説明

乗用型農作業車両

【課題】 作業者が運転席から降りた状態で乗用型農作業車両の走行操作を行っている場合であっても、容易に停止操作を行うことのできる乗用型農作業車両を提供する。
【解決手段】 乗用型農作業車両を停止させる停止手段と、機体前部上に設けられた操縦部に前記停止手段と連繋された停止操作部とを設ける。機体前部上の操縦部に停止手段と連繋された停止操作部が設けられているため、作業者が運転席から降りた状態で乗用型農作業車両の走行操作を行っている場合であっても、停止操作部に作業者の手が届きやすく、運転席から降りた状態で容易に停止操作を行って乗用型農作業車両を停止させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバイン、田植機等の乗用型農作業車両の停止装置に関し、より詳細には、運転席から降りて走行操作している場合に、容易に停止操作を行うことのできる乗用型農作業車両の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用型農作業車両は、トラックの荷台に架けた歩板の上り下りや、圃場に対して出し入れする際の畦越え、山間地の狭い急な坂道での移動等を行うことがあり、このとき乗用型農作業車両が大きく前後に傾斜することがある。このような場合に、作業者が運転席から降りて乗用型農作業車両の走行操作を行うことがある。
【0003】
従来、作業者が運転席から降りた状態で容易に乗用型農作業車両の走行操作を行えるよう、フロントコラムを前方に回動させてレバー位置を低くし、かつ回動させた状態で側方又は前方からレバー操作可能とした乗用型農作業車両が開発されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平8−37893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の乗用型農作業車両において、作業者が運転席から降りた状態で乗用型農作業車両の停止操作を行う場合には、フロントコラムに設けられた駐車レバーを操作しなければならなかった。この駐車レバーは前方又は側方からでは作業者の手が届き難い場合があり、乗用型農作業車両の停止操作が容易でない場合があった。
【0005】
また、乗用型農作業車両の停止操作を行った後でエンジンを再始動させる場合に、作業者が運転席から降りた状態では、作業者からキースイッチに手が届き難い場合があり、乗用型農作業車両の停止操作の後の再始動操作が容易でない場合があった。
【0006】
また、乗用型農作業車両の停止操作は、主変速レバーが前進位置または後進位置にある場合であり、停止操作後にエンジンの再始動操作を行う際に、作業者が主変速レバーを中立位置に戻していないと、乗用型農作業車両がエンジンの再始動操作と同時に発進してしまう場合があった。
【0007】
本発明は上記各課題に鑑みてなされたものであって、第1の目的は、作業者が運転席から降りた状態で乗用型農作業車両の走行操作を行っている場合であっても、容易に停止操作を行うことのできる乗用型農作業車両の提供であり、
第2の目的は、作業者が運転席から降りた状態であっても、停止操作の後、容易に再始動操作を行うことのできる乗用型農作業車両の提供であり、
第3の目的は、停止操作の後、乗用型農作業車両がエンジンの再始動操作と同時に発進することを防止した乗用型農作業車両の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1に記載の発明では、機体前部上に操縦部を配置した乗用型農作業車両であって、
乗用型農作業車両を停止させる停止手段と、
前記停止手段と連繋され、前記操縦部に設けられた停止操作部と、
を備え、前記停止操作部を操作することにより、前記停止手段が作動して走行を停止することを特徴とする乗用型農作業車両とした。
【0010】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、機体前部上に操縦部を配置した乗用型農作業車両であって、
前記操縦部に設けられたフロントコラムと、
前記フロントコラムに設けられた停止操作部と、
を備え、前記フロントコラムに設けられた停止操作部を操作することにより、停止手段が作動して走行を停止することを特徴とする乗用型農作業車両とした。
【0011】
請求項3に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、機体前部上に操縦部を配置した乗用型農作業車両であって、
前記操縦部に設けられ、前方に回動自在のフロントコラムと、
