説明

ワイヤーソーによる切断方法

【課題】ワイヤーソーを用いて被切断物の表面を部分的に切断するのに際して、溝の形成を容易かつ短時間に行うことにより、効率的な切断作業が可能なワイヤーソーによる切断方法を提供する。
【解決手段】被切断物Aの表面Bに、その被切断部分に沿って溝Hを形成し、この溝Hにワイヤーソー8を配設して走行させつつ被切断物Aの表面Bに並行するように被切断部分の内側に切り込ませることにより、切断物Aの表面Bを部分的に切断するワイヤーソー8による切断方法にあって、溝Hを断面V字状に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーソーを用いて、例えば高架道路や橋梁等における伸縮継手部分を部分的に切断する、ワイヤーソーによる切断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このように、ワイヤーソーを用いて高架道路や橋梁の伸縮継手部分を切断する切断方法として、例えば特許文献1〜6には、道路の路面等の被切断物の表面に、その被切断部分に沿って、上記伸縮継手部分を取り囲むように溝を形成し、この溝にワイヤーソーを配設してモータやプーリを備えた切断装置により溝内を周回させるように走行させつつ、被切断物の表面に並行するように水平に引き込んで被切断部分の内側に切り込ませることにより、伸縮継手部分を含んだ被切断物の表面をスライスするようにして部分的に切断する切断方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−27420号公報
【特許文献2】特開2006−161391号公報
【特許文献3】特開2006−299753号公報
【特許文献4】特許第3968380号公報
【特許文献5】特開2008−114469号公報
【特許文献6】特開2008−285809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、これら特許文献1〜6に記載のワイヤーソーによる切断方法では、ワイヤーソーを配設して走行させる溝を、路面側に開口する断面「コ」字状をなすように形成しており、例えば特許文献1〜3では、路面に複数のスリットをロードカッターによって形成し、次いでこれらのスリットの間の部分をタガネや電動チョッパーで細かく砕いて取り除くことにより、このような溝を形成することが記載されている。ところが、このような方法では、スリットの間の路面を細かく砕いて取り除くのに多くの時間と労力とを要し、また労力を軽減しようとして路面をより細かく砕こうとすると多くのスリットを形成しなければならず、溝の形成に要する時間が長引いてしまう結果となる。さらに、路面を細かく砕く際の騒音も問題となる。
【0005】
一方、特許文献4〜6には、このような溝を、複数の回転ブレードを重ね合わせたロードカッターにより、必要な幅に形成することが記載されている。しかしながら、このような方法では、労力は軽減されるものの、カッターの駆動に要する動力が大きくなるとともに、ロードカッターに作用する抵抗が著しく増大するため、カッターの送り速度を速めることはできず、やはり溝の形成に要する時間が長くなることが避けられない。しかも、複数の回転ブレードのうち両側に位置するものとその間に位置するものとで損耗状況が異なってしまうため、必要に応じて回転ブレードを入れ替えたりしなければならず、作業効率を一層損なう結果となる。
【0006】
本発明は、このような背景の下になされたもので、上述のようにワイヤーソーを用いて被切断物の表面を部分的に切断するのに際して、溝の形成を容易かつ短時間に行うことにより、効率的な切断作業が可能なワイヤーソーによる切断方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、被切断物の表面に、その被切断部分に沿って溝を形成し、この溝にワイヤーソーを配設して走行させつつ上記被切断物の表面に並行するように上記被切断部分の内側に切り込ませることにより、上記被切断物の表面を部分的に切断するワイヤーソーによる切断方法であって、上記溝を断面V字状に形成することを特徴とする。
【0008】
このような切断方法においては、ワイヤーソーを配設する溝を形成する際に、回転ブレードを用いたロードカッター等により、2つのスリットを溝底側で交差するように被切断物表面に形成し、こうして2つのスリットで挟まれた部分をそのまま取り出すだけで、上述のような断面V字状の溝を形成することができる。従って、2つのスリットをそれぞれ形成するだけでよく、またこのスリットに挟まれた部分をタガネや電動チョッパーで細かく砕いて取り除く必要もないので、作業に要する時間と労力、および騒音を共に軽減することができる。さらに、回転ブレードが偏って損耗するようなこともない。
