説明

充填判定方法、充填判定システム及び通信装置

【課題】型枠に流し込んだ流動する材料が、型枠内の空間に充填されたことを通信装置を用いて判定する充填判定方法を提供すること。
【解決手段】充填判定方法は、物理量を測定する測定手段、および無線通信により測定された結果に応じた情報を読取装置に送信する通信手段を備える通信装置10を、型枠2が形成する空間の特定の位置に設置する設置過程と、通信装置10が設置された空間に流動性のある材料を流し込む流込過程と、読取装置によって通信装置10が送信する測定結果に応じた情報を受信する受信過程と、この受信した情報が特定の条件を満たす場合に、流動性のある材料と通信装置10の筐体との接触を検出し、流動性のある材料が型枠2が形成する空間における通信装置10が設置された位置に充填されたと判定する判定過程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充填判定方法、充填判定システム及び通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建物等を建築する際、コンクリートなどの流動性をもつ材料を型枠内で隙間なく充填するために、広範囲にわたる空隙内の充填状況を確認する技術が知られている。特許文献1では、液状物質を注入する空隙内の複数の部所定位に、無線識別信号を送信する電子タグユニットを取り付け、空隙内への液状物質の注入時または後に、電子タグユニットからの信号の読み取りが停止したことをもって液状物質の充填を確認する技術が開示されている。しかしながら、通信の停止をもって充填を確認する上述の技術においては、電子タグユニットが不具合を起こした場合などに充填と判別されてしまう場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−299604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、型枠に流し込まれた流動する材料が型枠内の空間に充填されたことを、従来に比べて精度よく判定する充填判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、流動する材料を硬化させるときに用いる型枠によって形成される空間に当該材料が充填されたことを、通信装置を用いて判定する充填判定方法であって、前記通信装置の筐体と前記材料との接触を検出するための物理量を測定する測定手段、および無線通信により前記測定手段における測定結果に応じた情報を他の装置に送信する通信手段を具備する通信装置を、前記空間における特定の位置に設置する設置過程と、前記通信装置が設置された前記空間に前記材料を流し込む流込過程と、前記他の装置によって前記測定結果に応じた情報を受信する受信過程と、前記受信過程において受信した情報が特定の条件を満たす場合に、前記材料が前記空間に充填されたと判定する判定過程とを備えることを特徴とする充填判定方法を提供する。この充填判定方法によれば、型枠に流し込んだ流動する材料が、型枠内の空間に充填されたことを従来に比べて精度よく判定することができる。
【0006】
別の好ましい態様において、前記通信手段における無線通信は、電磁誘導を用いてもよい。この充填判定方法によれば、通信装置が、水分を含む流動性のある材料または金属の型枠に覆われても無線通信を行うことができる。
【0007】
別の好ましい態様において、前記筐体の表面を覆う部分の原料には、前記材料に配合される原料の少なくとも一部が含まれていてもよい。この充填判定方法によれば、通信装置が硬化した材料と一体化して硬度を保つことができる。
【0008】
別の好ましい態様において、前記筐体は、球状であってもよい。この充填判定方法によれば、通信装置は、流動する材料からの圧力を筐体全体に分散するため、圧力による筐体の変形およびこの変形による通信装置の不具合を防ぐための強度を高めることができる。
【0009】
別の好ましい態様において、前記測定手段は、前記筐体に接触する物質から受ける圧力、または前記筐体に接触する物質から伝達される温度を測定してもよい。この充填判定方法によれば、測定部の一部を物質と接触させるため筐体の表面に測定部の一部を露出して設ける通信装置に比べ、筐体の加工を容易に行うことができ、製造コストの上昇を抑えることができる。
【0010】
別の好ましい態様において、前記測定手段は、前記筐体の表面に露出して設けられ、接触する物質の物理量を測定する接触測定部を有し、前記接触測定部に接触する物質の物理量を測定してもよい。この充填判定方法によれば、接触測定部を有しない場合に比べて、通信装置は物理量をより正確に、より迅速に測定することができる。
【0011】
