説明

作業車両

【課題】ステアリングハンドルをチルトさせても、ハンドアクセルレバーなどの操作部材の損傷防止および正確な操作を可能とした、操作性、生産性およびメンテナンス性を向上させた作業車両を提供する。
【解決手段】ボンネット5の後部に連設したダッシュボード9の後方に、上方にステアリングハンドル11を突設し、チルト可能に取付けたステアリングコラム12およびエンジン6の回転数を設定するハンドアクセル操作部材24を備え、ステアリングコラム12は、ダッシュボード9の後部に取付けたステアリングケース22に、チルト可能に取付けるとともに、ハンドアクセル操作部材24は、ステアリングケース22の一側部に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダッシュボードの後方に、チルト可能に取付けたステアリングハンドルを取付けたステアリングコラムおよびエンジンの回転数を設定するハンドアクセル操作部材を備える作業車両に関し、より詳細には、ステアリングコラムが、ダッシュボードの後部に取付けたステアリングケースに、チルト可能に取付けるとともに、ハンドアクセル操作部材をステアリングケースの一側部に設けた作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の作業車両には、例えば、シート側方のレバーガイドに、エンジンの回転数を設定するアクセル設定器および、このアクセル設定器を手動操作するハンドアクセルレバーをエンジンから離れた位置に配置させて、アクセル設定器をエンジンの振動や高温から防ぐとともに、後部作業機を操作する際に、作業者は後方を見ながらシート側方に有するハンドアクセルレバーを操作できるため、操作性が向上する(特許文献1)ものや、操向ハンドルを突設させたステアリングコラムの側部にハンドアクセルレバーを備えたもの(特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−18507号公報
【特許文献2】特開平9−201106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のような作業車両では、ハンドアクセルレバーがエンジンから離れた位置に備えられているため、機体前部に有するエンジンと、ハンドアクセルレバーとを連結するリンク部材の距離を長く設ける必要があり、製造コストの上昇や、配置構成の複雑化による生産性およびメンテナンス性が低下する。
【0005】
また、特許文献2のような作業車両では、ステアリングコラムの側部にハンドアクセルレバーを有するため、このハンドアクセルレバー(機体の前後進を切換えるリバーサレバーも同様)が、上記特許文献1に比べてエンジンに近い位置に設けられているものの、ステアリングハンドルをステアリングコラムを介して機体前後方向にチルトさせる際、ハンドアクセルレバーもステアリングコラムとともにチルトされるため、ハンドアクセルレバーのリンク部材が押し引きされることで、このリンク部材に負荷がかかり、リンク部材の損傷や設置位置のずれなどによる正確なアクセル操作ができないという問題があった。
そこで、この発明の目的は、ステアリングハンドルをチルトさせても、ハンドアクセルレバーなどの操作部材の損傷防止および正確な操作を可能とした、操作性、生産性およびメンテナンス性を向上させた作業車両を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため請求項1に記載の発明は、ボンネットの後部に連設したダッシュボードの後方に、上方にステアリングハンドルを突設し、チルト可能に取付けたステアリングコラムおよびエンジンの回転数を設定するハンドアクセル操作部材を備える作業車両において、前記ステアリングコラムは、前記ダッシュボードの後部に取付けたステアリングケースに、チルト可能に取付けるとともに、前記ハンドアクセル操作部材は、前記ステアリングケースの一側部に設けることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の作業車両において、前記ステアリングケースの一側部には、機体の前後進の切換操作を行うリバーサ操作部材を設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、ボンネットの後部に連設したダッシュボードの後方に、上方にステアリングハンドルを突設し、チルト可能に取付けたステアリングコラムおよびエンジンの回転数を設定するハンドアクセル操作部材を備える作業車両において、ステアリングコラムは、ダッシュボードの後部に取付けたステアリングケースに、チルト可能に取付けるとともに、ハンドアクセル操作部材は、ステアリングケースの一側部に設けるので、ダッシュボードの後方であって、操縦部のフロア上に固定したステアリングケースに対してステアリングコラムを回動させてステアリングハンドルをチルトさせるため、ステアリングハンドルのチルト構造に係らず、ハンドアクセル操作部材を固定設置でき、ハンドアクセル操作部材の損傷防止および正確な操作を可能とすることができる。