【0009】
ここで、上記溝は、上記2つのスリットにより形成される溝壁面が被切断物の表面に垂直な二等分線を有する断面V字状であったり、あるいは被切断物の表面に垂直な溝壁面とこの溝壁面に対して被切断部分とは反対側に傾斜した溝壁面とにより形成された断面V字状であったりしてもよいが、これらのように被切断部分とは反対側に傾斜する溝壁面が形成されることになると、スリットを形成するための回転ブレードやロードカッターも被切断部分とは反対側に傾斜させなければならない。
【0010】
ところが、被切断物が上述のような高架道路や橋梁の伸縮継手部分である場合には、こうして被切断部分とは反対側に傾斜した回転ブレードやロードカッターが、高架・橋梁の側壁と干渉したり、道路の反対車線側にはみ出したりするおそれがある。そこで、このような場合には、上記溝は、上記被切断物の表面に垂直な溝壁面と、この溝壁面に対して上記被切断部分側に傾斜した溝壁面とにより、断面V字状に形成するのが望ましい。
【0011】
また、こうして断面V字状をなす溝の挟角が小さすぎると、ワイヤーソーを配設するのに十分な幅を被切断部分よりも奥に確保するには、スリットをより深く形成しなければならず、その一方で、この溝の挟角が大きすぎると、特に上述のように被切断部分側に傾斜した溝壁面を形成したときには、ワイヤーソーを被切断部分の内側に切り込ませる際にワイヤーソーが被切断物の表面側にずれ動いてしまうおそれが生じる。このため、上記溝は、挟角が15°〜20°の範囲内の断面V字状に形成することが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、ワイヤーソーを用いて被切断物の表面を部分的に切断するのに際して、このワイヤーソーを配設する溝を容易かつ短時間に形成することができ、これにより被切断物表面の切断作業の効率化を促すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態を説明する伸縮継手Cの継手幅方向から見た正面図である。
【図2】本発明の一実施形態を説明する平面図である。
【図3】本発明の一実施形態を説明する伸縮継手Cの継手延設方向から見た側面図である。
【図4】本発明の一実施形態を説明する他の平面図である。
【図5】本発明の一実施形態において溝Hを形成する際の(a)路面Bに垂直な溝壁面H1を形成するときの図、(b)路面Bに対して傾斜した溝壁面H2を形成するときの図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1ないし図0は、本発明のワイヤーソーによる切断方法の一実施形態を説明するものであって、本発明を上述した高架道路や橋梁等の伸縮継手部分の切断に適用した場合を示すものである。すなわち、本実施形態では、被切断物は高架道路の躯体Aであって、被切断物の表面は路面Bであり、被切断部分はこの躯体Aの路面B側のうち伸縮継手Cを含んだ部分となる。なお、図中に符号Dで示すのは高架道路の側壁であり、符号Eで示すのは高架道路の切断すべき伸縮継手Cが埋設された車線の反対車線側である。
【0015】
このように、高架道路等の躯体Aの路面Bから伸縮継手Cを含んだ部分を切断するには、図1ないし図3に示すようなワイヤーソー切断装置が用いられる。このワイヤーソー切断装置1は、門形をなして路面B上に垂直かつ伸縮継手Cが延びる方向(高架道路等の幅方向。図1および図2において左右方向。以下、継手延設方向と称する。)にも垂直となるように設置される本体2に回転駆動装置3が昇降可能に設けられている。
【0016】
この回転駆動装置3には、複数(本実施形態では2つ)のプーリ4が、その回転軸線を水平かつ上記継手延設方向に平行にして互いに同一平面内で回転自在、かつ回転駆動装置3とともに昇降可能に取り付けられている。さらに、これらのプーリ4のうち1つは他のプーリ4よりも大径とされ、上記回転駆動装置3に接続されて回転駆動させられる駆動プーリ4Aとされている。
【0017】
また、本体2の下部にも、その回転軸線を回転駆動装置3のプーリ4と回転軸線を平行にして同一平面内で回転自在とされた複数(本実施形態では3つ)のプーリ5が、上記継手延設方向から見て図3に示すように伸縮継手Cの幅方向(図2において上下方向、図3においては左右方向。以下継手幅方向と称する。)に向けてプーリ4と千鳥状の配置をなすように配設されている。ただし、これらのプーリ5は、その回転軸線が本体2に固定されている。
【0018】
