説明

充電率推定方法、充電率推定装置及び二次電池電源システム

【課題】二次電池の開回路電圧の時間変化を高精度で近似できる電圧特性式の調整パラメータの初期値を好適に設定することにより、調整パラメータの収束値を短時間でかつ安定的に決定して充電率を推定することができる充電率推定方法、充電率推定装置及び二次電池電源システムを提供する。
【解決手段】ステップS14で、選択電圧測定値V1、VMbi((i=1〜(n−1))、及びVMmを用いて、調整パラメータA(i=1〜n)の初期値A0(i=1〜n)を算出する。また、ステップS15で、整数列bi(i=1〜(n−1))と実数Cを用いて、調整パラメータB(i=1〜n)の初期値B0(i=1〜n)を算出する。さらに、ステップS16で、調整パラメータVcの初期値V0cを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷に電力を供給する二次電池の充電率を推定する充電率推定方法及び充電率推定装置の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車等に搭載される鉛蓄電池等の二次電池については、残存する充電率を正確に知ることが要請されている。二次電池においては、一般に、充電率と安定時の開回路電圧(OCV;Open Circuit Voltage)との間に相関があるため、開回路電圧を求めることにより充電率を推定することができる。しかし、二次電池の開回路電圧は充電又は放電を行っていない状態で行う必要がある上に、充電又は放電の終了後に開回路電圧が安定するまでには長い時間を要している。そこで、開回路電圧の時間特性を近似する関数(電圧特性式)を用いて、開回路電圧の収束値を求める方法が種々提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
上記の従来の方法では、いずれも開回路電圧の電圧特性式が調整パラメータを有しており、この調整パラメータを短期間だけ測定した開回路電圧の測定値を用いて決定している。そして、決定された調整パラメータを適用した電圧特性式を用いて、開回路電圧の収束値を求めている。
【0004】
上記従来の方法で二次電池の開回路電圧の収束値を求める場合、その精度は電圧特性式の精度に依存する。一般には、電圧特性式に多項式関数や対数関数などが用いられるが、これらの関数は二次電池の開回路電圧の時間特性を高精度で近似するのが困難なため、開回路電圧の収束値の誤差が大きくなってしまう。
【0005】
これに対し特許文献4では、二次電池の開回路電圧の近似計算に4次以上の指数減衰関数を用いており、これにより開回路電圧を高い精度で近似できるようにし、充電率を高精度に推定できるようにしている。二次電池の開回路電圧の近似計算に、4次以上の指数減衰関数のような複雑な非線形関数を用いる場合には、電圧測定値を用いて調整パラメータを最適化する際、最小二乗法の最適解をガウス-ニュートン法やレーベンベルグ-マルカート法のような逐次演算を解くか、カルマン-フィルタ演算のようなフィルタリング演算を行なう必要がある。
【0006】
調整パラメータを最適化する上記の何れの方法を用いた場合でも、調整パラメータの初期値を設定する必要があり、その初期値によっては、計算が発散して調整パラメータの収束値が得られない可能性や、得られたとしても非常に長い時間がかかってしまうといった問題があった。特許文献4では、調整パラメータの収束値を短時間でかつ安定的に決定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−98367号公報
【特許文献2】特開2002−234408号公報
【特許文献3】特開2003−75518号公報
【特許文献4】特開2008−96328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の二次電池の充電率推定方法では、以下のような問題があった。特許文献4の方法では、データ取得期間の初期の電圧測定値と終了直前の電圧測定値のみを用いて調整パラメータの初期値を一意的に決定している。そのため、初期値として適切でない値が設定されてしまう場合があり、その場合には調整パラメータの最適計算が収束しないことがあった。すなわち、二次電池の充放電停止後の開回路電圧の変化が、あらかじめ想定した電圧プロファイル(徐々に低下または上昇)の範囲であれば調整パラメータの最適化が可能であるが、実車両での充放電履歴は様々なため、想定範囲外の電圧プロファイルを示すことがある。一例として、図9に示すように、電圧測定期間の途中で電圧測定値の変化が反転するような場合がある。特許文献4の方法では、このような電圧プロファイルの場合でも、データ取得期間の初期の電圧測定値と終了直前の電圧測定値とから調整パラメータの初期値を決定しているため、調整パラメータの最適化が収束しないことがあった。
【0009】
そこで、本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、二次電池の開回路電圧の時間変化を高精度で近似できる電圧特性式の調整パラメータの初期値を好適に設定することにより、調整パラメータの収束値を短時間でかつ安定的に決定して充電率を推定することができる充電率推定方法、充電率推定装置及び二次電池電源システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の充電率推定方法の第1の態様は、充放電終了後の二次電池の開回路電圧(OCV;Open Circuit Voltage)の時間変化を、調整パラメータを有する電圧特性式で近似し、前記電圧特性式から前記二次電池の安定時の開回路電圧を算出して前記二次電池の充電率を推定する充電率推定方法であって、前記二次電池の充放電終了後の所定のデータ取得期間中に所定の周期で前記二次電池の開回路電圧の測定値(以下、電圧測定値とする)をm個(mは自然数)取得し、前記m個の電圧測定値から所定の選択タイミングにおける電圧測定値を選択して選択電圧測定値とし、前記選択電圧測定値及び前記選択タイミングに基づいて前記調整パラメータの初期値を算出し、前記電圧特性式で算出した開回路電圧と前記m個の電圧測定値との誤差が最小となるように前記調整パラメータを前記初期値から漸次修正しながらその収束値を算出し、前記調整パラメータの収束値を前記電圧特性式に用いて前記安定時の開回路電圧を算出し、前記安定時の開回路電圧から前記二次電池の充電率を推定することを特徴とする。
【0011】
この発明の充電率推定方法の他の態様は、前記調整パラメータを{A}(i=1〜n)、{B}(i=1〜n)、及びVcとし、nを4以上の整数、tを充放電終了からの経過時間とするとき、前記電圧特定式は、