前記フロントコラムに設けられた停止操作部と、
を備え、前記フロントコラムに設けられた停止操作部を操作することにより、停止手段が作動して走行を停止することを特徴とする乗用型農作業車両とした。
【0012】
請求項4に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、機体前部上に操縦部を配置した乗用型農作業車両であって、
前記操縦部に設けられ、前方に回動させた状態で乗用型農作業車両の操縦可能なフロントコラムと、
前記フロントコラム上であって、作業者が前記操縦部から降りた状態で視認性の良好な位置に設けられるとともに、停止手段を作動させるための停止スイッチと、
を備えており、前記フロントコラムを前方に回動させ、作業者が前記操縦部から降りて乗用型農作業車両を操縦する状態で、前記フロントコラムに設けられた停止操作部を操作することにより、停止手段が作動して走行を停止することを特徴とする乗用型農作業車両とした。
【0013】
請求項5に記載の発明では、請求項1から4のいずれか1項に記載の発明において、エンジンの始動と停止とを行うキースイッチが操縦部に設けられており、前記キースイッチの取り付け位置は、作業者が前記操縦部から降りた状態で作業者と対峙する位置であることを特徴とする乗用型農作業車両とした。
【0014】
請求項6に記載の発明では、請求項1から5のいずれか1項に記載の発明において、前記停止手段の作動による走行停止後において、主変速レバーの前進、後進及び中立の各位置を検出し、主変速レバーが中立位置にあるときはエンジン始動可能とし、主変速レバーが前進位置又は後進位置にあるときは、エンジン始動不能としたことを特徴とする乗用型農作業車両とした。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、機体前部上に操縦部が配置されており、前記操縦部に停止手段と連繋された停止操作部が設けられているため、作業者が運転席から降りた状態で乗用型農作業車両の走行操作を行っている場合であっても、停止操作部に作業者の手が届きやすく、運転席から降りた状態で容易に停止操作を行って乗用型農作業車両を停止させることができる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、機体前部上に操縦部が配置されており、前記操縦部にフロントコラムが設けられており、フロントコラムに停止手段と連繋された停止操作部が設けられているため、作業者が運転席から降りた状態で乗用型農作業車両の走行操作を行っている場合であっても、フロントコラムの停止操作部に作業者の手が届きやすく、運転席から降りた状態で容易に停止操作を行って乗用型農作業車両を停止させることができる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、機体前部上に操縦部が配置されており、前記操縦部に前方に回動自在のフロントコラムが設けられており、フロントコラムに停止手段と連繋された停止操作部が設けられているため、作業者が運転席から降りた状態でフロントコラムを前方に回動させて乗用型農作業車両の走行操作を行っている場合であっても、フロントコラムの停止操作部に作業者の手が届きやすく、運転席から降りた状態で容易に停止操作を行って乗用型農作業車両を停止させることができる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、機体前部上に操縦部が配置されており、前記操縦部に前方に回動自在のフロントコラムが設けられており、フロントコラムには作業者が前記操縦部から降りた状態で視認性の良好な位置に停止スイッチが設けられているため、作業者が運転席から降りた状態でフロントコラムを前方に回動させて乗用型農作業車両の走行操作を行っている場合であっても、フロントコラムの停止スイッチの視認性が良く、しかも操作部に作業者の手が届きやすいため、作業者が運転席から降りた状態で容易に停止操作を行って乗用型農作業車両を停止させることができる。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、エンジンの始動と停止とを行うキースイッチが操縦部に設けられており、前記キースイッチの取り付け位置は、作業者が前記操縦部から降りた状態で作業者と対峙する位置であるため、作業者が運転席から降りた状態であっても、作業者から届きやすく、停止操作の後、容易に再始動操作を行うことができる。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、停止手段の作動による走行停止後において、主変速レバーの前進、後進及び中立の各位置を検出し、主変速レバーが前進位置又は後進位置にあるときは、エンジン始動不能としたため、停止操作後に作業者が主変速レバーを中立位置に戻さずに再始動操作を行った場合は、エンジンは再始動せず、停止操作の後、乗用型農作業車両がエンジンの再始動操作と同時に発進することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、発明の実施の形態について図を用いて説明する。
