説明

作業車両用ミラー装置

【課題】車両走行中の振動によりミラーが開き状態から閉じ状態に変位することを確実に防止することが可能になると共に、構成部品も比較的簡単なものですみ、比較的廉価に製造できる作業車両用ミラー装置を提供する。
【解決手段】傾斜した枢支部12を有する固定ステー8を車体側に取付ける。枢支部12に、回動ステー9の軸部16を回動可能に嵌合する。回動ステー9のミラー取付け枠部17にミラー7を取付ける。固定ステー8にストッパ13を設け、回動ステー9に、その開き状態においてストッパ13に当接する係止部19を設ける。回動ステー9を開いた状態において、回動ステー9およびミラー7の自重により係止部19がストッパ13に当接し、前記自重により回動ステー7の閉じ状態への回動が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラックや建設機械等の作業車両に取付けられるミラー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トラックや建設機械等の作業車両においては、運転室にいるオペレータが車体の側方や後方を視認するため、運転室の側方にミラーが取付けられる。このようなミラーは、車体の側方や後方の視界を良好にするために、車体の側面から外側に突出した位置に取付けられる。
【0003】
このような作業車両は、保守点検や修理作業を行なうため、作業車両を整備工場の出入口から搬入、搬出する場合、出入口が狭いと、運転室や運転室の側部のデッキから外方に突出して設けたミラーが邪魔となり、出入りが困難になる場合がある。このため、整備工場に搬入、搬出する場合は、ミラーを外方に張り出した開き状態から、車体寄りの閉じ状態に変位させることができるように、ミラーを回動ステーに取付け、この回動ステーを、車体に鉛直に取付けた支軸に回動可能に取付けることが行なわれている。
【0004】
そして、ミラーが外側に張り出した開き状態と、閉じ状態とでそれぞれミラーを変位、固定するため、回動ステーを支軸に固定する手段として固定用ボルトを設け、この固定用ボルトを緩めてミラーと共に回動ステーを回動させ、固定用ボルトを締めてミラーと共に回動ステーを開き状態または閉じ状態に固定することが従来より一般的に行なわれている。
【0005】
ミラーの回動を防ぐ他の手段として、例えば特許文献1に記載のように、ミラー取付け用コ字形ロッドと車体に取付けた支軸との連結部に、ロッドの回動を防ぐための押圧ばねを用いたボールラッチ機構等のような回動抵抗を付与する機構を設けることも行なわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4414919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ミラーを開き状態と閉じ状態とでそれぞれ回動ステーを固定するため、固定用ボルトで回動ステーを支軸に固定する構造によると、走行中に回動ステーやミラーに加わる振動により、固定用ボルトが緩み、回動ステーと共にミラーの向きが変化してミラーが本来の役目を果たさなくなる虞がある。
【0008】
一方、特許文献1に記載のように、走行中のミラーの回動を防止するため、押圧ばねを有するボールラッチ機構等の回動抵抗付与機構を用いたものでは、大型車両の場合、回動抵抗付与機構が大掛かりとなる。例えば作業車両が大型のダンプトラックの場合、ミラーも例えば20kgにも及ぶ重量物となり、回動抵抗付与機構も大型となってミラー装置の価格上昇を招くという問題点がある。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑み、車両走行中の振動によりミラーが開き状態から閉じ状態に変位することを確実に防止することが可能になると共に、構成部品も比較的簡単なものですみ、比較的廉価に製造できる作業車両用ミラー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の作業車両用ミラー装置は、
車体側に取付けられる固定ステーと、
前記固定ステーに設けた枢支部に回動可能に軸支される回動ステーと、
前記回動ステーにその軸部から側方に張り出して設けたミラー取付け枠部と、
前記ミラー取付け枠部に取付けるミラーと、
前記固定ステーに設けられたストッパと、
前記回動ステーに設けられ、前記ストッパに当接して前記回動ステーの開き方向の限界位置を規制する係止部とを備え、
前記枢支部を、前記回動ステーと前記ミラーが前記回動ステーと前記ミラーの自重により開き側に回動する方向に傾斜させた
ことを特徴とする。
【0011】