V(t)=A・exp(B・t))+A・exp(B・t)+・・・
+A・exp(B・t)+Vc
で与えられ、{b}(i=1〜(n−1))を1<b<b<・・・<bn−1を満たし、前記選択タイミングに対応するように事前に設定された整数列とするとき、前記調整パラメータ{A}(i=1〜n)、{B}(i=1〜n)、及びVcのそれぞれの前記初期値{A0}(i=1〜n)、{B0}(i=1〜n)、及びV0cが、前記整数列{b}(i=1〜(n−1))から決定される前記選択タイミングにおける前記選択電圧測定値を用いて算出されることを特徴とする。
【0012】
この発明の充電率推定方法の他の態様は、前記整数列{b}(i=1〜(n−1))は、
(b−1)<(b―b)<・・・<(bn−1−bn−2)<(m−bn−1)を満たすことを特徴とする。
【0013】
この発明の充電率推定方法の他の態様は、前記電圧測定値を{VM}(j=1〜m)、前記電圧測定値の取得周期をΔt、Cを事前に設定された実数とするとき、前記選択電圧測定値として、前記データ取得期間の最初に取得される電圧測定値VM、前記整数列{b}(i=1〜(n−1))を前記選択タイミングとする電圧測定値{VM}(k=b;i=1〜(n−1))、及びデータ取得期間の最後に取得される選択電圧測定値VMを選択し、前記初期値{A0}(i=1〜n)、{B0}(i=1〜n)、及びV0cを、
A0=VM−VM (k=b
A0=VMkk−VM (kk=bi−1、k=b;i=2〜(n−1))
A0=VM−VM (k=bn−1
B0=−1/((b−1)×Δt×C) (i=1〜(n−1))
B0=−1/((m−1)×Δt×C)
V0c=VM
で算出することを特徴とする。
【0014】
この発明の充電率推定方法の他の態様は、前記電圧測定値{VM}(j=1〜m)が前記データ取得期間中に最大または最小となるピーク値VMjpを有するとき、前記整数列{b}(i=1〜(n−1))から前記ピーク値の時点jpに最も近い選択タイミングbを求め、前記選択タイミングbを前記ピーク値の時点jpに置き換えて前記整数列{b}(i=1〜(n−1))を変更し、前記変更された整数列{b}(i=1〜(n−1))を用いて前記初期値{A0}(i=1〜n)及び{B0}(i=1〜n)を算出することを特徴とする。
【0015】
この発明の充電率推定方法の他の態様は、前記電圧測定値を{VM}(j=1〜m)、前記電圧測定値の取得周期をΔt、Cを事前に設定された実数とし、前記電圧測定値{VM}(j=1〜m)が前記データ取得期間中に最大または最小となるピーク値VMjp(j=jp)を有するとき、前記選択電圧測定値として、前記ピーク値の電圧測定値VMjp、前記整数列{b}(i=1〜(n−1))を(jp−1)だけ変更した整数列{bb}={b+jp−1}(i=1〜(n−1))を前記選択タイミングとする電圧測定値{VM}(k=bb;i=1〜(n−1))、及びデータ取得期間の最後に取得される選択電圧測定値VMを選択し、前記初期値{A0}(i=1〜n)、{B0}(i=1〜n)、及びV0cを、
A0=VMjp−VM (k=bb
A0=VMkk−VM (kk=bbi−1、k=bb;i=2〜(n−1))
A0=VM−VM (k=bbn−1
B0=−1/((bb−1)×Δt×C) (i=1〜(n−1))
B0=−1/((m−1)×Δt×C)
V0c=VM
で算出することを特徴とする。
【0016】
この発明の充電率推定方法の他の態様は、前記電圧測定値を{VM}(j=1〜m)、前記電圧測定値の取得周期をΔt、Cを事前に設定された実数とし、前記電圧測定値{VM}(j=1〜m)が前記データ取得期間中に最大または最小となるピーク値VMjp(j=jp)を有するとき、前記選択電圧測定値として、前記ピーク値の電圧測定値VMjp、前記整数列{b}(i=1〜(n−1))を整数列の間隔比率をほぼ保つように、jpからmの間に移動した整数列
{bc}={[(b−1)×(m−jp)/(m−1)+jp]の整数部}
(i=1〜(n−1))を前記選択タイミングとする電圧測定値{VM}(k=bc;i=1〜(n−1))、及びデータ取得期間の最後に取得される選択電圧測定値VMを選択し、前記初期値{A0}(i=1〜n)、{B0}(i=1〜n)、及びV0cを、
A0=VMjp−VM (k=bc
A0=VMkk−VM (kk=bci−1、k=bc;i=2〜(n−1))
A0=VM−VM (k=bcn−1
B0=−1/((bc−1)×Δt×C) (i=1〜(n−1))
B0=−1/((m−1)×Δt×C)
V0c=VM
で算出することを特徴とする。
【0017】
この発明の充電率推定方法の他の態様は、前記二次電池安定時の前記開回路電圧は、前記調整パラメータに前記収束値を用いた前記電圧特定式に予め定めた所定時間を代入して算出することを特徴とする。
【0018】
この発明の充電率推定装置の第1の態様は、二次電池の充電率を推定する充電率推定装置であって、前記二次電池の電圧を測定する電圧センサと、調整パラメータを有する電圧特性式を用いて前記充電率を推定するための演算を実行制御する制御部と、前記電圧センサで測定された電圧測定値と、前記制御部による前記演算に用いられるデータとを記憶する記憶部と、を備え、前記制御部は、前記二次電池の充放電終了後の所定のデータ取得期間中に所定の周期で前記二次電池の開回路電圧の測定値(以下、電圧測定値とする)をm個(mは自然数)取得し、前記m個の電圧測定値から所定の選択タイミングにおける電圧測定値を選択して選択電圧測定値とし、前記選択電圧測定値及び前記選択タイミングに基づいて前記調整パラメータの初期値を算出し、前記電圧特性式で算出した開回路電圧と前記m個の電圧測定値との誤差が最小となるように前記調整パラメータを前記初期値から漸次修正しながらその収束値を算出し、前記調整パラメータの収束値を前記電圧特性式に用いて前記安定時の開回路電圧を算出し、前記安定時の開回路電圧から前記二次電池の充電率を推定することを特徴とする。
【0019】
この発明の充電率推定装置の他の態様は、前記制御部は、前記調整パラメータを{A}(i=1〜n)、{B}(i=1〜n)、及びVcとし、nを4以上の整数、tを充放電終了からの経過時間とするとき、前記電圧特定式として、
V(t)=A・exp(B・t))+A・exp(B・t)+・・・
+A・exp(B・t)+Vc
