説明

二次電池の制御装置およびSOC検出方法

【課題】正極材料として、充電時と放電時とで開路電圧曲線の異なる正極活物質を用いた二次電池において、放電時におけるSOCを適切に検出可能な二次電池の制御装置を提供すること。
【解決手段】正極材料として、充電時と放電時とで開路電圧曲線の異なる正極活物質を用いた二次電池の制御装置であって、充電から放電に切替えた際のSOCである切替時SOCごとに、放電過程におけるSOCと開路電圧との関係を、放電時開路電圧情報として記憶する記憶手段と、実際に充電から放電に切替えた際の切替時SOCと、前記記憶手段に記憶されている前記放電時開路電圧情報に基づいて、前記二次電池の放電過程におけるSOCを算出するSOC算出手段と、を備えることを特徴とする二次電池の制御装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の制御装置および二次電池のSOC検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池などの二次電池において、高電圧化および高容量化を目的として、種々の正極活物質材料が検討されている。このような正極活物質として、たとえば、特許文献1には、LiMnO−LiMO(Mは、平均酸化状態が3+である遷移金属)などの固溶体材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−270201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されている固溶体材料は、その組成等によっては、充電時の開路電圧曲線と、放電時の開路電圧曲線とが大きく異なるヒステリシス現象が発生する場合ある。そして、このようなヒステリシス現象が発生する正極活物質を二次電池に適用した場合には、該二次電池は、ヒステリシス現象の影響により、放電開始時のSOCによって、放電時の開路電圧曲線が異なってしまうため、放電過程におけるSOCを適切に検出することができないという課題があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、正極材料として、充電時と放電時とで開路電圧曲線の異なる正極活物質を用いた二次電池において、放電時におけるSOCを適切に検出可能な二次電池の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、正極材料として、充電時と放電時とで開路電圧曲線の異なる正極活物質を用いた二次電池の制御装置において、充電から放電に切替えた際のSOCである切替時SOCごとに、放電過程におけるSOCと開路電圧との関係を、放電時開路電圧情報として予め記憶しておき、予め記憶した放電時開路電圧情報に基づいて、二次電池の放電過程におけるSOCを算出することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、実際に充電から放電に切替えた際の切替時SOCに対応した、SOCと開路電圧との関係に基づいて、放電過程におけるSOCを算出することができるため、正極材料として、充電時と放電時とで開路電圧曲線の異なる正極活物質を用いた二次電池において、放電時におけるSOCを適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本実施形態に係る二次電池の制御システムを示す構成図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る二次電池の平面図である。
【図3】図3は、図2のIII-III線に沿った二次電池の断面図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る二次電池の充放電特性を示すグラフである。
【図5】図5は、本実施形態に係る二次電池の充放電特性を示すグラフである。
【図6】図6は、本実施形態におけるSOCの算出処理を示すフローチャートである。
【図7】図7は、実施例における充放電プロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る二次電池の制御システムの構成を示す図である。本実施形態に係る二次電池の制御システムは、図1に示すように、二次電池10と、制御装置20と、電流計30と、電圧計40とを備えている。
【0011】
制御装置20は、二次電池10を制御するための装置であり、電流計30により検出された二次電池10に流れる充放電電流、および電圧計40により検出された二次電池10の端子電圧に基づいて、二次電池10の充電および放電の制御、ならびに、二次電池10のSOC(State of Charge)の算出を行なう。