請求項2の作業車両用ミラー装置は、請求項1に記載の作業車両用ミラー装置において、
前記回動ステーが開き状態にある際に閉じ状態への回動を防止する補助固定手段をさらに備えた
ことを特徴とする。
【0012】
請求項3の作業車両用ミラー装置は、請求項2に記載の作業車両用ミラー装置において、
前記補助固定手段が、前記回動ステーを開き側に引っ張るスプリングからなる
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、ミラーを回動ステーと共に開いた状態においては、ミラーや回動ステーの自重で回動ステーの係止部が固定ステーのストッパに当接した状態が維持され、車両走行時の振動によりミラーが回動ステーと共に閉じ状態へ変位することを防止することができる。また、ミラーや回動ステーの自重をミラーの固定手段として利用するように構成したので、回動ステーを開き状態にて固定するための特別な部品を設ける必要が無いか、あるいは回動ステーを固定するための部品が簡単で軽量なものですむ。このため、比較的安価に製造することができ、ユーザーは比較的廉価に入手することができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、前記回動ステーを前記固定ステーに開き状態で固定する作用を助成する補助固定手段をさらに備えたので、回動ステーの固定をより確実に行なうことができる。
【0015】
請求項3の発明は、前記補助固定手段として引っ張りスプリングを用いたものであり、スプリングは伸縮性を有することから、両端の引掻け部間の長さの精度を要することなく、容易に製造できると共に、着脱も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のミラー装置を適用する車両の一例を示す側面図である。
【図2】図1の車両の正面図である。
【図3】この実施の形態のミラー装置を示す分解斜視図である。
【図4】この実施の形態のミラー装置を示す正面図である。
【図5】この実施の形態のミラー装置を示す側面図である。
【図6】この実施の形態のミラー装置を示す平面図である。
【図7】この実施の形態のミラー装置において、固定ステーに対する回動ステーの結合構造を示す断面図である。
【図8】(A)、(B)はこの実施の形態において、それぞれミラーの開き状態、閉じ状態における係止部とストッパとの位置関係を示す図である。
【図9】この実施の形態のミラー装置のミラー閉じ状態を示す平面図である。
【図10】本発明のミラー装置の他の実施の形態をミラー開き状態で示す平面図である。
【図11】図10の実施の形態のミラー装置をミラー閉じ状態で示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明のミラー装置を適用したダンプトラックを示す側面図、図2はその正面図である。図1、図2において、1はダンプトラックの車体、2はこの車体前部に設置した運転室、3はベッセル、4は運転室2の周囲に設けたデッキ、5はデッキ4の周囲に設けた手摺、6はデッキ4に昇降するための梯子である。7は車体前部の左右に設けたミラーであり、運転室2にいるオペレータが車体1の側方や後方を視認するために設けたものである。8はミラー7をデッキ4に取付けるための固定ステー、9はミラー7を取付けた回動ステーである。
【0018】
図3はこの実施の形態のミラー装置を示す分解斜視図、図4はこのミラー7が外側に張り出した開き状態について示す正面図、図5、図6はそれぞれその側面図、平面図である。図3〜図6に示すように、固定ステー8は、デッキ4等の車体側に取付けるための取付け板10と、この取付け板10に横向きに溶接したロッド11と、このロッド11の先端に溶接した回動ステー9用の枢支部12とを備える。枢支部12は筒状をなし、その外面には、回動ステー9に設ける後述の係止部19を当接させるストッパ13を溶接により設ける。
【0019】
固定ステー8の取付け板10にはボルト挿通孔10aを設け、このボルト挿通孔10aにボルト14を挿通し、このボルト14をデッキ4に設けたねじ孔4aに螺合して締結する(図4参照)ことにより、固定ステー8がデッキ4に取付けられる。ねじ孔4aの代りにボルト挿通孔を設け、そのボルト挿通孔にボルト14を挿通し、デッキ4の裏面に設けたナットにボルト14を螺合して固定ステー8をデッキ4に取付けるようにしてもよい。
【0020】
このように固定ステー8をデッキ4に取付けた状態においては、図5、図6に示すように、枢支部12はその上部が前方(斜め前方を含む。)となるように傾斜した姿勢となるように構成する。
【0021】
