説明

作業車両

【課題】安全性、旋回性能および作業環境を向上させたトラクタなどの作業車両を提供する。
【解決手段】キャビン6とミッションケース23との間に防振部材10を有し、ステアリングホイール9の操向および操向量を、車両上下方向から車両前後方向に変換するクランク機構111を有するリンク機構100を備え、このリンク機構100によって旋回用HSTポンプ72を操作し、車両を旋回させ、クランク機構111を、ミッションケース23側部に備える。また、クランク機構111の、弾性部材112を内挿する左アーム111cの接続部111dの両端部に、前後ロッド105を接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャビンとミッションケースとの間に防振部材を有し、ステアリング操舵部の操向および操向量を、車両上下方向から車両前後方向に変換するクランク機構を有するリンク機構を備え、このリンク機構によって旋回用HSTポンプを操作し、車両を旋回させる作業車両に関し、より詳細には、クランク機構を、ミッションケース側部に備えることに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の、例えば、クローラ式トラクタ(作業車両)の、ステアリングホイールの操向および操向量を旋回用HSTポンプに伝達するリンク機構には、図14に示すように、防振部材200で防振支持された操縦部201に有するステアリングホイール202の直下であって、ステアリング軸203の下方に設けられた、ステアリングホイール202の操向および操向量を車両の前後方向の出力に変換する不図示のステアリングカムと、このステアリングカムの出力を車両の前後方向に伝達する不図示のロッドと、該ロッドに連係し、このロッドの出力を車両の左右方向に伝達するブレーキ軸204と共用するロッド205と、このロッド205に連設し、ロッド205の出力を車両の上下方向に伝達する上下ロッド206と、さらにこの上下ロッド206の出力を、キャビンフレーム207に取付けられたクランク機構208により車両の前後方向の出力に変換して、旋回用HSTポンプ209のトラニオンアーム210に伝達するロッド211とを備えるものがある。(特許文献1)
【0003】
【特許文献1】特願2006−228734号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような作業車両のステアリングホイールの操向および操向量を旋回用HSTポンプに伝達するリンク機構では、ミッションケースの側部に配設された旋回用HSTポンプから発生する騒音や振動が、キャビンフレームに伝わり、キャビン内で騒音が発生するので、作業環境が低下する問題があった。このため、クランク機構の回動部に弾性部材を内挿し、これら騒音や振動をこの弾性部材により吸収させているが、なおも上記騒音や振動の一部が操縦部に伝わり、作業環境が十分に改善されていないほか、このクランク機構の、弾性部材を内挿する回動部の一側端部に前後ロッドの一端部が取付けられているため、回動部の他側端部から弾性部材が抜け落ちたり、回動部内で弾性部材が斜め方向に撓むなどして、上下ロッドの変位が、このクランク機構を介して前後ロッドに正確に伝わらず、ステアリングホイールの操向量に対する車両の旋回量にずれを生じるといった、旋回性能に問題があった。
【0005】
また、ステアリングホイールから連係する上下ロッドまでは、防振部材で支持された操縦部側に取付けられている一方、クランク機構、前後ロッドおよび旋回用HSTポンプは、操縦部の下方に配設されるミッションケースの側部に設置されているため、前後方向の振動に対して別位相で振動し、例えば、車両の急発進や急停車時など、車両に加わる前後方向の振動が、前後ロッドを介して旋回用HSTポンプの可動斜板を操作するレバーを傾斜させ、車両が直進時であってもこのような前後方向の振動により、車両に旋回動作が生じてしまう問題があった。
そこで、この発明の目的は、安全性、旋回性能および作業環境を向上させたトラクタなどの作業車両を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため請求項1に記載の発明は、キャビンとミッションケースとの間に防振部材を有し、ステアリング操舵部の操向および操向量を、車両上下方向から車両前後方向に変換するクランク機構を有するリンク機構を備え、該リンク機構によって旋回用HSTポンプを操作し、車両を旋回させる作業車両において、前記クランク機構を、ミッションケース側部に備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の作業車両において、前記クランク機構は、弾性部材を内挿する回動部を備え、前記回動部の両端部に、前記前後ロッドを接続することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、キャビンとミッションケースとの間に防振部材を有し、ステアリング操舵部の操向および操向量を、車両上下方向から車両前後方向に変換するクランク機構を有するリンク機構を備え、このリンク機構によって旋回用HSTポンプを操作し、車両を旋回させる作業車両において、クランク機構を、ミッションケース側部に備えるので、車両の前後方向の振動や、旋回用HSTポンプから発生される騒音、振動がクランク機構でキャビン内部に伝達されることはなく、また、車両直進時の前後方向の振動による旋回用HSTポンプの誤動作での車両旋回を防ぐことができる。