説明

両軸受リール

【課題】ローラ型のワンウェイクラッチの滑り始めの限界値を安定して得ることができ、かつワンウェイクラッチの最大回転抵抗力を充分に発揮できるようにする。
【解決手段】両軸受リールは、リール本体1と、スプール12と、回転伝達機構19と、ドラグ機構23と、ローラ型の第1ワンウェイクラッチ86と、圧入リング54と、を備えている。回転伝達機構19は、ハンドル軸30とメインギア31とピニオンギア32とを有する。ドラグ機構23は、ハンドル軸30の周囲に配置されている。ローラ型の第1ワンウェイクラッチ86は、リール本体1の第1ボス部7cとハンドル軸30との間に配置されている。圧入リング54は、径方向に突出し周方向に間隔を隔てて配置された複数の突起部54bを有する。圧入リング54は、第1ボス部7cと第1ワンウェイクラッチ86との間に所定の力で圧入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両軸受リール、特に、リール本体とハンドル軸との間にローラ型のワンウェイクラッチを有する両軸受リールに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、両軸受リールには、ドラグ機構を作動させるためのローラ型のワンウェイクラッチがハンドル軸に装着されている(例えば、特許文献1参照)。従来のワンウェイクラッチは、リール本体とハンドル軸との間に配置されており、ハンドル軸の逆転を禁止している。また、ローラ側のワンウェイクラッチと別に爪式のワンウェイクラッチが設けられ、ハンドル軸の逆転を防止している。従来のローラ型のワンウェイクラッチは、所定の限界トルクを超えるまではハンドル軸の逆転を阻止し、所定の限界トルクを超えると逆転を許容する。これにより、ローラ型のワンウェイクラッチの損傷を防止している。従来のローラ型のワンウェイクラッチでは、内輪遊転型であり、内輪の外周面の仕上げ精度により限界トルクを、ドラグ機構に最大ドラグ力が作用した場合の最大ドラグトルクよりも小さくなるように調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3325754号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の構成では、内輪の外周面の仕上げ精度により滑り始めの限界トルクを設定している。このため、ワンウェイクラッチの寸法のばらつき、及び温度変化によるグリースの粘性変化等の要因により限界トルクが変動するおそれがある。
【0005】
また、前記従来の構成では最大ドラグトルクよりも小さく設定された所定の限界トルクを超えるまでは回転を阻止し、回転力が限界トルクを超えれば回転を許容するように設定されている。このため、ワンウェイクラッチの最大回転抵抗トルクが十分に発揮されない。
【0006】
本発明の課題は、ローラ型のワンウェイクラッチを有する両軸受リールにおいて、ワンウェイクラッチの滑り始めの限界トルクを安定して得ることができ、かつワンウェイクラッチの最大回転抵抗トルクを充分に発揮できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明1に係る両軸受リールは、ハンドルが側方に配置されたリール本体と、スプールと、回転伝達機構と、ドラグ機構と、ローラ型の第1ワンウェイクラッチと、圧入リングと、を備えている。スプールは、リール本体に対して回転自在にある。回転伝達機構は、ハンドル軸とメインギアとピニオンギアとを有している。ハンドル軸は、ハンドルが装着されたものである。メインギアは、ハンドル軸に設けられたものである。ピニオンギアは、スプールの回転軸に装着されメインギアに噛み合う。ドラグ機構は、ハンドル軸の周囲に配置されている。ローラ型の第1ワンウェイクラッチは、リール本体とハンドル軸との間に配置されている。圧入リングは、径方向に突出し周方向に間隔を隔てて配置された複数の突起部を有する。圧入リングは、リール本体及びハンドル軸のいずれかと第1ワンウェイクラッチの間に、ドラグ機構の最大ドラグトルク以上第1ワンウェイクラッチの最大回転抵抗トルク未満の範囲の限界トルクの力がハンドル軸に作用したとき、第1ワンウェイクラッチが回転し始めるように圧入されている。
【0008】