を用い、{b}(i=1〜(n−1))を1<b<b<・・・<bn−1を満たし、前記選択タイミングに対応するように事前に設定された整数列とするとき、前記調整パラメータ{A}(i=1〜n)、{B}(i=1〜n)、及びVcのそれぞれの前記初期値{A0}(i=1〜n)、{B0}(i=1〜n)、及びV0cを、前記整数列{b}(i=1〜(n−1))から決定される前記選択タイミングにおける前記選択電圧測定値を用いて算出することを特徴とする。
【0020】
この発明の二次電池電源システムの第1の態様は、二次電池と、前記二次電池を充電する充電回路と、前記二次電池の充電率を推定する請求項9又は請求項10に記載の充電率推定装置と、を備えることを特徴する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、二次電池の開回路電圧の時間変化を高精度で近似できる電圧特性式の調整パラメータの初期値を好適に設定することにより、調整パラメータの収束値を短時間でかつ安定的に決定して充電率を推定することができる充電率推定方法、充電率推定装置及び二次電池電源システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態の充電率推定方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】本発明の1実施形態に係る充電率推定装置及び二次電池電源システムの概略構成を示すブロック図である。
【図3】充放電停止後の二次電池の開回路電圧の一例を示すグラフである。
【図4】調整パラメータの初期値を決定する方法を説明するための二次電池の開回路電圧の変化を示す模式図である。
【図5】本発明の第2実施形態の充電率推定方法による調整パラメータの初期値の算出方法を説明するための説明図である。
【図6】本発明の第2実施形態の充電率推定方法を説明するためのフローチャートである。
【図7】本発明の第3実施形態の充電率推定方法による調整パラメータの初期値の算出方法を説明するための説明図である。
【図8】本発明の第3実施形態の充電率推定方法を説明するためのフローチャートである。
【図9】電圧測定期間の途中で電圧測定値が反転する一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図面を参照して本発明の好ましい実施の形態における充電率推定方法、充電率推定装置及び二次電池電源システムの構成について詳細に説明する。なお、同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。以下では、自動車等の車両に搭載される二次電池に対して本発明を適用する場合を説明するが、これに限定されるものではない。
【0024】
本発明の実施の形態に係る充電率推定装置及び二次電池電源システムを、図2を用いて説明する。図2は、本実施形態に係る充電率推定装置101及び二次電池電源システム100の概略構成を示すブロック図である。二次電池電源システム100は、二次電池110と、二次電池110の充電率を推定するための充電率推定装置101で構成することができる。
【0025】
充電率推定装置101は、二次電池110の電圧を測定する電圧センサ120と、電圧センサ120から電圧測定値を入力して二次電池110の充電率を推定する制御部130と、制御部130で行われる演算に用いられるデータ等を記憶する記憶部140とを備えている。電圧センサ120は、充放電終了後に所定の周期で二次電池110の開回路電圧を測定するのに用いる。制御部130は、充放電終了後の所定のデータ取得期間中、電圧センサ120から所定の周期で開回路電圧を取得して記憶部140に保存させる。
【0026】
二次電池電源システム100では、制御部130で推定された充電率に基づいて、制御部130がさらに二次電池110の充電を制御するように構成することも可能である。図2では、二次電池電源システム100がさらに充電回路150を備え、制御部130が推定した充電率を基に充電回路150を制御して二次電池110の充電を行わせるように構成した一例を示している。
【0027】
上記のように構成された二次電池電源システム100には、モータ等の負荷10が接続され、二次電池110から負荷10に電力が供給される構成となっている。自動車等の車両の場合には、二次電池110として例えば鉛蓄電池が用いられる。
【0028】
制御部130は、演算処理を行うCPU等で構成されており、所定のタイミングで後述の充電率推定のための演算処理を実行する。制御部130に接続された記憶部140は、制御プログラム等の各種プログラムを事前に記憶させておくためのROMや、制御部130の処理に用いられる各種データを記憶させるためのRAM等を備えている。
【0029】
次に、本発明の第1の実施の形態に係る充電率推定方法を以下に説明する。本実施形態の充電率推定方法は、充電率推定装置101の制御部130において、二次電池110の充電率を推定するのに用いられる。一般に、二次電池の充電率は、二次電池が安定しているときの開回路電圧と強い相関関係があることから、安定時の開回路電圧(以下では、安定開回路電圧とする)が求まると、これから二次電池の充電率を推定することが可能となる。
【0030】
しかし、車両に搭載される二次電池のように、充放電が頻繁に繰り返されていると、充電終了後に開回路電圧が安定していることは少ない。充放電が行われると二次電池の内部で分極が発生し、これが充放電終了後に徐々に解消されていく。この分極が解消されて二次電池が安定するまでに、通常十数時間から数日という極めて長い時間を要する。そのため、二次電池が十分に安定する前に再び充放電が開始されることが多く、二次電池の安定開回路電圧を測定するのが極めて困難であった。
【0031】
充放電停止後の二次電池110の開回路電圧の時間変化の一例を図3に示す。同図では、横軸が充放電終了からの経過時間tを示し、縦軸が二次電池110の開回路電圧を示している。同図において、符号11で示す開回路電圧は、充放電終了後単調に低下しているが、30分経過しても安定開回路電圧に達していない。そのため、安定開回路電圧を測定するためには、さらに長時間充放電を停止させて開回路電圧が安定するのを待つ必要がある。
【0032】
また、符号12〜15で示す開回路電圧は、充放電終了後一時的に上昇し、ピーク値に達した後徐々に低下していく傾向を有しており、やはり30分経過しても安定開回路電圧には達していない。充放電停止後の開回路電圧の変化は、図3に示すようにさまざまであり、それまでの充放電の状態によって異なってくる。特に、充放電終了前に二次電池から大きな放電があると、図3に示す開回路電圧変化を表す符号12〜15のように、充放電終了直後に開回路電圧が一時的に上昇する、といった傾向が生じる。この場合、充放電の状態によって開回路電圧のピーク時点が異なってくる。
