そして実施の形態1と同様に、溝車2の回転角度を検出する検出手段9からの回転角度データと、軸方向移動手段6の駆動データと、位置センサ40で検出した位置データとを溝形状演算手段10に入力することにより、ロープ溝21の断面形状を算出できる。
【0026】
この実施の形態2の発明によれば、実施の形態1の接触子移動手段5が不要になることにより、図3の測定手順で説明した接触子移動手段5の動作、制御装置8と接触子移動手段5の配線、溝形状演算手段10での接触子移動手段5の駆動データの測定や保存が不要になり、装置の構成および測定手順が簡単になる。
【0027】
実施の形態3.
次に、この発明の実施の形態3におけるロープ溝形状測定装置および測定方法を図に基づいて説明する。図6はこの発明の実施の形態3によるロープ溝形状測定装置を示す概略側面図と構成図である。
この実施の形態3は、実施の形態1における位置センサ4を所定距離隔てて複数個使用し、同じロープ溝の特定部位を同時に測定できるようにしたものである。図6においては、位置センサ4は所定距離隔てた二本の接触子41、42を有して複数の位置センサ4としている。この実施の形態3におけるロープ溝形状測定装置はアンダーカットを有する溝車2のロープ溝21の形状を測定するのに適している。
図6はアンダーカット211を有する溝車2のロープ溝21を測定する状態を示す概略側面図と構成図で、位置センサ4の二本の接触子41、42は、アンダーカット211の両エッジ近傍の溝底部120に接触している。その他の構成は図1に示す実施の形態1と同じにつき、同じ符号を付して説明を省略する。
【0028】
このように複数の位置センサ4を用いることで、溝車2の同じロープ溝21の別々の特定部位の位置を同時に測定することが可能となる。こうして実施の形態1と同様に、複数の位置センサ4で検出した複数の位置データと、溝車2の回転角度を検出する検出手段9からの回転角度データと、軸方向移動手段6の駆動データとを溝形状演算手段10に入力することにより、ロープ溝21の断面形状を算出できる。
【0029】
このような構成にすれば、二本の接触子41、42(位置センサ4)の測定結果は同じはずである。一方、溝表面に付着したゴミ等の影響のために浅目に測定される場合がある。二本の接触子41、42の測定値を比較して、底が盛り上がった形状であれば、ゴミと判断可能であり、その部分を計算から除外できる。よって、測定の信頼性が向上する。
また、溝底に対して左右対称に摩耗しない場合がある。二本の接触子41、42の測定値を比較して、ゴミでない部分の形状の差異は、その非対称な摩耗を表す。より多く摩耗している方の測定値を計算に使用すれば、測定の信頼性が向上する。
【0030】
実施の形態4.
次に、この発明の実施の形態4におけるロープ溝形状測定装置および測定方法を図に基づいて説明する。図7はこの発明の実施の形態4によるロープ溝形状測定装置を示す概略側面図と構成図である。
この実施の形態4は、実施の形態1における位置センサ4を、溝車2の複数のロープ溝21の間隔に合わせて所定距離隔てて複数個使用したものである。図7においては、実施の形態3と同様に、位置センサ4は所定距離隔てた二本の接触子41、42を有して複数の位置センサ4としている。この実施の形態4におけるロープ溝形状測定装置は溝車2に複数のロープ溝21がある場合の測定に適している。
【0031】
図7は溝車2の複数のロープ溝21形状を同時に測定する状態を示す概略側面図と構成図で、位置センサ4の二本の接触子41、42は、隣接するロープ溝21の特定部位である溝底部210に接触している。その他の構成は図6に示す実施の形態3と同じにつき、同じ符号を付して説明を省略する。
エレベータの巻き上げ機に使用される溝車2は多くの場合、ロープ溝21の本数は複数である。ビルの階数、乗客容量、昇降速度が上がれば、ロープ本数は増加する。よって、ロープ溝の本数も増加する。
【0032】
このように複数のロープ溝21を有する溝車2の溝形状を複数の位置センサ4を用いて測定することにより、溝車2の複数のロープ溝21の特定部位の位置を別々の位置センサ4で同時に測定することが可能となる。こうして実施の形態1と同様に、複数の位置センサ4で検出したそれぞれのロープ溝の位置データと、溝車2の回転角度を検出する検出手段9からの回転角度データと、軸方向移動手段6の駆動データとを溝形状演算手段10に入力することにより、複数のロープ溝21の断面形状を同時に算出できる。
この実施の形態4のような構成にすれば、溝車2の2本のロープ溝21を同時に測定できる。よって、溝本数がn本であれば、接触子41、42(位置センサ4)が1個の場合に比較して、1/2[nが偶数]または(n+1)/2n[nが奇数]に測定時間は短縮できる。
【0033】
実施の形態5.
次に、この発明の実施の形態5におけるロープ溝形状測定装置および測定方法を図に基づいて説明する。図8はこの発明の実施の形態5によるロープ溝形状測定装置を示す概略側面図と構成図である。
この実施の形態5は、実施の形態1における位置センサ4を、所定距離隔てて複数個使用し、同じロープ溝の特定部位と肩部を同時に測定できるようにしたものである。図8においては、実施の形態3、4と同様に、位置センサ4は所定距離隔てた二本の接触子41、42を有して複数の位置センサ4としている。
【0034】
図8は溝車2のロープ溝21とそのロープ溝に隣接する肩部22を同時に測定する状態を示す概略側面図と構成図で、位置センサ4の二本の接触子41、42は、ロープ溝21の溝底部210と肩部22に接触している。その他の構成は図6に示す実施の形態3と同じにつき、同じ符号を付して説明を省略する。
エレベータの使用年月が増すと、巻き上げ機の軸受けも摩耗が進行し、回転に振れが発生する。回転に振れがある場合は、ロープ溝底の深さ測定値には、この振れ成分が含まれる。よって、ロープ溝底深さから磨耗量を求めると大きな誤差を含むことになる。
一方、多くの場合、溝車2の溝の深さは肩部22からの距離である。よって、回転に振れがある場合は、溝底210の深さ測定と同時に肩部22の測定を行い、両者の差を真のロープ溝深さとして測定すれば、回転振れ成分を除去した測定値は得られ、信頼性の高い摩耗測定が可能になる。また、回転振れ量も同時に評価できる。
【0035】
実施の形態6.
