説明

下水道管渠等おける人孔用の作業装置並びに該装置を使用する作業方法及び引上げ方法

【課題】
下水道管渠等の人孔内での作業者の昇降を補助するために使用される効果的な補助作業装置を得ること、また本装置を使用して人孔内で安全な作業をなすこと。
【解決手段】
本作業装置は、人孔の開口に臨んで配され、少なくとも3本の脚部を有する櫓部1と、櫓部1の頂部に配される滑車2と、脚部の一つに固定設置されるウインチ3と、該ウインチ3に巻取り巻戻され、滑車2を介し先端に連結部を有するワイヤー4と、該ワイヤーの先端に装着されるハーネス5と、からなる。
使用において、作業者はハーネス5を着衣し、人孔Q内の足掛けTを介して降下し、地上の作業者はワイヤー4の張力を一定に保ちつつウインチ3を操作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、下水道管渠、通信管路等の作業者の立ち入れる管路に連通する人孔用の作業装置並びに該装置を使用する作業方法及び引上げ方法に関し、更に詳しくは、人孔内の昇降を補助するために使用される作業装置並びに該装置を使用する作業方法及び引上げ方法に関する。
本発明は特には、下水道管渠の人孔を対象とするものであるが、当該分野に特に限定されるものではなく、他の同等の対象物、例えば大型容器、建物内での開口を介しての人孔からの容器・地下施設への立ち入り作業も含まれるものである。
【背景技術】
【0002】
下水道管渠等における人孔用の安全作業として、一般に、作業者は安全ベルトを腰部に装着するとともに、一端が該安全ベルトに固定されている安全ロープ(命綱ともいう。)の他端を、人孔内に多段に設けられた足掛けにフックを介して仮固定をなし、安全を確認しつつ作業を行っている。
しかし、このような安全ベルトによる方式によれば、作業の昇降につれ、その都度フックを足掛けに懸け替える必要があり、取扱いに不便なものであり、煩雑であり、普及しているとは言い難い。
また、作業者が足掛けを踏み外した際には、急激な落下ともなり、この従来方式によっては大きな衝撃力を受け、十分な安全性を確保できないでいる。
更には、作業者が何らかの事故により作業不能となり、人孔内より救出する必要がある場合、単に前記安全ベルトの安全ロープを人力のみによる引上げによっては多大の困難が生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、人孔内での作業につき、作業者の昇降の安全が確保でき、かつ、人孔内及び人孔底部の被救助者の引上げも容易にできる新規な下水道管渠等における人孔用の作業装置を提供することを目的とする。
本発明は更に、当該作業装置を使用してなされる人孔内の作業方法及び人孔からの引上げ方法を得ることも他の目的とする。
本発明はこのため、旧来の安全ベルトによりかつ人力に依存する手段を抜本的に改変を加え、安全ベルトに替えハーネスによる包持手段を採り入れるとともに、簡単な機械要素を組み合わせ、機械力の導入をもって上記目的を達成しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の下水道管渠等における人孔用の作業装置並びに該装置を使用する作業方法及び引上げ方法は、具体的には以下の構成を採る。
本発明の第1は下水道管渠等における人孔用の作業装置であって、請求項1に記載のとおり、
人孔の開口に臨んで配され、少なくとも3本の脚部を有する櫓部と、
該櫓部の頂部においてかつ櫓部の空間に臨んで配される滑車部と、
前記脚部の一つに固定設置されるウインチ本体を有するウインチ部と、
該ウインチ部のウインチ本体に巻き取られ前記滑車部に巻き掛けられるとともに先端に連結部を有するワイヤーと、
該ワイヤーの先端に装着され、前記ワイヤーの連結部に連結される連結部とハーネス本体とからなるハーネス部と、
からなることを特徴とする。
上記構成において、
1)櫓部の脚部は伸縮可能で高さ調整ができること、
2)櫓部の脚部の基部は傾斜調整ができること、
3)ウインチ部のウインチ本体は手動式であること、
4)ウインチ部のウインチ本体は電動式であること、
