説明

光ファイバ無切断型光入出力装置及び光ファイバ無切断型光入出力方法

【課題】 光信号を入出力するために側方から突き当てる光プローブの最適な設置位置を調整する。
【解決手段】 試験部7からの出射光を光プローブ部4の先端から出射し、光プローブ部4の先端からの出射光を第1の光ファイバF1の曲げ部に入射し、第1の光ファイバF1の曲げ部から入射された光が第1の光ファイバF1中で生じる反射光を第1の光ファイバF1の曲げ部から漏洩する光を光プローブ部4で受光し、光プローブ部4で受光した漏洩光を試験部7にて反射率波形分布データのピーク値を取得し、ピーク値が最大となる位置へ制御部8が可動部3を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光信号を入出力するために側方から突き当てる光プローブ部の最適な設置位置を調整する光ファイバ無切断型光入出力装置及び光ファイバ無切断型光入出力方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光伝導による光ファイバ伝送系は、光ファイバのコアを伝搬する光を別の光ファイバに分波したり、他の光ファイバからの光を合波したりすることが非常に困難である。このことから、保守運用性を補完するためのいくつかの方法が採用されている。
1つ目は、予め、非特許文献1に示すような光ファイバ線路に光合分波カップラを挿入しておく方法である。光合分波カップラは、例えば2入力2出力のファイバ溶融型カップラがあり、一方の入力光を2出力に分波し、2入力の光を1出力もしくは2出力に合波することができる。
【0003】
しかしながら、光合分波カップラが挿入されていない光ファイバ通信路に適用する場合、一端、光ファイバ通信路を切断して光合分波カップラを挿入する必要があり、その際通信が途切れることになる。
2つ目は、特許文献1に示すような光ファイバ回線使用状況判別装置や非特許文献2に示すような光ファイバ心線対照器である。光ファイバ通信路の一端から試験光を入射し、光ファイバ通信路途中の光ファイバを曲げ、曲げ部から漏洩する光を、光電変換半導体素子で受光し電気変換を行って、試験光の有無やその状態を識別するものであり、光ファイバ通信路の保守運用業務に非常に有効な技術のひとつとして活用されている。
【0004】
しかしながら、ここで用いられている技術は光ファイバ中を伝搬する光の分波のみである。また、その場で電気信号に変換することが可能な目的に用いる装置であるため、光ファイバのコア面積に比べて受光面積の大きな光電変換半導体素子で漏洩光を受光することができ、精密な光学的な位置調整を行うことなく高効率な結合系を構成することが可能である。
【0005】
3つ目は、特許文献2に示すような光ファイバ曲げ部と外部の光ファイバを光電変換することなく光学的に結合し信号光や試験光を入出力する方法である。光ファイバ曲げ部から漏洩する光を光ファイバプローブに結合すると共に、光ファイバプローブから放出された光を光ファイバ曲げ部から光ファイバのコアに入射、結合する。双方向伝送の光ファイバ伝送路の一時的もしくは永続的な迂回を実現できる方法として期待できる技術である。
【0006】
しかしながら、光ファイバのコアの直径は10μm前後であり、光ファイバプローブへの結合領域や光ファイバプローブからの放出領域が狭いことから、レンズ等の光学素子を用いた受光面の拡大と集光が有効であるが、高い結合光学系を構成するためには0.1μmオーダの光軸調整が必要である。
【0007】
さらに、光ファイバの曲げ形状や光ファイバ被覆状況の都度毎のばらつきにより、光ファイバプローブへの結合光学系として最適な位置が定まらないことから、都度毎の精密な光軸調整を必要とする。
その際、光軸調整は光ファイバを伝搬する光の曲げ部における漏洩光を光ファイバプローブで受光し、その受光パワーが最大となる位置を探索して行うこと、もしくは光ファイバプローブから放出した光が光ファイバ曲げ部を介して結合した光パワーを光ファイバの一端に接続された光パワーメータで計測しそのパワーが最大になる位置を探索して行うことなどが有効である。伝送信号がある場合、その信号光を受光することで光軸調整は可能である。
【0008】
しかしながら、近年の通信システムにおいては、伝搬光(通信光)自体に光パワーの強弱を含むシステムがあることから、そのようなシステムにおいて、測定するパワーレベルの変化が、通信光による変化なのか、または光軸調整による変化なのかが判別困難となり、正確な光軸調整ができるとは限らない。当然、伝送信号がない場合、この方法では光軸調整できないため、遠隔地点に光源や光パワーメータを設置する必要がある。また、遠隔地点に光パワーを測定する複数の作業員を配置する必要があり、複数の作業地点間の連携作業が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009-25052号公報
【特許文献2】特開2009-25210号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Nobuo Tomita, Hidetoshi Takasugi, Naoyuki Atobe, Ikuo Nakamura, Fumio Takaesu, Seiji Takashima, ”Design and Performance of a Novel Automatic Fiber Line Testing System With OTDR for Optical Subscriber Loops,” J. Lightwave Technol., vol.12, no.5, pp.717-726, 1994.
