説明

位置検出方法、切削装置、金型の製造方法、金型の製造装置、および光学部品

【課題】工具又はワークの損傷の防止と、スループットの向上を両立的に実現する。
【解決手段】切削工具14によりワーク15の表面を切削する切削装置10は、その先端が切削工具14の先端よりも切削工具の切込方向(−Z軸方向)に突出するように設けられた柔軟性を有する導電性部材16と、導電性部材16とワーク15の接触を通電の有無により検出する通電検出手段17と、切削工具14によるワーク15の切削時に生じる振動を検出する振動検出手段18,19と、ワーク15に対する切削工具14の切込量と該切込量で実際に該ワーク15を切削したときに生じる振動との関係を示す振動特性を、予め記憶した記憶手段20と、振動検出手段18,19で検出された振動と記憶手段20に記憶された振動特性とに基づいて、ワーク表面に対する切削工具14の先端の切込方向の位置を検出する制御手段13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具によりワークの表面を切削する切削装置、該切削装置において切削工具とワークとの相対位置を検出する位置検出方法、該位置検出方法を用いる金型の製造方法、該切削装置を備える金型の製造装置、および該金型の製造方法により得られた金型を用いて製造された光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等に用いられる光拡散板や導光板等の光学部品の成形に用いられる金型の製造においては、ワークとしての金型(母材)の表面を切削加工するために、NC制御方式の切削装置が用いられている。例えば、拡散面として一方向に並列された複数の溝(例えば、V字状の溝)を備える光拡散板を成形するための金型では、該光拡散面に対応する複数の溝を形成するため、切削工具としてのバイト、ワーク(金型母材)を載置し移動させるためのステージ、およびバイトの送りやステージの駆動を制御するための制御装置等を備えた平削り盤や形削り盤等の切削装置が用いられる。
【0003】
このような切削装置においては、切削動作を行う前に、ステージに載置されたワークの表面(切削面)とバイトの先端との位置関係を正確に求めるための校正動作(キャリブレーション)を実施する必要がある。
【0004】
このような校正を行うための従来技術としては、特開2002−120129号公報に開示されているように、切削工具の切刃に導電膜を形成しておき、切削工具の先端(導電膜)のワークへの接触を通電の有無により検出し、通電が検出された時点の位置をNC制御の基準とするようにしたものが知られている。また、特開昭62−162445号公報に開示されているように、切削工具がワークに接触すると発生する振動を検出するセンサを設け、このセンサにより切削工具の先端がワークに接触した時点における位置をNC制御の基準とするようにしたものが知られている。
【0005】
しかしながら、これらの従来技術では、工具をワークに接触させる動作は、目視しながら手動によって行う必要があるため、作業工数が多く、作業に長時間を要してしまうとともに、作業員の個人差による誤差を生じ得るという問題がある。
【0006】
このような手動作業に伴う問題を解決するため、校正動作を自動化する、すなわち切削工具をワークに接触させる動作を自動化することが考えられるが、制御装置は工具とワークの位置関係を正確に認識していないため、ワークの載置の状態によっては、工具とワークが衝突してしまう恐れがあり、工具またはワークを損傷してしまう場合があるという問題がある。この場合に、工具のワークに対する移動(近接)速度を極めて低速にすれば、そのような衝突は回避できる可能性はあるものの、工具の位置がワークから遠い場合には、校正動作に長時間を要することになり、スループットの低下を招くという問題がある。
【0007】
また、工具のワークに対する接触を通電又は振動により検出し、工具のワークに対する移動を直ちに停止した場合であっても、完全に停止するまでには、ある程度の時間遅れがあるため、工具のワークに対する切り込みが生じてしまうことになる。この場合に、切削工具はワークを実際に切削する場合には、十分な強度を実現することが可能であるが、切削工具又はワークを静止させた状態で切削工具をワークに接触させると、すなわち実際に切削動作を伴うことなく接触させた場合には、そのような強度を実現することができない場合があり、工具が損傷してしまう恐れがあるとともに、ワークに回復不能な傷をつけてしまう恐れもあるという問題がある。