【0012】
二次電池10としては、たとえば、リチウムイオン二次電池などのリチウム系二次電池などが挙げられる。図2に、本実施形態に係る二次電池10の平面図、図3に、図2のIII- III線に沿った二次電池10の断面図を示す。
【0013】
二次電池10は、図2、図3に示すように、3枚の正極板102、7枚のセパレータ103、3枚の負極板104を有する電極積層体101と、当該電極積層体101にそれぞれ接続された正極タブ105および負極タブ106と、これら電極積層体101および正極タブ105、負極タブ106を収容して封止している上部外装部材107および下部外装部材108と、特に図示しない電解液とから構成されている。
【0014】
なお、正極板102、セパレータ103、負極板104の枚数は特に限定されず、1枚の正極板102、3枚のセパレータ103、1枚の負極板104で、電極積層体101を構成してもよいし、また、必要に応じて正極板102、セパレータ103および負極板104の枚数を適宜選択してもよい。
【0015】
電極積層体101を構成する正極板102は、正極タブ105まで伸びている正極側集電体104a、および正極側集電体104aの一部の両主面にそれぞれ形成された正極活物質層とを有している。正極板102を構成する正極側集電体102aとしては、たとえば、厚さ20μm程度のアルミニウム箔、アルミニウム合金箔、銅箔、または、ニッケル箔等の電気化学的に安定した金属箔で構成することができる。
【0016】
正極板102を構成する正極活物質層は、正極活物質と、カーボンブラック等の導電剤と、ポリフッ化ビニリデンや、ポリ四フッ化エチレンの水性ディスパージョン等の接着剤とを混合したものを、正極側集電体104aの一部の主面に塗布し、乾燥および圧延することにより形成されている。
【0017】
本実施形態に係る二次電池10は、正極板102を構成する正極活物質層中に、正極活物質として、充電時と放電時とで開路電圧曲線の異なる正極活物質、すなわち、充放電曲線にヒステリシスを有する正極活物質を少なくとも含有する。このような充電時と放電時とで開路電圧曲線の異なる正極活物質としては、特に限定されないが、たとえば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。特に、下記一般式(1)で表される化合物は、高電位かつ高容量であるため、正極活物質として、このような化合物を用いることにより、二次電池10を高いエネルギー密度を有するものとすることができる。なお、下記一般式(1)で表される化合物は、通常、固溶体を形成している。
aLi[Li1/3Mn2/3]O・(1−a)Li[NiCoMn]O ・・・(1)
(0<a<1、w+x+y+z=1、0≦w,x,y,z≦1、Aは金属元素)
【0018】
また、上記一般式(1)で表される化合物において、Aとしては、金属元素(Li,Ni,Co,Mn以外の金属元素)であれば何でもよく特に限定されないが、Fe,V,Crから選択される少なくとも1種が好ましく、なかでもFeが特に好ましい。
【0019】
また、上記一般式(1)において、w,x,y,zは、w+x+y+z=1、0≦w,x,y,z≦1を満たす範囲であればよく特に限定されないが、z=0であることが好ましい。すなわち、下記一般式(2)で表される化合物であることがより好ましい。
aLi[Li1/3Mn2/3]O・(1−a)Li[NiCoMn]O ・・・(2)
(0<a<1、w+x+y=1、0≦w,x,y≦1)
【0020】
なお、正極活物質層には、上述した充電時と放電時とで開路電圧曲線の異なる正極活物質以外の正極活物質、たとえば、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、コバルト酸リチウム(LiCoO)等のリチウム複合酸化物や、カルコゲン(S、Se、Te)化物等を含有していてもよい。
【0021】
そして、これら3枚の正極板102を構成する各正極側集電体102aが、正極タブ105に接合されている。正極タブ105としては、たとえば、厚さ0.2mm程度のアルミニウム箔、アルミニウム合金箔、銅箔、または、ニッケル箔等を用いることができる。
【0022】
電極積層体101を構成する負極板104は、負極タブ106まで伸びている負極側集電体104aと、当該負極側集電体104aの一部の両主面にそれぞれ形成された負極活物質層とを有している。
【0023】
負極板104の負極側集電体104aは、例えば、厚さ10μm程度のニッケル箔、銅箔、ステンレス箔、または、鉄箔等の電気化学的に安定した金属箔である。
【0024】