【0033】
そこで、本実施形態の充電率推定方法では、制御部130において、充放電終了後の二次電池110の開回路電圧の時間的な変化を高い精度で近似できる電圧特性式を用いている。この電圧特性式を、充放電終了後の所定のデータ取得期間に取得した電圧測定値を用いて最適近似させることで、二次電池110が安定するのを待つことなく、安定開回路電圧を高精度に推定できるようにしている。データ取得期間の一例を、図3に符号20で示す。データ取得期間TDは、充放電終了から開回路電圧が安定するまでに要する時間に比べて十分短い時間であり、例えば30分程度とすることができる。以下では、データ取得期間TD中に電圧センサ120から取得する電圧測定値をVM(j=1〜m、mは自然数)で表すものとする。
【0034】
充放電終了後の一定期間(データ取得期間TD)の電圧測定値VMjを用いて二次電池110が安定したときの安定開回路電圧を高精度で推定できるようにするために、電圧特性式として4次以上の指数減衰関数を含む下記の近似式を用いるのがよい。なお、所定の精度で推定できれば良い場合などは、電圧特性式として2次、3次の指数減衰関数を用いることでも可能である。
V(t)=A・exp(B・t))+A・exp(B・t)+・・・
+A・exp(B・t)+Vc (1)
ここで、nは式(1)の指数減衰関数の次数を表す4以上の整数であり、tは充放電終了からの経過時間、{A}(i=1〜n)、{B}(i=1〜n)、及びVcは調整パラメータ(フィッティングパラメータ)である。
なお、自動車などの車両では、休止状態となっても放電が完全に停止することは基本的に無く、極小さな電流、すなわち暗電流が流れた状態が継続する。したがって、厳密な意味での開回路電圧は測定することはできず、暗電流が流れた状態の電圧を開回路電圧とみなすこととなる。
【0035】
充放電終了後の開回路電圧は、図3に示すようにさまざまな変化を示すことから、4次以上の指数減衰関数を有する電圧特性式(1)が二次電池110の開回路電圧の変化を高精度に近似できるようにするために、充放電終了後の所定のデータ取得期間に取得した二次電池110の開回路電圧の測定値を用いて、式(1)の調整パラメータを最適に調整する。
【0036】
しかしながら、充放電終了後の開回路電圧の変化は、それまでの充放電状態によって異なり、特に開回路電圧が単調な変化を示すときと、ピークを有する変化を示すときがある。そのため、調整パラメータのフィッティング計算が発散してしまったり、収束するまでに長時間かかることがある。変化傾向の異なる電圧測定値を用いて、式(1)の電圧特性式を短時間にかつ高精度にフィッティングさせるためには、式(1)に用いられている調整パラメータの初期値を適切に選択して用いることが重要となる。
【0037】
本実施形態の充電率推定方法では、調整パラメータの初期値を好適に決定するために、電圧測定値{VM}(j=1〜m)の中から適切な測定タイミングの電圧測定値(以下では、選択電圧測定値という)を選択し、これを用いて調整パラメータの初期値を算出している。選択電圧測定値として、データ取得期間TDの最初に取得される電圧測定値VMとデータ取得期間TDの最後に取得される電圧測定値VMに加えて、所定の整数列{b}(i=1〜(n−1))で指定される電圧測定値{VM}(k=b;i=1〜(n−1))を用いる。
【0038】
整数列{b}(i=1〜(n−1))は、あらかじめ設定された整数の列であり、次式を満たす単調に増加する整数である。
1<b<b<・・・<bn−1<m (2)
【0039】
このとき、調整パラメータA〜Aのそれぞれの初期値A0〜A0を次式で算出する。
A0=VM−VM (k=b
A0=VMkk−VM (kk=b、k=b
・・・ (3)
A0=VM−VM (k=bn−1
【0040】
また、調整パラメータB〜Bのそれぞれの初期値B0〜B0を次式で算出する。
B0=−1/((b−1)×Δt×C)
B0=−1/((b−1)×Δt×C)
・・・ (4)
B0n−1=−1/((bn−1−1)×Δt×C)
B0=−1/(m−1)×Δt×C)
ここで、Cは事前に設定された実数である。
【0041】
さらに、調整パラメータVcの初期値V0cを次式で算出する。
V0c=VM (5)
【0042】
以下では、簡単のため、充放電終了後の開回路電圧の電圧特性式を、次式の4次の指数減衰関数を含む近似式とする。
V(t)=A・exp(B・t))+A・exp(B・t)+
・exp(B・t))+A・exp(B・t)+Vc (6)
【0043】
このとき、調整パラメータA〜A、B〜B、及びVcの初期値は、次式で与えられる。
A0=VM−VMb
A0=VMb−VMb
A0=VMb−VMb
A0=VMb−VM (7)
B0=−1/((b−1)×Δt×C)
B0=−1/((b−1)×Δt×C)
B0=−1/((b−1)×Δt×C)
B0=−1/((m−1)×Δt×C)
V0c=VM
【0044】
本実施形態では、整数列{b}(i=1〜(n−1))がさらに次式を満たすように設定されている。
(b−1)<(b―b)<・・・
<(bn−1−bn−2)<(m−bn−1) (8)
上式は、選択電圧測定値の選択タイミングの間隔を、データ取得期間TDの初期は短くし、それから徐々に長くしていくことを示している。
【0045】
以下では、選択電圧測定値の選択タイミングを、図4を用いて説明する。図4は、選択電圧測定値の選択タイミングを説明するための二次電池110の開回路電圧の変化を示す模式図である。ここでは、符号20で示すデータ取得期間TDを拡大して表示している。 また、開回路電圧を符号21で示し、調整パラメータの初期値を算出するのに用いる選択電圧測定値を符号22の○印で示している。選択電圧測定値22の選択タイミングの間隔は、データ取得期間TDの初期から末期に向けて徐々に長くなっている。
【0046】
選択電圧測定値22の選択タイミングは、開回路電圧21の変化の大きさ(変化率)に対応させて設定するのが好ましい。すなわち、図4に示すように、開回路電圧21はデータ取得期間TDの初期に大きく変化し、末期に行くほど変化が小さくなっていく。そこで、開回路電圧21の変化が大きいデータ取得期間TDの初期は、選択電圧測定値22の選択タイミングを短い間隔で設け、開回路電圧21の変化が小さくなるにつれて、選択電圧測定値22の選択タイミングの間隔を長くしていくのがよい。式(8)は、選択電圧測定値22の選択タイミングの間隔を、上記のように設定することを示している。
【0047】
次数nを4としたときは、整数列b(i=1〜3)が次式を満たす。
(b−1)<(b―b)<(b−b)<(m−b) (9)
