説明

低吸油性フライ用パン粉の製造方法及びフライ食品

【課題】低吸油性で、良好な食感を有するパン粉の製造方法、ならびにそれを用いたフライ食品を提供すること。
【解決手段】澱粉分解物を含むパン生地を用いて発酵、焼成したパンを粉砕して得られるフライ用パン粉の製造において、パン生地にα澱粉を含有させることを特徴とする、低吸油性フライ用パン粉の製造方法;この方法で得られる低吸油性フライ用パン粉を用いて製造されたフライ食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低吸油性でありながら良好な食感を有するパン粉の製造方法及びそれを使用した食品、特に低吸油性フライ食品に関する。
【背景技術】
【0002】
パン粉を使用するフライ食品は、畜肉製品、畜産加工品、水産品、水産加工品、農産品、農産加工品などに、小麦粉またはその他の穀粉をまぶし、その後、卵液またはバッター液をくぐらせ、最後にパン粉をまぶして油ちょうした食品である。
調理方法としての油ちょうは、熱媒体に油を使用するために高温調理が可能であり調理時間も短く、脱水作用や膨化による特徴的な食感も得られる。しかし、熱媒体が油であるため、調理後の食品に油が含まれるということが問題となってきた。
1988年の国民栄養調査は、乳製品や肉類を多く摂取するなどの食生活の欧米化によって、摂取エネルギーに占める脂肪エネルギーの割合が、望ましい比率の上限とされる25%を初めて突破したことを報じている。
このように脂肪の過剰摂取が問題化するにつれ、食品中の油脂の低減化が大きな課題となってきた。さらに、近年、健康上の問題から、カロリーの摂り過ぎが敬遠される傾向にあるため、特に衣への吸油量が少ないパン粉が望まれている。
【0003】
そのような背景の中、上記のフライ衣の吸油という問題を解決するために、油ちょう時の吸油量が少ない、種々の低吸油性のパン粉及びその製法が開発されてきた。
例えば、パン生地原料に豆類から抽出した食物繊維細胞膜を配合してなることを特徴とするパン粉(特許文献1)、トウモロコシ外皮から調製され、NDF値が50%以上で、粒度が80メッシュより細かい食物繊維を含有することを特徴とするパン粉(特許文献2)、トウモロコシから調製された食物繊維及び大豆から調製された蛋白質を含有することを特徴とするパン粉(特許文献3)、主原料として大豆粉および加工澱粉を添加した穀粉類を用い、かつ焼成されるパンの比容積が2.8〜3.6ml/gになるように発酵を抑制して焼成を行うことを特徴とするパン粉の製法(特許文献4)、常法によって得られるパンブロックを圧延した後、粉砕することを特徴とするパン粉の製法(特許文献5)、パン生地原料に水溶性食物繊維を配合することを特徴とするパン粉の製法(特許文献6)などがある。しかし、これらの方法はいずれもクラストを密にして吸油を低減させるもので、得られたパンの比容積は低くなり食感的には固く、好ましいものではなかった。
【0004】
この食感の改良を試みた方法として、例えば、プロテアーゼ類およびアミラーゼ類から選ばれた1種または2種以上の酵素を添加することを特徴とするパン粉及びその製造方法(特許文献7)、パンの気泡数を増加し、かつ各気泡の大きさを小さくするように制御したパンから製造したパン粉(特許文献8)などがあるが、充分な改良とはいえないのが現状である。
前述したように、これまでにパン粉の吸油量を抑制する方法として、パン生地原料に各種の食物繊維やタンパクを添加する、もしくは生地の発酵を抑制してパン比容積を減少させること等が提案されてきた。しかしながら、各種食物繊維やタンパクの添加、生地発酵などを抑制して作製されたパンは比容積が減少し、比容積が減少したパンから調製されたパン粉は、吸油量は減少するものの食感が硬くなり、油ちょう後の食味は著しく低下するなど不具合が生じる。
食物繊維を含み、しかも比容積が減少しないパンの製造方法も開示されている。すなわち、特許文献9は、直捏法の混捏工程において生地形成が50〜80%形成された時点、あるいは中種法の本捏工程、特に生地が40〜70%形成された時点で難消化性デキストリンを添加することで、比容積が減少しない、食感に優れた食物繊維含有ベーカリー製品が製造できることを開示している。
しかしながら、この方法では難消化性デキストリンを混捏工程の途中段階で添加することとなり、操作が煩雑となり工程管理も容易ではなく、更なる改良が求められている。
【0005】
【特許文献1】特開平2−20258号公報
【特許文献2】特開平5−61号公報
【特許文献3】特開平7−246072号公報
【特許文献4】特開平7−250641号公報
【特許文献5】特開平8−131108号公報
【特許文献6】特開2006−271329号公報
【特許文献7】特開平6−169717号公報
【特許文献8】2003−284519号公報