また、負極板104を構成する負極活物質層は、たとえば、非晶質炭素、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、または、黒鉛等のような上記の正極活物質のリチウムイオンを吸蔵及び放出する負極活物質に、有機物焼成体の前駆体材料としてのスチレンブタジエンゴム樹脂粉末の水性ディスパージョンを混合し、乾燥させた後に粉砕することで、炭素粒子表面に炭化したスチレンブタジエンゴムを担持させたものを主材料とし、これにアクリル樹脂エマルジョン等の結着剤をさらに混合し、この混合物を負極側集電体104aの一部の両主面に塗布し、乾燥および圧延することにより形成されている。
【0025】
なお、本実施形態の二次電池10では、3枚の負極板104は、負極板104を構成する各負極側集電体104aが、単一の負極タブ106に接合されるような構成となっている。すなわち、本実施形態の二次電池10では、各負極板104は、単一の共通の負極タブ106に接合された構成となっている。
【0026】
電極積層体101のセパレータ103は、上述した正極板102と負極板104との短絡を防止するもので、電解質を保持する機能を備えてもよい。このセパレータ103は、例えば、厚さ25μm程度のポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン等から構成される微多孔性膜であり、過電流が流れると、その発熱によって、層の空孔が閉塞され、電流を遮断する機能をも有するものである。
【0027】
そして、図3に示すように、正極板102と負極板104とは、セパレータ103を介して、交互に積層され、さらに、その最上層および最下層にセパレータ103がそれぞれ積層されており、これにより、電極積層体101が形成されている。
【0028】
二次電池10に含有される電解液は、有機液体溶媒に過塩素酸リチウム(LiClO)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF)などのリチウム塩を溶質として溶解させた液体である。電解液を構成する有機液体溶媒としては、たとえば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ギ酸メチル(MF)、酢酸メチル(MA)、プロピオン酸メチル(MP)等のエステル系溶媒を挙げることができ、これらは混合して用いることができる。
【0029】
以上のように構成されている電極積層体101は、上部外装部材107および下部外装部材108(封止手段)に収容されて封止されている。電極積層体101を風刺するための上部外装部材107および下部外装部材108は、たとえば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂フィルムや、アルミニウムなどの金属箔の両面をポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂でラミネートした、樹脂−金属薄膜ラミネート材など、柔軟性を有する材料で形成されており、これら上部外装部材107および下部外装部材108を熱融着することにより、正極タブ105および負極タブ106を外部に導出させた状態で、電極積層体101が封止されることとなる。
【0030】
なお、正極タブ105および負極タブ106には、上部外装部材107および下部外装部材108と接触する部分に、上部外装部材107および下部外装部材108との密着性を確保するために、シールフィルム109が設けられている。シールフィルム109としては、特に限定されないが、たとえば、ポリエチレン、変性ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリプロピレン、または、アイオノマー等の耐電解液性及び熱融着性に優れた合成樹脂材料から構成することができる。
【0031】
本実施形態に係る二次電池10は、以上のように構成される。
【0032】
次いで、本実施形態に係る二次電池10の充放電特性について説明する。上述したように、二次電池10は、正極活物質として、充電時と放電時とで開路電圧曲線の異なる正極活物質、すなわち、充放電曲線にヒステリシスを有する正極活物質を用いるものである。そのため、二次電池10は、図4に示すように、充電時の開路電圧曲線と、放電時の開路電圧曲線とが異なり、ヒステリシスを有するものとなる。すなわち、図4に示すように、二次電池10の充電を行なった場合には、図4中に示す充電時の開路電圧曲線にしたがって、SOCの上昇に伴って、二次電池10の開路電圧が上昇していくこととなる。そして、所定の満充電電圧Vmax(SOC=100%)まで充電を行なった後、充電から放電に切替えて、放電を行なった場合には、図4中に示す充電時の開路電圧曲線にしたがって、放電されていくこととなる。
【0033】
