説明

光ケーブル及び光ケーブルの製造方法

【課題】押え巻きテープに切裂き始端となる切れ目を必要とせず、シースの剥ぎ取りと同時に、安全で簡単かつ容易に押え巻きテープの剥ぎ取りを行うことが可能な光ケーブルとその製造方法を提供する。
【解決手段】光ファイバ心線14を収納した溝付きスロット12の外周に、粗巻き紐15と押え巻きテープ16とシース17とを順に施してなる光ケーブルで、押え巻きテープ16は、シース17の内面に接して接着され、粗巻き紐15及びスロット12には接着されていないようにする。押え巻きテープ16は熱可塑性樹脂を含み、シース17の成形時の熱によりシース17に溶着される。また、押え巻きテープ16は、少なくとも2層以上の融点の異なる複数の材料層で形成されていて、融点の低い方の材料層16aがシース17に接するように巻付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝付きスロットの溝内に多数本の光ファイバ心線を収納し、スロットの外周に粗巻き紐、押え巻きテープ、及びシースを順に施してなる光ケーブル及び光ケーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の映像配信、IP電話、データ通信等のブロードバンドサービスの拡大により、光ファイバによる家庭向けのデータ通信サービス(FTTH:Fiber To The Home)の加入者が増加している。このFTTHでは、架空の幹線光ケーブルからドロップ光ケーブルを用いて加入者宅等に引き落されている。加入者宅への光ファイバの引き落しは、例えば、市街の電柱等に布設されている幹線光ケーブルから、通常、クロージャと称されている接続函で光ファイバ心線を分岐し、分岐された光ファイバ心線にドロップ光ケーブルを融着接続又は光コネクタを用いて接続している。
【0003】
幹線光ケーブルは、図2(A)に示すように、例えば、テンションメンバ3(抗張力体とも言う)が中心部に埋設され、外面側にSZ状に形成された複数条の溝2aを有する樹脂製のロッドからなるスロット2(スペーサとも言う)が用いられる。溝2aには、複数本の単心光ファイバ心線あるいは多心の光ファイバテープ心線4を収納し、スロット2の外周に押え巻きテープ6(上巻テープとも言う)を巻き付けて光ファイバテープ心線4を覆っている。そして、上巻テープ6の外側を、押出し成形で形成されるシース7(外被とも言う)で被覆した形状のものが一般的である。
【0004】
上述のような幹線光ケーブル1の途中部分から、光ファイバを加入者宅等に引き落すには、ケーブルに収納されている複数本の光ファイバ心線の内から、1本〜数本の光ファイバ心線を引出す分岐作業が行われる。この分岐(中間後分岐とも言われている)作業は、例えば、特許文献1に開示のように、光ケーブルの分岐部分のシース7を一定の長さ(50cm程度)除去する。このシース7が除去された部分では、上巻テープ6が露出されるが、例えば、図2(B)に示すように、上巻テープ6をカッターやニッパー10等より切裂き開始端を形成してから切断する。次いで、上巻テープ6を巻ほぐして剥ぎ取り、内部の光ファイバ心線4を取り出している。
【特許文献1】特開平8−220393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ケーブルの製造過程で、集線された光ファイバテープ心線4がスロット2に収納された直後に、溝2aから飛び出さないように直ちに粗巻き紐を螺旋状に巻付けて保持し、次いで、その上から押え巻きテープ6が巻付けている。押え巻きテープは、シース7を成形する際の熱が光ファイバテープ心線4に影響するのを抑制する熱絶縁用として、さらには、光ケーブル内への止水のための吸水用として設けられる。
【0006】
この押え巻きテープ6と光ファイバテープ心線4との間には、特に保護層のようなものが存在しないため、この上巻テープ6に、図2に示すように、ニッパー等の切裂き工具10を差し込んでテープ切断の切裂き始端を得ようとすると、光ファイバテープ心線4を傷つける恐れがある。また、光ファイバ心線の分岐作業は、電柱上やバケット車上というような作業環境の悪い状況で行うことが多く、できるだけ簡単で短時間に行えることが要望されている。
【0007】
本願発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、シースの剥ぎ取りと同時に、安全で簡単かつ容易に押え巻きテープの剥ぎ取りを行うことが可能な光ケーブルとその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による光ケーブルは、光ファイバ心線を収納した溝付きスロットの外周に、粗巻き紐と押え巻きテープとシースとを順に施してなる光ケーブルで、押え巻きテープは、シースの内面に接して接着され、粗巻き紐及びスロットには接着されていないことを特徴とする。押え巻きテープは熱可塑性樹脂を含み、シースの成形時の熱によりシースに溶着される。また、押え巻きテープは、少なくとも2層以上の融点の異なる複数の材料層で形成されていて、融点の低い方の材料層がシースに接するように巻付けられ、融点の低い方の材料層としては、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を用いることができる。
【0009】