従って、安全性および作業環境を向上させたクローラ式トラクタを提供することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、クランク機構は、弾性部材を内挿する回動部を備え、回動部の両端部に、前後ロッドを接続するので、回動部内から弾性部材が抜け落ちることがないとともに、回動部の回動の際、回動部の両端部に均等に前後ロッドの力が加わるため、弾性部材の撓みを防ぎ、上下ロッドの変位を、このクランク機構を介して前後ロッドに正しく伝えることができ、ステアリングホイールの操向量に対して車両を規定の旋回量にすることができる。従って、旋回性能を向上させたクローラ式トラクタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、この発明を実施するための最良の形態について詳述する。
図1は本発明の一実施例に係るクローラ式トラクタの側面図、図2は同トラクタにおけるクローラ式走行装置の斜視図、図3は同トラクタの断面平面図、図4は同トラクタにおける駆動部の断面側面図、図5は同トラクタにおけるミッションケース内の差動機構付近を拡大した断面平面図である。
【0011】
まず、クローラ式トラクタ1の概略構成について説明する。図1〜3および図7に示すように、車両1前方にはエンジン3を覆い、車体フレーム11上に積載されたボンネット2と、このボンネット2の後ろには車両1の操縦を行うための操縦部4が配設され、この操縦部4をキャビン6で覆設してもよい。そして、車体フレーム11上に設けられた防振ゴムなど防振部材10により防振支持される操縦部4の前方には車両1の操向を行うステアリング操舵部のステアリングホイール9が配設され、後方に設置される運転席8の左右には、車両1の走行や図示しない作業機の上げ下げ等を操作するための主変速レバー、副変速レバー及びPTO操作レバーなどの図示しない各種レバーが配設されている。また、上部車体90の後方には作業に応じて取り外し可能な前記作業機が取付けられる。さらに、上部車体90の下部には車両1の走行を行う左右一対のクローラ式走行装置80が配設されている。
【0012】
クローラ式走行装置80は、図2に示すとおり、進行方向に延設された左右2本のクローラフレーム81L,81Rと、このクローラフレーム81L,81R間を連結する2本のサイドフレーム82,83と、からなり、クローラフレーム81L,81Rの前後端には、それぞれ従動アイドラ85が回転自在に支持され、この2つの従動アイドラ85間には、4つのイコライザ転輪86が回転自在に支持されている。そして、2つの従動アイドラ85と、4つのイコライザ転輪86と、リアアクスルケース88L,88Rより軸支された駆動スプロケット60L,60Rとが、この駆動スプロケット60L,60Rを頂点とし、2つの従動アイドラ85を結ぶ直線を底辺とする、略三角形状にクローラベルト95を巻回してなるクローラ式走行装置80が形成されている。
【0013】
前部のサイドフレーム82からは、上方へ向けてさらに2本の支持部材87が配設されており、この支持部材87を、後述するクラッチハウジング5の側面にボルト締めすることにより、上部車体90と、クローラ式走行装置80とを連結している。また、クローラフレーム81L,81Rの後部には、左右駆動スプロケット60L,60Rが接続される左右車軸(リアアクスル)89L,89Rを軸支させるための左右リアアクスルケース88L,88Rがクローラフレーム81L,81R上に左右リアアクスルケースステー84L,84Rと一体で形成されている。
【0014】
以下、本発明のクローラ式トラクタ1の走行系統について説明する。エンジン3からの動力は、図3〜5に示すように、クラッチハウジング5を介してミッションケース23内の主副変速装置39で変速された後、左右の差動機構50L,50Rに入力される。そして、差動機構50L,50Rより延出された左右車軸89L,89R介して左右駆動スプロケット60L,60Rによりクローラ式走行装置80を駆動させる。また、後述する車両1を旋回させるための、旋回用の油圧変速機構(HST)ポンプ72がミッションケース23の平面視左側方に、旋回用HSTモータ73が差動機構50Lの方にそれぞれ設けられる。また、旋回用HSTモータ73は、差動機構50Rの前方でも設置可能で、旋回用HSTポンプ72と旋回用HSTモータ73とは、ミッションケース23の平面視右側方に設けてもよい。
