説明

光ディスク用原盤

【課題】割れにくく取り扱いが容易で、高精細パターンをもつ光ディスク用原盤を提供する。
【解決手段】表面を研磨した基板10と、基板10の研磨した面上に形成された第1下地層11と、基板10上に、第1下地層11を覆うように形成された第2下地層12と、第2下地層12上に形成された無機レジスト層13とを有する光ディスク用原盤である。更に、第1下地層11は、基板10より熱伝導率が高い下地層であり、第2下地層12は第1下地層11よりもアルカリ溶液に対して難溶な下地層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基板上に無機レジスト層を有するディスク用原盤に関し、特に取り扱いが容易で、かつ、無機レジスト層を露光させることにより高精細な凹凸パターンを形成可能とする光ディスク用原盤を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
音響データ、画像データ、その他各種デジタルデータを記録するための記録媒体としては、記録容量、ランダムアクセス性、可搬性、価格等の面から、外部からレーザ光を照射することによって情報信号の記録再生等が行われる光ディスクが産業用から民生用まで広く普及している。
【0003】
これら、光ディスクとしては、CD(Compact Disc)、DVD−VIDEO(Digital Versatile Disc−Video)等の再生専用型、CD−R(CD−Recordable)、DVD−R(DVD−Recordable)等の1回のみ記録が可能な追記型、CD−RW(CD−Rewritable)、DVD−RW(DVD−Rewritable)、DVD-RAM(DVD−Random Access Memory)等の複数回記録が可能な書き換え型、更には大容量の光ディスクとしてBD(Blu−ray Disc)等、様々なものが開発されている。
【0004】
CD等の光ディスクは光透過性の光ディスク基板上に螺旋状にピットと呼ばれる凹凸パターンを形成し、その凹凸パターン上に反射膜や保護膜を成膜して作成されているが、記録密度を高めた光ディスクでは、一般的に、主として、表面に螺旋状または同心円状に交互に形成されたグルーブ及びランドと、これらグルーブ及びランドの少なくともいずれか一方に情報信号として形成されたピットと、からなる所定形状の凹凸パターンを有する例えば光透過性のディスク基板と、その凹凸パターン上に光ディスクの種類に応じて成膜された反射膜や記録膜等の各種機能膜と、により構成される。
【0005】
高密度で凹凸パターンを形成することで大容量の光ディスクを作成することができ、高い寸法精度をもつことによって、ディスク再生時に信号の良好なアイパターンが得られ、再生エラーの少ない光ディスクを得ることができる。
【0006】
従って、良好な光ディスクを作製するにあたっては、特に、ディスク基板の表面に1/1000μm単位の高い寸法精度で凹凸パターンを形成することが重要となる。
【0007】
近年、ディスク基板の材料としては、成形性の面、価格の面などから、ポリカーボネート樹脂などの熱可塑性及び光透過性の合成樹脂が一般的に用いられる。これら合成樹脂製のディスク基板に凹凸パターンを形成する手法としては、ディスク基板に形成する凹凸パターンの母型を一面側に有する光ディスク用スタンパ盤を含む金型に、加熱により軟化した合成樹脂を圧入し、スタンパ盤上の凹凸パターンを転写しつつディスク基板を成形する、所謂、射出成形法により行うことが一般的である。ここで、光ディスク基板の成型に用いるディスク盤をスタンパ盤、スタンパ盤を作製するために光ディスク基板に形成するべきディジタル信号に対応した凹凸を形成するディスク盤を光ディスク用原盤と呼ぶ。ディスク基板の表面に高い寸法精度で凹凸パターンを形成するためには、その元となる光ディスク用原盤の凹凸パターンを高い寸法精度で形成することが必要となる。
【0008】
ここで、従来の光ディスク用原盤及びスタンパ盤の製造方法の構成図について、図8を用いて説明する。
【0009】
先ず、図8(a)に示すように、表面に光学研磨を施した後、洗浄、乾燥したガラス製の基板20上に、図8(b)に示すように感光樹脂であるフォトレジスト(有機レジスト)を所定の厚さにスピンコート法などで塗布、乾燥することで、フォトレジスト層21を形成する。これが光ディスク基板に形成すべきディジタル信号に対応した凹凸が形成される前の(ディジタル信号の記録されていない状態の)光ディスク用原盤である。