この両軸受リールでは、リール本体と第1ワンウェイクラッチ又は第1ワンウェイクラッチとハンドル軸との間に圧入リングが配置されている。圧入リングは、第1ワンウェイクラッチの外周側又は内周側に限界トルクのトルクが作用したときに第1ワンウェイクラッチが滑り始めるように圧入されている。このため、リール本体又はハンドル軸の圧入面の精度を一定に維持するだけで、圧入リングに限界トルクのトルクが作用すると第1ワンウェイクラッチを精度良く滑らせることができる。この結果、第1ワンウェイクラッチの滑り始めの限界トルクを安定して得ることができるようになる。しかも、ドラグ機構の最大ドラグトルクより大きく第1ワンウェイクラッチの最大回転抵抗トルク未満の範囲の限界トルクで滑り始めるので、第1ワンウェイクラッチの最大回転抵抗トルクを充分に発揮できるようになる。
【0009】
発明2に係る両軸受リールは、発明に1に記載のリールにおいて、圧入リングは、リール本体と第1ワンウェイクラッチの間に配置されている。この場合には、直径が大きい第1ワンウェイクラッチの外輪側が滑ることになるため、内輪遊転型の場合、カム面が形成され破損しやすい外輪を保護することができる。しかも、外輪は内輪に比べて直径が大きいため、滑り始めの限界トルクを大きくすることができる。
【0010】
発明3に係る両軸受リールは、発明2に記載のリールにおいて、第1ワンウェイクラッチは、外輪と、内輪と、転動体と、を有している。外輪は、リール本体に回転不能に連結される。内輪は、ハンドル軸にドラグ機構を介して一体回転可能に連結される。転動体は、外輪と内輪との間に配置されている。圧入リングは、外輪とリール本体との間に配置されている。
【0011】
発明4に係る両軸受リールは、発明1から3のいずれかに記載のリールにおいて、圧入リングは、周方向の一箇所にスリットを有する。この場合には、圧入リングにスリットを設けているので、圧入リングに対する寸法の許容量が大きくなる。
【0012】
発明5に係る両軸受リールは、発明1から4のいずれかに記載のリールにおいて、圧入リングは、寸法誤差を吸収するためのトレランスリングである。この場合には、寸法誤差を吸収するための高精度に加工されたトレランスリングを圧入リングとして用いているため、安定した滑りトルクの限界トルクをより高精度に得られる。
【0013】
発明6に係る両軸受リールは、発明1から5のいずれかに記載のリールにおいて、リール本体の少なくとも第1ワンウェイクラッチが装着される部分は、アルミニウム合金製であり、第1ワンウェイクラッチのリール本体に装着される部分は、ステンレス合金製である。この場合には、リール本体より第1ワンウェイクラッチのほうが硬質であるため、圧入リングがリール本体側にくい込みやすくなり、第1ワンウェイクラッチが圧入リングに対して確実に滑るようになる。
【0014】
発明7に係る両軸受リールは、発明1から6のいずれかに記載のリールにおいて、ハンドル軸に一体回転可能に配置されたラチェットホイールと、ラチェット爪と、を有する爪式の第2ワンウェイクラッチをさらに備えている。ラチェット爪は、ラチェットホイールの糸繰り出し方向の回転を阻止するようにリール本体に揺動自在に支持されている。この場合には、第1ワンウェイクラッチがハンドル軸とともに糸繰り出し方向に滑り始めても、ラチェットホイールの歯部とラチェット爪との噛み合いによりハンドル軸の糸繰り出し方向の回転を停止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、圧入リングは、ワンウェイクラッチの外周側又は内周側に限界トルクのトルクが作用したときにワンウェイクラッチが滑り始めるように圧入されている。このため、リール本体又はハンドル軸の圧入面の精度を一定に維持するだけで容易に滑らせることができる。この結果、第1ワンウェイクラッチの滑り始めの限界トルクを安定して得ることができるようになる。しかも、ドラグ機構の最大ドラグトルクより大きく第1ワンウェイクラッチの最大回転抵抗トルク未満の範囲の限界トルクで滑り始めるので、第1ワンウェイクラッチの最大回転抵抗トルクを充分に発揮できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態による両軸受リールの側面図。
【図2】図1のII−II線断面図。
【図3】図2のドラグ機構部分の断面拡大図。
