説明

作業車両のトランスミッション

【課題】従来の作業車両のトランスミッションは、左右の走行駆動軸に備えた遊星歯車装置に二つの無段変速装置から駆動力を入力し両走行駆動軸間に回転速度差を付与して旋回させるため、馬力ロスが大きく、更にPTO軸への動力取出しは走行中に限り副変速装置より動力伝達上流側から行うため、作業効率や燃費に劣る、という問題があった。
【解決手段】走行系ドライブトレーン45と旋回系ドライブトレーン46に分岐動力を入力する単一の無段変速装置30を設け、前者に副変速装置29を介設し、後者にインターナルギア78・79への動力の断接を行う左右のサイドクラッチ87L・87Rと、サイドクラッチ87L・87Rの出力部材63・64を制動解除するブレーキ88L・88Rを設け、無段変速装置30への入力部33と走行系ドライブトレーン45の途中部39から択一的に動力を取出しPTO軸41に入力する動力取出し装置48を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右の走行駆動軸にそれぞれ遊星歯車装置を備え、該遊星歯車装置を構成するサンギア、インターナルギア、キャリアに、それぞれ走行系ドライブトレーン、旋回系ドライブトレーン、走行駆動軸を連動連結し、前記旋回系ドライブトレーンから左右のインターナルギアへの各伝達動力を調整することにより、前記左右の走行駆動軸に回転速度差を付与して機体を旋回走行させる、作業車両のトランスミッションに関し、特に、前記走行系ドライブトレーンからPTO軸への動力取出し装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンバイン等の作業車両のトランスミッションにおいては、左右の走行駆動軸にそれぞれ遊星歯車装置を備え、該遊星歯車装置を、中央のサンギアと、該サンギアの外周で噛合する複数のプラネタリギアと、該プラネタリギアに噛合するインターナルギアと、前記走行駆動軸に固設されプラネタリギアを枢支するキャリアとから構成すると共に、走行駆動用の第一無段変速装置と旋回駆動用の第二無段変速装置を設けることが行われている。これにより、直進走行時には、前記第一無段変速装置からの動力だけを左右のサンギアに入力し、旋回走行への走行切替時には、前記第二無段変速装置からの動力を、左右のインターナルギアに対して互いに回転方向を逆にして新たに伝達することにより、該インターナルギアと前記サンギア間に噛合する複数のプラネタリギアの回転速度を左右で別々に増減させ、該プラネタリギアを枢支するキャリアを介して、左右の走行駆動軸に回転速度差を付与し、機体を旋回走行させる技術が公知となっている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−310434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、実作業においては、作業時間全体に占める旋回走行時間の割合は非常に少なく、旋回駆動用の前記第二無段変速装置はほとんど使用しないにもかかわらず、エンジン等の駆動源からの動力が第二無段変速装置に無駄に消費されるため、馬力ロスが大きくて燃費が悪く、更に、比較的高価な無段変速装置が二台も必要なため、装置コストが高く、ミッションケースのコンパクト化も難しい、という問題があった。
また、旋回走行の安定性等の観点からは、高速走行時には旋回速度を小さくして緩旋回する一方、低速走行時には旋回速度を大きくして急旋回するのが望ましいが、このような旋回速度制御を前記技術で行うには、副変速装置による速度段に連動して、適正な動力を前記第二無段変速装置から出力して左右のインターナルギアに伝達するといった、複雑な連動機構が必要となり、部品点数が多くて部品コストが高くなり、組立性やメンテナンス性も悪くなる、という問題があった。
特に、刈取部等駆動用のPTO軸への動力取出し構成については、前記技術では、走行駆動用の前記第一無段変速装置と副変速装置間の動力伝達経路から動力を取り出してPTO軸に入力するにすぎない。従って、走行停止状態では第一無段変速装置が中立状態にあってPTO軸が駆動されないため、走行中の刈取り処理や脱穀処理途中の穀稈がそのまま車両内部に留まった場合に処理を続けるには、改めて車両を走行駆動させる必要があり、作業効率が低下する、という問題や、所定の速度段に設定する副変速装置よりも動力伝達上流側からしか動力が取り出せずに、PTO軸の回転速度を実際の車速に同調できないため、高速走行によって穀稈の流入量が過剰となり刈取等の処理が追従できない場合には、穀稈が処理経路途中で詰まってメンテナンス頻度が増え、逆に、低速走行によって穀稈の流入量が減少し刈取部等が余分に駆動されて馬力ロスが一層大きくなる場合には、更に作業効率が低下し、燃費も悪化する、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
すなわち、請求項1においては、左右の走行駆動軸にそれぞれ遊星歯車装置を備え、該遊星歯車装置の中央のサンギア、該サンギアの外周位置のインターナルギア、及び該インターナルギアと前記サンギアに噛合する複数のプラネタリギアを枢支するキャリアには、それぞれ、走行系ドライブトレーン、旋回系ドライブトレーン、及び前記走行駆動軸を連動連結し、前記旋回系ドライブトレーンから左右のインターナルギアへの伝達動力を調整し、前記左右の走行駆動軸に回転速度差を付与して機体を旋回走行させる作業車両のトランスミッションにおいて、前記走行系ドライブトレーンと旋回系ドライブトレーンに対して分岐動力を入力可能な単一の無段変速装置を設けると共に、前記走行系ドライブトレーンには、副変速装置を介設し、前記旋回系ドライブトレーンには、前記左右のインターナルギアへの動力の断接を行う左右のサイドクラッチと、該サイドクラッチの出力部材をサイドクラッチ切状態で制動可能なブレーキを設け、更に、前記無段変速装置への入力部または前記走行系ドライブトレーンの途中部から択一的に動力を取出して、PTO軸に入力可能な動力取出し装置を備えたものである。
請求項2においては、前記途中部は、副変速装置よりも動力伝達下流側に位置し、副変速装置による変速速度に同調した副変速動力をPTO軸に入力するものである。
請求項3においては、前記途中部は、副変速装置よりも動力伝達上流側に位置し、無段変速装置による変速速度に同調した主変速動力をPTO軸に入力するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、以上のように構成したので、以下に示す効果を奏する。
