説明

不均一系触媒を用いたアリール誘導体の製造方法

【課題】不均一系触媒である金属酸化物担持酸化ルテニウム触媒を用いた系で、高収率のアリール誘導体を得ることのできる製造方法を提供する。
【解決手段】式:


で表される化合物(3)の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物に担持したルテニウム触媒である不均一系触媒を用いたアリール誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成化学は我々の生活に密接に関連しており、より環境負荷の小さな有機合成プロセスの開発と、こうしたプロセスを可能にする新触媒の開発は重要な課題である。これまで有機合成化学においては、主として厳密な触媒活性点構造の制御が容易な均一系錯体触媒を用いる反応の開発が進められてきた。中でも低原子価ルテニウム錯体触媒については、パラジウム錯体をはじめとする他の金属錯体触媒には見られない特異的な触媒機能が見出されており、アルケンやアルキンの共オリゴメリゼーション(例えば非特許文献1)や、求核的および求電子的な付加反応(例えば非特許文献2)等、多様な合成反応に活用されている。特に近年、有機合成化学における最重要かつ最難関課題の一つである不活性な炭素−水素結合の活性化を伴う分子変換反応に対して、ルテニウム錯体触媒が高活性を有することが明らかになり、芳香族炭素−水素結合のアルケンへの付加反応に関する先駆的な報告(非特許文献3)以来、アリールカップリング反応の開発(非特許文献4〜10)等、多くの関連する反応が報告されている。こうしたC-H結合活性化を伴うC-C結合形成反応は原子効率の点からも極めて有効であり、合成プロセスのコストの飛躍的低減につながるものであるが、これまでは均一系金属錯体触媒の使用が不可欠と信じられていたというのが実情である。しかしながら、一般的に、均一系触媒には以下に列挙したように環境対応・実用の双方の面で制約が多く、実用に供されている例は限られている。(1)触媒製造プロセスが複雑で、一般に高環境負荷・高コストである。(2)触媒の分離回収再利用が困難であり、高環境負荷・高コストの要因となる。(3)一般に化学的・熱的に不安定で、適用できる反応条件に制限が多い。(4)一般に空気や水分に対して不安定であることが多く、取り扱いに特別な処置を要する。(5)液相プロセスに限定される。
【0003】
不均一系触媒のなかでも、金属酸化物をベースとする固体触媒は、上記の制約を解消することができることから、均一系触媒と同等あるいはこれらを上回る活性を有する固体酸化物触媒が得られれば、有機化学工業に与える影響は極めて大きい。こうした観点から有機合成反応への不均一系触媒の適用が近年特に注目されており、Kanedaら、Mizunoら、Nishimuraら、Shimizuらをはじめとする多くのグループにより、担時金属触媒による官能基変換や固体酸触媒を用いる反応等、酸化物系触媒に関する成果が報告されるようになった(例えば、非特許文献11〜13等)。しかしながら、不活性炭素−水素結合活性化を経る反応に有効な固体酸化物触媒の開発は全く報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H. Tsujita et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 5160
【非特許文献2】T. Kondo et al., J. Am. Chem. Soc., 1998, 120, 5587
【非特許文献3】S. Murai et al., Nature 1993, 366, 529
【非特許文献4】S. Oi et al., Org. Lett. 2001, 3, 2579
【非特許文献5】L. Ackermann, Org. Lett. 2005, 7, 3123.
【非特許文献6】S. Oi et al., J. Org. Chem. 2005, 70, 3113.
【非特許文献7】L. Ackermann et al., Angew. Chem., Int. Ed 2007, 46, 6364.
【非特許文献8】L. Ackermann et al., Synlett 2007, 2833.
【非特許文献9】S. Oi et al., Org. Lett. 2008, 10, 1823.
【非特許文献10】L. Ackermann et al., Tetrahedron 2008, 64, 6115.
【非特許文献11】T. Nishimura et al., Synlett 2004, 201
【非特許文献12】K. Kaneda et al., Curr. Org. Chem. 2006, 10, 241
【非特許文献13】K. Kaneda, Synlett 2007, 999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、不均一系触媒である金属酸化物担持酸化ルテニウム触媒を用いた反応系で、高収率のアリール誘導体を得ることのできる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、不均一系触媒を用いた反応系において、アリール誘導体を得ることができる製造方法を見出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の製造方法に係る。
【0008】
項1.式(1a):
【0009】
【化1】

(式(1a)中、nは1〜3の整数であり;
は、水素原子であり;
は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、又はハロゲン原子であり;
は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、若しくはハロゲン原子によって置換されていてもよい炭素原子、又は
及びRが、ヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合したハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、及びハロゲン原子よりなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有していてもよい5〜10員の不飽和複素環若しくは芳香環であり;
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、又は
及びRが、結合する窒素原子と、他のヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合したハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基及びハロゲン原子よりなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有していてもよい5〜10員の不飽和複素環であり;
nが2以上の場合、同じであっても異なっていてもよい)
又は式(1b):
【0010】
【化2】

(式(1b)中、R1、R及びnは式(1a)と同じであり;
は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、又はハロゲン原子、
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基若しくはハロゲン原子によって置換されていてもよい炭素原子、又は
及びRが、ヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合したハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、及びハロゲン原子よりなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有していてもよい5〜10員の不飽和複素環若しくは芳香環であり;
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、又は
及びRが、結合する窒素原子と、他のヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合したハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基及びハロゲン原子よりなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有していてもよい5〜10員の不飽和複素環である)
で表される化合物(1)と、
式(2):A−X
(式(2)中、Xはハロゲン原子であり;
Aは、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基及びハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基によって置換されていてもよいヘテロ原子を有していてもよい芳香環である)
で表される化合物(2)を、
酸化セリウム、酸化ジルコニウム及び酸化ハフニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物又は複合酸化物に担持したルテニウム触媒の存在下で反応させることを特徴とする、
式(3a):
【0011】
【化3】

