説明

乗用型田植機

【課題】予備苗載置ユニットでマット状苗の移動を円滑に行わせ、後端位置に載置されるマット状苗の前方への移動を阻止する乗用型田植機を構成する。
【解決手段】3つの予備苗載台Caを前後方向に直線状に備え、マット状苗を収容した育苗箱を後方に円滑に送るためのローラRを予備苗載台Caに備えた。後端位置の予備苗載台CaのローラRが、育苗箱の前方への移動を阻止する方向への回転を阻止する一方向クラッチ43を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体の前部位置に、複数のマット状苗を前後方向に直線状に並べて載置可能な予備苗載置ユニットを備えている乗用型田植機に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成された乗用型田植機として特許文献1には、走行機体の前部位置に複数の苗受け板を備えており、この複数の苗受け板のうち中段の苗受け板の一方の端部に横向き姿勢の軸芯を中心にして揺動自在に上段の苗受け板を支持し、この中段の苗受け板の他方の端部に横向き姿勢の軸芯を中心にして揺動自在に下段の苗受け板を支持した予備苗載置ユニット(文献では、予備苗収容構造)が記載されている。
【0003】
この予備苗載置ユニットでは、夫々の苗受け板を棚状となるように上下方向に複数段に並べた第1形態と、中段の苗受け板に対して上段の苗受け板と下段の苗受け板とを揺動により展開させることにより複数の苗受け板を同じレベルで前後直列に並べた第2形態とに切換自在に構成されている。
【0004】
この特許文献1では、予備苗収容構造を第2形態に設定した場合には、複数の苗受け板が前後方向に並ぶため、例えば、走行機体の前端側を畦際に寄せて停車した状態でマット状苗を前端位置の苗受け板に送り込み、複数の苗受け板の上面を滑らせるように機体後方側に移動させ、後端位置から苗植付装置の苗載台に供給する作業も容易に行える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007‐135506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
予備苗載置ユニットにマット状苗を載置する場合には、マット状苗の取り扱い性を良くするため、育苗箱に収容された状態や、苗すくい板に載置した状態のマット状苗を載置することになる。従って、特許文献1に記載される田植機では複数の苗受け板の上面で育苗箱等を滑らせる形態で機体後方に移動させることになるため、この移動を円滑に行わせるために苗受け板の載置部(上面)に複数のローラを回転自在に備え、ローラコンベアのように円滑に育苗箱等を移動させる構成も考えられる。
【0007】
特許文献1の構成の田植機で植付作業を行う場合には、予備苗載置ユニットを第2形態に設定し、例えば、夫々の苗受け板に対して育苗箱に収容された状態のマット状苗を載置した状態で作業を行うこともある。このように作業を行う場合に、植付作業のために準備していたマット状苗の残り枚数が少なくなり、育苗箱に収容されたマット状苗が1つだけ予備苗載置ユニットに載置されることもある。
【0008】
このように載置部に育苗箱に収容されたマット状苗が1つだけ載置された状況において、走行機体が傾斜した場合や、走行機体が振動した場合には、マット状苗が前後方向に移動することになり、マット状苗を苗載台に供給する作業が行い難くなり改善の余地がある。また、運転座席の作業者が育苗箱に収容されたマット状苗を苗植付装置の苗載台に供給する場合には、板状の苗すくい板によりマット状苗をすくい取る作業形態となるが、この作業を行う際に、育苗箱に対して苗すくい板を後方から前方に向けて挿入した場合には、育苗箱が載置部で前方に移動することになり、育苗箱の位置が安定せず作業が行い難くなるものであった。
【0009】