さらに、これらのプーリ4、5のうち上記継手幅方向の両端に位置するプーリ(本実施形態では、上記駆動プーリ4Aと、この駆動プーリ4Aとは継手幅方向において反対側に位置するプーリ5)の下方には、水平な回転軸線回りに回転自在とされたプーリ6が、垂直な軸線回りに回転自在とされたブラケット7に保持されて、本体2よりも下側に位置するようにそれぞれ配設されている。これらのブラケット7は、上記駆動プーリ4Aとこれとは継手幅方向反対側のプーリ5との外周溝に、それぞれ上記継手幅方向外側で接する垂直軸線回りに回転自在とされ、また各プーリ6は、その外周溝がこの垂直軸線に接するように配設されている。
【0019】
このようなワイヤーソー切断装置1により切断を行うには、まず図2に示したように平面視において伸縮継手Cを取り囲むように上記継手延設方向を長手方向とする長方形状の被切断部分を路面B上に設定し、この長方形の各角部にコアビット等によって鉄筋探査穴Fを形成するとともに、この長方形の長辺の中央部近傍に、ワイヤーソー切断装置1の上記プーリ6およびブラケット7を収容可能な大きさの収容穴Gを、やはりコアビット等によって1つの長辺について間隔をあけて2つずつ形成する。
【0020】
さらに、ロードカッター等により上記長方形の各辺に沿って溝Hを形成した上で、一対の長辺の1つずつの互いに相対する一対の収容穴Gに上記プーリ6およびブラケット7をそれぞれ収容させて、伸縮継手Cを継手幅方向に横切るようにワイヤーソー切断装置1を路面B上に設置する。なお、これら鉄筋探査穴F、収容穴G、および溝Hは、路面Bから伸縮継手Cよりも深い位置にまで形成される。
【0021】
次いで、ワイヤーソー8を、これら一対の収容穴Gのうち一方の収容穴Gに収容されたプーリ6から溝H内に通して、上記長方形の一方の長辺、短辺、他方の長辺に沿うように鉄筋探査穴Fを経て順次延設し、さらに他方の収容穴Gに収容されたプーリ6から、ワイヤーソー切断装置1の本体2と回転駆動装置3に配設されたプーリ4、5、および駆動プーリ4Aに図3に示したように順次巻回して、上記一方の収容穴Gのプーリ6に再び至るように無端状に配設する。
【0022】
そして、このワイヤーソー8を、回転駆動装置3により回転プーリ4Aを介してその配設経路に沿って周回するように走行させつつ、該回転駆動装置3を上昇させることによって上記長方形の内側に切り込ませて、伸縮継手Cを含んだ被切断部分を継手延設方向において上記一対の収容穴Gの位置まで路面Bに平行に切断する。なお、このときワイヤーソー8は、図2に示すように平面視において上記一対の長辺との角度が変化するように切り込まれてゆくが、上記ワイヤーソー切断装置1ではブラケット7が回転してこの角度の変化に追従してゆく。
【0023】
こうして上記一対の収容穴Gまで被切断部分が切断されたなら、次に上記継手幅方向両端のプーリ6およびブラケット7が、上記長方形の一対の長辺の相対する他の一対の収容穴Gにそれぞれ収容されるように、ワイヤーソー切断装置1を図4に示すように設置し直すとともに、ワイヤーソー8をこれら他の一対の収容穴Gから、先に切断した部分とは継手延設方向反対側の長短辺に沿って溝H内に配設し、上記と同様にワイヤーソー8を周回走行させつつ該長方形の内側に切り込ませる。
【0024】
ここで、上記一対の収容穴Gにプーリ6およびブラケット7を収容して切断したときの被切断部分と、次いで他の一対の収容穴Gにプーリ6およびブラケット7を収容して切断したときの被切断部分とは、これらの収容穴Gの間が継手延設方向に重なり合うようにされており、これにより上記長方形で囲まれた伸縮継手Cを含む被切断部分が躯体Aの路面Bから部分的に切断される。さらに、こうして切断された被切断部分はクレーン等によって撤去される。なお、こうして被切断部分に切り込まれるワイヤーソー8は高温になるので、本実施形態のワイヤーソー切断装置1では、例えばボルテックスチューブを用いた図示されない冷却装置によってワイヤーソー8を冷却するようにしており、これにより冷却水を用いることなく無水の切断作業が可能となる。
【0025】
そして、このようなワイヤーソー8を用いた切断方法において、本実施形態では、上記被切断部分の溝Hを形成する際に、図1に示すようにこの溝Hを断面V字状に形成している。なお、この図1では上記長方形の一対の短辺に沿った溝Hしか図示されないが、本実施形態では上記一対の長辺に沿った溝Hも含めて、被切断部分を設定する長方形の全周に亙って溝Hは断面V字状とされている。
【0026】
ここで、この溝Hがなす断面V字は、溝Hの溝底側に向かうに従い互いに接近して交差する一対の平面状の溝壁面により構成されており、本実施形態では、被切断物の表面である路面Bに垂直な溝壁面H1と、この溝壁面H1に対して上記被切断部分側に傾斜した溝壁面H2とにより形成されている。また、これらの溝壁面H1、H2の交差角すなわち溝Hの断面がなすV字の挟角は、15°〜20°の範囲内の一定値とされている。