(式(3a)中、n、R、R、R及びRは式(1a)と同じであって、Bは式(2)と同じである)
又は、式(3b):
【0012】
【化4】

(式(3b)中、n及びRは式(1a)と同じであり、R、R及びRは式(1b)と同じであって、Bは式(2)と同じである)
で表される化合物(3)の製造方法。
【0013】
項2.化合物(2)の配合量が、化合物(1)1molに対して、0.1〜10 molである項1記載の製造方法。
【0014】
項3.金属酸化物に担持したルテニウム触媒の配合量が、化合物(1)1molに対して、触媒中のルテニウムの量が0.001〜0.2 molとなるように配合する項1又は2記載の製造方法。
【0015】
項4.更に塩基及び/又はハロゲン化金属を配合する項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【0016】
項5.塩基及び/又はハロゲン化金属の配合量が、化合物(1)1molに対して、1〜10molである項4記載の製造方法。
【0017】
化合物(1)は、式(1a):
【0018】
【化5】

又は式(1b):
【0019】
【化6】

によって表される。
【0020】
式(1a)中、nは、1〜3の整数である。
【0021】
は、金属酸化物担持ルテニウム触媒によって炭素―水素結合が活性化を受け、ビアリール骨格が構成される反応部位であるという観点から、水素原子である。
【0022】
は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子である。
【0023】
におけるハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、フルオロメチル基、ヨードメチル基、ジフルオロメチル基、ジブロモメチル基、ジクロロメチル基、2−クロロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、3−クロロプロピル基、2,3−ジクロロプロピル基、4,4,4−トリクロロブチル基、4−フルオロブチル基等の炭素数1〜4程度のハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基が挙げられる。
【0024】
ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、iso-プロポキシ基、n-ブトキシ基、iso-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、トリフルオロメトキシ基、トリクロロメトキシ基、クロロメトキシ基、ブロモメトキシ基、フルオロメトキシ基、ヨードメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、ジブロモメトキシ基、ジクロロメトキシ基、2−クロロエトキシ基、2,2,2−トリフルオロエトキシ基、2,2,2−トリクロロエトキシ基、3−クロロプロポキシ基、2,3−ジクロロプロポキシ基、4,4,4−トリクロロブトキシ基、4−フルオロブトキシ基等の炭素数1〜4程度のハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルコキシ基が挙げられる。
【0025】
ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、iso-プロポキシ基、n-ブトキシ基、iso-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、トリフルオロメトキシ基、トリクロロメトキシ基、クロロメトキシ基、ブロモメトキシ基、フルオロメトキシ基、ヨードメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、ジブロモメトキシ基、ジクロロメトキシ基、2−クロロエトキシ基、2,2,2−トリフルオロエトキシ基、2,2,2−トリクロロエトキシ基、3−クロロプロポキシ基、2,3−ジクロロプロポキシ基、4,4,4−トリクロロブトキシ基、4−フルオロブトキシ基等の炭素数1〜4程度のハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルコキシ基が挙げられる。
【0026】
ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキルカルボニル基としては、例えば、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、n-プロピルカルボニル基、iso-プロピルカルボニル基、n-ブチルカルボニル基、iso-ブチルカルボニル基、sec-ブチルカルボニル基、tert-ブチルカルボニル基、トリフルオロメチルカルボニル基、トリクロロメチルカルボニル基、クロロメチルカルボニル基、ブロモメチルカルボニル基、フルオロメチルカルボニル基、ヨードメチルカルボニル基、ジフルオロメチルカルボニル基、ジブロモメチルカルボニル基、ジクロロメチルカルボニル基、2−クロロエチルカルボニル基、2,2,2−トリフルオロエチルカルボニル基、2,2,2−トリクロロエチルカルボニル基、3−クロロプロピルカルボニル基、2,3−ジクロロプロピルカルボニル基、4,4,4−トリクロロブチルカルボニル基、4−フルオロブチルカルボニル基等の炭素数1〜4程度のハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキルカルボニル基が挙げられる。
【0027】
アミノ基としては、例えば式:−NH2、−NHR、−NHR2(式中、R’は、前記低級アルキル基であり、R’の数が2である場合、低級アルキル基は同じであっても異なっていてもよい)で表されるものが挙げられる。
【0028】
不飽和複素環としては、5〜10員環、好ましくは5〜6員環のものが挙げられ、具体的には、ピリジン環、ピロール環、オキサゾール環、イソキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、フラザン環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ジハイドロオキサゾール環、チオフェン環、フラン環、ピラゾール環等が挙げられる。
【0029】
芳香環としては、5〜14員環のものが挙げられ、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環等が挙げられる。
【0030】
アミド基としては、低級アルキル基が置換されていてもよく、置換されていてもよい低級アルキル基としては、前記のものと同様のものがあげられる。
【0031】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子があげられる。
【0032】
は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子であり、Rは、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、若しくはハロゲン原子によって置換されていてもよい炭素原子である。
【0033】
及びRにおける、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;不飽和複素環、芳香環、アミド基、エステル基、ハロゲン原子の具体例としては、前記Rで挙げられたものと同様のものが挙げられる。
【0034】
又、R及びRは、他のヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合した置換基を有していてもよい不飽和複素環若しくは芳香環であってもよい。
前記不飽和複素環又は芳香環としては、5〜10員環であることが好ましく、5〜6員環であることがより好ましい。前記不飽和複素環若しくは芳香環としては、ピリジン環、ピロール環、オキサゾール環、イソキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、フラザン環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ジハイドロオキサゾール環、チオフェン環、フラン環、ピラゾール環等の不飽和複素環;ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環等の芳香環が挙げられる。
【0035】
前記不飽和複素環又は芳香環に置換されていてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;アミノ基;ヒドロキシル基;カルバモイル基;不飽和複素環;芳香環;ニトロ基:アミド基;エステル基;カルボキシル基;ヒドロキシル基;シアノ基;ハロゲン原子等が挙げられ、これらの具体例としては、Rと同様のものが挙げられる。
【0036】
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子である。
【0037】
における、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;不飽和複素環、芳香環、アミド基、エステル基、ハロゲン原子の具体例としては、前記Rで挙げられたものと同様のものが挙げられる。
【0038】
又、R及びRが、結合する窒素原子と、他のヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合した置換基を有していてもよい不飽和複素環であってもよい。
【0039】
及びRが、結合する窒素原子と、他のヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合した置換基を有していてもよい不飽和複素環としては、5〜10員環であることが好ましく、5〜6員環であることがより好ましい。
【0040】
前記不飽和複素環としては、ピリジン環、ピロール環、オキサゾール環、イソキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、フラザン環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ジハイドロオキサゾール環、チオフェン環、フラン環、ピラゾール環等が挙げられる。
【0041】
前記不飽和複素環に置換されていてもよい置換基としては、前記R及びRが、他のヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合した不飽和複素環若しくは芳香環である場合の置換基の具体例と同様のものが挙げられる。
【0042】
及びRが、他のヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合した置換基を有していてもよい不飽和複素環若しくは芳香環を有する化合物(1)の式(1a)の具体例としては、例えば、式:
【0043】
【化7】