【図4】ドラグ機構を含む回転伝達機構の分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1及び図2において、本発明の一実施形態を採用した両軸受リールは、ベイトキャスト及びジギング等に用いられる丸形の両軸受リールである。両軸受リールは、リール本体1と、リール本体1の側方に配置されたスプール回転用のハンドル2と、リール本体1の内部に回転自在に装着されたスプール12とを備えている。
【0018】
なお、以降の説明で言う前後左右は、両軸受リールを釣り竿に装着された状態で釣り糸が繰り出される方向が前であり、両軸受リールを後方から見た状態で左右を表している。
【0019】
ハンドル2は、板状のアーム部2aと、アーム部2aの先端に回転自在に装着された把手2bとを有するシングルハンドル形のものである。アーム部2aは、図2に示すように、ハンドル軸30の先端に一体回転可能に装着されており、ナット28によりハンドル軸30に締結されている。
【0020】
リール本体1は、図2に示すように、例えばアルミニウム合金やマグネシウム合金などの金属製の部材であり、フレーム5と、フレーム5の両側方に装着された第1側カバー6及び第2側カバー7を有している。リール本体1の内部にスプール12がスプール軸20を介して回転自在に装着されている。フレーム5は、所定の間隔をあけて配置された左右1対のリング状の第1側板8及び第2側板9と、第1側板8及び第2側板9を連結する複数の連結部10と、を有している。第1側板8は、第2側板9より小径である。
【0021】
複数の連結部10は、第1側板8及び第2側板9と一体形成されている。図1に示すように、下側に形成された連結部10には、リールを釣り竿に装着するための前後に長い、例えばアルミニウム合金等の金属製の竿装着脚部4がリベット止めされている。
【0022】
第1側カバー6は、スプール軸方向外方から見て円形であり、第1側板8と一体形成されている。第1側カバー6は、後述するスプール軸20の左端を回転自在に支持する。
【0023】
第2側カバー7は、図1に示すように、円形部7aと円形部7aから外側及び径方向外方に突出する膨出部7bとで構成されている。膨出部7bは、側面視変形長円形状に形成されている。膨出部7bには、ハンドル軸30が支持される筒状の第1ボス部7cが形成されている。
【0024】
図2に示すように、第2側カバー7は、例えばアルミニウム合金製であり、ハンドル軸30を回転自在に支持する。第2側カバー7の後部には、クラッチレバー17が装着されている。第2側カバー7と第2側板9との間にはフレーム5を構成する機構装着板37が配置されている。
【0025】
図2に示すように、第2側カバー7と機構装着板37との間には、回転伝達機構19と、クラッチ機構21と、クラッチ制御機構22と、ドラグ機構23と、キャスティングコントロール機構24と、が配置されている。回転伝達機構19は、ハンドル2からの回転力をスプール12に伝える。クラッチ機構21は、ハンドル2とスプール12とを連結及び遮断する。クラッチ機構21をクラッチオフ状態(遮断状態)にするとスプール12が自由回転可能状態になる。クラッチ制御機構22は、クラッチヨーク35及び図示しないクラッチプレートを有し、クラッチレバー17の操作に応じてクラッチ機構21をクラッチオン状態(連結状態)とクラッチオフ状態とに制御する。ドラグ機構23は、スプール12の糸繰り出し方向の回転を制動する。キャスティングコントロール機構24は、スプール12の回転時の抵抗力を調整する。また、スプール12と第1側カバー6との間には、糸繰り出し方向のスプール12の回転をロック及びロック解除可能な図示しないスプールロック機構が設けられている。
【0026】
スプール12は、図2に示すように、両側部に皿状の左右一対のフランジ部12aを有しており、一対のフランジ部12aの間に筒状の糸巻胴部12bを有している。図2左側のフランジ部12aの外周面は、糸噛みを防止するために開口の内周側に僅かな隙間をあけて配置されている。スプール12は、糸巻胴部12bの内周側を貫通するスプール軸20にたとえばセレーション結合により回転不能に固定されている。この固定方法はセレーション結合に限定されず、キー結合やスプライン結合等の種々の結合方法を用いることができる。
【0027】