本発明の目的は、載置部に載置される載置物の機体前方への移動を抑制して作業を行いやすくする乗用型田植機を合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の特徴は、走行機体の前部位置に、複数のマット状苗を前後方向に直線状に並べて載置可能な予備苗載置ユニットを備えている乗用型田植機であって、前記予備苗載置ユニットが、前記マット状苗、育苗箱、苗すくい板等の載置物を載置する載置部が形成され、この載置部の後部位置に、前記載置物の機体前方への移動を阻止する逆送阻止手段を備えている点にある。
【0011】
この構成によると、載置部の後部位置に載置物を載置した場合には、その載置物の機体前方への移動が、逆送阻止手段により阻止されることになり、走行機体が傾斜した場合や、作業者が手を触れた場合にも後部位置の載置物が機体前方に移動することはない。つまり、マット状苗を収容した育苗箱を載置部に載置し、育苗箱からマット状苗を苗すくい板ですくい取り苗載台に供給する作業を運転座席の位置から行う場合でも、後部位置の育苗箱が機体前方に移動せず、位置が決まるため容易にマット状苗をすくい取ることが可能となる。
その結果、載置部の後部位置に載置される載置物の機体前方への移動を抑制して作業を行いやすくする乗用型田植機が合理的に構成された。
【0012】
本発明は、前記逆送阻止手段が、前記載置部に載置される前記載置物のうち少なくとも最も後方の載置物に作用する状態に設けても良い。
【0013】
これによると、載置部の最も後方に載置した載置物の機体前方への移動を逆送阻止手段が阻止することになる。つまり、最も後方に配置されるものは、必ず逆送阻止手段により機体前方への移動が阻止され作業性を向上させる。
【0014】
本発明は、前記予備苗載置ユニットが、前記載置部に載置された前記載置物の下面に接触して回転することで前記載置物の移動を許容するように横向き姿勢の軸芯を中心にして回転自在に支持された複数のローラを備え、前記逆送阻止手段が、前記載置部の後部位置において前記載置物の機体後方への移動を許容すると共に、前記載置物の機体前方への移動を阻止するように前記ローラの回転を制限する一方向クラッチで構成されても良い。
【0015】
これによると、載置部の前部位置に載置された載置物に機体後方に向けて移動力を作用させた場合には、その載置物の移動がローラの回転により軽快に行われる。この移動により載置部の後部位置に載置物が達した後には、その載置物に前方へ移動させる力が作用した場合でも、一方向クラッチがローラの回転を阻止することになり、載置物を後部位置に保持できる。
【0016】
本発明は、前記予備苗載置ユニットが、複数の予備苗載台を前後方向に直線状に配置した構成を有すると共に、前記一方向クラッチが、後端位置の1つの前記予備苗載台に備えられた前記ローラの回転を制限するように備えられても良い。
【0017】
これによると、複数の予備苗載台を前後方向に配置することで予備苗載置ユニットが構成されるため、複数の載置物を載置できる大型の部材を用いなくとも、複数の予備苗載台を直線的に配置するだけで予備苗載置ユニットを構成できる。また、複数の予備苗載台のうち後部位置に配置される予備苗載台に備えられるローラの回転を制限するように一方向クラッチを備えることで、予備苗載置ユニットの後部位置に載置された載置物の機体前方への移動を阻止できる。
【0018】
本発明は、前記一方向クラッチにより回転が制限される前記ローラの外周面に、このローラの外周面に接触する前記載置物のスリップを抑制するスリップ抑制部を形成しても良い。
【0019】
これによると、一方向クラッチにより回転が制限されるローラの外周面に載置物が接触する状態において、この載置物を機体前方に移動させる力が作用した場合には、スリップ抑制部がローラの外周に接触した状態で前方に滑動する現象を抑制して、マット状苗の前方への移動を一層良好に阻止できる。
【0020】
本発明は、前記逆送阻止手段が、前記載置部に載置される前記載置物の機体後方への移動を許す許容姿勢と、前記載置物に当接することで機体前方への移動を阻止する当接姿勢とに切換自在なストッパーで構成されても良い。
【0021】
