説明

不織布製品

【課題】リサイクルが容易な不織布製品を提供する。
【解決手段】不織布製品は、少なくとも表面部分が不織布2から成る不織布製品であって、該不織布2の表面上に印刷インク層14を設け、該印刷インク層14と前記不織布との間に高い温水溶解性を有する高分子域13を介在させる。また不織布製品のリサイクル方法は、使用済みの前記不織布製品を回収する工程と、回収された不織布製品を温水に浸漬し、その際、前記高分子域13の温水への溶解により、前記印刷インク層14を前記ポリオレフィン不織布より取り除く浸漬工程と、次いで、印刷インク層14が取り除かれた使用済みの不織布製品を原料として、新たに不織布製品を再生産する再生工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクルするための不織布製品、より詳しくは、その表面に印刷が施されたものであって、その印刷インクの分離除去が容易であり、不織布製品のリサイクル化が促進されるように改良された不織布製品に関する。
【背景技術】
【0002】
以前より、資源の有効利用という観点から、再生紙が使用されてきた。再生紙は、一般に新聞紙、雑誌等の印刷古紙から、それに含まれるインクが抜かれた脱墨パルプを製造し、この脱墨パルプ単独又は脱墨パルプを他のパルプと混合したものを原料として抄紙することにより、製造されている。再生紙の製造には脱墨の工程が必要不可欠であり、バージンパルプだけで作った紙よりも割高になるが、脱墨技術の確立により紙の再生リサイクル化が達成されており、斯かる再生紙の活用により資源の有効利用が促進されている。しかしながら、合成樹脂等のシート、フィルムの表面に印刷がなされている製品について、その印刷インクを取り除く技術は未だ十分に確立されているとはいえない。
【0003】
また、塗料の除去に関して、特許文献1には、固定治具、マスク治具等の塗装用治具類に付着した塗料を剥離させて洗浄する洗浄方法に用いるための剥離洗浄剤に水溶性高分子を含ませておくという方法が記載されており、該剥離洗浄剤に含まれる水溶性高分子としてポリビニルアルコールが挙げられている。しかし、この文献は、シート、フィルム表面上の印刷インクの除去のための水溶性高分子の適用を示唆していない。
【0004】
一方、現在、顧客がスーパー等の小売店で購入した商品を持ち帰る手段として、無料で配布される樹脂フィルム製の買物袋が主に使用されている。そして中でも広く利用されているのは、低密度ポリエチレンの薄いフィルムを溶着して袋状に製造された買物袋である。しかしながら、この種の買物袋は伸び耐性が低く、重い商品を詰めて提げると、樹脂フィルムがたやすく延伸して該買物袋が裂けたり変形したりしてしまい、このため該樹脂フィルム製買物袋は多くの場合使い捨てで使用されている。
樹脂フィルム製の買物袋は石油を原料として製造されるものであるので、その使い捨ては、貴重な石油資源の浪費に繋がる。また、樹脂フィルム製買物袋には一般に種々の添加剤が配合されるため、これを焼却により処分すると、例えばCO2等の有害なガスの発生
源となる。二酸化炭素は、温室効果ガスとも呼ばれ、地球温暖化の原因となることが知られている。従って、樹脂フィルム製買物袋の使い捨てという使用態様は環境保全・資源節約の観点より非常に好ましくない。
そこで、本発明者は、この課題を考慮し、本願より以前に主にポリエステル樹脂製の不織布を同じポリエステル樹脂製の糸で袋状に縫製して製造したところの回収・再生産(リサイクル化)が可能な買物袋を提案している(特許文献2)。
【特許文献1】特開2006−206791号公報
【特許文献2】特開2003−137304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に、小売店で配布される買物袋には、各小売店独自のロゴマーク等が印刷される。ロゴマークは小売店ごとに識別する機能、宣伝広告する機能を果たすことから、小売店としては再利用を目的とした上記の不織布製買物袋にもロゴマーク等を印刷することを望んでいる。
しかしながら、従来の不織布からなる買物袋にロゴマークなどを印刷した場合、買物袋の基材となる不織布を再生するためにそれら印刷インクを取り除く必要があるが、その技
術が未だ開発提案されていない。ゆえに、不織布からなる買物袋において、ロゴマーク等を印刷しても回収された買物袋から新たな買物袋への再生産が容易でありリサイクルが促進される新たな買物袋を提供する必要があった。
最近、買物袋だけでなく、私服、スーツカバー等の他の不織布製品についても同様の要望が生まれてきている。
