説明

二枚貝成熟卵磨砕物の添加による二枚貝浮遊幼生飼育法

【課題】 二枚貝成熟卵から二枚貝浮遊幼生の経口摂取可能な1〜2ミクロンの形状に精製された卵黄顆粒を二枚貝浮遊幼生の飼料として、特定の条件の下に添加することにより、D型期から殻頂期への生残率を向上させ、成長を促進し、また、浮遊幼生に発生するD型期から殻頂期にかけての大量斃死、成長停滞を軽減し、種苗生産数を向上させる二枚貝成熟卵磨砕物の添加による二枚貝浮遊幼生飼育法を提供することにある。
【解決手段】 二枚貝浮遊幼生に対して、二枚貝成熟卵の卵黄顆粒を経口摂取可能な1〜2ミクロンの大きさの形状にした二枚貝成熟卵磨砕物を飼料として使用し、この二枚貝成熟卵磨砕物を二枚貝浮遊幼生1〜10個/ccの条件に対し、浮遊幼生飼育水中卵黄顆粒数で5,000顆粒/ml以上の密度で、ふ化後所定期間添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カキ類、アカガイ類など二枚貝の浮遊幼生飼育において生残・成長促進に効果のある二枚貝成熟卵磨砕物を使用した二枚貝浮遊幼生飼育法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでの二枚貝浮遊幼生の飼育における生残・成長促進は、餌料となる微細藻類種による不飽和高度脂肪酸、蛋白含有量の強化等の検討、あるいは飼育密度、飼育水の管理技術によって行われていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の方法では浮遊幼生飼育において成長停滞や大量斃死の発生を回避できない事例が種や地域によって存在し、安定的な種苗生産に支障をきたして来た。
一方、イワガキ、クマサルボウ浮遊幼生での成長停滞や大量斃死が卵黄栄養の吸収終了期に発生すること、卵内の卵黄顆粒が餌料藻類より小型で経口摂取が可能な大きさであること、消化管壁細胞の表面構造から飲細胞作用による取り込みが期待できることが組織学的に確認されている。
【0004】
本発明は、上記のような課題に鑑み、その課題を解決すべく創案されたものであって、その目的とするところは、これらのことが組織学的に確認されたことに着目し、二枚貝成熟卵から二枚貝浮遊幼生の経口摂取可能な1〜2ミクロンの形状に精製された卵黄顆粒を二枚貝浮遊幼生の飼料として、特定の条件の下に添加することにより、D型期から殻頂期への生残率を向上させ、成長を促進し、また、浮遊幼生に発生するD型期から殻頂期にかけての大量斃死、成長停滞を軽減し、種苗生産数を向上させる二枚貝成熟卵磨砕物の添加による二枚貝浮遊幼生飼育法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の目的を達成するために、請求項1の発明は、二枚貝浮遊幼生に対して、二枚貝成熟卵の卵黄顆粒を経口摂取可能な1〜2ミクロンの大きさの形状にした二枚貝成熟卵磨砕物を飼料として使用し、この二枚貝成熟卵磨砕物を二枚貝浮遊幼生1〜10個/ccの条件に対し、浮遊幼生飼育水中卵黄顆粒数で5,000顆粒/ml以上の密度で、ふ化後所定期間餌料藻類と併用して添加する手段よりなるものである。
【0006】
また、請求項2の発明は、二枚貝浮遊幼生に対して、二枚貝成熟卵の卵黄顆粒を経口摂取可能な1〜2ミクロンの大きさの形状にした二枚貝成熟卵磨砕物を飼料として使用し、この二枚貝成熟卵磨砕物を二枚貝浮遊幼生1〜10個/ccの条件に対し、浮遊幼生飼育水中卵黄顆粒数で5,000〜10,000顆粒/mlの密度で、ふ化後9〜14日の間、餌料藻類と併用して添加する手段よりなるものである。
【発明の効果】
【0007】
以上の記載より明らかなように、本発明に係る二枚貝成熟卵磨砕物の添加による二枚貝浮遊幼生飼育法によれば、二枚貝成熟卵から二枚貝浮遊幼生の経口摂取可能な1〜2ミクロンの形状に精製された卵黄顆粒を二枚貝浮遊幼生の飼料として、特定の条件の下に餌料藻類と併用して添加することにより、D型期から殻頂期への生残率を向上させ、成長を促進する効果を奏し、また、二枚貝浮遊幼生に発生するD型期から殻頂期にかけての大量斃死、成長停滞を軽減し、種苗生産数を向上させる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図1、2に基づいて説明する。
本発明の二枚貝成熟卵磨砕物の添加によるイワガキ、クマサルボウなどの二枚貝の浮遊幼生飼育技術はイワガキの場合(図1)、イワガキ卵からの磨砕物によって、クマサルボウの場合(図2)、イワガキ卵、クマサルボウ卵からの磨砕物によって浮遊幼生のD型期から殻頂期への変態率の向上を実現させる。
【0009】
本発明の二枚貝成熟卵磨砕物の添加によるイワガキ、クマサルボウの浮遊幼生飼育の生残・成長の促進技術はクマサルボウ、イワガキの浮遊幼生に発生するD型期から殻頂期にかけての大量斃死、成長停滞を軽減(表1,2)し、種苗生産数の向上を実現させる。
【0010】
【表1】