【実施例1】
【0023】
本発明の実施例1に係る乗用型農作業車両としてのコンバイン11について、図を用いて説明する。図1は本発明の実施例1に係るコンバイン11の全体側面図、図2はフロントコラム32を回動させた状態のコンバイン11の全体側面図、図3は操縦部31を構成するフロントコラム32の平面図、図4、図5、図6、図7は停止手段の回路図、図8は主変速レバーの中立位置を検知してエンジンの再始動可能とする手段の回路図、図9は主変速レバーの中立位置を検知してエンジンの再始動可能とする手段を示すフローチャートである。
【0024】
まずコンバイン11の全体構成について説明する。図1に示すように、コンバイン11は、左右のクローラを支承してなるクローラ走行装置13上にシャーシ(機体)12を配設し、このシャーシ12上の前部右側にエンジン15を搭載し、シャーシ12の前方にミッションケースを配設して、ミッションケースにクローラ走行装置13の駆動輪の車軸を懸架している。シャーシ12の前部には刈取部21を設けており、シャーシ12の上部において走行方向の左側には選別部23を、その上部には扱胴及びフィードチェーン等を具備する脱穀部22を設けている。右側の上方にはトップサッカ25を設けており、選別部23から揚穀コンベア24によって籾が収納され、その下方に籾袋の載置部が具備されており、載置した籾袋にトップサッカ25の籾を収納する。
【0025】
シャーシ12の前部には、前方延設部14を形成していて、その上部に操縦部31が形成されている。操縦部31は作業者がコンバイン11に乗り込んだ状態、あるいは降りた状態でコンバイン11の走行操作を行う部分であり、作業者はこの付近でコンバイン11の走行操作を行う。操縦部31はステップ34、座席36を上部に配設したエンジンルームを兼ねる座席台35及び、フロントコラム32等から構成されている。
【0026】
前記操縦部31のフロントコラム32は、旋回操作や刈取部21の昇降を行う操向・刈取部昇降レバー42や走行駆動用の主変速レバー43等の操縦用部材が配設されている部分である。フロントコラム32の上部は、図3に示すように、操作パネル33となっている。操作パネル33には、停止操作部としての停止スイッチ41、停止ランプ80、操向・刈取部昇降レバー42、主変速レバー43の他、操縦者が作業姿勢を保持するために把持する安全バー44、機体各部の異常警報用の安全確認パネル45、エンジン15の始動と停止とを行うためのキースイッチ46等が配設されている。
【0027】
図2に示すように、フロントコラム32は、下端部分が回動自在に左右方向に軸支されており、前方に回動させることが可能となっている。操向・刈取部昇降レバー42、あるいは主変速レバー43等のフロントコラム32に配設した操縦用部材は、フロントコラム32を前方へ回動させた状態においても操作することが可能である。フロントコラム32を前方に回動させることにより、フロントコラム32における操向・刈取部昇降レバー42等の操作用部材を充分に低く位置させて、畦越えやトラックの荷台への積み降ろし等の作業を、コンバイン11から降りた状態で側方又は前方より操作することができる。
【0028】
前記停止手段は、停止操作部としての停止スイッチ41を操作することにより作動し、コンバイン11を停止させるものである。図3に示すように、停止スイッチ41が設けられているのはフロントコラム32の操作パネル33上であって、作業者がコンバイン11から降りた状態で作業者と対峙する位置であり、作業者が操作を行い易い位置に設けられている。尚、停止スイッチ41の取り付け位置は、フロントコラム32の前上面のほか、前側面であってもよい。該停止スイッチ41は押圧スイッチからなり、押圧部は他のスイッチよりも大きく、色も異なるものとして、容易に他のスイッチと区別できて目立つものとし、操作し易い形状としている。該停止スイッチ41を押圧操作することにより、燃料供給を停止してエンジン15を停止させ、コンバイン11(走行及び作業)を停止させる。また、停止スイッチ41を押圧操作した時には停止ランプ80が点灯する。
【0029】
