説明

作業用足場装置

【課題】 空中に設置された構築物であっても、その構築物の外面の処理作業を容易かつ安全に行い得るようにするとともに、同時に、処理物の飛散防止を実現して、効率よくその構築物の外面処理を行うことのできる作業用足場装置を提供すること。
【解決手段】 空中に延在する水平鉄管100の外面の処理作業を行う際に設置する作業用足場装置10であって、水平鉄管の上部に対面する天井側部材11と、水平鉄管の側部に対面する壁側部材12と、水平鉄管の下部に対面する床側部材13と、水平鉄管に設置されている歩道101の手摺102に接触しないように天井側部材を支持するとともに、その歩道上にローラ部材22を転動させて移動する支持台車部材14と、を備えており、床側部材には足場板21を載せるとともに、これら部材11〜13の周囲を飛散防止ネット31や飛散防止シート32で覆う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業用足場装置に関し、詳しくは、空中に設置された鉄管などの外面の錆落しや塗装などの処理作業を容易かつ安全に行うことを可能にするものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、構築物の外面に対して防錆処理などを施す場合には、その構築物の周囲に足場を組むのが一般的であり、その足場は、錆落しや塗装等の処理を施す構築物の外面の近傍、例えば、作業者の手が届く距離に組まれる。
【0003】
しかるに、例えば、水力発電用の水を流通させる水路鉄管の外面に防錆処理を施す場合にも、その水路鉄管に沿うように足場を組む必要があるが、この水路鉄管が峡谷などの壁面間に設置されていて、空中に構築されている場合にも、その水路鉄管の全長に亘って足場を組むのでは、大規模な足場になって費用が掛かりすぎてしまう。
【0004】
このことから、橋梁構築物における作業用足場として、その長手方向に足場を移動可能にした装置が提案されていることから、この足場装置を利用して水路鉄管の延在方向に足場を移動させつつ作業することを実現することが考えられる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−212919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような上記文献1に記載の作業用足場装置にあっては、構築物の下側が開放されているので、その構築物の下部に対する処理作業を行うことができない。さらに、この作業用足場装置では、その開放部分から粉塵や塗料などが飛散してしまうことを防止することができない。
【0006】
また、このような水路鉄管の上部には、歩道が設置されている場合があり、この場合には、その歩道が邪魔になって、上記文献1に記載の橋梁構築物の作業用足場装置を流用することができない。
【0007】
そこで、本発明は、空中に設置された構築物であっても、その構築物の外面の処理作業を容易かつ安全に行い得るようにするとともに、同時に、処理物の飛散防止を実現して、効率よくその構築物の外面処理を行うことのできる作業用足場装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する作業用足場装置の第1の発明は、空中に延在する構築物の外面の処理作業を行う際に設置する作業用足場装置であって、構築物の上部に対面して該構築物の延在方向に対して直交する天井側部材と、該天井側部材の両端部から吊り下げられて構築物の側部に対面する壁側部材と、該壁側部材の双方の下部に連結されて構築物の下部に対面する床側部材と、天井側部材の構築物側に対応する部位に取り付けられて該天井側部材を構築物上部に支持する転動部材と、を備えて、天井側部材、壁側部材および床側部材により構築物の周囲を覆うとともに、少なくとも床側部材に足場用板材が設置されていることを特徴とするものである。
【0009】
この発明では、構築物の下側を床側部材に設置された足場用板材で覆うことができ、また、その足場用板材に立って、構築物の上部や両側部に加えて下部の外面処理作業も容易に行うことができる。また、天井側部材に足場用板材が設置されている場合には、そこに立って、構築物の上部の外面処理作業を容易に行うことができるとともに、例えば、構築物の上部を転動部材が転動して延在方向に移動した後に、その構築物に移動不能に連結する作業なども容易に行うことができる。したがって、構築物の下部の外面処理作業を容易化するとともに、その下部の足場用板材で塗料などの処理物が無制限に飛散するのを防止することができる。
【0010】
上記課題を解決する作業用足場装置の第2の発明は、上記第1の発明の特定事項に加え、前記天井側部材、壁側部材および床側部材により画成される空間のうち少なくとも側面側、前面側および後面側を、処理物が飛散するのを防止するネットで覆うことを特徴とするものである。