(式中、R、R、R及びnは、式(1)と同じであり、R及びRa’は前記式(1)におけるヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合した不飽和複素環若しくは芳香環に置換されていてもよい置換基と同じであり、s及びs’は、それぞれ0〜4の整数であり、s及びs’がそれぞれ2以上である場合は、R及びRa’はそれぞれ同じであっても異なっていてもよい)
で表される化合物等が挙げられる。
【0044】
さらに、式(1a)において、R及びRが、ヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合した不飽和複素環若しくは芳香環を有し、かつR及びRが、結合する窒素原子と共に、他のヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合した不飽和複素環を有するものとしては、例えば、式:
【0045】
【化8】

(式中、R、R、nは前記式と同じである)
で表される化合物等が挙げられる。
【0046】
式(1b)において、式中、R1、R及びnは式(1a)と同じである。
【0047】
は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子であり、Rは、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基若しくはハロゲン原子によって置換されていてもよい炭素原子である。
【0048】
及びRにおける、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;不飽和複素環、芳香環、アミド基、エステル基、ハロゲン原子の具体例としては、前記式(1a)中のRで挙げられたものと同様のものが挙げられる。
【0049】
又、R及びRは、他のヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合した置換基を有していてもよい不飽和複素環若しくは芳香環であってもよい。
【0050】
前記不飽和複素環又は芳香環としては、5〜10員環であることが好ましく、5〜6員環であることが好ましい。前記不飽和複素環若しくは芳香環としては、ピリジン環、ピロール環、オキサゾール環、イソキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、フラザン環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ジハイドロオキサゾール環、チオフェン環、フラン環、ピラゾール環等の不飽和複素環;ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環等の芳香環が挙げられる。
【0051】
前記不飽和複素環又は芳香環に置換されていてもよい置換基としては、前記式(1a)で挙げられたものと同様のものが挙げられる。
【0052】
及びRが、他のヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合した置換基を有していてもよい不飽和複素環若しくは芳香環を有する化合物(1)の式(1b)の具体例としては、例えば、式:
【0053】
【化9】

(式中、R、R、n及びRは式(1b)と同じであり、R及びRb’は前記式(1)におけるヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合した不飽和複素環若しくは芳香環に置換されていてもよい置換基と同じであり、tは、0〜3の整数であり、tが2以上である場合は、同じであっても異なっていてもよく、t’は、0〜2の整数であり、t’が2である場合は、同じであっても異なっていてもよい)
で表される化合物が挙げられる。
【0054】
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子である。
【0055】
における、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;不飽和複素環、芳香環、アミド基、エステル基、ハロゲン原子の具体例としては、前記Rで挙げられたものと同様のものが挙げられる。
【0056】
又、R及びRが、結合する窒素原子と、他のヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合した置換基を有していてもよい不飽和複素環であってもよい。
【0057】
及びRが、結合する窒素原子と、他のヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合したハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、及びハロゲン原子よりなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有していてもよい5〜10員の不飽和複素環である)
及びRが、結合する窒素原子と、他のヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合した置換基を有していてもよい不飽和複素環としては、5〜10員環であることが好ましく、5〜6員環であることが好ましい。
【0058】
前記不飽和複素環としては、ピリジン環、ピロール環、オキサゾール環、イソキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、フラザン環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ジハイドロオキサゾール環、チオフェン環、フラン環、ピラゾール環等が挙げられる。
【0059】
前記不飽和複素環に置換されていてもよい置換基としては、前記式(1a)で挙げられたものと同様のものが挙げられる。
【0060】
及びRが、他のヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合した置換基を有していてもよい不飽和複素環若しくは芳香環を有する化合物(1)の式(1b)の具体例としては、例えば、式:
【0061】
【化10】

(式中、R、R、R及びnは、前記式と同じであり、Rは、式(1)における前記ヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合した不飽和複素環若しくは芳香環に置換されていてもよい置換基と同じであり、uは、0〜3の整数であり、uが2以上である場合は、同じであっても異なっていてもよい)
で表される化合物が挙げられる。
【0062】
化合物(2)は、式(2):A−X
によって表される。
【0063】
式(2)中、Xはハロゲン原子であり、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましいが、他と比較して安価で入手が容易である点、反応条件にもよるが、収率が向上するという点、選択性が向上する点という点から、塩素原子であることがより好ましい。
【0064】
式(2)中、Aは、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基及びハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基によって置換されていてもよいヘテロ原子を有していてもよい芳香環である。
【0065】
ヘテロ原子を有していてもよい芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、チオフェン環、フェナントレン環、ピロール環、オキサゾール環、イソキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、フラザン環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ジハイドロオキサゾール環、フラン環、ピラゾール環等が挙げられる。
【0066】
ヘテロ原子を有していてもよい芳香環に置換されていてもよいハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;不飽和複素環、芳香環、アミノ基、アミド基、エステル基、ハロゲン原子の具体例としては、前記Rと同様のものが挙げられる。
【0067】
化合物(2)の具体例としては式:
【0068】
【化11】

(式中、Xは前記式(2)と同じであり、R’は、前記ヘテロ原子を有していてもよい芳香環に置換されていてもよい置換基であり、oは0〜5の整数であり、pは0〜4の整数であり、qは0〜3の整数であり、rは0〜7の整数であって、o、p、q及びrがそれぞれ、2以上である場合、R’は、同じであっても異なっていてもよい)
等が挙げられ、より具体的には式:
【0069】
【化12】