【0015】
そして、可変容量型である旋回用HSTポンプ72内の図示しない可動斜板は図示しない副変速アームを介してステアリングホイール9に連係され、このステアリングホイール9の操向量に応じて旋回用HSTポンプ72からの吐出量が調節され、この吐出量に応じて旋回用HSTモータ73の出力回転数と回転方向とが制御される。そして、旋回用HSTモータ73の出力と主副変速装置39からの出力とが、後述する差動機構50内で合成され、車軸89L,89Rを介して駆動スプロケット60L,60Rを回転駆動させる。
【0016】
本発明のクローラ式トラクタ1では、上記のように旋回用HSTポンプ72及び旋回用HSTモータ73を配備するが、通常、ミッションケース23の下部に配置される旋回用HSTポンプ72を、本発明においてはミッションケース23と並列配置させることで、高い最低地上高を確保することができる。また、旋回用HSTポンプ72と旋回用HSTモータ73とが別体であるため、旋回用HSTモータ73をミッションケース23の上方に配置することにより、旋回用HSTモータ73を修理する場合にも、ミッションケース23内に貯留されるオイルが旋回用HSTモータ73から流出することなく、旋回用HSTモータ73のメンテナンスや交換など取り外しが容易になり、作業効率が向上する。更に、旋回用HSTモータ73がミッションケース23の上部、特に後述する差動機構50の部に配置させたことにより、旋回用HSTモータ73から遺漏するオイルを直接差動機構50に流下させることができる。
【0017】
続いて、ミッションケース23付近内の動力伝達の構成を説明する。図4に示すように、エンジン3の動力は、出力軸31を介して主軸37に伝達される。主軸37に固設された伝達歯車37a,37b,37c,37dは、主変速軸41に遊嵌される主変速一速歯車41a、主変速二速歯車41b、主変速三速歯車41c、主変速四速歯車41dにそれぞれ噛合されている。そして、主変速軸41の軸方向摺動可能にスプライン嵌合される2つの主変速クラッチスライダ41e,41fは、操縦部4に有する不図示の主変速レバーに連係されている。この主変速レバーの操作により主変速クラッチスライダ41e,41fと主変速一速歯車41a、主変速二速歯車41b、主変速三速歯車41c、主変速四速歯車41dのそれぞれに形成された爪との咬合を選択し、選択されたいずれか1つの上記主変速歯車41a,41b,41c,41dを介して主軸37から主変速軸41へ動力が伝達される。
【0018】
また、主変速軸41の車両進行方向前方延長部分には、正転側歯車7aおよび逆転側歯車7bがそれぞれ同一軸心上に遊嵌される前後進切換機構7が設けられる。そして、操縦部4に有する不図示のリバーサレバーを操作することによりリバーサクラッチ7cが前進側または後進側のいずれかに選択接続され、主変速軸41の回転は、正転側歯車7aまたは逆転側歯車7bのいずれかに伝達される。ただし、リバーサレバーがニュートラル位置の場合は、回転は正転側歯車7aおよび逆転側歯車7bのいずれにも伝達されない。
【0019】
正転側歯車7aは、伝達軸42に嵌合される歯車42aに、逆転側歯車7bはカウンタ軸32に嵌合されるカウンタ歯車32aにそれぞれ噛合されており、このカウンタ歯車32aは伝達軸42に嵌合される歯車42bと噛合される。その結果、リバーサクラッチ7cが前進側に接続されたときは、主変速軸41の回転動力が正転側歯車7aを介して伝達軸42に伝達され、リバーサクラッチ7cが後進側に接続されたときは、主変速軸41の回転動力が逆転側歯車7bからカウンタ軸32を介して伝達軸42を逆転方向に回転させることを可能としている。
【0020】
伝達軸42に嵌合される歯車42aは、正転側歯車7aと噛合うとともに、副変速軸45の同軸線上であり車両進行方向前方に設けられる歯車34と噛合っている。副変速軸45には、副変速シフタ45aがスプライン嵌合されており、副変速軸45の前部と歯車34の後部との間を自在に摺動可能としている。
【0021】
この副変速シフタ45aは、操縦部4に有する不図示の副変速レバーによって操作され、副変速シフタ45aの前部に形成された副変速シフタ歯45bが歯車34の後部位置34aに位置する状態の副変速三速、副変速シフタ歯45bと歯車34の後端に設けられた歯34bとが噛合う状態の副変速二速、副変速シフタ45aの中央上部に形成された歯45cと伝達軸42の中央近傍に設けられた歯車42cとが噛合う状態の副変速一速、副変速シフタ45aに回転動力が伝達されないニュートラル状態などそれぞれに切換可能とした副変速装置が構成される。
【0022】
これら副変速シフタ45aの摺動による歯車噛合わせの選択で、伝達軸42の回転が三段の変速を経て出力され、副変速軸45に入力された回転動力は、副変速軸45に設けられたベベルギア47を介して回転方向を前後方向から左右方向へと変え、後述するミッションケース23後方に位置する差動機構50L,50Rへと入力されることとなる。
