説明

光ファイバの製造方法及び製造装置並びにクリーニング装置

クリーニング手段により光ファイバの表面の異物を直接拭取るような形態で、光ファイバの表面に付着或いは析出した異物を確実に除去して信頼性の高い光ファイバを製造でき、且つ、そのための設備はシンプルでメンテナンスが容易な光ファイバの製造方法とその製造装置を提供する。走行経路上にクリーニング部材(11)を配置し、走行中の光ファイバ(20)の表面を、クリーニング部材(11)に物理的に接触させてクリーニングする。このクリーニング部材(11)は、多孔質状の部材或いはメッシュ状の部材で形成することができる。メッシュ状の部材は、繊維糸を編んだ繊維シートで形成することができ、この繊維シートを複数枚積層して、光ファイバ(20)のクリーニング長に対して所定の積層厚さが得られるようにする。なお、光ファイバの凹凸検知或いは光ファイバ(20)に着色を施す前に光ファイバをクリーニング部材(11)に通すようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、光ファイバの表面に付着したごみ、ほこり等の塵埃、析出により生じた異物等を除去するクリーニング処理を施してなる光ファイバの製造方法及び製造装置並びにクリーニング装置に関する。
【背景技術】
光ファイバの製造において、通常、光ファイバ母材から線引きされた直後のガラスファイバに保護被覆を施して、機械的強度を補強している。この保護被覆を施した後に引続いて、光ファイバの使用形態に応じて、さらに強度を高めるための二次被覆を施したり、光ファイバの表面に着色塗料を塗布して着色層を形成したりすることがある。また、ガラスファイバに保護被覆を施した後、一旦リールに巻き取っておき、調尺(光ファイバ長の測定)して所定の長さの光ファイバに小分する等の巻き替えを行なったりする。さらに、後日に二次被覆や着色を施したり、或いは複数本の光ファイバをテープ状にして共通被覆で一体化するなど、心線化或いはケーブル化が行なわれる。
特に、後者の保護被覆を施した光ファイバを一旦リールに巻き取ってから二次被覆を形成する場合に、光ファイバは誘電体でもあることから帯電しやすく、ごみ、ほこり等の塵埃が付着しやすい。光ファイバの表面に塵埃等が付着した状態で、その外側に次の被覆等を形成すると、信号の伝送特性に悪影響を与えたり、強度の低下や着色層剥がれを引き起こすことがある。このような点を防止するために、例えば、特許文献1には、走行中の光ファイバを先細ノズル状の貫通孔に通し、貫通孔内にガスを吹き付けて、光ファイバ表面に付着している塵埃等の異物を除去する技術が開示されている。
また、特許文献2には、燃焼により発生する電荷移動可能な物質(水、アンモニア、塩化水素、二酸化硫黄などの分子、及びそれらを活性化させたもの)を含む雰囲気に、被覆光ファイバを接触させる技術が開示されている。そして、この処理を実施することにより、光ファイバに帯電した静電気の除去と帯電防止を実現し、光ファイバに塵埃等の異物が付着しないようにすることができるとされている。
さらに、特許文献3には、ガラスファイバに最初の保護被覆を施した光ファイバを、一旦リールに巻き取った後、光ファイバ表面に着色を施すまでの時間管理を行ない、所定時間内に着色層を形成することにより、着色層の剥がれを防止できることが開示されている。
【特許文献1】:特開平5−11155号公報
【特許文献2】:特開平10−194791号公報
【特許文献3】:特開平9−268033号公報
【発明の開示】
特許文献1に開示の技術においては、光ファイバにガスを吹き付けることにより光ファイバ表面に付着した異物の除去を行なっている。しかしながら、異物の付着状態が比較的軽い場合は除去できるとしても、時間が経過するなどして付着状態が強くなると、ガスの吹き付けでは除去しきれない場合がある。また、特許文献2に開示の技術においては、電荷移動可能な物質を含む雰囲気に光ファイバを触れさせたりするものの、光ファイバ表面の異物を物理的に除去しているものではないので、光ファイバの表面に付着した異物を完全に除去することはできない。さらに、これらに開示の技術は、光ファイバ表面の異物を除去するためのガスや帯電除去物質を必要とすると共に、これらのガスや帯電除去物質を供給するための大掛かりな機構や装置が必要とし、メンテナンスにも手間を要するという問題がある。
特許文献3に開示の技術おいては、光ファイバの着色層の剥がれ防止に、光ファイバの線引き後から着色までの時間を管理している。しかし、光ファイバの線引とその直後の保護被覆を施す部所或いは業者と、光ファイバに着色等の二次被覆を形成する部所又は業者が異なる場合には、実質的に時間の管理が不可能であり、現実的ではない。
