説明

二次電池用セパレータの製造方法,非水電解質二次電池,および二次電池用セパレータの製造装置

【課題】電池の出力性能の低下を抑制する二次電池用セパレータの製造方法,非水電解質二次電池,および二次電池用セパレータの製造装置を提供すること。
【解決手段】二次電池用のセパレータ63の製造方法では,押出成形によってセパレータ63を作製する。そして,セパレータ63の押出成形時に,交流電源80に接続する磁場形成部74,75によって,ダイ71の周囲に磁場を形成する。この磁場は,ダイ71内の樹脂材料630の流路712を,磁束が跨ぐように形成される。そして,その磁場内を,セパレータ63を構成する樹脂材料630が通過する。これにより,樹脂材料630の,少なくとも一部の分子が一定方向へ配向する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,二次電池用セパレータの製造方法および製造装置に関する。さらには,そのセパレータを利用した発電要素を有する非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年,リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は,携帯型PCや携帯電話を始めとする電子機器のみならず,ハイブリッド車や電気自動車の電源として注目されている。リチウムイオン二次電池は,一般的に,リチウム金属酸化物を含む正極合剤層を有する正極板と,リチウムを吸蔵ないし放出し得る素材を含む負極合剤層を有する負極板とを,多孔質セパレータを挟んで積層してなる発電要素を有している。
【0003】
非水電解質二次電池の技術分野では,出力性能の向上のため,日々技術改良が行われている。例えば,特許文献1には,多孔質セパレータの設計によって性能を向上させる技術が開示されている。特許文献1に開示されたセパレータは,長期信頼性と高出力とを両立させるため,高い気孔率を有するとともに,突刺強度等の特定の物性を規定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−242631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,前記した従来の多孔質セパレータには,次のような問題があった。すなわち,多孔質セパレータの気孔率を高め過ぎると,セパレータ自身の強度が低下してしまう。そのため,形状を維持することが困難となり,反って電池の出力性能を低下させてしまうおそれがある。
【0006】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,電池の出力性能の低下を抑制する二次電池用セパレータの製造方法,非水電解質二次電池,および二次電池用セパレータの製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題の解決を目的としてなされた二次電池用セパレータの製造方法は,樹脂材料をダイから押し出すことで,長尺状の前記セパレータを作製する押出成形工程を有し,前記押出成形工程では,磁束が前記ダイ内の前記樹脂材料の流路を跨ぐ磁場を形成することを特徴としている。
【0008】
本発明の二次電池用セパレータの製造方法では,セパレータを押出成形によって作製する。そして,セパレータの押出成形時に,磁場を印加している。この磁場は,押出成形用のダイの,セパレータを構成する樹脂材料(例えば,ポリオレフィン系樹脂)の流路を,磁束が跨ぐように形成される。そして,その磁場内を樹脂材料が通過することで,少なくとも一部の分子が一定方向へ配向する。そして,セパレータ中をイオンが移動するにあたって,セパレータを構成する樹脂の分子が配向していることで,分子との吸着エネルギーの影響を低減することが期待できる。その結果,出力性能の低下を抑制することが期待できる。
【0009】
また,前記押出成形時に形成する前記磁場は,前記セパレータの厚さ方向の磁場であるとよい。この構成によれば,セパレータの厚さ方向に樹脂の分子が配向することで,セパレータ中をイオンがより移動し易くなると考えられる。そのため,出力性能の低下をより抑制することが期待できる。
【0010】
また,前記押出成形時に形成する前記磁場は,前記流路のうち,少なくとも前記ダイの前記樹脂材料の出力口を含む下流側の部位を跨ぐとよい。この構成のように,少なくともダイの出力口が磁場に覆われることで,樹脂材料がダイから押し出される直前まで磁場の影響を受けることになる。そのため,分子配向した状態のセパレータを安定して作製することが期待できる。