4)ウインチ部はワイヤーに過大かつ急激な張力が作用したとき、ウインチの駆動が制動される制動機構を有してなること、
4)ハーネス部は、首部、袖口部、前開きのベスト状の着衣にハーネス本体が組み込まれてなること、
は適宜採りうる選択的事項である。
【0005】
(作用)
本発明の下水道管渠等における人孔用の作業装置の使用において、ハーネス部以外の本装置を所定の状態で人孔部に設置する。設置において、櫓部1、滑車部2及びウインチ部3が分離可能であるとき、櫓部1へ滑車部2及びウインチ部3を適宜組み付ける。これらは当初より一体的に組み付けられていてもよい。櫓部1を人孔の開口に臨んで所定状態(ウインチ部3の位置、滑車部2の中心性)を保持して、かつ安定的に立設する。ウインチ部3から引き出されたワイヤー4は滑車部を介して櫓部1の内部空間の適宜位置に保持される。
一方、作業者はハーネス部のハーネス本体を着衣する。次いで、ハーネス部とワイヤーの先端とを接続し、しかる後人孔内へ入孔し、人孔内の足掛けを介して降下する。地上の作業者が人孔内の作業者の降下に伴う張力を保持しつつウインチを駆動する。
【0006】
本発明の第2は、上記第1発明の下水道管渠等における人孔用の作業装置を使用してなされる人孔内での作業方法であって、請求項6に記載のとおり、
少なくとも3本の脚部を有する櫓部と、該櫓部の頂部においてかつ櫓部の空間に臨んで配される滑車部と、前記脚部の一つに固定設置されるウインチ本体を有するウインチ部と、該ウインチ部のウインチ本体に巻き取られ前記滑車部に巻き掛けられるとともに先端に連結部を有するワイヤーと、該ワイヤーの先端に装着され、前記ワイヤーの連結部に連結される連結部とハーネス本体とからなるハーネス部とからなる作業装置を使用してなされる方法であって、
前記櫓部を人孔の開口に臨んで配し、
前記ハーネス部を着衣して人孔内に降下・上昇する際に、前記ワイヤーに一定の張力を保持しつつ前記ウインチ部の操作により巻降ろし・巻上げをなす、
ことを特徴とする。
上記方法において、ワイヤーに過大かつ急激な張力が作用したとき、ウインチの駆動に制動が作用することは、適宜採用される選択的事項である。
【0007】
本発明の第3は、同じく上記第1発明の下水道管渠等における人孔用の作業装置を使用してなされる人孔内での引上げ方法であって、請求項8に記載のとおり、
少なくとも3本の脚部を有する櫓部と、該櫓部の頂部においてかつ櫓部の空間に臨んで配される滑車部と、前記脚部の一つに固定設置されるウインチ本体を有するウインチ部と、該ウインチ部のウインチ本体に巻き取られ前記滑車部に巻き掛けられるとともに先端に連結部を有するワイヤーと、該ワイヤーの先端に装着され、前記ワイヤーの連結部に連結される連結部とハーネス本体とからなるハーネス部とからなる装置を使用してなされる方法であって、
前記櫓部を人孔の開口に臨んで配し、
前記ハーネス部を着衣した状態で、前記ワイヤーを介して前記ウインチ部の操作により人孔の上部に引き上げる、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の下水道管渠等における人孔用の作業装置によれば、人孔内の作業者の昇降の安全が確保できる。また、人孔内及び人孔底部の被救助者の引上げも容易にできる。更に、本人孔用の作業装置は軽便に設置できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の下水道管渠等における人孔用の作業装置の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1はこの下水道管渠における人孔用の作業装置(以下、単に「作業装置」と称す。)Sの全体構成を示す。
図2〜図11はその各部の構成を示す。
図1において、本作業装置S以外、Pは下水道管渠、Qは地上部の開口を介して下水道管渠Pに連通する人孔を示す。人孔Q内には足掛けTが多段に配されている。その他、Rは路盤、Eは地盤である。なお、下水道管渠P内の水流があり、矢印方向に流下する。
以下の説明において、本作業装置Sにつき、人孔Qの軸線方向側を内側とし、反対方向を外側とする。上下方向は通常の設置状態を基準として決められる。