すなわち、二次電池10は、図4に示すように、同じSOCでも、充電時と放電時とで開路電圧の値が大きく異なるという性質を有している。そのため、たとえば、図4中に示すように、SOCが同じSOCであっても、充電時には開路電圧はVとなる一方で、放電時には開路電圧はVとなり、充電時と放電時とで電圧差ΔV=V−Vを生じることとなる。
【0034】
加えて、二次電池10においては、たとえば、図5に示すように、二次電池10を充電していき、SOCがSOCとなった段階(開路電圧=Vとなった段階)で、充電を終了し、充電から放電に切替えて、放電を行った場合には、図5中に点線で示す開路電圧曲線にしたがって放電が行なわれることとなる。すなわち、この場合には、図5に示すように、満充電まで充電を行なった場合とは異なる開路電圧曲線にしたがって、放電が行なわれることとなる。
【0035】
そのため、たとえば、図5に示す例において、SOCがSOCとなった段階(開路電圧=Vとなった段階)で、充電を終了し、充電から放電に切替えて、放電を行った結果、たとえば、二次電池10の開路電圧がVとなった場合に、実際のSOCはSOCとなる。しかしその一方で、たとえば、図5に示す満充電状態(SOC=100%)から放電を行なった場合における開路電圧曲線においては、開路電圧がVである場合には、SOCはSOCとなり、実際のSOCの値よりΔSOC=SOC−SOCだけ乖離してしまうこととなる。
【0036】
したがって、本実施形態のように、正極活物質として、充電時と放電時とで開路電圧曲線の異なる正極活物質を用いた二次電池10の場合においては、二次電池10の放電時において、二次電池10の開路電圧から、二次電池10のSOCを算出する際には、次のような課題がある。すなわち、二次電池10の開路電圧から、二次電池10のSOCを算出する際に、図5に示す満充電状態(SOC=100%)から放電を行なった場合における開路電圧曲線のみを用いた場合には、実際のSOCと異なる値が算出されてしまい、そのため、このような場合には、二次電池10のSOCを適切に算出することができない場合がある。
【0037】
これに対して、本実施形態においては、このような二次電池10の特性に対し、制御装置20に、二次電池10の充電から放電に切替えた際のSOC(放電終了時のSOC)である切替時SOCchangeごとに、放電時の開路電圧曲線PSOCを記憶させておき、切替時SOCchangeごとの開路電圧曲線PSOCを用いることで、上記のような問題を解決するものである。すなわち、本実施形態では、図5に示すような、満充電状態(SOC=100%)において充電から放電に切替えた際の放電時の開路電圧曲線P100、およびSOCがSOCの状態において充電から放電に切替えた際の放電時の開路電圧曲線PSOC_3を含む、切替時SOCchangeごとの開路電圧曲線PSOCを、制御装置200に予め記憶させておき、二次電池10の開路電圧、および切替時SOCchangeごとの開路電圧曲線PSOCを用いて、二次電池10のSOCを算出するものである。なお、本実施形態においては、切替時SOCchangeごとの開路電圧曲線PSOCは、たとえば、二次電池10について、各SOCまで実際に充電を行ない、次いで、充電から放電に切替えて、実際に放電を行ない、実際に充放電を行なった際におけるデータを実測することで得ることができる。
【0038】
次いで、本実施形態の動作例を説明する。図6は、本実施形態におけるSOCの算出処理を示すフローチャートである。なお、以下においては、まず、二次電池10の充電を行ない、その後、二次電池10の充電を終了し、充電から放電に切替えて、二次電池10の放電を行なった場合における動作例を説明する。
【0039】
まず、ステップS1では、制御装置20により、二次電池10の充電が開始されたか否かの判定が行なわれる。二次電池10の充電が開始された場合には、ステップS2に進み、一方、二次電池10の充電が開始されない場合には、充電が開始されるまでステップS1に待機する。
【0040】
ステップS2では、制御装置20により、電圧計40で測定された二次電池10の端子電圧および電流計30で測定された二次電池10の電流値を取得する処理が行なわれる。
【0041】
ステップS3では、制御装置20により、制御装置20に予め記憶されている二次電池10の充電時における開路電圧曲線Rを読み出す処理が実行される。なお、制御装置20は、上述した切替時SOCchangeごとの放電時の開路電圧曲線PSOCに加えて、図4、図5に示す充電時における開路電圧曲線Rを記憶している。
【0042】