【0023】
次に、車両1の旋回をおこなうための差動機構50の構成について説明する。図5に示すように、副変速軸45の後端に固設されたベベルギア47と、ピニオン軸22の中央部分に固設されたベベルギア21とを介して、前後方向の副変速後の動力を、左右方向へと回転方向を変え、後述する左右の差動機構50L,50Rへと伝達する。ピニオン軸22の左右両端に固設されたギア25L,25Rは、このギア25L,25Rと噛合するギア27L,27Rを介して、左右の入力軸20L,20Rを駆動する。この入力軸20L,20Rは、遊星ギア機構50である差動機構50のサンギア51L,51Rを回転駆動する。この差動機構50により旋回のための差動回転が出力される。
【0024】
さらに差動機構50について詳述する。差動機構50L,50Rは、入力軸20L,20Rに固設されたサンギア51L,51Rと、サンギア51L,51Rの周りを自公転自在に設けられたプラネタリアギア53L,53Rと、このプラネタリアギア53L,53Rを軸支するとともに入力軸20L,20Rと車軸89L,89Rとに回転自在に遊嵌された支持軸55L,55Rとからなる。そして、支持軸55L,55Rの外周には、さらにキャリアギア56L,56Rが形成されている。
【0025】
この差動機構50の構成により、車両1の直進時、即ち、左右の駆動スプロケット60L,60Rの回転が等しい回転数となるときは、支持軸55L,55Rは回転せず、差動機構50の各ギアは、その場で各軸上を自転回転して駆動スプロケット60L,60Rを回転させる。その結果、左右の駆動スプロケット60L,60Rはそれぞれ同回転数かつ同回転方向で回転し、車両1を直進させる。一方、車両1の旋回時、即ち、左右の駆動スプロケット60L,60Rの回転が異なる回転数となるときは、支持軸55L,55Rを、後述する旋回用HSTモータ73により回転駆動させて、差動機構50のプラネタリアギア53L,53Rを、サンギア51L,51R周囲において公転させる。
【0026】
そして、サンギア51L,51Rの回転に加え、支持軸55L,55Rの回転により、サンギア51L,51Rと、支持軸55L,55Rとの間に位置するプラネタリアギア53L,53Rが、サンギア51L,51R周りを公転し始める。このとき、サンギア51L,51Rの回転と、支持軸55L,55Rの回転とが等しい方向である場合には、これらサンギア51L,51Rの回転と、支持軸55L,55Rの回転との回転和がプラネタリアギア53L,53Rの自公転を介して、車軸ギア58L,58Rを回転させる。
【0027】
一方、サンギア51L,51Rの回転と、支持軸55L,55Rの回転とが異なる方向である場合、これら、サンギア51L,51Rの回転と、支持軸55L,55Rの回転との回転差が、プラネタリアギア53L,53Rの自公転を介して、車軸ギア58L,58Rを回転させる。
【0028】
ここで、支持軸55L,55Rの回転は、旋回用HSTモータ73により回転駆動されるが、旋回用HSTモータ73は、上述のとおりステアリングホイール9の操向に伴い回転駆動され、旋回用HSTモータ73の回転は、この旋回用HSTモータ73の出力ギア35に噛合う左右2つの逆転ギア52L,52Rを介して左右の逆転軸43L,43Rをそれぞれ逆回転させる。そして、これら逆転軸43L,43Rはそれぞれ、逆転軸43L,43Rの一端に固設された差動ギア44L,44Rと、キャリアギア56L,56Rとを介して左右の支持軸55L,55Rを逆回転させる。このようにして、旋回用HSTモータ73の回転に伴い、差動機構50の左右支持軸55L,55Rは、それぞれ逆回転し、その結果、一方の差動機構50は回転が足され、他方の差動機構50は回転が差し引かれるため、左右の駆動スプロケット60L,60Rはそれぞれ異なる回転数で回転し、車両1を旋回させる。
【0029】
このように、前部のエンジン3から、ミッションケース23内の主副変速装置39を介して後部へと伝達される直進用の出力と、ステアリングホイール9の操向により回転駆動する旋回用HSTモータ73の出力とが、差動機構50内で合成されることにより、左右のクローラ走行装置80の駆動スプロケット60L,60Rを差動回転させ、左方向若しくは右方向へと車両1を旋回させる構成である。
【0030】
また、ピニオン軸22Rの片端には、ブレーキ機構29である複数のブレーキ板29aが、ピニオン軸22上に形成されており、運転者の操作により図示しないブレーキペダルが操作されると、ブレーキアーム28が連動して回動し、このブレーキアーム28の回動に伴い、ピニオン軸22にブレーキ作用を発生させるとともに車両1を減速させるものである。
【0031】