【0011】
【表2】

【0012】
次に添加方法に付いて説明する。
二枚貝浮遊幼生に対して、二枚貝成熟卵の卵黄顆粒を経口摂取可能な1〜2ミクロンの大きさの形状にした二枚貝成熟卵磨砕物を飼料として餌料藻類と併用して使用し、この二枚貝成熟卵磨砕物を二枚貝浮遊幼生1〜10個/ccの条件に対し、浮遊幼生飼育水中卵黄顆粒数で5,000顆粒/ml以上の密度、好ましくは5,000〜10,000顆粒/mlの密度で、ふ化後所定期間、好ましくはふ化後9〜14日の間添加する。
【0013】
即ち、二枚貝卵磨砕物は、二枚貝浮遊幼生1〜10個/ccの条件に対し、ふ化後1日目の浮遊幼生からふ化後9〜14日目、より好ましくはふ化後10日目の浮遊幼生までの間、毎日飼育水中に卵黄顆粒数で好ましくは5,000〜10,000顆粒/mlの密度となるよう調整して添加する。餌料藻類の給餌は一般的な飼育方法に準じて良い。なお、二枚貝成熟卵磨砕物は、卵黄顆粒数で10,000顆粒/ml以上の密度を大幅に超えて添加すると飼育水が汚染されることがあり好ましくない。
【0014】
本発明の二枚貝成熟卵磨砕物の添加による二枚貝浮遊幼生飼育技術は、二枚貝成熟卵磨砕物の浮遊幼生飼育水中への添加が1日1回である。
【0015】
本発明の二枚貝成熟卵磨砕物の添加による二枚貝浮遊幼生飼育技術は、二枚貝成熟卵磨砕物の添加が2日毎の全換水条件で生残率の低下に影響がない。
【0016】
なお、本発明は上記発明を実施するための最良の形態に限定されるものではなく、本発明の精神を逸脱しない範囲で種々の改変をなし得ることは勿論である。
【実施例】
【0017】
以下本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定したものではない。
【0018】
〔実施例1〕
二枚貝のうちイワガキ・クマサルボウ浮遊幼生の種苗生産数の向上を目的として、両種成熟卵磨砕物の添加効果を調べた。
【0019】
実験は2004年5月13日から10月1日の間に4回行った。実験開始時の飼育密度は2.9〜10個体/mlとし、餌料藻は C.calcitransP.lutheriを用いた。実験区はイワガキでは同種卵磨砕物添加区と対照(非添加)区、クマサルボウでは同種卵磨砕物添加区およびイワガキ卵磨砕物区と対照(非添加)区を設定した。卵磨砕物は4000万〜7000万顆粒/mlの密度で作成し、凍結保存したものを飼育水槽に2000〜10000顆粒/mlの密度で添加した。添加期間は9〜18日で、この間対照区には、卵磨砕物に相当する体積の C.calcitrans.を添加した。水温はウォーターバスで25〜25.5℃の恒温とし、餌料量は成長に併せてC. calcitrans小型株8,000〜100,000細胞/ml、C. calcitrans 5,000〜10,000細胞/ml、P. lutheri 3,000〜10,000細胞/mlを給餌した。
【0020】
イワガキでは、卵磨砕物添加区の殻頂期移行期(ふ化後8〜13日目)の生残率がいずれの飼育実験においても対照区より14.4〜59.0%高く、殻頂期幼生(殻長115μm以上)の出現率は15.3〜53.3%高かった。卵磨砕物顆粒の密度を1000、5000、10,000顆粒/mlと変えた実験では、ふ化後9日目の生残率では1000、5000、10,000区がそれぞれ50.0、40.6、59.1%であったのに対して13日目では16.0、44.4、72.3%であった。
【0021】
クマサルボウでは同種卵磨砕物添加区およびイワガキ卵磨砕物区と対照(非添加)区を設定した。クマサルボウでは、卵磨砕物添加区の殻頂期移行期(ふ化後11〜13日目)の生残率が対照区より2.4、8.6%高く、殻頂期幼生(殻長120μm以上)の出現比率は卵磨砕物添加区が対照区より32.9、35.6%高かった。なお、添加期間や種の異同による差は見られなかった。以上の結果から、イワガキ、クマサルボウ浮遊幼生のD型幼生から殻頂期に移行する時期の成長停滞や減耗に対して卵磨砕物の添加は有効であると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、二枚貝人工種苗の安定生産を可能とし、水産業における増養殖分野(養殖業および栽培漁業)において貢献度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のイワガキ殻頂期(殻長120μm以上)出現率の推移を示す図である。
【図2】本発明のクマサルボウ殻頂期(殻長120μm以上)出現率の推移を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二枚貝浮遊幼生に対して、二枚貝成熟卵の卵黄顆粒を経口摂取可能な1〜2ミクロンの大きさの形状にした二枚貝成熟卵磨砕物を飼料として使用し、この二枚貝成熟卵磨砕物を二枚貝浮遊幼生1〜10個/ccの条件に対し、浮遊幼生飼育水中卵黄顆粒数で5,000顆粒/ml以上の密度で、ふ化後所定期間餌料藻類と併用して添加することを特徴とする二枚貝成熟卵磨砕物の添加による二枚貝浮遊幼生飼育法。
【請求項2】
二枚貝浮遊幼生に対して、二枚貝成熟卵の卵黄顆粒を経口摂取可能な1〜2ミクロンの大きさの形状にした二枚貝成熟卵磨砕物を飼料として使用し、この二枚貝成熟卵磨砕物を二枚貝浮遊幼生1〜10個/ccの条件に対し、浮遊幼生飼育水中卵黄顆粒数で5,000〜10,000顆粒/mlの密度で、ふ化後9〜14日の間、餌料藻類と併用して添加することを特徴とする二枚貝成熟卵磨砕物の添加による二枚貝浮遊幼生飼育法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−271209(P2006−271209A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−90524(P2005−90524)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【Fターム(参考)】