次いで、ステップS4では、制御装置20により、二次電池10の現在のSOCを算出する処理が実行される。具体的には、制御装置20は、まず、ステップS2で取得した二次電池10の端子電圧および電流値から、二次電池10の現在の開路電圧を算出する。なお、二次電池10の現在の開路電圧の算出方法としては、特に限定されないが、たとえば、二次電池10の端子電圧および電流値のデータを複数用いて、複数の端子電圧および電流値のデータから、回帰直線を用いて、電流値がゼロの場合における端子電圧の値を推定し、これを開路電圧として算出する方法などが挙げられる。
【0043】
そして、制御装置20は、算出した二次電池10の開路電圧と、ステップS3で読み出した充電時における開路電圧曲線Rとに基づいて、二次電池10の現在のSOCを算出する。すなわち、制御装置20は、ステップS3で読み出した充電時における開路電圧曲線R上において、上記にて算出した二次電池10の開路電圧に相当するSOCを求め、これを二次電池10の現在のSOCとして算出する。
【0044】
次いで、ステップS5では、制御装置20により、二次電池10の充電が終了したか否かの判定が行なわれる。二次電池10の充電が終了した場合には、ステップS6に進む。一方、二次電池10の充電が終了していない場合には、ステップS2に戻り、二次電池10の充電が終了するまで、上述したステップS2〜S4の処理を繰り返し実行する。
【0045】
ステップS5において、二次電池10の充電が終了したと判定された場合には、ステップS6に進み、ステップS6では、制御装置20により、電圧計40で測定された二次電池10の端子電圧を取得する処理が行なわれる。
【0046】
次いで、ステップS7に進み、ステップS7では、制御装置20により、制御装置20に予め記憶されている二次電池10の充電時における開路電圧曲線Rを読み出す処理が実行される。
【0047】
次いで、ステップS8では、制御装置20により、切替時SOCchangeを算出する処理が実行される。具体的には、まず、制御装置20は、二次電池10の現在の開路電圧を算出する。なお、二次電池10の現在の開路電圧としては、たとえば、上述したステップS4と同様に、二次電池10の充電中に測定した二次電池10の端子電圧および電流値、さらには、ステップS7で取得した二次電池10の端子電圧のデータから、回帰直線を用いて、電流値がゼロの場合における端子電圧の値を推定し、これを開路電圧として算出する方法が挙げられる。あるいは、ステップS6で取得した二次電池10の端子電圧が、開路電圧と等しいと判断できるような場合(たとえば、テップS7で取得した二次電池10の端子電圧が、二次電池10の充電を終了してから所定時間経過した後に測定したデータである場合)には、ステップS7で取得した二次電池10の端子電圧をそのまま開路電圧としてもよい。
【0048】
そして、制御装置20は、算出した二次電池10の開路電圧と、ステップS7で読み出した充電時における開路電圧曲線Rとに基づいて、切替時SOCchangeを算出する。すなわち、制御装置20は、ステップS7で読み出した充電時における開路電圧曲線R上において、算出した二次電池10の開路電圧に相当するSOCを求め、これを切替時SOCchangeとして算出する。たとえば、図5に示す例において、開路電圧がVであった場合には、制御装置20は、充電時における開路電圧曲線Rを参照し、開路電圧Vに対応するSOCを、切替時SOCchangeとして算出する。
【0049】
次いで、ステップS9では、制御装置20により、制御装置20に予め記憶されている、切替時SOCchangeごとの開路電圧曲線PSOCのうちから、ステップS8で算出した切替時SOCchangeに対応する開路電圧曲線PSOCを読み出す処理が実行される。たとえば、図5に示す例において、切替時SOCchangeが、SOCであった場合には、開路電圧曲線PSOCとして、SOCに対応する開路電圧曲線PSOC_3が、読み出される。
【0050】
次いで、ステップS10では、制御装置20により、二次電池10の放電が開始されたか否かの判定が行なわれる。二次電池10の放電が開始された場合には、ステップS12に進む。一方、二次電池10の放電が開始されない場合には、ステップS11に進み、二次電池10の充電が開始されたか否かの判断を行ない、二次電池10の放電が開始されるまで、あるいは、二次電池10の充電が再度開始されるまで、ステップS10で待機する。また、ステップS11において、二次電池10の充電が再度開始された場合には、ステップS2に戻り、上述したステップS2〜S9の処理を再度、実行する。
【0051】
ステップS10において、二次電池10の放電が開始されたと判定された場合には、ステップS12に進み、ステップS12では、制御装置20により、電圧計40で測定された二次電池10の端子電圧および電流計30で測定された二次電池10の電流値を取得する処理が行なわれる。
【0052】