すなわち、請求項1においては、左右の走行駆動軸にそれぞれ遊星歯車装置を備え、該遊星歯車装置の中央のサンギア、該サンギアの外周位置のインターナルギア、及び該インターナルギアと前記サンギアに噛合する複数のプラネタリギアを枢支するキャリアには、それぞれ、走行系ドライブトレーン、旋回系ドライブトレーン、及び前記走行駆動軸を連動連結し、前記旋回系ドライブトレーンから左右のインターナルギアへの伝達動力を調整し、前記左右の走行駆動軸に回転速度差を付与して機体を旋回走行させる作業車両のトランスミッションにおいて、前記走行系ドライブトレーンと旋回系ドライブトレーンに対して分岐動力を入力可能な単一の無段変速装置を設けると共に、前記走行系ドライブトレーンには、副変速装置を介設し、前記旋回系ドライブトレーンには、前記左右のインターナルギアへの動力の断接を行う左右のサイドクラッチと、該サイドクラッチの出力部材をサイドクラッチ切状態で制動可能なブレーキを設け、更に、前記無段変速装置への入力部または前記走行系ドライブトレーンの途中部から択一的に動力を取出して、PTO軸に入力可能な動力取出し装置を備えたので、前記走行系ドライブトレーンと旋回系ドライブトレーンへの動力を共通の無段変速装置から供給し、エンジン等の駆動源によって駆動する無段変速装置を一台で済ますことができ、馬力ロスを小さくして燃費を向上させ、更に、装置コストを低減し、ミッションケースのコンパクト化も図ることができる。また、直進走行から旋回走行に移行する時は、旋回系ドライブトレーンから伝達動力を入力した側(以下、「旋回入力側」とする)のインターナルギアに連動連結する走行駆動軸は一定量だけ増減速されるが、旋回系ドライブトレーンからの伝達動力を入力しない側のインターナルギアに連動連結する走行駆動軸は、旋回走行中も直進走行時の速度に保持されている。このため、旋回直前まで副変速の高速度段等により高速で直進走行していると、前記旋回入力側の走行駆動軸の増減速の占める割合が相対的に小さく、機体はゆっくりと緩旋回し、逆に、旋回直前まで副変速の低速度段等により低速で直進走行していると、前記旋回入力側の走行駆動軸の増減速の占める割合が前記高速度段の場合よりも相対的に大きくなり、機体は急旋回または芯地旋回する。従って、副変速装置の速度段をインターナルギアの伝動動力に連動可能な複雑な連動機構を別途に設けることなく、高速走行時には緩旋回、低速走行時には急旋回または芯地旋回を行うことができ、安定した旋回性能が得られると共に、部品点数を減少させて部品コストを低減し、組立性やメンテナンス性の向上も図ることができる。また、選択によって、エンジン等の駆動源からの動力をPTO軸に直接入力して、走行停止状態でもPTO軸を駆動させることができ、走行中の刈取り処理や脱穀処理途中の穀稈がそのまま車両内部に留まっている場合でも、改めて車両を走行駆動させることなく処理を続行させ、作業効率を向上させることができる。更に、選択によって、PTO軸の回転速度を実際の車速に同調あるいは非同調させることができ、刈取り状況に応じて刈取り処理等の速度を適正化し、更なる作業効率と燃費の向上を図ることができる。
請求項2においては、前記途中部は、副変速装置よりも動力伝達下流側に位置し、副変速装置による変速速度に同調した副変速動力をPTO軸に入力するので、PTO軸の回転速度を実際の車速に同調させることができ、高速走行で穀稈の流入量が増加しても、刈取等の処理が追従して穀稈が処理経路途中で詰まることなく円滑に処理され、逆に、低速走行で穀稈の流入量が減少しても、刈取部等が余分に駆動されることなく馬力ロスが小さくなる。
請求項3においては、前記途中部は、副変速装置よりも動力伝達上流側に位置し、無段変速装置による変速速度に同調した主変速動力をPTO軸に入力するので、PTO軸を実際の車速に関係なく主変速動力に同調した速度で回転させて刈取り処理等を行うことができ、各副速度段毎に刈取等の処理速度を大きく変化させないようにして、作業者の経験や技能に応じた運転操作を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明に関わるトランスミッションを搭載したコンバインの全体構成を示す全体側面図、図2は同じく全体平面図、図3はトランスミッションの動力伝達構成を示すスケルトン図、図4はトランスミッションにおける軸及びギアの配置構成を示す側面模式図、図5は遊星歯車装置における各ギアの駆動構成を示す側面模式図であって、図5(a)は旋回内側の遊星歯車装置における各ギアの駆動構成を示す側面模式図、図5(b)は旋回外側の遊星歯車装置における各ギアの駆動構成を示す側面模式図、図6は別形態のPTO変速装置を備えるトランスミッションの動力伝達構成を示すスケルトン図、図7は同じく軸及びギアの配置構成を示す側面模式図である。
【0007】
まず、本発明に係わるトランスミッション2を有するコンバイン1の全体構成について、図1、図2により説明する。
該コンバイン1においては、トラックフレーム3の左右にクローラ式走行装置4L・4Rが支持されると共に、トラックフレーム3には機台5が架設されている。そして、機体前後には、刈取部6と脱穀部7が設けられ、このうちの前記刈取部6は、刈刃8及び穀稈搬送機構9等を備えると共に、刈取フレーム14を介して油圧シリンダ13により昇降できるようにし、前記脱穀部7には、フィードチェーン10が左側に張架され、該フィードチェーン10の右側方には扱胴11と処理胴12が内蔵されている。前記脱穀部7の後方には、排藁チェーン15の終端を望ませる排藁処理部16が配置され、脱穀後の排藁を後方に排出するようにしている。
【0008】
該排藁処理部16の側方には、前記脱穀部7からの穀粒を揚穀筒17を介して搬入する穀物タンク18が設けられ、該穀物タンク18の上方には左右上下に回動可能な排出オーガ19が配設されており、刈取部6から刈り取られて脱穀部7にて処理された穀粒が、穀物タンク18内に貯留された後、前記排出オーガ19を介して機外に搬出されるようにしている。
【0009】
また、前記刈取部6と穀物タンク18との間には運転部20が設けられ、該運転部20においては、前方のハンドルポスト21に丸型の操向ハンドル22が支架され、該操向ハンドル22の後方に運転席23が配置され、該運転席23の側部には、駐車ブレーキレバー24、主変速レバー25、副変速レバー26が並設されている。
【0010】
そして、運転部20の下方で前記左右のクローラ式走行装置4L・4Rの間には、エンジン27と、該エンジン27からの動力を変速して前記左右のクローラ式走行装置4L・4Rを駆動する、本発明に係わるトランスミッション2とが配設されている。
【0011】
次に、該トランスミッション2の各装置及びその動力伝達構成について、図3、図4により説明する。
トランスミッション2においては、前記左右のクローラ式走行装置4L・4Rを駆動するための走行系ドライブトレーン45、旋回系ドライブトレーン46、差動機構47、及び前記刈取部6の駆動力を取り出して変速するためのPTO変速装置48等がミッションケース28内に配置され、該ミッションケース28の外側面には主変速装置30が設けられている。
【0012】
該主変速装置30は、油圧式無段変速装置(ハイドロスタティックトランスミッション)であって、そのハウジング30aは前記ミッションケース28の上部右側面に前斜め下方姿勢で設けられ、該ハウジング30a内には、図示せぬ油圧回路によって互いに流体接続された可変容積型の油圧ポンプ49と固定容積型の油圧モータ50とが、後ろから順に並設されると共に、該油圧ポンプ49への入力軸であるポンプ軸33と、油圧モータ50からの出力軸であるモータ軸34とは、互いに平行に、機体左右方向に軸支されている。