(式中Xは、式(2)と同じであり、R’は前記式と同じである)
等が挙げられる。
【0070】
化合物(2)の配合量は、特に限定されるものではなく、工業的観点から、未反応原料が残らないようにするという観点から、化合物(1)1molに対して、等量配合してもよく、また、化合物(1)又は化合物(2)のいずれかを大過剰配合してもよい。なお、化合物(1)1molに対して、0.1〜10mol、好ましくは0.5〜4 mol、より好ましくは1.5〜3mol化合物(2)を配合してもよい。
【0071】
本発明の化合物(3)の製造は、金属酸化物又は複合酸化物に担持したルテニウム(Ru)触媒の存在下で行われる。金属酸化物又は複合酸化物としては、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、及び酸化ハフニウム等が挙げられるが、これらの中で、酸化セリウム、酸化ジルコニウムが、化合物(3)の収率が向上する、選択性が高いという観点から好ましい。
【0072】
金属酸化物又は複合酸化物は、その前駆体として、硝酸塩、オキシ硝酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩等の金属塩を用い、加水分解後に空気中で焼成させることによって得られる。
【0073】
金属酸化物又は複合酸化物に担持されたRu触媒としては、Ru前駆体を溶媒に溶解させ、その溶液中に金属酸化物又は複合酸化物を含浸させた後に焼成することによって得られる。
【0074】
Ru前駆体としては、Ru3(CO)12、[RuCl2(CO)3]2、テトラクロロビス(p−シメン)二ルテニウム(以下、[RuCl2(p-cymene)]2ともいう)、RuCl3nH2O、(シクロオクタジエン)(シクロオクタトリエン)ルテニウム(0)錯体(以下、Ru(cod)(cot)ともいう)、トリアセチルアセトネートルテニウム、ヨウ化ルテニウム等が挙げられる。これらの中で、担持される金属酸化物が酸化セリウム又は酸化ジルコニウムである場合は、Ru前駆体は、Cl原子を含むものが、高い触媒活性が安定して得られるという観点から好ましく、具体的には、[RuCl2(CO)3]2、RuCl3nH2Oが好ましい。一方、担持される金属酸化物が酸化セリウム又は酸化ジルコニウムであり、ホスフィン等と組み合わせて用いる場合には、Ru前駆体は、目的化合物収率を向上させる観点から具体的には、Ru3(CO)12および[RuCl2(CO)3]2が好ましい。
【0075】
Ru前駆体を溶解させる溶媒としては、テトラヒドロフラン(以下、THFともいう)、ジオキサン等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコール系溶媒等が挙げられる。これらの中で、特に、Ru前駆体として、[RuCl2(CO)3]2、RuCl3 nH2Oを用いる場合には、得られる触媒中金属酸化物の表面上にRuを高分散させるために、メタノール等がより好ましい。
【0076】
Ru前駆体の溶液中に金属酸化物を含浸させた後の焼成温度としては、300〜700℃が好ましく、400〜500℃がより好ましい。
【0077】
金属酸化物に担持されたRu触媒における、Ruの担持割合は、反応に要する固体触媒の量を減らすことで触媒にかかるコストを低減する点において良好であるという点から、触媒中、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。また、Ruの担持割合は、触媒表面上に原子レベルで高分散したルテニウム種を形成する点において良好であるという点から、触媒中、20質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。
【0078】
金属酸化物に担持されたRu触媒は、表面にメソ細孔を豊富に有しているものであり、表面のメソ細孔によって反応基質や生成物の拡散が円滑に進行し、かつ表面積が大きいため、触媒活性が向上するものと推測される。Ru触媒の窒素吸着比表面積(BET比表面積)は、10m2g-1以上が好ましく、90m2 g-1以上がより好ましい。また、メソ細孔の直径は、2〜20nm程度が好ましく、4〜10nm程度がより好ましい。
【0079】
本発明のRu触媒は、担持される金属酸化物の表面上に高分散しているものと考えられ、触媒表面のRu=O種が反応開始直後に還元されて低原子価ルテニウム種が発生し、これが触媒活性種として機能するものと推察される。
【0080】
化合物(3)を製造する際の金属酸化物に担持されたRu触媒の配合量は、化合物(1)1molに対して、触媒中のRuの量が0.001〜0.2molとなるように配合することが好ましく、0.01〜0.05molがより好ましく、0.02〜0.05molがさらに好ましい。Ru触媒の配合量が、触媒中のRuの量で0.02mol未満であると、反応時間当たりの化合物(3)の収率が低下する傾向があり、一方、0.05molを超えると、触媒に含まれる単位ルテニウム量当たりの化合物(3)の収率が低下し、必要なルテニウム量が増加する傾向がある。
【0081】
また、本発明の製造方法において、ホスフィン、ホスファイト、ホスフィンオキシド等のリン化合物の添加剤は、毒性を有し、また、生成物からこれらの化合物を除く処理工程を要するという観点からは、配合しないほうが好ましい。なお、ルテニウムオキソ種から低原子価ルテニウム種への還元を促進する効果と、触媒表面上のルテニウム種に配位してルテニウム種の電子状態を変化させたり、基質や生成物のルテニウム種への配位状態を適切な状態に制御するというメカニズムより、化合物(3)の収率をより向上させることができるという観点からは、許容できる範囲で更にホスフィン、ホスファイト、ホスフィンオキシド等の添加剤を配合してもよい。ホスフィンの具体例としては、トリフェニルホスフィン(PPh3)、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン等が挙げられ、ホスファイトの具体例としては、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、等が挙げられる。これらの中で、化合物(3)の収率の向上において良好であるという点から、PPh3がより好ましい。
【0082】
添加剤の配合量としては、化合物(1)1molに対して、0〜1molが好ましく、0〜0.1molがより好ましく、0〜0.05molがさらにより好ましい。
【0083】
また、本発明の製造方法において、反応によって発生するハロゲン化水素を中和して装置の腐食や触媒の劣化を抑制し、反応を促進するというメカニズムより、化合物(3)の収率を向上させることができるという点から、更に塩基及び/又はハロゲン化金属を配合してもよい。
【0084】
塩基としては、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸セシウム(Cs2CO3)等の炭酸塩;リン酸カリウム(K3PO4)等のリン酸塩;酢酸ナトリウム(NaOAc)、酢酸カリウム(KOAc)等の酢酸塩が挙げられ、ハロゲン化金属としては、ハロゲン化カリウム、具体的には、フッ化カリウム(KF)等が挙げられるが、これらの中で、カリウムを含む塩基又はハロゲン化カリウムが好ましく、特に、炭酸カリウム、酢酸カリウム等のカリウムを含む塩基又はフッ化カリウムが好ましい。
【0085】
塩基/又はハロゲン化金属は、工業的見地から配合量が少ないほうが好ましいが、塩基/又はハロゲン化金属を配合する際の配合量としては、化合物(1)1molに対して、1〜10molが好ましく、1〜4molがより好ましく、2〜4molがさらにより好ましい。塩基の配合量が1mol未満であると、反応の進行によって発生するハロゲン化水素を中和できない傾向があり、一方、塩基の配合量が4molを超えると、未反応の塩基が廃棄物として大量に発生し生成物からの分離が困難となる傾向がある。
【0086】
本発明の製造方法において、反応系中に水が少量含まれていても、反応が進行し、化合物(3)を製造することができる。また、反応系中は、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。不活性ガスとしては、アルゴン、窒素、ヘリウム等が挙げられる。
【0087】
有機溶媒としては、メシチレン、キシレン、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、n-オクタン、n-デカン等の無極性溶媒、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPともいう)、N,N−ジメチルホルムアミド、THF、ジオキサン、塩化メチレン等の極性溶媒が挙げられるが、これらの中で、化合物(3)の収率が向上するという点において、極性溶媒であることが好ましく、具体的には、NMPが特に好ましい。
【0088】
反応温度は、100〜200℃程度であることが好ましく、130〜170℃程度であることがより好ましい。
【0089】
反応時間は、特に制限されるものではないが、4〜72時間程度が好ましく、18〜24程度がより好ましい。反応時間が4時間未満であると、出発物質である化合物(1)及び(2)の大部分が未反応のままとなる等の傾向があり、反応時間が72時間を超えると、反応系の効率が低下する傾向がある。
【0090】
本発明の製造方法により、式(3a):
【0091】
【化13】