光ファイバ心線を収納した溝付きスロットの外周に、粗巻き紐と押え巻きテープとシースとを順に施してなる光ケーブルの製造方法で、シースの加熱温度により、押え巻きテープがシースの内面に溶着し、粗巻き紐及びスロットに溶着しないように、シースの加熱温度を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光ケーブルによれば、光ファイバを中間分岐等でケーブル被覆を除去する際に、シースの除去と同時に押え巻きテープも除去することができると共に、粗巻き紐は切断されず、光ファイバ心線がスロットから一気に飛び出るのを抑制することができ、被覆除去作業の時間短縮を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1により本発明の実施の形態を説明する。図1(A)は本発明による光ケーブルの一例を説明する図、図1(B)は光ケーブルの被覆部分の断面構造を示す図、図1(C)は押え巻きテープの一例を説明する図である。図中、11は光ケーブル、12はスロット、12aは溝、13はテンションメンバ、14は光ファイバ心線、15は粗巻き紐、16は押え巻きテープ、16a,16b,16cは材料層、17はシース、18は溶着部を示す。
【0012】
本発明による光ケーブル11は、図1(A)に示すように、例えば、中心にテンションメンバ13(抗張力体とも言う)を埋設一体化し、複数の溝12aを設けたプラスチック材からなるスロット12(スペーサとも言う)により構成される。スロット12の溝12aは、螺旋状又はSZ状に形成され、溝12a内には複数本の光ファイバ心線又はテープ状の光ファイバ心線14が収納される。光ケーブル11の製造過程で、光ファイバ心線14が、溝12a内に収納された後で押え巻きテープ16を巻付ける前に、溝12aから脱落するのを(特に、SZスロットの場合)防止するために、粗巻き紐15がスロット12の外周に、例えば、10mm〜20mm程度のピッチで巻付けられている。
【0013】
粗巻き紐15は、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン(NY)等の繊維やテープ形状のものが用いられる。粗巻き紐15が施されたスロット12の外周には、ケーブル内への止水のため、又はシース成形時に加熱されたシース用の溶融樹脂材が光ファイバ心線に直接接触しないように熱絶縁用としての押え巻きテープ16が施される。押え巻きテープ16には、粗巻き紐15に比べて融点の低い熱可塑性樹脂の繊維を含む不織布や積層体が用いられる。
【0014】
押え巻きテープ16のテープ幅としては、例えば、10mm〜30mm程度のものを用いることができる。この押え巻きテープ16は、スロット12上に重ね巻きあるいは隙間を有しない密接巻きで施され、その外側をシース17(外被とも言う)で被覆して光ケーブル11とされる。押え巻きテープ16は、スロット12内に収納された光ファイバ心線14が外に飛び出さないように、粗巻き紐15による保持を補強する。
【0015】
図1(B)のケーブル被覆部分の断面図は、本発明による特徴部分を説明するもので、スロット12の外面に巻付けられた粗巻き紐15の上から、押え巻きテープ16が巻付けられ、押え巻きテープ16の外周にはシース17で被覆された状態を示している。押え巻きテープ16とシース17が接する部分は、溶着部18により接着された状態とされる。しかし、押え巻きテープ16は、シース17には溶着(接着)されるが、粗巻き紐15とスロット12上の面には溶着(接着)されないようなものが用いられる。
【0016】
また、本発明においては、シース17を押え巻きテープ16の外面に成形するときの熱で、押え巻きテープ16が部分的に溶融し、シース17に接する部分で熱溶着して接着される形態が好ましい。図1(C)は、前記の接着形態を実現するのに適した押え巻きテープ16の構成例を説明する図である。すなわち、押え巻きテープ16を、少なくとも2層以上の融点が異なる材料層(例えば、16a,16b,16cの3層)で形成する。
【0017】
押え巻きテープ16をスロット12の外面に巻付ける際に、巻付けの外側となってシース17と接する側の材料層16aを、シース17の成形時の熱で溶融可能な材料で形成する。そして、スロット12に巻付ける際に、巻付けの内側となってスロット12の面に接する材料層16bは、シース17の成形時の熱では溶融せず、接着もしない材料で形成する。中間の材料層16cは無くてもよいが、両面の材料層16aと16bを支持するベース層とし、また、熱伝導の低い材料で形成することにより、スロット12に接する材料層16b側の温度を、シース17に接する材料層16a側の温度より低くすることが可能となる。また、押え巻きテープ16に止水テープとしての機能を持たせる場合に、中間の材料層16cを吸水性のもので形成するとよい。
【0018】
次に、シース17と接する側の材料層16aに、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)を用いて、種々のシース温度で、押え巻きテープ16とシース17との溶着、押え巻きテープ16と粗巻き紐15及びスロット12との溶着についての評価を行った。
表1は、図1(C)の押え巻きテープ16を、L−LDPEのみで形成した場合(1層、厚さ0.05mm)と、シース17と接する側の材料層16aにL−LDPE、スロット12と接する側の材料層16bをポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、中間層16cを無しで形成した場合(2層、厚さL−LDPE0.025mm、PET0.025mm)とを比較評価した例である。
【0019】
【表1】