すなわち、印刷された不織布製品から未印刷の新たな不織布製品への再生産を容易にし、リサイクル化を促すところの不織布製品のリサイクル方法を提供するという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者等は鋭意検討を行った結果、不織布の表面上に印刷インク層を有する不織布製品において、該印刷インク層と該不織布との間に高い温水溶解性を有する高分子域を介在させることによって、該不織布製品を温水に浸漬するだけで、印刷インク層を不織布より容易に分離除去することができ、よって印刷された不織布製品のリサイクル化促進が期待されることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の(1)ないし(13)に記載される不織布製品及び該不織布製品のリサイクル方法に関する。
(1)少なくとも表面部分が不織布から成る不織布製品であって、該不織布の表面上に印刷インク層を設け、該印刷インク層と前記不織布との間に高い温水溶解性を有する高分子域を介在させてなることを特徴とする不織布製品。
(2)袋、衣服又はスーツカバーである前記(1)に記載の不織布製品。
(3)前記袋は、線状に閉じて伸びる底辺部を有する袋下部と、内側に折り畳まれてマチを有する左右の袋側部と、折り重ねられた幅広の取手部を一対で形成する袋上部とを備えてなる買物袋であることを特徴とする、前記(2)に記載の不織布製品。
(4)前記不織布は、ポリプロピレン不織布、ポリエステル不織布又はアクリル樹脂不織布である、前記(1)ないし(3)のうちいずれか一項に記載の不織布製品。
(5)前記高分子域は、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、又は、それら各々と他の高分子とのポリマーブレンドからなることを特徴とする、前記(1)ないし(4)のうちいずれか一項に記載の不織布製品。
(6)前記高分子域は、20℃の水100gに対して10g未満そして60℃の水100gに対して60g以上の溶解度を有する高分子からなることを特徴とする、前記(1)ないし(4)のうちいずれか一項に記載の不織布製品。
(7)前記高分子域は、ポリビニルアルコールから形成されてなる、前記(1)ないし(5)のうちいずれか一項に記載の不織布製品。
(8)前記ポリビニルアルコールは、95モル%以上のけん化度を有することを特徴とする、前記(7)に記載の不織布製品。
(9)前記ポリビニルアルコールは、20℃の水100gに対して10g未満そして60℃の水100gに対して60g以上の溶解度を有する高分子からなることを特徴とする、前記(7)又は(8)に記載の不織布製品。
(10)前記高分子域は、該高分子の層が前記ポリオレフィン不織布の表面上に形成されてなる、前記(4)ないし(9)のうちいずれか一項に記載の不織布製品。
(11)前記高分子域は、該高分子が前記ポリオレフィン不織布内に含浸して形成されてなる、前記(4)ないし(9)のうちいずれか一項に記載の不織布製品。
(12)使用済みの前記(1)ないし(11)のうちいずれか一項に記載の不織布製品を回収する工程と、
回収された不織布製品を温水に浸漬し、その際、前記高分子域の温水への溶解により、前記印刷インク層を前記不織布製品の不織布からなる表面部分より取り除く浸漬工程と、
次いで、印刷インク層が取り除かれた使用済みの不織布製品を原料として、新たに不織布製品を再生産する再生工程とを含むことを特徴とする、不織布製品のリサイクル方法。(13)前記浸漬工程において、温水に浸漬された不織布製品に振動を加えることを特徴
とする、前記(12)に記載の不織布製品のリサイクル方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、不織布製品に印刷を施しても印刷インク層と不織布との間に高い温水溶解性を有する高分子域を介在させることで、該高分子域の温水への溶解により、前記印刷インク層を前記不織布より容易に取り除くことができる不織布製品提供される。