【0011】
この発明では、作業空間の両側面側および前後面側が飛散防止ネットで覆われる。したがって、床側の足場用板材に加えて、作業空間の内外の空気の流通を妨げることなく、塗料の細かい飛沫などの処理物もそのネットに付着させて飛散することを防止することができる。ここで、作業空間の上面側や下面側も飛散防止ネットで覆ってもよいことはいうまでもなく、この場合には、より信頼性高く、細かい飛沫などを飛散することを防止することができる。
【0012】
上記課題を解決する作業用足場装置の第3の発明は、上記第1または第2の発明の特定事項に加え、前記床側部材の上には、処理物が飛散するのを防止するシートが敷かれていることを特徴とするものである。
【0013】
この発明では、作業空間の下面側にシートが敷かれる。したがって、床側の足場用板材に加えて、下面側がシートにより覆われることにより、足場用板材が複数に分割されていて隙間があったとしても、その隙間から塗料の細かい飛沫などの処理物もそのシートに確実に付着させて飛散することを防止することができる。ここで、このシートは、折り畳める材料であってもよく、また、硬質の板状に形成されて下面側全体を覆う場合には、このシートにより足場用板材と兼用させてもよい。
【0014】
上記課題を解決する作業用足場装置の第4の発明は、上記第1から第3のいずれかの発明の特定事項に加え、前記壁側部材の上下方向の内側中間部に足場用板材を支持するブラケット部材を取り付けたことを特徴とするものである。
【0015】
この発明では、天井側部材と床側部材の間に足場用板材を設置することができる。したがって、床側部材の足場用板材から作業しづらい場合でも、その壁側部材に設置した足場用板材を利用して容易に外面処理作業を行うことができる。
【0016】
上記課題を解決する作業用足場装置の第5の発明は、上記第1から第4のいずれかの発明の特定事項に加え、前記構築物の上部に設置されている手摺付きの歩道上に、転動部材を転動可能に当接させるとともに、該歩道の手摺に接触しないように天井側部材を支持する支持部材を備えることを特徴とするものである。
【0017】
この発明では、構築物の手摺に天井側部材が接触しないように支持しつつ歩道上を転動部材が転動して移動することができる。したがって、構築物の上部に手摺付きの歩道が設置されている場合でも、その手摺が邪魔になることなく、延在方向に移動させてその構築物の外面の処理作業を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
このように本発明によれば、構築物の下部に対面する床側部材に足場用板材を設置するので、構築物の下部の外面処理作業も容易かつ安全に行うことができるとともに、構築物の下側を足場用板材で覆って塗料などの処理物が無制限に飛散することを防止することができる。さらに、その作業空間をネットやシートで覆うことにより、細かい飛沫などの飛散も防止することができる。したがって、構築物の外面処理に集中して作業することができ、作業性を向上させて、効率よく作業を進めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の最良の実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図3は本発明に係る作業用足場の一実施形態を示す図である。
【0020】
図1〜図3において、作業用足場装置10は、例えば、峡谷の壁面間に水平の姿勢で設置されている円筒形状(断面円形)の水力発電用の水路鉄管(構築物)100の外面に何等かの処理を施す際に使用するものであり、例えば、その水平鉄管100の外面の錆を落として再塗装する防錆処理などを行う場合に最適に用いることができる。ここで、水平鉄管100は、その上部に歩道101が設置されており、その歩道101の両脇には、手摺102が取り付けられている。
【0021】
作業用足場装置10は、水平鉄管100に対して直交する方向でその上部側に対面する天井側部材11と、水平鉄管100の両側部側に対面する壁側部材12と、水平鉄管100の下部側に対面する床側部材13と、天井側部材11を水平鉄管100上部の歩道101上で延在方向に移動可能に支持する支持台車部材14と、を備えており、これら部材11〜14は、水平鉄管100の径に応じた長さの足場用パイプ(所謂、単管パイプ)を互いに相対回転可能な自在クランプなどで連結することにより組み立てられている。
【0022】
天井側部材11は、水平鉄管100の両側に作業スペースを確保することができるように、その直径よりも長めに設定されており、その水平鉄管100の延在方向にも作業スペースを確保するように、その延在方向に対する前後方向(以下、単に前後方向ともいう)に三列並列されて幅方向にも適宜連結されている。
