説明

先芯内蔵靴

【課題】先芯内面からの先裏の剥離を防止するとともに、爪先部にクッション性を付与した履き心地の良い作業靴の提供すること。
【解決手段】
全部または一部が射出成形によって形成された靴底と当該靴底の上部において足入れ部を構成するアッパー体を有した靴であって、前記アッパー体を構成する甲革の先端部内側に織布、編布、不織布等による布状体を設けるとともに当該布状体と前記甲革との間に足先保護用の先芯を装着し、前記靴底形成時に充填した射出成形樹脂の一部によって前記布状体と先芯との間に樹脂層を形成したこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、先芯内蔵靴および先芯内蔵靴の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、爪先に先芯を内蔵した安全靴として図5に示すような安全靴100が知られている。図5(a)は当該安全靴100の断面図、図5(b)は図5(a)に示した爪先部(X部)の拡大図、図5(c)は図5(a)に示した爪先部の内部を靴底を省略して底面(Y-Y')側から表した説明図である。
上記従来の安全靴100は、主に足を入れる袋状部分を構成するアッパー体101と、爪先に内蔵した先芯102、前記袋状部分の底面を構成する中底103と、前記アッパー体101および中底103を支持する靴底104によって構成されている。靴底104は接地面となるアウトソール105と、当該アウトソール105と中底103との間に充填した発泡素材等によるミッドソール106によって構成されている。
このように、アウトソール105とミッドソール106によって構成した図5(a)に示す靴底を一般的に2層底という。当該構造の靴として特許文献1記載の靴が知られている。また、アウトソール105とミッドソール106に相当する部分を、ともに同一素材による射出成形によって形成する場合もある。
アッパー体101の先端部には、足の爪先部を覆うように湾曲面を有した殻体として形成された先芯102が内蔵されている。当該先芯102は、爪先部の甲革107と当該甲革107の裏面に設けられた布状体である先裏108との間に挟まれた状態で設けられている。先芯102は下面に内側に向かって折り曲げた所定幅の折り曲げ片(スカート)109を有しているが、当該スカート109は中底103下面を覆うように設けられた甲革107の先端部に覆われている。すなわち、靴底104側から見るとスカート109は露出しておらず(図5(c)参照)、靴底104と先芯102が接触しない構造となっている。
【特許文献1】特開2002−119302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述した安全靴に代表される作業靴には、鋼鉄か硬質の樹脂によって形成された先芯が内蔵されているが、足先が先芯の堅い地肌に直接接すると先芯の堅さを感じてしまい履き芯地が悪いものとなる。また、先芯の地肌が露出した状態のままだと、靴内の湿気が結露となって先芯の内面に表出してしまい、靴内が濡れた状態になる等履き心地が悪くなってしまう。当該観点から先芯の内面には先裏と称される布状体を設け、先芯と足先が直接接触するのを防止するとともに、湿気の吸収と拡散を行うことで履き心地の悪化を防止している。また、従来は先芯内面と先裏を接着剤(例えば、ラテックス、クロロプレン系)によって接着していたが、長期間の使用によって先芯内面から先裏が剥離してしまうことがあった。先芯内面から先裏が剥離してしまうと、剥離した先裏が靴内に垂れ下がってしまい履き心地を悪化させることになってしまう。
本願発明は、上記課題に鑑み先芯内面からの先裏の剥離を防止するとともに、爪先部にクッション性を付与した履き心地の良い作業靴の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために本願請求項1記載の発明は以下の構成を有する。すなわち、
全部または一部が射出成形によって形成された靴底と当該靴底の上部において足入れ部を構成するアッパー体を有した靴であって、
前記アッパー体を構成する甲革の先端部内側に織布、編布、不織布等による布状体を設
けるとともに当該布状体と前記甲革との間に足先保護用の先芯を装着し、
前記靴底形成時に充填した射出成形樹脂の一部によって前記布状体と先芯との間に樹脂層を形成したことを特徴とする先芯内蔵靴。
【0005】
また、本願請求項2記載の発明は以下の構成を有する。すなわち、
前記布状体と先芯との間に所定の隙間を形成するための間隔形成手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の先芯内蔵靴。
【発明の効果】
【0006】