この構成によると、ストッパーが許容姿勢にある状態では載置物を後部位置に送り込むことが可能となり、ストッパーが当接姿勢にある状態では、後部位置の載置物が機体前方へ移動しようとする場合に、ストッパーが載置物に当接することで載置物の機体前方への移動を確実に阻止する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】乗用型田植機の全体の側面図である。
【図2】乗用型田植機の全体の平面図である。
【図3】予備苗載台を展開姿勢した状態の乗用型田植機の全体の側面図である。
【図4】予備苗載台を展開姿勢した状態の乗用型田植機の全体の平面図である。
【図5】重複姿勢にある予備苗載台の正面図である
【図6】予備苗載台の平面図である。
【図7】予備苗載台の縦断側面図である。
【図8】予備苗載台の脱落防止部材が取付られた部位の断面図である。
【図9】予備苗載台の脱落防止部材が取付られた部位の断面図である。
【図10】脱落防止部材の形状を示す斜視図である。
【図11】一方向クラッチを備えたローラを有する予備苗載台の縦断側面図である。
【図12】一方向クラッチを備えたローラを有する予備苗載台の縦断正面図である。
【図13】一方向クラッチを備えたローラの断面図である。
【図14】別実施形態(a)の逆送阻止手段を示す縦断正面図である。
【図15】別実施形態(a)の逆送阻止手段を示す縦断側面図である。
【図16】別実施形態(c)の逆送阻止手段を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔全体構成〕
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図4に示すように、左右一対の前車輪1と左右一対の後車輪2とを有した走行機体Aの中央に運転座席3を配置し、この走行機体Aの後端にリンク機構Lを介して苗植付装置Bを昇降自在に連結し、走行機体Aの前部位置の両側部に予備苗載置ユニットCを備えて乗用型田植機が構成されている。
【0024】
この乗用型田植機は、走行機体Aの前部のボンネット4の内部にエンジンEが配置され、このエンジンEの下方にエンジンEからの動力が伝えられるミッションケース5を備え、このミッションケース5から左右の前車輪1と左右の後車輪2とに伝える走行駆動系を備えると共に、走行機体Aの走行速度と同期した駆動力を外部出力軸6を介して苗植付装置Bに伝える作業伝動系を備えている。
【0025】
運転座席3の前方位置には、左右の前車輪1を操向操作(操舵)するステアリングホイール7が配置され、このステアリングホイール7の左側部に主変速レバー8が配置され、運転座席3の近傍には、苗植付装置Bの昇降とミッションケース5に内蔵した植付クラッチ(図示せず)の断続を行う昇降レバー9が配置されている。
【0026】
前記リンク機構Lは、複数のリンク部材11を有すると共に、油圧式の昇降シリンダ12を有しており、昇降シリンダ12の伸縮作動により苗植付装置Bを昇降させる。
【0027】
苗植付装置Bは、複数の整地フロート14と、マット状苗W(載置物の一例)を載置する苗載台15と、苗載台15に載置されたマット状苗Wから苗を切り出して圃場面に植え付けるように複数のロータリ式の植付機構16とを備えている。この構成から苗植付け作業時には、走行機体Aの走行に伴い複数の整地フロート14が苗植え付け箇所の泥面を整地する一方で、外部出力軸6から伝えられる駆動力により、苗載台15を左右方向に一定ストロークで往復作動させ、この往復作動時に苗載台15のマット状苗Wの下端から植付機構16が苗を所定量ずつ切り出して圃場に植え付ける植え付け作動が行われる。
【0028】
運転座席3の下方位置にステップ21が形成されると共に、ボンネット4の左右の両側部にはステップ21に連なり走行機体Aの前端位置に達する搭乗フロア22が形成されている。また、ステップ21と搭乗フロア22との外側に、これらと同じレベルとなる拡張ステップ23が備えられている。
【0029】
