説明

光ファイバの接続方法及びこれに用いる屈折率整合剤

【課題】任意の断面構造を有する空孔構造ファイバに対し、接続損失特性及び反射減衰特性が良好なメカニカルスプライス接続を可能とすること。
【解決手段】コア1の周囲に複数の空孔3を有する空孔構造ファイバをメカニカルスプライスにより屈折率整合剤を用いて接続するに際して、屈折率整合剤4の空孔3への最大浸透長さZmaxを、屈折率整合剤4の屈折率の純石英ガラスの屈折率に対する比屈折率差Δhと、コア1の屈折率の純石英ガラスの屈折率に対する比屈折率差Δとの間の比率であるRΔ(=Δh/Δ)の関数として制御することで、屈折率整合剤4の空孔3への浸透によるモード結合損失の増加を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの接続技術、詳細には屈折率整合剤を用いたメカニカルスプライスによる接続技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
コアの周囲に複数の空孔を有する光ファイバ(以下、空孔構造ファイバと呼ぶ。)は、その構造により、広帯域なシングルモード動作や、可視光波長での零分散特性、更には曲げ損失特性の低減など、従来の光ファイバでは不可能であった特性を実現できる。
【0003】
一方、光ファイバの接続技術の一つである屈折率整合剤を用いたメカニカルスプライスによる接続は、光ファイバの簡便かつ安価な接続を可能とする。しかしながら、従来のメカニカルスプライス技術により空孔構造ファイバを接続すると、空孔の内部に屈折率整合剤が浸透し、接続損失が増加するという課題があった。そこで、屈折率整合剤の硬度を調整することにより、空孔への屈折率整合剤の浸透長さを制御する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−42335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
空孔の内部に屈折率整合剤が浸透することによる接続損失の増加は、屈折率整合剤が浸透した空孔と空孔構造ファイバのコアとが擬似的に平行導波路を形成し、当該平行導波路区間でモード結合が生じ、屈折率整合剤が浸透した空孔の光パワーが損失となることに起因する。
【0006】
ここで、モード結合による損失量は、隣接する平行導波路間の距離及び伝搬定数差に依存して変化する。伝搬定数は各導波路の構造(円筒導波路の場合はコアの半径と比屈折率差)に依存して変化する。そのため、空孔構造ファイバにおけるモード結合損失は、当該空孔構造ファイバの空孔構造、即ち空孔の直径及びコアと空孔との間の距離に依存し、良好な接続特性を実現するために必要となる屈折率整合剤の許容浸透長さも変化する。従って、任意の空孔構造を有する空孔構造ファイバのメカニカルスプライスによる接続を実現するためには、屈折率整合剤の硬度を最適化するのみでは不十分であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこのような背景を鑑みてなされたものであって、その目的とするところは任意の空孔構造を有する空孔構造ファイバに適用可能なメカニカルスプライス技術を提供することにある。
【0008】
具体的には、メカニカルスプライスに用いる屈折率整合剤の空孔への最大浸透長さZmaxを、前記屈折率整合剤の屈折率の純石英ガラスの屈折率に対する比屈折率差Δhと、被接続空孔構造ファイバのコアの屈折率の純石英ガラスの屈折率に対する比屈折率差Δとの間の比率であるRΔ(=Δh/Δ)の関数として制御することで、課題を解決する手段としている。
【0009】
なお、本発明方法が対象とするのは、少なくとも一方が空孔構造ファイバである2本の光ファイバをメカニカルスプライスにより屈折率整合剤を用いて接続する場合であるが、この際、屈折率整合剤の空孔への浸透長さとは、空孔構造ファイバ同士を接続する場合では接続しようとする2つの空孔構造ファイバにおける浸透長さの合計をいい、また、空孔構造ファイバと空孔のない光ファイバとを接続する場合では接続しようとする1つの空孔構造ファイバにおける浸透長さをいうものとする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、屈折率整合剤の空孔への浸透長さの最大値Zmaxを、前記屈折率整合剤の純石英ガラスに対する比屈折率差Δhと、被接続空孔構造ファイバのコアの純石英ガラスに対する比屈折率差Δとの比率RΔの関数として制御することにより、前記屈折率整合剤の空孔への浸透によるモード結合損失の増加を抑制できるという効果を発揮する。