本願発明に係る先芯内蔵靴は、先芯内面と先裏の間に樹脂を充填することより、当該充填によって形成された樹脂層を先芯内面と先裏の接着剤として機能させることができる。形成された樹脂層は、充填に伴う圧力によって両者に密着し、特に先裏に対しては先裏を構成する布の繊維間に樹脂が浸透するので強固な接着力を有するようになっている。
また、前記樹脂としてクッション性のある発泡性の樹脂を用いることで、形成された樹脂層にもクッション効果を生じさせることができる。これにより、履き心地のよい先芯内蔵靴を提供することができる。
また、前記樹脂層は靴底を形成する際の射出成形工程の際に同時に形成することができる。そして、布状体である先裏と先芯との間に隙間を形成するための突起その他の間隔形成手段を設けることにより、樹脂注入時の開口を確保することができ前記樹脂層を確実に形成することができるという効果を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本願発明を実施するための最良の形態を図面を用いて説明する。
図1は、本実施の形態に係る安全靴1の説明図であり、図1(a)は安全靴1の断面図、図1(b)は図1(a)に示した爪先部(X部)の拡大図、図1(c)は図1(a)に示した爪先部の内部を底面側(Y-Y'線)から表した説明図である。
安全靴1は、袋状の足入部を構成するアッパー体2と、爪先部分に内蔵した先芯3と、前記足入部の底面を構成する中底4と、一体化したアッパー体2と中底4を支持する靴底5を主な構成要素とするものである。アッパー体2は、天然皮革を裁断した複数のパーツ片を縫い合わせることで、足首から足先方向に至る部分を覆うように立体的に形成したものである。また、中底4には、フェルト状のシートを押し固めた板状の素材が用いられる。
【0008】
爪先部を構成するアッパー体2の甲革9の内面には、織布、編布、不織布等からなる布状体としての先裏10が縫製または接着により取り付けられている。
アッパー体2に対する中底4の取り付けは、甲革9の爪先部の端縁を除き、アッパー体2下端の所定幅の部分を中底4底面の中央側へ折り曲げた状態で行われる。爪先部では、先裏10の端部は中底4に対して逢着されるものの、甲革9の爪先部の端縁は中底4に対して逢着されない状態になっている。すなわち、甲革9の端部が自由端となり、先裏10と甲革9の間に空間が形成されるようになっている。当該先裏10と甲革9によって形成される空間が先芯3の収容部となっている。
【0009】
製造工程については後述するが、前記縫製が完了したアッパー体2の底に対して靴底5が設けられる。本実施の形態における安全靴1は、当該靴底5の一例として2層底を設けている。
2層底として形成された靴底5は、アウトソール6とミッドソール7によって構成される。アウトソール6は、接地面となる部分であり対摩耗性に優れた加硫ゴムによって形成されている。また、前記アウトソール6とアッパー体2の中間に位置するミッドソール7は、クッション性のある発砲性の樹脂またはゴムを充填することによって形成されている。当該ミッドソール7に使用する素材には、発泡性のウレタンや発泡性のゴム素材等が用いられ、膨張時の圧力によって金型内の隅々にまで素材が行き渡るようになっている。
【0010】
前述したように、先裏10の端部は中底4に対して逢着されるものの、アッパー体2の爪先部では甲革9の端縁は中底4に対して逢着されない。そして、靴底5を設ける際には、甲革9の端縁も中底4の底面側に向かって折り曲げられた状態となるが、この折り曲げに伴う折り曲げ部24は、先芯3下端のスカート8の端縁を超えない幅に形成されている。すなわち、折り曲げ部24によって先芯3下端のスカート8を覆い隠さないようになっており、ミッドソール7側に向かって、中底4に逢着された先裏10とスカート8の間に開口11が形成されるようになっている。当該開口11は、金型内に注入された成形樹脂が膨張してミッドソール7を形成する際に当該成形樹脂の一部を先芯3と先裏10の間に導く入り口として機能するようになっている。
前記開口10を介して侵入した成形樹脂は先芯3と先裏10の間に充填され、当該充填によって形成された樹脂層12が先芯3と先裏10を接着する作用を果たし、同時に靴内に入れた足が当接する際のクッションとして作用する。
【0011】
次に、図2を用いて、アッパー体2に靴底5を形成するとともに前述した樹脂層12を形成する工程について説明する。
図2において、30は靴底5の底部を形成する第1の金型であり、31は靴底5の外周を形成する第2の金型である。第2の金型は、左右に2分割された金型であり第1の金型を包囲するようになっているものである。
2層底の場合には、初めにアウトソール6を形成する。当該アウトソール6は、予めミッドソール7の形状に相当するダミー金型(図示せず)を金型30、31に装着し、金型31に設けたゲート32を解して所定の素材を注入することにより形成される。
【0012】