【0010】
次に、図8(c)に示すように、例えば所定の情報信号に従って断続的に出射するレーザ光22を、対物レンズ23によって集光しフォトレジスト層21に照射する。レーザ光22が照射された部分のフォトレジスト層21は感光して、所定形状のピットや案内溝等と同一形状の潜像24となる。尚、この作業を一般的にカッティングと称する。
【0011】
次に、潜像24が形成されたフォトレジスト層21にアルカリ性現像液による現像処理を施す。これにより潜像24部分が除去され、図8(d)に示すように、フォトレジスト層21上に所定形状の凹凸パターンが形成され、信号が記録された状態の光ディスク用原盤となる。
【0012】
次に、図8(e)に示すように、ニッケル等の導電性を有する金属からなる第1金属層(導電層)25を、フォトレジスト層21上に形成された凹凸パターンに沿うように無電解メッキや蒸着法、スパッタ法などを用いて成膜する。
【0013】
次に、図8(f)に示すように、第1金属層25上を電鋳用の導電層として、この第1金属層25上にニッケル等の金属からなる第2金属層26を電鋳により形成する。これにより、フォトレジスト層21上の凹凸パターンが転写された、第1金属層25と第2金属層26とからなる金属層27が形成される。
【0014】
最後に、図8(g)に示すように、金属層27を基板20及びフォトレジスト層21から剥離する。剥離した金属層27は、内外径加工および裏面研磨等の後処理が施されて光ディスク用スタンパ盤となる。
【0015】
この光ディスク用スタンパ盤は、射出成形機の金型に組み込まれ、その凹凸パターンが転写されるディスク基板の製造に使用される。
【0016】
上記手順によって光ディスク用原盤及びスタンパ盤を作製する方法は、一般的に用いられている手法ではあるが、近年の情報通信及び画像処理技術の急速な発展に伴う光ディスクの大容量化に対して対応が困難になる場合がある。即ち、光ディスクの大容量化の主な手法の一つである、光ディスク表面上に形成する凹凸パターンのトラックピッチやピット等をより微細化し、上記表面上の記録密度(記録面密度ともいう)を上げることで大容量化を図るという手法に対し、上記の有機レジストを用いたフォトンモードの光ディスク用スタンパ盤の製造方法では、レーザ光や有機レジストの制約により、微細化された凹凸パターンを光ディスク用原盤に高精度に形成することが難しくなるためである。
【0017】
例えば、1層で25GB(ギガバイト)の記録容量を有する高密度な光ディスクの場合、最短ピット長を0.14μm程度、トラックピッチを0.32μm程度にまで微細化する必要がある。使用される有機レジストとしては、一般的にノボラック系レジストや、化学増幅レジスト等の有機高分子材料からなるものである。化学増幅レジストとは、従来のレジストが光や電子線の照射による光反応を基本としているのに対し、光反応でレジスト膜中に酸を発生させ、酸を触媒とした露光後の加熱により、レジストの基本樹脂が反応してパターンを得るものである。こうした有機レジストは分子量が大きく、上記のような微細な凹凸パターンを高い寸法精度で形成することが難しい。
【0018】
このため高密度の光ディスク用原盤を作製する際には、従来のノボラック系レジストや、化学増幅レジスト等の有機高分子材料からなる有機レジストに替えて、微細な凹凸パターンの形成が可能な分子量の小さい無機レジストが用いられる。
【0019】
レジスト材料に無機材料を用いて作製される光ディスク用原盤は、レーザ光によって無機レジスト層を露光すると、無機レジストがレーザ光を吸収し、露光部分の温度が上昇し、露光部分から外れると温度が下降する。この温度変化により無機レジスト層の状態が変化し、露光部が現像液に対して選択的に可溶となるが、基板の材料の選択により以下のような問題点が生ずることが確認されている。
【0020】
例えば、ガラス製基板を使用する場合には、割れにくく取り扱いが容易であるが、熱伝導率が常温で約1W/(m・K)と低く、露光感度が高いが加熱後の冷却が緩やかである。冷却が緩やかであると、露光部分周辺部の無機レジスト材料が希望していない結晶状態になってしまい、案内溝やピット等の形状がくずれディスク再生時の信号アイパターンが劣化してしまう。そのため、高精細パターンの作製には不向きである。