前記キースイッチ46は、エンジン15の始動と停止とを行うためのものである。キースイッチ46は、フロントコラム32の操作パネル33上であって、作業者が操作を行い易い位置に設けられている。従って、前記フロントコラム32を前方に回動させ、作業者が運転席から降りてコンバイン11を操縦する状態であっても作業者から届きやすく、停止操作の後、前記フロントコラム32に設けられたキースイッチ46を操作して、容易にエンジン15の再始動操作を行うことができる。
【0030】
前記キースイッチ46について詳しく説明すると、図4に示すように、鍵穴に差し込んだ所定のキーの回転操作にて、エンジン停止端子47、通電端子48及びスタート端子49という3つの端子位置に切り替え可能に構成されたロータリ式スイッチである。
【0031】
エンジン停止端子47から通電端子48を超えてスタート端子49の位置までキースイッチ46を回すと、スタータ(図示せず)が作動してエンジン15が始動する。キースイッチ46から手を離すと、バネ(図示せず)の弾性付勢力にてキースイッチ46が通電端子48の位置に戻り、エンジン15の駆動が維持される。キースイッチ46をエンジン停止端子47の位置まで回すと、エンジン15の駆動が停止する。
【0032】
次に図4から図7を参照しながら、コンバイン11に設けられた停止手段の回路構造について説明する。
【0033】
停止手段は、エンジン15への燃料噴射量を調整するガバナ付き燃料噴射ポンプ16に関連して設けられたエンジン停止手段としてのストップソレノイド52と、バッテリ17とを接続した停止回路51を備えており、停止回路51中には、停止スイッチ41が直列に接続されている。
【0034】
停止回路51には停止スイッチ41と並列にバイパス回路53が接続されており、バイパス回路53中には、脱穀部22等の作業部に対する動力継断操作のための作業クラッチ操作手段としての作業クラッチスイッチ54が設けられている。作業クラッチスイッチ54は、脱穀クラッチレバーの回動基部に設けられ「入」位置でON(接続)となる。バイパス回路53のうち、作業クラッチスイッチ54より下流側には、作業クラッチスイッチ54の入り切り操作に連動してバイパス回路53を遮断状態と導通状態とに選択的に切り替えるための第1スイッチング手段としての第1リレー55が設けられている。
【0035】
一方、停止回路51のうち停止スイッチ41とストップソレノイド52との間には、バイパス回路53より下流側に、第2スイッチング手段としての第2リレー56が設けられている。
【0036】
停止手段の構成を更に詳しく説明すると、まず、バッテリ17の出力端子+は、キースイッチ46の入力端子に接続されており、このキースイッチ46の通電端子48が停止スイッチ41におけるB接点60(押下時に開き状態(切り状態、遮断状態)になる接点)の一端に接続されている。バッテリ17の入力端子−は接地されている。
【0037】
本実施例の停止スイッチ41は、ストップソレノイド52の入り切り操作(通電及び通電停止の操作)をするためのものであって、復帰形のプッシュスイッチ(モーメンタリスイッチともいう)である。停止スイッチ41は、停止回路51側に位置した前述のB接点60と、押下時に閉じ状態(入り状態、導通状態)になるA接点61と、可動接点62とにより構成されている。
【0038】
押下していないときのB接点60にはバネ(図示せず)の弾性付勢力にて可動接点62が接触して、閉じ状態に保持される。この場合、押下操作に対するB接点60の感度向上のために弾性付勢力の比較的小さいバネが採用されている。
【0039】
B接点60とA接点61との他端は共に、第2リレー56におけるスイッチ部69の一方の入力端子71に接続されている。A接点61の一端は、停止ランプ80を介して第2リレー56におけるコイル部70の一端に接続されている。第2リレー56におけるコイル部70の他端は接地されている。第2リレー56におけるスイッチ部69の出力端子72は、ストップソレノイド52に一端に接続されている。ストップソレノイド52の他端は接地されている。
【0040】
一方、キースイッチ46の通電端子48と停止スイッチ41のB接点60との間にあるバイパス回路53への分岐点57からは、作業クラッチスイッチ54におけるA接点63の一端と、第1リレー55におけるスイッチ部65の一方の入力端子67とがそれぞれ分岐して接続されている。
【0041】