次いで、ステップS13では、制御装置20により、二次電池10の現在のSOCを算出する処理が実行される。具体的には、制御装置20は、まず、ステップS12で取得した二次電池10の端子電圧および電流値から、二次電池10の現在の開路電圧を算出する。なお、二次電池10の現在の開路電圧の算出方法としては、特に限定されないが、たとえば、上述したステップS4と同様に、二次電池10の端子電圧および電流値のデータを複数用いて、複数の端子電圧および電流値のデータから、回帰直線を用いて、電流値がゼロの場合における端子電圧の値を推定し、これを開路電圧として算出する方法などが挙げられる。
【0053】
そして、制御装置20は、算出した二次電池10の開路電圧と、ステップS9で読み出した切替時SOCchangeに対応する開路電圧曲線PSOCとに基づいて、二次電池10の現在のSOCを算出する。すなわち、制御装置20は、ステップS9で読み出した切替時SOCchangeに対応する開路電圧曲線PSOC上において、上記にて算出した二次電池10の開路電圧に相当するSOCを求め、これを二次電池10の現在のSOCとして算出する。たとえば、図5に示す例において、開路電圧がVであった場合には、制御装置20は、切替時SOCchangeであるSOCに対応する開路電圧曲線PSOC_3を参照し、開路電圧Vに対応するSOCを、現在の二次電池10のSOCとして算出する。
【0054】
次いで、ステップS14では、制御装置20により、二次電池10の放電が終了したか否かの判定が行なわれる。二次電池10の放電が終了した場合には、本処理を終了する。一方、二次電池10の放電が終了していない場合には、ステップS12に戻り、二次電池10の放電が終了するまで、上述したステップS12〜S13の処理を繰り返し実行する。すなわち、二次電池10の放電が終了するまで、ステップS9で読み出した切替時SOCchangeに対応する開路電圧曲線PSOCに基づいて、二次電池10の現在のSOCを算出する処理を繰り返し実行する。
【0055】
本実施形態に係るSOCの算出処理は、以上のようにして実行される。
【0056】
本実施形態によれば、二次電池10の充電から放電に切替えた際のSOC(放電終了時のSOC)である切替時SOCchangeごとに、放電時の開路電圧曲線PSOCを記憶させておき、実際に充電から放電への切替えを行なった際のSOC(放電終了時のSOC)に対応する開路電圧曲線PSOCを選択し、選択した開路電圧曲線PSOCから、二次電池10の開路電圧に対応するSOCを、二次電池10の現在のSOCとして算出するものである。そのため、本実施形態によれば、充電から放電への切替えを行なった際のSOCである切替時SOCchangeに拘わらず、放電中における、二次電池10の現在のSOCを適切に算出することができる。そして、これにより二次電池10のSOCの算出精度を向上させることができる。
【0057】
加えて、本実施形態によれば、切替時SOCchangeごとの開路電圧曲線PSOCとして、二次電池10について、各SOCまで実際に充電を行ない、次いで、充電から放電に切替えて、実際に放電を行ない、実際に充放電を行なった際におけるデータを実測することで得たものを用いることにより、SOCの算出精度の更なる向上を実現することができる。
【0058】
なお、上述の実施形態において、二次電池10は本発明の二次電池に、制御装置20は本発明の記憶手段およびSOC算出手段に、それぞれ相当する。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0060】
たとえば、上述した実施形態では、切替時SOCchangeごとの開路電圧曲線PSOCとして、各SOCごとに、実際に充放電を行なった際におけるデータを実測することで得たものを用いる例を示したが、たとえば、所定の切替時SOCchangeがSOC=100%である開路電圧曲線P100のみを記憶しておくような構成としてもよい。そして、この場合には、開路電圧曲線P100から、所定の関係式を用いて、実際の切替時SOCchangeに対応する開路電圧曲線PSOCを算出することで、実際の切替時SOCchangeに対応する開路電圧曲線PSOCを得ることができる。このような構成を採用することにより、制御装置20における記憶量を低減することができ、制御装置200の負荷を低減することができる。なお、この場合においては、所定の切替時SOCchangeがSOC=100%である開路電圧曲線P100に代えて、たとえば、所定の切替時SOCchangeがSOC=80%である開路電圧曲線P80や所定の切替時SOCchangeがSOC=50%である開路電圧曲線P50を記憶しているような構成とすることももちろん可能であり、さらには、複数の開路電圧曲線PSOC(たとえば、開路電圧曲線P100、P80、P50)を記憶しているような構成とすることももちろん可能である。