また、最近、保護被覆された光ファイバを長期間据え置いたままにしておくと、保護被覆の表面に微細な粉のような析出物が生じることが、本発明者によって明らかにされた。これは、保護被覆(通常は紫外線効果樹脂を使用)中の物質が、短期間(例えば、1年未満)では析出しないが時間の経過と共に、被覆表面に析出してくるものと思われる。この析出物が生じている状態のまま光ファイバに着色層を形成すると、着色層の剥がれが生じるものと考えられる。
光ファイバの巻き替え工程等において、光ファイバ表面の凹凸異常の検出を管理項目として設定している場合、光ファイバに付着している塵埃、析出物等の異物は、光ファイバの凸部として検出されることがある。これらの異物は、実際は拭取ることにより除去可能であって本来的な異常でないにも係らず、光ファイバの外形異常とされ誤検出の原因となる。この誤検出が多いと、光ファイバの切断・除去する作業や再検査の作業が増加し、生産性を低下させコスト増となる。
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、クリーニング手段により光ファイバの表面の異物を直接拭取るような形態で、光ファイバの表面に付着或いは析出した異物を確実に除去して信頼性の高い光ファイバを製造でき、且つ、そのための設備はシンプルでメンテナンスが容易な光ファイバの製造方法とその製造装置を提供することを目的とする。
本発明による光ファイバの製造方法は、走行経路上にクリーニング部材を配置し、走行中の光ファイバの表面を、クリーニング部材に物理的に直接接触させてクリーニングする。このクリーニング部材は、多孔質状の部材或いはメッシュ状の部材で形成することができる。メッシュ状の部材は、繊維糸を編んだ繊維シートで形成することができ、この繊維シートを複数枚積層して、光ファイバのクリーニング長に対して所定の積層厚さが得られるようにする。また、クリーニング部材を電気的に接地し、光ファイバの凹凸検出を行なう前に光ファイバをクリーニング部材に通すようにする。なお、光ファイバに着色する場合は、着色を施す前に光ファイバをクリーニング部材に通すようにする。
本発明によれば、光ファイバの表面に付着している塵埃、析出物等の異物をクリーニング部材で拭取るようにして効率よく除去することができ、信頼性ある光ファイバの製造を可能とする。また、クリーニング部材は、多孔質或いはメッシュ状の部材を光ファイバ表面に物理的に接触させるだけの簡単な部材で実現することができ、設備的には簡単な装置でメンテナンスも実質的には不用とすることができる。
【図面の簡単な説明】
図1A〜図1Dは、本発明の概略を説明する図である。
図2は、本発明のメッシュ部材を繊維シートで形成した例を示す図である。
図3は、クリーニング部材の種類による光ファイバの凹凸検出の誤検出回数を測定した結果を示す。
図4A〜図4Bは、繊維シートと光ファイバの着色層剥がれの関係を説明する図である。
図5A〜図5Bは、繊維シートと光ファイバのクリーニング長との関係を説明する図である。
図6は、本発明を光ファイバ巻き替え装置に適用した例を示す図である。
図7は、本発明を光ファイバ着色装置に適用した例を示す図である。
図8A〜図8Cは、本発明によるクリーニングユニットの設置例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の概略について添付された図面を参照しながら説明する。図1Aは本発明による光ファイバのクリーニングを説明する図、図1Bは光ファイバの状態を説明する図、図1Cはクリーニング部材を多孔質部材で形成する例を示す図、図1Dはクリーニング部材をメッシュ部材で形成する例を示す図である。図中、10はクリーニングユニット、11はクリーニング部材、11aは多孔質部材、11bはメッシュ部材、12は保持枠、20は光ファイバ、21はガラスファイバ、22は保護被覆、23は塵埃、24は析出物を示す。
本発明は、図1Aに示すように、光ファイバの走行経路上にクリーニング部材11を配置し、走行中の光ファイバ20の表面にクリーニング部材11を物理的に接触させ、光ファイバ20の表面上に付着している異物を拭取るようにして、光ファイバを製造することにある。光ファイバ20は、図1Bに示すように、コアとクラッドからなるガラスファイバ21の外周を紫外線硬化樹脂等の保護被覆22で保護したものである。保護被覆22は、通常、光ファイバ母材を加熱溶融してガラスファイバ21を線引した直後に施される被覆で、1層又は2層で形成される。