特に、ブレーキ板29aは、ピニオン軸22Rの右端に位置しており、ブレーキ板29aや、ブレーキアーム28などを収容する図示しないブレーキケースを右側の差動機構50Rを収容する右リアアクスルケース80Rと一体とすることが可能である。また、旋回用HSTモータ73が、左リアアクスルケース88L上に位置しているため、右リアアスクルケース88Rに配置されたブレーキ機構29と、左リアアクスルケース88Lに配置された旋回用HSTモータ73とにより車両1の重量バランスを保つことが可能である。
【0032】
さらには、ブレーキ機構29と、旋回用HSTモータ73とを左右に分けて配置することにより、ブレーキ機構29を構成する不図示のリンク関係と、旋回用HSTポンプ72および旋回用HSTモータ73からなる旋回用HST機構を構成する不図示の油圧配管類と、を左右のリアアクスルケース88L,88R内に分けて配置することが可能であり、車両1のメンテナンス性が向上する効果がある。
【0033】
次に、本願発明の特徴である、ステアリング操舵部の操向および操向量を旋回用HSTポンプに伝達するリンク機構について、その具体的構成を説明する。図6は、ステアリングハンドルと旋回用HSTポンプとを連結するリンク機構の背面図、図7は同リンク機構の左側面図、図8はクランク機構の拡大斜視図、図9は前端部に二股部を有する一本のロッドからなる前後ロッドを示すクランク機構の平面模式図、図10はクランク機構の取付部分を拡大して示すリンク機構を下方から見た斜視図、図11はステアリングハンドルの操向位置に対する車両の走行方向を示した模式図、図12は旋回用HSTポンプを左側上方から見た斜視図、図13は旋回用HSTポンプにおけるトラニオンアームの前後方向への回動を示す左側面図である。
【0034】
ステアリングホイール9(ステアリング操舵部)の操向および操向量を旋回用HSTポンプ72に伝達するリンク機構100は、図6〜7に示すように、ステアリングホイール9の直下であって、ステアリング軸9aを介して有するステアリング入力軸9bの下部に設けられた、ステアリングホイール9の操向および操向量を機体の前後方向の出力に変換するステアリングカム101と、このステアリングカム101の出力を機体の前後方向に伝達するステアリングカム101の平面視右側部であって、機体の前後方向略水平に設けられたロッド102と、このロッド102に連係し、ロッド102の出力を機体の左右方向に伝達するステアリング入力軸9bの平面視前方であって、機体の左右方向水平に設けられたブレーキ軸106と共用するロッド103と、さらにこのロッド103に連設し、ロッド103の出力を機体の上下方向に伝達するステアリング軸9aの平面視左側方であって、機体の上下方向、かつ前部を高く後部を低く傾斜させて設けられた上下ロッド104と、この上下ロッド104に、機体の上下方向の出力を機体の前後方向の出力に変換するクランク機構111を介して前端部が連設され、旋回用HSTポンプ72の可動斜板を操作するレバー72aに後端部が接続される前後ロッド105とから構成される。なお、図6は、リンク機構100の構成を記すために、ミッションケース23の記載を省略したものである。
【0035】
なお、図中の符号107、108、109、110はそれぞれ作業機操作レバー、アクセルレバー、ブレーキペダル、クラッチペダルを示している。そして、ブレーキ軸106において、小型ホイール式トラクタで使用される左輪ブレーキペダル軸の設置位置にロッド102を取り付けることにより、小型ホイール式トラクタの構造を転用して、生産性および作業性を向上することができる。
【0036】
また、クランク機構111は、図8に示すように、例えば公知技術であるベルクランク機構であって、右アーム111aに接続された上下ロッド104の車両上下方向の変位を、回動軸111bを介して、左アーム(回動部)111cを車両前後方向に回動させて、車両前後方向の変位に変換するものであり、この左アーム111cに接続した前後ロッド105により車両前後方向の変位が旋回用HSTポンプ72のレバー72aに伝達される。
【0037】
このクランク機構111の、回動部である左アーム111cの後端部における前後ロッド105の接続部111d内には、例えば、円筒形状などの弾性部材112が内挿される。この弾性部材112は、旋回用HSTポンプ72から発生され、前後ロッド105を介して操縦部側に伝達される騒音や振動を吸収させるものであり、特に限定されるものではないが、例えば、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、シリコンゴム、フッ素シリコンゴムなどの材質からなり、耐磨耗性、耐熱性を有するものが好ましい。
【0038】