【0011】
具体的には6個以上の空孔を有する空孔構造ファイバにおいて、前記屈折率整合剤の空孔への浸透長さの最大値Zmax(μm)と前記比屈折率差同士の比率RΔを、下記式(1)を満たすよう制御することにより、モード結合損失を0.05dB以下に低減できるという効果を発揮する。
【0012】
Zmax≦0.888RΔ-2.907+18.671RΔ-1.005 (1)
また、前記式(1)は、モード結合損失が最大となる空孔構造(空孔の直径及びコアと空孔との間の距離)条件において導出されているため、任意の空孔構造を有する空孔構造ファイバに対してもモード結合損失の低減効果を有するという特徴も有する。
【0013】
更に、本発明によれば、実効的な使用温度環境における、接続点の反射特性も考慮に入れ、当該条件における前記比屈折率差同士の比率RΔの設定範囲と、屈折率整合剤の屈折率の温度係数TDの設定範囲を明らかにしたことにより、任意の実使用環境において所望のメカニカルスプライス特性を実現できるといった効果も発揮する。
【0014】
また、さらに前記式(1)、並びに前記RΔ及び温度係数TDの設定範囲は、一般的な光ファイバのコア構造(コア部の半径と比屈折率差)から導出された、汎用的な規格化周波数V値の範囲において最適化されているため、本発明のメカニカルスプライスは、空孔構造を有さない通常の光ファイバに対しても良好な適用性を有するといった効果も発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】空孔構造ファイバの断面構造及び空孔構造ファイバのメカニカルスプライスによる接続点近傍のようすを示す模式図である。
【図2】MFDをパラメータとした、規格化周波数Vとモード結合損失αとの関係を示すグラフである。
【図3】R/aをパラメータとした、規格化周波数Vとモード結合損失αとの関係を示すグラフである。
【図4】規格化周波数Vをパラメータとした、空孔占有率Sとモード結合損失αとの関係を示すグラフである。
【図5】空孔数Nをパラメータとした、規格化周波数Vと屈折率整合剤の許容最大浸透長さZmaxとの関係を示すグラフである。
【図6】空孔数Nをパラメータとした、比屈折率差同士の比率RΔと屈折率整合剤の許容最大浸透長さZmaxとの関係を示すグラフである。
【図7】比屈折率差同士の比率RΔと屈折率の温度係数TDとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明するが、これにより本発明の範囲が制限されるものではない。
【0017】
空孔構造ファイバのメカニカルスプライスによる接続において所望の接続特性を得るための屈折率整合剤の空孔への浸透長さ、屈折率整合剤の屈折率、当該屈折率の温度係数の関係を説明する。
【0018】
図1(a)に空孔構造ファイバの断面構造、図1(b)に空孔構造ファイバのメカニカルスプライスによる接続点近傍のようすを示す。
【0019】
空孔構造ファイバは、半径がaで純石英ガラスの屈折率に対する比屈折率差がΔのステップ型のコア1と、その周囲のクラッド2にコア1中心からの距離がRの円周上に外接する直径dのN個の空孔3とを有するものとした。ここで、空孔占有率Sは空孔が内接及び外接する円で囲まれるリング状の領域において、空孔3が占める面積割合であり、式(2)のように定義した。
【0020】
S≡{N・π・(d/2)2}/{π(R+d)2−πR2} (2)
また、メカニカルスプライスの接続点では、純石英ガラスの屈折率に対する比屈折率差Δhの屈折率整合剤4が長さzに亘ってN個の空孔3に均一に浸透し、擬似的に非対称平行導波路を形成するものとした。
【0021】
一般に、メカニカルスプライスによる接続の損失要因としては、軸ずれ損失、端面間隔損失、ファイバ角度ずれ損失が挙げられ、これらの損失要因は空孔構造の有無に依存しないと考えられる。そこで、以下の実施例では、空孔構造ファイバの接続に固有の接続損失要因となる非対称平行導波路間のモード結合損失に着目して検討を行った。また、屈折率整合剤の屈折率の純石英ガラスの屈折率に対する比屈折率差及びコアの屈折率の純石英ガラスの屈折率に対する比屈折率差をそれぞれΔh及びΔとし、ΔhとΔとの比率を、RΔ≡Δh/Δとして定義した。
【0022】