スプール軸20は、図2に示すように、たとえばSUS304等の金属製であり、ハンドル軸30と平行に配置されている。スプール軸20は、第2側板9を貫通して第2側カバー7の第2ボス部7fまで延びている。スプール軸20は、スプール12の両側で第1軸受26a及び第2軸受26bにより、リール本体1に回転自在に支持されている。スプール軸20の中心には、大径部20aが形成されており、大径部20aにはクラッチ機構21を構成する係合ピン29が固定されている。係合ピン29は、直径に沿って大径部20aを貫通しており、その両端が径方向に突出している。
【0028】
クラッチレバー17は、第2側カバー7の後部に揺動自在に装着されている。クラッチレバー17は、クラッチ制御機構22に連結されており、クラッチレバー17が揺動するとクラッチ機構21がクラッチオン及びクラッチオフする。
【0029】
回転伝達機構19は、図4に示すように、ハンドル軸30と、ハンドル軸30に固定されたメインギア31と、メインギア31に噛み合う筒状のピニオンギア32と、を有している。
【0030】
ハンドル軸30は、機構装着板37及び第2側カバー7に軸受15及び軸受16(図2)により回転自在に装着されている。ハンドル軸30には、図3に示すように、外周面に平行な切欠き面により構成された複数の回り止め部30aが形成されている。また、ハンドル2のアーム部2aを固定する第1雄ネジ部30bと、ドラグ機構23のドラグ力を調整するための第2雄ネジ部30cと、が外周面に形成されている。ハンドル軸30は、図4に示すように、ローラ型の第1ワンウェイクラッチ86及び爪式の第2ワンウェイクラッチ87により糸繰り出し方向の回転(逆転)が禁止されている。
【0031】
第1ワンウェイクラッチ86は、図3に示すように、第2側カバー7の第1ボス部7cとハンドル軸30との間に装着されている。第1ワンウェイクラッチ86は、第2側カバー7に外方に突出して装着された第1ボス部7cに回転不能に装着された外輪86aと、ハンドル軸30に回転不能に連結された内輪86bと、外輪86a及び内輪86bの間にくい込み可能な転動体86cと、を有している。外輪86aは、例えばステンレス合金製である。第1ボス部7cの内周面及び外輪86aの外周面は、従来のように回り止めのための係合部が周方向に間隔を隔てて配置されたものではなく両方とも単純な円形である。内輪86bの一端面には、軸方向に突出する一対の係止突起86dが形成されている。
【0032】
第1ワンウェイクラッチ86の外輪86aと第1ボス部7cとの間には、圧入リング54が圧入されている。圧入リング54は、図4に示すように、概ね筒状の部材であり、周方向の一箇所にスリット54aを有している。圧入リング54は、径方向に突出し、周方向に間隔を隔てて配置された複数の突起部54bを有している。突起部54bは、軸方向に長い長円形状であり、径方向外方に突出している。圧入リング54は、交差吸収用のトレランスリングを用いており、弾性力を利用して外輪86aを回り止めしている。ここで、外輪86aの外周面と第1ボス部7cの内周面の加工交差は、例えばH9/h9であればよい。圧入リング54は、第1ボス部7cの内周面と外輪86aの外周面との間の隙間に所定の力で圧入される。この圧入力は、ドラグ機構23の最大ドラグトルク以上第1ワンウェイクラッチ86の最大回転抵抗トルク未満の範囲の限界トルクの力がハンドル軸30に作用したとき第1ワンウェイクラッチ86が滑り始めるような力に設定される。圧入力は、第1ボス部7cの内径と圧入リング54の自由状態の外径との差によって定まる。
【0033】
本来、最大ドラグトルクが第1ワンウェイクラッチ86の最大回転抵抗トルクよりも小さければ、第1ワンウェイクラッチ86には最大回転抵抗トルク以上の力は作用しない。このため、第1ワンウェイクラッチ86は、破損することはないように考えられる。しかし、実際にはアワセ(フッキング)のように衝撃的な荷重が作用する際には、ドラグ機構23が動作する前に最大回転抵抗トルクを超える力が第1ワンウェイクラッチ86に作用する。このようなとき、本実施形態では、第1ワンウェイクラッチ86と圧入リング54との間ですべるため、第1ワンウェイクラッチ86が破損しにくくなる。
【0034】