【0061】
あるいは、切替時SOCchangeごとの開路電圧曲線PSOCとして、各SOCごとに、実際に充放電を行なった際におけるデータを実測することで得たものを用いる代わりに、切替時SOCchangeごとの開路電圧曲線PSOCを計算するための所定の関係式のみを記憶しておき、関係式のみを用いて、実際の切替時SOCchangeに対応する開路電圧曲線PSOCを算出するような構成を採用してもよい。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0063】
<正極活物質の合成>
正極活物質の合成は、複合炭酸塩法を用い以下のように行った。まず、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを所定量秤量し、これらをイオン交換水に溶解させて、2Mの混合水溶液を得た。次いで、得られた水溶液に、炭酸ナトリウム水溶液を滴下させることにより、Ni−Co−Mnの複合炭酸塩を沈殿ささた。次いで、Ni−Co−Mnの複合炭酸塩を沈殿させた水溶液から、揮発分を蒸発させ、乾燥を行い、次いで、焼成温度700℃で焼成することによりNi−Co−Mnの複合酸化物を得た。そして、得られたNi−Co−Mnの複合酸化物と、水酸化リチウムを混合し、大気中900℃で焼成することにより、正極活物質を得た。なお、得られた正極活物質は、固溶体となっており、また、その組成はLi[Ni0.213Li0.180Co0.033Mn0.573]Oであった。
【0064】
<二次電池の作製>
次いで、上記にて得られた固溶体正極活物質を用いて、正極を作製した。具体的には、組成比が、固溶体正極活物質:導電助剤:結着材=85:10:5(重量比)となるように、固溶体正極活物質、カーボン系導電助剤、および高分子系結着材を、N−メチルピロリドンに分散させることにより、正極用スラリーを調製した。そして、得られた正極用スラリーを、アルミニウム箔上に塗布することで正極を得た。なお、得られた正極の単面積あたりの活物質量は、10mg程度であった。そして、得られた正極から15mmφの大きさの正極サンプルを作製した。
【0065】
次いで、上記とは別に負極を作製した。負極は、負極活物質としてグラファイトを、導電性結着材としてTAB−2(アセチレンブラック:PTFEバインダ=1:1(重量比))を用いた。また、負極集電体には、ステンレスメッシュを用い、16mmφの大きさの負極サンプルを作製した。
【0066】
そして、上記にて得られた15mmφの正極サンプル、および16mmφの負極サンプルを、乾燥機にて120℃、4時間乾燥させた。次いで、乾燥させた正極サンプルおよび負極サンプルの間に、厚さ20μmのポリプロピレンの多孔質膜2枚を介し、正負極を対向させ、コインセルの底部の上に重ねあわせ、正負極間の絶縁性を保つためにガスケットを装着後、シリンジを用いることにより電解液を注液して、スプリング及びスペーサーを積層後、コインセルの上部を重ね合わせかしめを行うことで、二次電池を得た。なお、電解液としては、1M LiPF エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)(1:2(体積比))を用いた。
【0067】
<充放電前処理>
そして、上記にて得られた二次電池を、0.1C(1C=200mAh/g)の定電流にて、4.4Vに達するまで充電を行ない、次いで、0.1Cの定電流にて2.0Vまで放電を行なった。次いで、充電の終止電圧を4.4V、4.5V、4.6V、4.7Vにそれぞれ変更して、0.1Cの定電流充電および0.1Cの定電流放電(カットオフ電圧:2.0V)を繰り返し行なうことで、充放電前処理を実行した。
【0068】
<充放電試験>
上記にて充放電前処理を行なった二次電池について、充電の終止電圧を4.7V、4.6V、4.5V、4.05V、3.7Vにそれぞれ変更して、0.1Cの定電流充電および0.1Cの定電流放電(カットオフ電圧:2.0V)を繰り返し行なうことで、充放電試験を行った。充放電試験の結果得られた充放電曲線を図7に示す。
【0069】
そして、本実施例では、図7に示す充放電曲線のうち、充電の終止電圧を3.7Vとし、次いで、放電を行なった際に、本発明によるSOC算出手法、従来例におけるSOC算出手法、実測によるSOC算出手法により、放電時の開路電圧が3.50Vの時点におけるSOCを算出した。なお、本発明によるSOC算出手法においては、予め記憶している切替時SOCchangeごとの開路電圧曲線PSOCのうち、充電終了時の開路電圧3.7Vに対応する切替時SOCであるSOCに対応する開路電圧曲線PSOC_6を用いて、SOCの算出を行なった。また、におけるSOC算出方法においては、満充電時の開路電圧曲線P100を用いて、SOCの算出を行なった。以下に、算出結果を示す。