別の好ましい態様において、前記通信装置は、時刻を示す時刻情報を出力する時刻情報出力手段と、前記時刻情報出力手段によって出力された時刻情報、および前記測定手段によって測定された物理量に応じた情報を対応付けて記憶する記憶手段とをさらに具備し、前記通信手段が送信する情報は、前記記憶手段に対応付けられて記憶された前記時刻情報および前記情報を送信することを特徴とする。この充填判定方法によれば、物理量の時間変化に基づいて判定することができる。
【0012】
また、本発明は、流動する材料を硬化させるときに用いる型枠によって形成される空間に当該材料が充填されたことを判定する充填判定システムであって、前記空間における特定の位置に設置される通信装置と、当該空間外において用いられる判定装置とを具備し、前記通信装置は、前記通信装置の筐体と前記材料との接触を検出するための物理量を測定する測定手段と、無線通信により前記測定手段における測定結果に応じた情報を前記判定装置に送信する通信手段とを備え、前記判定装置は、前記通信手段によって送信された前記測定結果に応じた情報を受信する受信手段と、前記受信手段によって受信された情報が特定の条件を満たす場合に、前記材料が前記空間に充填されたと判定する判定手段とを備えることを特徴とする充填判定システムを提供する。この充填判定システムによれば、型枠に流し込んだ流動する材料が型枠内の空間に充填されたことを、従来に比べて精度よく判定することができる。
【0013】
また、本発明は、筐体と、前記筐体と流動する材料との接触を検出するための物理量を測定する測定手段と、無線通信により前記測定手段における測定結果に応じた情報を他の装置に送信する通信手段とを具備し、前記流動する材料を硬化させるときに用いる型枠によって形成される空間における特定の位置に設置されることを特徴とする通信装置を提供する。この通信装置によれば、型枠に流し込んだ流動する材料が型枠内の空間に充填されたことを、従来に比べて精度よく判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係るコンクリート打設に用いる型枠の概観図である。
【図2】型枠内空間6を説明する図である。
【図3】通信装置10と読取装置20が通信する様子を示す図である。
【図4】充填判定システム1のブロック図である。
【図5】通信装置10のブロック図である。
【図6】読取装置20のブロック図である。
【図7】本実施形態に係る充填判定方法のフローチャートである。
【図8】型枠2の内部を示す模式図である。
【図9】本実施形態における各部の温度変化の一例を示すグラフである。
【図10】通信装置10と読取装置20の動作を示すシーケンスチャートである。
【図11】変形例1に係る型枠2の断面を示す断面図である。
【図12】変形例2に係る通信装置10c、10dの概観図である。
【図13】変形例3に係る通信装置10e、10fを示す図である。
【図14】変形例3に係る通信装置10gを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態>
[構成]
図1は、本実施形態に係るコンクリートの打設に用いる型枠の概観図である。まず、図に示す型枠2は、鋼板や木材等で形成される型枠で、基礎4の上に設置されており、自身が形成する内部の空間(以下、型枠内空間6という)に流し込まれるコンクリートを予め決められた形状になるように誘導する。鉄筋3は、鉄などの金属からなる棒状の材料で、型枠内空間6に設置され、コンクリートが硬化して硬化コンクリートとなったあとの強度を補強する。基礎4は、コンクリートなどの材料で形成されており、柱や壁などの上部構造を支える。コンクリートは、セメントに砂利や水などの原料を配合して生産された流動する材料である。この流動する材料は、他にもモルタル、セメントなどが用いられ、これらの材料は、流し込まれた当初は流動性があるため型枠内空間6の隅々まで行き渡り、時間の経過とともに硬化して柱や壁などの建築物の一部を形成する。この例においては、コンクリートは、流動性のあるフレッシュコンクリートの状態で型枠内空間6に流し込まれ、水とセメントの水和反応により硬化して硬化コンクリートとなり、建築物の一部である柱を形成する。流し込まれたコンクリートは、硬化する前に、型枠内空間6の隅々まで充填されていることが望ましい。この充填が完了したことを判定するため、本実施形態においては、次に説明する通信機能を有する通信装置を、型枠内空間6に設置して用いる。
【0016】
図2は、型枠内空間6を説明する図である。同図(a)は、型枠2を上から見た平面図である。また、同図(b)は、同図(a)の切断線IIb−IIb´による断面図である。なお、この図および以降の図では水平方向の鉄筋を省略している。これらの図に示す各通信装置10−1、10−2、10−3(以下、それぞれを区別しないときは通信装置10という)は、型枠内空間6の特定の位置に設置されており、後述する構成と動作により、流し込まれたコンクリートが自装置に接触したかどうかを検出するための情報を送信する。この例では、各通信装置10−1、10−2、10−3はそれぞれ、基礎4の表面に固定されずに接して型枠2の側面同士が作る角の位置と、基礎4から離れて型枠2の側面に接する位置と、基礎4から離れて型枠2の側面同士が作る角の位置とに設置されている。なお、この通信装置10を設置する位置は、流し込まれたコンクリートの空隙が発生しやすい位置であればよく、また、通信装置10が、硬化したコンクリートの強度に与える影響を考慮したうえで数量を決めればよい。また、基礎4から離れた位置に設置する通信装置10は、鉄筋3に図示せぬ針金などで固定されている。そして、通信装置10が送信する情報は、型枠2の外側で操作される通信機能を有する読取装置により受信される。