(式(3a)中、n及びR、R、R及びRは式(1a)と同じであって、Bは式(2)と同じである)
又は、式(3b):
【0092】
【化14】

(式(3b)中、n及びRは式(1a)と同じであり、R、R及びRは式(1b)と同じであって、Bは式(2)と同じである)
で表される化合物(3)が製造される。
【0093】
本発明で用いられるRu触媒は、金属酸化物に担持された不均一系の触媒であるため、本発明の製造方法は、固相−液相プロセスにおいて行われる。そのため、例えば、本発明の金属酸化物に担持されたRu触媒をカラム等に詰め、出発物質等を流して、化合物(3)を得るといった連続的に反応を行う方法や、溶液中に分散させて反応後にろ過や傾斜法によって触媒と生成物を分離する方法等に応用することが可能である。
【発明の効果】
【0094】
本発明によると、不均一系触媒である金属酸化物担持Ru触媒を用いた反応系において、高収率のアリール誘導体を製造することができる。また、本発明の製造方法で使用されるRu触媒は、金属酸化物に担持された不均一系触媒であるため、空気や水分に対して安定であり、取り扱いに特別な処置を要しない。また、従来用いられている均一系触媒を用いた製造と比較して、本願発明の製造方法によって製造される化合物(3)は、残存する触媒量が非常に少なく、残存する触媒量を除去する工程を大幅に削減することができる。
【0095】
さらに、不均一系触媒は、分離回収が容易であるため、再利用することができると予想されるため、本発明の製造方法は、低コスト化において期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0096】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0097】
合成例1-1(酸化セリウム担持Ru触媒(以下、Ru/CeO2ともいう)の調製)
(i)CeO2の調製
硝酸セリウム6水和物12.6 gを水400 mLに溶解させ、28%アンモニア水溶液を40 mL加えて2時間攪拌させて沈殿物を得た。得られた沈殿物をイオン交換水で洗浄し、80 ℃で一終夜乾燥させたのち、空気中400 ℃にて30分間焼成しCeO2とした。
(ii)Ru/CeO2の調製
Ru3(CO)12(Strem社製)を2 質量%の担持量となるようにテトラヒドロフラン(以下、THFともいう)約10 cm3に溶かし、1.0 gのCeO2を加え室温にて含浸し、蒸発乾固させ、空気中で400 ℃にて30分焼成してRu/CeO2とした。
【0098】
実施例1〜3
磁気回転子を入れた20 cm3のPyrex製反応容器に、合成例1-1で調製した2.0質量% Ru/CeO2触媒(Ruとして0.025 mmol)を加え、アルゴン(以下、Arともいう)置換後、反応式(A)及び表1に示す量のトリフェニルホスフィン(以下、PPh3ともいう)、K2CO3、ベンゾ[h]キノリン(1)、ハロゲン化ベンゼン(2)及び溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPともいう)を加え、Ar雰囲気下、表1に示す反応温度で18時間反応を行い、反応式(A)に示す芳香族C-H結合が位置選択的にアリール化された化合物(3)を合成した。なお、Ar雰囲気下で反応を行う際に、反応容器にArを充填したゴムバルーンを装着させた。得られた化合物(3)の定性、定量は、NMR(日本電子製のEX400)、GC-MS (島津製作所製のQP2010)及びGC(GLサイエンス社製のGC353)を用いた。
【0099】
実施例1〜3の反応式を反応式(A)に示し、実施例1〜3によって得られた化合物(3)の収率を表1に示す。
【0100】
実施例4〜7
ハロゲン化ベンゼン(2)としてクロロベンゼンを用い、反応温度を170 ℃とし、ベンゾ[h]キノリン(1)、クロロベンゼン、及びK2CO3の配合量を表1に示す量とした以外は、実施例1と同様の方法にて化合物(3)を合成した。
【0101】
実施例4〜7の反応式を反応式(A)に示し、実施例4〜7によって得られた化合物(3)の収率を表1に示す。
【0102】
【化15】