走行機体Aの前端位置には、走行機体Aの前端に前方へ張り出す突出位置と、走行機体Aの前端部に収納される収納位置とに切換自在に補助ステップ24が備えられている。この補助ステップ24は突出位置にセットすることで上面に作業者が足を掛けて、搭乗フロア22の乗り込みを容易にするものであり、この補助ステップ24に連結する伸縮フレーム24Aが走行機体Aの前部位置に対して出退自在に支持されることにより突出位置と収納位置とに切換自在となる。
【0030】
また、補助ステップ24の前端面24Sが、下側ほど後方に向かう傾斜姿勢に成形され、前端面24Sと水平面との成す角度θが、畦塗り機で畦を形成する際の形成角度と一致させている。前端面24Sは畦との接触により変形を抑制するため数ミリメートル程度の厚さの鋼板を用いているため、この補助ステップ24をバランスウエイトとして機能させ、走行機体Aの前後バランスを向上させている。このように角度θを設定することにより、走行機体Aが畦に接近して畦に接触することがあっても、畦の形を崩すことが殆どない作業を行える。
【0031】
〔予備苗載置ユニット〕
ボンネット4の外側で搭乗フロア22の両外側位置に縦向き姿勢となる支柱状フレーム25が備えられ、この支柱状フレーム25に4つの予備苗載台Caを備えて予備苗載置ユニットCが構成されている。4つの予備苗載台Caは、図1、図2、図5に示す如く、平面視で夫々が上下に重なり合う重複姿勢と、図3、図4に示す如く、下段の3つの予備苗載台Caが平面視で夫々が前後向きに直線状で前後に隣接する展開姿勢とに切換自在に構成されている。
【0032】
重複姿勢において、上下に並ぶ予備苗載台Caの上端のものを1段目と称し、これより下側のものを順次、2段目、3段目、4段目と称すると、展開姿勢では1段目と3段目との予備苗載台Caが支持部材を介して支柱状フレーム25に対し固定ブラケット26により固定状態で支持され、2段目と4段目との予備苗載台Caが着脱ブラケット27を介して支柱状フレーム25に対し着脱自在に備えられている。また、3段目の予備苗載台Caの前部位置に前部連結片28を備え、後部位置に後部連結片29を備えると共に、2段目の予備苗載台Caの後端位置に後部連結片29を備え、4断面の予備苗載台Caの前端位置に前部連結片28を備えている。
【0033】
前部連結片28と後部連結片29とは横向き姿勢のピン30を介し連結及び分離自在に構成され、予備苗載置ユニットCを展開姿勢に切り換える場合には、2段目の予備苗載台Caを支柱状フレーム25から取り外し、その後部連結片29を3段目の予備苗載台Caの前部連結片28に対してピン30により連結し、4段目の予備苗載台Caを支柱状フレーム25から取り外し、前部連結片28を3段目の予備苗載台Caの後部連結片29にピン30により連結する操作を行うことになる。
【0034】
図1、図3、図5に示すように、支柱状フレーム25にプッシュスイッチ型のエンジン停止スイッチ31を備えており、搭乗フロア22に搭乗する作業者が操作することにより、エンジンEの強制停止を行えるように構成されている。
【0035】
この実施形態では、予備苗載置ユニットCを重複姿勢と展開姿勢とに切換を実現するための構成として複数の予備苗載台Caを着脱自在に構成しているが、例えば、特許文献1に記載される構成のように横向姿勢の軸芯を中心にした揺動により、展開姿勢に切換えるように構成しても良い。この場合、重複姿勢では夫々の予備苗載台Caが重なり合う位置関係となるように構成しても良い。また、特開2009−240224号公報にも記載されるようにリンク機構等を介して複数の予備苗載台Caを取り外すことなく展開姿勢に切り換えるように構成されるものでも良い。
【0036】
4つの予備苗載台Caは共通する構造を有している。つまり、図6、図7に示すように、この予備苗載台Caは、マット状苗Wを収容した1つの育苗箱18(載置物の一例・図11、図12等を参照)や苗すくい板(図示せず)を余すことなく載置可能し得る幅及び長さとなるサイズの底壁33と、この底壁33の両側部において縦向き姿勢となる左右一対の側壁34とを樹脂材で一体形成した構造を有し、底壁33には水抜き用の多数の開口33Aが形成されている。これらマット状苗Wと、育苗箱18と、苗すくい板等が予備苗載台Caに載置される載置物である。