【0011】
また,本発明は,別の態様として,電極板と,セパレータとを交互に挟んで積層してなる発電要素を有する非水電解質二次電池において,前記セパレータは,樹脂材料をダイから押し出す押出成形によって作製され,さらに前記樹脂材料は,当該押出成形時に磁場を通過したものであることを特徴とする非水電解質二次電池を含んでいる。
【0012】
また,本発明は,別の態様として,二次電池用セパレータの製造装置であって,前記セパレータの型となる押出成形用のダイと,磁束が前記ダイ内の樹脂材料の流路を跨ぐ磁場を形成する一対の磁場形成部とを有することを特徴とする二次電池用セパレータの製造装置を含んでいる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,電池の出力性能の低下を抑制する二次電池用セパレータの製造方法,非水電解質二次電池,および二次電池用セパレータの製造装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池を示す斜視透視図である。
【図2】リチウムイオン二次電池に内蔵される発電要素を構成する積層体を示す展開図である。
【図3】実施の形態に係るセパレータ製造システムの構成を示す図である。
【図4】実施の形態に係る押出成形装置の押出箇所を示す図である。
【図5】耐熱層付きセパレータの評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下,本発明にかかる非水電解質二次電池を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。なお,以下の形態では,ハイブリッド自動車に車載される車両駆動電源用のリチウムイオン二次電池に本発明を適用する。
【0016】
[リチウムイオン二次電池の構成]
本形態のリチウムイオン二次電池100は,図1に示すように,発電要素60と,発電要素60を収容し,リチウムイオン二次電池100の外殻を形成する外装部50とを有するものである。図1は,外装部50を透視した状態を示している。
【0017】
外装部50は,容器となる電池ケース10と,電池ケース10の開口部を封止する封口蓋20とを有している。電池ケース10は,アルミニウム,アルミニウム合金,めっき鋼板,ステンレス鋼板等の金属材からなる。封口蓋20は,アルミニウム,めっき鋼板,ステンレス鋼板等の金属材からなる。電池ケース10や封口蓋20に利用する金属材は,成形が容易であって,剛性があるものであればよい。電池ケース10の内側全面には,不図示の絶縁フィルムが貼付されている。
【0018】
電池ケース10は,有底矩形の箱体,すなわち上面が開口した直方体をなしている。電池ケース10は,発電要素60を収納しており,矩形板状の封口蓋20にてその開口部を塞ぐことによって発電要素60を密封をしている。具体的に,外装部50は,電池ケース10と封口蓋20とがレーザ溶接によって一体となっている。なお,電池ケース10の外形は一例であって,有底矩形の箱体に限るものではない。例えば,有底円筒形の箱体であってもよい。
【0019】
封口蓋20には,封口蓋20を貫通し,封口蓋20から外装部50の外側に向けて突出する正極集電端子31および負極集電端子32が取り付けられている。正極集電端子31の封口蓋20への取り付け箇所には,樹脂製の絶縁部材33が介在し,正極集電端子31と封口蓋20とを絶縁している。同様に,負極集電端子32の封口蓋20への取り付け箇所には,樹脂製の絶縁部材34が介在し,負極集電端子32と封口蓋20とを絶縁している。また,封口蓋20には,矩形板状の安全弁23も溶接されている。安全弁23は,封口蓋20を貫通する注液孔を封止しており,その注液孔から電解液が注入される。
【0020】
電池ケース10内に注入される電解液は,エチレンカーボネート(EC)と,ジメチルカーボネート(DMC)とを,体積比でEC:DMC=3:7に調整した混合有機溶媒に,溶質として6フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を添加し,リチウムイオンを1.0mol/lの濃度とした有機電解液である。リチウムイオン二次電池100では,電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担う。