【0013】
これにより、前記油圧ポンプ49の可動斜板49aの傾角を変化させると、油圧ポンプ49から油圧モータ50への圧油の吐出量と吐出方向を変化させることができ、油圧ポンプ49のポンプ軸33に入力された動力を無段階に変速して油圧モータ50のモータ軸34に出力することができる。なお、前記可動斜板49aは、図示せぬリンク機構を介して前記主変速レバー25と接続されており、該主変速レバー25を傾動操作することにより、前記可動斜板49aの傾角を変更可能としている。
【0014】
また、前記ミッションケース28内では、前記ポンプ軸33とモータ軸34と平行して、入力軸32、副変速軸35、クラッチ軸36、減速軸37、左右の駆動スプロケット118L・118Rをそれぞれ装備する走行駆動軸38L・38R、中間軸39、減速軸40、及びPTO軸41が、それぞれ左右延伸状に軸支されている。
【0015】
このうちの入力軸32は、ミッションケース28から左方に突出され、その突出端にはプーリ43が嵌着され、該プーリ43と、前記エンジン27の出力軸31の先端に嵌着されたプーリ42との間には、ベルト44が巻回されており、エンジン27からのエンジン動力が、ベルト伝動によってミッションケース28の外部から入力軸32に入力される。
【0016】
更に、該入力軸32の右部には、ギア51が固設され、該ギア51は前記ポンプ軸33のギア54に常時噛合されると共に、該ギア54より左方のポンプ軸33上には、大径ギア52と小径ギア53が左から順に固設されている。該ギア52・53は、後述するPTO変速装置48に連結連動されており、エンジン動力は、入力軸32から、ギア51、ギア54、ポンプ軸33を介して油圧ポンプ49に入力されると共に、該エンジン動力の一部は、大径ギア52または小径ギア53を介して、PTO変速装置48のPTO軸41に入力されて前記刈取部6等の駆動力源として使用される。このうち、油圧ポンプ49に入力されたエンジン動力は、前述のようにして主変速装置30によって変速された後、主変速動力としてモータ軸34から副変速装置29へと出力される。
【0017】
該副変速装置29においては、前記モータ軸34上には、左から順に、小径ギア55、中径ギア56、大径ギア58が固設されると共に、前記副変速軸35上にも、左から順に、低速ギア59、中速ギア60、高速ギア61が相対回転可能に環設され、これら低速ギア59、中速ギア60、高速ギア61は、それぞれ、前記小径ギア55、中径ギア56、大径ギア58に常時噛合されている。これにより、小径ギア55と低速ギア59から成る低速ギア列、中径ギア56と中速ギア60から成る中速ギア列、大径ギア58と高速ギア61から成る高速ギア列といった3段の副変速駆動列が形成される。なお、副変速軸35上で高速ギア61の右方には副変速出力ギア62が固設されている。
【0018】
更に、前記副変速軸35上には、前記低速ギア59と中速ギア60との間にシフタ89が、前記高速ギア61と副変速出力ギア62との間にシフタ90が、それぞれ、軸心方向摺動自在かつ相対回転不能に係合されている。そして、低速ギア59でシフタ89側に向かう部分と、中速ギア60でシフタ89側に向かう部分と、高速ギア61でシフタ90に向かう部分には、それぞれクラッチ歯部が形成されている。
【0019】
これにより、前記シフタ89・90をいずれかのクラッチ歯部に係合させることで、低速ギア59、中速ギア60、高速ギア61のうちの該当するギアを、副変速軸35に相対回転不能に係合させることができ、前記主変速動力は、前記3段の副変速駆動列のうちのいずれかのギア列を介して副変速された後、副変速動力として副変速軸35に伝達され、前記副変速出力ギア62から前記中間軸39に向けて出力される。なお、前記シフタ89・90は、図示せぬリンク機構を介して前記副変速レバー26と接続されており、該副変速レバー26を傾動操作することにより、前記シフタ89・90をいずれかのクラッチ歯部に係合可能としている。
【0020】
該中間軸39においては、その右部には入力ギア70が固設され、該入力ギア70は前記副変速出力ギア62と常時噛合しており、副変速動力が副変速出力ギア62、入力ギア70を介して中間軸39に伝達される。更に、該中間軸39はミッションケース28から右方に突出され、その突出端には、ブレーキディスク93aを固設して駐車ブレーキ93が形成され、該駐車ブレーキ93は、図示せぬリンク機構を介して前記駐車ブレーキレバー26と接続されており、該駐車ブレーキレバー26を傾動操作することにより、前記ブレーキディスク93aを制動し中間軸39を固定できるようにしている。
【0021】
更に、前記中間軸39上で入力ギア70よりも左方には、左から順に、減速駆動ギア67、小径ギア68、大径ギア69が固設され、このうちの減速駆動ギア67は、前記減速軸40の左部にある減速従動ギア71に常時噛合され、前記小径ギア68と大径ギア69は、それぞれ、前記PTO軸41上に相対回転可能に環設された第一低速ギア85と第一高速ギア86に常時噛合されている。これにより、中間軸39に入力された副変速動力は、前記減速駆動ギア67と減速従動ギア71から成る減速ギア列を介して、減速軸40に減速伝達される一方、該副変速動力の一部は、小径ギア68と第一低速ギア85から成る第一低速ギア列、または大径ギア69と第一高速ギア86から成る第一高速ギア列を介して、前記PTO軸41側に伝達される。
【0022】
ここで、前記減速軸40の左右方向略中央には小径のギア72が固設されると共に、前記左右の走行駆動軸38L・38R間には、主駆動軸94が回転可能に同心支持され、該主駆動軸94の左右方向略中央に固設された大径の駆動センタギア74が、前記小径のギア72と常時噛合されており、減速軸40の動力は、前記ギア72と駆動センタギア74から成る減速ギア列を介して、前記主駆動軸94に更に減速伝達される。
【0023】
なお、前述の如く、前記駐車ブレーキ93によって中間軸39を固定すると、それに伴い、該中間軸39と減速軸40等を介して連結連動する前記主駆動軸94の回動も停止させることができ、斜面で駐車中に不用意に機体が動いたりしないようにしている。
【0024】
以上のような構成において、前記主変速装置30から出力された主変速動力は、モータ軸34から副変速装置29に入力されて副変速された後、副変速軸35、副変速出力ギア62、入力ギア70、中間軸39、減速駆動ギア67、減速従動ギア71、減速軸40、ギア72、駆動センタギア74を介して、主駆動軸94に入力されるものであり、これらの要素の連係により走行系ドライブトレーン45が構成されている。
【0025】