【0037】
底壁33の上面側に載置部が形成され、この載置部には、底壁33より僅かに上方に突出する複数のローラRを横向き姿勢の回転軸芯を中心に回転自在に備えている。この載置部に対して載置される載置物としてマット状苗Wだけを直接載置することはなく、マット状苗Wを育苗箱18に収容した状態で載置することや、マット状苗Wを苗すくい板に支持される状態で載置することになる。尚、予備苗載置ユニットCは、展開姿勢において3つの予備苗載台Caの載置部が、この予備苗載置ユニットCの載置部となる。また、載置物として空の状態の育苗箱18や、袋に詰められた肥料等を載置部に載置しても良い。
【0038】
尚、1段目の予備苗載台Caは予備苗載台Caの部品を共通化させるためローラRを備えているが、載置物を前後方向に搬送する必要がないためローラRを備えずに構成しても良い。
【0039】
1段目の予備苗載台Caの前端位置と後端位置とには図8、図10(a)に示すように、上端部36Tが底壁33の上方に向けて折り曲がる姿勢(側面視で鈎状となる姿勢)に屈曲成形されたロッド材で成る脱落防止部材36が取付られ、2段目〜3段目の予備苗載台Caには、逆U字状となる単純な形状の脱落防止部材36が着脱自在に備えてられている。脱落防止部材36は、図9、図10(b)に示すように、2つの脚部36Aを有しており、この脚部36Aを予備苗載台Caの底壁33に穿設された嵌合孔33Bに挿入する形態で備えられ、取り外す場合には上方に引き抜くことになる。この脱落防止部材36は、予備苗載台Caの前端側と後端側とにおいて幅方向の一方の端部に備えられている。
【0040】
これにより、1段目の予備苗載台Caに育苗箱18に収容されたマット状苗Wを載置した場合には、前後位置の脱落防止部材36により脱落が防止される。また、予備苗載置ユニットCを展開姿勢に設定した場合には、3段目の予備苗載台Caの前後位置の脱落防止部材36を取り外し、2段目の予備苗載台Caの後端側の脱落防止部材36を取り外し、4段目の予備苗載台Caの前端側の脱落防止部材36を取り外すことにより、展開姿勢にある2段目から4段目の予備苗載台Caの載置部に載置物を載置できる。
【0041】
予備苗載置ユニットCは、展開姿勢で3つの予備苗載台Caが直線状に隣接する位置関係で並ぶと共に、これらが全体的に後方側ほど低いレベルとなる緩傾斜に設定されている。この予備苗載置ユニットCの載置部において後部位置に配置される予備苗載台Ca(重複姿勢で4段目の予備苗載台Ca)に備えられる複数のローラRには逆送阻止手段としての一方向クラッチ43が備えられている。この一方向クラッチ43は、載置物の機体後方への移動を許容し、機体後部位置にある載置物の機体前方への移動を阻止するようにローラRの回転を制限する。
【0042】
〔予備苗載置ユニット:ローラ〕
つまり、展開姿勢で前部位置と中央位置との予備苗載台Ca(重複姿勢で2段目と3段目の予備苗載台Ca)のローラRは、図6、図7に示すように、横向き姿勢の軸芯と同軸芯で配置される支軸41に対して回転自在にローラ体42を支承した単純な構成を有するものであるが、後端位置の予備苗載台Ca(重複姿勢で4段目の予備苗載台Ca)のローラRは、図11〜図13に示すように支軸41に逆送阻止手段としての一方向クラッチ43を外嵌し、この外側にローラ体42を備え、ローラ体42の外周にスリップ抑制部として高摩擦係数のフェルト44を貼り付けている。
【0043】
この一方向クラッチ43は、内周面にカム面を形成した外部輪体と支軸41との間にローラやボールを配置した構成のものが使用され、外部輪体と一体回転するようにローラ体42を備え、支軸41を予備苗載台Caの底壁33に対して回転不能に固定する形態で備えられている。
【0044】
尚、本発明では、逆送阻止手段としての一方向クラッチ43として、ラチェット爪を用いることで一方向への回転を阻止する構成のものや、ラップスプリングを用いることで一方向への回転を阻止す構成の使用が可能である。また、スリップ抑制部として、ローラ体42の外周を粗面に仕上げることや、ゴムのように密着性の高いエラストマー材を貼り付けることや、砂材を含んだ樹脂を塗布することで表面の摩擦係数を高くするように構成しても良い。