アウトソール6を形成した後、ダミー金型を取り除くとともに木型32に装着したアッパー体2を金型30、31に装着し、金型31に設けたゲート33を解して所定の成形樹脂を注入することで、アウトソール6とアッパー体2との間に成形樹脂が充填される。充填された成形樹脂は、発泡の開始にともなって膨張し中底4を押し上げようとするが、アッパー体2の内部には木型32が設けられているので当該木型32によって中底4の変形が防止される。また、前記開口10を介して先芯3と先裏10の間に導かれた成形樹脂も膨張するが、装着された木型32によって先裏10の内側方向への変形を防止しつつ、先芯3と先裏10の狭い空間内に成形樹脂が十分に行き渡るようになっている。
【0013】
そして、注入された成形樹脂が硬化するとミッドソール7が形成され、当該ミッドソール7がアウトソール6とアッパー体2を結合するとともに、歩行時のクッション層として機能する。そして、先芯3と先裏10の間に形成された樹脂層12は、ホットメルトや他の一般の接着剤による接着よりも耐水性にすぐれた強固な接着作用を発揮し先裏10の剥がれを防止する効果を有している。また、当該接着作用を発揮する樹脂層は、足先が堅い先芯3に直接接触するのを防止して履き芯地を向上させるとともに、先裏10による吸湿、水分の発散効果とも相まって靴内における結露の発生を防止する効果を有している。
【0014】
図3は、前記安全靴1に用いる先芯3の一例を表した説明図である。当該先芯3のスカート8の上面には小突起13が複数個設けられている。当該小突起13は、布状体である先裏10と先芯3との間に一定間隔以上の隙間を形成するための間隔形成手段として機能するものである。また、開口10が潰れて前記隙間に対する成形樹脂の侵入を阻害しないという機能も有している。
また、先芯3のスカート8以外の内面にも同様の小突起を設けた場合には、爪先部内面に適正な厚みの樹脂層12を形成することができるものである。
また、図4は、前記安全靴1に用いる先芯3の他の例を表した説明図である。当該先芯3のスカート8の上面には突条14が複数設けられている。当該小突起14は、布状体で
ある先裏10と先芯3との間に一定間隔以上の隙間を形成するための間隔形成手段として機能するものである。また、開口10が潰れて前記隙間に対する成形樹脂の侵入を阻害しないという機能も有している。
また、先芯3のスカート8以外の内面にも同様の突条を設けた場合には、爪先部内面に適正な厚みの樹脂層12を形成することができるものである。
なお、間隔形成手段は以上のような構成に限られるものではなく、突条14の変わりに先芯3の内面に長溝を設けるようにしても良い、この場合、長溝内に侵入した成形樹脂が射出圧によって長溝から溢れ、先芯3と先裏10の間に樹脂層12が形成される。
上記間隔形成手段の形状は、図示した形状に限るものではなく、また必ずしも先芯3の内表面に設けることを要せず、他の手段であってもかまわないものである。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本願発明は、安全靴等の先芯を内蔵した靴に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本願発明に係る靴の説明図である。
【図2】本願発明に係る靴の製造工程に関する説明図である。
【図3】先芯の一例を示す説明図である。
【図4】先芯の他の一例を示す説明図である。
【図5】従来の先芯を内蔵した安全靴の説明図である。
【符号の説明】
【0017】
1 安全靴
2 アッパー体
3 先芯
4 中底
5 靴底
6 アウトソール
7 ミッドソール
8 折り曲げ片
9 甲革
10 先裏

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全部または一部が射出成形によって形成された靴底と当該靴底の上部において足入れ部を構成するアッパー体を有した靴であって、
前記アッパー体を構成する甲革の先端部内側に織布、編布、不織布等による布状体を設けるとともに当該布状体と前記甲革との間に足先保護用の先芯を装着し、
前記靴底形成時に充填した射出成形樹脂の一部によって前記布状体と先芯との間に樹脂層を形成したことを特徴とする先芯内蔵靴。
【請求項2】
前記布状体と先芯との間に所定の隙間を形成するための間隔形成手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の先芯内蔵靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−142422(P2009−142422A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321943(P2007−321943)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(391009372)ミドリ安全株式会社 (201)
【Fターム(参考)】