【0021】
また、シリコン基板を使用する場合には、割れやすく取り扱いが難しい。さらに、熱伝導率が常温で約168W/(m・K)と高いため、無機レジスト層を状態変化させるのに十分な熱量を与えることが困難であり、露光感度が低くなってしまい加工が難しい。
【0022】
従来、シリコン基板を使用した場合に露光感度が低下する問題を解決するための提案がなされてきている。例えば、下記[特許文献1]には遷移金属の不完全酸化物を含んだ無機レジストを用いた光ディスク用原盤の製造方法に関し露光感度を改善する発明が開示されている。
【0023】
【特許文献1】特開2003−315988号公報 上記した特許文献1に開示されたレジスト材料及び微細加工方法において、シリコン基板の熱伝導率を下げ、露光感度を高める方法として、シリコン基板と無機レジスト層との間に熱伝導率の低いa−Si(アモルファスシリコン)、SiO2(二酸化ケイ素)SiN(窒化シリコン)、Al2O3(アルミナ)などで下地層を形成することでシリコン基板を用いた場合の露光感度の低下という問題点を解決する方法が提案されている。
【0024】
特許文献1によれば、シリコン基板上に熱伝導率の低い下地層を形成することで、露光時のレジスト材料への熱の蓄積が改善されるため露光感度を適切に改善することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかしながら、シリコンを基板として採用する場合、割れやすいため、取り扱いが容易ではない。そのため、割れにくく取り扱いが容易で、高精細パターンを形成可能な光ディスク用原盤が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、
表面を研磨した基板と、
前記基板の研磨した面上に形成された第1下地層と、
前記基板上に、前記第1下地層を覆うように形成された第2下地層と、
前記第2下地層上に形成された無機レジスト層と、
を有する光ディスク用原盤であり、
前記第1下地層は前記基板より熱伝導率が高い下地層であり、
前記第2下地層は前記第1下地層よりもアルカリ溶液に対して難溶な下地層であることを特徴とする光ディスク用原盤を提供することにより、上記課題を解決する。
【0027】
また、前記基板は、ガラス製または合成樹脂製の基板であることを特徴とする光ディスク用原盤を提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、取り扱いが容易で、かつ、無機レジスト層を露光させることにより高精細な凹凸パターンを形成可能とする光ディスク用原盤を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明に係る光ディスク用原盤の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【0030】
本発明の光ディスク用原盤は、表面を研磨した基板(例えば、ガラス製基板、合成樹脂製基板)と、基板上の研磨した面上に形成された基板より熱伝導率が高い第1下地層と、第1下地層を覆うように形成された第1下地層よりもアルカリ溶液に対して難溶な第2下地層と、第2下地層上に形成された無機レジスト層とを有する光ディスク用原盤である。
【0031】
図1は本発明に係る光ディスク用原盤の一実施例の構成を示した構成図である。
【0032】
先ず、図1(a)に示すように、例えば直径200mm程度、厚み0.7mm程度の円盤状のガラス製の基板10の表面を精密研磨した後、洗浄、乾燥する。実施例では基板にガラスを用いたが、ガラスの他にポリカーボネート等の合成樹脂など割れにくく取り扱いの容易な周知の基板材料を用いることができる。
【0033】
ガラス製の基板10の精密研磨された面上に、例えばAr雰囲気中でスパッタリングをおこない、図1(b)に示すように、Ag(銀)の第1下地層11を形成する。実施例では、第1下地層11としてAgを用いたが、必要な熱伝導率によっては、Au(金)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)またはそれらの合金などを用いることができる。第1下地層11は基板10よりも熱伝導率が高い材料により形成される。第1下地層11の厚さとしては、熱伝導率を考慮すれば50nm〜100nmの範囲内であることが望ましい。実施例ではまず、第1下地層11(Ag層)の厚さを100nmとした。