【0103】
【表1】

(結果と考察)
表1より、実施例1の化合物(2)としてヨードベンゼンを用いた場合において、化合物(3)が定量的に得られたことがわかる。また、実施例2及び3より、反応温度を170℃とし、ハロゲン化ベンゼン(2)としてブロモベンゼンおよびクロロベンゼンを基質として用いたところ、それぞれ定量的及び83%と高収率で化合物(3)が得られた。化合物(2)としてクロロベンゼンを用いた反応について、PPh3の配合量の影響を検討した結果、実施例5より、0.050 mmolを配合した場合に99%と高収率で化合物(3)が得られた。また、実施例4より、PPh3を配合しない場合においても反応は進行し、化合物(3)が収率58%で得られた。
【0104】
これまでに本反応に有効な均一系Ru錯体触媒の多くが含塩素配位子を有するものであることが報告されている。またRu/CeO2やRu/ZrO2等の金属担持Ru触媒が有効であることを見出してきた以前の反応においても、触媒調製時のRu源をRu3(CO)12からRuCl3nH2Oに変えることによって反応効率が変化すること、この場合触媒焼成後も触媒表面にCl原子が残存していることを見出している。こうした背景から触媒前駆体の効果を実施例8〜20において検討した。
【0105】
合成例1-2〜1-4(Ru/CeO2の調製)
Ru3(CO)12に代えて、[RuCl2(CO)3]2(Strem社製)(合成例1-2)、テトラクロロビス(p−シメン)二ルテニウム(以下、[RuCl2(p-cymene)]2ともいう)(Aldrich社製)(合成例1-3)及びRuCl3nH2O((株)フルヤ金属製)(合成例1-4)をそれぞれ用いた以外は、合成例1-1と同様の方法にて各Ru/CeO2を調製した。
【0106】
合成例1-5(Ru/CeO2の調製)
合成例1-4で用いたRuCl3nH2Oを使用し、Ruとして2質量%の担持量になるようにメタノール約10 cm3に溶かし、1.0 gのCeO2を加え50 ℃ホットプレート上で含浸し、蒸発乾固させた以外は、合成例1-1と同様の方法にてRu/CeO2を調製した。
【0107】
合成例1-6(Ru/CeO2の調製)
合成例1-3で用いた[RuCl2(p-cymene)]2を使用し、Ruとして2質量%の担持量になるようにメタノール約10 cm3に溶かし、1.0 gのCeO2を加え50 ℃ホットプレート上で含浸し、蒸発乾固させた以外は、合成例1-1と同様の方法にてRu/CeO2を調製した。
【0108】
合成例1-7(Ru/CeO2の調製)
Ru3(CO)12に代えて、(シクロオクタジエン)(シクロオクタトリエン)ルテニウム(0)錯体(以下、Ru(cod)(cot)ともいう)を用いた以外は、合成例1-1と同様の方法にてRu/CeO2を調製した。
【0109】
合成例2-1(Ru/ZrO2の調製)
(i)ZrO2の調製
オキシ硝酸ジルコニウム2水和物10.85 gを水400 mLに溶解させ、28%アンモニア水溶液を50 mL加えて2 h攪拌させた。沈殿をイオン交換水で洗浄し、80 ℃で一終夜乾燥させたのち、空気中500 ℃にて30分間焼成しZrO2とした。
(ii)Ru/CeO2の調製
RuCl3nH2OをRuとして2質量%の担持量になるようにメタノール約10 cm3に溶かし、1.0 gのZrO2を加え50 ℃ホットプレート上で含浸し、蒸発乾固させ、空気中400 ℃にて30分焼成してRu/ZrO2とした。
【0110】
合成例2-2(Ru/ZrO2の調製)
RuCl3nH2Oに代えて、[RuCl2(CO)3]2(Strem社製)を用いた以外は、合成例2-1と同様の方法にてRu/ZrO2を調製した。
【0111】
合成例2-3〜2-4(Ru/ZrO2の調製)
RuCl3nH2Oに代えて、Ru3(CO)12(合成例2-3)、Ru(cod)(cot) (合成例2-4)をそれぞれ用い、各Ru前駆体を2質量%の担持量になるようにTHF約10 cm3に溶かし、1.0 gのZrO2を加え室温にて含浸し、蒸発乾固させた以外は、合成例2-1と同様の方法にてRu/ZrO2を調製した。
【0112】
実施例8〜20
表2に示す、合成例1-1〜1-7及び合成例2-1〜2-4によって合成されたRu/CeO2又はRu/ZrO2を用い、ハロゲン化ベンゼン(2)としてクロロベンゼンを用い、反応温度を170 ℃とし、ベンゾ[h]キノリン(1)、クロロベンゼン、及びK2CO3の配合量を表2に示す量とした以外は、実施例1と同様の方法にて化合物(3)を合成した。
【0113】
実施例8〜20の反応式を反応式(B)に示し、実施例8〜20で用いたRu/CeO2又はRu/ZrO2を合成する際に用いたRu前駆体、及び実施例8〜20によって得られた化合物(3)の収率を表2に示す。
【0114】
【化16】