【0045】
〔実施形態の作用・効果〕
このような構成から、展開姿勢にある3つの予備苗載台Caの前端位置に、マット状苗Wを収容した育苗箱18を載置した状態では、この育苗箱18を作業者が後方に向けて軽く押す程度の操作により、ローラRの回転(順方向への回転)により育苗箱18を後端位置の予備苗載台Caに送り込み、後端位置の脱落防止部材36に当接して移動が停止する。また、展開姿勢にある3つの予備苗載台Caは後端側が低いレベルとなる傾斜姿勢にあるので、育苗箱18を後端位置に送る際には、育苗箱18やマット状苗Wの自重により後端位置まで軽快に送り込めるのである。
【0046】
マット状苗Wを収容した1つの育苗箱18を後端位置の予備苗載台Caの位置まで送り込んだ後には、育苗箱18を前方に移動させる外力が作用することがあっても、一方向クラッチ43によりローラRの逆転が阻止され、しかも、ローラRの外周に貼り付けられたフェルト44によりローラ体42の外周面での育苗箱18のスリップが阻止され、育苗箱18が前方に移動することがない。つまり、展開姿勢にある3つの予備苗載台Caに対して、マット状苗Wを収容した3つの育苗箱18を載置する場合には、夫々の育苗箱18が前後方向で当接するため、これらの育苗箱18が前後方向に移動することはないが、1つ育苗箱18の場合には前後に移動しやすい状態にあるので、展開姿勢で後端位置の予備苗載台CaのローラRに一方向クラッチ43を備えることでこの不都合を解消しているのである。
【0047】
また、作業者が走行機体Aの前端位置から走行機体Aに乗り込む際には、走行機体Aの前端の補助ステップ24を突出位置に引き出すことで、作業者が補助ステップ24に足を掛けることで容易に乗り込むことが可能となる。
【0048】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い。
【0049】
(a)図14、図15に示すように、予備苗載置ユニットCの後端側の載置部に載置された育苗箱18(積載物の一例)の前方への移動を阻止する逆送阻止手段として、育苗箱18の先端側に当接する当接位置と、育苗箱18の移動を許す非当接位置とに切換自在なストッパー51を備える。このストッパー51は、予備苗載台Caの底壁33に対して前後向き姿勢の切換軸体52を中心にして揺動自在に支持した板材で構成され、予備苗載台Caの運転座席側の側壁34に対して支持軸53を中心に揺動自在に支持された切換レバー54とロッド55を介して連結している。
【0050】
この構成から、切換レバー54の人為操作により図14(a)に示す非当接位置にセットすることによりストッパー51が底壁33より下方に移動するため育苗箱18等の積載物の前後方向への移動を軽快に行い、後部位置の予備苗載台Caに積載物を移動させることが可能となる。この後、切換レバー54の人為操作により図14(b)及び図15に示す当接位置にセットすることにより、ストッパー51が底壁33より上方に突出するため育苗箱18の前方への移動が止される。
【0051】
別実施形態(a)においても、複数の予備苗載台Caには複数のローラRを正転方向と逆転方向とに回転自在に備えているが、この別実施形態(a)においても前述した実施形態と同様に、ローラRに一方向クラッチ43を備えても良い。
【0052】
(b)別実施形態(a)の逆送阻止手段としてのストッパー51を予備苗載台Caの側壁34から積載物が送られる経路に対してスライド移動により突出する状態と、この経路からスライド移動により離脱する退入状態とに切換自在に構成しても良い。このように構成する場合、当接位置と非当接位置とへの切換構造は様々に設定可能である。また、電磁ソレノイドや電動モータの駆動力により当接位置と非当接位置とに切換自在に構成しても良い。
【0053】