また本発明の不織布製品は、再生が容易な不織布で構成されているため、使用済みの不織布製品を回収し、前記印刷インク層を前記不織布より取り除くことにより、該印刷インク層が取り除かれた使用済みの不織布製品を原料として、新たに不織布製品を再生産することができる。従って、本発明により、印刷された不織布製品について、回収、再生産、そして再使用という循環を作るためのリサイクル方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の不織布製品は、少なくとも表面部分が不織布から成るものである。本願明細書における“不織布製品”としては、例えば、衣服(手術着、実験着、防護服)、防護用品(作業手袋、防煙マスク、防じんマスク、防毒マスク)、医療用品(キャップ、マスク、シーツ類、抗菌マット)、収納用(収納袋、スーツカバー、防虫カバー)、包装資材、袋物(乾燥剤袋、買物袋)、生活雑貨(カレンダー、滑り止めシート、アイマスク、ブックカバー、防臭シート)、テーブルトップ(テーブルクロス、ランチョンマット、コースター)、事務用品(封筒)、手芸用品、アイロンマット、OA機器(フロッピー(登録商標)ディスクライナー、CD/DVDケース)などが挙げられる。なかでも、本発明の不織布製品として好ましいものは、回収しリサイクル化し易い、袋(特に買物袋)、衣服又はスーツカバーである。
また、本発明の不織布製品の具体例として、線状に閉じて伸びる底辺部を有する袋下部、内側に折り畳まれてマチを有する左右の袋側部及び折り重ねられた幅広の取手部を一対で形成する袋上部を備えてなる買物袋が挙げられる。
また、本発明の不織布製品には、リサイクルの容易さ、強度、成形性等の面から、素材としてポリプロピレン不織布、ポリエステル不織布又はアクリル樹脂不織布が使用される。なかでも、再生が容易なポリプロピレン不織布が好ましい素材である。
また、本発明の不織布製品が買物袋である場合、該買物袋に用いられる不織布は軽量であり、しかもコンパクトに折り畳むこと、並びに折畳み後に再展開して元の形状に戻すことも容易であるので、該買物袋は携帯にも大変適している。また、該買物袋は、好ましくは全体が同一の不織布からなるため、分解分別する必要がないので、そのまま再生工程に送ることができ、ゆえに該買物袋のリサイクル化は非常に容易である。
また、本発明の不織布製品は少なくとも表面部分が不織布から成るものであって、該不織布の表面上に印刷インク層を設け、該印刷インク層と前記不織布との間に高い温水溶解性を有する高分子域を介在させてなるものである。
【0009】
また、本発明に用いられる前記不織布は、無着色のもの、又は慣用の不織布染色技術、例えばビーム染色、液流染色、ディッピングなどの染色法によって染色したものを用いることができる。染色した不織布によって製造された本発明の買物袋をリサイクルにより再利用する場合、色別に分別回収し、各々再生することによって、回収された袋材料を脱色することなくそれより新たな買物袋を再生産することができる。
前記高分子域は、高い温水溶解性を有する高分子からなるものであり、例えばポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、又は、それら各々と他の高分子とのポリマーブレンドからなる。前記変性ポリビニルアルコールの例として、カチオン変性ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコールなどポリビニルアルコールの各種誘導体が挙げられる。またポリマーブレンドにおいてボリビニルアルコール又は変性ポリビニルアルコールと混合される他の高分子としては、ポリビニルアセタール、セルロース系ポリマー〔メチルセルロース(MC)、エチルセルロ
ース(EC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等〕、キチン類、キトサン類、デンプン;エーテル結合を有するポリマーであるポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル(PVE);アミド基またはアミド結合を有するポリマーであるポリアクリルアミド(PAAM)、ポリビニルピロリドン(PVP)、並びに、解離性基としてカルボキシル基を有する、ポリアクリル酸塩、マレイン酸樹脂、アルギン酸塩、ゼラチン類などのような水溶性高分子が挙げられる。ポリマーブレンドとしてポリビニルアルコール又は変性ポリビニルアルコールを使用する場合、ポリマーブレンド全質量に占めるポリビニルアルコール又は変性ポリビニルアルコールの量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上が更に好ましい。
前記高分子域がポリビニルアルコール単独からなるものが好ましい。本発明において使用されるポリビニルアルコール等の高分子域は、本発明の買物袋が雨に濡れても印刷インク層の溶解分離によって変化しないものであることが求められる観点から低温の水には溶解せず、一方ポリビニルアルコール等の高分子域が不織布表面から容易に分離されるようにするためにポリビニルアルコール等が60℃以上の温水に接触(浸漬)したときには、容易に溶解してしまう性質を有するものであることが求められる。従って、それら要求を満たすところのポリビニルアルコール等としては、95モル%以上のけん化度を有するものが好ましく、98モル%以上のけん化度を有するものがさらに好ましい。またポリビニルアルコール等の溶解度は、20℃の水100gに対して10g未満、及び60℃の水100gに対して60g以上であることが好ましい。