【0115】
【表2】

(結果と考察)
合成例1-4で用いたRuCl3nH2Oと合成例1-3で用いた[RuCl2(p-cymene)]2はTHFに溶解しにくかったため、Ru前駆体のTHF中での分散状態が[RuCl2(CO)3]2を用いた場合に比べ低くなり、触媒能が低下した可能性がある。そこで、これら二つの前駆体が可溶であるメタノールを分散媒とする含浸担時したRu触媒(合成例1-5)及び(合成例1-6)によって、改めて触媒調製を行った。また併せて塩素原子を持たない多様なRu前駆体を用いた触媒調製を行い、評価を行った。表2に示すとおり、検討した触媒の中では、RuCl3nH2Oを前駆体として調製したRu/CeO2、Ru/ZrO2のいずれも特に有効であり、90%に迫る最も高い収率で化合物(3)を与えた(実施例12及び17)。
【0116】
以上表2より、触媒前駆体によって生成物の収率が変化し、特にCl原子を含む前駆体を用いることで高い触媒活性が安定して示されることがわかる。
【0117】
合成例2-5(Ru/ZrO2の調製)
RuCl3nH2Oに代えて、[RuCl2(CO)3]2(Strem社製)を用い、Ru前駆体を2質量%の担持量になるようにTHF約10 cm3に溶かし、1.0 gのZrO2を加え室温にて含浸し、蒸発乾固させた以外は、合成例2-1と同様の方法にてRu/ZrO2を調製した。
【0118】
実施例21〜33
表3に示す、Ru/CeO2又はRu/ZrO2(各Ru触媒は合成例1-2及び2-5によって合成)を用い、ハロゲン化ベンゼン(2)としてクロロベンゼンを用い、反応温度を170 ℃とし、ベンゾ[h]キノリン(1)、クロロベンゼン、及び塩基の配合量を表3に示す量とした以外は、実施例1と同様の方法にて化合物(3)を合成した。
【0119】
実施例21〜33の反応式を反応式(C)に示し、実施例21〜33によって得られた化合物(3)の収率を表3に示す。
【0120】
【化17】

【0121】
【表3】

(結果と考察)
実施例27、29及び30より、Ru/ZrO2を用いた場合で、塩基として炭酸カリウム、フッ化カリウム又は酢酸カリウムを用いた場合、高い収率で化合物(3)が得られるということがわかる。また、実施例21、23及び31〜33より、Ru/CeO2を用いた場合で、カリウム塩を用いた場合、化合物(3)が高い収率で得られるということがわかる。
【0122】
実施例34〜39
表4に示す、Ru/CeO2又はRu/ZrO2(各Ru触媒は合成例1-5及び2-1によって合成)を用い、ハロゲン化ベンゼン(2)としてクロロベンゼンを用い、表4に示す反応温度とし、ベンゾ[h]キノリン(1)、クロロベンゼン、及びK2CO3の配合量を反応式(D)に示す量とした以外は、実施例1と同様の方法にて化合物(3)を合成した。
【0123】
実施例34〜39の反応式を反応式(D)に示し、実施例34〜39によって得られた化合物(3)の収率を表4に示す。
【0124】
【化18】

【0125】
【表4】

(結果と考察)
表4より、RuCl3nH2Oを前駆体としてメタノール溶液から調製したRu触媒を用いた場合についても同様に、塩基としてカリウム塩を用いた場合、化合物(3)が高い収率で得られることがわかる。また、実施例38及び39より、Ru/CeO2を用いた場合、反応温度を160℃、150℃に下げた場合においても、化合物(3)が得られることがわかる。
【0126】
実施例40〜47
表5に示す、Ru/CeO2又はRu/ZrO2(各Ru触媒は合成例1-2及び2-5によって合成)を用い、ハロゲン化ベンゼン(2)としてクロロベンゼンを用い、ベンゾ[h]キノリン(1)、クロロベンゼン、及びK2CO3の配合量を表5に示す量とした以外は、実施例1と同様の方法にて化合物(3)を合成した。
【0127】
実施例40〜47の反応式を反応式(E)に示し、実施例40〜47によって得られた化合物(3)の収率を表5に示す。
【0128】
比較例1
表5に示す、Ru触媒として[RuCl2(CO)3]2(均一系触媒)を用いた以外は、実施例40と同様の方法にて化合物(3)を合成した。
【0129】
比較例1の反応式を反応式(E)に示し、比較例1によって得られた化合物(3)の収率を表5に示す。
【0130】
【化19】

【0131】
【表5】

(結果と考察)
実施例42及び43より、クロロベンゼンの配合量を1.2等量、1.5等量と少なくした場合においても化合物(3)が得られるが、特に、実施例40及び41のように、化合物(1)を0.50 mmol、化合物(2)のクロロベンゼンを1.0 mmol用いた場合には、Ru/CeO2、Ru/ZrO2を触媒としたいずれの系においてもそれぞれ77%、70%と高い収率で化合物(3)が得られた。また、さらに、実施例40及び41と実施例44及び45をそれぞれ比較すると、ブロモベンゼンの代わりにクロロベンゼンを用いた方が、化合物(3)の収率が向上することがわかる。
【0132】
実施例46及び47より、溶媒量を固定し、基質、触媒をそれぞれ2倍量に増やして反応を検討したところ、Ru/CeO2、Ru/ZrO2共に高い収率(84%、87%)で化合物(3)が得られた。
【0133】
一方、比較例1のように、触媒前駆体である[RuCl2(CO)3]2を均一系触媒として用いたところ、本反応には全く活性を示さなかった。
【0134】
実施例48及び49
表6に示す、Ru/CeO2又はRu/ZrO2(各Ru触媒は合成例1-5及び2-1によって合成)を用い、ハロゲン化ベンゼン(2)としてクロロベンゼンを用い、ベンゾ[h]キノリン(1)、クロロベンゼン、及びK2CO3の配合量を表6に示す量とした以外は、実施例1と同様の方法にて化合物(3)を合成した。
【0135】
実施例48及び49の反応式を反応式(F)に示し、実施例48及び49によって得られた化合物(3)の収率を表6に示す。
【0136】
合成例3-1〜3-5(Ru触媒(Ru/HfO2、Ru/SiO2、Ru/TiO2、Ru/Al2O3及びRu/MgO)の調製)
Ru前駆体として合成例1-5で用いたRuCl3nH2Oを用い、CeO2に代えて金属酸化物HfO2(和光純薬)(合成例3-1)、SiO2(cabosil)(合成例3-2)、TiO2(P-25)(合成例3-3)、Al2O3(ALO-8)(合成例3-4)及びMgO(Wako)(合成例3-5)をそれぞれ用いた以外は、合成例1-5と同様の方法にてRu触媒を調製した。
【0137】
実施例50
Ru触媒として合成例3-1で調製したRu触媒を用い、反応温度を170 ℃とした以外は、実施例1と同様の方法にて化合物(3)を合成した。その結果、痕跡量の化合物(3)が得られた。
【0138】
比較例2〜5
Ru触媒として合成例3-2〜3-5で調製したRu触媒を用いた以外は、実施例48と同様の方法にて化合物(3)を合成した。
【0139】
比較例2〜5の反応式を反応式(F)に示し、比較例2〜5によって得られた化合物(3)の収率を表6に示す。
【0140】
【化20】