上記のように、電圧特性式が4次(n=4)のときは、データ取得期間TDの最初の電圧測定値VMと最後の電圧測定値VMとの間で3(=n−1)点の電圧測定値{VM}(k=b;i=1〜3)を選択するように整数列b(i=1〜3)が予め設定されている。これにより、最初の電圧測定値VM、電圧測定値{VM}(k=b;i=1〜3)、及び最後の電圧測定値VMの5点の選択電圧測定値(電圧区間は4)が調整パラメータA〜A、B〜B、及びVcの初期値の算出に用いられる。
【0048】
なお、充電率の推定を特に高い精度で行う必要がない場合には、電圧特性式の次数を2次または3次にすることが可能であることを上記で説明したが、その場合には、整数列b(i=1〜(n−1))を1点または2点(電圧区間はそれぞれ2または3)に減らすことができる。
【0049】
式(8)(次数nが4の時は式(9))を満たす選択タイミングで選択された電圧測定値VM、{VM}(k=b;i=1〜(n−1))、及びVを用いて、式(3)〜(5)(次数nが4の時は式(7))より調整パラメータの初期値{A0}(i=1〜n)、{B0}(i=1〜n)、及びV0cを算出する。そして、式(1)(次数nが4の時は式(6))の開回路電圧V(t)と電圧測定値{VM}(j=1〜m)との誤差が最小となるように、調整パラメータを上記の初期値から漸次修正していくことで、調整パラメータの収束値を算出する。
【0050】
上記のようにして算出された調整パラメータの収束値を電圧特性式(1)(次数nが4の時は式(6))に用い、これから二次電池110の安定開回路電圧を算出する。安定開回路電圧は、式(1)において経過時間tを無限大としたときの値Vcで与えられる。あるいは、式(1)のtに予め定められた所定の電池電圧の安定所要時間を代入することで、安定開回路電圧を算出するようにしてもよい。安定開回路電圧が算出されると、事前に用意された安定開回路電圧対充電率の関係から、算出された安定開回路電圧に対応する充電率を推定することができる。
【0051】
次に、本実施形態の制御部130において実行される二次電池110の充電率推定方法について、その処理の流れを図1に示すフローチャートを用いて説明する。図1に示す演算処理は、主に制御部130が記憶部140に保持される制御プログラムに基づいて実行する処理であり、二次電池電源システム100における二次電池110の充放電終了直後あるいは終了後の所定のタイミングで実行開始される。
【0052】
制御部130において、充放電終了後に充電率の推定処理が要求されると、まずステップS11において、演算処理に必要なパラメータの設定が行われる。演算処理に必要なパラメータとしては、電圧センサ120から電圧測定値を取得する際のサンプリング間隔Δt、サンプル取得数m、電圧特性式(1)の調整パラメータの初期値を算出するのに用いる整数列{b}(i=1〜(n−1))、及び調整パラメータ{B}(i=1〜n)の初期値の算出に用いる実数Cがある。
【0053】
ステップS12では、上記のサンプリング間隔Δtでサンプル取得数mに達するまで電圧センサ120から電圧測定値{VM}(j=1〜m)を取得する。取得した電圧測定値{VM}(j=1〜m)を記憶部140に順次記憶させていく。
【0054】
ステップS13では、電圧測定値{VM}(j=1〜m)から、調整パラメータ{A}(i=1〜n)の初期値の算出に用いる選択電圧測定値VM、{VM}(k=b;i=1〜(n−1))、及びVMを選択する。
【0055】
ステップS14では、選択電圧測定値VM、{VM}(k=b;i=1〜(n−1))、及びVMを用いて、式(3)より調整パラメータ{A}(i=1〜n)の初期値{A0}(i=1〜n)を算出する。また、ステップS15では、整数列{b}(i=1〜(n−1))と実数Cを用いて、式(4)より調整パラメータ{B}(i=1〜n)の初期値{B0}(i=1〜n)を算出する。さらに、ステップS16では、式(5)より調整パラメータVcの初期値V0cを算出する。
【0056】
ステップS14〜S16で決定された調整パラメータの初期値{A0}(i=1〜n)、{B0}(i=1〜n)、及びV0cを用いて、次のステップS17で調整パラメータ{A}(i=1〜n)、{B}(i=1〜n)、及びVcの最適化を行う。本実施例では最小二乗法による最適化を前提に述べるが、カルマン-フィルタ演算等を用いても全く問題ない。
【0057】
ステップS17では、式(1)の電圧特性式{V(t)}(j=1〜m)とステップS12で電圧センサ120から取得した電圧測定値{VM}(j=1〜m)との誤差分散が最小となるように、調整パラメータ{A}(i=1〜n)、{B}(i=1〜n)、及びVcをステップS14〜S16で求めた初期値から逐次更新していく。上記の誤差分散は、次式で与えられる。但し、tはVMに対応する充放電終了からの経過時間である。
S=Σ[V(t)−VM (式10)
【0058】
ステップS18では、ステップS17の最小二乗法によって求まった調整パラメータの収束値{A}(i=1〜n)、{B}(i=1〜n)、及びVcを記憶部140に保存させ、電圧特性式(1)の算出に用いることができるようにする。
【0059】
最後のステップS19では、最適化された調整パラメータVcを用いて、二次電池110の充電率を推定する。電圧特性式(1)を用いて安定開回路電圧を算出する場合、式(1)においてtを大きくすると指数減衰項は0に収束することから、安定開回路電圧は式(1)の定数項Vcに等しくなる。このように、二次電池110の電圧特性式として式(1)を用いた場合には、安定時の開回路電圧が式(1)の定数項Vcから直ちに得ることができる。また別の方法として、最適化された調整パラメータを代入した電圧特性式(1)に、予め定められた所定の電池電圧の安定所要時間を代入することによって、安定開回路電圧を算出するようにしてもよい。
【0060】
以上説明したように、本実施形態では、開回路電圧の変化が大きいデータ取得期間の初期に選択電圧測定値の選択タイミングを短い間隔で設け、開回路電圧の変化が小さくなるにつれて選択電圧測定値の選択タイミングの間隔を長くすることで、調整パラメータの収束値を短時間でかつ安定的に決定できるようにしている。
【0061】
本発明の第2の実施の形態に係る充電率推定方法を、図5を用いて説明する。図5は、本実施形態の充電率推定方法において、電圧特性式(1)の調整パラメータの初期値を算出する方法を説明するための説明図であり、二次電池110の開回路電圧の変化を模式的に示している。第1の実施形態では、選択電圧測定値の選択タイミングを決定する整数列{b}(i=1〜(n−1))を、事前に設定された値に固定して用いているが、本実施形態では、電圧測定値{VM}(j=1〜m)の変化に合わせて{b}(i=1〜(n−1))を調整している。