【0017】
図3は、通信装置10と読取装置20が通信する様子を示す図である。通信装置10は、無線通信の機能を有する無線タグ110および筐体120を備え、型枠2の外部にある読取装置20と通信を行う。この無線通信は、電磁誘導方式による通信手段によって、周波数が131kHz程度の長波(LF:Low Frequency)を用いて行う。障害物の影響を受けにくい長波帯の周波数を用いるため、通信装置10と読取装置20は、木や金属を有する型枠2や水分を含むコンクリートなどを間に挟んだ状態でも、通信を行うことができる。また、この通信は双方向に行われ、概ね数mを有効な通信距離とする。
【0018】
筐体120は、コンクリートの原料であるセメントや砂利を有し、これらの原料が表面の部分を覆う球状に形成され、充填されるコンクリートの圧力や水分などから無線タグ110を保護するとともに、周囲に接触する物質から伝達される温度を内部に伝達するように形成されている。このように球状に形成することで、筐体120は、材料の圧力による変形や不具合を防ぐための強度を高めることができる。また、コンクリートが硬化した際、筐体120の表面は硬化したコンクリートと一体化して、コンクリートの硬度を保つことができる。なお、筐体120は、球状の他に、四面体、六方体、八方体またはたまご型など様々な形状であってもよい。
無線タグ110は、温度センサを有するセンサ部112(図5参照)を備え、筐体120に接する物質から伝達される温度を測定する。無線タグ110は、時刻を示す時刻情報を出力する時計部116(図5参照)を備え、この出力された時刻情報と測定された温度とを対応付ける。このように、無線タグ110は、この測定された温度および対応付けられた時刻情報が示す温度の履歴の情報(以下、温度履歴情報という)を生成する。そして、無線タグ110は、後述する動作によりこの温度履歴情報を示す信号を外部に送信する。通信装置10においては、このように筐体120がセンサ部へ温度を伝達するため、センサ部から外部への測定用の部位を露出させる必要がない。このため、筐体120の加工は、容易に行うことができ、製造コストの上昇が抑えられる。
【0019】
読取装置20は、通信機能を有し、通信装置10が送信した信号を受信し、この信号に示されている情報を読み取る。表示画面241は、液晶などの画面を有し、上述の読み取られた情報や、この情報に基づき読取装置20が生成する情報などを表示する。操作子251は、複数のボタンまたはタッチパネルなどを有し、読取装置20への入力機能を持つ。利用者は操作子251により読取装置20を操作する。また、読取装置20は、通信装置10に対して生成した情報を送信することを要求する信号を送信し、通信装置10は、この信号を受信すると、上述の送信動作を行う。このように、通信装置10と読取装置20は、互いに通信を行いながら、後述する動作によりコンクリートが通信装置10の周囲の空間に充填されたかどうかを判定するひとつのシステムとして機能する。このシステムを充填判定システム1という。
【0020】
図4は、充填判定システム1のブロック図である。読取装置20は、同図に示すように、複数の通信装置10と通信を行う。この通信は、上述のとおり有効な通信距離が概ね数mあるため、複数の通信装置10が通信可能な位置にある場合がある。これら複数の通信装置10による情報を区別するため、例えば、通信装置10同士を識別する識別番号をあらかじめ定め、この識別番号を加えた信号を用いて通信する。そして、各通信装置10はそれぞれ固有の識別番号の情報を保存しており、この識別番号が一致している要求信号を受信した場合に、読取装置20への送信を行う。また、読取装置20は、あらかじめ決められた期間送信がなければ、次の識別番号の通信装置10への要求信号を送信する。このようにして、読取装置20は、通信装置10から送信される信号が競合しないように制御する。このような複数の通信を制御する方法はどのような方法であってもよく、一般的なアンチコリジョン機能を用いた方法にすればよい。
【0021】