作業クラッチスイッチ54は、前述のA接点63と可動接点64とからなっており、1回押下すると閉じ状態に保持され、もう一回押下すると開き状態に戻るロックタイプのものである。作業クラッチスイッチ54におけるA接点63の他端は、第1リレー55におけるコイル部66の一端に接続されている。第1リレー55におけるコイル部66の他端は接地されている。第1リレー55におけるコイル部66の出力端子68は、停止スイッチ41と第2リレー56のスイッチ部69との間にある接続点58に接続されている。
【0042】
次に、停止手段の動作について説明する。
【0043】
コンバイン11の路上走行時は、脱穀部22等の作業部に対して動力伝達する必要がなく、作業クラッチスイッチ54が押下されずに開き状態(切り状態、遮断状態)になっている。
【0044】
この場合、第1リレー55のコイル部66は、バッテリ17からの電流が流れ込まずに消磁状態となり、第1リレー55のスイッチ部65が閉じ状態(入り状態、導通状態)となる。このため、作業クラッチスイッチ54が切り状態のときは、バッテリ17からストップソレノイド52への通電経路として、停止スイッチ41のある停止回路51経由及びバイパス回路53経由という2通りの経路が確保される。
【0045】
従って、図4に示すように、この状態において停止スイッチ41を押下していなくて可動接点62がB接点60に接触していれば、バイパス回路53だけでなく、停止回路51も閉じ状態(入り状態、導通状態)になるので、停止回路51又は、バイパス回路53を経由しての通電にて、ストップソレノイド52が励磁される。その結果、ガバナ付き燃料噴射ポンプ16による燃料供給が維持されて、エンジン15の駆動が維持される。
【0046】
また、本実施例でも、可動接点62をB接点60に接触する方向に付勢するバネ(図示せず)の弾性付勢力が感度向上のために小さく設定されているから、図5に示すように、路上走行時の振動等のせいで、停止スイッチ41を押下していないのに、可動接点62が浮いて、A、B両接点61、60から離れた状態になることがある。
【0047】
その点、本実施例では、バッテリ17からストップソレノイド52への通電経路として、停止スイッチ41のある停止回路51経由及びバイパス回路53経由という2通りの経路を確保しているから、停止スイッチ41のA、B両接点61、60が共に開き状態(切り状態、遮断状態)になったとしても、もう一方のバイパス回路53を経由しての通電にてストップソレノイド52が励磁される。このため、ガバナ付き燃料噴射ポンプ16による燃料供給が維持できるから、路上走行時に、不用意にエンジン15の駆動が停止するおそれがなくなり、運転時の安全性が向上する。
【0048】
図6に示すように、作業クラッチスイッチ54が切り状態のときに、停止スイッチ41を押下して可動接点62がA接点61に接触すれば、停止回路51(B接点60側)が開き状態となる一方、第2リレー56のコイル部70に向けての通電経路が閉じ状態となるので、バイパス回路53を経由しての電流が停止スイッチ41のA接点61及び可動接点62を介して停止ランプ80と第2リレー56のコイル部70とに流れ、当該コイル部70が励磁される。そうすると、第2リレー56のスイッチ部69が開き状態となり、ストップソレノイド52への通電が遮断されて、当該ストップソレノイド52が消磁する。(図4〜図7参照。)。
【0049】
すなわち、第2リレー56は、作業クラッチスイッチ54及び停止スイッチ41が共に開き状態(切り状態、遮断状態)のときにのみ、停止スイッチ41とストップソレノイド52との間を遮断状態に切り替えて、ストップソレノイド52を消磁させるのである。その結果、停止ランプ80が点灯するとともに、ガバナ付き燃料噴射ポンプ16による燃料供給が停止して、キースイッチ46を切り操作せずともエンジン15の駆動が確実に停止する。
【0050】
コンバイン11の農作業時には、脱穀部22等の作業部に対して動力伝達する必要があり、作業クラッチスイッチ54が押下されて閉じ状態となっている(図7参照。)。
【0051】
この場合、第1リレー55のコイル部66は、バッテリ17からの電流が流れ込んで励磁状態となり、第1リレー55のスイッチ部65が開き状態となる。このため、作業クラッチスイッチ54が入り状態のときは、バッテリ17からストップソレノイド52への通電経路が、停止スイッチ41側の停止回路51のみとなる。
【0052】
そうすると、図7に示すように、この状態では従来と同様に、停止スイッチ41に軽く触れる(当たる)程度で可動接点62がB接点60から離れ、停止回路51が開き状態となる。このため、ストップソレノイド52への通電が遮断されて当該ストップソレノイド52が消磁し、ガバナ付き燃料噴射ポンプ16による燃料供給が停止する。
【0053】