ガラスファイバ21は、標準の規格では外径が125μmとされ、線引時の保護被覆22は、外径が250±15μm程度で施され、この状態での光ファイバを、一般に光ファイバ素線と称することがある。本発明において、「光ファイバ」とは、特に付言がない限り前述の線引時に形成された保護被覆22で被覆された状態の光ファイバ素線を意味するものとする。
光ファイバ20は、線引された後一旦リールに巻きとられた後、調尺されて所定の長さに小分けする等の巻き替えが行なわれたり、二次被覆や着色を施したり、或いは、複数本を束ねて多心の光ケーブルや光テープ心線とされる。この課程において、光ファイバ20は、サプライリールから繰出されてガイドローラ等を通る際に、光ファイバの表面にごみやほこり等の塵埃23が付着する。光ファイバ20は、ガラスと紫外線硬化樹脂等の絶縁体で形成されていることから、帯電しやすく塵埃23が付着しやすい線材であるといえる。また、この他に、光ファイバ20を線引した後、長期間経過すると光ファイバの表面に微小な粉状の析出物24が生じることがある。
本発明では、上述したように、種々の形態における光ファイバの処理課程において、光ファイバ20の表面に付着したこれらの塵埃23や析出物24等の異物をクリーニング部材11で除去することを対象とし、後の加工処理に悪影響を与えないようにする。光ファイバの表面に付着した異物は、特許文献1のようにガスを吹き付けるだけで簡単に除去できるものもあるが、異物との付着力が強く簡単に除去できないものもある。特に析出物24は、ガスを吹付けで除去できないことが多い。そこで、本発明では、クリーニング部材11で光ファイバの表面を物理的に擦って、拭取るようにして異物の除去を行なう。
このため、クリーニング部材11としては、光ファイバ20の保護被覆22に傷を与えないように、保護被覆22よりも軟質で柔軟な部材を用いる必要がある。この部材の一例として、図1Cに示すように、スポンジ状の多孔質部材11aを用いることができる。この多孔質部材11aは、例えば、ゴム、ポリウレタン、ポリエチレン、アクリル、ナイロン、塩化ビニル或いはこれらの複合材、或いは、発泡材等の各種合成または天然材を用いて形成することができる。
また、より好適なクリーニング部材11としては、図1Dに示すように、メッシュ部材11bを用いることができる。メッシュ部材11bとしては、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、シルク、コットン等の複合材、或いは、その他各種の合成樹脂または天然素材からなる繊維をメッシュ状にして用いることができる。なお、保持枠12は、クリーニング部材11を保持できるように、クリーニング部材11より剛性の大きい材料、例えば、金属(鉄、ステンレス、アルミ、銅等)や合成樹脂(テフロン(R)、塩化ビニル、アクリル、ポリプロピレン、ポリエチレン等)によって構成する。
図2は、図1Dのメッシュ部材を繊維シート13で形成した例を示す図である。繊維シート13は、例えば、ストッキング素材として使用されている形状のものを用いることができる。ストッキング素材は、伸縮性と柔軟性を備えており、これを適当な形状に裁断して所要枚数積層することにより、安価なメッシュ部材を得ることができる。
図3に、クリーニング部材にシート状のスポンジとストッキングを使用して、全長5kmの光ファイバをクリーニングして光ファイバの凹凸検出を行ない、その誤検出回数を測定した結果を示す。このうち、試料No.5は、比較のためにクリーニング部材を使用しないときの光ファイバに対するもので、凹凸の誤検出回数は27回(5.4回/km)であった。これに対し、クリーニング部材に、試料No.1(スポンジ1重)の場合の誤検出回数は、17回(3.4回/km)で、試料No.2(スポンジ4重)の場合の誤検出回数は、13回(2.6回/km)であった。また、試料No.3(ストッキング4重)の場合の誤検出回数は10回(2.0回/km)で、試料No.4(ストッキング8重)の場合の誤検出回数は0回であった。
図3の結果から、スポンジ材のような多孔質部材、或いは、ストッキング材のようなメッシュ部材を用いて、光ファイバの表面をクリーニングすることは、光ファイバ表面の異物除去に有効であることは明らかである。また、試料No.2と試料No.3との比較から、スポンジ材のような多孔質部材よりストッキング材のようなメッシュ部材の方が、異物除去に効果的であるといえる。さらに、これらの部材を複数枚使用して多重構造とすることで、クリーニング作用をより高めることができることも明らかである。