【0034】
そして、図1(c)に示すように、第1下地層11を覆うように第2下地層12を形成する。この第2下地層12は、例えばAr雰囲気中でスパッタリングにて原子量比がZnS(硫化亜鉛):SiO2(酸化シリコン)=80:20であるZnS-SiO2の層として形成する。実施例では、第2下地層12としてZnS-SiO2を用いたが、第1下地層11を覆うことができる材料であれば、SiN(窒化シリコン)または、Si(シリコン)などでも良い。ただし、第2下地層12は第1下地層11よりもアルカリ溶液に対して難溶な材料を用いる。これは、光ディスク用原盤の後述する現像工程においてアルカリ溶液を現像液として使用するため、第1下地層11をアルカリ溶液に対し保護することを目的とするものである。第1下地層11は基板10よりも熱伝導率の高い材料を用いるため、金属材料を用いる場合が多いと考えられる。この金属材料が露出状態になるとアルカリ溶液に対し溶解しやすい。よって、保護層としての第2下地層12を第1下地層11を覆うように設けることが重要である。
【0035】
第2下地層12の厚さは現像工程を考慮すると25nm〜100nm、さらに良いデータを得るためには、50nm〜100nmの範囲内であることが望ましい。
【0036】
次に、図1(d)に示すように、第2下地層12上に例えばスパッタリングにてW(タングステン)とMo(モリブデン)の酸化物からなる無機レジスト層13を形成する。実施例では、WとMoの酸化物からなる無機レジストを用いたが、この他にW、Mo、Cr(クロム)、Nb(ニオブ)等の酸化物、もしくはこれら元素を2種類以上を含む合金の酸化物、さらにこれら元素に遷移金属を添加した合金の酸化物、また、カルコゲナイド系の無機レジストなど、周知の無機レジストを用いることができる。
【0037】
上記により製造された光ディスク用原盤をカッティングすることにより、複製側の光ディスクに記録すべき情報信号(ディジタル信号)に対応した凹凸を形成した光ディスク用原盤を作製する。
【0038】
図2は本発明の一実施例に凹凸を形成した光ディスク用原盤の構成を示す図である。
【0039】
即ち光ディスク用原盤を所定の速度で回転させながら、図2(a)に示すように、所定の情報信号に応じた発光パターンに基づいて断続的に出射するレーザ光14を、無機レジスト層13の所定の位置に対物レンズ15を介して集光照射する。レーザ光14の照射により無機レジスト層に所定の形状の潜像16が形成される。実施例では、例えば変調信号発生器から出力されるレーザ波長405nm、対物レンズ開口数NA0.95のレーザ光を照射し、無機レジスト層13に、BD相当の密度でもっとも短い長さで規定される2T(1T=15.15ns)相当のピットの潜像を形成した。図5に実施例で用いたカッティングデータを示す。
【0040】
図5で、横軸は時間であり縦軸はレーザ強度である。Pw(mW)は、一番高くなるレーザ強度を示し、Pcl(mW)は、一番低くなるレーザ強度を示す。Ttは、Pw(mW)の強度を維持する時間に相当するもので、単位時間T(1T=15.15ns)に対し、Tt=1.3T,1.4T,1.5T,1.6T,1.7T,1.8T,1.9T,2.0Tの間で変化させたデータを用い、実施例の光ディスク原盤を作製した。また、実施例では、カッティング時の基板の回転線速度は線速度一定で4.92m/sとし、光源の送りピッチは0.32μm、レーザパワーは最大値で11mWとした。
【0041】
次に、図2(a)に戻って、潜像16が形成された光ディスク用原盤を回転させながら無機レジスト層13上に現像液を滴下して、無機レジスト層13を現像処理する。それにより、図2(b)に示すように、光ディスク基板に形成するべきディジタル信号に対応した凹凸を形成した光ディスク用原盤Aが作製される。
【0042】