従って、停止スイッチ41に少なくとも軽く触れただけでも、エンジン15ひいてはコンバイン11を迅速且つ確実に停止させることができるのである。なお、可動接点62がA接点61に接触すれば、停止ランプ80は点灯する。
【0054】
次に、前述のようにエンジン15を停止させた後のコンバイン11の再始動について説明する。本実施例に係るコンバイン11は、図8に示すように、主変速レバー43の回動基部には前進、後進及び中立の各位置を検出する手段、例えば主変速レバースイッチ81が設けられ、主変速レバー43が中立位置にあるときはエンジン15の始動可能とし、主変速レバー43が前進位置又は後進位置にあるときは、安全スイッチ82を開き状態(切り状態、遮断状態)としてエンジン15の始動不能とするように構成されている。図8に示すように、キースイッチ46を操作して主変速レバー43が中立のときセルモータ83を回転させ、始動回路84ガバナを作動させて始動する。また、図9に示すように、エンジン15の始動不能の場合は表示灯や音声等によりエラー表示がされる。
【0055】
このため、コンバイン11の停止操作を行うときは主変速レバー43は前進位置または後進位置であるが、停止操作後にエンジン15の再始動操作を行う場合に、作業者が主変速レバー43を中立位置に戻していない状態で再始動操作を行っても、エンジン15は再始動しない。従って、停止操作の後、作業者が誤って主変速レバー43が前進位置又は後進位置のままで再始動操作を行った場合でも、コンバイン11が再始動操作と同時に発進することを防止することができる。
【0056】
以上説明した本願発明は、前述の実施形態に限らず、例えば、作業クラッチ操作手段はスイッチ式に限らず、レバー式のものでもよいし、第1及び第2スイッチング機能としてはリレーに限らず、サイリスタやトランジスタ等のスイッチング素子を採用してもよい。
【0057】
更に、エンジン15を停止させる手段としては、燃料供給の停止の他、原動機がディーゼルエンジンの場合は圧力の開放、原動機がガソリンエンジンの場合は点火プラグの通電停止などの手段を用いることもできる。
【0058】
尚、本実施例では、停止操作部としての停止スイッチ41、キースイッチ46はフロントコラム32の操作パネル33上に設けたが、停止操作部、キースイッチは、作業者が乗用型農作業車両に乗り込んだ状態、あるいは降りた状態で走行操作を行うための操縦部に設ければよい。停止操作部は、乗用型農作業車両の座席に座った状態及び乗用型農作業車両から降りた状態のいずれでも停止操作部が見やすく、操作しやすい位置に設けることが好ましい。例えば、停止操作部を操縦部の左右いずれかの側部に寄せて設けてもよい。
【0059】
停止操作部は操作パネル33の他、フロントコラム(またはダッシュボード)32の上部前面または側面、または、安全バー44や各レバーに設けてもよい。フロントコラム32に丸型等のハンドル部が設けられている場合はハンドル部に設けてもよい。停止操作部は通常の走行操作時に誤操作されないように設けることが好ましく、操作パネル33に設ける場合は誤操作の可能性は少ないが、各レバーやハンドル部に設ける場合は、誤操作し難い低い位置に設けるものとする。
【実施例2】
【0060】
次に、本発明の実施例2に係る乗用型農作業車両としてのコンバイン11について説明する。実施例2では、停止手段の構成が実施例1と異なっている。実施例1と同一部分は同一符号を付して詳しい説明は省略する。
【0061】
実施例2に係るコンバイン11の停止手段は、油圧で作動する走行クラッチ(図示せず)及び走行ブレーキ(図示せず)、作業クラッチ(図示せず)、停止スイッチ41を備えている。走行クラッチは、駆動輪の車軸に対して駆動力の入力、切断を行うものであり、走行ブレーキは、コンバイン11の制動力を発生するものである。走行クラッチと走行ブレーキと作業クラッチはそれぞれ油圧シリンダを備えており、各油圧シリンダは油圧ポンプと油圧回路によって接続されている。各油圧シリンダは油圧ポンプから供給される作動油によって作動して、走行クラッチと走行ブレーキと作業クラッチを作動させる。但し、油圧を用いる代わりに電磁クラッチを用いる構成であってもよい。
【0062】
停止手段は、停止スイッチ41が押圧操作されることにより、油圧回路に設けられたソレノイドに通電してバルブが作動し、油圧ポンプからの作動油は各油圧シリンダに供給されなくなり、バネの付勢により、走行クラッチを切断するとともに走行ブレーキを作動させ、作業機を停止させる。この結果、駆動輪の車軸に対する駆動力の伝達が遮断されるとともに、制動力が発生し、コンバイン11をすみやかに停止させることができ、作業も停止させる。