【0020】
上記の表1の結果から、押え巻きテープ16とスロット12との溶着を防止するには、押え巻きテープ16を少なくとも2層構造とし、シース17と接する側の材料層16aを融点の低いもので形成し、スロット12と接する側の材料層16bを融点が高くスロット12の材料と相性が悪く溶着しにくいもので形成することが、有用であると言える。
【0021】
表2は、押え巻きテープ16をL−LDPEの1層で形成し、押え巻きテープ16の厚さとシース温度を変えて評価したもので、押え巻きテープ16の厚さにより、シース17とスロット12側との温度差等による影響を調べてみた。
【0022】
【表2】

【0023】
上記の表2の結果から、押え巻きテープ16の厚さを増加させていくと、シース17との溶着性は低下する。これは、押え巻きテープ16の厚さの増加に伴って質量増による熱容量が増加し、溶着に必要な加熱温度が高くなることによるものと思われる。他方、押え巻きテープ16の厚みが増加することにより、厚み方向の熱抵抗が増加し、押え巻きテープ16の両面間の温度差が大きくなり、これにより、押え巻きテープ16とスロット12とが接する側の温度が低下し、スロット12との溶着性が低下するとものと思われる。この表2からは、1層の押え巻きテープ16であれば、厚さは0.05mm以上で、シース温度を170℃〜210℃の範囲で選択設定することにより、本発明を実現することが可能であると言える。
【0024】
表3は、粗巻き紐15に、比較的に耐熱性のある融点の高い高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン(NY)を用いて、シース17及びスロット12には溶着しない樹脂材料で形成する。そして、押え巻きテープ16は、厚み0.05mmで、L−LDPE又はHDPEの1層で形成し、シース温度を変えて評価したものである。
【0025】
【表3】

【0026】
上記の表3の結果から、押え巻きテープ16に融点の高いHDPEを用いるより、これより融点の低いL−LDPEを用いる方が、押え巻きテープ16はシース17に溶着されやすくなる。他方、押え巻きテープ16は粗巻き紐15に対しては、HDPE又はL−LDPEの何れを用いても、同程度の接着性を有している。ただ、粗巻き紐15にPP,NY等の耐熱性のものを用いることにより、押え巻きテープ16との接着性を更に弱めることができる。また、この表3からは、押え巻きテープ16に、厚さ0.5mmで1層のL−LDPEを用いる場合は、シース温度を180℃〜200℃の範囲で、1層のHDPEを用いる場合は、シース温度を190℃〜200℃の範囲で制御することにより、本発明を実現することが可能であると言える。
【0027】
上述した光ケーブルが、幹線光ケーブルとして布設された後、ケーブルの途中部分で光ファイバを分岐する必要が生じたとする。この場合、光ケーブルのシースを所定長さ(通常は、50cm程度)を剥ぎ取って、被覆を除去する。シース内面には、押え巻きテープが溶着された状態で接着され、また、スロットには押え巻きテープが接着されていないので、シースを剥ぎ取ると同時に、その内面に接着されている押え巻きテープも同時に引裂かれて除去することができ、押え巻きテープ除去の作業を省略することができる。
【0028】
また、粗巻き紐は、押え巻きテープとは接着されていないので、押え巻きテープがシースと共に除去されても、スロットの溝に収納されている光ファイバ心線は、粗巻き紐によって保持され、全部の光ファイバ心線がスロットから出てしまうようなことはない。この結果、分岐作業も手際よくスムーズに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の概略を説明する図である。
【図2】従来技術を説明する図である。
【符号の説明】
【0030】
11…光ケーブル、12…スロット、12a…溝、13…テンションメンバ、14…光ファイバ心線、15…粗巻き紐、16…押え巻きテープ、16a…シースと接する側の材料層、16b…スロットの面に接する材料層、16c…中間の材料層、17…シース、18…溶着部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ心線を収納した溝付きスロットの外周に、粗巻き紐と押え巻きテープとシースとを順に施してなる光ケーブルであって、
前記押え巻きテープは、前記シースの内面に接して接着され、前記粗巻き紐及び前記スロットには接着されていないことを特徴とする光ケーブル。
【請求項2】
前記押え巻きテープは熱可塑性樹脂を含み、前記シースの成形時の熱により溶着されていることを特徴とする請求項1に記載の光ケーブル。
【請求項3】
前記押え巻きテープは、少なくとも2層以上の融点の異なる複数の材料層で形成されていて、融点の低い方の材料層が前記シースに接するように巻付けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の光ケーブル。
【請求項4】
前記押え巻きテープの融点の低い方の材料層が、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の光ケーブル。
【請求項5】
光ファイバ心線を収納した溝付きスロットの外周に、粗巻き紐と押え巻きテープとシースとを順に施してなる光ケーブルの製造方法であって、
前記シースの加熱温度により、前記押え巻きテープが前記シースの内面に溶着し、前記粗巻き紐及び前記スロットに溶着しないように、前記シースの加熱温度を制御することを特徴とする光ケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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