【非特許文献2】山下、羽田野、小山田、徳田「曲げ法を用いた光心線対照器の結合効率」信学論、vol.J66-B, no.11, 1983.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上述べたように、近年の通信システムにおいては、伝搬光(通信光)自体に光パワーの強弱を含むシステムがあることから、そのようなシステムにおいて、測定するパワーレベルの変化が、通信光による変化なのか、または光軸調整による変化なのかが判別困難となり、正確な光軸調整ができるとは限らない。当然、伝送信号がない場合、この方法では光軸調整できないため、遠隔地点に光源や光パワーメータを設置する必要がある。また、遠隔地点に光パワーを測定する複数の作業員を配置する必要があり、複数の作業地点間の連携作業が必要になる。
【0012】
本発明は、上記を鑑みてなされたもので、光ファイバの側方入出力を行う現場のみで、かつ一人作業で、現用線路光ファイバの曲げ部と光プローブ部を高効率な光学的結合状態に設定する光軸調整を可能とする光ファイバ無切断型光入出力装置及び光ファイバ無切断型光入出力方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る光ファイバ無切断型光入出力装置は、以下のような態様の構成とする。
(1)設置個所に固定される基盤部と、前記基盤部上に配置され、第1の光ファイバを曲げた状態で保持する光ファイバ固定部と、前記基盤部上に配置され、搭載物の位置を調整する調整機構を具備する可動部と、前記可動部上に配置され、第2の光ファイバを保持して前記可動部の位置調整によりその先端が前記第1の光ファイバの曲げ部に近接するように位置調整され固定される光プローブ部と、前記光プローブ部の前記第1の光ファイバの曲げ部側先端とは異なる側の端部で固定され、前記光プローブ部を通じて光入出力を行う光コネクタ部と、前記光コネクタ部と接続され、試験光による光入出力により戻り光による光ファイバ反射率分布試験を行う試験部と、前記可動部と結線し、可動部の位置制御を行う制御部とを具備し、前記光プローブ部は、前記試験部から出射される試験光を先端から出射して前記第1の光ファイバの曲げ部に入射し、前記第1の光ファイバの曲げ部から入射された試験光によって生じる反射光が前記第1の光ファイバの曲げ部から漏洩する光を受光し、前記試験部は、前記光プローブ部で受光した前記漏洩光を反射率波形分布データのピーク値を取得し、前記制御部は、前記ピーク値が最大となるように前記可動部の位置を調整する態様とする。
【0014】
(2)(1)の装置において、前記制御部は、前記反射波形率分布データから前記第1の光ファイバ中で生じるフレネル反射波形のピーク値を選択し、そのピーク値が最大となる位置へ可動部を制御する態様とする。
(3)(1)の装置において、前記制御部は、前記反射波形率分布データから前記第1の光ファイバ中で生じるフレネル反射波形のピーク値を選択し、前記反射波形のピーク値が複数存在する場合、複数のピーク値のパワーレベルの総和が最大となる位置へ可動部を制御する態様とする。
【0015】
(4)(1)の装置において、前記可動部は、光ファイバ固定部に保持された光ファイバ曲げ部を含む面に対し、法線方向のみに可動する機構を具備する態様とする。
(5)(1)の装置において、前記試験部は、試験光に、伝送信号で用いる波長帯と異なる波長帯を用いる態様とする。
【0016】
(6)(1)の装置において、前記ピーク値が最大になる位置へ前記制御部が前記可動部を制御した後、前記試験部が接続された前記光コネクタ部から前記試験部を取り外し、前記光コネクタ部に対して光信号の入力及び出力のいずれか一方を行う機器を接続することで前記第1の光ファイバを介し光通信を行うための光切替スイッチ部を備える態様とする。
【0017】
また、本発明に係る光ファイバ無切断型光入出力方法は、以下のような態様の構成とする。
(7)試験光を前記光プローブ部先端から出射し、前記光プローブ部先端からの出射光を前記第1の光ファイバの曲げ部に入射し、前記第1の光ファイバ内で、曲げ部から入射された試験光により生じる反射光が前記第1の光ファイバの曲げ部から漏洩する光を前記光プローブ部で受光し、前記光プローブ部で受光した前記漏洩光を計測して反射率波形分布データのピーク値を取得し、前記ピーク値が最大となる位置へ前記光プローブ部の位置を制御する態様とする。