本発明によるSOC算出結果 SOC=40.0%
従来例におけるSOC算出結果 SOC=52.3%
実測によるSOC算出結果 SOC=40.9%
以上より、本発明によるSOC算出手法によれば、実測によるSOC算出結果と極めて近い結果が得られることが確認できる。
【0070】
同様に、図7に示す充放電曲線のうち、充電の終止電圧を4.05Vとし、次いで、放電を行なった際に、本発明によるSOC算出手法、従来例におけるSOC算出手法、実測によるSOC算出手法により、放電時の開路電圧が3.84Vの時点におけるSOCを算出したところ、以下の結果が得られた。なお、本発明によるSOC算出手法においては、予め記憶している切替時SOCchangeごとの開路電圧曲線PSOCのうち、充電終了時の開路電圧4.05Vに対応する切替時SOCであるSOCに対応する開路電圧曲線PSOC_7を用いて、SOCの算出を行なった。
本発明によるSOC算出結果 SOC=65.8%
従来例におけるSOC算出結果 SOC=75.2%
実測によるSOC算出結果 SOC=65.8%
以上より、本発明によるSOC算出手法によれば、実測によるSOC算出結果と極めて近い結果が得られることが確認できる。
【符号の説明】
【0071】
10…二次電池
20…制御装置
30…電流計
40…電圧計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極材料として、充電時と放電時とで開路電圧曲線の異なる正極活物質を用いた二次電池の制御装置であって、
充電から放電に切替えた際のSOCである切替時SOCごとに、放電過程におけるSOCと開路電圧との関係を、放電時開路電圧情報として記憶する記憶手段と、
実際に充電から放電に切替えた際の切替時SOCと、前記記憶手段に記憶されている前記放電時開路電圧情報に基づいて、前記二次電池の放電過程におけるSOCを算出するSOC算出手段と、を備えることを特徴とする二次電池の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の二次電池の制御装置において、
前記正極活物質が、下記一般式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする二次電池の制御装置。
aLi[Li1/3Mn2/3]O・(1−a)Li[NiCoMn]O ・・・(1)
(0<a<1、w+x+y+z=1、0≦w,x,y,z≦1、Aは金属元素)
【請求項3】
請求項1または2に記載の二次電池の制御装置において、
前記記憶手段は、前記放電時開路電圧情報として、前記切替時SOCごとに、放電過程におけるSOCと開路電圧との関係を実測することにより得られた情報を記憶していることを特徴とする二次電池の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の二次電池の制御装置において、
前記記憶手段は、前記放電時開路電圧情報として、所定のSOCにおいて充電から放電に切替えて放電を行なった際に、放電過程におけるSOCと開路電圧との関係を実測することにより得られた所定SOC放電時開路電圧情報を少なくとも1つ記憶しており、
前記SOC算出手段は、前記所定SOC放電時開路電圧情報から、実際に充電から放電に切替えた際の切替時SOCに対応する、放電過程におけるSOCと開路電圧との関係を算出し、算出されたSOCと開路電圧との関係に基づいて、前記二次電池の放電過程におけるSOCを算出することを特徴とする二次電池の制御装置。
【請求項5】
正極材料として、充電時と放電時とで開路電圧曲線の異なる正極活物質を用いた二次電池のSOCを検出する方法であって、
充電から放電に切替えた際のSOCである切替時SOCごとに定まる、放電過程におけるSOCと開路電圧との関係と、前記二次電池の放電開始時のSOCとに基づいて、前記二次電池の放電過程におけるSOCを算出することを特徴とする二次電池のSOC検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−105519(P2013−105519A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246141(P2011−246141)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発事業/要素技術開発/高容量電池の研究開発委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】