【0021】
発電要素60は,図2に示すように,長尺状の正極板61と,同じく長尺状の負極板62とを,ポリオレフィン系微多孔膜からなるセパレータ63を挟んで積層した積層体から構成される。正極板61は,アルミ箔からなる正極集電箔611の両面に正極合剤層612を担持している。正極合剤層612には,例えば,正極活物質のリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(NCM)の他,アセチレンブラック,ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等が含まれる。また,負極板62は,銅箔からなる負極集電箔621の両面に負極合剤層622を担持している。負極合剤層622には,例えば,負極活物質のアモルファスコートグラファイトの他,カルボキシルメチルセルロース(CMC),スチレンブタジエンゴム(SBR)等が含まれる。
【0022】
また,セパレータ63は,ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)等からなる公知の微多孔質樹脂(多孔度40〜70%)である。また,セパレータ63の両面には耐熱層が設けられている。耐熱層には,例えば,アルミナ等の無機フィラーの他,SBR,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),CMC,MCが含まれる。
【0023】
なお,正極集電箔611,正極合剤層612,負極集電箔621,負極合剤層622,セパレータ63,電解液に利用される物質や比率は一例であり,一般的にリチウムイオン二次電池に利用されるものを適宜選択すればよい。
【0024】
また,正極板61の幅方向(図2中のY方向)の一方の端部は,正極合剤層612が形成されておらず,正極集電箔611が露出している。また,負極板62の幅方向の一方の端部も,負極合剤層622が形成されておらず,負極集電箔621が露出している。そして,正極板61の正極集電箔611が露出している箇所と,負極板62の負極集電箔621が露出している箇所とが,幅方向において互いに逆側の端部となるように積層される。さらに,正極合剤層612と負極合剤層622とが厚さ方向から見て重なるように,すなわち正極合剤層612と負極合剤層622とがセパレータ63を介して対向するように配置される。
【0025】
また,セパレータ63は,幅方向において正極合剤層612および負極合剤層622を被覆するように,さらに正極板61の正極集電箔611が露出している箇所(未塗工領域)の一部と,負極板62の負極集電箔621が露出している箇所(未塗工領域)の一部を被覆しないように,正極板61と負極板62との間に配置される。
【0026】
発電要素60は,図2に示したように配置された積層体を捲回し,扁平状にしたものである(図1参照)。正極板61の幅方向の一方の端部は,正極集電箔611が露出した状態でセパレータ63から突出していることから,発電要素60では,捲回軸方向(図2中のY方向)の一方の端部から正極板61(正極集電箔611)が渦巻状をなしてから突出している。一方,負極板62の幅方向の一方の端部は,負極集電箔621が露出した状態でセパレータ63から突出していることから,捲回した状態の発電要素60では,捲回軸方向の他方の端部から負極板62(負極集電箔621)が渦巻状をなして突出している。
【0027】
また,発電要素60のうち,正極板61が突出している箇所は,図1に示したように,クランク状に屈曲した板状の正極集電端子31と電気的に接合される。一方,負極板62が突出している箇所は,同じくクランク状に屈曲した板状の負極集電端子32と電気的に接合される。具体的に,正極集電端子31は,発電要素60の幅方向の一方の端部に露出する正極集電箔611と接合している。一方,負極集電端子32は,発電要素60の幅方向の他方の端部に露出する負極集電箔621と接合している。
【0028】
[セパレータの製造システム]
続いて,前述した発電要素60を構成するセパレータ63の製造システムについて説明する。本形態のセパレータ製造システムは,セパレータ63の原反,すなわち耐熱層無しの状態のセパレータを製造するシステムである。
【0029】
本形態のセパレータ製造システム200では,図3に示すように,押出成形によってセパレータ63の原反631を作製する押出成形機70と,高調波電力を供給する交流電源80と,セパレータ63の原反631を回収する巻取りロール90とを備えている。