例えば、無機レジスト層をポジ型のレジストにより形成した場合には、レーザ光で露光した露光部は未露光部に比較して現像液に対する溶解速度が増すので、レーザ光の露光に応じたパターンが無機レジスト層に形成される。現像液としては、例えばテトラメチルアンモニウム水酸化溶液などのアルカリ現像液を用いることができる。実施例では、潜像形成後、有機アルカリ現像液によるウエットプロセスを用いて、現像時間10分の条件で現像を行い、ピットの潜像部分を除去した。次に、現像後の光ディスク用原盤を純水により充分に洗浄しエアブロー等で乾燥させて、所定のピットを有する光ディスク原盤Aを作製した。
【0043】
上記により作製された光ディスク用原盤Aを用いて、光ディスク基板の成型に用いる光ディスク用スタンパ盤を作製する。
【0044】
図3は光ディスク用スタンパ盤の構成を示す図であり、上記により作製された光ディスク用原盤Aの凹凸パターン上に、図3(a)に示すように、例えば無電解メッキ法によりニッケル皮膜などの導電化膜17を形成する。その後、導電化膜17が形成された光ディスク用原盤を電鋳装置に取り付け、電気メッキ法により導電化膜上に例えば300±5μm程度の厚さになるようにメッキを施すことで、図3(b)に示すように、凹凸パターンを有するメッキ18層を形成する。メッキ層18を構成する材料としては、例えば、ニッケルなどの金属を用いることができる。これにより、導電化膜17とメッキ層18とからなる金属層19が形成される。
【0045】
次に図3(c)に示すように、光ディスク原盤から金属層19を剥離する。その後、この金属層19に対してトリミングを施して所定のサイズにした後、例えばアセトンなどを用いて金属層19の信号形成面に付着した無機レジストを洗浄する。以上により光ディスク用スタンパ盤Bを得ることができる。
【0046】
上記により作製された光ディスク用スタンパ盤Bの凹凸パターンを射出成型法により、ポリカーボネートなどの樹脂材料に転写して、光ディスク基板を作製する。
【0047】
光ディスク基板の材料としては、ポリカーボネート、ポリメチル・メタクリエート、ポリスチレン、ポリカーボネート・ポリスチレン共重合体、ポリビニルクロライド、脂環式ポリオレフィン、ポリメチルペンテン等の各種熱可塑性樹脂や熱硬化樹脂、紫外線硬化樹脂及び可視光硬化樹脂などの合成樹脂もしくは、ソーダライムガラス、アルミノ珪酸ガラス、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス等のセラミックス等が挙げられる。中でも、成形性及び生産性に優れたポリカーボネートが多く用いられる。
【0048】
ここでは、上記により作製された光ディスク用スタンパ盤Bを用いて一面側にピットを有する直径12cm、厚さ1.1mmのポリカーボネート製の光ディスク基板を射出成型法により作製した。
【0049】
光ディスク基板を光ディスク用スタンパ盤Bから剥離した後、ディスク基板上に反射層などの機能層をスパッタリングや蒸着法などの周知の手法により成膜する。反射層の材料としては、Al(アルミニウム)、Au(金)、Ag(銀)、Cu(銅)、Ti(チタン)、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Ta(タンタル)、Mo(モリブデン)、Fe(鉄)、Zn(亜鉛)、Ga(ガリウム)、As(砒素)、Pd(パラジウム)等の金属、またはこれら金属の合金、またはこれら金属とこれら金属の合金、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物、金属フッ化物等の金属化合物を混合したものなどが挙げられる。中でも、Al、Au、Ag等の金属もしくは合金は高い反射率と熱伝導率とを兼ね備えており、反射層の材料として特に好適である。尚、機能層には反射層に加え、照射されたレーザ光を調整する光学調整層や、レーザ光による熱の冷却能力を向上させる放射層、層間の構成元素の拡散を防止する拡散防止層等を必要に応じて適宜形成して多層化しても良い。
【0050】
ここでは、ディスク基板のピットがある面に、厚さ30nmのAg合金からなる反射層をスパッタリング法にて成膜した。
【0051】
機能層上に、保護層を形成することで、光ディスクが作製される。保護層の形成方法としては、紫外線硬化樹脂等の光硬化樹脂を所定の厚さに塗布した後、硬化することで行うことが好ましいが、ディスク基板と同等の材料の基板もしくはフィルムを接着することで形成しても良い。
【0052】