【0023】
壁側部材12は、水平鉄管100の下側にも作業スペースを確保することができるように、その直径に、歩道101の手摺102の高さ(支持台車部材14の高さ)を加えた寸法よりも長めに設定されており、天井側部材11の両端部に吊り下げるように前後方向に三列並列されて高さ方向にも適宜連結されている。なお、天井側部材11と床側部材13の間で垂直に連結された壁側部材12は、水平の部材12aが転落を防止する手摺としても機能する。
【0024】
床側部材13は、天井側部材11と同様の長さに設定されて、前後方向に三列並列されて幅方向にも適宜連結されており、その上には、概略全面を覆うように足場板21が設置されている。
【0025】
これにより、床側部材13に設置された足場板21に立って、水平鉄管100の上部や側部の外面に加えて、その下部の外面の塗装落しや錆落しとともに、その後に塗装するなどの外面処理を容易に行うことができ、このとき、下方に落下する塗料などは足場板21で受けて外部環境を汚してしまうことを防止することができる。
【0026】
支持台車部材14は、前後方向に並列された天井側部材11を支持するように四角の骨組みで構築されており、水平鉄管100の上部に設置されている歩道101の手摺102間の幅よりも幅狭で、その手摺102の上側に上部が露出する高さに設定されている。この支持台車部材14は、その下部の四隅に、ローラ部材22が前後方向に回転自在に軸支されている。すなわち、支持台車部材14本体が天井側部材11を手摺102に接触しないように支持する支持部材を構成して、取り付けられているローラ部材22が歩道101上に転動可能に当接して天井側部材11を支持する転動部材を構成している。
【0027】
これにより、支持台車部材14は、天井側部材11、壁側部材12および床側部材13を水平鉄管100に対面する姿勢で支持しつつ、手摺102に天井側部材11を接触させてしまうことなく(手摺102が邪魔になってしまうことなく)、歩道101上でローラ部材22が転動することができ、水平鉄管100の周囲を囲う状態でその作業用足場装置10を延在方向に移動させることができる。このとき、作業用足場装置10は、歩道101上でそのまま押し曳きして移動させてもよく、また、ワイヤを連結してウインチにより引っ張って移動させてもよい。なお、この作業用足場装置10の天井側部材11、壁側部材12、床側部材13、支持台車部材14では、筋違え25を取り付けて補強している。
【0028】
この作業用足場装置10の壁側部材12には、水平鉄管100側に突出するブラケット部材27が固設されており、そのブラケット部材27の上には、水平鉄管100と平行に延在する足場板29が設置されている。このブラケット部材27は、壁側部材12に対して直角に取り付けられる水平部材27aと、この水平部材27aよりも下側の壁側部材12に取り付けられてその水平部材27aの先端側を支持する傾斜部材27bと、により構成されており、載せられた足場板29を変形不能な三角形で強固に支持する。
【0029】
これにより、水平鉄管100が大径の構築物で床側部材13の足場板21だけではその上部側に手が届かない場合にも、そのブラケット部材27の足場板29に乗って容易に作業することができる。
【0030】
また、この作業用足場装置10は、天井側部材11、壁側部材12および床側部材13により囲われた作業空間の側面側(壁側部材12の外面側)と共に、水平鉄管100の延在方向の前後面側も、塗料の飛沫などを透過させずに付着させることができる程度の網目に設定されている飛散防止ネット31により覆われている。ここで、飛散防止ネット31は、天井側部材11の上面側や床側部材13の下面側をも覆うようにしてもよいことはいうまでもない。
【0031】
さらに、この作業用足場装置10は、床側部材13上の複数の足場板21の全面を覆うように飛散防止シート(例えば、自由に折り畳んだり屈曲させて多種の資材等を覆うことのできる所謂、ブルーシート)32が敷かれている。ここで、シート32は、折り畳めるシートに限らずに、硬質のプラスチックシートの複数枚を重ねるようにして足場板21の全面に敷いてもよく、また、所望の強度を有する大面積の足場板を準備できる場合には、その足場板にシートを兼用させてもよい。また、このシート32は、足場板21の上に限らずに、下に敷いてもよいことはいうまでもない。
【0032】
これにより、水平鉄管100の外面の塗装落としや錆落しを行って塗装する場合には、天井側部材11、壁側部材12および床側部材13により囲われた作業空間の内外に空気が流通することを妨げることなく、その外面の防錆処理中の塗料や錆を、床側部材13の足場板21に加えて、飛散防止ネット31に付着させるなどして落下することを防止することができ、塗料の飛沫などにより外部環境を汚してしまうことをより確実に防止することができる。また、その足場板21には、シート32が敷かれて覆われているので、その足場板21の間の隙間から、塗料や錆などを落下させてしまうことなく受け取って、塗料の飛沫などにより外部環境を汚してしまうことをより確実に防止することができ、また、その足場板21が汚れてしまうことも回避することができる。