そして、この左アーム111cにおける接続部111dの両側端部に、前後ロッド105の前端部が、弾性部材112を挟持するように、弾性部材112を貫設したボルトなどに接続される。なお、前後ロッド105は、図6や図8に示すように、平行する二本のロッドであって、それぞれの前端部を上述したように左アーム111cにおける接続部111dの両側端部に、左アーム111cを回動可能に接続されるとともに、それぞれの後端部が、旋回用HSTポンプ72のレバー72aのそれぞれ両側端部に、レバー72aを回動可能に接続される構成であってもよいが、例えば、図9に示すように、前後ロッド105aは、一本のロッドであって、前後ロッド105aの前端部に、左右に分岐させた二股部105bを設け、この二股部105bで弾性部材112を挟持するように、弾性部材112を貫設したボルトなどに、左アーム111cを回動可能に接続するとともに、後端部が旋回用HSTポンプ72のレバー72aの一側端部に、レバー72aを回動可能に接続される構成などであってもよい。そして、前後ロッド105,105aが、上述のように一本から構成される場合であっても、二本から構成される場合であっても、必要な剛性を有していればよい。
【0039】
このような構成にすることで、左アーム111c(回動部)内から弾性部材112が抜け落ちることがないとともに、左アーム111cの回動の際、左アーム111cの両端部に均等に前後ロッド105の力が加わるため、弾性部材112の斜め方向への撓みなどを防ぎ、上下ロッド104の変位を、このクランク機構111を介して前後ロッド105に正確に伝えることができ、ステアリングホイール9の操向量に対して車両を規定の旋回量にすることができる。
【0040】
次に、このクランク機構111は、図10に示すように、ミッションケース23前部の左側部に固設された略U字型のステー113における左右側壁に、回動軸111bの左右両端部が回動可能に取付けられ、右アーム111aには、車両上下方向に延設される上下ロッド104の下端部が接続される。また、左アーム111cには、上述したように車両前後方向に延設される前後ロッド105の前端部が接続されるとともに、この前後ロッド105は、ミッションケース23の左側方に沿って延設され、前後ロッド105の後端部が、ミッションケース23後部の左側部に設置された旋回用HSTポンプ72のレバー72aに接続される。
【0041】
ここで、車両の右旋回時には、図11に示すようにステアリングホイール9の定点位置aが、位置b(あそび範囲)を越えて方向cに操向される右回転により、図6〜7に示すように、ステアリング軸9aを介してステアリング入力軸9bが右回転し、ステアリングカム101の、図示しない右旋回用偏芯カムが右回転する。この右旋回用偏芯カムが、図示しない右旋回用コロを介してステアリング入力軸9bを中心として、図示しないステアリングアームを前方に移動させ、ロッド103に連係されるロッド102を前方に摺動させる。一方、車両の左旋回時には、ステアリングホイール9の定点位置aが位置b´(あそび範囲)を超えて方向dに操向される左回転により、不図示の左旋回用偏芯カムが左回転し、不図示の左旋回用コロなどを介して、前記ステアリングアームを後方に移動させる結果、ロッド103に連係されるロッド102を後方に摺動させる。
【0042】
そして、ステアリングホイール9が右回転の場合は、ロッド102が前方に移動することによりロッド103の軸心を中心に取付部103aを介してロッド103を進行方向左側からロッド103の回転を見た場合の時計回りに回転させる一方、ステアリングホイール9が左回転の場合は、ロッド102が後方に移動することによりロッド103の軸心を中心に取付部103aを介してロッド103を進行方向左側からロッド103の回転を見た場合の反時計回りに回転させる。
【0043】
さらに、ロッド103の回転に連動して、ステアリングホイール9が右回転の場合は取付部104aを介して上下ロッド104の下部を下方に、ステアリングホイール9が左回転の場合は、取付部104aを介して上下ロッド104の下部を上方に移動させる。次いで、上下ロッド104に伝達されたステアリング出力は、前述したクランク機構111により車両前後方向の出力に変換され、ステアリングホイール9が右回転の場合は、前後ロッド105の後部を前方に、ステアリングホイール9が左回転の場合は、前後ロッド105の後部を後方に移動させる。
【0044】
その結果、ステアリングホイール9が右回転の場合は、旋回用HSTポンプ72の可動斜板を操作するレバー72a下部を軸にして、レバー72aの上部を前方に動かし、ステアリングホイール9が左回転の場合は、レバー72aの上部を後方に動かすとともに、可動斜板を操作するレバー72aをステアリングホイール9の操向量に応じた傾斜角度に傾斜させ、旋回用HSTポンプ72から旋回用HSTモータ73へ供給する作動油の吐出圧が調節される。なお、これらリンク機構を構成するロッド102,103,上下ロッド104、前後ロッド105は、ステアリングホイール9の操向量に応じた作動量となる。また、車両の旋回に伴うステアリング出力によるリンク機構100の作動方向および回転方向は、上述した逆の方向であってもよい。
【0045】