ここでは、紫外線硬化樹脂を所定の厚みで塗布した後に、紫外線を照射することで硬化し、厚さ0.1mmの保護層を形成した。これにより厚さ1.2mm、直径12cmの光ディスクを得た。
【0053】
Tt=1.3T〜2.0Tとした実施例の光ディスク原盤から以上により得られたそれぞれの光ディスクを、パルスティック工業社製ODU1000(再生光波長405nm、対物レンズ開口数NA0.85)を用い、再生光パワー0.5mWの条件で各光ディスクに形成された情報信号の再生特性評価を行い、アドバンテスト社製スペクトラムアナライザーを用いてそのC/N(Carrier to Noise ratio)を測定した結果を図6(a)に示す。図6(a)から明らかなように、Tt=1.7Tが最も安定して高いC/Nを得られた。
【0054】
ここで、上記により得られた光ディスクに形成された情報信号の再生特性評価を行うため、比較例として、基板にシリコンを用いた光ディスクを作製した。
【0055】
図4は比較例の光ディスク原盤を説明するための図である。
【0056】
先ず、図4(a)に示すように、例えば直径200mm程度、厚み0.7mm程度の円盤状のシリコン製の基板30を精密研磨した後、洗浄、乾燥した。
【0057】
次に、図4(b)に示すように、シリコン基板30上にAr雰囲気中でスパッタリングにて原子量比がZnS(硫化亜鉛):SiO2(酸化シリコン)=80:20である厚さ100nmのZnS-SiO2の下地層31を形成した。
【0058】
次に、WとMoの合金ターゲットを用いてArとO2の混合雰囲気中でスパッタリングを行い、図4(c)に示すように、WとMoの酸化物からなる厚さ60nmの無機レジスト層32を均一に成膜した。
【0059】
次に、図4(d)に示すように、この光ディスク用原盤に一般的なカッティングマシンを用いて、変調信号発生器から出力されるレーザ波長405nm、対物レンズ開口数NA0.95のレーザ光33を対物レンズ34を介して集光照射し、無機レジスト層32上にBD相当の密度で、もっとも短い長さで規定される2T(1T=15.15ns)相当のピットの潜像35を形成した。カッティングデータは、実施例と同一の図5に示すデータを用いている。Tt=1.3T〜2.0Tとした。
【0060】
また、カッティング時の基板の回転線速度は線速度一定で4.92m/sとし、光源の送り速度は0.32μm、レーザパワーは最大値で11mWとした。
【0061】
次に、光ディスク用原盤を回転させながら無機レジスト層32上に現像液を滴下して、図4(e)に示すように、無機レジスト層32を現像処理した。それにより、光ディスク基板に形成するべきディジタル信号に対応した凹凸を形成した光ディスク用原盤A1が作製された。
【0062】
次に、図4(f)に示すように、現像後の光ディスク用原盤A1の凹凸パターン上に、例えば無電解メッキ法によりニッケル皮膜などの導電化膜36を形成した。
【0063】
その後、導電化膜36が形成された光ディスク用原盤を電鋳装置に取り付け、電気メッキ法により導電化膜上に例えば300±5μm程度の厚さになるようにメッキを施すことで、図4(g)に示すように、凹凸パターンを有するメッキ層37を形成した。これにより、導電化膜36とメッキ層37とからなる金属層38が形成される。
【0064】
次に、図4(h)に示すように、光ディスク原盤から金属層38を剥離した。その後、この金属層38に対してトリミングを施して所定のサイズにした後、例えばアセトンなどを用いて金属層38の信号形成面に付着した無機レジストを洗浄した。以上により光ディスク用スタンパ盤B1を得ることができた。
【0065】
次に、上記により作製された光ディスク用スタンパ盤B1を用いて一面側にピットを有する直径12cm、厚さ1.1mmのポリカーボネート製のディスク基板を射出成型法により作製した。
【0066】
ディスク基板を光ディスク用スタンパ盤B1から剥離した後、ディスク基板上に厚さ30nmのAg合金からなる反射層をスパッタリング法により成膜した。
【0067】
次に、紫外線硬化樹脂を所定の厚みで塗布した後に、紫外線を照射することで硬化し、厚さ0.1mmの保護層を形成した。これにより厚さ1.2mm、直径12cmの光ディスクを得た。
【0068】