図3に示すように、回動ステー9は、軸部16とミラー取付け枠部17とからなる。軸部16は、前記固定ステー8の枢支部12に嵌合する下軸部16aと、この下軸部16aに対し、折り曲げ部16cで折り曲げられて形成された上軸部16bとを有する。ミラー取付け枠部17はコ字形をなし、上軸部16bに側方に張り出して溶接により取付けられている。ミラー取付け枠部17における上軸部16bと平行をなす縦軸部17aがミラー7の取付け部となる。
【0022】
回動ステー9の下軸部16aの途中の部分には、枢支部12上に載せる筒状部18を溶接し、この筒状部18の外面に、ミラー7を開いた状態において固定ステー8のストッパ13に当接させる係止部19を溶接する。
【0023】
ミラー7の背面にはニ股状の取付け金具20を有し、この取付け金具20によりミラー取付け枠部17における縦軸部17aを抱持する。そして、これらの取付け金具20に設けた貫通孔20a(図3参照)にボルト21を挿通してナット22に螺合し締結することにより、ミラー7を回動ステー9の縦軸部17aに取付ける。
【0024】
図7は固定ステー8に対する回動ステー9の結合構造を示す断面図である。図7に示すように、この回動ステーの下軸部16aの筒状部18から下方に突出した部分を、固定ステー8の筒状をなす枢支部12に回動可能に嵌合する。下軸部16aには下端よりねじ孔16dが穿孔されており、ワッシャ23に通したボルト24をこのねじ孔16dに螺合して固定することにより、回動ステー9が枢支部12から上方に抜け出ることを防止する。
【0025】
この実施の形態のミラー装置の取付けは、図4〜図6に示すように、固定ステー8をボルト14によりデッキ4に取付け、この固定ステー8の枢支部12に、ミラー7を取付けた回動ステー9の下軸部16aを回動可能に嵌合し、ボルト24をワッシャ23に通して下軸部16aのねじ孔16dに螺合して固定することにより行なう。
【0026】
ここで、ミラー7が開いた状態、すなわち運転室2にいるオペレータがミラー7を介して車体1の側方や後方を視認可能な向きになる状態においては、回動ステー9の下軸部16aは上部が前方となるように傾斜し、上軸部16bはほぼ垂直となり、ミラー7を取付けたミラー取付け枠部17はデッキ4の反対側に突出した状態となる。
【0027】
ここで、回動ステー9の下軸部16aは上部が前方となるように傾斜した姿勢であるため、ミラー7が開き状態にあるときは、回動ステー9やミラー7の自重により、図6、図8(A)に矢印Rで示すように、軸部16をミラー開き方向に回動させるような力を生じ、図8(A)に示すように、回動ステー9の係止部19が固定ステー8のストッパ13に当接した状態となり、前記自重によりこの状態が維持される。
【0028】
なお、このミラー開き状態において、ボルト24を回動ステー9の抜け止め手段としてのみ用いるのではなく、回動ステーが開き状態にある際に閉じ状態への回動を防止する補助固定手段として用い、ボルト24を締めると軸部16が枢支部12に固定されるように構成しておくことにより、回動ステー9の回動をさらに確実に防止し、ミラー7の開き状態をより確実に維持することができる。
【0029】
このダンプトラックを出入口が狭い整備工場に出入りさせる等、ミラー7を車体1側に近接させて全体の車幅を狭くする必要が生じた場合には、回動ステー9を手でデッキ4側に回動させ、図9に示すように、ミラー7をデッキ4(車体1)側に近接させた閉じ位置に移動させる。このとき、図8(B)に示すように、回動ステー9の係止部19は固定ステー8のストッパ13から離れる。
【0030】
このようにミラー7を閉じた状態においても、ボルト24を補助固定手段として用い、ボルト24を締めると軸部16が枢支部12に固定されるように構成しておくことにより、回動ステー9の回動を防止し、ミラー7を閉じ状態に維持しておくことができる。
【0031】
この実施の形態においては、ミラー7を取付けた回動ステー9の下軸部16aを固定ステー8の傾斜した枢支部12に回動可能に取付ける構造とし、ミラー7を開いた状態においては、ミラー7や回動ステー9の自重で回動ステー9の係止部19が固定ステー8のストッパ13に当接し、前記自重によりこのミラー開き状態が維持されるので、車両走行時における振動によるミラー7が閉じ状態へ変位することを防止することができる。
【0032】
また、ミラー7や回動ステー9の自重を、ミラー7を開き状態に維持する固定手段として利用するように構成したので、ミラー7を開き状態にて回動ステー9を固定するための特別な部品を設ける必要が無くなるか、あるいはミラーを固定するための部品が簡単で軽量なものとすることができる。このため、比較的安価に製造することができ、ユーザーは比較的廉価に入手することができる。
【0033】