【特許文献9】特公平5−51253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、比容積を変化させずに、すなわち食味を損なわずに油ちょう時の油の吸収を抑制することができるパン粉の製造方法を提供することを目的とする。
すなわち、本発明は低吸油性でありながら良好な食感を有するパン粉の製造方法、ならびにそれを用いたフライ食品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するための方法について鋭意検討した結果、澱粉分解物、特に難消化性デキストリンを添加したパン生地は二次発酵が抑制され、パンの比容積も減少し、この抑制は、発酵時間を延長しても完全には回復しないが、原料紛に更にα澱粉を添加することにより、発酵の抑制が改善され、パンの比容積の減少も顕著に改善されることを見出した。さらに、α澱粉の添加に加えて二次発酵時間を延長することによってパンの比容積は難消化性デキストリンを添加しない場合と同等のレベルに回復した。このようにして調製したパンを粉砕して得られるパン粉は低吸油性であり、食感に優れていることを見出した。本発明はこれらの知見に基いて達成された。
【0008】
本発明は以下に示す低吸油性フライ用パン粉の製造方法及び該方法で得られる低吸油性フライ用パン粉を用いて製造されたフライ食品を提供するものである。
1.澱粉分解物を含むパン生地を用いて発酵、焼成したパンを粉砕して得られるフライ用パン粉の製造において、パン生地にα澱粉を含有させることを特徴とする、低吸油性フライ用パン粉の製造方法。
2.小麦粉100質量部に対するα澱粉の量が1〜10質量部である、上記1に記載の低吸油性フライ用パン粉の製造方法。
3.さらに二次発酵時間を延長することを特徴とする、上記1又は2に記載の低吸油性フライ用パン粉の製造方法。
4.澱粉分解物が、焙焼デキストリン又はそれを加水分解して得られる難消化性デキストリンである、上記1〜3のいずれか1項に記載の低吸油性フライ用パン粉の製造方法。
5.小麦粉100質量部に対する澱粉分解物の量が3〜30質量部である、上記1〜4のいずれか1項に記載の低吸油性フライ用パン粉の製造方法。
6.焼成後のパンの比容積が4.0〜5.0mL/gである、上記1〜5のいずれか1項に記載の低吸油性フライ用パン粉の製造方法。
7.上記1〜6のいずれか1項に記載の方法で得られる低吸油性フライ用パン粉を用いて製造されたフライ食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低吸油性でありながら、食感に優れたパン粉を提供することができるので、脂肪含量が少なく、しかも食感に悪影響の無いフライ食品の製造に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明でいうパン粉とは、小麦粉を主原料とし、砂糖、食塩、イーストフード、イースト、油脂などを適宜添加してパン生地を製造し、焙焼法、電極法など定法に従ってパンを焼成し、そのパンを粉砕した生パン粉や目的に応じて乾燥した乾燥パン粉を意味する。
本発明で用いる澱粉分解物は、澱粉を分解して、その50質量%以上が常温水(20℃)に溶解する程度に分解したものである。澱粉は常温水には殆ど溶解しないが、何らかの方法でこれを分解して低分子化することにより常温水に溶解するようになり、それが50質量%以上になるように分解したものである。
【0011】
本発明に使用する澱粉分解物は、通常、澱粉分解物を製造するのに用いられている方法により製造できる。具体的には、A.澱粉を糊化してα−アミラーゼやグルコアミラーゼなどの澱粉分解酵素、塩酸や蓚酸などの酸、あるいはこの両者を用いて分解し、所望により精製して得られるもの、B.澱粉に少量の塩酸を加え、エクストルーダーを用いて加熱して押し出し、所望により精製して得られるもの、C.澱粉に少量の塩酸を加え、粉体状で110℃〜180℃で加熱処理して得られる、一般に焙焼デキストリンと称されているもの、D.焙焼デキストリンを更に、α−アミラーゼやグルコアミラーゼなどの澱粉分解酵素で処理して、所望により消化性成分を分離除去して精製したもので、一般に難消化性デキストリンと称される範疇のものが挙げられる。低吸油性のパン粉を得るためには、これらの澱粉分解物の中でも、焙焼デキストリンが効果的で好ましく、更に難消化性デキストリンがより効果的で好ましい。
【0012】
澱粉分解物の配合割合は、上記パン粉の主原料である小麦粉100質量部に対して3〜30質量部とするのが好ましい。配合量が3質量部に満たない場合には本発明の効果は低く、30質量部を超えるとパン粉の形成が困難となる傾向がある。また、好ましい食感の観点から、澱粉分解物の配合割合は、小麦粉100質量部に対し3〜15質量部とするのがより好ましい。