【0010】
図1に示すとおり、本人孔用の作業装置Sは、人孔Qの開口Oに臨んで地上に配される櫓部1と、該櫓部1の頂部に配される滑車部2と、前記櫓部1の脚部に固定設置されるウインチ部3と、該ウインチ3に巻き取られ前記滑車部2に巻き掛けられる人孔Q内に延設されるワイヤー4と、該ワイヤー4の先端に装着されるハーネス部5とを含む。
人孔Q内で作業する作業者はハーネス部5を着衣し、他の作業者(監視員)は地上でウインチ部3を操作する。
【0011】
以下、各部の構成につき詳述する。
櫓部1(図1〜図3参照)
本櫓部1は三脚状をなし、頂部の頂板10と該頂板10より下方かつ放射状に三方向に延設される脚部11とからなる。しかして、本櫓部1はいわゆる「三脚」をなす。
(頂板10)
詳しくは、頂板10は中央の円板部10a、該円板部10aの3方向に放射状に剛結状に張設される腕部10b、及び該腕部10bの下面より下方に延設される三脚把持筒10cからなる。腕部10bは円板部10aに対して剛結されているが、ピン結合であってもよい。円板部10aには後記する滑車部2の取付け用の取付け孔13が貫通状に穿設され、該円板部10aの上面は平坦面となっている。腕部10bは円板部10aより3方向に等間隔を保って張設される。また、三脚把持筒10cには三脚部11の上部を受け入れる円孔14が形成され、この円孔14に挿入された三脚体11を固定把持する固定用のねじ(図示せず)を備える。
【0012】
(脚部11)
脚部11は3本(11a,11b,11c)よりなり、その各々は本体が鋼製の円筒状いわゆるパイプをなし、大きな剛性を有する。該脚部11はそれぞれ上下より1本ものをなすことを基本とするが、2本以上のパイプを適宜継手を介して組み立てることを妨げるものではない。
該脚部11には適宜補剛性を高める鋼線又は鋼棒よりなる補剛材15が囲繞される。該補剛材15は頂板10の円板部10aとがピン結合される場合には必須となる。
該脚部11の下部には所定の広がり面を有する基台16を有し、該基台16を介して基盤上に設置される。該基台16は脚部11の下部を収容する円孔17を有し、また、下面には基盤とのすべりを防止する歯部18が形成される。該基台16の円孔17から脚部11の抜け出しを阻止する固定用のねじ(図示せず)を設けることも適宜なしうる設計的配慮である。なお、該基台16より上方に向けて円筒部を形成し、該円筒部内の円孔に脚部11の下端を収容する態様を採ることもできる。この場合、該円筒部への固定用のねじを配することは容易である。
しかして、脚部11は上端部を頂板10の三脚把持筒10cに嵌合され、他端部基台16の円孔17内に嵌合され、上下端を固定把持される。
本実施形態において、脚部11は3本(11a,11b,11c)をなすが、上記したとおり、頂板10の腕部10bの数に応じて更に増加することは勿論である。
【0013】
図4は、脚部11の下部に付加される高さ調整機構の一例を示す。
脚部11の下部において、パイプが2分され、該2つのパイプの内面にねじ11dが螺設される。この2つのパイプ間にねじ棒19が介装され、該ねじ棒19を回動することにより脚部11の長さを微調整する。
また、下部パイプ11Aは基台16に剛接された案内筒20に挿入保持され、この案内筒20にボルト挿通用のねじ孔20aが開設される。下部パイプ11Aにはねじ孔20aに対応して所定間隔でボルト嵌合孔11eが凹設される。ねじ孔20aにはねじ21が螺合保持される。案内筒20内の下部パイプ11Aを適宜に移動させて対応するねじ孔20aとボルト嵌合孔11eとを合致させ、ねじ21の先端をボルト嵌合孔11eに嵌合させて下部パイプ11Aを所定高さに保持する。
【0014】
滑車部2(図1〜図3、図5参照)
滑車部2は、滑車23を主体とし、櫓部1の頂部において該櫓部1の頂板10に吊設され、ワイヤー4の上下移動を案内し、かつワイヤー4に掛かる荷重を中継する。更には回転機構(吊下げ構造に内蔵される。)も備えることにより水平回転も許容する。
滑車23は以下の吊下げ構造をもって頂板10より吊り下げられて設置される。