また、前記高分子域は、例えばフィルムの形態にある高い温水溶解性を有する高分子を前記不織布の表面に熱融着により積層することによって、該高分子の層が該不織布の表面上に形成される。あるいは、前記高分子域は、例えば前記不織布の表面に前記高分子を塗付又は噴き付けることによって、該高分子が該不織布内に含浸して形成される。不織布の表面に高分子を積層する場合、該不織布と印刷インク層との間に十分な厚みを有する高分子域が形成されるので、該不織布から該印刷インク層を分離するときに容易に分離することができる。一方、不織布内に高分子を含浸する場合、該不織布における該高分子の密着性が高くなるので、見た目にも綺麗に仕上がる。
また前記不織布製品は、その使用用途などによって該不織布製品の表面上に印刷が施される。本発明の不織布製品が買物袋である場合、各小売店独自のロゴマーク等が印刷される。小売店ごとに識別する機能、宣伝広告する機能を果たすロゴマークは、上述したような方法によって形成された高分子域を介して前記不織布の表面上に印刷される。印刷方法は、従来、不織布の印刷に採用される方法であれば特に制限はなく、凸版印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写印刷等いずれも採用可能である。なかでも、厚さ、大小、平面、曲面を問わず印刷が可能なことからシルクスクリーン印刷が好ましい。前記買物袋に印刷する場合、該印刷は前記買物袋の製造過程においてどの段階で行われてもよいが、不織布から買物袋を成形する際、その成形途中ではなく、買物袋に成形される前の不織布又は買い物袋に成形された後の不織布に対して行うことが好ましい。
本発明の不織布製品において、不織布と印刷インク層との間に高い温水溶解性を有する高分子域を介在させることにより、該不織布製品を一定温度以上の温水に浸漬することで、前記高分子域が温水中に溶解し、前記印刷インク層を前記不織布の表面から容易に分離することができる。このとき温水に浸漬された不織布製品に振動、特に超音波振動を加えることによって更により一層印刷インク層が不織布から剥がれ易くなる。また、分離された前記印刷インク層を構成する印刷インクは一般に水不溶性であり、温水であっても溶解しないので、容易に温水から印刷インク層のみを取り除くことができる。また、本発明の不織布製品から印刷インク層を分離する際、有機溶剤などを使用せず水だけを使用するので、作業者の健康面への影響、更には土壌汚染等の環境への影響もない。
さらに本発明の不織布製品のリサイクル方法は、不織布製品を回収する回収工程と、印刷インク層を不織布より取り除く浸漬工程と、新たに不織布製品を再生産する再生工程と
を含むものである。回収工程では、本発明の不織布製品が複数回使用された後、使用済みの不織布製品として回収される。浸漬工程では上述した方法により印刷インク層が不織布から取り除かれる。また再生工程では、印刷インク層が取り除かれた使用済みの不織布製品を原料として、新たに不織布製品が再生産される。
【0010】
ここで、前記買物袋それ自体の成形法を述べると、例えば、細長い長方形の不織布を用意し、その長辺に直交する方向で該長方形を二分する折り目に沿って折り畳み、そして該折り目を含む不織布の一部を切除して耳部、取手部及び封止片を形成し、次に前記長方形の長辺であった辺に沿って該不織布をヒートシールして袋側部を作成し、シールした袋側部を内側に折り返し、取手及び封止片に対向する短辺に沿って袋本体と同材質の糸でミシン縫製、或いはヒートシールして袋の底部を作成し、そして得られた袋を折り返すことにより本発明の買物袋が成形される。
また、例えば、別の方法としては、細長い長方形の不織布を用意し、その長辺に直交する方向で該長方形を二分する折り目に沿って折り畳み、そして該折り目に対向する不織布の両端部を重ねてヒートシールし、さらにシールした端縁を含む不織布の一部を切除して耳部、取手及び封止片を形成し、次に前記長方形の長辺であった辺に沿って該不織布をヒートシールして袋側部を作成し、シールした該袋側部を内側に折り返し、そして得られた不織布を裏返して、取手及び封止片に対向する辺に沿って袋本体と同材質の糸でミシン縫製、或いはヒートシールして袋の底部を作成することにより買物袋が成形される。
買物袋は、上記以外の異なる方法によっても成形することができる。