【0141】
【表6】

(結果と考察)
表6において、本反応に有効性を示したのは、Ru触媒としてRu/CeO2及びRu/ZrO2を用いた系の二つのみであり、CeO2及びZrO2の担体とRu種から特異的な活性種が得られるものと推察される。
【0142】
実施例51〜63
化合物(2)であるAr−Clとして式(G2)に示すものとした以外は、反応式(G1)に示すRu/ZrO2(合成例2-2によって合成)を用い、化合物(1)、化合物(2)、K2CO3、及びNMPの量、並びに反応温度及び反応時間を反応式(G1)に示すものとした以外は、実施例1と同様の方法にて化合物(3)を合成した。なお、実施例63においてはRu触媒として合成例2−1によって合成したRu/ZrO2触媒を用い、0.10 mmolのトリフェニルホスフィンを添加した以外は、実施例51と同様の方法にて化合物(3)を合成した。
【0143】
得られた化合物(3)について、GCMS分析におけるピーク強度から以下の評価を行った。一部については化合物(3)を単離・精製して単離収率を算出した。
【0144】
○:収率が50%以上である。
【0145】
▲:化合物(3)の生成量は少ないが、GCMSでピークは確認でき、化合物(3)が生成していることが確認できた。
【0146】
Trace:化合物(3)の生成量は極めて少ないが、GCMSでピークは確認でき、化合物(3)が生成していることが確認できた。
【0147】
評価結果を式(G2)に示す。
【0148】
【化21】

【0149】
【化22】

実施例64〜74
化合物(2)であるAr−Clとして式(H2)に示すものとした以外は、反応式(H1)に示す、Ru/ZrO2(合成例2-2によって合成)を用い、化合物(1)、化合物(2)、K2CO3、及びNMPの量、並びに反応温度及び反応時間を反応式(H1)に示すものとした以外は、実施例1と同様の方法にて化合物(3)を合成した。
【0150】
得られた化合物(3)について、実施例51〜63において測定したGCMS分析と同様の方法にて評価を行った。一部については化合物(3)を単離・精製して単離収率を算出した。
【0151】
評価結果を式(H2)に示す。
【0152】
【化23】

【0153】
【化24】

(結果と考察)
実施例51〜74より、化合物(1)及び(2)について、多様なものが、基質として適応できることが確認できた。また、実施例63より、合成例2−2によって合成したRu/ZrO2触媒を用いた場合には化合物(3)の生成量がTraceであった基質に対して、合成例2−2によって合成したRu/ZrO2触媒を用い、0.10 mmolのトリフェニルホスフィンを添加することで大幅に収率が向上することが示された。
【0154】
これまで報告されている[RuCl2(p-cymene)]2+4PPh3のようなシンプルな触媒系ではpyridine誘導体をdirecting groupに用いた場合はアセチル基やメトキシ基を持つようなハロアレーンはあまり適さない等、基質適応範囲が狭い傾向が見られている(Oi, S.; Fukita, S.; Hirata, N.; Watanuki, N.; Miyano, S.;Inoue, Y. Org. Lett. 2001, 3, 2579)。一方、GCMSによる分析によると実施例51〜74では、いずれも化合物(3)が選択的に得られており、基質に応じた反応条件および触媒の最適化によって良好な収率で目的生成物が得られるものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1a):
【化1】

(式(1a)中、nは1〜3の整数であり;
は、水素原子であり;
は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、又はハロゲン原子であり;
は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、若しくはハロゲン原子によって置換されていてもよい炭素原子、又は
及びRが、ヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合したハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、及びハロゲン原子よりなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有していてもよい5〜10員の不飽和複素環若しくは芳香環であり;
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、又は
及びRが、結合する窒素原子と、他のヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合したハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基及びハロゲン原子よりなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有していてもよい5〜10員の不飽和複素環であり;
nが2以上の場合、同じであっても異なっていてもよい)
又は式(1b):
【化2】

(式(1b)中、R1、R及びnは式(1a)と同じであり;
は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、又はハロゲン原子、
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基若しくはハロゲン原子によって置換されていてもよい炭素原子、又は
及びRが、ヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合したハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、及びハロゲン原子よりなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有していてもよい5〜10員の不飽和複素環若しくは芳香環であり;
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、又は
及びRが、結合する窒素原子と、他のヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合したハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基及びハロゲン原子よりなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有していてもよい5〜10員の不飽和複素環である)
で表される化合物(1)と、
式(2):A−X
(式(2)中、Xはハロゲン原子であり;
Aは、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基及びハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基によって置換されていてもよいヘテロ原子を有していてもよい芳香環である)
で表される化合物(2)を、
酸化セリウム、酸化ジルコニウム及び酸化ハフニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物又は複合酸化物に担持したルテニウム触媒の存在下で反応させることを特徴とする、
式(3a):
【化3】

(式(3a)中、n、R、R、R及びRは式(1a)と同じであって、Bは式(2)と同じである)
又は、式(3b):
【化4】

(式(3b)中、n及びRは式(1a)と同じであり、R、R及びRは式(1b)と同じであって、Bは式(2)と同じである)
で表される化合物(3)の製造方法。
【請求項2】
化合物(2)の配合量が、化合物(1)1molに対して、0.1〜10 molである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
金属酸化物に担持したルテニウム触媒の配合量が、化合物(1)1molに対して、触媒中のルテニウムの量が0.001〜0.2 molとなるように配合する請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
更に塩基及び/又はハロゲン化金属を配合する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
塩基及び/又はハロゲン化金属の配合量が、化合物(1)1molに対して、1〜10molである請求項4記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−184881(P2010−184881A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29136(P2009−29136)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】