しかし、澱粉分解物を添加した際、とくに難消化性デキストリンを添加した際には、二次発酵で生地体積の増加速度が澱粉分解物を添加していないものよりも遅くなる。その結果、パンの比容積が減少する。そのようなパンから調製されるパン粉の食感は好ましいものではない。この問題を解決するために、本発明ではパン生地にさらにα澱粉を添加する。
【0013】
本発明に使用するα澱粉は、原料澱粉を水中に分散させた乳液をドラムドライヤーやスプレードライヤーにて糊化後乾燥し、粉砕して製造されたもので、原料は例えばタピオカ澱粉、小麦澱粉、トウモロコシ澱粉、米でんぷん、馬鈴薯澱粉などいずれも用いることが出来る。またα化する澱粉はエーテル化、エステル化、リン酸架橋化などの加工を施されたものでもかまわないが、好ましくは架橋化などの膨潤を抑制する加工をしていないか、もしくはわずかに加工したものである。
このようにして得られたα澱粉を小麦粉100質量部に対し好ましくは1〜10質量部、さらに好ましくは1〜5質量部添加することで、澱粉分解物を添加することによる二次発酵の抑制が改善され、パンの比容積の減少も改善され、パン粉の食感が良好になる。この際、添加量が1質量部に満たない場合は本発明の効果は十分ではない傾向があり、10質量部を超えるとパン粉の形成が困難となる傾向がある。
【0014】
本発明の目的は、澱粉分解物とα澱粉を含有させることにより達せられる。澱粉分解物とα澱粉をパン生地に含有させる方法は特に限定されず、要は、この両者が含有されるようにパン生地が調製されていればよい。例えば、小麦粉や砂糖などの粉類を加える際に別々に加えても良いし、用いる粉類の一部又は全部とプレミックスして添加することも出来る。また、α澱粉を製造する際に所望の比率で澱粉に澱粉分解物を加えたものをα化して、澱粉分解物を含むα澱粉として添加することも出来る。
澱粉分解物を添加した生地の二次発酵における生地容積の減少(二次発酵の抑制)は、α澱粉の添加により回復するが、必ずしも完全ではない。そこで、α澱粉を添加した生地における二次発酵後の生地容積が、澱粉分解物を添加していない生地の二次発酵終了時の生地容積と少なくとも同程度の容積になるまで、二次発酵時間を延長することが好ましい。そうすることにより、焼成されたパンの比容積も澱粉分解物を添加しない場合のものと同程度となり、パン粉の食感が良好となる。好ましいパンの比容積は4.0〜5.0、さらに好ましくは4.25〜4.85である。また、澱粉分解物の添加によって減少したパン比容積を回復させるために延長する二次発酵時間は、5〜20分が好ましい。
このようにして製造されるパンを粉砕することにより、低吸油性で且つ食感に優れたパン粉を製造することが出来る。
上記のようにして得られたフライ用パン粉を用いたフライは、通常の場合と同様にして製造することが出来る。すなわち、例えば肉類、魚類、野菜類、あるいはコロッケの種などの種物に必要に応じて小麦粉などをまぶした後、卵液、バッター等を付着させ、さらに本発明のフライ用パン粉を付着させ、油ちょうしてフライ食品とする。
【実施例】
【0015】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら制限を受けるものではない。
実施例1〜2及び比較例1〜3
表1に示す配合の生地原料及び表2に示す工程でパン生地を調製し、同じく表2に示す時間の二次発酵を行い、実施例1〜2、及び比較例1〜3のパンを焼成した。これらの配合については、生地の硬さを調整するために水の配合量を変えたほかは、試験の対象となる物質以外の配合は変化させていない。得られたパンを室温にて一晩冷却した後、粉砕機で直径6mmの開孔を通過する程度の大きさに粉砕して、目開き2.36mmのフルイを通過しないパン粉を得た。
焼成後のパンの比容積は、従来から一般的に利用されている菜種法によって測定した。
【0016】
試験例1
実施例1〜2および比較例1〜3の各パン粉を適量茶漉しに取り、茶漉し中のパン粉の重量を測定する。180℃で2分間フライした後、空中に持ち上げて一分間油きりをする。その後クッキングシート上に茶漉しごと、5分間静置し、油ちょう後のパン粉の重量と水分含量を測定する。別にあらかじめ、油ちょう前のパン粉の水分含量を測定しておく。
油ちょう前後のパン粉の重量変化は、水分の蒸発と吸油によるもののみと仮定して、以下の式で吸油率を算出した。
吸油率={(油ちょう後の固形物重量)−(油ちょう前の固形物重量)}/(油ちょう前の固形物重量)*100
表3の通り、比容積は比較例2で最も低くなり、比較例1と実施例2でほぼ同等となった。
吸油率は比較例2で最も低く、比較例3、実施例1及び2の順に増加している。しかし、比容積が同等である比較例1と実施例2の間で明らかに吸油率の差が見られた。このことから、吸油率の低下は比容積が下がったことによるものではなく、澱粉分解物を添加したことによるものと考えられる。