【0062】
本実施形態では、電圧測定値{VM}(j=1〜m)を取得すると、{VM}(j=1〜m)が単調に変化しているか、あるいは{VM}(j=1〜m)が途中で最大または最小となるピークを形成した変化を示しているかを判定する。電圧測定値{VM}(j=1〜m)が単調に変化しているときは、第1実施形態と同様に、事前に設定された整数列{b}(i=1〜(n−1))を用いて調整パラメータ{A}(i=1〜n)、{B}(i=1〜n)の初期値を算出する。これに対し、{VM}(j=1〜m)がピークを形成した変化を示すときは、下記のように整数列{b}(i=1〜(n−1))を調整する。
【0063】
{VM}(j=1〜m)がピークとなるときの電圧測定値VMのjを求め、これをjpとする。次に、整数列{b}(i=1〜(n−1))から、jpに最も近いbを求め、これをjpに置き換える。このように調整した整数列を{ba}(i=1〜(n−1))とする。なお、jpに最も近いb以外は、そのままb=baとしている。この整数列{ba}(i=1〜(n−1))を用いて、電圧測定値{VM}(j=1〜m)から選択電圧測定値{VM}(k=ba;i=1〜(n−1))を選択する。
【0064】
次に、式(3)において、選択電圧測定値{VM}(k=b;i=1〜(n−1))に代えて選択電圧測定値{VM}(k=ba;i=1〜(n−1))を用いることで、調整パラメータ{A}(i=1〜n)の初期値{A0}(i=1〜n)を算出する。また、式(4)において、整数列{b}(i=1〜(n−1))に代えて整数列{ba}(i=1〜(n−1))を用いることで、調整パラメータ{B}(i=1〜n)の初期値{B0}(i=1〜n)を算出する。
【0065】
以下は、第1実施形態と同様にして式(1)を最適化し、最適化された式(1)を用いて安定開回路電圧を算出する。さらに、算出された安定開回路電圧から二次電池110の充電率を推定する。本実施形態の充電率推定方法の処理のフローチャートを図6に示す。以下では、第1の実施形態の充電率推定方法の処理の流れを示す図1との違いについて説明する。
【0066】
本実施形態の充電率推定方法の処理の流れでは、ステップS21〜S24が追加されている。まず、ステップS21で電圧測定値{VM}(j=1〜m)がピークを有しているかを判定し、ピークを有しているときはステップS22に進む一方、ピークを有さないときはステップS13に進む。ステップS22では、{VM}(j=1〜m)がピークとなるときの電圧測定値VMのjを求め、これをjpとする。次に、ステップS23で、整数列{b}(i=1〜(n−1))からjpに最も近いbを求め、これをjpに置き換え、これを整数列{ba}(i=1〜(n−1))とする。なお、jpに最も近いb以外は、そのままb=baとしている。ステップS24では、選択電圧測定値{VM}(k=ba;i=1〜(n−1))を選択する。以下は、第1実施形態と同様に、ステップS14〜S19の処理を順次行って二次電池110の充電率を推定する。
【0067】
本実施形態では、整数列{ba}(i=1〜(n−1))のいずれか1つが電圧測定値{VM}(j=1〜m)のピークに一致するように調整されていることから、電圧特性式(1)の各指数減衰項を、電圧測定値VMが増加傾向にあるときと減少傾向にあるときとで分割して最適化させることが可能となる。その結果、調整パラメータの収束値を短時間でかつ安定的に決定することが可能となる。
【0068】
本発明の第3の実施の形態に係る充電率推定方法を、図7を用いて説明する。図7は、本実施形態の充電率推定方法において、電圧特性式(1)の調整パラメータの初期値を算出する方法を説明するための説明図であり、二次電池110の開回路電圧の変化を模式的に示している。本実施形態でも、第2実施形態と同様に、電圧測定値{VM}(j=1〜m)の変化に合わせて{b}(i=1〜(n−1))を調整している。
【0069】
{VM}(j=1〜m)がピークを形成した変化を示すときは、まず第2実施形態と同様に、{VM}(j=1〜m)がピークとなるときの電圧測定値VMのjを求め、これをjpとする。次に、本実施形態では、整数列{b}(i=1〜(n−1))を(jp−1)ずつ移動させた整数列{b+jp−1}(i=1〜(n−1))を求め、これを整数列{bb}(i=1〜(n−1))とする。
【0070】
本実施形態では、上記の整数列{bb}(i=1〜(n−1))を用いて、電圧測定値{VM}(j=1〜m)から選択電圧測定値{VM}(k=bb;i=1〜(n−1))を選択する。そして、式(3)において、選択電圧測定値VM、VM(k=b;i=1〜(n−1))に代えて、選択電圧測定値VMjp、VM(k=bb;i=1〜(n−1))を用いることで、調整パラメータ{A}(i=1〜n)の初期値{A0}(i=1〜n)を算出する。また、式(4)において、整数列{b}(i=1〜(n−1))に代えて整数列{bbi}(i=1〜(n−1))を用いることで、調整パラメータ{B}(i=1〜n)の初期値{B0}(i=1〜n)を算出する。
【0071】
以下は、第1実施形態と同様にして式(1)を最適化し、最適化された式(1)を用いて安定開回路電圧を算出する。さらに、算出された安定開回路電圧から二次電池110の充電率を推定する。本実施形態の充電率推定方法の処理の流れを図8に示す。以下では、第1の実施形態の充電率推定方法の処理の流れを示す図1との違いについて説明する。
【0072】
本実施形態の充電率推定方法の処理の流れでは、ステップS31〜S34が追加されている。まず、ステップS31で電圧測定値{VM}(j=1〜m)がピークを有しているかを判定し、ピークを有しているときはステップS32に進む一方、ピークを有さないときはステップS13に進む。ステップS32では、{VM}(j=1〜m)がピークとなるときの電圧測定値VMjのjを求め、これをjpとする。次に、ステップS33で、整数列{b}(i=1〜(n−1))を(jp−1)だけ移動させた整数列{bb}(i=1〜(n−1))を求める。
【0073】
ステップS34では、電圧測定値{VM}(j=1〜m)から、第1番目の選択電圧測定値としてVjpを選択するとともに、選択電圧測定値VM(k=bb;i=1〜(n−1))及びVMを選択する。
ステップS37では、式(1)の電圧特性式V(t)とステップS12で電圧センサ120から取得した電圧測定値{VM}(j=jp〜m)との誤差分散が最小となるように、調整パラメータ{A}(i=1〜n)、{B}(i=1〜n)、及びVcをステップS14〜S16で求めた初期値から逐次更新していく。上記の誤差分散は、次式で与えられる。