【0008】
なお、工具の校正を直接の目的としたものではないが、特開平11−114778号公報には、工具(砥石車)のワークへの近接を、ワーク表面に電解加工液を供給して、工具がワークに接触するよりも前に、工具とワークとの該電界加工液を介した通電の有無により検出するようにした技術が開示されている。工具のワークへの近接を検出するまでは比較的に早い速度で駆動し、近接が検出されたならば、比較的に遅い速度で駆動することにより、工具のワークへの近接の高速化を図りつつ、工具のワークへの衝突を防止できるようにしたものである。この技術を上述した従来技術と組み合わせることが可能であれば、校正動作を自動化した場合であっても、工具のワークへの衝突を回避しつつ、スループットを向上し得るかも知れない。
【0009】
しかしながら、このような組み合わせが可能であったとしても、電解加工液を工具のワークへの近接の検出に用いることは、電解加工液をワーク全体にフロー供給する必要があるので無駄が多く、電解加工液自体が安価なものではないため、ランニングコストが高くなるという新たな問題を生じる。
【0010】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、校正動作を自動化した場合に、ランニングコストの上昇やスループットの低下を極力招くことなく、工具のワークへの衝突による工具又はワークの損傷を防止することを目的とする。
【特許文献1】特開2002−120129号公報
【特許文献2】特開昭62−162445号公報
【特許文献3】特開平11−114778号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点によると、切削工具によりワークの表面を切削する切削装置に用いられる位置検出方法であって、その先端が前記切削工具の先端よりも切込方向に突出するように設けられた柔軟性を有する導電性部材の該ワークに対する接触を通電の有無により検出する通電検出ステップと、前記切削工具による前記ワークの切削時に生じる振動を検出する振動検出ステップと、前記ワークに対する前記切削工具の切込量と該切込量で実際に該ワークを切削したときに生じる振動との関係を示す振動特性を、予め計測する計測ステップと、前記振動検出ステップで検出された前記振動と前記計測ステップで計測された前記振動特性とに基づいて、前記ワークの表面に対する前記切削工具の先端の前記切込方向の位置を検出する位置検出ステップとを備える位置検出方法が提供される。
【0012】
本発明の第2の観点によると、切削工具によりワークの表面を切削する切削装置であって、その先端が前記切削工具の先端よりも該切削工具の切込方向に突出するように設けられた柔軟性を有する導電性部材と、前記導電性部材と前記ワークの接触を通電の有無により検出する通電検出手段と、前記切削工具による前記ワークの切削時に生じる振動を検出する振動検出手段と、前記ワークに対する前記切削工具の切込量と該切込量で実際に該ワークを切削したときに生じる振動との関係を示す振動特性を、予め記憶した記憶手段と、前記振動検出手段で検出された前記振動と前記記憶手段に記憶された前記振動特性とに基づいて、前記ワークの表面に対する前記切削工具の先端の前記切込方向の位置を自動検出する制御手段とを備える切削装置が提供される。
【0013】
上述した第1の観点に係る位置検出方法または第2の観点に係る切削装置では、その先端が切削工具の先端よりも切込方向に突出するように設けられた柔軟性を有する導電性部材のワークに対する接触を通電の有無により検出するようにしたので、切削工具のワークの表面への近接を該切削工具が該ワークに接触する前に検出することができる。従って、切削工具のワークへの近接動作を、該導電性部材のワークへの接触が検出される時までは比較的に高速に行うことができ、該導電性部材のワークへの接触が検出された後は比較的に低速に動作させることにより、切削工具のワークへの衝突をスループットを低下させることなく、有効に回避することが可能になる。なお、導電性部材は柔軟性を有するので、ワークへの接触によりワークを傷つけてしまうこともなく、しかも、電解加工液を用いる従来技術と比較して、ランニングコストを低くすることができる。
【0014】