【0030】
押出成形機70には,溶融状態のセパレータ63の樹脂材料630が収容され,図4に示すように,長尺状のセパレータ63の原反631が押し出される。セパレータ63の原反631は,冷却後,巻取りロール90によって巻き取られ,巻取りロール90上にはセパレータ63の原反631の捲回体である原反ロール632が形成される。所定の長さまで巻き取られた原反ロール632は,端部が切り取られる。
【0031】
なお,耐熱層は,押出成形機70からセパレータ63の原反631が押し出された後,巻取りロール90に巻き取られるまでの工程で塗布されてもよいし,原反631を巻取りロール90に巻き取った後,別の工程でその原反ロール632から原反631を巻き出して塗布してもよい。
【0032】
押出成形機70は,溶融した樹脂材料630を収容するコンテナ72と,樹脂材料630の流路712および通過断面穴710を持った金型であるダイ71と,コンテナ72内に収容された樹脂材料630をダイ71に押し出すスクリュウ73と,磁場を形成する磁場形成部74,75とを有している。ダイ71の通過断面穴710は,セパレータ63の断面と同形状である。すなわち,ダイ71の通過断面穴710の幅は,セパレータ63の幅に等しく,ダイ71の通過断面穴710の高さは,セパレータ63の厚さに等しい。
【0033】
押出成形機70では,コンテナ72内に溶融した樹脂材料630が投入され,その樹脂材料630がスクリュウ73によってダイ71に向けて押し込まれる。ダイ71に押し込まれた樹脂材料630は,ダイ71内の流路712内を通過する。樹脂材料630は,ダイ71内の流路712内を通過することで,温度や圧力が安定する。その後,樹脂材料630は,ダイ71の通過断面穴710から外部に押し出される。樹脂材料630がダイ71の通過断面穴710を通過することで,長尺状の原反631が形成される。
【0034】
また,押出成形機70は,ダイ71の上方に磁場形成部74を,ダイ71の下方に磁場形成部75を配置している。すなわち,一対の磁場形成部74,75を,ダイ71を挟んで対向配置している。磁場形成部74,75の対向方向(磁束の方向)と,ダイ71から押し出されるセパレータ63の厚さ方向(ダイ71の通過断面穴710の高さ方向)とは等しい。
【0035】
磁場形成部74,75は,それぞれ励磁コイルと磁性体コアとを収納している。また,励磁コイルは,交流電源80と電気的に接続し,交流電源80により交流バイアスが印加される。この磁場形成部74,75の励磁コイルに交流バイアスが印加されることで,磁性体コアが磁化され,磁場形成部74と磁場形成部75との間に磁場が形成される。すなわち,ダイ71の周辺には,磁場形成部74,75によって,磁束がダイ71の流路710を跨ぐように,セパレータ63の厚さ方向の磁場が形成される。
【0036】
本形態のセパレータ製造システム200では,磁場の形成条件として,3T(テスラ)の磁場が形成されるように交流電源80の出力を調整する。より具体的には,交流電源80によって,磁場形成部74および磁場形成部75に,1500V〜4000Vの電圧,20Hz〜80Hzの周波数の,交流バイアスを印加する。なお,磁場の形成条件は,これに限るものではなく,セパレータ材料の種類,厚さ等によって適宜選択すればよい。本形態の材料では,概ね,1.5T〜5Tの磁場であればよい。
【0037】
また,磁場形成部74,75は,ダイ71内の樹脂材料630の流路712全体に磁場を形成する。これにより,ダイ71から押し出されるセパレータ63の原反631は,セパレータ63の幅方向にムラなく磁場の影響を受ける。なお,磁場形成部74,75によって形成される磁場は,必ずしもダイ71の流路712全体に形成する必要はなく,流路712のうち,少なくとも搬送方向の一部に形成する。幅方向については全体に形成する。これにより,ダイ71に押し込まれた樹脂材料630は,通過断面穴710から押し出されるまでに,少なからず磁場の影響を受ける。
【0038】
[リチウムイオン二次電池の評価]
続いて,耐熱層付き多孔質セパレータを用いたリチウムイオン二次電池の評価について説明する。本評価では,18650セルを用いて,25℃の環境で10秒目のIV抵抗を測定(1/3C,1C,3C,5Cでの各測定値をプロット)した。
【0039】
本評価では,押出成形時に磁場を形成せずに作製したセパレータを利用した基準セルと,押出成形時に磁場を形成して作製したセパレータを利用した評価セルとを作製し,各セルについてIV抵抗を測定した。そして,基準セルの測定値を100%とした場合の,評価セルの相対値を求めた。