S=Σ[V(t)−VM(j=jp〜m)
以下は、第1実施形態と同様に、ステップS18〜S19の処理を順次行って二次電池110の充電率を推定する。
【0074】
本実施形態では、調整パラメータの初期値の算出に用いる選択電圧測定値を、電圧測定値{VM}(j=1〜m)がピークとなる時点以降の単調減少するときの電圧測定値から選択している。これにより、電圧特性式(1)の各指数減衰項を、単調減少する電圧測定値のみを用いて最適化することが可能となる。その結果、調整パラメータの収束値を短時間で簡易にかつ安定的に決定することが可能となる。
【0075】
調整パラメータの初期値の算出に用いる選択電圧測定値を、電圧測定値{VM}(j=1〜m)がピーク値VMjpとなる時点以降の単調減少するときの電圧測定値から選択する別の実施形態を、以下に説明する。上記の第3実施形態では、調整パラメータの初期値を算出するのに用いる電圧測定値をピーク時点以降の単調減少するときの電圧測定値から選択するために、整数列{b}(i=1〜(n−1))を(jp−1)だけ移動させた整数列{bb}(i=1〜(n−1))を求めていた。この場合、bnー1とmとの間隔が狭い(差が小さい)とbbnー1がmを超えてしまうおそれがある。
【0076】
そこで、本実施形態では、整数1とmとの間に分布する整数列{b}(i=1〜(n−1))の間隔の比率(b−1):(b−b):・・・:(m−bn−1)をほぼ保ち、かつ整数jpとmとの間に分布する整数列{bc}を求める。整数列{bc}は、次式のように表される。
{bc}={[(b−1)×(m−jp)/(m−1)+jp]の整数部}
(i=1〜(n−1))
上記の整数列{bc}は、整数jpとmとの間に分布してmを超えることはないことから、初期値の算出に必要な(n−1)個(jpとmを含めると(n+1)個)の電圧測定値を選択することができる。
【0077】
上記の整数列{bc}を用いて初期値{A0}(i=1〜n)、{B0}(i=1〜n)、及びV0cを、
A0=VMjp−VM (k=bc
A0=VMkk−VM (kk=bci−1、k=bc;i=2〜(n−1))
A0=VM−VM (k=bcn−1
B0=−1/((bc−1)×Δt×C) (i=1〜(n−1))
B0=−1/((m−1)×Δt×C)
V0c=VM
で算出する。
【0078】
上記各実施形態では、電圧特性式(式1)が指数減衰関数を4項含む例を用いて説明したが、4項に限らずそれ以上の指数減衰関数を含むようにしてもよい。また、二次電池の充放電終了後に行う電圧測定値等の取得個数やサンプリング間隔等についても、二次電池の特性や劣化度等に合わせて適宜変更することができる。さらに、事前に設定された定数である整数列{b}(i=1〜(n−1))や実数Cについても、二次電池の種類や温度、劣化度等によって選択あるいは算出するようにしてもよい。
【0079】
上記説明のように、本発明によれば、二次電池の開回路電圧の時間変化を高精度で近似できる電圧特性式の調整パラメータの初期値を好適に設定することにより、調整パラメータの収束値を短時間でかつ安定的に決定して充電率を推定することができる充電率推定方法、充電率推定装置及び二次電池電源システムを提供することができる。また、様々な電圧プロファイルに対して、短時間(少ない繰り返し回数)で逐次計算を収束させることができる。これにより、例えば計算処理能力が限られた組込みソフトでも計算を可能とする。
【0080】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る充電率推定方法、充電率推定装置及び二次電池電源システムの一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における充電率推定方法、充電率推定装置及び二次電池電源システムの細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0081】
10・・・負荷
100・・・二次電池電源システム
101・・・充電率推定装置
110・・・二次電池
120・・・電圧センサ
130・・・制御部
140・・・記憶部
150・・・充電回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充放電終了後の二次電池の開回路電圧(OCV;Open Circuit Voltage)の時間変化を、調整パラメータを有する電圧特性式で近似し、前記電圧特性式から前記二次電池の安定時の開回路電圧を算出して前記二次電池の充電率を推定する充電率推定方法であって、
前記二次電池の充放電終了後の所定のデータ取得期間中に所定の周期で前記二次電池の開回路電圧の測定値(以下、電圧測定値とする)をm個(mは自然数)取得し、
前記m個の電圧測定値から所定の選択タイミングにおける電圧測定値を選択して選択電圧測定値とし、
前記選択電圧測定値及び前記選択タイミングに基づいて前記調整パラメータの初期値を算出し、
前記電圧特性式で算出した開回路電圧と前記m個の電圧測定値との誤差が最小となるように前記調整パラメータを前記初期値から漸次修正しながらその収束値を算出し、
前記調整パラメータの収束値を前記電圧特性式に用いて前記安定時の開回路電圧を算出し、
前記安定時の開回路電圧から前記二次電池の充電率を推定する
ことを特徴とする充電率推定方法。
【請求項2】
前記調整パラメータを{A}(i=1〜n)、{B}(i=1〜n)、及びVcとし、nを4以上の整数、tを充放電終了からの経過時間とするとき、前記電圧特定式は、
V(t)=A・exp(B・t))+A・exp(B・t)+・・・
+A・exp(B・t)+Vc
で与えられ、
{bi}(i=1〜(n−1))を1<b<b<・・・<bn−1を満たし、前記選択タイミングに対応するように事前に設定された整数列とするとき、
前記調整パラメータ{A}(i=1〜n)、{B}(i=1〜n)、及びVcのそれぞれの前記初期値{A0}(i=1〜n)、{B0}(i=1〜n)、及びV0cが、前記整数列{b}(i=1〜(n−1))から決定される前記選択タイミングにおける前記選択電圧測定値を用いて算出される
ことを特徴とする請求項1に記載の充電率推定方法。
【請求項3】
前記整数列{bi}(i=1〜(n−1))は、
(b−1)<(b―b)<・・・<(bn−1−bn−2)<(m−bn−1)を満たす
ことを特徴とする請求項2に記載の充電率推定方法。
【請求項4】
前記電圧測定値を{VM}(j=1〜m)、前記電圧測定値の取得周期をΔt、Cを事前に設定された実数とするとき、