【0018】
(8)(7)の方法において、前記光プローブ部の位置制御は、前記反射波形率分布データから前記第1の光ファイバ中で生じるフレネル反射波形のピーク値を選択し、そのピーク値が最大となる位置へ制御する態様とする。
(9)(7)の方法において、前記光プローブ部の位置制御は、前記反射波形率分布データから前記第1の光ファイバ中で生じるフレネル反射波形のピーク値を選択し、前記反射波形のピーク値が複数存在する場合、複数のピーク値のパワーレベルの総和が最大となる位置へ制御する態様とする。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明に係る光ファイバ無切断型光入出力装置及び光ファイバ無切断型光入出力方法では、ファイバ反射率分布試験部を他端に接続した光プローブの先端を光ファイバ曲げ部に接近させ、試験器からの試験光を現用線路光ファイバに入力する。入力光は、光ファイバ中の長手方向でフレネル反射等により後方散乱光(戻り光)が生じることから、この戻り光が同曲げ部から漏洩光として放射されるため、その漏洩光を光プローブで受光する。プローブで受光した光信号のパワーをファイバ反射率分布試験部で測定し、パワーが最大となる状態をリアルタイムでモニタする。このように、最大値が得られるような光プローブの付き当て位置を探索しながら光軸調整を行うことにより、最適な光プローブの光学的結合状態の調整を可能とするものである。
【0020】
したがって、本発明によれば、光ファイバの側方入出力を行う現場のみで、かつ一人作業で、現用線路光ファイバの曲げ部と光プローブ部を高効率な光学的結合状態に設定する光軸調整を可能とする光ファイバ無切断型光入出力装置及び光ファイバ無切断型光入出力方法を提供することができる。
【0021】
この結果、人件費削減、作業時間短縮、車等の移動による化石燃料等の消費を抑制することが期待できる。また、光ファイバを切断することなく通信線路の二重化を実現することや、光ファイバを切断することなく心線対照光を挿入することができるなど、高い保守運用性を具備する光ファイバネットワークを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態に係る光ファイバ無切断型入出力装置の構成を示すブロック図。
【図2】図1に示す光ファイバ無切断型入出力装置が適用される光ファイバネットワーク設備の構成を示す概念図。
【図3】図1に示す光プローブ部を介した光ファイバの反射率分布計測波形を示す波形図。
【図4】図1に示す可動部位置制御部の光ファイバ装着後の可動部に対する制御の流れを示すフローチャート。
【図5】図1に示す光プローブ部の先端位置と結合効率の相関を表す特性図。
【図6】図1に示す光プローブ部の3軸(XYZ)が可動する場合の光軸の調整過程を示す図。
【図7】図1に示す光ファイバ無切断型入出力装置を用いた光軸の最終設置状態を示す図。
【図8】第1の実施形態の3軸(XYZ)微動装置を具備する光ファイバ無切断型入出力装置の構成を示す上面図(a)及び側面図(b)。
【図9】第1の実施形態において、単一反射光による3軸(XYZ)光軸調整を説明するための光軸調整過程を示す図(a)及びその光軸調整過程の計測結果を示す図(b)。
【図10】第2の実施形態の1軸(Z)微動装置を具備する光ファイバ無切断型入出力装置の構成を示す上面図(a)及び側面図(b)。
【図11】第2の実施形態において、1軸(Z)が可動する場合の光軸の調整過程を示す図。
【図12】第2の実施形態において、微動装置制御コンピュータによって可動部に対して1軸(Z)のみ可動する場合の光ファイバ装着後の制御の流れを示すフローチャート。
【図13】第2の実施形態において、単一反射光による1軸(Z)光軸調整を説明するための光軸調整過程を示す図(a)及びその光軸調整過程の計測結果を示す図(b)。
【図14】第3の実施形態において、複数反射の場合の光プローブ部を介した光ファイバの反射率分布計測波形を示す図。
【図15】第3の実施形態の可動部位置制御部において、複数の反射点がある場合の光ファイバ装着後の可動部に対する制御の流れを示すフローチャート。
【図16a】第3の実施形態において、複数反射光により3軸(XYZ)調整を行う場合の光軸調整過程を示す図。
【図16b】第3の実施形態において、複数反射光により3軸(XYZ)調整を行う場合の光軸調整過程の計測結果を示す図。
