説明

仕上げ用加工工具

【課題】砥粒を電着又はロウ付けした砥石工具の利点と切削工具の利点とを組み合わせ、高能率にかつ良好な加工面を得ることができる仕上げ用加工工具を提供する。
【解決手段】回転軸11が取り付けられた円柱状の台座12と、台座12の外周面の全周に電着又はロウ付けされた多数の砥粒13aからなる砥石部13と、砥石部13の周上の1箇所に設けられ、切刃14aが先端に形成された切削部14とを有し、回転時における砥粒13aの先端と切刃14aの先端との間に段差Gを設け、切刃14aの先端を砥粒13aの先端より高くすると共に、仕上げ用加工工具10の1回転当たりの送り量より段差Gを小さい値とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象の切削加工表面の仕上げを行う仕上げ用加工工具に関する。
【背景技術】
【0002】
砥粒を電着若しくはロウ付けした工具を用い、炭素繊維複合材を高能率に加工することが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3086670号公報
【特許文献2】特開平5−318218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、図1に示すように、特許文献1に示すような工具T1では、切刃となる砥粒AGのすくい角θ1がネガティブであるため、炭素繊維複合材Wの炭素繊維を剪断する角度により剥離が生じ、良好な加工面が得られない。
【0005】
剥離のない良好な加工面が必要な航空機部品等の加工には、図2に示すように、切刃CBのすくい角を炭素繊維複合材Wの炭素繊維が剥離しない角度θ2に設定した切削工具T2で加工している(特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、切削に使用する切刃の数が少ないため、加工能率が低い、切刃の磨耗が早い、振動が発生するなど問題がある。又、切刃のすくい角を小さくすると、切刃の強度が低下し、加工能率を高くしようとしても、切刃にかかる切削抵抗が増大し、チッピングが発生しやすくなるため、高能率に加工を行うことはできない。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、砥粒を電着又はロウ付けした砥石工具の利点と切削工具の利点とを組み合わせ、高能率にかつ良好な加工面を得ることができる仕上げ用加工工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する第1の発明に係る仕上げ用加工工具は、
回転軸が取り付けられた円柱状の台座と、
前記台座の外周面の全周に電着又はロウ付けされた多数の砥粒からなる砥石部と、
前記砥石部の周上の少なくとも1箇所に設けられ、切刃が先端に形成された切削部とを有し、
回転時における前記砥粒の先端と前記切刃の先端との間に段差を設け、前記切刃の先端を前記砥粒の先端より高くすると共に、当該仕上げ用加工工具の1回転当たりの送り量より前記段差を小さい値としたことを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決する第2の発明に係る仕上げ用加工工具は、
上記第1の発明に記載の仕上げ用加工工具において、
当該仕上げ用加工工具の回転方向における前記切削部の直前又は直後の少なくとも一方の領域を除いて、前記砥石部を形成したことを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決する第3の発明に係る仕上げ用加工工具は、
上記第1又は第2の発明に記載の仕上げ用加工工具において、
前記切削部を2枚の切刃から構成すると共に、当該2枚の切刃の外側が当該仕上げ用加工工具の回転方向の前方側に、当該2枚の切刃の中心側が当該仕上げ用加工工具の回転方向の後方側になるように、ハの字状に配置したことを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決する第4の発明に係る仕上げ用加工工具は、
上記第1〜第3のいずれか1つの発明に記載の仕上げ用加工工具において、
前記切削部の前記切刃の高さを調整する調整機構を設けたことを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決する第5の発明に係る仕上げ用加工工具は、
上記第1〜第4のいずれか1つの発明に記載の仕上げ用加工工具において、
前記切削部を着脱可能に取り付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1、第4の発明によれば、砥石部の周上の一部に切削部を設け、切削部の切刃の先端を砥石部の砥粒の先端より高くしたので、砥石工具による高能率加工と切削工具による高品位加工とを両立させることができ、更に、工具の製造コストを下げると共に、工具寿命を延ばすことができる。加えて、加工時の加工対象部材の振動も抑制することができる。
【0014】
第2の発明によれば、一部の砥粒の固着が不要となるので、工具の製造コストを更に下げることができる。
【0015】
第3の発明によれば、2枚の切刃をハの字状に配置したので、板材の層間剥離(デラミネーション)を抑制して、高効率かつ高品位に加工を行うことができる。
【0016】
第5の発明によれば、切削部を着脱可能に取り付けたので、切削部の交換、再刃研による切削部の再使用が容易となり、工具のランニングコストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】砥粒を電着又はロウ付けした砥石工具による加工を説明する図である。
【図2】切刃を有する切削工具による加工を説明する図である。