また、切削工具のワークへの単純な接触の有無により、ワーク表面に対する切削工具の先端の位置を検出するのではなく、切削工具によるワークの切削時に生じる振動を検出し、ワークに対する前記切削工具の切込量と該切込量で実際に該ワークを切削したときに生じる振動との関係を示す振動特性を予め計測しておいて、検出された振動と予め計測しておいた振動特性とに基づいて、ワーク表面に対する切削工具の先端の切込方向の位置を検出するようにしている。従って、実際に切削動作を伴うので、従来技術のように、切削動作を伴わずに工具をワークに接触させる場合と比較して、工具の損傷も少なくなる。加えて、実際に切削動作を伴っているため、この切削動作による切削量を最終的に必要な切削量よりも小さいものにすれば、ワークに回復不能な傷をつけてしまうことも回避可能である。
【0015】
本発明の第3の観点によれば、上述した本発明の第1の観点に係る位置検出方法を用いて、前記切削工具の前記切込方向の位置決めの制御基準を設定する校正ステップと、前記校正ステップで設定された前記制御基準を基準として、前記ワークとしての金型母材に複数の溝を切削形成する切削ステップとを備える金型の製造方法が提供される。
【0016】
本発明の第4の観点によれば、金型母材に複数の溝を切削形成するために上述した本発明の第2の観点に係る切削装置を備える金型の製造装置が提供される。
【0017】
上述した第3の観点に係る金型の製造方法または第4の観点に係る金型の製造装置では、上述した第1の観点に係る位置検出方法または第2の観点に係る切削装置を用いて、金型を製造するようにしたので、切削工具やワークの損傷が少なくなる等により、金型を安定して製造できるようになるとともに、製造コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る位置検出方法または切削装置によれば、校正動作を自動化した場合に、ランニングコストの上昇やスループットの低下を極力招くことなく、工具のワークへの衝突による工具又はワークの損傷を防止できるという効果がある。また、本発明に係る金型の製造方法または装置によれば、金型を安価かつ安定して製造することができるようになるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して、詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る切削装置としての平削り盤(プレーナー加工機)の概略構成を示す図である。以下の説明においては、図1中に示したXYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ説明する。本実施形態では、−Z軸方向が工具の切込方向であり、+Y軸方向が切削方向である。なお、特に限定されないが、この実施形態では、一軸方向に所定のピッチで配列的に並設され、その断面が略V字形状の該一軸方向に直交する方向に沿う複数の溝からなる光拡散面を備える光拡散板を成形加工するための金型を製造するために、該光拡散面に対応する凹凸溝を、該金型の母材に形成する場合を例として説明する。
【0020】
この切削装置10は、加工機本体11、加工ステージ12、および制御用コンピュータ13を概略備えて構成されている。加工機本体11には、切削用バイト14を着脱可能に装着するためのチャック(不図示)を有する加工ヘッド(不図示)、および該加工ヘッドをZ軸方向に位置決め移動するためのZ軸駆動機構(不図示)を備えている。加工ステージ12上には、被切削物たるワーク(ここでは、上述した通り、光拡散板を成形加工するための金型製造用の母材)15が載置固定される。加工ステージ12は、ワークをX軸方向およびY軸方向に位置決め移動するためのX軸−Y軸駆動機構(不図示)を備えている。制御用コンピュータ13は、上述したZ軸駆動機構、およびX軸−Y軸駆動機構のNC制御やその他の制御を実施する制御手段である。
【0021】
なお、加工ヘッドは、切削用バイト14のZ軸回りの姿勢を変更し、およびZ軸に直交する軸回りの姿勢を変更するための回転機構を備えていてもよい。また、チャックに装着される切削用バイト14を自動交換するためのATC(自動工具交換装置)を備えていてもよい。
【0022】
切削工具としての切削用バイト14は、ここでは、金属製のシャンクの先端に切刃としてのダイヤモンドをろう付けしてなるダイヤモンドバイトが用いられている。切削用バイト14は、加工機本体11の上述した加工ヘッドのチャックに手動で、または上述したATCを備えている場合には自動で装着される。