すなわち、吊下げロッド24は、頂板10の円板部10aに開設された取付け孔13及び円板部10a上に載置されたすべり板25の中心孔(取付け孔13に対応する。)内に挿通され、その上端のねじ部24aに止めナット26が螺合される。ねじ部24の下端は滑車保持枠27に剛結され、滑車23は該滑車保持枠26の回転軸28に軸支される。これにより、滑車23はその回転によりワイヤー4の移動を案内し、かつワイヤー4に掛かる荷重を支持し、更には吊下げロッド24のすべり板25と止めナット26とのすべりにより水平回転を許容する。この場合、吊下げロッド24と円板部10aの取付け孔13及びすべり板25の中心孔とは遊嵌状態となる。
なお、吊下げロッド24の下端と滑車保持枠27とを回転可能に保持する場合には、上述したすべり板25は省略できる。
【0015】
図4は滑車部2の別な態様を示す。
この吊下げロッド30は、上端に止め板30aが剛結され、下端にはねじ部30bを有し、頂板10の円板部10aに開設された取付け孔13に上方より挿通保持される。鉄輪31は上部にねじ筒31aを有し、下部に鉄輪部31bを有し、該鉄輪31のねじ筒31aを吊下げロッド30のねじ部30bに螺合する。一方、滑車23にはその保持枠27に取付け孔32が開設されており、前記した鉄輪31の鉄輪部31bとこの取付け孔32との間にシャックル33を介して接合するものである。
【0016】
ウインチ部3(図1、図2、図6参照)
ウインチ部3は、ウインチ本体35を主体とし、櫓部1の脚部11の内の1(本実施形態では11a)に強固に固定される。すなわち、ウインチ部3は、ウインチ本体35と該ウインチ本体35を固定するとともに該ウインチ本体35を脚部11aに固定する架台部36とからなる。
架台部36については、架台部本体36aは所定の厚さと広がりをもって剛性を有する平板状をなし、その内方面にウインチ本体35が適宜の固定手段をもって固定され、架台部本体36aの外方面には脚部11の曲面に対応する凹溝を有する。架台部本体36aはその外方面の凹溝を脚部11の曲面に当接され、上下に適宜間隔をもって配される固定具36b(本実施形態ではUボルト及びナット)により固定される。架台部本体36aの取付けは場合によっては溶接によることもできる。
【0017】
(ウインチ本体35)(図6参照)
ウインチ本体35は、本実施形態ではいわゆる手動式を採り、そのハンドル35aをもってウインチの胴部35bを回転させ、該胴部35bにワイヤー4を巻き付け、巻き戻す。
当該ウインチ本体35は、所定の条件を満たすものであれば、公知かつ市販のものが使用されて十分である。すなわち、このウインチ本体35は、その巻取り・巻戻しにおいて随時ラチェット機構が作動する。また、巻戻しにおいても一定張力での低速操作が可能である。そして、ラチェットが外れ、急激な巻戻し力を受けた際、あるいはワイヤー4にに一定以上の引張り力が急激に作用した際には、制動作用が確実に作動するものである。リトラクターモータ(自動車の安全ベルトに使用されるようなモータ)の使用はこの作用を高め、効果的である。このウインチ本体35の想定荷重は200kgとされる。
【0018】
ワイヤー4 (図1、図2参照)
ワイヤー4は、耐荷重性に優れた鋼索が使用され、一端はウインチ本体35に装着され、滑車部2の滑車23を介し、他端はハーネス部5に接続される連結部38を有する。なお、該ワイヤー4の鋼索には適宜軟質体が被覆されることが好ましい。
該ワイヤー4の連結部38はそのままハーネス部5の連結部に係合するフックが使用されてもよいが、本実施形態では円環体が使用され、該円環体の丸輪38aにシャックル39(符号のみ、図示せず)が装着される。
【0019】
ハーネス部5(図1、図7、図8参照)
ハーネス部5はハーネス本体41と連結部42とからなる。
作業者は、このハーネス部5のハーネス本体41を着衣し、上半身を抱持し、その連結部42をワイヤー4に連結し、ウインチ部3からの引張り力を受けるものである。
以下、その構成につき詳述する。