図5は、通信装置10のブロック図である。無線タグ110は、温度を検出するセンサ部112や、読取装置20と情報を通信する通信部114などの装置を有し、通信装置10の主要な機能を担う装置である。図に示すとおり、バス101により互いに接続される、制御部111、センサ部112、記憶部113、通信部114、電源部115、時計部116を有している。制御部111は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを有し、CPUは、ROMに記憶されたプログラムをRAMにロードして実行する。これにより、制御部111は、バス101を介して無線タグ110の各部の制御と、制御部111へ入力される情報の演算およびこの情報の記憶部113への格納などを行う。また、このROMには、通信装置10を他の装置と識別する識別番号が保存されており、特定の装置の動作を要求するこの識別番号が含まれた要求信号を受信した場合などに、この識別番号が参照される。時計部116は、時刻を示す時刻情報を生成する機能を有し、あらかじめ決められた間隔で制御部111へこの時刻情報を出力する時刻情報出力手段である。制御部111は、この時刻情報を用いて、日時などの時刻または時間に応じた制御をする。
【0022】
センサ部112は、温度を測定するセンサを有し、筐体120を介して伝達される通信装置10に接触する物質の温度を測定し、この温度情報を生成して制御部111へ出力する。記憶部113は、不揮発性メモリなどの記憶手段であって、センサ部112が測定する温度などの情報を保存する。
ここで、制御部111は、センサ部112による測定および出力の動作と、センサ部112から入力される温度情報を記憶部113へ格納する動作と、記憶部113による温度情報を蓄積する動作とを、あらかじめ決められた間隔で継続的に行うよう各部を制御する。これにより、記憶部113には、上述した温度履歴情報が蓄積される。通信部114は、無線通信の機能を有し、読取装置20との間で無線通信を行う。電源部115は、一次電池を有し、無線タグ110の各部に電力を供給する。このように、電源部115が電力を供給するため、通信装置10が通信をしていないときも各部が動作して温度履歴情報が蓄積される。
【0023】
図6は、読取装置20のブロック図である。制御部210は、CPU、ROM、RAMなどを有し、CPUは、ROMに記憶されたプログラムをRAMにロードして実行する。これにより、制御部210は、バス201を介して、読取装置20の各部について制御する。通信部220は、無線通信によって、通信装置10との間で情報のやり取りを行う通信手段である。通信により通信装置10から読み取られた情報は、制御部210へ出力され、制御部210は、この情報を記憶部230へ格納する。
【0024】
記憶部230は、不揮発性メモリなどの記憶手段であって、読み取られた情報を格納し、蓄積する。表示部240は、液晶画面などで形成される表示画面241を有し、読み取られた温度情報や、記憶部230へ格納された情報を表示する。操作部250は、複数のボタンまたはタッチパネルなどの入力機能を持つ操作子251を有し、利用者が読取装置20に対して選択、確認、取り消しなどの指示を行うための操作を行う操作手段であって、操作内容を示す情報を制御部210に出力する。インターフェース260は、USB(Universal Serial Bus)などの外部装置と接続する端子を有し、コンピュータなどの外部装置と情報のやり取りを行う際のインターフェースとなる。
続いて、本実施形態に係る動作について、図7から10を用いて説明する。
【0025】
[動作]
図7は、本実施形態に係る充填判定方法のフローチャートである。まず、施工の工程において、コンクリートを流入させる前の段階で、かつ鉄筋3の設置など通信装置10を設置する準備ができたところで、通信装置10を上述した特定の位置に設置する(ステップS100)。この例においては、これらの通信装置10は、図1に示した位置に設置されている。このとき、通信装置10の温度履歴情報を蓄積する動作を開始させる処理を行う。次に、流動性のあるフレッシュコンクリートの状態にあるコンクリートを、型枠2が形成する内部の空間に流し込む(ステップS200)。このコンクリートの流し込みが完了してから、コンクリートが硬化して硬化コンクリートとなるまでの間、充填判定処理を行い(ステップS300)、通信装置10の周囲の空間の充填が完了したかどうかを判定する。このとき、充填が完了していないと判定された通信装置10の周囲の空間は空隙と判定され、振動機などを用いて、この空隙を解消する作業が行われる。この充填の未完了、すなわち空隙の有無は次のように確認する。
【0026】
図8は、型枠2の内部を示す模式図である。同図に示すように、通信装置10−1の周囲の空間にはコンクリート5が充填し、通信装置10−2の周囲の空間には空隙が発生している。通信装置10−1においては、コンクリート5の流し込み前は周囲の空気の温度が測定され、流し込み後にコンクリート5が通信装置10−1に接触すると、コンクリート5の温度が測定される。このとき、通信装置10−1の測定する温度の履歴には、コンクリート5と周囲の空気との温度差を、短時間で変化する様子が検出される。一方、通信装置10−3においては、コンクリート5の流し込み後も、周囲の空気の温度が測定される。この場合、空気の熱容量があるため、コンクリート5と直接接触する場合と比べて、温度変化は緩やかにおこなわれ、かつコンクリート5と同じ温度にはならない場合もある。これらの温度変化の様子を、例を用いて説明する。