【0023】
本実施形態においては、後述する校正動作を実施した後に、本切削動作が実施される。本切削動作では、ワーク15の+X軸方向側の側縁近傍からY軸方向に沿う溝15a(図1に点線で表示)を、−X軸方向に順次隣接して複数形成するものとする。まず、切削用バイト14は、ワーク15の−Y軸方向の側縁よりも僅かに外側(さらに−Y軸方向側)であって、最初に形成すべき溝のX軸方向の位置に対応する切削開始位置に位置決めされる。次いで、切削用バイト14がワーク15の表面(ここでは、上面)から切込方向としての−Z軸方向に所定の切込量だけ切り込まれた状態(該表面よりも深い位置に設定された状態)で、ワーク15が−Y軸方向に移動されることにより、ワーク15の表面に切削用バイト14の切刃の形状(ここでは、略V字形状)に応じた溝が形成される。
【0024】
なお、1本の溝は、1回の切削動作によって形成するようにしてもよいが、通常は、切込量を順次大きくしつつ、数回の切削動作を繰り返すことにより形成される。従って、1回の切削動作が終了したならば、切削用バイト14がワーク15に干渉しないように回避動作、すなわち、切削用バイト14の先端がワーク15の表面よりも上側に設定されるように+Z軸方向に切削用バイト14を上昇させ、次いで、ワーク15を+Y軸方向に移動して、再度切削開始位置に位置決めされ、切込量が前回よりも深く設定されて、同様の切削動作が繰り返されることにより、所望の深さの溝が形成される。
【0025】
1本の溝の形成が終了したならば、切削用バイト14の切刃が次の溝を形成すべき位置に対応するように、+X軸方向に加工テーブル12がステップ移動され、以下、順次同様に切削動作が行われることにより、上述した光拡散面に対応する凹凸溝が形成される。
【0026】
本実施形態においては、ワーク14に溝15aを形成する本切削動作を行う前に、加工ステージ12に載置されたワークの表面(切削面)と切削用バイト14の切刃の先端との位置関係を正確に求めるための校正動作(キャリブレーション)を実施するため、導電性部材16、通電検出系、および振動検出系を備えている。通電検出系は、電源(給電装置)、抵抗器、および電流計もしくは電圧計などから構成される通電検出器17を備えて構成され、振動検出系は、超音波センサ18、および超音波分析装置19を備えて構成されている。
【0027】
導電性部材16は、柔軟性を有する例えば短冊状の形状を有する導電性フィルムから構成され、ここでは、切削用バイト14のシャンクにネジ止めなどにより、該シャンクとの電気的導通を確保した状態で固定されている。導電性部材16は、図2に示すように、その先端が切削用バイト14の切刃14aの先端よりも、僅かに(例えば、数十μm程度)突出するように設けられている。導電性部材16は、切削用バイト14のシャンクにネジ止め以外の方法で固定されてもよく、また、該シャンクではなく、チャックまたは加工ヘッドに設けてもよい。
【0028】
なお、導電性部材16としては、短冊状でなく、逆三角形、その他の形状でもよい。また、導電性部材16は、導電性フィルムにも限られず、図3に示すように、柔軟性を有する導電性の金属糸又は金属針16aであってもよい。さらに、図4に示すように、絶縁体であるダイヤモンドの切刃14aの先端を含む表面に金属蒸着法などによって形成された導電性膜16bであってもよい。この場合の導電性膜16bとしては、銅などの柔らかい金属を用い、膜厚は数十μm程度に設定するとともに、その一部はシャンクにまで至るように形成することによって、該シャンクとの電気的導通を確保する。
【0029】
通電検出器17は、加工ヘッドのチャック、および切削用バイト14のシャンクを介して導電性部材16に電気的に接続され、一方、加工テーブル12を介してワーク15と電気的に接続され、導電性部材16とワーク15との接触の有無を通電の有無により検出する。通電検出器17による検出結果(通電の有無)は、制御用コンピュータ13に供給される。
【0030】
超音波センサ18は、AE(Acoustic Emission)型のセンサであり、この超音波センサ18は、加工ヘッドまたはチャックに取り付けられている。超音波センサ18としては、切削用バイト14によってワーク15を切削する際に発生する数kHz〜数MHzの周波数範囲の音響放射エネルギを検出するセンサを用いることができる。超音波センサ18の検出結果は、超音波分析装置19に供給され、周波数分析や波形処理などが施されて、検出信号として、制御用コンピュータ13に供給される。