【図17】第4の実施形態の可動部位置制御部において、複数の反射点が存在し、1軸(Z)のみ可動の場合の光ファイバ装着後の可動部に対する制御の流れを示すフローチャート。
【図18】第4の実施形態において、複数反射光により1軸(Z)調整を行う場合の光軸調整過程を示す図(a)及びその光軸調整過程の計測結果を示す図(b)。
【図19】第5の実施形態において、光切替スイッチを実装した光ファイバ無切断型入出力装置の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
まず、図1は本実施形態に係る光ファイバ無切断型入出力装置の構成を示すブロック図である。図1において、1は本装置の主要部が配置固定され、設置個所に固定される基盤部であり、この基盤部1には光ファイバ固定部2及び可動部3が搭載される。光ファイバ固定部2は第1の光ファイバFを曲げた状態で保持するための機構(図示せず)を備える。
【0024】
光ファイバ固定部2は基盤部1に固定されているが、可動部3は基盤部1や光ファイバ固定部2に対して位置調整できる機構を具備している。そして、第2の光ファイバFによる光プローブ部4を収容し、この光プローブ部4を一方端で固定して光入出力を行う光コネクタ部5を備える。
【0025】
上記光プローブ部4は、光コネクタ部5による固定部を軸として可動自在に保持され、第1の光ファイバFの曲げ部に近接する位置に先端が位置するように可動部3に実装されており、そのもう一端は光コネクタ部5で終端されている。
可動部3に実装された光プローブ部4の一端の光コネクタ部5には、光コード部6を介して光ファイバ反射率分布試験部7が接続されている。光ファイバ反射率分布試験部7と可動部位置制御部8はそれぞれの制御信号やデータの送受を行うように結線されている。可動部位置制御部8は可動部3と結線されており、可動部3の位置調整を制御する機能を具備している。
【0026】
図2は、図1に示す光ファイバ無切断型入出力装置が適用される光ファイバネットワーク設備の構成を示す概念図である。この図のように、光ファイバネットワークは通信ビルBからお客様(加入者)宅Cまでの間をいくつかの光ファイバケーブルFとそれらを接続する接続部収納クロージャ91,92から構成されている。その接続部は、光コネクタ接続、メカニカルスプライス接続、融着接続等が混在している。
【0027】
ここで、光コネクタ接続とメカニカルスプライス接続は、光ファイバ端面を溶融することなく突き合わせ接触させることで光の導通を図っているものであり、その接続部には通常フレネル反射が生じる。そこで、この接続部に図1に示した本実施形態の光ファイバ無切断型入出力装置を装着し、光ファイバ反射率分布試験部7により、その反射位置と量を計測する。
【0028】
図1に示すように、光ファイバ反射率分布試験部7から光プローブ部4を介して光ファイバ曲げ部近傍に試験信号光が放射され、その一部が光ファイバに結合し、光ファイバ中の長手方向のフレネル反射等の後方散乱光(戻り光)が、同じ光ファイバ曲げ部から漏洩光として放射され、その一部が光プローブ部4で受光され、光ファイバ反射率分布試験部7で受信される。すなわち、光プローブ部4〜光ファイバ曲げ結合部〜光ファイバの系の反射率分布を得ることができる。
【0029】
図3は、その際の得られた光プローブ部4を介した光ファイバの反射率分布計測波形を示す図である。反射率分布波形が凸部最頂点においてピーク値を有し、フレネル反射が発生している箇所(反射点)が計測されている。光ファイバ曲げ部と光プローブ部4の光軸があっていない場合は、反射点のピーク値は低く、光軸があっている場合はそのピーク値は高くなる。このピーク値が最大となるように、可動部位置制御部8を介して可動部3の光軸調整にフィードバックし制御する。
【0030】
図4は、可動部位置制御部8において、光ファイバ装着後の可動部3に対する制御の流れを示すフローチャートである。まず、光ファイバ反射率分布試験部7で取得された反射点の有無を判別し(ステップS11)、無の場合は反射点が得られるまで再セットアップ(ステップS12)を繰り返す。ステップS11で有の場合は、調整ループ回数nに0をセットした後(ステップS13)、その反射点パワーレベルのピーク値が最大になるように、可動部3を軸(XYZ)ごとに順次フィードバック制御しながら調整する(ステップS14〜S16)。