【0017】
【表1】

難消化性デキストリン:「ファイバーソル2」松谷化学工業(株)
α澱粉:「マツノリンFFB」松谷化学工業(株)
【0018】
【表2】

【0019】
試験例2
実施例1〜2および比較例1〜3の各パン粉について、試験例1と同様に油ちょうを行い、フライ後のパン粉の食感について10名のパネラーにより、最高点を5とし最低点を1とする5段階評価で官能評価を行った。その点数の平均値を表3に示した。
その結果、比容積の数値が高くなるほど、官能評価の点数も高くなることが示された。また吸油低減の無い比較例1と実施例2は近い点数を示した。
【0020】
【表3】

【0021】
比較例1の処方に、難消化性デキストリンを添加した比較例2では、吸油率は低減するが、得られたパンの比容積が低くなり食感が著しく悪くなる。比較例2においてα澱粉を添加した実施例1では、吸油率はやや高くなるが、比較例1の吸油率よりもはるかに低く、得られたパンの比容積が高くなり食感が著しく向上する。
比較例2において、二次発酵時間を長くした比較例3では、吸油率はやや高くなり、得られたパンの比容積も高くなり食感がやや向上する。比較例3においてα澱粉を添加した実施例2では、吸油率は実施例1よりもやや高くなるが、比較例1の吸油率よりもはるかに低く、得られたパンの比容積及び食感は比較例1とほぼ同等程度まで向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉分解物を含むパン生地を用いて発酵、焼成したパンを粉砕して得られるフライ用パン粉の製造において、パン生地にα澱粉を含有させることを特徴とする、低吸油性フライ用パン粉の製造方法。
【請求項2】
小麦粉100質量部に対するα澱粉の量が1〜10質量部である、請求項1に記載の低吸油性フライ用パン粉の製造方法。
【請求項3】
さらに二次発酵時間を延長することを特徴とする、請求項1又は2に記載の低吸油性フライ用パン粉の製造方法。
【請求項4】
澱粉分解物が、焙焼デキストリン又はそれを加水分解して得られる難消化性デキストリンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の低吸油性フライ用パン粉の製造方法。
【請求項5】
小麦粉100質量部に対する澱粉分解物の量が3〜30質量部である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の低吸油性フライ用パン粉の製造方法。
【請求項6】
焼成後のパンの比容積が4.0〜5.0mL/gである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の低吸油性フライ用パン粉の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法で得られる低吸油性フライ用パン粉を用いて製造されたフライ食品。

【公開番号】特開2009−34065(P2009−34065A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203002(P2007−203002)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000188227)松谷化学工業株式会社 (102)
【Fターム(参考)】