また、前記モータ軸34上の中径ギア56と大径ギア58との間には、駆動ギア57が固設されると共に、前記クラッチ軸36の左右方向略中央には、クラッチハウジング95が固設され、該クラッチハウジング95の外周に設けたクラッチセンタギア82が、前記駆動ギア57と常時噛合されている。更に、前記クラッチ軸36上でクラッチハウジング95の左右両側には、それぞれ、左右のクラッチ出力軸63・64が回動自在に外嵌され、該クラッチ出力軸63・64の内端部と、前記クラッチハウジング95との間には、複数枚の摩擦エレメントがそれぞれ摺動のみ可能に支持されている。そして、クラッチハウジング95内の左右のクラッチピストン98・99を左右動させて前記摩擦エレメント間を係合・離間させることにより、クラッチの入切作動を得るようにして、左右のサイドクラッチ部87L・87Rから成るサイドクラッチ87が形成されている。
【0026】
前記クラッチ軸36を支持する、ミッションケース28の左右両側には、左右のブレーキケース97L・97Rが固設され、該ブレーキケース97L・97Rの内端部と、前記クラッチ出力軸63・64の外端部との間にも、複数枚の摩擦エレメントがそれぞれ摺動のみ可能に支持されている。そして、ブレーキケース97L・97R内のブレーキピストン96L・96Rを左右動させて前記摩擦エレメント間を係合・離間させることにより、ブレーキの制動・解除作動を得るようにして、左右のブレーキ88L・88Rが形成されている。
【0027】
これにより、直進走行時には、前記左右のクラッチピストン98・99と左右のブレーキピストン96L・96Rによって、クラッチハウジング95と左右のクラッチ出力軸63・64間の前記摩擦エレメントは互いに離間させたままで、左右のクラッチ出力軸63・64と左右のブレーキケース97L・97R間の前記摩擦エレメントを互いに押圧係合させることにより、両サイドクラッチ部87L・87Rとも切状態、両ブレーキ88L・88Rとも制動状態として、前記モータ軸34からクラッチセンタギア82に入力された主変速動力が、左右のクラッチ出力軸63・64に伝達されず、しかも該クラッチ出力軸63・64は、左右のブレーキ88L・88Rによって制動されるようにしている。
【0028】
一方、旋回走行時には、旋回内側のクラッチハウジングとクラッチ出力軸間の前記摩擦エレメントを互いに押圧係合させると共に、旋回内側のクラッチ出力軸とブレーキケース間の前記摩擦エレメントは互いに離間させることにより、旋回内側のサイドクラッチ部のみ入状態、旋回内側のブレーキのみ制動解除状態として、前記モータ軸34からクラッチセンタギア82に入力された主変速動力が、旋回内側のクラッチ出力軸にのみ伝達され、しかも該クラッチ出力軸は、旋回内側のブレーキによる制動が解除されるようにしている。
【0029】
ここで、前記減速軸37の左側には、大径ギア65aと小径ギア65bから成る二連ギア65が遊嵌され、右側には、大径ギア66aと小径ギア66bから成る二連ギア66が遊嵌され、このうちの大径ギア65a・66aは、それぞれ前記クラッチ出力軸63のクラッチ出力ギア63a・クラッチ出力軸64のクラッチ出力ギア64aと常時噛合されると共に、小径ギア65b・66bは、それぞれ、後で詳述する差動機構47の左右のリングギア73・75に常時噛合されており、前記クラッチ出力ギア63a・64aから出力された動力は、それぞれ二連ギア65・66を介して減速された後、前記リングギア73・75に伝達されるようにしている。
【0030】
以上のような構成において、前記主変速装置30から出力された主変速動力は、モータ軸34からクラッチセンタギア82を介してサイドクラッチ87に入力され、該サイドクラッチ87で入切制御された後、機体左側では、クラッチ出力ギア63a、二連ギア65を介してリングギア73に入力され、機体右側では、クラッチ出力ギア64a、二連ギア66を介してリングギア75に入力されるものであり、これらの要素の連係により旋回系ドライブトレーン46が構成されている。
【0031】
また、該旋回系ドライブトレーン46と前記走行系ドライブトレーン45を介して、前記主変速装置30からの主変速動力が入力される差動装置47は、左右一対の遊星歯車装置100・101を有している。該遊星歯車装置100・101は、走行駆動軸38L・38Rの間で同一軸線上に配置された前記主駆動軸94に刻設されるサンギア76・76と、該サンギア76・76の外周で噛合する複数のプラネタリギア77・77・・・と、リングギア73・75に一体構成されプラネタリギア77・77・・・に噛合するインターナルギア78・79と、走行駆動軸38L・38Rに固設され前記プラネタリギア77・77・・・を枢支するキャリア80・81とから構成されている。
【0032】
前記プラネタリギア77・77・・・は、走行駆動軸38L・38Rから放射状に均等配置されて左右のキャリア80・81にそれぞれ回転自在に軸支され、該キャリア80・81はサンギア76を挟んで左右に配置されると共に、前記インターナルギア78・79は、主駆動軸94と同軸線上に配置された上で、走行駆動軸38L・38Rに回転自在に軸支されている。
【0033】
以上のような構成において、該インターナルギア78・79は、リングギア73・75を介して、前記旋回系ドライブトレーン46と連動連結される。また、前記サンギア76・76は、左右の遊星歯車装置100・101に共通のサンギアとして、共通の主駆動軸94に一体的に刻設されており、両サンギア76・76の中間部に係止した前記駆動センタギア74を介して、前記走行系ドライブトレーン45と連動連結されるのである。
【0034】
次に、前記トランスミッション2による走行旋回構成について、図3乃至図5により説明する。
コンバイン1では、その走行条件に応じて、まず、副変速レバー26を傾動操作して、副変速装置29におけるシフタ89またはシフタ90を摺動し、該シフタ89またはシフタ90をいずれかのクラッチ歯部に係合させることにより、路上走行時等には高速ギア列58・61から成る高速度段、乾田作業時等には中速ギア列56・60から成る中速度段、湿田作業時等には低速ギア列55・59から成る低速度段を選択し設定する。その上で、前記主変速レバー25を傾動操作して、主変速装置30における油圧ポンプ49の可動斜板49aの傾角を変更し、機体の進行方向の制御を含め、車速を無段階に変速制御させる。そして、いずれの前記速度段においても、走行中は、モータ軸34の主変速動力が、前記走行系ドライブトレーン45を通ってサンギア76に常時伝達され、該サンギア76を回転駆動させている。
【0035】
このような変速制御が行われる中、直進走行時には、前記操向ハンドル22は前方を向けた状態にあり、油圧回路等によって、前述の如く、両サイドクラッチ部87L・87Rとも切状態、両ブレーキ88L・88Rとも制動状態となるように制御されるため、前記モータ軸34からクラッチセンタギア82に入力された主変速動力は、いずれのインターナルギア78・79にも伝達されない。そして、この直進走行中に前記操向ハンドル22を旋回方向に回動操作すると、油圧回路等によって、前述の如く、旋回内側のサイドクラッチ部のみ入状態、旋回内側のブレーキのみ制動解除状態となるように制御されるため、モータ軸34からクラッチセンタギア82に入力された主変速動力は、前記旋回系ドライブトレーン46を通り、リングギア73・75を介して、インターナルギア78・79のうちの旋回内側のインターナルギアのみに伝達され、該旋回内側のインターナルギアを回転駆動させる。