【0031】
3軸調整後、制御ループ回数nが初期設定値nになったか判断し(ステップS17)、Noならばnにn+1をセットし、Z軸反射点パワーレベルの初期設定値PZ0に最大値Pをセットして(ステップS18)、ステップS14〜S16の3軸調整に戻る。また、Z軸調整において、反射パワーレベルの初期設定値PZ0と最大値Pとの差分絶対値が最大値変化初期設定値ΔPに達したか判断し(ステップS19)、達していない場合は、ステップS18に移行して調整ループに戻る。ステップS17,S19の判断で共に条件を満たした場合は、光軸調整を終了する。
【0032】
上記光軸調整方法についてさらに詳述する。
図5は、光プローブ部の4先端の位置が、光ファイバ曲げ部からのX軸、Y軸、Z軸それぞれの3軸方向の軸ずれ量と結合効率の依存性を計測した特性図である。Z軸は光ファイバを曲げた面に対する法線方向を示している。このように、X軸やY軸方向の軸ずれに対し、Z軸方向の軸ずれは大きく結合効率に敏感であることがわかる。
【0033】
図6は、Z軸→Y軸→X軸を順に光軸調整する過程における反射光ピーク値の最大値の遷移を計測した図である。図5で示した特性のように、X軸やY軸の調整による最大値の変化量より、Z軸の調整による最大値の変化量が大きく、これらの数回のフィードバック調整により最大値は一定レベルに収束する。ここで、最大値が収束したものと判定する閾値の変化量としてΔPを予め定義しておき、遷移において変化量がΔP以下となった時点で、光軸が最適な状態に調整された(最も高い結合効率が得られた)と判定し、図4のフローチャートにおける光軸調整を終了とすることができる。光軸調整が終了した後、図1の状態であった可動部3の光プローブ部4の一端の光コネクタ部5に接続された光コード部6を、図7(図1と同一部分には同一符号を付して示す)に示すように入出力すべき装置、例えば光伝送装置10または光試験装置12に繋ぎかえることができる。
【0034】
次に、本発明の具体的な実施の形態を説明する。
(第1の実施形態)
図8(a),(b)は本発明に係る第1の実施形態として、3軸(XYZ)微動装置14を具備する光ファイバ無切断型入出力装置の構成を示す上面図及び側面図である。尚、図8において、図1と同一部分には同一符号を付して示し、ここでは異なる部分について説明する。
【0035】
図8(a),(b)において、光ファイバ固定部2は第1の光ファイバFを曲げた状態で挟み固定する曲げ光ファイバ固定治具21,22を備える。可動部3は、3軸(XYZ)微動装置14上にステージ13を配置した構成である。ここで、光パルス試験器15は図1の光ファイバ反射率分布試験部7に相当し、微動装置制御コンピュータ16は図1の可動部位置制御部8に相当する。
【0036】
すなわち、光パルス試験器15で取得した光プローブ部4(埋め込み光ファイバF)を介した光ファイバの反射分布のフレネル反射波形が最大になるように、微動装置制御コンピュータ16で図4のフローチャートに従ったフィードバック制御を行いながら、各軸の位置合わせを行う装置構成である。
3軸微動装置14には、一般的にパルスモータ駆動方式、リニアモータ駆動方式、ピエゾ素子駆動方式等があり、それらのいずれかを用いることを想定する。
【0037】
図9(a),(b)は単一反射光(戻り光)による3軸(XYZ)調整を行った場合の光軸調整過程とその計測結果を示す図である。Pinは光パルス試験器15の光ファイバ入力パワーである。光軸調整前の反射光パワーレベルが(Pin−40.00dB)で、Z軸から順次、光軸調整を行うことで、反射光レベルは高くなり、次第にその変化量は小さくなる。ここではΔP=0.02dBとしており、6順目(n=5)でその変化量│PZ-PZ0│は0.01dB<ΔPとなり、光軸調整は最適化され終了となる。
【0038】
(第2の実施形態)
図10(a),(b)は、本発明に係る第2の実施形態として、1軸(Z)微動装置17を具備する光ファイバ無切断型入出力装置の構成を示す上面図及び側面図である。尚、図10において、図1及び図8と同一部分には同一符号を付して示し、ここでは異なる部分について説明する。
【0039】