【図3】本発明に係る仕上げ用加工工具の実施形態の一例(実施例1)を示す図であり、(a)は側面図、(b)は軸方向の断面図、(c)は径方向の断面図である。
【図4】本発明に係る仕上げ用加工工具の実施形態の他の一例(実施例2)を示す図であり、(a)は側面図、(b)は径方向の断面図である。
【図5】本発明に係る仕上げ用加工工具の実施形態の他の一例(実施例3)を示す図であり、(a)は側面図、(b)は軸方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る仕上げ用加工工具の実施形態について、図3〜図5を参照して、説明を行う。
【0019】
(実施例1)
図3は、本実施例の仕上げ用加工工具を示す図であり、図3(a)は、その側面図、図3(b)は、その軸方向であるA−A線矢視断面図、図3(c)は、その径方向であるB−B線矢視断面図である。なお、図中、Rは工具の回転方向(工具上方から見て、CW回転方向)、Mは工具の移動方向を示している。
【0020】
本実施例の仕上げ用加工工具10は、金属製の回転軸11が取り付けられた円柱状の金属製の台座12と、台座12の外周面の全周に電着又はロウ付けされた多数の砥粒13aからなる帯状の砥石部13と、砥石部13の周上の1箇所に設けられ、切刃14aが先端に形成された切削部14とを有する。切刃14aの部分は、台座12の表面から垂直に凸設されており、その刃幅方向は、台座12の軸方向に平行に配置されており、その刃幅は、砥石部13と同じ幅となっている。
【0021】
砥粒13aは、加工対象が炭素繊維複合材(例えば、CFRP等)である場合には、ダイヤモンドの焼結体がよく、これを、ニッケル等のメッキ層を用いた電着又は銀−銅系等のロウ材を用いたロウ付けにより、台座12の外周面に固着させている。又、切刃14aは、加工対象が炭素繊維複合材である場合には、単結晶又は多結晶のダイヤモンドを削りだして、鋭利な角度に加工したダイヤモンドバイトがよい。なお、加工対象が炭素繊維複合材以外である場合、例えば、樹脂、FRP等である場合には、砥粒13aは、例えば、CBN砥粒、SiC砥粒等でもよいし、切刃14aは、ダイス鋼、ハイス鋼等の工具用合金でもよい。
【0022】
そして、本実施例においては、回転時における砥粒13aの先端と切刃14aの先端との間に段差Gを設け、切刃14aの先端を砥粒13aの先端より高くしている。段差Gは、加工時において、加工対象の炭素繊維複合材が層間剥離(デラミネーション)せず、チッピングを起こさないようにするため、仕上げ用加工工具10の1回転当たりの送り量f(mm/回)より小さい値としている。
【0023】
例えば、標準的な加工条件を想定して、仕上げ用加工工具10の移動速度Fを1000mm/分、回転数Sを10000rpmとすると、1回転当たりの送り量fは0.1mm/回である。従って、段差Gの上限は、0.1(mm)未満とすればよい。一方、段差Gの下限は、切刃14aの先端が砥粒13aの先端より高ければ十分であるが、調整時の誤差等を考慮して、0.02(mm)以上とすれば確実である。
【0024】
仕上げ用加工工具10の直径Dを16mmとして、上記加工条件のときの加工面の粗さRmaxを計算してみると、Rmax≒f2/{8×(D/2)}=(0.1)2/{8×(16/2)}=0.00015625mm≒0.16μmであり、十分高品位な加工粗さを得ることが可能となる。
【0025】
又、本実施例では、切刃14aの先端の高さを調整するため、台座12を径方向に貫通して設けられ、その径方向に移動可能な調整ネジ15(調整機構)を有しており、調整ネジ15と切削部14とを連結することにより、切刃14aの先端の高さを調整可能としている。高さ調整後の切削部14は、ストッパ16及び固定ネジ17により、固定されて、調整された高さが維持されている。又、切削部14を調整ネジ15から着脱可能とすれば、切削部14の交換、再刃研による切削部14の再使用が容易となり、仕上げ用加工工具10のランニングコストを抑制することができる。
【0026】
上述した構成により、本実施例の仕上げ用加工工具10は、砥石部13のメリットである高能率加工と、切削部14のメリットである高品位加工とを両立させることができ、更に、工具の製造コストを下げると共に、工具寿命を延ばすことができる。加えて、砥粒13aが多数固着されているので、砥粒個々の加工抵抗が少なく、加工による振動が小さいため、薄い板材を加工する場合に問題となる加工時の板材の振動(ビビリ)が抑制可能である。
【0027】
(実施例2)
図4は、本実施例の仕上げ用加工工具を示す図であり、図4(a)は、その側面図、図4(b)は、その径方向であるC−C線矢視断面図である。なお、図中、Rは工具の回転方向(工具上方から見て、CW回転方向)、Mは工具の移動方向を示している。又、実施例1(図3参照)と同等の構成には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0028】
本実施例の仕上げ用加工工具20は、実施例1(図3参照)に示した仕上げ用加工工具10と略同等の構成である。しかしながら、本実施例では、仕上げ用加工工具20の回転方向Rにおける切削部14の直前又は直後の少なくとも一方の領域を除いて、砥石部13を形成しており、図4においては、一例として、切削部14の直後の領域21を除いて、砥石部13を形成している。
【0029】
これは、実施例1で説明したように、切刃14aの先端を砥粒13aの先端より高くしているので、切削部14の直前又は直後の領域には砥粒13aが無くても、加工には影響が無いからである。従って、切削部14の直前又は直後の少なくとも一方の領域において、砥粒13aの固着が不要となるので、実施例1と同等の効果を得ながら、製造コストを低減することが可能となる。
【0030】