(c)図16に示すように、後端側の載置部に載置された育苗箱18(載置物の一例)の前方への移動を阻止するために、育苗箱18が後方に送られた場合には、育苗箱18に接触することで底壁33のレベルまで退入し、育苗箱18が通過した後には育苗箱18の前端部に当接して前方への移動を阻止するように、前端側の横向き姿勢の軸体56を中心にして揺動自在、かつ、上方に突出するように突出バネ57で突出方向に付勢されるように逆送阻止手段としてのストッパー51を備える。
【0054】
このストッパー51を備えることにより、育苗箱18を予備苗載置ユニットCの後端側に移動させるだけで、ストッパー51が下方に退入した後に突出して育苗箱18の前方への移動を阻止することになり特別の操作を行わずに済む。
【0055】
(d)前述した実施形態では、予備苗載置ユニットCが複数の予備苗載台Caを重複姿勢と展開姿勢とに切換自在に構成したものであるが、これに代えて予備苗載置ユニットCが、複数の育苗箱18を載置可能となる平坦な載置部を形成する板状の載置部材で構成する。この構成では、予備苗載置ユニットCの姿勢の切換が不要となるため構成が単純となり、組み立も容易となる。
【0056】
(e)別実施形態(d)と類似するものであるが、複数の育苗箱18を載置可能となる平坦な載置部を形成する板状となる第1の載置部材を備え、この第1の載置部材の後端に対して着脱自在、又は、リンク機構等を介して姿勢切換自在に第2の載置部材を備えて予備苗載置ユニットCを構成する。この構成により、第2の載置部材の分離や姿勢の切換により運転座席3への乗降を可能にする。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、予備苗を載置する予備苗載置ユニットを備えた乗用型田植機に利用できる。
【符号の説明】
【0058】
18 育苗箱・載置物
43 逆送阻止手段・一方向クラッチ
44 スリップ抑制部(フェルト)
51 逆送阻止手段・ストッパー
A 走行機体
C 予備苗載置ユニット
Ca 予備苗載台
R ローラ
W マット状苗・載置物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体の前部位置に、複数のマット状苗を前後方向に直線状に並べて載置可能な予備苗載置ユニットを備えている乗用型田植機であって、
前記予備苗載置ユニットが、前記マット状苗、育苗箱、苗すくい板等の載置物を載置する載置部が形成され、この載置部の後部位置に、前記載置物の機体前方への移動を阻止する逆送阻止手段を備えている乗用型田植機。
【請求項2】
前記逆送阻止手段が、前記載置部に載置される前記載置物のうち少なくとも最も後方の載置物に作用する状態に設けてある請求項1記載の乗用型田植機。
【請求項3】
前記予備苗載置ユニットが、前記載置部に載置された前記載置物の下面に接触して回転することで前記載置物の移動を許容するように横向き姿勢の軸芯を中心にして回転自在に支持された複数のローラを備え、
前記逆送阻止手段が、前記載置部の後部位置において前記載置物の機体後方への移動を許容すると共に、前記載置物の機体前方への移動を阻止するように前記ローラの回転を制限する一方向クラッチで構成されている請求項1又は2記載の乗用型田植機。
【請求項4】
前記予備苗載置ユニットが、複数の予備苗載台を前後方向に直線状に配置した構成を有すると共に、前記一方向クラッチが、後端位置の1つの前記予備苗載台に備えられた前記ローラの回転を制限するように備えられている請求項3記載の乗用型田植機。
【請求項5】
前記一方向クラッチにより回転が制限される前記ローラの外周面に、このローラの外周面に接触する前記載置物のスリップを抑制するスリップ抑制部を形成している請求項3又は4記載の乗用型田植機。
【請求項6】
前記逆送阻止手段が、前記載置部に載置される前記載置物の機体後方への移動を許す許容姿勢と、前記載置物に当接することで機体前方への移動を阻止する当接姿勢とに切換自在なストッパーで構成されている請求項1又は2記載の乗用型田植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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