また、これらステアリングハンドルを備えるステアリングコラムおよびハンドアクセル操作部材を、ステアリングケースを介して一体的に機体に取付けることができ、生産性を向上することができる。従って、操作性、生産性およびメンテナンス性を向上させた作業車両を提供することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、ステアリングケースの一側部には、機体の前後進の切換操作を行うリバーサ操作部材を設けるので、チルト構造を備えるステアリングハンドルを設けたステアリングコラムとは別にリバーサ操作部材をステアリングケースに固定設置でき、リバーサ操作部材の損傷防止および正確な操作を可能とすることができる。また、ステアリングコラムおよびハンドアクセル操作部材に加えてリバーサ操作部材をステアリングケースを介して一体的に機体に取付けることができ、生産性を向上することができる。従って、操作性、生産性およびメンテナンス性を向上させた作業車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例に係る農作業車両としての、ホイール式トラクタの左側面図である。
【図2】操縦部を示す上方から見た機体の斜視図である。
【図3】ステアリングコラム近傍を示す操縦部前部の左側面図である。
【図4】ステアリングケースの取付位置を示す操縦部前部の正面図である。
【図5】ハンドアクセル操作部材を示す操縦部前部の左側面図である。
【図6】ハンドアクセル操作部材およびフートアクセルを示す操縦部前部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、この発明を実施するための最良の形態について詳述する。
図1は本発明の一実施例に係るホイール式トラクタの左側面図である。なお、図に例示したトラクタは、ロプス仕様のホイール式トラクタに限定されず、キャビン仕様や、クローラ式などであってもよい。
【0012】
この例のホイール式のトラクタ1は、前輪2および後輪3を備え、前輪2の上方であって車体フレーム4上にボンネット5を形成し、その内側には原動機部としてのエンジン6を配置するとともに、このエンジン6の後方には順にクラッチハウジング7およびミッションケース8が備えられる。
【0013】
そして、ボンネット5に連設したダッシュボード9の後方に操縦部10が設けられ、この操縦部10の前部であって、上方にステアリングハンドル11を突設させたステアリングコラム12の下方、かつフロア13上には、フートアクセルペダル30などの操作部材14を配設するとともに、この操縦部10の後部には運転席15などが設けられる。なお、符号20は、機体後部に設けられたロプスフレームである。
【0014】
また、前記運転席15は、後輪3の上方であって、前部を下方に屈曲させた形状の左右フェンダ16間に配置され、この運転席15の後方には燃料タンク17が配設される。また左右フェンダ16の内側部に設けられた図示しないレバーガイドには、例えば、副変速レバーやPTOレバーなどの各種操作レバー18の下部を内設し、それら操作レバー18の上部を突設させている。
【0015】
次に、本願発明の特徴である、前後進切換機構の中間リンクについて、その具体的構成を説明する。図2は操縦部を示す上方から見た機体の斜視図、図3はステアリングコラム近傍を示す操縦部前部の左側面図、図4はステアリングケースの取付位置を示す操縦部前部の正面図、図5はハンドアクセル操作部材を示す操縦部前部の左側面図、図6はハンドアクセル操作部材およびフートアクセルを示す操縦部前部の平面図である。
【0016】
まず、図2〜4に示すように、ダッシュボード9の後端の中央近傍であって、エアカットプレート21と、コラムカバー23が覆設されたステアリングコラム12との間には、例えば、略直方体形状などのステアリングケース22が設置される。このステアリングケース22は、金属類または樹脂などからなるもので、エアカットプレート21の上端から略中央近傍までの高さを有するとともに、ステアリングコラム12の取付により操縦部の居住スペースが狭くならない程度の前後長さを有するものとされる。
【0017】
このステアリングケース22は、限定されないが、ダッシュボード9と同じ材質で構成してもよく、その材質として、例えば、FRP(Fiber Reinforced Plastics)などを用いることができる。
【0018】