【0033】
このように本実施形態においては、水平鉄管100の下側に床側部材13を設けて足場板21を設置するとともに、その作業空間の外面側を飛散防止ネット31や飛散防止シート32で覆うことにより、その水平鉄管100の外面の上部側から下部側まで塗装などする作業を容易かつ安全に行うことができ、また、その作業中に塗料の飛沫などが飛散することを防止することができる。したがって、水平鉄管100の外面に防錆処理を施す際には、足場板21、29に立って、外部に塗料などが飛散しないように必要以上に注意することなく、その外面処理に集中して作業することができる。この結果、水平鉄管100の外面処理作業を優れた作業性で効率よく進めることができる。
【0034】
本実施形態の他の態様としては、図示することは省略するが、天井側部材11の上にも足場板を載せて作業し易くしてもよい。この場合には、組立・解体作業を容易化することができるとともに、構築物の上部に手摺がない場合などには、その足場板に乗って作業することもできる。
【0035】
また、天井側部材11と壁側部材12を連結する手摺102に近い筋違えを設けて、その手摺102に自在クランプなどで連結することにより、支持台車部材14がふらついてしまうことを制限して、作業用足場装置10をより安定させるようにしてもよい。この場合には、その固定箇所での作業が終了後に、支持台車部材14を移動させて作業位置を変更・固定することを繰り返せばよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る作業用足場装置の一実施形態の概略全体構成を示す図であり、その構築物の延長方向から見た正面図である。
【図2】その構築物の側方から見た側面図である。
【図3】その要部の構造を示す図であり、(a)はその側面図、(b)はその正面図である。
【符号の説明】
【0038】
10 作業用足場装置
11 天井側部材
12 壁側部材
13 床側部材
14 支持台車部材
21、29 足場板
22 ローラ部材
27 ブラケット部材
31 飛散防止ネット
32 飛散防止シート
100 水平鉄管
101 歩道
102 手摺

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空中に延在する構築物の外面の処理作業を行う際に設置する作業用足場装置であって、
構築物の上部に対面して該構築物の延在方向に対して直交する天井側部材と、該天井側部材の両端部から吊り下げられて構築物の側部に対面する壁側部材と、該壁側部材の双方の下部に連結されて構築物の下部に対面する床側部材と、天井側部材の構築物側に対応する部位に取り付けられて該天側井部材を構築物上部に支持する転動部材と、を備えて、
天井側部材、壁側部材および床側部材により構築物の周囲を覆うとともに、少なくとも床側部材に足場用板材が設置されていることを特徴とする作業用足場装置。
【請求項2】
前記天井側部材、壁側部材および床側部材により画成される空間のうち少なくとも側面側、前面側および後面側を、処理物が飛散するのを防止するネットで覆うことを特徴とする請求項1に記載の作業用足場装置。
【請求項3】
前記床側部材の上には、処理物が飛散するのを防止するシートが敷かれていることを特徴とする請求項1または2に記載の作業用足場装置。
【請求項4】
前記壁側部材の上下方向の内側中間部に足場用板材を支持するブラケット部材を取り付けたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の作業用足場装置。
【請求項5】
前記構築物の上部に設置されている手摺付きの歩道上に、転動部材を転動可能に当接させるとともに、該歩道の手摺に接触しないように天井側部材を支持する支持部材を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の作業用足場装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−291629(P2006−291629A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115915(P2005−115915)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(591124167)中電工業株式会社 (19)
【Fターム(参考)】