説明

光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム及びその製造方法

【課題】本発明の課題は、ポリカーボネート系樹脂からなり、透明性が高く、光学歪みが小さく、かつ表面欠陥の発生が抑制された光学用フィルムを提供することにある。
【解決手段】ポリカーボネート系樹脂からなるフィルムであり、ポリカーボネート系樹脂が300℃、1.2kg荷重でのメルトボリュームフローレートが11〜35である光学用フィルム。ポリカーボネート系樹脂としては、粘度平均分子量が17000〜21500のものが好ましく用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムに関する。また、本発明は、光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導光フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、偏光分離シートの保護フィルム等の光学用フィルムには、優れた透明性や耐熱性等が求められる。ポリカーボネート系樹脂からなるフィルムは、透明性に優れ、さらに、耐熱性、耐衝撃性、剛性にも優れることから、光学用フィルムとして用いられている。
【0003】
導光フィルムは、小型の液晶表示装置のバックライト用やパソコンのキーボードや携帯電話の操作ボタン用などの薄肉導光フィルムとして表面平滑なクリアフィルムが用いられることが多く、また、高い透明性が求められる。
位相差フィルムは、液晶表示装置に用いられ、例えば溶液製膜法(いわゆる溶剤キャスト法)で得られたポリカーボネート系樹脂フィルムを延伸することで製造され、所望の位相差を有することが求められる。
光拡散フィルムは、液晶表示装置に用いられ、例えば、熱可塑性樹脂フィルムに光拡散剤を添加したり、熱可塑性樹脂フィルムに模様を賦型することで製造され、光拡散性能に加えて、高い透明性が求められる。
偏光分離シートの保護フィルムは、偏光分離シートを保護するために、偏光分離シートの少なくとも一方の面に貼合して使用されるが、偏光分離シートから出射される偏光の偏光方向を変化させることがないように、その光学歪を小さくすることが求められるとともに、液晶装置内で長期間発熱にさらされることになるため、かかる発熱への耐性が求められ、さらには、偏光分離シートは通常、厚くても100μm程度の厚みであり偏光分離シート単独では剛性が不十分でたわみやうねりが生じやすい点を回避することが求められる。
【0004】
特許文献1〜4には、フィルムの透明性、光学歪み、または強度の観点から、溶融粘度の高いポリカーボネート系樹脂を原料とし、かかる樹脂から得られ、光学用途に使用されるポリカーボネート系樹脂フィルムが記載されている。
【0005】
一方、光学用フィルムは、表面欠陥がなく、優れた外観である必要があるが、例えば、フィルムの原料となる樹脂に異物が含まれていると、かかる異物により、フィルム表面に凸状の欠陥や、線状の欠陥が発生することがある。そこで、光学用フィルムにおける表面欠陥の発生を抑制するために、異物の含有量が少ない樹脂の選定や、フィルムの溶融押出成形または溶液製膜等において、使用される押出機へのポリマーフィルターの設置による異物のろ過等が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/081953号
【特許文献2】特開2004−53998号公報
【特許文献3】特開2009−196327号公報
【特許文献4】特開2009−202382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜4に記載のポリカーボネート系樹脂フィルムにおいては、異物が少ない樹脂の選定や、リーフディスクフィルターによる異物のろ過では不十分であり、表面欠陥が発生することがあった。そのため、表面欠陥のないフィルムを連続的に安定して製造することは容易ではなく、生産安定性に劣るものであった。
【0008】
そこで本発明の課題は、ポリカーボネート系樹脂からなり、透明性に優れ、光学歪みが小さく、かつ表面欠陥の発生が抑制された光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムを提供することにある。また、本発明の別の課題は、表面欠陥の発生が抑制されたフィルムを連続的に安定して製造することのできる、生産安定性に優れる光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1)ポリカーボネート系樹脂からなるフィルムであり、ポリカーボネート系樹脂が300℃、1.2kg荷重でのメルトボリュームフローレートが11〜35cm/10minである光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム。
(2)ポリカーボネート系樹脂の粘度平均分子量が17000〜21500である前記(1)に記載の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム。
(3)厚みが30〜300nmであり、全光線透過率が85%以上である前記(1)または(2)に記載の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム。
(4)ヘイズが50%以上である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム。
(5)表面光沢度が50%以下である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム。
(6)波長590nmの入射光のリタデーションが30nm以下である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム。
(7)少なくとも一方の面がマット面である前記(1)〜(6)のいずれかに記載の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム。