そして、ステアリングケース22の後端には、上方にステアリングハンドル11を突設させたステアリングコラム12が取付けられる。
【0019】
このステアリングコラム12は、下部のチルト軸12aと軸芯としてステアリングコラム12が周知の方法により、機体前後方向に回動可能とする。これにより、ステアリングハンドル11が機体前後方向にチルト可能となり、運転席15に着座した作業者は、自分の適した位置にステアリングハンドル11をチルトさせることができる。
【0020】
次に、ステアリングケース22の一側部(図の例ではステアリングコラム12の機体進行方向の右側部)には、エンジン6の回転数を設定するレバーとしてのハンドアクセル操作部材24が側方に突出して設けられる。
【0021】
このハンドアクセル操作部材24は、図5に示すように、このハンドアクセル操作部材24を備える取付具25を、ステアリングケース22の右側部にボルト締結などにより取付けられ、ハンドアクセル操作部材24がインナーワイヤーなどを有するリンク部材26の一端に連結されており、ハンドアクセル操作部材24の回動操作によってリンク部材26内の前記ワイヤが摺動される。なお、符号39はステアリングハンドル支持部である。また、図5では、ステアリングコラム12は、コラムカバーを便宜上取外して示した。
【0022】
さらに、図6に示すように、ハンドアクセル操作部材24の軸周りには、このハンドアクセル操作部材24と一体的に回動される軸部材aが取付けられるとともに、この軸部材aが、取付具25上に取付けたプレートbに形成された、扇形などの穴部c内に嵌入される。そして、軸部材aの先端部が、リンク部材26の一端に連結されている。
【0023】
従って、ハンドアクセル操作部材24を機体前後方向に回動させることにより、軸部材aは穴部c内を機体左右方向に回動するが、穴部cの左右端がハンドアクセル操作部材24の回動を規制するストッパーとなる。
【0024】
また、リンク部材26は、ステアリングケース22内を通って、ボンネット5内に延設されるとともに、このリンク部材26の他端が、エンジン6の図示しないハンドアクセル操作部材24側のスロットルに接続される。なお、符号27はブレーキペダル、符号28はパーキングブレーキレバーである。
【0025】
従って、ハンドアクセル操作部材24を、機体の前後方向に回動させると、リンク部材26を介してエンジン6における前記ハンドアクセル操作部材24側のスロットルが操作されるよう構成されている。
【0026】
なお、エンジン6には、上述したハンドアクセル操作部材24側のスロットルの他にも図示しないフートアクセルペダル31に上述のようにワイヤーなどのリンク部材30を介して連結させたフートアクセルペダル31側のスロットルが備えられており、作業者は、エンジン6の回転数の設定を、これらハンドアクセル操作部材24およびフートアクセルペダル31により、手足のどちらでも操作することができる。なお、フートアクセルペダル31の構成は周知技術であるため、その説明は省略する。
【0027】
また、フートアクセルペダル31は、このフートアクセルペダル31が連結される回動部材dにリンク部材30の端部が接続される。なお、符号eはフートアクセルペダル31の回動を規制する規制部材である。
【0028】
そして図5〜6に示すように、フロア13(図中ではフロア13の右端部)に形成した四角形状などの切欠部f上に、ゴム材などからなる弾性シートgを覆設するとともに、この弾性シートgに形成された溝部hにフートアクセルペダル31が位置するようにして、回動部材dおよび規制部材eをフロアにボルト締結などして、このようなフートアクセルペダル31や、回動部材d、規制部材eなどからなるペダルユニットがフロア13に取付けられる。なお、弾性シートgの上面には、滑り止めの凹凸形状を施すことができる。
【0029】
このような構成にすることで、ダッシュボード9の後方であって、操縦部10のフロア13上に固定したステアリングケース22に対してステアリングコラム12を回動させてステアリングハンドル11のみをチルトし、このステアリングハンドル11のチルト構造に係らずハンドアクセル操作部材24をステアリングケース22上に固定設置でき、ハンドアクセル操作部材24の損傷防止および正確な操作を可能とすることができる。
【0030】
また、これらステアリングハンドル11を備えるステアリングコラム12およびハンドアクセル操作部材24をステアリングケース22を介して一体的に機体に取付けることができ、生産性を向上することができる。
【0031】
従って、フートアクセルペダル31およびハンドアクセル操作部材24が、それぞれユニット化されてフロア13およびステアリングケース22に取付けられているため、これらアクセル関連部材の機体への取付けが容易となり、組立やメンテナンスの作業性が向上される。