また、ストッキングのような繊維シートを用いた場合、繊維の太さやメッシュの大きさで、光ファイバに対するクリーニング作用の有効性がどのように変わるかを調査した。図4Aに示すように、繊維シート13の繊維糸13aの太さをF(mm)とし、繊維糸13aのメッシュ間隔をG(mm)とする。そして、この繊維シート13に突き通される光ファイバの外径(保護被覆の外径)をDとする。D=0.245mmの光ファイバを長さ5km単位で、上記のメッシュ間隔G、及び繊維糸の太さFを変えてクリーニングした。クリーニングしたそれぞれの光ファイバの表面に着色塗料による着色層を形成し、その着色層の剥がれ具合を調べた。
図4Bに示す調査結果では、繊維糸13aの太さFが0.007mmの繊維シート13でクリーニングした全ての光ファイバで、着色層の剥がれが生じた。また、繊維糸13aのメッシュ間隔Gを0.25mmとした繊維シート13でクリーニングした全ての光ファイバで、着色層の剥がれが生じた。
この結果から、繊維糸13aの太さFがあまり細いと、拭取り力が弱くクリーニング作用が有効に働いていないものと思われる。したがって、繊維糸13aの太さFは、大よそ0.01mm以上のものを用いるのが望ましい。また、繊維糸13aのメッシュ間隔Gが、光ファイバの外径Dに近い値であると、光ファイバがメッシュをすり抜けてしまい、クリーニング作用が有効に働かないものと思われる。したがって、メッシュ間隔Gが0.18mm以下の場合は、着色層の剥がれが生じないことから、繊維糸13aのメッシュ間隔Gは、大よそ光ファイバの外径Dの80%以下、すなわち、G≦0.8×Dとするのが望ましい。
また、光ファイバをクリーニングして着色を施した際に、着色層剥がれが生じない長さを「着色可能長L(km)」とし、繊維シートの積層量の関係を調べた。図5Aは、着色可能長Lと繊維シートの積層枚数の関係を示す図、図5Bは繊維シートの積層枚数を積層厚みTに換算して着色可能長Lとの関係をグラフ化した図である。なお、この調査には、使用した光ファイバの外径Dを0.245mmで一定とし、図4Bの結果に基づいて、繊維シートのメッシュ間隔Gを0.18mmで固定値とし、繊維糸の太さFを0.04mmと0.12mmの2種類のものを用いた。この繊維シートの積層厚みTは、「繊維糸の太さF×積層枚数」とした。
図5Aによれば、着色可能長Lを30kmとすると、必要な繊維シートの積層枚数は、繊維糸の太さFが0.04mmの場合で16枚、繊維糸の太さFが0.12mmの場合で5枚、積層厚みTに換算すると0.64mmと0.6mmとなる。着色可能長Lを50kmとすると、必要な繊維シートの積層枚数は、繊維糸の太さFが0.04mmの場合で24枚、繊維糸の太さFが0.12mmの場合で8枚、積層厚みTに換算するといずれも0.96mmとなる。また、着色可能長Lを100kmでは必要な繊維シートの積層枚数は、繊維糸の太さFが0.04mmの場合で48枚、繊維糸の太さFが0.12mmの場合で16枚、積層厚みTに換算するといずれも1.92mmとなる。
図5Bに示すように、上述した調査結果に基づいて、着色可能長Lと積層厚みTの関係を図式化すると、「L≦54×T−3.4」という一次式で表せることが判明した。したがって、この関係式から、着色を施す光ファイバ長(着色可能長L)が決まれば、着色前の光ファイバにクリーニングをするために用いる繊維シートの仕様、積層厚さ(積層枚数)を容易に設定することができる。これを言いかえると、クリーニングが確実に実施される光ファイバ長をLとすると、上記の一次式を満足する積層厚さ(積層枚数)の繊維シートを用いてクリーニングをするのが望ましいということになる。
図6は光ファイバ巻き替え時における本発明の適用例を説明する図、図7は光ファイバ着色時における本発明の適用例を説明する図である。図中、10はクリーニングユニット、20は光ファイバ、31はサプライリール、32はキャプスタンローラ、33は巻取りリール、34はガイドローラ、35は光ファイバ凹凸検出器、36aはサプライダンサローラ、36bは巻取りダンサローラ、37は着色ダイス、38は紫外線硬化装置である。