第2ワンウェイクラッチ87は、図4に示すように、ハンドル軸30に一体回転可能に装着されたラチェットホイール88と、機構装着板37に揺動自在に装着されたラチェット爪89と、を有している。ラチェットホイール88は、図3に示すように、メインギア31の奥側にドラグディスク65dを挟んで配置されている。ラチェットホイール88は、外周に周方向に感覚を隔てて配置された複数のラチェット歯(図示せず)を有している。ラチェット爪89は、機構装着板37に突出して形成された図示しないボス軸に揺動自在に装着されている。ラチェット爪89は、ラチェットホイール88のラチェット歯に係合する逆転阻止位置とそれから離反する逆転許可位置とに揺動する。ラチェット爪89は、図示しない付勢部材により、ハンドル軸30が糸巻取方向に回転すると逆転許可位置に揺動し、糸繰り出し方向に回転すると逆転禁止位置に揺動する。
【0035】
メインギア31は、ハンドル軸30に回転自在に装着されており、ハンドル軸30とドラグ機構23を介して摩擦結合されている。メインギア31の右側面には、ドラグ機構23を収納するための円形の収納凹部31aが形成されている。収納凹部31aの内周面には、後述する第2ドラグ座金52の一対の耳部52aが一体回転可能に係合する一対の係合凹部31bが形成されている。
【0036】
ピニオンギア32は、図2に示すように第2側板9の外方から内方に延び、中心にスプール軸20が貫通する筒状部材であり、スプール軸20に軸方向に移動自在に装着されている。また、ピニオンギア32の図2左端側は、軸受18aにより機構装着板37に回転自在かつ軸方向移動自在に支持されている。ピニオンギア32の図2右端部は、第2ボス部7fに装着された軸受18bにより第2ボス部7fに回転自在に支持されている。ピニオンギア32の図2左端部には係合ピン29に噛み合う噛み合い溝32aが形成されている。この噛み合い溝32aと係合ピン29とによりクラッチ機構21が構成される。噛み合い溝32aの外周面に軸受18aが配置されている。噛み合い溝32aに隣接して小径のくびれ部32bが形成され、中間部にはメインギア31に噛み合うギア部32cが形成されている。
【0037】
クラッチ制御機構22は、図2に示すように、ピニオンギア32のくびれ部32bに係合してピニオンギア32をスプール軸20方向に沿って移動させるクラッチヨーク35を有している。クラッチレバー17のクラッチオン位置からクラッチオフ位置への揺動操作により、クラッチヨーク35を図2右方に移動させることにより係合ピン29の係合を解除してクラッチオフ状態にする。
【0038】
キャスティングコントロール機構24は、図2に示すようにスプール軸20の両端を挟むように配置された複数の摩擦プレート48と、摩擦プレート48によるスプール軸20の挟持力を調節するための制動キャップ49とを有している。左側の摩擦プレート48は、第1側カバー6の中心に装着されている。制動キャップ49は、第2側カバー7の第2ボス部7fの外周面に螺合している。
【0039】
<ドラグ機構の構成>
ドラグ機構23は、図2、図3及び図4に示すように、ドラグ調整用のスタードラグ3の操作位置に応じてドラグ力が変化し、スプール12の糸繰り出し方向の回転を調整可能に制動する。スタードラグ3は、ハンドル軸30の第2雄ネジ部30cに螺合するナット部3aを有している。
【0040】
ドラグ機構23は、ハンドル軸30の周囲に設けられている。ドラグ機構23は、スタードラグ3のナット部3aにより押圧される、図2に示す例えば2枚の皿バネ50と、図3及び図4に示す第1ドラグ座金51、第2ドラグ座金52、及び第3ドラグ座金53と、を備えている。皿バネ50は、スタードラグ3と軸受16との間に配置され、スタードラグ3の軸方向の移動により変化したバネ力を、軸受16及び第1ワンウェイクラッチ86の内輪86bを介して第1ドラグ座金51に伝達する。
【0041】
第1ドラグ座金51の内周面には、ハンドル軸30の回り止め部30aに係合する非円形の回り止め孔51aと、内輪86bの一対の係止突起86dが一体回転可能に連結される一対の連結凹部51bと、が形成されている。これにより、第1ドラグ座金51は、ハンドル軸30に一体回転可能に連結される。また、第1ドラグ座金51は、内輪86bに一体回転可能にかつ軸方向に接触して連結されている。この結果、内輪86bがハンドル軸30に対して一体回転可能になり、かつ内輪86bにより第1ドラグ座金51が押圧される。
【0042】