図2に信号光の波長λ=1625nm、N=6、S=0.5、R/a=2、z=100μm、RΔ=1における規格化周波数V値とモード結合による損失α(dB)との関係を示す。図中の実線、破線及び点線は、空孔が存在しない状態における波長1.31μmの、コア構造により決定されるモードフィールド径(MFD:Mode-field diameter)をそれぞれ8、9及び10μmとした時の結果を表す。MFDが小さい程、損失αが大きいことが分かる。以下、例えば、シングルモードファイバ(SMF:Single-mode fiber)下限のMFDであるMFD=8.6μmの場合を考慮する。
【0023】
図3に信号光の波長λ=1625nm、N=6、S=0.5、MFD=8.6μm、z=100μm、RΔ=1における規格化周波数V値とモード結合による損失α(dB)との関係を示す。図中の実線、破線及び点線は、R/aをそれぞれ2、2.5及び3とした時の結果を表す。R/aが小さい程、損失αが大きいことが分かる。
【0024】
ここで、空孔構造ファイバのMFDはR/aと関係し、R/a≧2において、MFDの縮小率は10%以下となり、MFD不整合損失の観点から、SMFとの接続性を考慮するとR/a≧2が望ましい(Kazuhide Nakajima, et al., "Hole-Assisted Fiber Design for Small Bending and splice losses" Photonics technology letters, Vol. 15, No. 12,p.1739, December 2003(参考文献1)参照)。
【0025】
図4に信号光の波長λ=1625nm、N=6、R/a=2、MFD=8.6μm、z=100μm、RΔ=1における空孔占有率Sとモード結合による損失α(dB)との関係を示す。図中の実線、破線及び点線は、規格化周波数V値をそれぞれ2、2.2及び2.5とした時の結果を表す。図4より損失αはSの変化に伴い周期的に変化することが分かる。ここで、各V値において損失が最大となる空孔占有率SをSmaxとして定義する。なお、N=6の時、S≧0.75では、ファイバ断面上において隣接する空孔が重なりあい、ファイバ形状を維持することが不可能となる。そこで、以下では、実効的にファイバ断面内で空孔構造を維持可能な空孔占有率の上限を0.7と仮定して検討を行った。
【0026】
図5に信号光の波長λ=1625nm、α=0.05dB、S=Smax、R/a=2、MFD=8.6μm、RΔ=1における規格化周波数V値と屈折率整合剤の浸透長さの最大値Zmax(μm)との関係を示す。図中の実線、破線及び点線は、Nをそれぞれ6、8及び10とした時の結果を表す。図の実線、破線及び点線以下の領域において、モード結合による損失増加を0.05dB以下とすることが可能となる。
【0027】
図5より、V値が小さい程、Zmaxが小さいことがわかる。ここで、一般的なSMFのV値はコアの半径aとコアの比屈折率差Δに比例して変化する。国際公開第2004/092793号公報(参考文献2)によると、通常のSMFにおいて、零分散波長、遮断波長、曲げ損失特性の要求条件により決定されるコアの半径a及びコアの比屈折率差Δの下限値は、それぞれ3.2μm及び0.3%であり、規格化周波数Vの式にa=3.2μm、Δ=0.3%を代入し、V値は約1.7となる。そこで、以下では、V=1.7のコア構造を接続損失の最悪条件として検討を行った。
【0028】
図6に信号光の波長λ=1625nm、α=0.05dB、V=1.7、S=Smax、R/a=2、MFD=8.6μmにおける屈折率整合剤の浸透長さの最大値Zmax(μm)とRΔの関係を示す。図中の実線、破線及び点線は、Nをそれぞれ6、8及び10とした時の結果を表す。図の実線、破線及び点線以下の領域において、モード結合による損失増加を0.05dB以下とすることが可能となる。また、各空孔数におけるZmax(μm)とRΔの関係は、それぞれ下記式(3)〜(5)にて近似できる。
【0029】
N=6:Zmax=0.888RΔ-2.907+18.671RΔ-1.005 (3)
N=8:Zmax=0.854RΔ-4.453+21.986RΔ-1.336 (4)
N=10:Zmax=4.509RΔ-5.509+31.055RΔ-1.568 (5)
これらの関数を利用することで、任意の空孔構造ファイバのファイバ構造に対して、所望の接続特性を実現するために必要な屈折率整合剤の許容最大浸透長さと屈折率を導出することが出来る。
【0030】
図7にV=1.7、MFD=8.6μmの空孔構造ファイバにおける−40℃〜75℃の環境温度で反射減衰量が40dB以上となるRΔと屈折率整合剤の屈折率の温度係数TD(×10-4/℃)の関係を示す。図の実線以下の領域において40dB以上である。また、実線は、下記式(6)により近似できる。