光ファイバ20は、線引時に形成された保護被覆で被覆された状態のもので、その後の被覆や着色が施されていない光ファイバ素線と称されているものである。クリーニングユニット10は、図1A〜図5Bで説明したクリーニング部材からなり、光ファイバ20の走行経路上に配置され、走行中の光ファイバ20の表面に物理的に直接接触して、光ファイバの表面に付着している塵埃、析出物等の異物を拭取るようにして除去するものである。また、クリーニングユニット10は、図に示すように電気的に接地して、光ファイバ20に帯電している電荷を除去するようにすることができる。さらに、光ファイバ20に帯電防止効果を付与するために、クリーニングユニット10のクリーニング部材を帯電防止加工材で形成してもよく、クリーニング部材に帯電防止剤を塗布或いは噴霧して含ませるようにしてもよい。
図6に示した光ファイバ巻き替え装置は、例えば、線引き後に巻き取った長尺巻きのリールから、出荷用の定尺巻きリールに巻き替えるのに使用される。この巻き替え作業は、通常、サプライリール31から繰出された光ファイバ20を、幾つかのガイドローラ34を経てキャプスタンローラ32で引き取り、幾つかのガイドローラ34を経て巻取りリール33で巻き取ることで実施される。この場合、巻取りリール33の手前には、光ファイバ20の被覆表面の欠陥を光学的に検出する凹凸検出器35が備えられ、この凹凸検出器35の手前に、本発明によるクリーニングユニット10が配置される。
クリーニングユニット10は、光ファイバの走行経路上であれば、どの位置に設置してもよい。しかし、光ファイバの20の凹凸検出を行なうような場合は、クリーニングユニット10から凹凸検出器35に至る経路上で異物の付着がないような直前の短い距離、或いは、雰囲気中に配置されるのが好ましい。この結果、図3で説明したように凹凸検出の際の誤検出を回避することができる。また、この誤検出の検出精度は、クリーニング部材の材質や積層量が関係してくることは、上述したとおりである。
図7に示した光ファイバの着色装置は、例えば、線引き後に巻き取った光ファイバの表面に、数μm程度の厚さで着色塗料或いはインクを塗布して、光ファイバを識別させるのに使用される。この着色作業は、通常、サプライリール31から繰出された光ファイバを、幾つかのガイドローラ34とサプライダンサローラ36aで張力調整を行ない、この後、光ファイバの表面に着色ダイス37で着色を施し、着色された着色層を紫外線硬化装置38等で硬化させる。次いで、着色層を有する光ファイバは、この後、幾つかのガイドローラ34を経てキャプスタンローラ32で引き取り、また、巻取りダンサローラ36bで張力調整を行なって巻取りリール33で巻き取る。
本発明においては、この光ファイバへの着色に際して、光ファイバ20を着色ダイス37に通す前に、クリーニングユニット10を通すようにする。クリーニングユニット10は、光ファイバの表面に着色層が形成される前に、光ファイバの表面に付着している異物を除去し、図4A乃至図5Bで説明したように着色層剥がれのない着色光ファイバを製造することができる。特に、光ファイバ20が線引されてから長期間経過している場合は、光ファイバの表面に、保護被覆からの析出物が析出付着している可能性があるので、これらの異物の除去には極めて有効である。
なお、図7では着色装置内にクリーニングユニット10を配置したが、図6の巻き替え装置で、光ファイバのクリーニングを行なって一旦巻取りリールに巻き取った後に、図7の着色装置で着色するようにしてもよい。この場合、光ファイバのクリーニング実施から着色までの間が長時間になると、塵埃や析出物の再付着が生じることも予想されるので、この間の時間はできるだけ短くするのが望ましい。しかし、光ファイバのクリーニング作業と着色作業を分けることができるので、作業部所や作業業者が異なる場合は、極めて有効な方法である。
図8Aは、クリーニングユニットの設置の一例を示す図、図8B及び図8Cはクリーニング部材設置の他の例を示す図である。図中、14は支持アーム、15は取付けヘッドを示し、その他の符号は図1Aで使用したのと同じ符号を用いることにより説明を省略する。
図8Aに示すように、クリーニングユニット10は、例えば、クリーニング部材11を保持枠12で保持させ、保持枠12を支持アーム14で光ファイバ20の走行経路中の適当な機構部分に設置される。また、クリーニングユニット10は、複数に分割して複数個所に設置するようにしてもよい。光ファイバ20は、好ましくはクリーニング部材11の中央部を通るように挿通され、クリーニング部材11の光ファイバ挿通部分Hで、物理的に直接接触して拭取り可能とされる。光ファイバ20は、定常状態では所定の張力で所定のパスラインで走行されるが、光ファイバの線張力等の変動でパスラインが変化する場合がある。また、光ファイバ20のパスラインに対して、クリーニング部材11の光ファイバ挿通部分Hの位置がずれたところにセットされてしまう場合がある。