第2ドラグ座金52は、メインギア31に一体回転可能に連結される。第2ドラグ座金52は、左方に折れ曲がった一対の係止耳部52aを外周面に有している。この係止耳部52aがメインギア31の係合凹部31bに係合する。
【0043】
第3ドラグ座金53は、ハンドル軸30の回り止め部30aに係合する非円形の回り止め孔53aを内周面に有し、ハンドル軸30と一体回転可能である。したがって、ハンドル軸30が第1ワンウェイクラッチ86及び第2ワンウェイクラッチ87により逆転が禁止され回転できないため、第1ドラグ座金51及び第3ドラグ座金53は、メインギア31が糸繰り出し方向に回転しても糸繰り出し方向に回転しない。
【0044】
第1ドラグ座金51と第2ドラグ座金52との間、第2ドラグ座金52と第3ドラグ座金53の間、第3ドラグ座金53とメインギア31の間、及びメインギア31とラチェットホイール88の間には、例えばカーボン又はフェルト製のドラグディスク65a〜65dが各別に装着されている。
【0045】
ラチェットホイール88は、ドラグ機構23としても機能する。ラチェットホイール88は、ハンドル軸30の外周面に大径に形成された鍔部30dに接触して配置されている。この鍔部30dによりスタードラグ3の押圧力を受けている。
【0046】
<実釣時のリールの動作>
釣りを行うときは、まず、クラッチレバー17をクラッチオフ位置に操作し、クラッチ機構21をクラッチオフ状態にする。この状態でキャスティングを行い、釣り糸をスプール12から繰り出す。仕掛けが着水するとハンドル2を糸巻取方向に僅かに回転させる。すると、図示しないクラッチ戻し機構が動作してクラッチ機構21がクラッチオン状態に戻る。
【0047】
この状態に仕掛けに魚が掛かるのを待つ。仕掛けに魚が掛かると、釣り人はハンドル2を糸巻取方向に回転させて掛かった魚を取り込む。このとき、メインギア31は糸巻取方向(図3の時計回り)に回転する。
【0048】
この状態で、仕掛けにかかった魚が、設定されたドラグ力以上の力で釣り糸を引っ張るとドラグ機構23が動作する。すなわち、クラッチオン状態でスプール12が糸繰り出し方向に回転し、メインギア31が糸繰り出し方向(図4反時計回り)に逆転する。しかし、ハンドル軸30は第1ワンウェイクラッチ86及び第2ワンウェイクラッチ87により糸繰り出し方向の逆転が禁止されているため、メインギア31が設定されたドラグ力で制動されながら糸繰り出し方向に回転する。このドラグ作動開始時に、設定されたドラグ力より強い引きが発生すると、第2ワンウェイクラッチ87により逆転禁止が作用する前に第1ワンウェイクラッチ86の内輪86bに過大な力が作用することがある。この場合、所定の力で圧入された圧入リング54を外輪86aとリール本体1の第1ボス部7cとの間に配置したため、第1ワンウェイクラッチ86の滑り出す限界トルクのトルクにより僅かに小さい値で外輪86aを滑らすことが可能になる。第1ボス部7c第1ワンウェイクラッチ86の限界トルクより僅かに低い値で圧入リング54が外輪86aとの間で滑るように決定することにより、第1ワンウェイクラッチ86が圧入リング54と共に、安定して滑り出す。この結果、第1ワンウェイクラッチ86が損傷することなく、第2ワンウェイクラッチ87によりハンドル軸30の逆転が阻止される。
【0049】
<特徴>
上記実施形態は、下記のように表現可能である。
【0050】
(A)両軸受リールは、リール本体1と、スプール12と、回転伝達機構19と、ドラグ機構23と、ローラ型の第1ワンウェイクラッチ86と、圧入リング54と、を備えている。スプール12は、リール本体1に対して回転自在にある。回転伝達機構19は、ハンドル軸30とメインギア31とピニオンギア32とを有している。ハンドル軸30は、ハンドル2が装着されたものである。メインギア31は、ハンドル軸30に設けられたものである。ピニオンギア32は、スプール12の回転軸であるスプール軸20に装着されメインギア31に噛み合う。ドラグ機構23は、ハンドル軸30の周囲に配置されている。ローラ型の第1ワンウェイクラッチ86は、リール本体1の第1ボス部7cとハンドル軸30との間に配置されている。圧入リング54は、径方向に突出し周方向に間隔を隔てて配置された複数の突起部54bを有する。圧入リング54は、第1ボス部7cと第1ワンウェイクラッチ86との間にドラグ機構23の最大ドラグトルク以上第1ワンウェイクラッチ86の最大回転抵抗トルク未満の範囲の限界トルクの力がハンドル軸30に作用したとき第1ワンウェイクラッチ86が滑り始めるような力に設定される。