(8)マット面がマットロール転写により形成されたものである前記(7)に記載の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム。
(9)液晶表示装置に使用される前記(1)〜(8)のいずれかに記載の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム。
(10)前記液晶表示装置における偏光分離シートの保護に使用される前記(9)に記載の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム。
(11)ポリカーボネート系樹脂を溶融押出して光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムを製造する方法であって、ポリカーボネート系樹脂が、300℃、1.2kg荷重でのメルトボリュームフローレートが11〜35cm/10minであることを特徴とする光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリカーボネート系樹脂からなり、透明性に優れ、光学歪が小さく、かつ表面欠陥の発生が抑制された光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムを提供することができる。
さらに本発明によれば、偏光分離シートの保護フィルムとして好適に用いることができる光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムを提供することができる。
また、本発明によれば、表面欠陥のないフィルムを連続的に安定して製造することのできる、生産安定性に優れる光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムの製造プロセスの一例を示す概略説明図である。
【図2】本発明の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムを液晶表示装置における偏光分離シート保護フィルムとして使用した一例を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムは、ポリカーボネート系樹脂からなるものである。
【0014】
<ポリカーボネート系樹脂>
ポリカーボネート系樹脂としては、例えば、耐熱性、機械的強度、透明性等に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂が好適に用いられる。芳香族ポリカーボネート樹脂は、通常、二価フェノールとカーボネート前駆体とを界面重縮合法、溶融エステル交換法で反応させて得られたものの他、カーボネートプレポリマーを固相エステル交換法により重合させたもの、または環状カーボネート化合物の開環重合法により重合させて得られるものである。
【0015】
前記二価フェノールとしては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3−イソプロピル−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−フェニル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−o−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエステル等が挙げられ、これらは単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0016】
なかでも、ビスフェノールA、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンおよびα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンからなる群から選ばれる二価フェノールを単独で又は2種以上用いるのが好ましく、特に、ビスフェノールAの単独使用や、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンと、ビスフェノールA、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン及びα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンからなる群から選ばれる1種以上の二価フェノールとの併用が好ましい。
【0017】
前記カーボネート前駆体としては、例えば、カルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
【0018】
本発明におけるポリカーボネート系樹脂は、300℃、1.2kg荷重でのメルトボリュームフローレート(MVR)が11〜35cm/10minであり、好ましくは12〜30cm/10minであり、より好ましくは12〜25cm/10minである。MVRが所定の範囲であるポリカーボネート系樹脂としては、上述の重合法により得られたものを用いてもよいし、市販のものを用いてもよい。なお、MVRは、ISO1133に従い測定される。
【0019】
ポリカーボネート系樹脂のMVRがあまり小さいと、ポリカーボネート系樹脂からなるフィルムに表面欠陥が発生しやすくなる。この理由として、MVRがあまり小さいと、ポリカーボネート系樹脂は、溶融粘度が高くなり、ポリカーボネート系樹脂からなるフィルムの溶融押出成形において、押出機とダイの間に設置されるポリマーフィルターに目詰まりしやすくなり、また該フィルター通過時の圧力損失が大きくなる。それゆえポリカーボネート系樹脂は、ポリマーフィルターに目詰まりしてフィルター内に停滞しやすくなり、樹脂焼けやゲル化が引き起こされやすくなる。そして、かかる樹脂焼けやゲル化によって生じる異物によって、得られる光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムは、例えば、凸状や線状の表面欠陥が発生しやすくなるものと推察される。