【0032】
さらに、本願発明の作業車両では、機体の前後進切換を操作するリバーサレバーとしてのリバーサ操作部材についても、チルト可能なステアリングコラム12から分離して設置することができる。
【0033】
この場合、図3〜4に示すように、ステアリングケース22の一側部(図の例ではステアリングコラム12の機体進行方向の左側部)には、取付部材などを介してリバーサ操作部材32が側方に突出して設けられる。
【0034】
このリバーサ操作部材32の基端部は、上述同様に不図示のワイヤーを有するリンク部材33の一端に連結されるとともに、リンク部材33の他端は、ミッションケース8前部の側部に取付けられた、図示しない前後進切換機構の操作レバー34に連結される。
【0035】
そして、リバーサ操作部材32の回動操作により、リンク部材33を介して前後進切換機構の操作レバー34が、ミッションケース8内のそれぞれ図示しない油圧多板式前後進クラッチを入切させることで、出力軸のギアを、前進ギアまたは後進ギアに噛合わせて、車両の前後進切換が行われるものであるが、周知の技術であるため、詳細な説明は省略する。また、リンク部材33を押し引きするリバーサ操作部材32の回動構成は、上述したハンドアクセル操作部材24と同様であるため、その説明を省略する。
【0036】
このような構成により、チルト構造を備えるステアリングハンドル11を設けたステアリングコラム12とは別にリバーサ操作部材32をステアリングケース22に固定設置でき、リバーサ操作部材32の損傷防止および正確な操作を可能とすることができる。
【0037】
また、ステアリングコラム12およびハンドアクセル操作部材24に加えてリバーサ操作部材32をステアリングケース22を介して一体的に機体に取付けることができ、生産性を向上することができる。
【0038】
なお、ハンドアクセル操作部材24やリバーサ操作部材32は、上述したようなレバーに限定されない。
【0039】
以上詳述したように、この例の作業車両(トラクタ1)は、ボンネット5の後部に連設したダッシュボード9の後方に、上方にステアリングハンドル11を突設し、にチルト可能に取付けたステアリングコラム12およびエンジン6の回転数を設定するハンドアクセル操作部材24を備え、ステアリングコラム12は、ダッシュボード9の後部に取付けたステアリングケース22に、チルト可能に取付けるとともに、ハンドアクセル操作部材24は、ステアリングケース22の一側部に設けるものである。
【0040】
加えて、ステアリングケース22の一側部には、機体の前後進の切換操作を行うリバーサ操作部材32を設ける。
【産業上の利用可能性】
【0041】
なお、上述の例では、作業車両の一例として、農作業車両のホイール式トラクタについて説明したが、この発明はこれに限定されるものではなく、クローラ式トラクタやコンバイン、建設作業車両としてブルトーザなど、チルト可能なステアリングコラム近傍にハンドアクセル操作部材およびリバーサ操作部材を備える、あらゆる作業車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
6 エンジン
9 ダッシュボード
11 ステアリングハンドル
12 ステアリングコラム
12a 回動軸
22 ステアリングケース
23 コラムカバー
24 ハンドアクセル操作部材
25 取付具
26,30,33 リンク部材
31 フートアクセルペダル
32 リバーサ操作部材
34 操作レバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボンネットの後部に連設したダッシュボードの後方に、上方にステアリングハンドルを突設し、チルト可能に取付けたステアリングコラムおよびエンジンの回転数を設定するハンドアクセル操作部材を備える作業車両において、
前記ステアリングコラムは、前記ダッシュボードの後部に取付けたステアリングケースにチルト可能に取付けるとともに、前記ハンドアクセル操作部材は、前記ステアリングケースの一側部に設けることを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記ステアリングケースの一側部には、機体の前後進の切換操作を行うリバーサ操作部材を設けることを特徴とする、請求項1に記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−202005(P2010−202005A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48196(P2009−48196)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】