前記選択電圧測定値として、前記データ取得期間の最初に取得される電圧測定値VM1、前記整数列{b}(i=1〜(n−1))を前記選択タイミングとする電圧測定値{VM}(k=b;i=1〜(n−1))、及びデータ取得期間の最後に取得される選択電圧測定値VMを選択し、
前記初期値{A0}(i=1〜n)、{B0}(i=1〜n)、及びV0cを、
A0=VM−VM (k=b
A0=VMkk−VM (kk=bi−1、k=b;i=2〜(n−1))
A0=VM−VM (k=bn−1
B0=−1/((b−1)×Δt×C) (i=1〜(n−1))
B0=−1/((m−1)×Δt×C)
V0c=VM
で算出する
ことを特徴とする請求項2または3に記載の充電率推定方法。
【請求項5】
前記電圧測定値{VM}(j=1〜m)が前記データ取得期間中に最大または最小となるピーク値VMjpを有するとき、前記整数列{b}(i=1〜(n−1))から前記ピーク値の時点jpに最も近い選択タイミングbを求め、前記選択タイミングbを前記ピーク値の時点jpに置き換えて前記整数列{ba}(i=1〜(n−1))を作成し、
前記整数列{ba}(i=1〜(n−1))を用いて前記初期値{A0}(i=1〜n)及び{B0}(i=1〜n)を算出する
ことを特徴とする請求項4に記載の充電率推定方法。
【請求項6】
前記電圧測定値を{VM}(j=1〜m)、前記電圧測定値の取得周期をΔt、Cを事前に設定された実数とし、前記電圧測定値{VM}(j=1〜m)が前記データ取得期間中に最大または最小となるピーク値VMjpを有するとき、
前記選択電圧測定値として、前記ピーク値の電圧測定値VMjp、前記整数列{b}(i=1〜(n−1))を(jp−1)だけ変更した整数列{bb}={b+jp−1}(i=1〜(n−1))を前記選択タイミングとする電圧測定値{VM}(k=bb;i=1〜(n−1))、及びデータ取得期間の最後に取得される選択電圧測定値VMを選択し、
前記初期値{A0}(i=1〜n)、{B0}(i=1〜n)、及びV0cを、
A0=VMjp−VM (k=bb
A0=VMkk−VM (kk=bbi−1、k=bb;i=2〜(n−1))
A0=VM−VM (k=bbn−1
B0=−1/((bb−1)×Δt×C) (i=1〜(n−1))
B0=−1/((m−1)×Δt×C)
V0c=VM
で算出される
ことを特徴とする請求項2または3に記載の充電率推定方法。
【請求項7】
前記電圧測定値を{VM}(j=1〜m)、前記電圧測定値の取得周期をΔt、Cを事前に設定された実数とし、前記電圧測定値{VM}(j=1〜m)が前記データ取得期間中に最大または最小となるピーク値VMjpを有するとき、
前記選択電圧測定値として、前記ピーク値の電圧測定値VMjp、前記整数列{b}(i=1〜(n−1))を整数列の間隔比率をほぼ保つように、jpからmの間に移動した整数列{bc}={[(b−1)×(m−jp)/(m−1)+jp]の整数部}(i=1〜(n−1))を前記選択タイミングとする電圧測定値{VM}(k=bc;i=1〜(n−1))、及びデータ取得期間の最後に取得される選択電圧測定値VMを選択し、
前記初期値{A0}(i=1〜n)、{B0}(i=1〜n)、及びV0cを、
A0=VMjp−VM (k=bc
A0=VMkk−VM (kk=bci−1、k=bc;i=2〜(n−1))
A0=VM−VM (k=bcn−1
B0=−1/((bc−1)×Δt×C) (i=1〜(n−1))
B0=−1/((m−1)×Δt×C)
V0c=VM
で算出される
ことを特徴とする請求項2または3に記載の充電率推定方法。
【請求項8】
前記二次電池安定時の前記開回路電圧は、前記調整パラメータに前記収束値を用いた前記電圧特定式に予め定めた所定時間を代入して算出する
ことを特徴とする請求項2乃至7のいずれか1項に記載の充電率推定方法。
【請求項9】
二次電池の充電率を推定する充電率推定装置であって、
前記二次電池の電圧を測定する電圧センサと、
調整パラメータを有する電圧特性式を用いて前記充電率を推定するための演算を実行制御する制御部と、
前記電圧センサで測定された電圧測定値と、前記制御部による前記演算に用いられるデータとを記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、前記二次電池の充放電終了後の所定のデータ取得期間中に所定の周期で前記二次電池の開回路電圧の測定値(以下、電圧測定値とする)をm個(mは自然数)取得し、前記m個の電圧測定値から所定の選択タイミングにおける電圧測定値を選択して選択電圧測定値とし、前記選択電圧測定値及び前記選択タイミングに基づいて前記調整パラメータの初期値を算出し、前記電圧特性式で算出した開回路電圧と前記m個の電圧測定値との誤差が最小となるように前記調整パラメータを前記初期値から漸次修正しながらその収束値を算出し、前記調整パラメータの収束値を前記電圧特性式に用いて前記安定時の開回路電圧を算出し、前記安定時の開回路電圧から前記二次電池の充電率を推定する
ことを特徴とする充電率推定装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記調整パラメータを{A}(i=1〜n)、{B}(i=1〜n)、及びVcとし、nを4以上の整数、tを充放電終了からの経過時間とするとき、前記電圧特定式として、
V(t)=A・exp(B・t))+A・exp(B・t)+・・・
+A・exp(B・t)+Vc
を用い、
{b}(i=1〜(n−1))を1<b<b<・・・<bn−1を満たし、前記選択タイミングに対応するように事前に設定された整数列とするとき、
前記調整パラメータ{A}(i=1〜n)、{B}(i=1〜n)、及びVcのそれぞれの前記初期値{A0}(i=1〜n)、{B0}(i=1〜n)、及びV0cを、前記整数列{b}(i=1〜(n−1))から決定される前記選択タイミングにおける前記選択電圧測定値を用いて算出する
ことを特徴とする請求項9に記載の充電率推定装置。
【請求項11】
二次電池と、
前記二次電池を充電する充電回路と、
前記二次電池の充電率を推定する請求項9又は請求項10に記載の充電率推定装置と、を備える
ことを特徴する二次電池電源システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−209237(P2011−209237A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79617(P2010−79617)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】