【0036】
ここで、コンバイン1を左旋回させる場合を例に説明する。
図4に示すように、モータ軸34の矢印110に示す回転方向を正転方向、該正転方向の反対方向を逆転方向とすると、主変速動力が走行系ドライブトレーン45を伝達する間に、伝達動力の回転方向は、矢印110方向(正転方向)→矢印114方向(逆転方向)→矢印115方向(正転方向)→矢印116方向(逆転方向)→矢印117方向(正転方向)と変化し、差動機構47の両サンギア76は、駆動センタギア74を介して正転方向に回転する。一方、主変速動力が旋回系ドライブトレーン46を伝達する間に、伝達動力の回転方向は、矢印110方向(正転方向)→矢印111方向(逆転方向)→矢印112方向(正転方向)→矢印113方向(逆転方向)と変化し、差動機構47の左側のインターナルギア78は、左側のリングギア73を介して逆転方向に回転する。
【0037】
つまり、旋回外側にあたる右側の遊星歯車装置101では、サンギア76には「正転方向」の回転動力が入力されるが、インターナルギア79には回転動力が伝達されないのに対し、旋回内側にあたる左側の遊星歯車装置100では、サンギア76には「正転方向」の回転動力が入力され、インターナルギア78には、該サンギア76とは反対方向の「逆転方向」の回転動力が入力されることとなる。
【0038】
その結果、図5(b)に示すように、右側の遊星歯車装置101については、停止状態にある右側のインターナルギア79のもとで、サンギア76のみが、前記矢印117方向と同じ矢印106方向(正転方向)に回転し、これにより、各プラネタリギア77が矢印107方向に自転しながら、前記キャリア81を回転しつつ矢印109方向に公転する。
【0039】
一方、図5(a)に示すように、左側の遊星歯車装置100については、前述の如く、サンギア76の矢印106方向(正転方向)とは反対方向で前記矢印113方向と同じ矢印108方向(逆転方向)に、インターナルギア78が回転するため、この回転速度分だけプラネタリギア77の矢印109方向への回転速度が減少し、これにより左側のキャリア80及び走行駆動軸38Lの回転速度も減少する。従って、左側の走行駆動軸38Lの回転速度が右側の走行駆動軸38Rよりも小さくなり、コンバイン1を左旋回させることができる。
【0040】
この際、サンギア76のみで駆動される右側の走行駆動軸38Rは、旋回走行中も直進走行時と同じ回転速度に保持されている。従って、高速度段に副変速し、両サンギア76に入力される正転方向の伝達動力を高速に設定して直進走行している場合、高速のサンギア76の正転方向の回転速度に対する、左側のインターナルギア78のみに入力される逆転方向の回転速度が占める割合は小さく、その結果、右側の走行駆動軸38Rに対する左側の走行駆動軸38Lの減速率も小さくなり、機体はゆっくりと左旋回する。
【0041】
これに対し、前記高速度段よりも低速の中速度段や低速度段に副変速し、両サンギア76に入力される正転方向の伝達動力を低速に設定して直進走行している場合も、左側のインターナルギア78に入力される逆転方向の回転速度は前記高速度段の場合と変わらないことから、低速のサンギア76の正転方向の回転速度に対する、左側のインターナルギア78の逆転方向の回転速度が占める割合は大きくなり、その結果、右側の走行駆動軸38Rに対する左側の走行駆動軸38Lの減速率も大きくなって、機体は左に急旋回するようになる。
【0042】
すなわち、直進走行から旋回走行に移行する時は、旋回入力側のインターナルギア78に連動連結する走行駆動軸38Lは一定量だけ増減速されるが、旋回系ドライブトレーン46からの伝達動力を入力しない側のインターナルギア79に連動連結する走行駆動軸38Rは、旋回走行中も直進走行時の速度に保持されている。このため、旋回直前まで副変速の高速度段等により高速で直進走行していると、前記旋回入力側の走行駆動軸38Lの増減速の占める割合が相対的に小さく、機体はゆっくりと緩旋回し、逆に、旋回直前まで副変速の低速度段等により低速で直進走行していると、前記旋回入力側の走行駆動軸38Lの増減速の占める割合が前記高速度段の場合よりも相対的に大きくなり、機体は急旋回または芯地旋回する。従って、副変速装置29の速度段をインターナルギア78・79の伝動動力に連動可能な複雑な連動機構を別途に設けることなく、高速走行時には緩旋回、低速走行時には急旋回または芯地旋回を行うことができ、安定した旋回性能が得られると共に、部品点数を減少させて部品コストを低減し、組立性やメンテナンス性の向上も図ることができるのである。
【0043】
しかも、このように、前記旋回系ドライブトレーン46から、前記サンギア76の矢印106方向(正転方向)と反対方向である矢印108方向(逆転方向)の回転動力をインターナルギア78に入力すると、旋回入力側の走行駆動軸38Lを減速させ、サンギア76よりも低速の該走行駆動軸38Lを旋回内側として小さい半径で旋回することができ、狭い圃場での作業を容易にすることができる。
【0044】
なお、本実施例とは逆に、インターナルギア78に入力する回転動力の回転方向を、サンギア76に入力する回転動力の回転方向と同方向となるように設定することもできる。この場合は、図5(a)とは逆に、サンギア76の矢印106方向(正転方向)と同方向(正転方向)にインターナルギア78が回転されるため、プラネタリギア77の矢印109方向への回転速度が増加し、これにより左側のキャリア80及び走行駆動軸38Lの回転速度も増加する。従って、左側の走行駆動軸38Lの回転速度が右側の走行駆動軸38Rよりも大きくなり、コンバイン1を右旋回させることができる。そして、このように旋回入力側の走行駆動軸38Lを増速させると、上述のように減速させた場合に比べ、左右の走行駆動軸38L・38Rの回転速度が全体的に増加することとなり、旋回半径も大きくなる。
【0045】
すなわち、このようにして、旋回系ドライブトレーン46から、前記サンギア76の矢印106方向(正転方向)と同方向の回転動力をインターナルギア78に入力すると、旋回入力側の走行駆動軸38Lを増速させ、該走行駆動軸38Lと反対側でサンギア76と同速の走行駆動軸38Rを旋回内側として大きい半径で旋回することができ、急旋回による圃場の荒れや乗り心地の悪化等を防ぐことができる。
【0046】
次に、前記PTO変速装置48について、図3により詳細に説明する。
PTO変速装置48においては、前記PTO軸41上の第一低速ギア85と第一高速ギア86の左方にも、左から順に、第二高速ギア83と第二低速ギア84が相対回転可能に環設され、該第二高速ギア83と第二低速ギア84は、それぞれ、前記ポンプ軸33上の大径ギア52と小径ギア53に常時噛合されている。これにより、前記エンジン動力の一部が、大径ギア52と第二高速ギア83から成る第二高速ギア列、または小径ギア53と第二低速ギア84から成る第二低速ギア列を介してPTO軸41側に伝達される。
