説明

二酸化チタンの製造の過程で生成する廃棄酸からの二酸化チタン、硫酸カルシウム及び酸化鉄の製造方法

【課題】硫酸塩法による二酸化チタンの製造から生じる廃棄酸から、廃棄酸に含まれる有用物質を回収して、有用物質の回収後に廃棄すべき物質をより低減できる方法を提供する。
【解決手段】硫酸塩法による二酸化チタンの製造の過程で生成する廃棄酸を中和して硫酸カルシウムを分離回収した後に残った残留物から、二酸化チタン、硫酸カルシウム及び酸化鉄を製造する方法であって、
(1)前記残留物に塩酸水溶液を加えて、沈殿物として二酸化チタンを得る工程、
(2)前記(1)で沈殿物を分離した後の水溶液に硫酸を加えて、沈殿物として硫酸カル シウムを得る工程、及び
(3)前記(2)で沈殿物を分離した後の水溶液にアルカリを加えて、沈殿物として酸化 鉄を得る工程
を含む、前記製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化チタンの製造の過程で生成する廃棄酸からの二酸化チタン、硫酸カルシウム及び酸化鉄の製造方法に関する。特に本発明は、硫酸塩法による二酸化チタンの製造の過程で生成する廃棄酸を中和して硫酸カルシウムを分離回収した後に残った残留物から、二酸化チタン、硫酸カルシウム及び酸化鉄を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸塩法による二酸化チタンの製造は、広く工業的に実施されているが、製造される二酸化チタン以上の量の廃棄物が生成することから、その再利用については種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、硫酸塩法による二酸化チタンの製造から生じる廃棄酸から、セッコウ及び酸化鉄顔料を製造するための方法が記載されている。この方法では、第一段階において、カルシウム化合物を用いて廃棄酸を部分的に中和することにより、セッコウを沈殿させ、場合によっては直接的に分離する。第二段階において、残存溶液をさらに中和し、Ti、Al、Cr、V、及び場合によりFe(III)を含有する沈殿物を沈殿させる。第三段階において、固体の分離後に得られる硫酸鉄含有溶液から、アルカリ性化合物及び場合によりアンモニア及び酸化剤の添加により酸化鉄顔料を製造する。CaO及び/又はCa(OH)2の添加により、酸化鉄顔料の分離後に得られる(NH42SO4含有溶液から、アンモニアが放出される。
【特許文献1】特表2002−507634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の方法では、セッコウを沈殿させた後の第二段階において、Ti、Al、Cr、V、及び場合によりFe(III)を含有する沈殿物を沈殿させ、固体(沈殿物)の分離後に得られる硫酸鉄含有溶液から得られた酸化鉄顔料を製造する。しかる、この方法では、Ti、Al、Cr、V、及び場合によりFe(III)を含有する沈殿物は、再生利用されることはなく、廃棄されるものと推察される。しかし、この沈殿物の量は相変わらず相当な量であり、このような廃棄物が殆どでない方法の提供が望まれていた。
【0005】
そこで、本発明の目的は、硫酸塩法による二酸化チタンの製造から生じる廃棄酸から、廃棄酸に含まれる有用物質を回収して、有用物質の回収後に廃棄すべき物質をより低減できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明は以下の通りである。
[1]硫酸塩法による二酸化チタンの製造の過程で生成する廃棄酸を中和して硫酸カルシウムを分離回収した後に残った残留物から、二酸化チタン、硫酸カルシウム及び酸化鉄を製造する方法であって、
(1)前記残留物に塩酸水溶液を加えて、沈殿物として二酸化チタンを得る工程、
(2)前記(1)で沈殿物を分離した後の水溶液に硫酸を加えて、沈殿物として硫酸カル シウムを得る工程、及び
(3)前記(2)で沈殿物を分離した後の水溶液にアルカリを加えて、沈殿物として酸化 鉄を得る工程
を含む、前記製造方法。
[2]工程(3)のアルカリは、水酸化ナトリウムである[1]に記載の製造方法。
[3]工程(3)で得た酸化鉄を焼成してベンガラを得る[1]または[2]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によれば、硫酸塩法による二酸化チタンの製造から生じる廃棄酸から硫酸カルシウムを沈殿させた後の残留物から、さらに、二酸化チタン、硫酸カルシウム及び酸化鉄を回収、製造する方法を提供でき、廃棄酸に含まれる有用物質の回収率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の製造方法は、硫酸塩法による二酸化チタンの製造の過程で生成する廃棄酸を中和して硫酸カルシウムを分離回収した後に残った残留物を出発原料として用いる。硫酸塩法による二酸化チタンの製造の過程で生成する廃棄酸を中和して硫酸カルシウムを分離回収する方法は公知であり、例えば、上記先行技術1に記載の方法を用いることができる。この方法は、以下の通りである。