1回転当たりの送り量fを0.1mm/回とし、台座12表面から切刃14aの先端までの高さを20μmとして、領域21の角度αを計算してみると、α=360°×(20μm)/(0.1mm)=360°×(20/100)=72°となり、角度α=72°の領域21において、砥粒13aの固着が不要となり、この不要となった分、工具の製造コストを低減可能である。
【0031】
(実施例3)
図5は、本実施例の仕上げ用加工工具を示す図であり、図5(a)は、その側面図、図5(b)は、その軸方向であるD−D線矢視断面図である。なお、図中、Rは工具の回転方向(工具上方から見て、CW回転方向)、Mは工具の移動方向を示している。又、実施例1(図3参照)と同等の構成には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0032】
本実施例の仕上げ用加工工具30も、実施例1(図3参照)に示した仕上げ用加工工具10と略同等の構成である。しかしながら、本実施例では、仕上げ用加工工具30の切削部31の構成が図3で示した仕上げ用加工工具10の切削部14と相違している。具体的には、切削部31を2枚の切刃32a、32bから構成すると共に、2枚の切刃32a、32bの外側が回転方向Rの前方側に、中心側が回転方向Rの後方側になるように、ハの字状に配置している。つまり、切刃32aと切刃32bとは、互いに異なるねじれ角で配置されている。
【0033】
このように、2枚の切刃32a、32bをハの字状に配置することにより、炭素繊維複合材(CFRP等)の板材を加工する際には、板材の一方の面が切刃32a側と接し、板材の他方の面が切刃32bと接し、板材の中心に向かうように、切刃32a、切刃32bからの力が働くので、板材の層間剥離(デラミネーション)を抑制して、高効率かつ高品位に加工を行うことが可能となる。
【0034】
又、2枚の切刃32a、32bは、その中心側において、回転方向Rから見て、切刃32a、32b同士が重なるように配置されると共に、切刃32a、32b同士の間に隙間が形成されている。このような配置により、加工面を高品位に加工すると共に、その切削屑を切刃32a、32bの隙間から排出することが可能となる。
【0035】
なお、上述した実施例1〜3においては、2つの調整ネジ15、2つのストッパ16、2つの固定ネジ17を図示しているが、この数は、切削部14(切刃14a)、切削部31(切刃32a、32b)の刃幅に応じて、1つでもよいし、更に増やしてもよい。
【0036】
又、上述した実施例1〜3においては、単純な構成とするため、切削部14、切削部31を砥石部13の周上の1箇所に設けているが、更に、高能率、高品位の加工を行いたい場合には、切削部14、切削部31を更に増やしてもよい。
【0037】
又、上述した実施例1〜3においては、切削部14、切削部31に調整ネジ15を連結し、ストッパ16及び固定ネジ17で固定しているが、このような調整機構を省略し、切削部14、切削部31を台座12に直接固定又は着脱可能に取り付けてもよい。但し、この場合も、実施例1で説明したように、切刃14a、切刃32a、32bの先端が砥粒13aの先端より所定量高くなるようにしておく。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、切削加工表面の仕上げに適用するものであり、特に、炭素繊維複合材に好適なものである。
【符号の説明】
【0039】
10 仕上げ用加工工具
11 回転軸
12 台座
13 砥石部
13a 砥粒
14 切削部
14a 切刃
20 仕上げ用加工工具
21 領域
30 仕上げ用加工工具
31 切削部
32a、32b 切刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸が取り付けられた円柱状の台座と、
前記台座の外周面の全周に電着又はロウ付けされた多数の砥粒からなる砥石部と、
前記砥石部の周上の少なくとも1箇所に設けられ、切刃が先端に形成された切削部とを有し、
回転時における前記砥粒の先端と前記切刃の先端との間に段差を設け、前記切刃の先端を前記砥粒の先端より高くすると共に、当該仕上げ用加工工具の1回転当たりの送り量より前記段差を小さい値としたことを特徴とする仕上げ用加工工具。
【請求項2】
請求項1に記載の仕上げ用加工工具において、
当該仕上げ用加工工具の回転方向における前記切削部の直前又は直後の少なくとも一方の領域を除いて、前記砥石部を形成したことを特徴とする仕上げ用加工工具。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の仕上げ用加工工具において、
前記切削部を2枚の切刃から構成すると共に、当該2枚の切刃の外側が当該仕上げ用加工工具の回転方向の前方側に、当該2枚の切刃の中心側が当該仕上げ用加工工具の回転方向の後方側になるように、ハの字状に配置したことを特徴とする仕上げ用加工工具。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の仕上げ用加工工具において、
前記切削部の前記切刃の高さを調整する調整機構を設けたことを特徴とする仕上げ用加工工具。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の仕上げ用加工工具において、
前記切削部を着脱可能に取り付けたことを特徴とする仕上げ用加工工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−218486(P2011−218486A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90174(P2010−90174)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】