【0047】
更に、第二高速ギア83と第二低速ギア84との間にはシフタ91が、第一低速ギア85と第一高速ギア86との間にはシフタ92が、それぞれ、PTO軸41上に軸心方向摺動自在かつ相対回転不能に係合されると共に、第二高速ギア83でシフタ91側に向かう部分、第二低速ギア84でシフタ91側に向かう部分、第一低速ギア85でシフタ92側に向かう部分、及び第一高速ギア86でシフタ92側に向かう部分には、それぞれクラッチ歯部が形成されている。
【0048】
そして、前記PTO軸41は、ミッションケース28から左方に突出され、その突出端にはプーリ102が嵌着され、該プーリ102と、前記刈取部6への入力軸105の先端に嵌着されたプーリ103との間には、ベルト104が巻回されており、PTO変速装置48からのPTO変速動力がベルト伝動によって刈取部6への入力軸105に入力される。
【0049】
以上のような構成において、前記運転席23近傍に配置したPTO変速レバー200を傾倒操作すると、図示せぬリンク機構を介してシフタ91が左右摺動され、該シフタ91が第二低速ギア84のクラッチ歯部に係合すると、前記第二低速ギア列53・84を介して、エンジン動力がPTO軸41に低速度段で伝達され、シフタ91が第二高速ギア83に係合すると、前記第二高速ギア列52・83を介して、エンジン動力が同様にPTO軸41に高速度段で伝達される。
【0050】
あるいは、シフタ92が左右摺動され、該シフタ92が第一低速ギア85のクラッチ歯部に係合すると、前記第一低速ギア列68・85を介して、副変速動力がPTO軸41に低速度段で伝達され、シフタ92が第一高速ギア86のクラッチ歯部に係合すると、前記第一高速ギア列69・86を介して、副変速動力が同様にPTO軸41に高速度段で伝達される。
【0051】
このようにして、エンジン27から主変速装置30までの動力伝達経路の途中にあるポンプ軸33からエンジン動力を取り出し、二段に変速してPTO軸41に入力する場合は、走行中は車速に関係なく、しかも走行停止状態であってもエンジン27が作動している限り、前記プーリ102等を介して刈取部6等に駆動力を伝達して刈取部6を駆動させることができる。
【0052】
一方、走行系ドライブトレーン45に介設した副変速装置29の動力伝達下流側にある中間軸39から副変速動力を取り出し、二段に変速してPTO軸41に入力する場合は、車速の増減に応じた駆動力を前記プーリ102等を介して刈取部6等に伝達して、該刈取部6での処理速度も車速に応じて増減させることができる。
【0053】
すなわち、左右の走行駆動軸38L・38Rにそれぞれ遊星歯車装置100・101を備え、該遊星歯車装置100・101の中央のサンギア76・76、該サンギア76・76の外周位置のインターナルギア78・79、及び該インターナルギア78・79と前記サンギア76・76に噛合する複数のプラネタリギア77・77・・・を枢支するキャリア80・81には、それぞれ、走行系ドライブトレーン45、旋回系ドライブトレーン46、及び前記走行駆動軸38L・38Rを連動連結し、前記旋回系ドライブトレーン46から左右のインターナルギア78・79への伝達動力を調整し、前記左右の走行駆動軸38L・38Rに回転速度差を付与して機体を旋回走行させる作業車両であるコンバイン1のトランスミッション2において、前記走行系ドライブトレーン45と旋回系ドライブトレーン46に対して分岐動力を入力可能な単一の無段変速装置である主変速装置30を設けると共に、前記走行系ドライブトレーン45には、副変速装置29を介設し、前記旋回系ドライブトレーン46には、前記左右のインターナルギア78・79への動力の断接を行う左右のサイドクラッチであるサイドクラッチ部87L・87Rと、該サイドクラッチ部87L・87Rの出力部材であるクラッチ出力軸63・64をサイドクラッチ切状態で制動可能なブレーキ88L・88Rを設け、更に、前記主変速装置30への入力部であるポンプ軸33または前記走行系ドライブトレーン45の途中部である中間軸39から択一的に動力を取出して、PTO軸41に入力可能な動力取出し装置であるPTO変速装置48を備えたので、前記走行系ドライブトレーン45と旋回系ドライブトレーン46への動力を共通の主変速装置30から供給し、エンジン27等の駆動源によって駆動する主変速装置30を一台で済ますことができ、馬力ロスを小さくして燃費を向上させ、更に、装置コストを低減し、ミッションケース28のコンパクト化も図ることができる。また、選択によって、エンジン27等の駆動源からの動力をPTO軸41に直接入力して、走行停止状態でもPTO軸41を駆動させることができ、走行中の刈取り処理や脱穀処理途中の穀稈がそのまま車両内部に留まっている場合でも、改めて車両を走行駆動させることなく処理を続行させ、作業効率を向上させることができる。更に、選択によって、PTO軸41の回転速度を実際の車速に同調あるいは、後述の如く非同調させることができ、刈取り状況に応じて刈取り処理等の速度を適正化し、更なる作業効率と燃費の向上を図ることができる。
【0054】
特に、PTO変速装置48のように、走行系ドライブトレーン45の途中部の前記中間軸39が、副変速装置29よりも動力伝達下流側に位置し、副変速装置29による変速速度に同調した副変速動力をPTO軸41に入力する場合は、PTO軸41の回転速度を実際の車速に同調させることができ、高速走行で穀稈の流入量が増加しても、刈取等の処理が追従して穀稈が処理経路途中で詰まることなく円滑に処理され、逆に、低速走行で穀稈の流入量が減少しても、刈取部6等が余分に駆動されることなく馬力ロスが小さくなるのである。
【0055】
次に、前記PTO変速装置48とは別形態のPTO変速装置248を設けたトランスミッション202について、図6、図7により説明する。
図6に示すように、トランスミッション202においても、前記トランスミッション2と同様に、前記左右のクローラ式走行装置4L・4Rを駆動するための走行系ドライブトレーン245、旋回系ドライブトレーン246、差動機構47、及びPTO変速装置248等がミッションケース228内に配置され、該ミッションケース228の外側面に主変速装置230が設けられている。
【0056】
該主変速装置230は、ハウジング230aが前記ミッションケース228の上部右側面に後斜め下方姿勢で設けられ、油圧ポンプ49と油圧モータ50とが、前から順に並設される以外は、前記主変速装置30と略同じ構成としている。
【0057】