【0051】
この両軸受リールでは、リール本体1と第1ワンウェイクラッチ86との間(又はハンドル軸とワンウェイクラッチとの間)に圧入リング54が配置されている。圧入リング54は、第1ワンウェイクラッチ86の外周側(又は内周側)に、ドラグ機構の最大ドラグトルク以上第1ワンウェイクラッチの最大回転抵抗トルク未満の範囲の限界トルクの力がハンドル軸に作用したとき、第1ワンウェイクラッチが回転し始めるように圧入されている。このため、リール本体1(又はハンドル軸)の圧入面(第1ボス部7cの内周面(又はハンドル軸の外周面))の精度を一定に維持するだけで、圧入リング54に限界トルクのトルクが作用すると第1ワンウェイクラッチ86を精度良く滑らせることができる。このため、第1ワンウェイクラッチ86の滑り始めの限界トルクを安定して得ることができるようになる。しかも、ドラグ機構23の最大ドラグトルクより大きく第1ワンウェイクラッチ86の最大回転抵抗トルク未満の範囲の限界トルクで滑り始めるので、第1ワンウェイクラッチ86の最大回転抵抗トルクを充分に発揮できるようになる。
【0052】
(B)両軸受リールにおいて、圧入リング54は、リール本体1と第1ワンウェイクラッチ86の間に配置されている。この場合には、第1ワンウェイクラッチ86の直径が大きい外輪86a側で第1ワンウェイクラッチ86が滑ることになるため、内輪遊転型の場合、カム面が形成され破損しやすい外輪86aを保護することができる。しかも、外輪86aは内輪86bに比べて直径が大きいため、滑り始めの限界トルクを大きくすることができる。
【0053】
(C)両軸受リールにおいて、第1ワンウェイクラッチ86は、外輪86aと、内輪86bと、転動体86cと、を有している。外輪86aは、リール本体1に回転不能に連結される。内輪86bは、ハンドル軸30にドラグ機構23を介して一体回転可能に連結される。転動体86cは、外輪86aと内輪86bとの間に配置されている。圧入リング54は、外輪86aとリール本体1の第2側カバー7との間に配置されている。
【0054】
(D)両軸受リールにおいて、圧入リング54は、周方向の一箇所にスリット54aを有する。この場合には、圧入リング54にスリット54aを設けているので、圧入リング54に対する寸法の許容量が大きくなる。
【0055】
(E)両軸受リールリールにおいて、圧入リング54は、寸法誤差を吸収するためのトレランスリングである。この場合には、寸法誤差を吸収するための高精度に加工されたトレランスリングを圧入リングとして用いているため、安定した滑りトルクの限界トルクをより高精度に得られる。
【0056】
(F)両軸受リールにおいて、リール本体1の少なくとも第1ワンウェイクラッチが装着される第2側カバー7は、アルミニウム合金製であり、第1ワンウェイクラッチ86の第2側カバー7に装着される外輪86aは、ステンレス合金製である。この場合には、第2側カバー7より外輪56aのほうが硬質であるため、圧入リング54が第2側カバー7にくい込みやすくなり、第1ワンウェイクラッチ86が圧入リング54に対して確実に滑るようになる。
【0057】
(G)両軸受リールにおいて、ハンドル軸30に一体回転可能に配置されたラチェットホイール88と、ラチェット爪89と、を有する爪式の第2ワンウェイクラッチをさらに備える。ラチェット爪89は、ラチェットホイール88の糸繰り出し方向の回転を阻止するようにリール本体1の機構装着板37に揺動自在に支持されている。この場合には、第1ワンウェイクラッチ86がハンドル軸30とともに糸繰り出し方向に滑り始めても、ラチェットホイール88の歯部とラチェット爪89との噛み合いによりハンドル軸30の糸繰り出し方向の回転を停止できる。
【0058】
<他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0059】
(a)前記実施形態では、圧入リングがハンドル軸30の逆転を禁止するローラ型の第1ワンウェイクラッチの外輪とリール本体との間に配置されたが、本発明はこれに限定されない。例えば、ハンドル軸の逆転を禁止せずに手を離すとドラグ機構が作動するように設けられたローラ型の第1ワンウェイクラッチとリール本体の間に圧入リングを配置したものについても本発明を適用できる。