【0031】
なお、この振動検出系としては、超音波を検出するものに限定されず、より広範囲で振動を検出するものであってもよいが、外乱などの影響が少なく、高精度検出が可能であるなどの観点からは、超音波を検出するものを用いることが好ましい。また、この振動検出系を構成する超音波センサ18および超音波分析装置19としては、この切削装置に、工具などの破損の有無を検出するためのAE型の工具破損検出装置が設けられている場合には、当該工具破損検出装置を併用的に用いることが、別途専用の振動検出系を設けなくてもよいという観点からは好ましい。
【0032】
ところで、制御用コンピュータ13はメモリ(記憶手段)20を備えており、制御用プログラムおよびNC制御に用いる各種データの他に、振動検出系による検出結果に基づいて、切削用バイト14の切込量を検出するための振動特性データが予め記憶保持されている。この振動特性データは、ワーク15に対する切削用バイト14の切込量と該切込量で実際にワーク15を切削したときに生じる振動(ここでは、超音波振動)との関係を示すデータであり、単一または複数の切込量に対応して予め計測され、記憶保持されたものである。
【0033】
この振動特性データの計測(採取)は、次のように行う。まず、ワーク15の表面を切削用バイト14で切削して適宜に溝を形成する。この溝の幅を計測装置を用いて計測し、切削用バイト15の切刃の先端の角度との関係で、当該溝の深さ(すなわち、このときの切込量)を求める。これを切込量制御の基準として、所定の切込量で、実際に切削加工を実施し、そのときの超音波分析装置19から出力される検出信号(波形データ)を、そのときの切込量と対応させて、メモリに記憶させる。次に、切込量を順次、例えば1μmピッチで変更しつつ、同様の工程を繰り返し実施することにより、複数の切込量にそれぞれ対応した検出信号を得て、メモリ20に記憶させる。なお、メモリ20に記憶保持させておく振動特性データは、ここでは、波形データとしたが、その特性を示す代表値(例えば、平均周波数、振幅、ピーク値等)を記憶保持するようにしてもよい。
【0034】
図6(A)および図7(A)は、実際に切削動作を行った場合の振動特性データの一例を示す図である。なお、図5(A)は切削が実施されていない場合を示しており、超音波振動が発生していないため、その信号は一定であることを示している。図6(A)は切込量が小さい場合(一例として、1〜10μmの場合)の超音波信号(検出信号)の波形を示しており、図7(A)は切込量が大きい場合(一例として、10μm以上の場合)の超音波信号(検出信号)の波形を示している。なお、これらの図において、縦軸は周波数自体ではないが、これに相当する物理量を示し、横軸は時間を示している。この例から分かるように、切込量に応じて、検出される超音波信号の波形(中心周波数、振幅、ピーク値等)は変化する。従って、切削時の超音波信号が得られれば、この振動特性データから、その時の切込量を求めることが可能である。
【0035】
なお、この実施形態では、簡単のため、切込量が10μmに相当する信号波形のピーク値を基準値とし、これを振動特性データとして記憶保持するものとする。ただし、例えば、切込量0〜十数μm程度の範囲で1μm毎のピッチでそれぞれ信号波形のピーク値を求めて、これらを振動特性データとして記憶保持するようにしてもよい。なお、振動特性データとしては、このようなピーク値以外の特性を用いてもよい。
【0036】
図8は、制御用コンピュータ13によって実行される校正動作の流れを示すフローチャートである。まず、導電性部材16の先端が、加工ステージ12に対するワークの載置固定の状態にかかわらず、ワーク表面に確実に接触しない程度の位置(校正動作の開始位置)まで、切削用バイト14を切込方向(−Z軸方向)に移動させる(ステップS11)。次いで、切削用バイト14の切込方向への移動(降下)を開始させ(ステップS12)、通電検出器17による通電の有無を判断し(ステップS13)、通電が検出されない場合(NOの場合)には、ステップS12に戻って、さらに移動を継続させる。ステップS13において、通電が検出された場合(YESの場合)には、Z軸の駆動(切削用バイト14の降下)を停止させる(ステップS14)。
【0037】