【0011】
また、本発明の好ましい態様の買物袋はその左右の袋側部は各々、長手方向に伸びる繋ぎ目にて2つの側部分をヒートシールしてなるものであって、更に該ヒートシール部位の上端において、前記袋側部の上縁より上方に延出する耳部を備えてもよい。従来の買物袋はその中に大きな嵩張る商品や多くの商品を入れると、買物袋は膨らみ、その結果、該買物袋にはその幅方向に拡がる力が加わり、その力は該買物袋の袋側部の繋ぎ目上端に集中して加わる。該買物袋の袋側部は糸で縫い合わされていることから幅方向に拡げようとする力が働いたとき、その力の集中する袋側部の繋ぎ目、すなわち縫い目の部分から袋が裂ける、破ける等の問題を生じる。これに対して、前記買物袋に前記袋側部の上縁より上方に延出する耳部を設けることによって、幅方向に拡げようとする力が作用したとき、その応力が袋側部の繋ぎ目上端に集中せず、袋側部の上縁に広域にわたって該応力を分散することができる。該耳部は、不織布の一部を切除することによって形成される、すなわち買物袋と一体に設けられる。また、該耳部の上縁を湾曲した凸曲線状に形成し、且つ、該耳部の側縁から前記袋側部の上縁までの部位を湾曲した凹曲線状に形成することにより、袋側部にかかる応力をその上縁部位により広域にわたって及ぼすようにしてさらに緩和することができる。
また、本発明の別の好ましい態様の買物袋は袋上部の全体又は少なくとも取手部を含む一部が、該買物袋のその他の部分の厚さと比較して1.1倍以上の厚さを有するものしてもよく、そうすることでより一層、商品の重量に耐えるに十分な引張強さ及び引裂強さを与えることができる。さらに十分高い強度を与えるためには、該買物袋における前記袋上部の全体又は少なくとも前記取手部を含む一部が、該買物袋のその他の部分の厚さと比較して1.8倍ないし3.0倍の厚さを有することが好ましい。また前記買物袋において厚肉となる部分を設ける場合、該厚肉部分は不織布を二層にするなど複数の層を重ねることで厚肉としたものではなく、単一層からなるものである。よって、二層重ねの構成と比較して、強度の著しい改良がみられる。さらに、買物袋の長さ方向に関して前記厚肉部分の長さが、袋全長の1/5ないし1/3であることが好ましい。
以下、本発明について実施例を挙げて詳述するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0012】
[実施例1]
以下に図面を参照して本発明をより詳細に説明する。図1は本発明の一実施例の買物袋を図示する斜視図であり、そして図3の(a)ないし(f)は、図1の買物袋の成形過程の一例を図示する模式図である。
【0013】
本実施例の買物袋1は、ポリプロピレン不織布2をヒートシールにより袋状にシールしてなる。買物袋1は例えば、図3の(a)ないし(f)に図示するように製造される。尚、図3の(a)ないし(f)において、厚肉部3は図示されていない。図3に図示する方法では、まず長辺方向の中央部が両端部に比して厚肉部3となる細長い長方形の不織布2を用意し、その長辺に直交する方向で該長方形を二分する折り目に沿って折り畳む(図3(b)参照)。そして折り畳んだ不織布2の折り目を含む一部(図3(b)において斜線で示す部分)を切除して、耳部4、取手部5及び封止片6を形成する。次に、長方形の長辺であった辺に沿って不織布2をヒートシールし(図中、7はヒートシール部を示す)、買物袋1の側部を形成する(図3(c)参照)。そして、取手部5を二重の不織布2から構成するために、また完成した不織布買物袋1にマチを設けるために、ヒートシールした不織布2の両側を内側に折り返し(例えば、図3(c)の線X及び線X’に沿って)、取手部5及び封止片6に対向する辺に沿って不織布2をヒートシールして(図中、7はヒートシール部を示す)買物袋1を成形する。次に買物袋1を裏返し、買物袋1の外表面となる不織布2表面にポリビニルアルコールフィルム13を重ね合わせ、熱溶着により不織布2とポリビニルアルコールフィルム13を貼りあわせる。さらにその上からシルクスクリーン印刷をすることによって印刷インク層14が形成され、本発明の買物袋1を製造することができる(図2参照)。このポリビニルアルコールフィルムは、20℃の水100g
には約2gしか溶解しないが、60℃の温水に対しては約80gも易溶解するものである。
【0014】