【0063】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されず、コンバイン、田植機等の乗用型農作業車両に広く適用可能であり、以下のように変更してもよい。
【0064】
操縦部のフロントコラム32が前後回動可能な乗用型農作業車両としてのコンバイン11について説明したが、回動しないフロントコラムを有する乗用型農作業車両であってもよい。
【0065】
停止操作部は停止スイッチに限定されず、作業者が操作しやすく、停止手段が作動するものであればよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施例1に係るコンバイン11の全体側面図。
【図2】フロントコラム32を回動させた状態のコンバイン11の全体側面図。
【図3】操縦部31を構成するフロントコラム32の平面図。
【図4】停止手段の回路図。
【図5】停止手段の回路図。
【図6】停止手段の回路図。
【図7】停止手段の回路図。
【図8】主変速レバーの中立位置を検知してエンジンの再始動可能とする手段の回路図。
【図9】主変速レバーの中立位置を検知してエンジンの再始動可能とする手段を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0067】
11 乗用型農作業車両としてのコンバイン
12 シャーシ
13 クローラ走行装置
14 前方延設部
15 エンジン
31 操縦部
32 フロントコラム
33 操作パネル
41 停止操作部としての停止スイッチ
42 操向・刈取部昇降レバー
43 主変速レバー
44 安全バー
45 安全確認パネル
46 キースイッチ
80 停止ランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体前部上に操縦部を配置した乗用型農作業車両であって、
乗用型農作業車両を停止させる停止手段と、
前記停止手段と連繋され、前記操縦部に設けられた停止操作部と、
を備え、前記停止操作部を操作することにより、前記停止手段が作動して走行を停止することを特徴とする乗用型農作業車両。
【請求項2】
機体前部上に操縦部を配置した乗用型農作業車両であって、
前記操縦部に設けられたフロントコラムと、
前記フロントコラムに設けられた停止操作部と、
を備え、前記フロントコラムに設けられた停止操作部を操作することにより、停止手段が作動して走行を停止することを特徴とする請求項1に記載の乗用型農作業車両。
【請求項3】
機体前部上に操縦部を配置した乗用型農作業車両であって、
前記操縦部に設けられ、前方に回動自在のフロントコラムと、
前記フロントコラムに設けられた停止操作部と、
を備え、前記フロントコラムに設けられた停止操作部を操作することにより、停止手段が作動して走行を停止することを特徴とする請求項1に記載の乗用型農作業車両。
【請求項4】
機体前部上に操縦部を配置した乗用型農作業車両であって、
前記操縦部に設けられ、前方に回動させた状態で乗用型農作業車両の操縦可能なフロントコラムと、
前記フロントコラム上であって、作業者が前記操縦部から降りた状態で視認性の良好な位置に設けられる停止スイッチと、
を備えており、前記フロントコラムを前方に回動させ、作業者が前記操縦部から降りて乗用型農作業車両を操縦する状態で、前記フロントコラムに設けられた停止操作部を操作することにより、停止手段が作動して走行を停止することを特徴とする請求項1に記載の乗用型農作業車両。
【請求項5】
エンジンの始動と停止とを行うキースイッチが操縦部に設けられており、前記キースイッチの取り付け位置は、作業者が前記操縦部から降りた状態で作業者と対峙する位置であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の乗用型農作業車両。
【請求項6】
前記停止手段の作動による走行停止後において、主変速レバーの前進、後進及び中立の各位置を検出し、主変速レバーが中立位置にあるときはエンジン始動可能とし、主変速レバーが前進位置又は後進位置にあるときは、エンジン始動不能としたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の乗用型農作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−244320(P2007−244320A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−74344(P2006−74344)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】