【0040】
具体的に本評価では,PE単層のセパレータを利用した基準セル(「基準セル1」とする)と,PP/PE/PPの3層のセパレータを利用した基準セル(「基準セル2」とする)との,2つの基準セルを作製した。また,評価セルについても,基準セルと同様に,PE単層のセパレータを利用した評価セル(「評価セル1」とする)と,PP/PE/PPの3層のセパレータを利用したセルとを作製した。また,3層のセパレータについては,PPのみに磁場を印加し,PEには磁場を印加していない3層のセパレータを利用した評価セル(「評価セル2」とする)と,PPとPEともに磁場を印加した3層のセパレータを利用した評価セル(「評価セル3」とする)とを作製した。
【0041】
本評価で使用した各部材の,共通の仕様については次の通りである。
<耐熱層付きセパレータ>
・セパレータ
ポリオレフィン系樹脂
厚さ:16〜20μm(基準セル2,評価セル2,および評価セル3については3層合計の厚さ)
気孔率:45〜70%(基準セル1および評価セル1),40〜55%(基準セル2,評価セル2,および評価セル3)
・耐熱層フィラー
無機フィラー
アルミナ(D50=0.2〜1.2μm,BET比表面積=1.3〜18m2/g)
ベーマイト(D50=0.4〜1.8μm,BET比表面積=2.8〜27m2/g)
・耐熱層バインダ
アクリル系バインダ,SBR,ポリオレフィン系バインダ,PTFE
・耐熱層増粘剤
CMC,MC
<正極板>
・活物質
NCM111
・導電材
アセチレンブラック
・バインダ
PVdF
・集電箔
アルミ箔(厚さ:15μm)
・目付け
9.8〜15.2mg/cm2
・密度
1.8〜2.4g/cc
<負極板>
・活物質
アモルファスコートグラファイト
・バインダ
SBR
・増粘材
CMC
・集電箔
銅箔(厚さ:10μm)
・目付け
4.8〜10.2mg/cm2
・密度
0.8〜1.4g/cc
<電解液>
・塩
LiPF6(濃度:1.0mol/l)
・溶媒
EC:DEC=3:7
【0042】
評価結果を,図5に示す。図5(A)は,基準セル1と評価セル1とを対比したグラフである。図5(A)に示すように,評価セル1では,基準セル1と比較してIV抵抗が16%低減した。この結果により,押出成形時に磁場を通過したセパレータを利用する方が,磁場を通過しなかったセパレータを利用するよりも出力性能が高いことが確認された。
【0043】
また,図5(B)は,基準セル2と評価セル2および評価セル3とを対比したグラフである。図5(B)に示すように,評価セル2では,基準セル2と比較してIV抵抗が6%低減した。この結果により,押出成形時に磁場を通過したセパレータを一部に利用する方が,磁場を通過しなかったセパレータのみを利用するよりも出力性能が高いことが確認された。また,評価セル3では,評価セル2と比較してさらにIV抵抗が4%低減した。この結果により,押出成形時に磁場を通過したセパレータのみを利用する方が,磁場を通過したセパレータを一部に利用するよりも出力性能が高いことが確認された。これらの結果から,押出成形時に磁場を形成したセパレータをより多く利用する方が,出力性能を向上させる上で好ましいことがわかる。
【0044】
磁場形成による抵抗低減効果についての,正確なメカニズムは明らかになっていないが,次のような要因があると推測される。すなわち,セパレータ63を分子レベルで考えた場合,セパレータ63の原反631を押し出す際にセパレータ63の厚さ方向に磁場を形成することで,セパレータ63の厚み方向へ分子が配向したものと考えられる。そして,二次電池として利用した際,セパレータ63中をイオンが移動するにあたって,ポリオレフィン系樹脂の分子が配向していることで,分子との吸着エネルギーの影響が低減したものと考えられる。その結果として,IV抵抗が低減することになったと推察される。
【0045】
以上詳細に説明したように本形態のセパレータ63の製造方法では,セパレータ63の原反631を押出成形する際に,ダイ71に磁場を印加している。この磁場は,磁場形成部74,75によって,ダイ71の流路712を磁束が跨ぐように形成される。そして,その磁場内をセパレータ63を構成する樹脂材料630が通過することで,少なくとも一部の分子が一定方向へ配向すると考えられる。そして,セパレータ63中をイオンが移動するにあたって,樹脂材料630の分子が配向していることで,分子との吸着エネルギーの影響を低減することが期待できる。そのことから,セパレータ63を利用するリチウムイオン二次電池100の,出力性能の低下を抑制することが期待できる。