以上の実施の形態3〜5では、2個の位置センサ4の例を説明してきたが、さらに位置センサ4の個数を増やし、かつ、上記実施の形態3、4、5を組み合わせることによって、より効率的に、信頼性の高いロープ溝形状の測定を実現できる。
また実施の形態3〜5では、位置センサ4として接触式の位置センサを用いたが、実施の形態2で説明した非接触式の位置センサ40を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明の実施の形態1による溝車のロープ溝形状測定装置を示す概略側面図と構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1による溝車のロープ溝とロープを示す概略断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1によるロープ溝形状測定装置の溝形状測定手順を示すフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1によるアンダーカットを有する溝車のロープ溝を示す概略側面図である。
【図5】この発明の実施の形態2による溝車のロープ溝の溝形状測定装置を示す概略側面図と構成図である。
【図6】この発明の実施の形態3による溝車のロープ溝の溝形状測定装置を示す概略側面図と構成図である。
【図7】この発明の実施の形態4による溝車のロープ溝の溝形状測定装置を示す概略側面図と構成図である。
【図8】この発明の実施の形態5による溝車のロープ溝の溝形状測定装置を示す概略側面図と構成図である。
【図9】溝車の回転軸に垂直な面についてのロープ溝の一例を示す断面図である。
【図10】従来の溝形状測定装置の問題点を説明するための溝車の回転軸を含む面についてのロープ溝の断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1:駆動モータ、 2:溝車、
3:ロープ、 4:位置センサ(接触式)、
5:接触子移動手段、 6:軸方向移動手段、
7:固定足、 8:制御装置、
9:回転角検出手段、 10:溝形状演算手段、
11:摩耗量演算手段、 12:表示装置、
21:ロープ溝、 22:溝車の肩部、
40:位置センサ(非接触式)、 41、42:位置センサの接触子、
43:レーザ光 110:摩耗のないロープ溝の断面形状、
111:摩耗のあるロープ溝の断面形状、
112:摩耗のあるロープ溝の断面形状の偏摩耗部分、
113:摩耗のないロープ溝の断面形状の摩耗の少ない部分、
210:ロープ溝の底中央部、 211:ロープ溝のアンダーカット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロープが巻き掛けられるロープ溝を外周部に有し、駆動モータにより回転駆動される溝車の溝形状を測定するロープ溝形状測定装置において、
前記溝車のロープ溝の特定部位の位置を測定する位置センサ、この位置センサを前記溝車の中心軸方向に沿って駆動する軸方向移動手段、前記溝車の回転角度を検出する回転角検出手段、および前記位置センサの位置データと、前記軸方向移動手段の駆動データと、前記回転角検出手段の回転角度データとから前記ロープ溝の断面形状を算出する溝形状演算手段
を備えたことを特徴とするロープ溝形状測定装置。
【請求項2】
位置センサは接触式位置センサで構成され、この接触式位置センサの接触子はロープ溝の溝深さ以上の移動距離をもつ接触子移動手段で移動されることを特徴とする請求項1に記載のロープ溝形状測定装置。
【請求項3】
位置センサは、ロープ溝の測定点と前記位置サンサとの動作距離が前記ロープ溝の溝深さ以上の距離を有する非接触式位置センサで構成されたことを特徴とする請求項1に記載のロープ溝形状測定装置。
【請求項4】
位置センサは所定距離隔てて複数個設けられ、前記溝車の同じロープ溝の異なる特定部位の位置を同時に測定するようにした請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のロープ溝形状測定装置。
【請求項5】
位置センサは所定距離隔てて複数個設けられ、前記溝車のロープ溝の特定部位とそのロープ溝の肩部の位置を同時に測定するようにした請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のロープ溝形状測定装置。
【請求項6】
溝車は複数のロープ溝が設けられ、この複数のロープ溝のそれぞれの特定部位の位置を同時に測定する複数の位置センサを設けた請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のロープ溝形状測定装置。
【請求項7】
溝形状演算手段によって算出されたロープ溝の断面形状と、溝車のロープ溝の設計データあるいは使用前の溝車のロープ溝形状データとから、前記溝車のロープ溝の摩耗量を算出する摩耗量演算手段を有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のロープ溝形状測定装置。
【請求項8】
溝形状演算手段の出力あるいは摩耗量演算手段の出力を入力して、溝車のロープ溝の溝断面形状または磨耗形状を表示する表示装置を設けた請求項7に記載のロープ溝形状測定装置。
【請求項9】
ロープが巻き掛けられるロープ溝を外周部に有し、駆動モータにより回転駆動される溝車の溝形状を測定するロープ溝形状測方法において、
前記溝車を回転させ、前記溝車のロープ溝の特定部位の位置を測定する位置センサの位置データと、前記位置センサを溝車の中心軸方向に沿って移動する軸方向移動手段の駆動データと、前記溝車の回転角度を検出する回転角検出手段の回転角度データとを同時に測定・保存し、この測定・保存動作を前記溝車の一回転以上繰り返した後、前記保存した位置データと駆動データと回転角度データとから前記溝車のロープ溝の断面形状を算出することを特徴とするロープ溝形状測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−198198(P2009−198198A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37349(P2008−37349)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】