まず、図5に示したように、X軸およびY軸の軸ずれに対する結合効率の変化は緩やかである。そこで、本実施形態では、これらの2軸に関する光プローブ部4(埋め込み光ファイバF・ステージ13)は高い結合効率が得られる近傍位置に固定とし、Z軸のみの微動機構、すなわち光ファイバ固定部2に保持された光ファイバ曲げ部を含む面に対し、法線方向のみに可動する機構を具備するものとした。
【0040】
具体的には、可動部3であるステージ13は1軸(Z)微動装置17上にあり、光パルス試験器15で取得した光プローブ部4(埋め込み光ファイバF)を介した光ファイバの反射分布のフレネル反射波形が最大になるように、微動装置制御コンピュータ16で光軸調整を行う。この時、1軸のみの調整であるため、図11に示すように、第1の実施形態で述べた3軸調整による最終収束レベルには達しないものの、1度のZ軸調整で高い反射光最大値が得られる。
【0041】
図12に、微動装置制御コンピュータ16において光ファイバ装着後の可動部3に対する制御の流れを示す。まず、光パルス試験器15で取得された反射点の有無を判別し(ステップS21)、無の場合は反射点が得られるまで再セットアップ(ステップS22)を繰り返す。ステップS21で有の場合は、Z軸を移動させ反射点のパワーレベルの最大値PzでZ軸を固定して(ステップS23)光軸調整を終了する。
【0042】
上記1軸(Z)微動機構17には、一般的にパルスモータ駆動方式、リニアモータ駆動方式、ピエゾ素子駆動方式等があり、それらのいずれかを用いることを想定する。
図13(a),(b)に、単一反射光(戻り光)による1軸(Z)調整を行った場合の光軸調整過程とその計測結果を示す。この図から明らかなように、光軸調整前の反射光パワーレベルが(Pin-36.00dB)で、Z軸調整のみでその反射光パワーレベルは、(Pin-32.00dB)となり、光軸調整は最適化され終了となる。
【0043】
(第3の実施形態)
図14は、本発明に係る第3の実施形態として、図1に示した構成において、複数反射の場合の光プローブ部4を介した光ファイバの反射率分布計測波形を示す図である。このような場合は、いずれか任意の1つの反射点波形を捉え、そのピーク値が最大になるようにフィードバック制御する方法、もしくは、複数の反射点を同時に捉え、それぞれのピーク値が最大になるようにフィードバック制御する。
【0044】
図15は、可動部位置制御部8において、複数の反射点がある場合の光ファイバ装着後の可動部3に対する制御の流れを示すフローチャートである。まず、光ファイバ反射率分布試験部7で取得された反射点の有無を判別し(ステップS31)、無の場合は反射点が得られるまで再セットアップ(ステップS32)を繰り返す。ステップS31で有の場合は、反射点数R(R≧1)に任意の数(本実施形態では3とする)をセットし(ステップS33)、調整ループ回数nに0をセットした後(ステップS34)、可動部3を軸(XYZ)ごとに移動させて全ての反射点パワーレベルのピーク値を継続し、それぞれのピーク値の総和の最大値ΣP,ΣP,ΣPで各軸を固定するように、可動部3を軸(XYZ)ごとに順次フィードバック制御しながら調整する(ステップS35〜S37)。
【0045】
3軸調整後、制御ループ回数nが初期設定値nになったか判断し(ステップS38)、Noならばnにn+1をセットし、Z軸反射点パワーレベルの初期設定値ΣPZ0に最大値ΣPをセットして(ステップS39)、ステップS35〜S37の3軸調整に戻る。また、Z軸調整において、反射パワーレベルの初期設定値ΣPZ0と最大値ΣPとの差分絶対値が最大値変化初期設定値ΔPに達したか判断し(ステップS40)、達していない場合は、ステップS18に移行して調整ループに戻る。ステップS38,S40の判断で共に条件を満たした場合は、光軸調整を終了する。
【0046】
すなわち、複数の反射点がある場合には、各軸調整時に複数のピーク値のパワーレベルの総和が最大になるように制御し、そのZ軸調整時の総和の最大値ΣPの変化量が、最大値変化初期値設定値ΔP以下になるまで光軸のフィードバック調整を行う。
このような複数反射点サンプルによる手法を採ることで、光パルス試験波形で取得されるピーク値の測定ばらつきを緩和・抑制することができ、より光軸調整の最適化を図ることが期待できる。
【0047】
図16aに複数反射光により3軸(XYZ)調整を行う場合の光軸調整過程を示し、図16bにその光軸調整過程の計測結果を示す。すなわち、光軸調整前の反射光パワーレベルの総和の最大値が(3Pin-125.00dB)で、Z軸から順次、光軸調整を行うことで、反射光レベルは高くなり、次第にその変化量は小さくなる。ここではΔP=0.10dBとしており、6順目(n=5)でその変化量│ΣPZ-ΣPZ0│は0.01dB<ΔPとなり、光軸調整は最適化され終了となる。