次に、旋回用HSTポンプ72は、図12に示すように、旋回用HSTポンプ72の左側部には、図示しない可動斜板に連係されるトラニオンアーム111が、中央近傍の回動支点125を介して車両前後方向に回動可能に取付けられる。そして、トラニオンアーム111の中央下端には、全体が略逆U字形状のデテント溝126が備えられるとともに、上端部に有する接続部114に前後ロッド105の後端部が接続される。
【0046】
また、トラニオンアーム111の下方には、前後方向に回動したトラニオンアーム111を車両鉛直方向である中立位置に戻すための復元機構115が備えられる。この復元機構115は、旋回用HSTポンプ72の下端部に取付けられた回動軸116と、この回動軸116に、トラニオンアーム111よりも左側方であって、車両後方に向けて後部が車両上下方向に回動可能に取付けられるとともに、中途部から旋回用HSTポンプ72の下端部に対してデテントピン117が貫設された回動アーム118と、この回動アーム118の後端部に備えられる取付部119と、旋回用HSTポンプ72上部の後部側に備えられる取付部120との間にトラニオンアーム111と略等しい高さで設けられた、コイルバネなどの弾性体121とから構成される。
【0047】
その結果、図13に示すように、ステアリングホイール9が右回転の場合は、回動支点125を中心として、前後ロッド105が、トラニオンアーム111の上部を車両前方に回動させるとともに、デテント溝126に嵌合されるデテントピン117がデテント溝126の最深部127から外れてデテント溝126上を回動し、トラニオンアーム111下端の前部がデテントピン117を上方から押圧し、弾性体121の付勢力に抗して、回動軸116を中心に回動アーム118を下方に摺動し、トラニオンアーム111の下部が車両後方に回動され、このトラニオンアーム111の回動に追従して、図示しない可動斜板が傾斜し、旋回用HSTポンプ72から旋回用HSTモータ73へ供給する作動油の吐出圧が調節され、車両が右旋回される。また、トラニオンアーム111の前後方向最大回動角において、トラニオンアーム111の上部に備える回動規制枠124の端部124aに回動規制ピン124bが当接するため、デテントピン117がデテント溝126の前後端部を越えて外れることはない。
【0048】
また、上記した車両の右旋回後に、ステアリングホイール9を中立位置から左回転させたときは、まず、ステアリングホイール9を中立位置にすることで、リンク機構100を介して前後ロッド105が車両前方に回動し、回動支点125を中心として、トラニオンアーム111の上部を車両後方に回動させる。このとき、弾性体121の付勢力により、回動アーム118が上方に摺動することで、トラニオンアーム111下端のデテント溝126にデテントピン117が嵌合され、トラニオンアーム111が車両垂直方向である中立位置に戻される。
【0049】
そして、ステアリングホイール9を左回転させると、回動支点125を中心として、前後ロッド105が、トラニオンアーム111の上部をさらに車両後方に回動させるとともに、デテント溝126に嵌合されるデテントピン117がデテント溝126から外れ、トラニオンアーム111下端の後部がデテントピン117を上方から押圧し、弾性体121の付勢力に抗して、回動軸116を中心に回動アーム118を下方に摺動し、トラニオンアーム111の下部が車両前方に回動され、このトラニオンアーム111の回動に追従して図示しない可動斜板が傾斜し、旋回用HSTポンプ72から旋回用HSTモータ73へ供給する作動油の吐出圧が調節され、車両が左旋回される。なお、これらリンク機構100およびトラニオンアーム111は、ステアリングホイール9の操向量に応じた作動量となる。また、車両の旋回に伴うステアリング出力によるリンク機構100およびトラニオンアーム111の作動方向および回動方向は、上述した逆の方向であってもよい。
【0050】
なお、トラニオンアーム111下端部の前端に、トラニオンアーム111が車両前後方向に回動しても回動軸116に接触せず、トラニオンアーム111の左右幅に略等しい、略扇形状の延長部材122を設けてもよく、回動支点125を中心としてトラニオンアーム111の下部が車両後方に回動されるが、この延長部材122により回動軸116と、トラニオンアーム111下端の前部とにスペースsを生じさせることがない。このため、従来のように例えば小石や異物などがスペースsに挟入することなく、トラニオンアーム111を正常に回動させることができる。
【0051】
上述したように、操舵部4を含むキャビン6とミッションケース23との間に防振部材10を有するトラクタにおいて、クランク機構111、前後ロッド105およびレバー72aを備える旋回用HSTポンプ72を、ミッションケース23の左側部に配設し、これらがミッションケース23側部の同系内に位置することから、旋回用HSTポンプ72から発生される騒音や振動が、クランク機構111からキャビン6内に有する操縦部4に伝達されることなく、加えて上述したように左アーム111cの接続部111dに内挿される弾性部材112によりこれら騒音や振動が吸収されて減少する効果と併せて、上下ロッド104やステアリング軸9aなどを介して操縦部4に伝達される、旋回用HSTポンプ72から発生されるこれら騒音や振動量が減少するので、操縦部4の作業環境を向上することができる。