このようにして作られた本発明の買物袋1は、図1に示すように、耳部4の上縁が湾曲した凸曲線状に形成され、且つ、耳部4の側縁から袋側部11の上縁までの部位が湾曲した凹曲線状に形成されている。また買物袋1は、図1に示すように、線状に閉じて伸びる底辺部8を有する袋下部9と、内側に折り畳まれてマチ10を有する左右の袋側部11と、折り重ねられた幅広の取手部5を一対で形成する袋上部12とを備えてなるものである。袋上部12の取手部5を含む買物袋1の厚肉部3は、買物袋1のその他の部分の厚さと比較して2.0倍の厚さを有する単一層の厚肉不織布からなる。さらに、買物袋1の長さ方向に関して厚肉部3の長さは、袋全長の1/3である。
従って、買物袋1は、沢山の商品や重い商品を入れても袋側部の繋ぎ目から袋が裂けたり、破けたりせず、耳部の無い従来の不織布買物袋と比べて、袋内に詰める内容物の荷重限度、並びに許容体積が著しく向上することができ、ゆえに本発明の買物袋1は、重い商品や嵩張る商品を入れ繰り返し使用しても、通常10回以上繰り返して使用することができる。また、ポリオレフィン製の不織布2は軽量であり、しかもコンパクトに折り畳むこと、並びに折り畳み後に再展開して元の形状に戻すことも容易であるので、本発明の買物袋1は携帯にも大変適している。
【0015】
また、買物袋1を65℃に保たれた温水槽に入れ、超音波による振動を与えながら約3分間浸漬したところ、買物袋1の表面から印刷インク層14を分離することができた。前記温水槽から印刷インク層14が分離された買物袋を取り出し、分離した印刷インクは水よりも比重が大きいことから該温水槽の底に沈んだ。沈んだ印刷インクを該温水槽から取り出した。
このように、買物袋1は、ポリオレフィン不織布2の表面に印刷を施しても、ポリオレフィン不織布2と印刷インク層14との間に高分子域としてポリビニルアルコール13を介在させることによって、印刷インク層14を容易に分離することができた。
さらに、印刷インク層が取り除かれた買物袋を原料として不織布を再生しそして袋形成
することにより、新たな買物袋を再生産することができた。
従って、買物袋1は図4に示されるようなリサイクル方法によりリサイクル化することができた。
【0016】
[実施例2]
図5の(イ)は本発明の一実施例に係る手術着を示す正面図、(ロ)は背面図である。
本実施例の手術着15は、図5の(イ)(ロ)に示すようにポリプロピレン不織布2からなり、前身頃16、後身頃17及び袖18から構成され、さらに前身頃の胸元部分にポケット19が縫合されてなるものである。本実施例は半袖を示しているが、七分袖や長袖でもよい。
次に、生地の裁断及び縫製方法について説明する。前身頃16、後身頃17及び袖18の型紙に沿って、ポリプロピレン不織布2からなる生地を裁断した。このようにして生地を裁断した後、まず前身頃16にポケット19を縫合し、次に前身頃16と後身頃17とを両側の肩部縫合線20、20及び両側下部縫合線21、21に沿って縫合した。縫合に使用する糸は、前記生地の原料と同じポリプロピレンからなるものを使用した。縫合手順は、上記順序を変えて実施してもよい。そして、首回りに適宜の襟生地22を縫着した。このようにして作られた手術着15の外表面となる不織布2表面にポリビニルアルコールフィルム13を重ね合わせ、熱溶着により不織布2とポリビニルアルコールフィルム13を貼りあわせる。さらにその上からシルクスクリーン印刷をすることによって印刷インク層14が形成され、本発明の手術着15を製造することができる(図6参照)。ここで使用したポリビニルアルコールフィルムは、実施例1と同様のものである。
また、このようにして作られた手術着15を60℃に保たれた温水槽に入れ、超音波による振動を与えながら約3分間浸漬したところ、手術着15の表面から印刷インク層14を分離することができた。前記温水槽から印刷インク層14が分離された買物袋を取り出し、分離した印刷インクは水よりも比重が大きいことから該温水槽の底に沈んだ。沈んだ印刷インクを該温水槽から取り出した。
このように、手術着15は、ポリオレフィン不織布2の表面に印刷を施しても、ポリオレフィン不織布2と印刷インク層14との間に高分子域としてポリビニルアルコール13を介在させることによって、印刷インク層14を容易に分離することができた。
さらに、印刷インク層が取り除かれた手術着15を原料として不織布を再生しそして手術着を形成することにより、新たな手術着を再生産することができた。
従って、手術着15は図4に示されるようなリサイクル方法によりリサイクル化することができた。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明の不織布製品の使用は、古くなった不織布製品を回収し、そしてそれを新たな不織布製品に再生し、再利用することからなる。このような循環システムを確立することと、資源を浪費することなく、また焼却処分も要しないので炭酸ガスの発生もなく、従って、本発明の不織布製品のリサイクル使用は、環境保全・資源節約の観点から非常に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の一実施例の買物袋を図示する斜視図である。