【0027】
図9は、本実施形態における各部の温度変化の一例を示すグラフである。このグラフの縦軸は温度Tempを示し、横軸は時刻tを示す。同図(a)は通信装置10−1が測定する温度MTI、コンクリート5の温度CT、および外気温ATの時間変化を示している。すなわち、この温度MTIは、通信装置10−1に蓄積される温度履歴情報をグラフに表わしたものである。このグラフに示す時刻t1は、コンクリート5の流し込みが開始された時刻である。一般に、流し込み後数時間から数日間経過するまでのコンクリートは、水とセメントの水和反応により発熱している状態のため、同図の温度CTに示されるように、外気温ATに比べて高い温度となる。このため、通信装置10−1が測定する温度MTIは、充填前は外気温ATに近く、時刻t1にコンクリート5の流し込みが始まると、コンクリート5により周囲の空気が暖められ徐々に上昇する。そして、通信装置10とコンクリート5が接触すると、通信装置10はコンクリート5の温度CTを測定するため、このグラフの時刻t2に示されるように、瞬間的に温度MTIが上昇する。
【0028】
一方、図9(b)は通信装置10−3が測定する温度MTIII、コンクリート5の温度CT、および外気温ATの時間変化を示している。すなわち、この温度MTIIIは、通信装置10−3に蓄積される温度履歴情報をグラフに表わしたものである。このグラフに示す時刻t1も、コンクリート5の流し込みが開始された時刻である。上述のとおり、通信装置10−3の周囲の空間が空隙である場合、空隙内を占める空気はコンクリート5の熱により暖められるが、空気の熱容量があるため、コンクリート5と接触した場合と比べて温度変化はゆるやかに行われる。加えて、この空隙は図8に示すように型枠2および基礎4と接しておりこれらの温度の影響も受けるため、通信装置10−3が測定する温度MTIIIは、コンクリート5の温度CTまでは達しない。
【0029】
このように、通信装置10が蓄積する温度履歴情報は、コンクリート5との接触の有無によって異なる変化を示す。上述した充填判定システム1は、この温度変化の違いから、この接触の有無を検出し、これによりコンクリート5の充填を判定する。例えば、充填判定システム1は、温度履歴情報の各時刻における温度の値と、1回前の時刻に測定された温度の値の差(以下、温度の変動量という)を算出し、この温度の変動量があらかじめ決められた値以上となる時刻を検出する。この検出された時刻の直前には、瞬間的な温度変化、すなわち通信装置10とコンクリート5との接触があったものとみなされる。このようにして、充填判定システム1は、温度履歴情報から通信装置10とコンクリート5の接触を検出する。この場合、コンクリート5の接触による温度の変化が、気温の変化による温度の変化と区別されるように、温度を測定する時間の間隔が決められているものとする。
【0030】
なお、この他にも、測定される温度の値があらかじめ決められた値以上となった場合を検出してもよい。または、各時刻における温度の変動量が、1回前の時刻における温度の変動量に対してあらかじめ決められた値以上異なる場合を検出してもよい。このように、温度履歴情報が、これら特定の条件を満たす場合に、充填判定システム1は、通信装置10とコンクリート5の接触を検出する。これらの条件は、コンクリート5の温度的な性質や、季節による気温の違いに応じて定めればよい。このようにして、通信装置10とコンクリート5との接触が検出され、上述した充填判定処理(ステップS300)においては、全ての通信装置10においてコンクリート5との接触が検出されたら、型枠内空間6へのコンクリート5の充填が完了したと判定する。次に、この充填判定処理において、通信装置10と読取装置20との具体的な動作を次に説明する。
【0031】
図10は、通信装置10と読取装置20の動作を示すシーケンスチャートである。読取装置20は、利用者の操作もしくは他の装置からの動作を指示する信号により、通信装置10−1に対して、温度履歴情報の送信を要求する信号を送信する(ステップS310)。通信装置10−1は、この送信を要求する信号を受信すると、蓄積した温度履歴情報から読取装置20へ送信する情報を生成し(ステップS320)、この生成した情報を送信する(ステップS330)。読取装置20は、この温度履歴情報を受信して、記憶部230へ格納する(ステップS340)。読取装置20は、この一連の動作を、各通信装置10−1、10−2、10−3に対して順次行う。なお、作業者が温度履歴情報の送信を要求するときは、要求する時刻の範囲を指定してもよい。その場合には、通信装置10−1は、指定された時刻の範囲の温度履歴情報を送信情報として生成してもよい。