次いで、Z軸方向の位置を変化させずに、加工テーブル12を移動させて、切削用バイト14の先端が、本切削動作時に形成すべき溝15aのいずれか(ここでは、最初に形成すべき溝とする)に対応する切削開始位置(ワーク15の−Y軸方向の側縁よりも僅かに外側の位置)に位置するように、加工ステージ12を移動させる(ステップS15)。次いで、切削用バイト14を、導電性部材16の先端の切削工具14の先端からの突出量との関係で予め設定された所定ピッチ(例えば、1μm)だけ切込方向に移動させ(ステップS16)、加工ステージ12を−Y軸方向に移動する(ステップS17)。このとき、切削用バイト14のワーク15に対する切り込みが生じていれば、切削動作がなされ、切り込みが生じていなければ、切削を伴わない動作となる。
【0038】
その後、所定切削量(ここでは、例えば10μm)の切削が終了したか否かを判断し(ステップS18)、所定切削量の切削が終了していないと判断した場合(NOの場合)には、ステップS15に戻って、ステップS15〜S18を繰り返す。
【0039】
ステップS18における判断は、具体的には、以下のように行う。ステップS17によるY軸方向への加工ステージ12の移動時に、切削用バイト14の先端がワーク15に接触していない場合には、切削はなされないので、図5(A)に示されているように、メモリ20に振動特性データとして記憶保持された基準値以下で超音波信号は一定である。すなわち、この場合には、切削用バイト14がワーク15に切り込んでいないため(互いに離間しているため)、切削は行われていないと判断でき、ステップS18の判断はNOとなる。
【0040】
ステップS16による−Z軸方向への移動が繰り返し行われ、切削用バイト14の先端がワーク15の表面よりも切り込んだ位置(−Z軸方向の位置)に至ると、ステップS17によるY軸方向への加工ステージ12の移動により、切削用バイト14によるワーク15の切削(予備切削動作)が行われることになり、この場合には、図6(A)に示されているように、超音波信号が検出されるが、基準値以下であるため、ステップS18の判断はNOとなる。
【0041】
ステップS16による−Z軸方向への移動がさらに繰り返し行われ、前回の切削動作時よりも切込量が大きくなると、検出される超音波信号の振幅が大きくなり、図7(A)に示されているように、そのピークが基準値を越える超音波信号が検出される。上述した通り、基準値は、切込量10μmに相当するので、この時点で、10μmの切削がなされたと判断することができ、ステップS18の判断はYESとなる。
【0042】
ステップS18において、所定切削量の切削が終了していると判断した場合(YESの場合)には、切削用バイト14を+Z軸方向に所定量(例えば、10μm)だけ移動(上昇)させる(ステップS19)。この状態は、切削用バイト14の先端がワーク15の表面に一致した状態であるので、この位置を本切削動作のZ軸方向(切込方向)の制御基準に設定する(ステップS20)。次いで、加工テーブル12を+Y軸方向に移動させて、切削用バイト14の先端が、本切削動作で最初に形成すべき溝(ここでは、予備切削動作による溝と同じ)に対応する切削開始位置(ワーク15の−Y軸方向の側縁よりも僅かに外側の位置)に位置するように、加工ステージ12を移動させて(ステップS21)、一連の校正動作を終了し、上述した本切削動作に移行する。
【0043】
なお、この実施形態では、振動特性データは制御用コンピュータ13のメモリ20に記憶保持され、校正動作時における切削量の判断は制御用コンピュータ13が行うものとして説明しているが、振動特性データの記憶保持および判断処理を、例えば、超音波分析装置19で行う等、制御用コンピュータ13とは別の外部装置によって行い、その判断結果を制御用コンピュータ13に供給するようにしてもよい。この場合には、図5(B)および図6(B)に示されているように、基準値以下である場合には、「0V」を出力し、図7(B)に示されているように、基準値を越えた場合には、「5V」を出力することにより、制御用コンピュータ13に通知するようにしてもよい。
【0044】