また、前記ミッションケース228内には、前記ポンプ軸33とモータ軸34と平行して、入力軸32、副変速軸35、クラッチ軸36、減速軸37、左右の駆動スプロケット118L・118Rをそれぞれ装備する走行駆動軸38L・38R、中間軸39、減速軸40、及びPTO軸41が、それぞれ左右延伸状に軸支される。そして、このうちの入力軸32は、ミッションケース228から左方に突出され、エンジン27からのエンジン動力が、出力軸31、プーリ42、ベルト44、プーリ43を介して入力される一方、該入力軸32の左右略中央部にはギア251が固設され、該ギア251は前記ポンプ軸33のギア254に常時噛合されている。そして、該ギア254より左方のポンプ軸33上には、大径ギア252と小径ギア253が左から順に固設されている。
【0058】
該ギア252・253は、後述するPTO変速装置248に連結連動されており、エンジン動力が、入力軸32から、ギア251、ギア254、ポンプ軸33を介して油圧ポンプ49に入力されると共に、該エンジン動力の一部が、これらの大径ギア252または小径ギア253を介して、PTO変速装置248のPTO軸41に入力される。このうちの油圧ポンプ49に入力されたエンジン動力は、主変速装置230を介して主変速動力としてモータ軸34から副変速装置229に出力される。
【0059】
該副変速装置229においては、前記モータ軸34上に、左から順に、小径ギア255、中径ギア256、大径ギア258が固設されると共に、前記副変速軸35上にも、左から順に、低速ギア259、中速ギア260、高速ギア261が相対回転可能に環設され、それぞれが、前記小径ギア255、中径ギア256、大径ギア258に常時噛合されており、前記副変速装置29と同様に、小径ギア255と低速ギア259から成る低速ギア列、中径ギア256と中速ギア260から成る中速ギア列、大径ギア258と高速ギア261から成る高速ギア列といった3段の副変速駆動列が形成されている。更に、副変速軸35上で高速ギア261の右方には副変速出力ギア262が固設されている。
【0060】
前記副変速軸35上には、前記低速ギア259と中速ギア260との間にシフタ289が、前記高速ギア261の左側方にシフタ290が、それぞれ、軸心方向摺動自在かつ相対回転不能に係合されると共に、低速ギア259でシフタ289側に向かう部分と、中速ギア260でシフタ289側に向かう部分と、高速ギア261でシフタ290に向かう部分にも、それぞれクラッチ歯部が形成されている。
【0061】
これにより、前記シフタ289・290をいずれかのクラッチ歯部に係合させることで、該当するギアを副変速軸35に相対回転不能に係合させることができ、前記主変速動力を、前記3段の副変速駆動列のうちのいずれかのギア列を介して副変速し、副変速動力として、副変速出力ギア262から前記中間軸39に向けて出力する。
【0062】
該中間軸39の右部には、入力ギア270が固設され、該入力ギア270は前記副変速出力ギア262と常時噛合しており、副変速動力が中間軸39に伝達される。一方、該中間軸39の左部には、小径の減速駆動ギア267が固設され、該減速駆動ギア267は、前記減速軸40の左部にある大径の減速従動ギア271に常時噛合されており、中間軸39に入力された副変速動力は、前記減速駆動ギア267と減速従動ギア271から成る減速ギア列を介して、減速軸40に減速伝達される。なお、該中間軸39も前記駐車ブレーキ93によって制動できるようにしている。
【0063】
前記減速軸40の左右方向略中央にも小径のギア272が固設されると共に、該ギア272は、前記差動装置47の大径の駆動センタギア74に常時噛合されており、減速軸40の動力が、ギア272、駆動センタギア74を介して減速されて前記主駆動軸94に伝達される。
【0064】
以上のような構成において、前記主変速装置230から出力された主変速動力は、副変速装置229で副変速された後、副変速軸35、副変速出力ギア262、入力ギア270、中間軸39等を介して、主駆動軸94に入力されるものであり、これらの要素の連係により走行系ドライブトレーン245が構成されている。
【0065】
また、前記モータ軸34上の中径ギア256と大径ギア258との間には、駆動ギア257が固設され、該駆動ギア257は、クラッチ軸36に設けた前記サイドクラッチ87のクラッチセンタギア82と常時噛合されており、サイドクラッチ87に入力された主変速動力に対して、前記トランスミッション2と同様にして、サイドクラッチ87によるクラッチ入切と、左右のブレーキ88L・88Rによるブレーキ制動・解除を施すことができる。
【0066】
これにより、直進走行時には、両サイドクラッチ部87L・87Rとも切状態、両ブレーキ88L・88Rとも制動状態として、主変速動力が左右のクラッチ出力軸63・64に伝達されず、しかも該クラッチ出力軸63・64が、左右のブレーキ88L・88Rによって制動されるようにしている。一方、旋回走行時には、旋回内側のサイドクラッチ部のみ入状態、旋回内側のブレーキのみ制動解除状態として、主変速動力が、旋回内側のクラッチ出力軸にのみ伝達され、しかも該クラッチ出力軸は、旋回内側のブレーキによる制動が解除されるようにしている。そして、クラッチ出力軸に伝達された動力は、前記二連ギア65または66を介して減速された後、前記リングギア73または75に伝達される。
【0067】
以上のような構成において、前記主変速装置230から出力された主変速動力は、サイドクラッチ87で入切制御された後、リングギア73または75に入力されるものであり、これらの要素の連係により旋回系ドライブトレーン246が構成されている。
【0068】
そして、図7に示すように、このようなドライブトレーン245・246を有するトランスミッション202で左旋回する場合も、前記トランスミッション2と同様に、主変速動力が走行系ドライブトレーン245を伝達する間に、伝達動力の回転方向は、矢印110方向(正転方向)から変化して最終軸では矢印117方向(正転方向)となり、差動機構47の両サンギア76が駆動センタギア74を介して正転方向に回転し、一方、主変速動力が旋回系ドライブトレーン246を伝達する間に、伝達動力の回転方向は、矢印110方向(正転方向)から変化して最終軸では矢印113方向(逆転方向)となり、差動機構47の左側のインターナルギア78は、左側のリングギア73を介して逆転方向に回転する。その結果、逆転方向の回転速度分だけ左側の走行駆動軸38Lの回転速度が右側の走行駆動軸38Rよりも小さくなり、コンバイン1が左旋回するのである。
【0069】
また、このような旋回走行が可能なトランスミッション202のPTO変速装置248においては、PTO軸41上に、左から順に、第二高速ギア283、第二低速ギア284、第一低速ギア285、及び第一高速ギア286が相対回転可能に環設され、このうちの第二高速ギア283と第二低速ギア284は、それぞれ、ポンプ軸33上の大径ギア252と小径ギア253に常時噛合され、前記第一低速ギア285と第一高速ギア286は、それぞれ、前記モータ軸34上でギア258を挟んで左右に固設された小径ギア268と大径ギア269に常時噛合されている。
【0070】