ハーネス本体41はいわゆるベスト(もしくはチョッキ)態様をなし、ベストの着衣状をなすとともに、該ベストにハーネス構成体が組み込まれてなる。すなわち、ハーネス構成体は、ベストの胴回りに上下に相平行して固定される横ベルト44と、該横ベルト44に交差して肩部を介して回り込み、前部及び背部に固定される左右の縦ベルト45と、ベストの上部において縦ベルト45に固定され、かつ前部から背部にかけてたすき掛けに交差して配される支持ベルト46とからなる。
横ベルト44は、前部においてベストに対応して離脱可能なバックル48、
更には胴部への締込み調整を図る調整環49が付加される。支持ベルト46は、ベストの背部における交差部で固定され、もしくは固定されず、この交差部に連結部42が取り付けられる。ハーネス構成体を構成する各ベルト44,45,46は強度の大きな布地からなる。
ベストは適宜の布地(防水加工、あるいはメッシュ地が好適なものとして推奨される。)よりなり、図示されるとおり前合わせてなり、首部51、袖口部52を有し、かつは大小のポケット53(大ポケット53a、小ポケット53b)が付加される。
連結部42は、ハーネス本体41の背部において、2本の支持ベルト46の交差部で円環状の連結環55と結合される。該連結部42にはまた、作業者の後頭部を支持する広がりのある支持板56が併設される。
上記において、調整環49、ポケット53、支持板56は本質的事項ではなく、適宜省略される。また、ベストは前合わせ態様に限定されるものではなく、丸胴の一体ものであってもよい。
(ハーネス部5の着衣)
作業者は、このハーネス部5のハーネス本体41を着衣し、上半身を抱持し、その連結部42をワイヤー4に連結し、ウインチ部3からの引張り力を受けるものである。
(ワイヤー4との連結)
前記したとおり、ワイヤー4の連結部38との間で、連結部38の丸輪38aと連結部42の連結環55との間にシャックル39を介して接続する。
【0020】
(本実施形態の作用)
以上の構成よりなる本作業装置Sは以下のようにして使用され、施工工事がなされる。
図1はその施工工事の概要を示し、本作業装置Sは人孔Qの開口Oに臨んで配され、作業者はこの作業装置Sを補助として人孔Q内に降下し、また人孔Q内から地上に出るものである。
【0021】
以下、施工手順に基づいて説明する。
設置操作
(1) 実施にあたり、本作業装置Sの櫓部1及び滑車部2は、予め一体的に組み立てられる。また、ウインチ部3とワイヤー4、ハーネス部5は分離されている。なお、ウインチ部3とワイヤー4とが櫓部1に予め組み付けられている場合には、更に簡単な作業となる。
すなわち、櫓部1はその脚部11を1本もしくは多段に継ぎ足され剛性を保持し、また、滑車部2は吊下げロッド24,30を介して滑車22は櫓部1の頂部に固設されてなる。
しかして、この櫓部1を人孔Qの開口Oに臨んで所定状態に配する。すなわち、櫓部1は水平を保って路盤R上に安定的に立設され、滑車部2は人孔Qの開口Oの直上に位置するようにする。
【0022】
(2) 次いで、櫓部1の脚部11の一つ(例えば11a)に、ウインチ部3をその取付け用の架台部36を介して、その固定具36bを強固に締め付けて固定する。
同時に、ウインチ部3のウインチ本体35から繰り出されているワイヤー4を滑車部2の滑車22に巻き懸けて、該ワイヤー4の先端を櫓部1内の適当位置に保持する。
地上の作業者(監視者)は、ワイヤー4がウインチ部3のウインチ本体35に確実に巻き込まれていること、かつラチェット機構、制動機構が確実に作動することを確認する。
【0023】
作業者の降下操作
(3) 人孔Q内に入る作業者はハーネス部5のハーネス本体41を着衣し、その背部の連結部42をワイヤー4の連結部38に連結する。あるいは、ワイヤー4の連結部38にハーネス部5の背部の連結部42を連結し、この状態でのハーネス本体41を着衣する。
すなわち、ハーネス本体41は前開きでベスト態様となっているので、着衣動作は迅速になされ、かつバックル48等で締め付けて、ベスト態様のハーネス本体41は作業者の上半身を抱き込み圧迫感を与えない。
また、ワイヤー4とハーネス部5との連結操作において、ワイヤー4の連結部38の丸輪38aとハーネス部5の連結部42の丸輪 との間にシャックル39を介してなされる。
【0024】