比較例で得た光ディスクをパルスティック工業社製ODU1000(再生光波長405nm、対物レンズNA0.85)を用い、再生光パワー0.5mWの条件で各光ディスクに形成された情報信号の再生特性評価を行い、アドバンテスト社製スペクトラムアナライザーを用いてそのC/N(Carrier to Noise ratio)を測定した結果を図6(b)に示す。図6(b)から明らかなように、比較側のディスクはTt=1.8Tで最も安定に高いC/Nを得た。
【0069】
また、図6(a)に示すように、実施例で得た光ディスクは最も高いC/Nが48.9dB(Carrier:−34.1dB、Noise:−83.0dB)となり、図6(b)に示すように、比較例で得た光ディスクでは最も高いC/Nが47.9dB(Carrier:−34.1dB、Noise:−82.0dB)となった。
【0070】
上記のC/N測定の結果をみると比較例のシリコン基板を用いて得られた原盤と比較して、実施例のガラス基板を用いた原盤は同等以上の結果が得られている。即ち実施例ではTt=1.6Tの値でC/N=48.9dBが得られているのに対し、比較例側では、Ttの最適値を探ってもTt=1.7T、1.8TのときにC/Nが47.9dBであり、実施例と比べるとC/Nの値は低い。このことから、実施例で得られる光ディスクは、Ttを最適化すると高いC/Nが得られるといえる。
【0071】
Carrierレベルについてみると、無機レジストは同じものを用いたため、差はないと考えられ、ピットの形状も同等であったと言える。従来、シリコン基板が用いられてきたのは、ガラスに比べ、冷却効果が高く、急峻な温度分布を形成できるためにピットの形状が良好になるからである。本発明はガラスでは持ち合わせない高い熱伝導率を第1下地層で提供し、シリコン基板と同等の冷却効果が得られピットの形状が良好で、同等のCarrierレベルが得られている。
【0072】
C/Nの内訳でNoiseを見てみると、本実施例では−83.0dBに対して、比較例では−82.0dBであり、本実施例のほうが1dBノイズが低減されている。良好な特性を得ている理由として、下地層に用いたAgが熱伝導率が高いという特性のほかに、薄膜にしたときに表面が良好な平滑性を持つ特性があり、原盤の平滑性が高まったためにNoiseレベルが低下したと考えられる。すなわち、Carrierは無機レジスト層のピットの出来具合に支配されるので差は出なかったがNoiseレベルの低減効果が出たため従来より高いC/Nを出すことが出来たと考えられる。
【0073】
また、製造工程では光ディスク原盤からメッキ層を剥離する工程で実施例では基板にガラスを用いているため原盤が割れてしまうことはなかったが、比較例のようにシリコンを基板とした原盤では剥離のときに原盤にかかる応力にシリコンが耐え切れず割れてしまうものも多かった。
【0074】
次に、上記ガラス基板を用いた光ディスク原盤において、第1下地層である上記Ag層の厚さを0nm、25nm、50nm、75nmに変化させ、上記と同様の工程で光ディスクを作製した。上記実施例でのAg層の厚さ100nmの場合と同様にTt=1.3T〜2.0Tとした。
【0075】
得られたそれぞれの光ディスクをパルスティック工業社製ODU1000(再生光波長405nm、対物レンズNA0.85)を用い、再生光パワー0.5mWの条件で各光ディスクに形成された情報信号の再生特性評価を行い、アドバンテスト社製スペクトロラムアナライザーを用いてそのC/N(Carrier to Noise ratio)を測定した。測定した結果を図7に示す。
【0076】
図7(b)は光ディスク用原盤のAg層(第1下地層)=0nmとして得られた光ディスクの測定結果である。図7(b)によると、Tt=1.3T,1.4Tsdqにおいて最も高いC/Nが得られる。
【0077】
図7(c)は、光ディスク用原盤のAg層=25nmとして得られた光ディスクの測定結果である。図7(c)によると、Tt=1.6T〜1.7Tにおいて最も高いC/Nが得られる。
【0078】
図7(d)は、光ディスク用原盤のAg層=50nmとして得られた光ディスクの測定結果である。図7(d)によると、Tt=1.7T〜1.8Tにおいて最も高いC/Nが得られる。
【0079】
図7(e)は、光ディスク用原盤のAg層=75nmとして得られた光ディスクの測定結果である。図7(e)によると、Tt=1.7T〜1.8Tにおいて最も高いC/Nが得られる。