【0046】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,リチウムイオン二次電池は,車両駆動電源用に限らず,家電製品やパソコンに利用されるものであってもよい。また,非水電解質二次電池は,リチウムイオン二次電池に限らず,ニッケル水素二次電池等,他の非水電解質二次電池であっても適用可能である。
【0047】
また,実施の形態では,セパレータ63は,その両面に耐熱層を有する耐熱層付きセパレータであるが,耐熱層は必須構成ではない。すなわち,耐熱層を有していないセパレータであっても,本発明を適用できる。
【0048】
また,実施の形態では,磁場形成部74,75がダイ71の外側に配置されているが,これに限るものではない。例えば,磁場形成部74,75は,ダイ71の内部に埋め込まれていてもよい。ただし,実施の形態のように,磁場形成部74,75をダイ71の外側に配置することで,磁場形成部74,75をダイ71の内部に埋め込む場合と比較して,磁場形成部74,75のメンテナンスが容易であり,磁場形成部74,75の配置の自由度も高くなる。
【0049】
また,実施の形態では,磁場形成部74,75がダイ71内の樹脂材料630の流路712全体に磁場を形成しているが,これに限るものではない。すなわち,流路712のうち,一部の部位であってもよい。この場合,少なくともダイ71の通過断面穴710を含む下流側の部位を磁束が跨ぐ方が好ましい。少なくともダイ71の通過断面穴710が磁場内にいることで,樹脂材料630がダイ71から押し出される直前まで磁場の影響を受けることになり,分子配向した状態のセパレータ63を安定して作製することが期待できる。
【符号の説明】
【0050】
60 発電要素
61 正極板
62 負極板
63 セパレータ
630 樹脂材料
70 押出成形機
71 ダイ
710 通過断面穴
712 流路
74,75 磁場形成部
80 交流電源
90 巻取りロール
100 リチウムイオン二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池用セパレータの製造方法において,
樹脂材料をダイから押し出すことで,長尺状の前記セパレータを作製する押出成形工程を有し,
前記押出成形工程では,磁束が前記ダイ内の前記樹脂材料の流路を跨ぐ磁場を形成することを特徴とする二次電池用セパレータの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載する二次電池用セパレータの製造方法において,
前記磁場は,前記セパレータの厚さ方向の磁場であることを特徴とする二次電池用セパレータの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する二次電池用セパレータの製造方法において,
前記磁場は,前記流路のうち,少なくとも前記ダイの前記樹脂材料の出力口を含む下流側の部位を跨ぐことを特徴とする二次電池用セパレータの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載する二次電池用セパレータの製造方法において,
前記樹脂材料は,ポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする二次電池用セパレータの製造方法。
【請求項5】
電極板と,セパレータとを交互に挟んで積層してなる発電要素を有する非水電解質二次電池において,
前記セパレータは,樹脂材料をダイから押し出す押出成形によって作製され,さらに前記樹脂材料は,当該押出成形時に磁場を通過したものであることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項6】
二次電池用セパレータの製造装置において,
前記セパレータの型となる押出成形用のダイと,
磁束が前記ダイ内の樹脂材料の流路を跨ぐ磁場を形成する一対の磁場形成部と,
を有することを特徴とする二次電池用セパレータの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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