【0052】
さらに、ミッションケース23同系内に、これらクランク機構111、前後ロッド105およびレバー72aを備える旋回用HSTポンプ72が配置されるので、例えば、車両の急発進や急停車時など、車両に加わる前後方向の振動の振幅を少なくすることができ、振幅による前後ロッド105の変位を抑え、旋回用HSTポンプ72の可動斜板を操作するレバー72aの誤動作を防ぎ、車両直進時に起こる、車両に加わる前後方向の振動による車両の旋回動作を防ぎ、安全性を向上することができる。
【0053】
以上詳述したように、この例のクローラ式トラクタ1は、キャビン6とミッションケース23との間に防振部材10を有し、ステアリングホイール9(ステアリング操舵部)の操向および操向量を、車両上下方向から車両前後方向に変換するクランク機構111を有するリンク機構100を備え、このリンク機構100によって旋回用HSTポンプ72を操作し、車両を旋回させ、クランク機構111を、ミッションケース23側部に備えるものである。加えて、クランク機構111の、弾性部材112を内挿する左アーム111cの接続部111d(回動部)の両端部に、前後ロッド105を接続する。
【0054】
なお、上述の例では、作業車両の一例としてクローラ式トラクタについて説明したが、この発明はこれに限定されるものではなく、農作業車両としてホイール式トラクタや、コンバインなど、また、建設作業車両としてブルトーザなど、ステアリング操舵部の操向および操向量を旋回用HSTポンプに伝達するリンク機構を備えたあらゆる作業車両に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一例としてのクローラ式トラクタの左側面図である。
【図2】同トラクタにおけるクローラ式走行装置付近の斜視図である。
【図3】同トラクタの断面平面図である。
【図4】同トラクタにおける駆動部の断面側面図である。
【図5】同トラクタにおけるミッションケース内の差動機構付近を拡大した断面平面図である。
【図6】ステアリングハンドルと旋回用HSTポンプとを連結するリンク機構の背面図である。
【図7】同リンク機構の左側面図である。
【図8】クランク機構の拡大斜視図である。
【図9】前端部に二股部を有する一本のロッドからなる前後ロッドを示すクランク機構の平面模式図である。
【図10】クランク機構の取付部分を拡大して示すリンク機構を下方から見た斜視図である。
【図11】ステアリングハンドルの操向位置に対する車両の走行方向を示した模式図である。
【図12】旋回用HSTポンプを左側上方から見た斜視図である。
【図13】旋回用HSTポンプにおけるトラニオンアームの前後方向への回動を示す左側面図である。
【図14】従来のクローラ式トラクタにおけるステアリングハンドルと旋回用HSTポンプとを連結するリンク機構の左側面図である。
【符号の説明】
【0056】
4 操縦部
9 ステアリングホイール
9a ステアリング軸
9b ステアリング入力軸
23 ミッションケース
72 旋回用HSTポンプ
72a レバー
100 リンク機構
101 ステアリングカム
102,103 ロッド
104 上下ロッド
105,105a 前後ロッド
105b 二股部
111 クランク機構
111a 右アーム
111b 回動軸
111c 左アーム
111d 接続部
112 弾性部材
113 ステー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビンとミッションケースとの間に防振部材を有し、ステアリング操舵部の操向および操向量を、車両上下方向から車両前後方向に変換するクランク機構を有するリンク機構を備え、該リンク機構によって旋回用HSTポンプを操作し、車両を旋回させる作業車両において、
前記クランク機構を、ミッションケース側部に備えることを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記クランク機構は、弾性部材を内挿する回動部を備え、前記回動部の両端部に、前記前後ロッドを接続することを特徴とする、請求項1に記載の作業車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2009−56833(P2009−56833A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223603(P2007−223603)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】