【0080】
各々のAg層の厚さのディスク測定結果で得られた最良のC/Nをプロットしたものが図7(a)である。
【0081】
図7(a)によると、Ag層の厚さを25nmとして得られるC/Nは48.7dBであり、比較例のC/Nである47.9dBに対し、0.8dB良好なC/Nを得られている。
Ag層の厚さを50nm,75nm,100nmとして得られるC/Nは48.9dBであり、比較例のC/Nである47.9dBに対し、1.0dB良好なC/Nが得られている。
即ち、Ag層の厚さを25nm,50nm,75nm,100nmとして得られるC/Nは、いずれも比較例で得られたC/Nよりも高い値である。一方で、C/Nの値は記録再生時のデータエラーを改善するためには少しでも高い値であることが望ましい。
このことから明らかなように、高いC/Nを得るためにはAg層の厚さは25nm〜100nm、さらに良いデータを得るためには50nm〜100nmであることが望ましい。
【0082】
急峻な温度勾配が生ずる膜厚に設定することで高いC/Nの値を得ることができ、記録密度の改善(高密度記録化)へとつながる。また、図7(c)、図7(d)、図7(e)に示すように実施例でAg膜を形成した場合のN(ノイズ)の値はTtの値によらず安定して低い値を持ち、小さなTtの値を設定することができ、高精細パターンを形成することが可能となっている。
【0083】
以上のことから、本発明によれば、取り扱いが容易で、かつ、無機レジスト層を露光させることにより高精細な凹凸パターンを形成可能とする光ディスク用原盤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明に係る光ディスク用原盤の一実施例の構成を示す図である。
【図2】本発明に係る光ディスク用原盤の一実施例をカッティングすることにより作製される、凹凸を形成した光ディスク用原盤の構成を示す図である。
【図3】実施例の光ディスク用原盤を用いて作製される光ディスク基板の成型に用いる光ディスク用スタンパ盤の構成を示す図である。
【図4】基板にシリコンを用いて作製した比較例の光ディスク原盤を説明するための図である。
【図5】実施例のカッティングデータを示す図である。
【図6】実施例及び比較例から得られた光ディスクとのC/N(Carrier to Noise ratio)の測定結果を示す図である。
【図7】第1下地層の厚みを変えた各実施例から得られた光ディスクのC/Nを測定した結果を示す図である。
【図8】従来の光ディスク用原盤を説明するための図である。
【符号の説明】
【0085】
A 凹凸パターンの形成された光ディスク用原盤
B 光ディスク用スタンパ盤
10 基板
11 第1下地層
12 第2下地層
13 無機レジスト層
14 レーザ光
15 対物レンズ
16 潜像
17 導電化膜
18 メッキ層
19 金属層
20 基板
21 フォトレジスト層
22 レーザ光
23 対物レンズ
24 潜像
25 第1金属層
26 第2金属層
27 金属層
30 基板
31 下地層
32 無機レジスト層
33 レーザ光
34 対物レンズ
35 潜像
36 導電化膜
37 メッキ層
38 金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を研磨した基板と、
前記基板の研磨した面上に形成された第1下地層と、
前記基板上に、前記第1下地層を覆うように形成された第2下地層と、
前記第2下地層上に形成された無機レジスト層と、
を有する光ディスク用原盤であり、
前記第1下地層は前記基板より熱伝導率が高い下地層であり、
前記第2下地層は前記第1下地層よりもアルカリ溶液に対して難溶な下地層であることを特徴とする光ディスク用原盤。
【請求項2】
前記基板は、ガラス製または合成樹脂製の基板であることを特徴とする請求項1記載の光ディスク用原盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−70497(P2009−70497A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238628(P2007−238628)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】