【0048】
(第4の実施形態)
図17は、本発明に係る第4の実施形態として、図10(a),(b)に示した構成において、複数の反射点が存在し、1軸(Z)のみ可動の場合の光ファイバ装着後の可動部3に対する制御の流れを示すフローチャートである。
まず、光パルス試験器15で取得された反射点の有無を判別し(ステップS41)、無の場合は反射点が得られるまで再セットアップ(ステップS42)を繰り返す。ステップS41で有の場合は、Z軸を移動させて全ての反射点のパワーレベルの総和の最大値PzでZ軸を固定して(ステップS43)光軸調整を終了する。このように、本実施形態では複数の反射点の各パワーレベルの総和が最大になるようにZ軸のフィードバック制御することのみで完結する。
【0049】
図18(a),(b)に、複数反射光について1軸(Z)調整を行う場合の光軸調整過程とその調整結果を示す。この図から明らかなように、光軸調整前の反射光パワーレベルの総和の最大値が(3Pin-113.00dB)で、Z軸調整のみでその反射光パワーレベルは、(Pin-98.26dB)となり、光軸調整は最適化され終了となる。
【0050】
(第5の実施形態)
図19は、本発明に係る第5の実施形態として、図1、図7の構成における可動部3に実装された光プローブ部4の一端の光コネクタ部5の代わりに、光切替スイッチ部18を実装した場合の構成を示すブロック図である。光プローブ部4の入出力光を、光ファイバ反射率分布試験部7もしくは外部装置(光伝送装置10または光試験装置12)に切り替えて接続できる構成である。これにより、光コネクタ部5の接続替えが不要となる。
【0051】
(第6の実施形態)
以上述べた各実施形態では、光ファイバ反射率分布試験部7または光パルス試験器15の使用波長を限定していないが、通信光と同じ波長帯で試験を行うと通信信号にビットエラー等の影響を与えかねないため、影響のないレベルまで光パルス試験器15の出力制限をする必要が生じ、計測可能な充分なレベルの反射光を得ることが難しくなることがある。
【0052】
一方、図2に示すように、光ファイバネットワーク設備の通信ビルB終端およびお客様(加入者)宅C終端には試験波長光カットフィルタ111,112が実装されている場合がある。一般的に1650nmの波長帯が試験に使われており、その波長を遮断するバンドパスフィルタもしくはローパスフィルタが実装されている。
【0053】
このように試験波長光カットフィルタ111,112が実装されている光ファイバネットワークにおいては、その試験波長帯(例えば1650nm)の光パルス試験器15を用いることで、通信に影響を与えることなく、光軸調整を行うことができる。
尚、本発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成を削除してもよい。さらに、異なる実施形態例に亘る構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1…基盤部、2…光ファイバ固定部、3…可動部、4…光プローブ部、5…光コネクタ部、6…光コード部、7…光ファイバ反射率分布試験部、8…可動部位置制御部、F…第1の光ファイバ、F…第2の光ファイバ、91,92…接続部収納クロージャ、10,101,102…光伝送装置、111,112…試験波長光カットフィルタ、B…通信ビル、C…お客様(加入者)宅、F…光ファイバケーブル、M…マンホール、UP…電柱、12…光試験装置、13…ステージ、14…3軸(XYZ)微動装置、21,22…曲げ光ファイバ固定治具、15…光パルス試験器、16…微動装置制御コンピュータ、17…1軸(Z)微動装置、18…光切替スイッチ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置個所に固定される基盤部と、
前記基盤部上に配置され、第1の光ファイバを曲げた状態で保持する光ファイバ固定部と、
前記基盤部上に配置され、搭載物の位置を調整する調整機構を具備する可動部と、
前記可動部上に配置され、第2の光ファイバを保持して前記可動部の位置調整によりその先端が前記第1の光ファイバの曲げ部に近接するように位置調整され固定される光プローブ部と、