更に、第二高速ギア283と第二低速ギア284との間にはシフタ291が、第一低速ギア285と第一高速ギア286との間にはシフタ292が、それぞれ、PTO軸41上に軸心方向摺動自在かつ相対回転不能に係合されると共に、第二高速ギア283でシフタ291側に向かう部分、第二低速ギア284でシフタ291側に向かう部分、第一低速ギア285でシフタ292側に向かう部分、及び第一高速ギア286でシフタ292側に向かう部分には、それぞれクラッチ歯部が形成されている。
【0071】
そして、前記PTO軸41は、前記トランスミッション2と同様に、ミッションケース228の左方への突出端にはプーリ102が嵌着され、該プーリ102と、前記刈取部6への入力軸105先端のプーリ103との間には、ベルト104が巻回され、PTO変速装置248からのPTO変速動力がベルト伝動によって刈取部6への入力軸105に入力される。
【0072】
以上のような構成において、前記運転席23近傍に配置したPTO変速レバー200を傾倒操作し、前記シフタ291を第二低速ギア284のクラッチ歯部に係合させると、ポンプ軸33上のエンジン動力がPTO軸41に低速度段で伝達され、シフタ291を第二高速ギア283のクラッチ歯部に係合させると、同じくポンプ軸33上のエンジン動力がPTO軸41に高速度段で伝達される。あるいは、シフタ292を第一低速ギア285のクラッチ歯部に係合させると、モータ軸34上の主変速動力がPTO軸41に低速度段で伝達され、シフタ292を第一高速ギア286のクラッチ歯部に係合させると、同じくモータ軸34上の主変速動力がPTO軸41に高速度段で伝達される。
【0073】
このように、前記PTO変速装置48と同様にして、エンジン27から主変速装置230までの動力伝達経路の途中にあるポンプ軸33からエンジン動力を取り出し、二段に変速してPTO軸41に入力する場合は、走行中は車速に関係なく、しかも走行停止状態であってもエンジン27が作動している限り、前記プーリ102等を介して刈取部6等に駆動力を伝達して刈取部6を駆動させることができる。
【0074】
一方、前記PTO変速装置48とは異なり、走行系ドライブトレーン245に介設した副変速装置229の動力伝達上流側にあるモータ軸34から主変速動力を取り出し、二段に変速してPTO軸41に入力する場合は、主変速の増減に応じた駆動力を前記プーリ102等を介して刈取部6等に伝達して、該刈取部6での処理速度も主変速に応じて増減させることができる。
【0075】
すなわち、PTO変速装置248のように、走行系ドライブトレーン245の途中部の前記モータ軸34が、副変速装置229よりも動力伝達上流側に位置し、主変速装置230による変速速度に同調した主変速動力をPTO軸41に入力する場合は、PTO軸41を実際の車速に関係なく主変速動力に同調した速度で回転させて刈取り処理等を行うことができ、各副速度段毎に刈取等の処理速度を大きく変化させないようにして、作業者の経験や技能に応じた運転操作を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、左右の走行駆動軸にそれぞれ遊星歯車装置を備え、該遊星歯車装置の中央のサンギア、該サンギアの外周位置のインターナルギア、及び該インターナルギアと前記サンギアに噛合する複数のプラネタリギアを枢支するキャリアには、それぞれ、走行系ドライブトレーン、旋回系ドライブトレーン、及び前記走行駆動軸を連動連結し、前記旋回系ドライブトレーンから左右のインターナルギアへの伝達動力を調整し、前記左右の走行駆動軸に回転速度差を付与して機体を旋回走行させる、全ての作業車両のトランスミッションに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に関わるトランスミッションを搭載したコンバインの全体構成を示す全体側面図である。
【図2】同じく全体平面図である。
【図3】トランスミッションの動力伝達構成を示すスケルトン図である。
【図4】トランスミッションにおける軸及びギアの配置構成を示す側面模式図である。
【図5】遊星歯車装置における各ギアの駆動構成を示す側面模式図であって、図5(a)は旋回内側の遊星歯車装置における各ギアの駆動構成を示す側面模式図、図5(b)は旋回外側の遊星歯車装置における各ギアの駆動構成を示す側面模式図である。
【図6】別形態のPTO変速装置を備えるトランスミッションの動力伝達構成を示すスケルトン図である。
【図7】同じく軸及びギアの配置構成を示す側面模式図である。
【符号の説明】
【0078】
1 作業車両
2・202 トランスミッション
29・229 副変速装置
30・230 無段変速装置
33 入力部
38L・38R 走行駆動軸
39 途中部
41 PTO軸
45・245 走行系ドライブトレーン
46・246 旋回系ドライブトレーン
48・248 動力取出し装置
63・64 出力部材
76 サンギア
77 プラネタリギア
78・79 インターナルギア
80・81 キャリア
87L・87R サイドクラッチ
88L・88R ブレーキ
100・101 遊星歯車装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の走行駆動軸にそれぞれ遊星歯車装置を備え、該遊星歯車装置の中央のサンギア、該サンギアの外周位置のインターナルギア、及び該インターナルギアと前記サンギアに噛合する複数のプラネタリギアを枢支するキャリアには、それぞれ、走行系ドライブトレーン、旋回系ドライブトレーン、及び前記走行駆動軸を連動連結し、前記旋回系ドライブトレーンから左右のインターナルギアへの伝達動力を調整し、前記左右の走行駆動軸に回転速度差を付与して機体を旋回走行させる作業車両のトランスミッションにおいて、前記走行系ドライブトレーンと旋回系ドライブトレーンに対して分岐動力を入力可能な単一の無段変速装置を設けると共に、前記走行系ドライブトレーンには、副変速装置を介設し、前記旋回系ドライブトレーンには、前記左右のインターナルギアへの動力の断接を行う左右のサイドクラッチと、該サイドクラッチの出力部材をサイドクラッチ切状態で制動可能なブレーキを設け、更に、前記無段変速装置への入力部または前記走行系ドライブトレーンの途中部から択一的に動力を取出して、PTO軸に入力可能な動力取出し装置を備えたことを特徴とする作業車両のトランスミッション。
【請求項2】
前記途中部は、副変速装置よりも動力伝達下流側に位置し、副変速装置による変速速度に同調した副変速動力をPTO軸に入力することを特徴とする請求項1記載の作業車両のトランスミッション。
【請求項3】
前記途中部は、副変速装置よりも動力伝達上流側に位置し、無段変速装置による変速速度に同調した主変速動力をPTO軸に入力することを特徴とする請求項1記載の作業車両のトランスミッション。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−90786(P2009−90786A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262586(P2007−262586)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】