【0009】
廃棄酸を中和して硫酸カルシウムを分離回収するための廃棄酸に含まれる遊離硫酸の部分的中和は、好ましくは、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、酸化カルシウム、もしくは水酸化カルシウムの添加により、又は前記化合物のうちの一つもしくは複数を含有する他のアルカリ反応性物質、例えば、苦灰岩の添加により行われる。しかし遊離硫酸の部分的中和は、個々の前記の物質の組み合わせによっても行われうる。カルシウム源として、好ましくは、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、又は水酸化カルシウムが使用される。工程において生成するCO2も利用され得るので、微粉砕石灰(炭酸カルシウム)の使用が、特に好ましい。
【0010】
さらに、廃棄酸の中和と同時に、金属鉄又は鉄(II)含有物質、例えばスクラップ鉄、黒皮、旋盤作業の削り屑、又は鋳鉄の削り屑により、一部、遊離硫酸の中和を行うことにより、酸化鉄顔料の量が増加するため、鉄含量を上昇させることが可能である。次に、遊離硫酸のさらなる中和が、炭酸カルシウムにより行われうる。
【0011】
反応混合物の粘度を減少させるため、カルシウム化合物との反応の前に廃棄酸を希釈することが、しばしば好都合である。希釈のため、新鮮な水、又は工程のさらなる過程において蓄積する工程用水のいずれかが用いられうる。希釈は、好ましくは、1:1の比率(廃棄酸の重量部対水の重量部)で行われる。これに関連して、中和の目的のため用いられるCa化合物を希釈水の一部によりスラリー化し、この懸濁液により廃棄酸を中和することが有利である。
【0012】
カルシウム化合物の添加による廃棄酸の部分的中和は、好ましくは、1.0から3.0のpH値が達成されるまで行われる。より高いpH値においては、着色混入物、例えばFe(III)又はその他の亜族化合物の共沈殿により硫酸カルシウムの白色度が損なわれる場合がある。特に好ましい様式において、中和は、1.4から2.0のpH値が達成されるまで行われる。なぜなら、このようにして沈殿した硫酸カルシウムは、特に少量の着色混入物及び特に少量のTiO2を含有しているため、特別な用途、例えばセッコウプラスターのための要件も満たすからである。このようにして得られる純粋な硫酸カルシウムは、液相から分離され、好ましくは溶液の有色成分を除去するため洗浄される。
【0013】
本発明では、廃棄酸を中和して硫酸カルシウムを分離回収した後に残った残留物を出発原料として用いる。工程(1)では、前記残留物に塩酸水溶液を加えて、沈殿物として二酸化チタンを得る。塩酸水溶液の濃度は、0.1mol〜12molの範囲であることが適当であり、塩酸水溶液の使用量は、Ti含有量に対して1〜10倍の範囲であることが適当である。前記残留物に塩酸水溶液を加えることで、前記残留物が含有しているチタンが二酸化チタンの沈殿として析出する。沈殿として析出した二酸化チタンは、水溶液から分離して、好ましくは水洗した後に回収される。この状態の二酸化チタンは、一般にはアモルファス状態であり、必要により加熱処理して、アナターゼまたはルチル型二酸化チタンとすることができる。アモルファス状態の二酸化チタンの加熱処理は公知の方法により実施できる。
【0014】
工程(2)では、前記工程(1)で得た沈殿物を分離した後の水溶液に硫酸を加えて、沈殿物として硫酸カルシウムを得る。硫酸の濃度は、0.1mol〜10 molの範囲であることが適当であり、硫酸の使用量は、Ca含有量に対して1〜10倍の範囲であることが適当である。工程(1)で得た沈殿物を分離した後の水溶液には、前記硫酸カルシウム回収時に未回収であってカルシウムが硫酸と反応して、硫酸カルシウムとして析出する。析出した硫酸カルシウムは、水溶液から分離して、好ましくは水洗した後に回収され、必要によりさらに乾燥される。
【0015】
工程(3)では、工程(2)で得た前記沈殿物にアルカリを加えて、沈殿物として酸化鉄を得る。アルカリとしては、種々のアルカリ化合物を用いることができる。そのようなアルカリ化合物としては、例えば、気体状NH3、NH3水溶液、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、及び炭酸水素塩、並びに前記化合物のうちの少なくとも一つを含有するアルカリ化合物を挙げることができる。但し、入手が容易であり、廉価であるなどの観点からは、アルカリ化合物は、水酸化ナトリウムであることが好ましい。アルカリ化合物の使用量は、0.1 mol〜10 mol(この時、pH 7 付近となることが望ましい)の範囲であることが適当である。沈殿として得られる酸化鉄は、アモルファス状態であり、これを焼成することでベンガラFe23(ヘマタイト)を得ることができる。焼成温度は884〜1000℃の範囲であることが好ましい。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0017】
1. TiO2の回収