【0032】
読取装置20は、このようにして読み取った各通信装置10の温度履歴情報において、あらかじめ決められた値以上である温度の変動量を検出すると、この温度の変動量を含む温度履歴情報を送信した通信装置10とコンクリート5との接触を検出する。この接触を検出する動作を各通信装置10ごとに行い(ステップS350)、全ての通信装置10からこの接触が検出されると、空隙ASへのコンクリート5の充填が完了したと判定する(ステップS360)。そして、充填が完了したと判定すると、充填完了の判定結果を示す表示情報を生成して表示画面241に表示する(ステップS370)。また、充填が完了していないと判定すると、充填が未完了であるとの判定結果を示す表示情報を生成して表示画面241に表示する(ステップS380)。
【0033】
ここで、読取装置20は、例えば建設物の設計または測量によりあらかじめ得ている各通信装置が設置されている位置の座標情報を、各通信装置の識別番号と対応させて保持している。なお、この識別番号は、記号により通信装置10が設置される位置を示すものであってもよい。そして、上述した充填が未完了であるとの判定結果の表示情報を生成する際、この座標情報および識別番号に基づき、まだ接触が検知されていない通信装置10の位置の情報を合わせて表示する。なお、通信装置10は電源部115が供給する電力により常に動き続けているため、例えば温度が変化しなくなるなどの温度履歴情報の異常が検出された場合は、この温度履歴情報を生成した通信装置10に不具合が発生したことを合わせて表示してもよい。このように、読取装置20は、空隙ASへのコンクリート5の充填が完了したことを判定する装置として機能する。このように、読取装置20は、型枠内空間6へのコンクリート5の充填が完了したかどうかを判定する装置として機能する。
【0034】
さらに、この接触検出処理以降の動作は、読取装置20と接続するコンピュータなどの外部の装置で行ってもよい。この場合、作業者はこの外部の装置に接続される表示装置上の画面で、充填判定処理の結果を確認する。また、読取装置20は、読み取った温度履歴情報をそのまま又はグラフなどに加工して表示画面241へ表示し、この内容に基づき作業者が充填を判定してもよい。他にも、接触検出処理を通信装置10で行ってもよい。この場合、読取装置20へ送信する情報は、接触検出の結果を示す判定情報となる。
【0035】
このように、充填判定システム1を用いて本実施形態に係る充填判定方法を使用すると、型枠内空間6に設置された通信装置10が継続的に周囲の温度を測定し、この測定された温度の情報が蓄積されて、この蓄積された情報に基づく温度履歴情報が生成される。続いて、読取装置20が、通信装置10と水や金属の影響を受けにくい方式による無線通信を行いこの温度履歴情報を読み取り、この温度履歴情報より、通信装置10とコンクリート5との接触を検出する。そして、充填判定システム1は、全ての通信装置10においてこの接触を検出すると、型枠内空間6へのコンクリート5の充填が完了したと判定する。このように、充填判定システム1では、無線通信に長波の信号を用いることで、コンクリート5に覆われた状態においても通信を行うことができる。また、一次電池を有する通信装置10を継続して動作させることで、蓄積される温度履歴情報の内容から通信装置10の動作の不具合による情報と正常な動作による情報とを見分けて、誤った判定の材料とすることを避けることができる。このため、この充填判定方法によれば、空隙に流し込まれる流動する材料が、型枠内空間6に充填されたことを、従来に比べて精度よく判定することができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以下のように、さまざまな形態で実施可能である。
<変形例1>
上述した実施形態においては、通信装置10は無線タグ110をセメントや砂利などの原料を有する筐体120で覆ったものを用いたが、一般的なプラスチックなどの筐体120pで覆われた無線タグ110を用いてもよい。この場合、筐体120pは、コンクリート5による水分や圧力から内部の装置を保護する性能を持ったものを用いる。
【0037】
図11は、変形例1に係る型枠2の断面を示す断面図である。通信装置10pは、基礎4の表面上に直接設置したり、鉄筋3へ針金などにより固定する。通信装置10pは、通信装置10と同様の動作により温度情報を検出し、読取装置20はこの温度情報を読み取り、通信装置10pの位置へコンクリート5が充填されたかを判定する。
【0038】
<変形例2>