図10、図11は本発明によるミラー装置の他の実施の形態を、ミラー7がそれぞれ開き状態と閉じ状態にある場合について示す平面図である。図10、図11において、25は手摺5(デッキ4や固定ステー8でも良い。)に設けた引掻け金具、26,28はそれぞれミラー取付け枠部17の前部、後部に突出させて設けた引掻け金具、27は引っ張りスプリングである。
【0034】
図10に示すように、ミラー7を開いた状態においては、スプリング27を手摺5に設けた引掻け金具25と、回動ステー9の前部に設けた引掻け金具26に両端を掛けて取付けることにより、回動ステー9やミラー7が開いた状態をより確実に維持することができる。また、図11に示すように、ミラー7が閉じ状態にあるときにはこのスプリング27の一端を、ミラー取付け枠部17の後側に設けた引掻け金具28に掛け、他端を手摺5側の引掻け金具25との間に掛けることにより、閉じ状態が維持される。
【0035】
なお、このスプリング27を用いる場合、回動ステー9に設ける引掻け金具は1つとし、ミラー7の使用位置と退避位置において、それぞれスプリング27が軸部16の外側、内側を通過するような固定または可動の部材を設けることにより、スプリング27の端部の付け替えを省略するようにしてもよい。
【0036】
また、ミラー7を開き状態および閉じ状態に維持する手段としては、スプリングの他、両端に車体側や回動ステーへの引掻け部を設けたロッド、ワイヤまたはロープ等を用いることもできる。ただし、スプリング27は、伸縮性を有することから、両端の引掻け部間の長さを精度を要することなく、容易に製造でき、かつ着脱も容易であるという利点がある。
【0037】
上記の実施の形態においては、固定ステー8に設ける枢支部12を筒状に形成したが、この代わりに枢支部をロッド状に形成し、このロッド状の枢支部に、回動ステー9の下部に設けた筒状の軸部を回動可能に嵌合する構成とすることも可能である。
【0038】
また、枢支部12を回動ステー9の上側に位置させたり、枢支部12を上側が後方になるように傾斜した構造とすることも可能である。また、ミラーの取付け位置は、デッキ4ではなく、車体1上の他の部位とすることも可能であり、車体1の後部に設けるミラーにも本発明を適用することが可能である。
【0039】
また、本発明は、油圧ショベル等の建設機械にも適用することができる。その他、本発明を実施する場合、上記実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更、付加が可能である。
【符号の説明】
【0040】
1:車体、2:運転室、3:ベッセル、4:デッキ、4a:ねじ孔、5:手摺、6:梯子、7:ミラー、8:固定ステー、9:回動ステー、10:取付け板、11:ロッド、12:枢支部、13:ストッパ、16:軸部、16a:下軸部、16b:上軸部、16c:折り曲げ部、16d:ねじ孔、17:ミラー取付け枠部、18:筒状部、19:係止部、20:取付け金具、23:ワッシャ、24:ボルト、25,26,28:引掻け金具、27:引っ張りスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に取付けられる固定ステーと、
前記固定ステーに設けた枢支部に回動可能に軸支される回動ステーと、
前記回動ステーにその軸部から側方に張り出して設けたミラー取付け枠部と、
前記ミラー取付け枠部に取付けるミラーと、
前記固定ステーに設けられたストッパと、
前記回動ステーに設けられ、前記ストッパに当接して前記回動ステーの開き方向の限界位置を規制する係止部とを備え、
前記枢支部を、前記回動ステーと前記ミラーが前記回動ステーと前記ミラーの自重により開き側に回動する方向に傾斜させた
ことを特徴とする作業車両用ミラー装置。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両用ミラー装置において、
前記回動ステーが開き状態にある際に閉じ状態への回動を防止する補助固定手段をさらに備えた
ことを特徴とする作業車両用ミラー装置。
【請求項3】
請求項2に記載の作業車両用ミラー装置において、
前記補助固定手段が、前記回動ステーを開き側に引っ張るスプリングからなる
ことを特徴とする作業車両用ミラー装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−144199(P2012−144199A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5429(P2011−5429)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】