(4) 人孔Q内に入る作業者は、人孔Qの開口Oから人孔Q内へその足掛けTを介して降下する。一方、地上の他の作業者はウインチ部3のハンドル35aの回動操作によりウインチ本体35を駆動して、作業者の人孔Q内への降下に応じて一定の張力を保持しつつワイヤー4を繰り出してゆく。ウインチ部3の繰り出しによるワイヤー4の降下を作業者自身の降下よりも先行させてはならない。ワイヤー4に弛みは生じない。
【0025】
(5) 今、作業者が足掛けTを踏み外した際には、作業者の荷重は急速性を伴い、ハーネス部5からその連結部42、38を介してワイヤー4をもってウインチ部3に伝達されるが、ウインチ本体35ではその急速荷重を検知して直ちにワイヤー4の移動を停止する。
これにより、作業者は殆どバランスを失うことなく、落下状態から脱し、正常状態に復帰できる。
【0026】
作業者の上昇操作
(6) 作業者が人孔Q内を上昇する場合(作業者は本ハーネス部5を着衣している。)、上記工程(4) の逆の手順となる。このときも、ワイヤー4に一定の張力を保持させる。
作業者が本ハーネス部5を着衣していない場合には、人孔Q内の底部でハーネス部5を前記(3) に準じて着衣した上、上記の過程をなすことは勿論である。
【0027】
被救助者の引上げ
(7) 人孔Q内に負傷者等の自力による上昇が困難な場合、地上部でワイヤー4の先端にハーネス部5の接続をなした上で、該ハーネス部5を人孔Qの底部に降ろし、該ハーネス部5を負傷者に着衣し、そのまま地上でのウインチ操作により人孔Q内を上昇させ、開口Oより脱する。
この場合、ハーネス部5を負傷者に着衣させ、しかる後地上から降下されたワイヤー4に連結し、上記の過程をなすこともできる。
【0028】
(本実施形態の効果)
上記のことから明らかなとおり、本実施形態の作業装置Sによれば、人孔Q内の作業者の昇降の安全が確保できる。すなわち、作業者が昇降行中足掛けTを踏み外した際には、作業者の荷重は急速性を伴い、ウインチ本体35ではその急速な変動荷重を検知して直ちにワイヤー4の移動を停止する。これにより、作業者は殆どバランスを失うことなく、落下状態から脱し、正常状態に復帰できる。
また、人孔Q内及び人孔底部の被救助者の引上げも容易にできる。
更に、本作業装置Sは容易に設置でき、作業効率が良好である。
【0029】
ハーネス部5A
図9〜図11に他の態様のハーネス部5Aを示す。
図9及び図10はこのハーネス部5Aの全体構成を示し、図11は更にその内部の構成を示す。
図9〜図11に示されるように、このハーネス部5Aは、布地をもってベスト状に形成されてなるベスト本体60と、該ベスト本体60の胴回りに上下に水平に固定される2本の横ベルト61と、該横ベルト61の前部に接続され、両方の肩部を介して該横ベルト61の背部に回り込んで固定される2本の縦ベルト62と、該縦ベルト62の両方の肩部分から延設される2本の支持ベルト63とを含むとともに、更には、該ベスト本体60の内側の胴方向にほぼ全周にわたって配され広がり面を有する緩衝帯64及びワイヤー4に連結される連結部65を含む。
【0030】
ベスト本体60
ベスト本体60は、布地をもってベスト(チョッキ)状に形成され、かつ前開き可能となっており、それぞれの前身項60a,60bはファスナー(図示せず)などによって、開閉可能になっている。
該ベスト本体60はベスト態様として、大きめの首部67及び袖口部68が形成され、着脱し易くなされる。
該ベスト本体60の布地として、メッシュ、防水布等が使用される。
【0031】
横ベルト61
2本の横ベルト61は、ベスト本体60の胴部分を捲回するように、上下に平行に固定される。横ベルト61は所定の幅及び強度を有する。更に、該横ベルト61の素材は強度の大きい布地もしくは合成樹脂材が使用される。
該横ベルト261それぞれ脱着具(いわゆるバックル)70を正面に備えており、接続・解離可能になっている。更に、横ベルト61にはベルトの長さを調整するための締具(長さ調整環)71が設けられている。それぞれの横ベルト61は、2本の縦ベルト62に接続している。
【0032】
縦ベルト62