硫酸塩法による二酸化チタンの製造の過程で生成する廃棄酸を中和して硫酸カルシウムを分離回収した後に残った残留物を乾燥して得た中和滓(組成は以下の表1に示す)10gを秤取し、200ml三角フラスコに入れ、6M HClを150ml加え室温で3時間攪拌した。容器内の物質は茶色に変化し、同時に沈殿物が浮遊し、時間の経過とともにこれが増加した。3時間後減圧濾過し、沈殿物をろ別した。沈殿物は、蒸留水で洗浄し、100℃で乾燥した。沈殿物の収量は1.15gであった。この沈殿物のXRDはアナターゼ型及びルチル型のTiO2であった。収率は11.5%であった。
【0018】
【表1】

【0019】
この反応は、以下の式によって進行するものと推定した。
TiO2 + 4HCl → TiCl4 + 2H2O (1)
TiCl4 + 2H2O → TiO2 + 4H2O (2)
【0020】
この結果、中和滓中に含まれるTiO2は塩酸に不溶とであると言える。一方、他の金属類は、全て塩化物となり水溶性となって液中に溶解している。以上よりTiO2の分離は可能である。
【0021】
2. CaSO4の回収
1の処理による残留ろ液を500ml三角フラスコに移しこれに蒸留水を加えて200mlとした。この溶液に6M H2SO4を攪拌の下で少量ずつ200ml加えて、室温で約1時間放置した。この溶液は当初は透明な茶褐色の液体であったが、徐々に沈殿が生じた。この溶液に浮遊する沈殿物をろ別し、蒸留水で洗浄後、100℃で乾燥して、秤量した。この沈殿物は収量が0.83gであり、XRDの回折線よりCaSO4であった。収率は8.9%であった。1の処理で生成したと想定されるカルシウム化合物はCaCl2と推定される。生成したCaCl2は硫酸と反応して硫酸カルシウムを生成して、沈殿し、系外に出ることによって反応が進行するものと考えた。
【0022】
この反応は、以下に示す。
CaCl2 + H2SO4 → CaSO4 + 2HCl (3)
【0023】
3. Fe2O3の回収
2の処理による残留ろ液を1000mlビーカーに移し、冷却下で6M NaOHを加え、pH7となるまで注意深く加えた。NaOH量は約355mlであった。pH7が維持できるようになって、その後、約1時間攪拌した。当初は茶褐色であった溶液が次第に黒褐色に変化し、沈殿が浮遊し、攪拌を停止すると全て茶褐色の沈殿が液底に留まった。次いで、ろ過し、100℃で乾燥した。この結晶の収量は7.44gであった。また加熱後の収量は6.47gである。収率は79.7%である。XRDで分析した。回折線はアモルファス(無定形、非晶質)であった。これを熱分析した結果、884℃から始まる重量変化を伴わない発熱ピークが得られた。加熱処理した結晶物はFe2O3であった。これにより、Fe2O3はアモルファスで得られることが確認できた。
【0024】
3で処理したろ液は透明であった。以上の結果を3回繰り返し行った結果以下の表2に示す。Ti、Ca、Feの回収量は、それぞれTiO2、CaSO4、Fe2O3の回収重量である。
【0025】
【表2】

【0026】
表2に示す結果から、本発明によれば、硫酸塩法による二酸化チタンの製造の過程で生成する廃棄酸を中和して硫酸カルシウムを分離回収した後に残った残留物を乾燥して得た中和滓から、高い回収率で、二酸化チタン、硫酸カルシウム及び酸化鉄を製造することができることを分かる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、硫酸塩法による二酸化チタンの製造において廃棄物の量を低減できることから、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸塩法による二酸化チタンの製造の過程で生成する廃棄酸を中和して硫酸カルシウムを分離回収した後に残った残留物から、二酸化チタン、硫酸カルシウム及び酸化鉄を製造する方法であって、
(1)前記残留物に塩酸水溶液を加えて、沈殿物として二酸化チタンを得る工程、
(2)前記(1)で沈殿物を分離した後の水溶液に硫酸を加えて、沈殿物として硫酸カル シウムを得る工程、及び
(3)前記(2)で沈殿物を分離した後の水溶液にアルカリを加えて、沈殿物として酸化 鉄を得る工程
を含む、前記製造方法。
【請求項2】
工程(3)のアルカリは、水酸化ナトリウムである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程(3)で得た酸化鉄を焼成してベンガラを得る請求項1または2に記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−143763(P2008−143763A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335862(P2006−335862)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(504007327)
【出願人】(504007006)公協産業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】