上述した実施形態によると、その先端が切削用バイト14の先端よりも切込方向(−Z軸方向)に僅かに突出するように設けられた柔軟性を有する導電性部材16のワーク15に対する接触を、通電検出器17によってその通電の有無により検出するようにしている。従って、切削用バイト14のワーク15の表面への近接を、切削用バイト14がワーク15に接触する前に確実に検出することができる。このため、切削用バイト14のワーク15への近接動作を、導電性部材16のワーク15への接触が検出される時までは比較的に高速に行うことができ、導電性部材16のワーク15への接触が検出された後は比較的に低速に動作させることにより、切削用バイト14のワーク15への衝突を、スループットをそれほど低下させることなく、有効に回避することが可能になる。なお、導電性部材16は柔軟性を有するので、ワーク15への接触によりワーク15を傷つけてしまうこともなく、しかも、電解加工液をフロー供給する従来技術と比較して、ランニングコストを低くすることができる。
【0045】
また、切削用バイト14のワーク15への単純な接触の有無により、ワーク15の表面に対する切削用バイト14の先端の位置を検出するのではなく、切削用バイト14によるワーク15の切削時に生じる振動を検出し、ワーク15に対する切削用バイト14の切込量と該切込量で実際に該ワーク15を切削したときに生じる超音波振動との関係を示す振動特性データを、複数又は単一の切込量に対応して予め計測して、メモリ20に記憶させておき、検出された超音波振動と予め計測しておいた振動特性データとに基づいて、ワーク表面に対する切削用バイト14の先端の切込方向の位置を検出するようにしている。従って、実際に切削動作(予備切削動作)を伴うので、従来技術のように、切削動作を伴わずに工具をワークに接触させる場合と比較して、工具の損傷も少なくなる。加えて、この予備切削動作による溝の形成を、本切削動作で形成すべき溝の位置と同じ位置で行うとともに、この予備切削動作による切削量(切込量)を本切削動作において最終的に必要な切削量よりも小さいものにすれば、ワークに回復不能な傷をつけてしまうことも回避可能である。
【0046】
さらに、本実施形態では、上述したように、校正動作における切削工具やワークの損傷が少なく、ランニングコストも低いので、複数の溝からなる光拡散面を有する光学部品(光拡散板、導光板など)などを成形するための金型を、安定して製造できるとともに、製造コストを低減することができる。
【0047】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上述した実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0048】
例えば、上述した実施形態では、工具として切削用バイト14を用いて金型母材に溝を形成する平削り盤としての切削装置について説明したが、同様な切削用バイトを用いる旋盤や形削り盤等に適用することも可能である。また、このような切削用バイトを用いる平削り板や旋盤等以外に、回転する工具を用いるフライス盤やマシニングセンタ、研削砥石を用いる研削盤等の切削装置にも本発明を適用することができる。なお、回転する工具を用いる場合には、通電検出用の導電性部材は、工具にではなく、加工ヘッド等の回転しない部分に設けるとよい。
【0049】
また、上述した実施形態では、X軸方向に並列されたY軸方向に沿う複数の溝を形成する場合について説明したが、この金型を用いて成形される光拡散板(光学部品)の仕様に応じて、Y軸方向に並列されたX軸方向に沿う複数の溝をさらに形成してメッシュ状にしてもよく、あるいは直線状の溝ではなく、円弧やその他の曲線状の溝を形成するようにしてもよい。溝の断面形状も、上述した実施形態のように略V字形状に限られず、円弧状や凹状の溝であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態の切削装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態の導電性部材が設けられた切削用バイトを示す図である。
【図3】本発明の実施形態の他の導電性部材が設けられた切削用バイトを示す図である。
【図4】本発明の実施形態のさらに他の導電性部材が設けられた切削用バイトを示す図である。
【図5】本発明の実施形態の非切削時の振動特性データの一例を示す図(A)、およびそのときの出力信号を示す図(B)である。
【図6】本発明の実施形態の比較的に小さい切込量で切削した場合の振動特性データの一例を示す図(A)、およびそのときの出力信号を示す図(B)である。
【図7】本発明の実施形態の比較的に大きい切込量で切削した場合の振動特性データの一例を示す図(A)、およびそのときの出力信号を示す図(B)である。