上述した実施形態においては、通信装置10の筐体120とコンクリート5の接触を検知するため、通信装置10が備えるセンサ部112は温度を測定したが、他に通信装置10の筐体120が接する物質から受ける圧力、またはこの物質のpH(potential Hydrogen)、もしくは水分率などの物理量を測定してもよい。いずれの場合も、筐体120が空気に接している場合と、コンクリート5に接している場合とで、測定される物理量の値が異なるため、例えば、読取装置20が通信装置10から読み取ったこれらの物理量の変化の量を示す値が、あらかじめ決められた値以上である場合に充填がされたものと判定する。なお、圧力を測定する場合は、筐体120は、自身が接触する物質から受ける圧力を内部に伝達するように形成されている。また、pHおよび水分率を測定する場合は、センサ部112の一部が筐体120に接する物質に直接接触することが必要となる。
【0039】
図12は、変形例2に係る通信装置10c、10dの概観図である。同図(a)に示す無線タグ110cは、接触する物質の物理量を検出する接触測定部121cを有し、この接触測定部121cと配線で接続されている。筐体120cは、この接触測定部121cを筐体120cの表面に露出させるための領域を有し、接触測定部121cがこの領域にはめ込まれて外部の物質と接触するように形成されている。このように、通信装置10cは、接触測定部121cが筐体120cの表面に露出するように備えられ、接触測定部121cに接触する空気やコンクリート5などの物質のpHまたは水分率を測定する。通信装置10cはこれらpHまたは水分率を測定することにより、通信装置10cの位置にコンクリート5が充填されたかどうかを判定する。これにより、充填するコンクリートの特性などに応じて測定する物理量の選択肢を増やすことができ、また、接触測定部を有しない場合に比べて、物理量をより正確に、より迅速に測定することができる。
【0040】
また、図12(b)に示す通信装置10dのように、接触測定部121dを複数形成してもよい。例えば、筐体120dは、上下左右前後の方向を向いた6箇所の接触測定部121dを表面に露出させるための領域を有し、これらの領域に接触測定部121dをはめ込んで筐体120dを形成する。これらの接触測定部121dは、あらかじめ決められた間隔でそれぞれ接触する物質の物理量を測定し、この測定された物理量が測定された時刻の情報とともに記憶部113へ蓄積される。この接触測定部121dごとに測定された物理量と時刻の情報を比較すると、例えば通信装置10の一部がコンクリート5に接して、残りの一部はまだ空隙に接しているような状態を判定することができる。
また、測定する物理量が温度である場合、例えば、読取装置20は、各接触測定部121dで測定された温度情報に基づいて、通信装置10の周囲におけるコンクリート5の温度勾配を示す情報を生成し、これを他の位置に設置される通信装置10においても生成することで、コンクリート5の内部全体の温度勾配を示す情報が生成される。この温度勾配の情報を利用することで、コンクリート5の内部の温度を均一にするための対応作業を、効果的に行うことができるようになる。
【0041】
<変形例3>
上述した実施形態においては、通信装置10は、鉄筋3に針金などにより固定したが、鉄筋3に固定する方法をあらかじめ備えた通信装置10であってもよい。例えば、筐体120から伸びる開閉する脚部を備え、この脚部は設置の際変形して鉄筋3を挟んで通信装置10を保持する。他にも、通信装置10を鉄筋3へ固定しやすいように、筐体120から伸びる固定時に使用する棒を備えさせてもよい。また、鉄筋3から離れた位置に設置するため、鉄筋3に固定する棒に通信装置10を支える棒をねじなどで固定する部位を備えさせてもよい。
【0042】
図13は、変形例3に係る通信装置10e、10fを示す図である。同図(a)に示す通信装置10eは、ゴムまたはバネの作用で開閉する脚部121eを備え、この脚部121eにより鉄筋3へ固定される。同図(c)に、通信装置10eが鉄筋3に固定される様子を示す。また、同図(b)に示す通信装置10fは、筐体120fに固定される棒状の部位121fを有し、この部位121fに針金122fを巻きつけることで、鉄筋3に固定される。同図(c)に、通信装置10fが鉄筋3に固定される様子を示す。これらの通信装置10e、10fは、通信装置10に比べて、鉄筋3に強固に固定されるため、コンクリート5が接触して位置がずれることを防ぐことができる。
【0043】
図14は、変形例3に係る通信装置10gを示す図である。通信装置10gは、筐体120gに固定される部位121gと、部位121gをねじ123gで固定する部位122gとを有し、針金124gを部位122gに巻きつけることで、鉄筋3に固定される。この部位121gは、ねじ123gにより部位122gに対する固定位置が調整される。これにより、通信装置10gの筐体120gを、鉄筋3の配置に関わらず空隙の発生しやすい型枠内空間6の端部へ固定することができる。
【0044】
<変形例4>
本実施形態においては、電磁誘導方式による通信手段を用いたが、通信装置10を型枠2に接っするように設置する場合は、電波方式による通信手段を用いてもよい。この場合は、通信装置10がコンクリート5に全方向覆われることがなく、型枠2の方向より読取装置20との通信が行われる。これにより、電磁誘導方式を用いる場合に比べて、読取装置20との通信有効距離を長くすることができる。