【0027】
このような断面V字状の溝Hを形成するには、例えば図6(a)に示すように溝Hを形成するロードカッター11において、まずその回転ブレード12の回転軸線が水平となるようにして路面Bに垂直な溝壁面H1が形成されるようにスリットを形成し、次いでこの回転ブレード12の回転軸線が被切断部分の内側に向かうに従い路面B側に向かうようにロードカッター11を傾斜させて、溝壁面H1に対して上記被切断部分側に傾斜した溝壁面H2が形成されるようにスリットを形成すればよい。勿論、これとは逆に溝壁面H2を形成してから溝壁面1を形成してもよく、複数のロードカッター11によって溝Hごとに異なる順序で溝壁面H1、H2を形成してもよい。
【0028】
従って、このようなワイヤーソー8を用いた切断方法では、こうして溝Hを形成するのに2つのスリットを形成すると、これら2つのスリットで挟まれた部分はそのまま路面Bから取り出すことができるので、この部分を従来のようにタガネや電動チョッパーで細かく砕いて取り除く必要がなく、溝Hを形成する作業に要する時間や労力、騒音を大幅に軽減することができる。また、ロードカッター11の回転ブレード12が偏って摩耗したりすることもない。このため、上述のように高架道路等の路面Bから伸縮継手Cを含んだ被切断部分をワイヤーソー8によって切断する作業を効率的に行うことが可能となる。
【0029】
また、本実施形態では、こうして断面V字状をなす溝Hが、路面Bに垂直な溝壁面H1と、この溝壁面H1に対して被切断部分側に傾斜した溝壁面H2とによって構成されており、この傾斜した溝壁面H2を形成する際に、ロードカッター11やその回転ブレード12が被切断部分の外側にはみ出すことがない。このため、本実施形態のように高架道路の路面Bから伸縮継手Cを含んだ被切断部分を切断する際に、これらロードカッタ11や回転ブレード12が道路の側壁Dと干渉したり、切断作業を行う車線の反対側車線にはみ出すことにより該反対車線の自動車の走行を規制しなければならなくなるような事態が生じたりするのを防止することができる。
【0030】
ただし、特にこのように溝Hを、路面Bに垂直な溝壁面H1と、この溝壁面H1に対して被切断部分側に傾斜した溝壁面H2とにより断面V字状に形成した場合には、このV字がなす挟角が大きすぎると、溝Hに配設したワイヤーソー8が切り込みの際にずれ動くおそれが生じる。また、挟角が大きいとV字の断面積も大きくなって、路面Bを必要以上に大きく除去しなければならなくなる。その一方で、このV字の挟角が小さすぎると、ワイヤーソー8を配設するのに十分な幅を溝Hの被切断部分よりも奥に確保するには、躯体Aをより深く切り込んで溝Hを形成しなければならないので、この挟角は本実施形態のように15°〜20°の範囲内に形成することが望ましい。
【符号の説明】
【0031】
1 ワイヤーソー切断装置
2 ワイヤーソー切断装置1の本体
3 回転駆動装置
4、5、6 プーリ
4A 駆動プーリ
7 ブラケット
8 ワイヤーソー
11 ロードカッター
12 回転ブレード
A 躯体
B 路面
C 伸縮継手
D 側壁
E 反対車線
F 鉄筋探査穴
G 収容穴
H 溝
H1 路面Bに垂直な溝壁面
H2 路面Bに対して傾斜した溝壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被切断物の表面に、その被切断部分に沿って溝を形成し、この溝にワイヤーソーを配設して走行させつつ上記被切断物の表面に並行するように上記被切断部分の内側に切り込ませることにより、上記被切断物の表面を部分的に切断するワイヤーソーによる切断方法であって、上記溝を断面V字状に形成することを特徴とするワイヤーソーによる切断方法。
【請求項2】
上記溝を、上記被切断物の表面に垂直な溝壁面と、この溝壁面に対して上記被切断部分側に傾斜した溝壁面とにより、断面V字状に形成することを特徴とする請求項1に記載のワイヤーソーによる切断方法。
【請求項3】
上記溝を、挟角が15°〜20°の範囲内の断面V字状に形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のワイヤーソーによる切断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−94342(P2011−94342A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247545(P2009−247545)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(391004768)日本ファステム株式会社 (9)
【Fターム(参考)】