【図2】図2は、図1の買物袋の印刷層を含むA−A’断面の拡大図である。
【図3】図3(a)ないし(f)は、本発明の一実施例の買物袋の製造過程を図示する模式図である。
【図4】図4は、本発明の買物袋のリサイクル方法を示した図である。
【図5】図5(イ)は本発明の一実施例の手術着を示す正面図、(ロ)は背面図である。
【図6】図6は、図5の手術着の印刷層を含むX−X’断面の拡大図である。
【符号の説明】
【0019】
1 買物袋
2 不織布
3 厚手部
4 耳部
5 取手部
6 封止片
7 ヒートシール部
8 底辺部
9 袋下部
10 マチ
11 袋側部
12 袋上部
13 ポリビニルアルコール
14 印刷インク層
15 手術着
16 前身頃
17 後身頃
18 袖
19 ポケット
20 肩部縫合線
21 両側下部縫合線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面部分が不織布から成る不織布製品であって、該不織布の表面上に印刷インク層を設け、該印刷インク層と前記不織布との間に高い温水溶解性を有する高分子域を介在させてなることを特徴とする不織布製品。
【請求項2】
袋、衣服又はスーツカバーである請求項1に記載の不織布製品。
【請求項3】
前記袋は、線状に閉じて伸びる底辺部を有する袋下部と、内側に折り畳まれてマチを有する左右の袋側部と、折り重ねられた幅広の取手部を一対で形成する袋上部とを備えてなる買物袋であることを特徴とする、請求項2に記載の不織布製品。
【請求項4】
前記不織布は、ポリプロピレン不織布、ポリエステル不織布又はアクリル樹脂不織布である、請求項1ないし請求項3のうちいずれか一項に記載の不織布製品。
【請求項5】
前記高分子域は、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、又は、それら各々と他の高分子とのポリマーブレンドからなることを特徴とする、請求項1ないし請求項4のうちいずれか一項に記載の不織布製品。
【請求項6】
前記高分子域は、20℃の水100gに対して10g未満そして60℃の水100gに対して60g以上の溶解度を有する高分子からなることを特徴とする、請求項1ないし請求項4のうちいずれか一項に記載の不織布製品。
【請求項7】
前記高分子域は、ポリビニルアルコールから形成されてなる、請求項1ないし請求項5のうちいずれか一項に記載の不織布製品。
【請求項8】
前記ポリビニルアルコールは、95モル%以上のけん化度を有することを特徴とする、請求項7に記載の不織布製品。
【請求項9】
前記ポリビニルアルコールは、20℃の水100gに対して10g未満そして60℃の水100gに対して60g以上の溶解度を有する高分子からなることを特徴とする、請求項7又は請求項8に記載の不織布製品。
【請求項10】
前記高分子域は、該高分子の層が前記ポリオレフィン不織布の表面上に形成されてなる、請求項4ないし請求項9のうちいずれか一項に記載の不織布製品。
【請求項11】
前記高分子域は、該高分子が前記ポリオレフィン不織布内に含浸して形成されてなる、請求項4ないし請求項9のうちいずれか一項に記載の不織布製品。
【請求項12】
使用済みの請求項1ないし請求項11のうちいずれか一項に記載の不織布製品を回収する工程と、
回収された不織布製品を温水に浸漬し、その際、前記高分子域の温水への溶解により、前記印刷インク層を前記不織布製品の不織布からなる表面部分より取り除く浸漬工程と、
次いで、印刷インク層が取り除かれた使用済みの不織布製品を原料として、新たに不織布製品を再生産する再生工程とを含むことを特徴とする、不織布製品のリサイクル方法。
【請求項13】
前記浸漬工程において、温水に浸漬された不織布製品に振動を加えることを特徴とする、請求項12に記載の不織布製品のリサイクル方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−279781(P2009−279781A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131849(P2008−131849)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(598110219)株式会社アクシス (24)
【Fターム(参考)】