【図8】本発明の実施形態の制御コンピュータによる校正動作の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0051】
10…切削装置、
11…加工機本体、
12…加工ステージ、
13…制御用コンピュータ、
14…切削用バイト、
14a…切刃、
15…ワーク、
15a…溝、
16,16a,16b…導電性部材、
17…通電検出器、
18…超音波センサ、
19…超音波分析装置
20…メモリ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具によりワークの表面を切削する切削装置に用いられる位置検出方法であって、
その先端が前記切削工具の先端よりも切込方向に突出するように設けられた柔軟性を有する導電性部材の該ワークに対する接触を通電の有無により検出する通電検出ステップと、
前記切削工具による前記ワークの切削時に生じる振動を検出する振動検出ステップと、
前記ワークに対する前記切削工具の切込量と該切込量で実際に該ワークを切削したときに生じる振動との関係を示す振動特性を、予め計測する計測ステップと、
前記振動検出ステップで検出された前記振動と前記計測ステップで計測された前記振動特性とに基づいて、前記ワークの表面に対する前記切削工具の先端の前記切込方向の位置を検出する位置検出ステップと
を備えることを特徴とする位置検出方法。
【請求項2】
前記位置検出ステップに先立ち、前記通電検出ステップにより前記導電性部材の先端と該ワークとの接触が検出された時点における該切削工具の位置から、前記導電性部材の先端の該切削工具の先端からの突出量との関係で予め設定された所定量だけ該工具を前記切込方向に移動させて切削動作を行う予備切削ステップをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の位置検出方法。
【請求項3】
切削工具によりワークの表面を切削する切削装置であって、
その先端が前記切削工具の先端よりも該切削工具の切込方向に突出するように設けられた柔軟性を有する導電性部材と、
前記導電性部材と前記ワークの接触を通電の有無により検出する通電検出手段と、
前記切削工具による前記ワークの切削時に生じる振動を検出する振動検出手段と、
前記ワークに対する前記切削工具の切込量と該切込量で実際に該ワークを切削したときに生じる振動との関係を示す振動特性を、予め記憶した記憶手段と、
前記振動検出手段で検出された前記振動と前記記憶手段に記憶された前記振動特性とに基づいて、前記ワークの表面に対する前記切削工具の先端の前記切込方向の位置を自動検出する制御手段と
を備えることを特徴とする切削装置。
【請求項4】
前記切削工具は、その先端に切刃を有する切削用バイトであることを特徴とする請求項3に記載の切削装置。
【請求項5】
前記導電性部材は、短冊状の導電性フィルムであることを特徴とする請求項3または4に記載の切削装置。
【請求項6】
前記振動検出手段は、前記切削工具による前記ワークの切削時に生じる超音波を検出する超音波検出手段であることを特徴とする請求項3、4または5に記載の切削装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載の位置検出方法を用いて、前記切削工具の前記切込方向の位置決めの制御基準を設定する校正ステップと、
前記校正ステップで設定された前記制御基準を基準として、前記ワークとしての金型母材に複数の溝を切削形成する切削ステップと
を備えることを特徴とする金型の製造方法。
【請求項8】
前記金型は、光拡散面を備える光学部品を成形するための金型であることを特徴とする請求項7に記載の金型の製造方法。
【請求項9】
金型母材に複数の溝を切削形成するために請求項3〜6のいずれかに記載の切削装置を備えることを特徴とする金型の製造装置。
【請求項10】
請求項7または8に記載の金型の製造方法により得られた金型を用いて製造されたことを特徴とする光学部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−83083(P2009−83083A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259774(P2007−259774)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】