【0031】
TD=−4.549RΔ×10-5+2.0415×10-4 (6)
図6及び図7の条件を満たす屈折率整合剤において、損失αが0.05dB以下かつ反射減衰量が40dB以上となる。例えば、N=6の空孔構造ファイバに対して、R/a、S及びV値に因らず、Zmaxが100μmの時、0≦RΔ≦0.3、かつ0≧TD≧−2.2×10-4/℃の屈折率整合剤の条件であれば、モード結合による損失を0.05dB以下にし、かつ−40℃〜75℃の環境温度で反射減衰量が40dB以上の特性を得ることが出来る。
【0032】
表1に信号光の波長1550nmにおける接続損失の評価例、ここでは空孔構造ファイバ同士を接続した場合及びSMF同士を接続した場合の例を示す。なお、本実施例の接続損失の測定に用いた空孔構造ファイバの空孔数は6であった。また、RΔは約1、屈折率整合剤の平均浸透長は19μmであり、本実施例の式(3)に示した好適な接続条件を満足している。
【0033】
【表1】

【0034】
表1より、空孔構造ファイバ同士の接続とSMF同士の接続とにおける平均接続損失の差分は0.02dBであり、モード結合損失による接続損失の増加量が0.05dB以下に低減されていることが確認できる。また、従来のメカニカルスプライスのSMF接続を実施した場合の代表的な平均接続損失は、三木哲也、須藤昭一「光通信技術ハンドブック」、オプトロニクス社、2002年、p. 246(参考文献3)によると、0.2dB以下であり、本発明のメカニカルスプライスが空孔構造を有さない、通常のSMFに対しても良好な適用性を有することが確認できる。
【0035】
これまでの説明において、ファイバ断面においてファイバ中心から空孔位置Rの1つの同心円に外接するように1層の空孔が配置される断面構造について説明したが、複数のRに対し多層に空孔が配置された場合についても最内層の空孔とコアとの間のモード結合による損失増加が支配的となるため、前記式(3)、(4)、(5)、(6)が適用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1:コア、2:クラッド、3:空孔、4:屈折率整合剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方がコアの周囲に複数の空孔を有する空孔構造ファイバである2本の光ファイバをメカニカルスプライスにより屈折率整合剤を用いて接続する方法において、
前記屈折率整合剤の前記空孔への浸透長さの最大値Zmaxを、前記屈折率整合剤の屈折率の純石英ガラスの屈折率に対する比屈折率差Δhと、前記コアの屈折率の純石英ガラスの屈折率に対する比屈折率差Δとで表される比率RΔ=Δh/Δの関数として制御する
ことを特徴とする光ファイバの接続方法。
【請求項2】
前記空孔構造ファイバの空孔の数が6個以上であり、前記屈折率整合剤の前記空孔への浸透長さの最大値Zmax(μm)と前記比屈折率差同士の比率RΔとが
Zmax≦0.888RΔ-2.907+18.671RΔ-1.005
の関係を満たす
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの接続方法。
【請求項3】
前記比屈折率差同士の比率RΔが
0≦RΔ≦0.3
の範囲であり、かつ前記屈折率整合剤の屈折率の温度係数TDが
0≧TD≧−4.549RΔ×10-5+2.0415×10-4
の範囲である
ことを特徴とする請求項2に記載の光ファイバの接続方法。
【請求項4】
少なくとも一方がコアの周囲に複数の空孔を有する空孔構造ファイバである2本の光ファイバをメカニカルスプライスにより接続する際に用いられる屈折率整合剤であって、
前記屈折率整合剤の屈折率の純石英ガラスの屈折率に対する比屈折率差Δhを、当該比屈折率差Δhと前記空孔構造ファイバのコアの屈折率の純石英ガラスの屈折率に対する比屈折率差Δとによって表される比率RΔ=Δh/Δが、屈折率整合剤の前記空孔への浸透長さの最大値Zmaxを制御するための関数として用いられる場合の値とする
ことを特徴とする光ファイバの接続に用いる屈折率整合剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−154294(P2011−154294A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16961(P2010−16961)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】