このような場合、クリーニング部材11が固定状態で取り付けられていると、光ファイバ20の外周面に対して、クリーニング部材11が均一に接触せず、部分的に接触しない部分が生じる。この結果、光ファイバの表面に対する拭取りが均一に行なわれなくなり、異物除去が不完全になることが予想される。そこで、本発明においては、クリーニングユニット10が光ファイバ20のパスラインの変動に応じて、光ファイバ挿通部分Hの位置が調整可能とされていることが望ましい。また、光ファイバ挿通部分Hの位置が、光ファイバの線張力により正常な走行中の光ファイバの位置に、自己調心で移動可能に保持されていることが望ましい。
例えば、図8Aに示すように、光ファイバ20の線張力が変動して、光ファイバ20のパスラインが変化したとする。このパスラインに変化が生じても、クリーニング部材11の光ファイバ挿通部分Hにおいて、光ファイバとの接触状態が定常時の接触状態に維持されるように、支持アーム14を上下方向或いは左右方向に制御して、クリーニング部材11の保持位置が調整可能とされているのが好ましい。なお、支持アーム14の駆動制御は、例えば、光ファイバのパスラインをセンサー等で検出して行なうことができる。また、光ファイバの線張力を利用する場合は、支持アーム14を上下方向或いは左右方向の移動抵抗が小さくなるような機構を用いて行なうことができる。
図8Bは、クリーニング部材11を取り付ける取付けヘッド15を、保持枠12に対して低摩擦抵抗で保持させ、光ファイバの線張力により自己調心で移動可能な構成とする例である。例えば、光ファイバ20の線張力等の変動で、光ファイバ20のパスラインが鎖線の状態から実線の状態に変化したとする。この場合、光ファイバ20の線張力に従動して、クリーニング部材11が光ファイバ挿通部分Hとともに、光ファイバ20の径方向に移動可能とされる。この結果、光ファイバ挿通部分Hで、光ファイバ20との接触状態が定常時の接触状態に維持され、均一な拭取り形態を維持することができる。
図8Cは、クリーニング部材11に軟質で柔軟な部材を用いた例、並びに、その面が弛みを持つような状態で取付けヘッド15に取り付ける例を説明する図である。光ファイバ20は、クリーニング部材11の光ファイバ挿通部分Hで摩擦により接触している。このため、クリーニング部材11が、例えば、ゴムのような軟質で柔軟性のある部材で形成されていると、光ファイバ20の走行でクリーニング部材11の光ファイバ挿通部分Hは、その摩擦力により光ファイバの走行方向に延伸されて移動する。このとき、クリーニング部材11の柔軟性により、径方向への移動も多少許容される。この結果、光ファイバ挿通部分Hで、光ファイバ20との接触状態が定常時の接触状態に維持され、均一な拭取り形態を維持することができる。この例は、光ファイバ20のパスラインが大きく変動する場合は不向きであるが、図8A乃至図8Bの構成と合わせることで変動範囲を大きくすることは可能である。
また、クリーニング部材11を弛みを持たせた状態で取付けヘッド15に取り付けるようにしてもよい。例えば、光ファイバ20のパスラインが鎖線の状態から実線の状態に変化したとする。このとき、光ファイバ20の位置の変化に応じて、クリーニング部材11の光ファイバ挿通部分Hは、クリーニング部材11の弛みで光ファイバ挿通部分Hが走行方向及び径方向に比較的容易に移動することができる。この結果、光ファイバ挿通部分Hで、光ファイバ20との接触状態が定常時の接触状態に維持され、均一な拭取り形態を維持することができる。この例は、光ファイバ20のパスラインが大きく変動する場合は不向きであるが、図8A乃至図8Bの構成と合わせることで変動範囲を大きくすることは可能である。

【図2】

【図3】



【図6】

【図7】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバの走行経路上にクリーニング部材を配置し、走行中の前記光ファイバの表面を前記クリーニング部材に物理的に接触させてクリーニングすることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項2】
前記クリーニング部材は、多孔質状の部材で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項3】
前記クリーニング部材は、メッシュ状の部材で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項4】