前記光プローブ部の前記第1の光ファイバの曲げ部側先端とは異なる側の端部で固定され、前記光プローブ部を通じて光入出力を行う光コネクタ部と、
前記光コネクタ部と接続され、試験光による光入出力により戻り光による光ファイバ反射率分布試験を行う試験部と、
前記可動部と結線し、可動部の位置制御を行う制御部と
を具備し、
前記光プローブ部は、前記試験部から出射される試験光を先端から出射して前記第1の光ファイバの曲げ部に入射し、前記第1の光ファイバの曲げ部から入射された試験光によって生じる反射光が前記第1の光ファイバの曲げ部から漏洩する光を受光し、
前記試験部は、前記光プローブ部で受光した前記漏洩光を反射率波形分布データのピーク値を取得し、
前記制御部は、前記ピーク値が最大となるように前記可動部の位置を調整すること
を特徴とする光ファイバ無切断型光入出力装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記反射波形率分布データから前記第1の光ファイバ中で生じるフレネル反射波形のピーク値を選択し、そのピーク値が最大となる位置へ可動部を制御することを特徴とする請求項1記載の光ファイバ無切断型光入出力装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記反射波形率分布データから前記第1の光ファイバ中で生じるフレネル反射波形のピーク値を選択し、前記反射波形のピーク値が複数存在する場合、複数のピーク値のパワーレベルの総和が最大となる位置へ可動部を制御することを特徴とする請求項1記載の光ファイバ無切断型光入出力装置。
【請求項4】
前記可動部は、光ファイバ固定部に保持された光ファイバ曲げ部を含む面に対し、法線方向のみに可動する機構を具備することを特徴とする請求項1記載の光ファイバ無切断型光入出力装置。
【請求項5】
前記試験部は、試験光に、伝送信号で用いる波長帯と異なる波長帯を用いることを特徴とする請求項1記載の光ファイバ無切断型光入出力装置。
【請求項6】
前記ピーク値が最大になる位置へ前記制御部が前記可動部を制御した後、前記試験部が接続された前記光コネクタ部から前記試験部を取り外し、前記光コネクタ部に対して光信号の入力及び出力のいずれか一方を行う機器を接続することで前記第1の光ファイバを介し光通信を行うための光切替スイッチ部を備えることを特徴とする請求項1記載の光ファイバ無切断型光入出力装置。
【請求項7】
試験光を前記光プローブ部先端から出射し、
前記光プローブ部先端からの出射光を前記第1の光ファイバの曲げ部に入射し、
前記第1の光ファイバ内で、曲げ部から入射された試験光により生じる反射光が前記第1の光ファイバの曲げ部から漏洩する光を前記光プローブ部で受光し、
前記光プローブ部で受光した前記漏洩光を計測して反射率波形分布データのピーク値を取得し、
前記ピーク値が最大となる位置へ前記光プローブ部の位置を制御することを特徴とする光ファイバ無切断型光入出力方法。
【請求項8】
前記光プローブ部の位置制御は、前記反射波形率分布データから前記第1の光ファイバ中で生じるフレネル反射波形のピーク値を選択し、そのピーク値が最大となる位置へ制御することを特徴とする請求項7記載の光ファイバ無切断型光入出力方法。
【請求項9】
前記光プローブ部の位置制御は、前記反射波形率分布データから前記第1の光ファイバ中で生じるフレネル反射波形のピーク値を選択し、前記反射波形のピーク値が複数存在する場合、複数のピーク値のパワーレベルの総和が最大となる位置へ制御することを特徴とする請求項7記載の光ファイバ無切断型光入出力方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16a】
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【図16b】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−2952(P2013−2952A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134315(P2011−134315)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】