【符号の説明】
【0045】
1…充填判定システム、2…型枠、3…鉄筋、4…基礎、5…コンクリート、10,10−1,10−2,10−3,10d,10e,10f,10g,10p…通信装置、20…読取装置、110,110c,110d…無線タグ、120,120c,120d,120e,120f,120g,120p…筐体、121c,121d…接触測定部、121e…脚部、121f,121g,122g…部位、122c,122d…配線、122f,124g…針金、123g…ねじ、241…表示画面、251…操作子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動する材料を硬化させるときに用いる型枠によって形成される空間に当該材料が充填されたことを、通信装置を用いて判定する充填判定方法であって、
前記通信装置の筐体と前記材料との接触を検出するための物理量を測定する測定手段、および無線通信により前記測定手段における測定結果に応じた情報を他の装置に送信する通信手段を具備する通信装置を、前記空間における特定の位置に設置する設置過程と、
前記通信装置が設置された前記空間に前記材料を流し込む流込過程と、
前記他の装置によって前記測定結果に応じた情報を受信する受信過程と、
前記受信過程において受信した情報が特定の条件を満たす場合に、前記材料が前記空間に充填されたと判定する判定過程と
を備えることを特徴とする充填判定方法。
【請求項2】
前記通信手段における無線通信は、電磁誘導を用いる
ことを特徴とする請求項1に記載の充填判定方法。
【請求項3】
前記筐体の表面を覆う部分の原料には、前記材料に配合される原料の少なくとも一部が含まれている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の充填判定方法。
【請求項4】
前記筐体は、球状である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の充填判定方法。
【請求項5】
前記測定手段は、前記筐体に接触する物質から受ける圧力、または前記筐体に接触する物質から伝達される温度を測定する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の充填判定方法。
【請求項6】
前記測定手段は、前記筐体の表面に露出して設けられ、接触する物質の物理量を測定する接触測定部を有し、前記接触測定部に接触する物質の物理量を測定する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の充填判定方法。
【請求項7】
前記通信装置は、
時刻を示す時刻情報を出力する時刻情報出力手段と、
前記時刻情報出力手段によって出力された時刻情報、および前記測定手段によって測定された物理量に応じた情報を対応付けて記憶する記憶手段と
をさらに具備し、
前記通信手段が送信する情報は、前記記憶手段に対応付けられて記憶された前記時刻情報および前記情報を送信する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の充填判定方法。
【請求項8】
流動する材料を硬化させるときに用いる型枠によって形成される空間に当該材料が充填されたことを判定する充填判定システムであって、
前記空間における特定の位置に設置される通信装置と、
当該空間外において用いられる判定装置と
を具備し、
前記通信装置は、
前記通信装置の筐体と前記材料との接触を検出するための物理量を測定する測定手段と、
無線通信により前記測定手段における測定結果に応じた情報を前記判定装置に送信する通信手段と
を備え、
前記判定装置は、
前記通信手段によって送信された前記測定結果に応じた情報を受信する受信手段と、
前記受信手段によって受信された情報が特定の条件を満たす場合に、前記材料が前記空間に充填されたと判定する判定手段と
を備える
ことを特徴とする充填判定システム。
【請求項9】
筐体と、
前記筐体と流動する材料との接触を検出するための物理量を測定する測定手段と、
無線通信により前記測定手段における測定結果に応じた情報を他の装置に送信する通信手段と
を具備し、
前記流動する材料を硬化させるときに用いる型枠によって形成される空間における特定の位置に設置される
ことを特徴とする通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−58198(P2011−58198A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206895(P2009−206895)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】