2本の縦ベルト62は、それぞれ横ベルト61の固定前部に接続され、両方の肩部を介して該横ベルト61の背部に回り込んで固定される。縦ベルト62は横ベルト61と同様、所定の幅及び強度を有する。更に、該縦ベルト62の素材は強度の大きい布地もしくは合成樹脂材が使用される。
【0033】
支持ベルト63
支持ベルト63は、左右の2本よりなり、各縦ベルト62の肩部分に一端が接続されており、他端は相互に接続固定され、ワイヤー4に接続される連結部65を有する。あるいは1本よりなり、両端が肩部分に固定され中央で連結部65に固定把持されう態様も採りうる。この場合、当該中央部で小さな輪を形成し、該輪を連結部65としてもよい。該支持ベルト4は横ベルト2及び縦ベルト3と同様、所定の幅及び強度を有する。更に、該支持ベルト4の素材は強度の大きい布地もしくは合成樹脂材が使用される。
該支持ベルト63は、三角形状の空間部Aを形成するが、作業者の首を締め込まないように適宜の寸法に定められる。
【0034】
緩衝帯64
緩衝帯64は、所定の広がり面を保持し、ベスト本体60に固定され、該ベスト本体60の内側の胴方向にほぼ全周にわたって配される。該緩衝帯64のベスト本体60に対する固定は全面、あるいは適宜間隔を保ってなされる。
該緩衝帯64は、落下時の衝撃を緩和するとともに、吊り上げられるときに該ハーネス部5Aを着衣した作業者の腋の下に当接し、該ハーネス部5Aが吊り上げによって抜け落ちることを防止するために設けられる。このため、該緩衝帯64の素材は、柔軟で衝撃緩和性があることが望ましく、また作業者を吊り上げるときに支持できるような強度を備えていることが必要である。緩衝帯64は、ベスト本体60の袖口68に隣接して、前記袖口68のほぼ直下に設けられており、引っ張り上げる場合にベスト本体60が通常の装着状態より上方に著しく移動しないようにしてある。
緩衝帯64は所定の幅及び厚さを採る。
【0035】
連結部65
連結部65は、剛性を有する金属体よりなり、支持ベルト63の三角形状の頂部に配され、該支持ベルト63を固定態様もしくは可動態様で把持するものであり、連結孔73を有する。
また、ワイヤー4の先端の連結部にも同じく連結孔を有し、本ハーネス部5Aの連結部65の連結孔73とワイヤー4の連結部の連結孔との間にシャックルを介装させて接続する。
なお、連結部65は剛性に限定されず、柔軟な支持ベルト63をそのま利用した輪をもって形成してもよい。
【0036】
本ハーネス部5Aにおいても、上記した作業装置Sに装着され、同様の作用を発揮する。
すなわち、ワイヤー4を巻き上げることにより、支持ベルト63が緊張し、縦ベルト62の肩部より作業者を吊り上げる。すなわち、作業者は肩部より吊り上げられることになり、人孔Qが狭くても容易に救出可能である。このとき、作業者の頭部は前方あるいは後方に倒れた状態となるが、支持ベルト63で構成される空隙Aは該頭部が入り込まないように形成されているため、前記支持ベルト63によって、首部が圧迫されることはない。
また、吊り上げられる状態のとき、本ハーネス部5Aは上方に引っ張り上げられるが、横ベルト61によって、本ハーネス部5Aは作業者に固定され、かつ胴回りに設けられた緩衝帯64が作業者の脇の下を支持することになるため、作業者の重量によって本ハーネス部5Aが作業から抜け出ることはない。また袖口部68の直径が所定値を採っているため、吊り下げ時の本ハーネス部5Aの上方への移動は抑制されたものとなり、この点においても本ハーネス部5Aの作業者からの抜出しは阻止される。
【0037】
本発明は叙上の実施の形態にのみ限定されるものではなく、本発明の基本的技術思想の範囲内で種々設計変更が可能である。すなわち、以下の態様は本発明の技術的範囲内に包含される。
1)櫓部1は本実施形態の三脚に限定されず、四脚もしくはそれ以上の脚部を有してもよい。また、二脚の態様、すなわち門型であってもよい。
2)滑車部2において、単一の滑車23に限定されず、動滑車を採用することも可能である。
3)本実施形態ではウインチ部3は手動式を採るが、電動式であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の下水道管渠等における人孔用の作業装置の一実施形態の全体構成を示す概略図。