【0060】
(b)前記実施形態では、ローラ型の第1ワンウェイクラッチとリール本体との間に圧入リングを配置したが、ワンウェイクラッチとハンドル軸、具体的にはワンウェイクラッチの内輪とハンドル軸との間に圧入リングを配置してもよい。
【0061】
(c)前記実施形態では、突起部54bが径方向外方に突出していたが、突起部は、径方向内方に突出していてもよい。また、前記実施形態では、長円形に突出していたが、突出形状は長円形に限定されない。例えば、波形の凹凸であってもよいし、円周面の一部を切断して径方向外方又は内方に突出させてもよい。
【0062】
(d)前記実施形態では、ローラ型の第1ワンウェイクラッチ86に加えて爪式の第2ワンウェイクラッチ87を設けたが、第2ワンウェイクラッチを設けなくてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 リール本体
2 ハンドル
7 第2側カバー
7c 第1ボス部
12 スプール
19 回転伝達機構
23 ドラグ機構
30 ハンドル軸
31 メインギア
32 ピニオンギア
54 圧入リング
54a スリット
54b 突起部
86 第1ワンウェイクラッチ
86a 外輪
86b 内輪
86c 転動体
86d 係止突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルが側方に配置されたリール本体と、
前記リール本体に対して回転自在なスプールと、
前記ハンドルが装着されたハンドル軸と、前記ハンドル軸に設けられたメインギアと、前記スプールの回転軸に装着され前記メインギアに噛み合うピニオンギアと、を有する回転伝達機構と、
前記ハンドル軸の周囲に配置されたドラグ機構と、
前記リール本体と前記ハンドル軸との間に配置されたローラ型の第1ワンウェイクラッチと、
径方向に突出し周方向に間隔を隔てて配置された複数の突起部を有し、前記リール本体及び前記ハンドル軸のいずれかと前記第1ワンウェイクラッチの間に、前記ドラグ機構の最大ドラグ力以上前記第1ワンウェイクラッチの最大回転抵抗力未満の範囲の限界値の力が前記ハンドル軸に作用したとき、前記第1ワンウェイクラッチ全体が回転し始めるように圧入された圧入リングと、を備えた両軸受リール。
【請求項2】
前記圧入リングは、前記リール本体と前記第1ワンウェイクラッチの間に配置されている、請求項1に記載の両軸受リール。
【請求項3】
前記第1ワンウェイクラッチは、前記リール本体に回転不能に連結される外輪と、
前記ハンドル軸にドラグ機構を介して一体回転可能に連結される内輪と、
前記外輪と前記内輪との間に配置される転動体と、を有し、
前記圧入リングは、前記外輪と前記リール本体との間に配置されている、請求項2に記載の両軸受リール。
【請求項4】
前記圧入リングは、周方向の一箇所にスリットを有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の両軸受リール。
【請求項5】
前記圧入リングは、寸法誤差を吸収するためのトレランスリングである、請求項1から4のいずれか1項に記載の両軸受リール。
【請求項6】
前記リール本体の少なくとも前記第1ワンウェイクラッチが装着される部分は、アルミニウム合金製であり、
前記第1ワンウェイクラッチの前記リール本体に装着される部分は、ステンレス合金製である、請求項1から5のいずれか1項に記載の両軸受リール。
【請求項7】
前記ハンドル軸に一体回転可能に配置されたラチェットホイールと、前記ラチェットホイールの糸繰り出し方向の回転を阻止するように前記リール本体に揺動自在に支持されたラチェット爪と、を有する爪式の第2ワンウェイクラッチをさらに備える、請求項1から6のいずれか1項に記載の両軸受リール。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−44967(P2012−44967A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192508(P2010−192508)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】