前記メッシュ状の部材は、繊維糸を編んだ繊維シートで形成され、前記光ファイバは、前記繊維シートの網目に挿通されていることを特徴とする請求項3に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項5】
前記繊維シートは、光ファイバ外径をD、繊維糸のメッシュ間隔をG、繊維糸の太さをF、としたとき、
F≧0.01(mm) G≦0.8×D
を満たすことを特徴とする請求項4に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項6】
前記繊維シートを光ファイバの走行方向に複数枚積層したことを特徴とする請求項4に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項7】
クリーニングする光ファイバ長をL(km)、繊維シートの積層厚さをT(mm)としたとき、「L≦54×T−3.4」となるように、前記繊維シートの積層枚数を設定することを特徴とする請求項6に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項8】
前記クリーニング部材を電気的に接地することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項9】
前記光ファイバの凹凸検出を行なう前に、前記光ファイバを前記クリーニング部材に通すことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項10】
前記光ファイバに着色を施す前に、前記光ファイバを前記クリーニング部材に通すことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項11】
前記光ファイバを前記クリーニング部材に通した後、一旦リールに巻き取り、その後前記光ファイバに着色を施すことを特徴とする請求項10に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項12】
光ファイバの走行経路上にクリーニング部材が配置され、前記クリーニング部材は、走行中の前記光ファイバの表面と物理的に接触して、前記光ファイバの表面をクリーニングすることを特徴とする光ファイバの製造装置。
【請求項13】
前記クリーニング部材は、前記光ファイバの移動により光ファイバとの接触部が正常な走行中の光ファイバ位置に移動可能に、保持されていることを特徴とする請求項12に記載の光ファイバの製造装置。
【請求項14】
前記クリーニング部材は、前記光ファイバとの摩擦により延伸して光ファイバとの接触部が前記光ファイバの走行方向に移動可能な部材であることを特徴とする請求項12に記載の光ファイバの製造装置。
【請求項15】
前記クリーニング部材は、前記光ファイバの移動により光ファイバとの接触部が前記光ファイバの走行方向及び径方向に移動可能な弛みを有する形態で保持されていることを特徴とする請求項12に記載の光ファイバの製造装置。
【請求項16】
光ファイバの走行経路上に配置され、走行中の前記光ファイバの表面と物理的に接触して、前記光ファイバの表面をクリーニングすることを特徴とする光ファイバのクリーニング装置。
【請求項17】
前記光ファイバの移動により光ファイバとの接触部が正常な走行中の光ファイバ位置に移動可能に、保持されることを特徴とする請求項16に記載の光ファイバのクリーニング装置。
【請求項18】
前記光ファイバとの摩擦により延伸して光ファイバとの接触部が前記光ファイバの走行方向に移動可能な部材であることを特徴とする請求項16に記載の光ファイバのクリーニング装置。
【請求項19】
前記光ファイバの移動により光ファイバとの接触部が前記光ファイバの走行方向及び径方向に移動可能なたるみを有する形態で保持されていることを特徴とする請求項16に記載の光ファイバのクリーニング装置。

【国際公開番号】WO2004/095106
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505750(P2005−505750)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005671
【国際出願日】平成16年4月20日(2004.4.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】