【図2】本作業装置の櫓部の側面図(図3の2方向矢視図)。
【図3】本櫓部の上部の拡大部分図(図2の3方向矢視図)。
【図4】櫓部の脚部の他の態様図。
【図5】滑車部の他の態様図。
【図6】ウインチ本体の一例示図。
【図7】ハーネス部の前面構成を示す斜視図。
【図8】ハーネス部の背面構成を示す斜視図。
【符号の説明】
【0039】
S…人孔用作業装置、Q…人孔、P…下水道管渠、T…足掛け、1…櫓部、2…滑車部、3…ウインチ部、4…ワイヤー、5…ハーネス部、11…脚部、35…ウインチ本体、38…ワイヤーの連結部、41…ハーネス本体、42…連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人孔の開口に臨んで配され、少なくとも3本の脚部を有する櫓部と、
該櫓部の頂部においてかつ櫓部の空間に臨んで配される滑車部と、
前記脚部の一つに固定設置されるウインチ本体を有するウインチ部と、
該ウインチ部のウインチ本体に巻き取られ前記滑車部に巻き掛けられるとともに先端に連結部を有するワイヤーと、
該ワイヤーの先端に装着され、前記ワイヤーの連結部に連結される連結部とハーネス本体とからなるハーネス部と、
からなることを特徴とする下水道管渠等における人孔用の作業装置。
【請求項2】
ウインチ部のウインチ本体は手動式である請求項1に記載の下水道管渠等における人孔用の作業装置。
【請求項3】

ウインチ部のウインチ本体は電動式である請求項1に記載の下水道管渠等における人孔用の作業装置。
【請求項4】
ウインチ部はワイヤーに過大かつ急激な張力が作用したとき、ウインチの駆動が制動される制動機構を有してなる請求項1ないし3のいずれかに記載の下水道管渠等における人孔用の作業装置。
【請求項5】
ハーネス部は、首部、袖口部、前開きのベスト状の着衣にハーネス本体が組み込まれてなる。
【請求項6】
少なくとも3本の脚部を有する櫓部と、該櫓部の頂部においてかつ櫓部の空間に臨んで配される滑車部と、前記脚部の一つに固定設置されるウインチ本体を有するウインチ部と、該ウインチ部のウインチ本体に巻き取られ前記滑車部に巻き掛けられるとともに先端に連結部を有するワイヤーと、該ワイヤーの先端に装着され、前記ワイヤーの連結部に連結される連結部とハーネス本体とからなるハーネス部と、からなる作業装置を使用してなされる方法であって、
前記櫓部を人孔の開口に臨んで配し、
前記ハーネス部を着衣して人孔内に降下・上昇する際に、
前記ワイヤーに一定の張力を保持しつつ前記ウインチ部の操作により巻降ろし・巻上げをなす、
ことを特徴とする下水道管渠等における人孔内での作業方法。
【請求項7】
ワイヤーに過大かつ急激な張力が作用したとき、ウインチの駆動に制動が作用する請求項6に記載の下水道管渠等における人孔内での作業方法。
【請求項8】
少なくとも3本の脚部を有する櫓部と、該櫓部の頂部においてかつ櫓部の空間に臨んで配される滑車部と、前記脚部の一つに固定設置されるウインチ本体を有するウインチ部と、該ウインチ部のウインチ本体に巻き取られ前記滑車部に巻き掛けられるとともに先端に連結部を有するワイヤーと、該ワイヤーの先端に装着され、前記ワイヤーの連結部に連結される連結部とハーネス本体とからなるハーネス部と、からなる装置を使用してなされる方法であって、
前記櫓部を人孔の開口に臨んで配し、
前記ハーネス部を着衣した状態で、前記ワイヤーを介して前記ウインチ部の操作により人孔の上部に引き上げる、
ことを特徴とする下水道管渠等における人孔内での引上げ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−69572(P2008−69572A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249591(P2006−249591)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(593110166)下水道メンテナンス協同組合 (5)
【出願人】(390005393)藤倉航装株式会社 (40)
【Fターム(参考)】