なお、溶融粘度を低下させるために、ポリカーボネート系樹脂の溶融温度を上昇させると、樹脂焼けやゲル化が発生しやすくなり、かかる樹脂焼けやゲル化によって生じる異物により、得られる光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムは表面欠陥が発生しやすくなるものと推察される。
【0020】
ポリカーボネート系樹脂のMVRがあまり大きいと、ポリカーボネート系樹脂からなるフィルムに皺状の表面欠陥が発生しやすくなる。この理由として、MVRがあまり大きいと、ポリカーボネート系樹脂は、溶融粘度が低くなり、ポリカーボネート系樹脂からなるフィルムの溶融押出成形において、ダイから吐出されるポリカーボネート系樹脂の吐出量が不安定化する。それゆえ得られる光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムは、表面に皺が発生しやすくなるものと推察される。
なお、溶融粘度を高くするために、ポリカーボネート系樹脂の溶融温度を低下させたとしても、溶融混練時のせん断発熱により樹脂温度が上昇するため、光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムの表面における皺の発生を抑制することは、困難なものであると推察される。
【0021】
ポリカーボネート系樹脂は、粘度平均分子量が17000〜21500であることが好ましく、18000〜21000であることがより好ましく、19000〜21000であることがさらに好ましい。粘度平均分子量が所定の範囲であるポリカーボネート系樹脂としては、上述の重合法により得られたものを用いてもよいし、市販のものを用いてもよい。
【0022】
粘度平均分子量は、塩化メチレンを溶媒として0.5重量%のポリカーボネート系樹脂溶液とし、キャノンフェンスケ型粘度管を用い温度20℃で比粘度ηspを測定し、濃度換算により極限粘度ηを求め、下記のSCHNELLの式(I)から算出される。
η=1.23×10−40.83 (I)
【0023】
ポリカーボネート系樹脂の粘度平均分子量があまり大きいと、ポリカーボネート系樹脂からなるフィルムに表面欠陥が発生しやすくなる。この理由として、粘度平均分子量があまり大きいと、ポリカーボネート系樹脂は、溶融粘度が高くなり、ポリカーボネート系樹脂からなるフィルムの溶融押出成形において、押出機とダイの間に設置されるポリマーフィルターに目詰まりしやすくなり、また該フィルター通過時の圧力損失が大きくなる。それゆえポリカーボネート系樹脂は、ポリマーフィルターに目詰まりしてフィルター内に停滞しやすくなり、樹脂焼けやゲル化が引き起こされやすくなる。そして、かかる樹脂焼けやゲル化によって生じる異物によって、得られるフィルムは、例えば、凸状や線状の表面欠陥が発生しやすくなるものと推察される。
なお、溶融粘度を低下させるために、ポリカーボネート系樹脂の溶融温度を上昇させたとしても、この溶融温度の上昇により樹脂焼けやゲル化が発生しやすくなり、かかる樹脂焼けやゲル化によって生じる異物のため、ポリカーボネート系樹脂からなるフィルムにおける表面欠陥の発生を抑制することは、困難なものであると推察される。
【0024】
ポリカーボネート系樹脂の粘度平均分子量があまり小さいと、ポリカーボネート系樹脂からなるフィルムに皺状の表面欠陥が発生しやすくなる。この理由として、粘度平均分子量があまり小さいと、ポリカーボネート系樹脂は、溶融粘度が低くなり、ポリカーボネート樹脂からなるフィルムの溶融押出成形において、ダイから吐出されるポリカーボネート系樹脂の吐出量が不安定化する。それゆえ得られるフィルムは、表面に皺が発生しやすくなるものと推察される。
なお、溶融粘度を高くするために、ポリカーボネート系樹脂の溶融温度を低下させたとしても、溶融混練時のせん断発熱により樹脂温度が上昇するため、ポリカーボネート系樹脂からなるフィルムの表面における皺の発生を抑制することは、困難なものであると推察される。
【0025】
なお、ポリカーボネート系樹脂には、必要に応じて、例えば、光拡散剤、紫外線吸収剤、有機系染料、無機系染料、顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤等を配合してもよい。
【0026】
<光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム>
本発明の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムは、少なくとも一方の面がマット面であることが好ましい。
【0027】
光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムの厚みは、30〜300μmであることが好ましく、40〜270μmであることがより好ましく、50〜250μmであることがさらに好ましい。光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムの厚みがあまり薄いと、該フィルム自体の剛性が低くなり、該フィルムの表面に皺が発生しやすくなったり、例えば偏光分離シートに貼合して用いた場合、貼合後の偏光分離シートの剛性が不足し液晶表示装置にセッティングした場合にうねりやたわみなどが発生しやすくなるおそれがある。光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムの厚みがあまり厚いと、該フィルムの製造コストが高くなったり、該フィルムを偏光分離シートに貼合した場合、貼合後の偏光分離シートの厚みが厚くなり、結果として、液晶パネルの厚みが厚くなるおそれがある。
【0028】
光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムは、JIS K7361−1に準拠して測定される全光線透過率が、85%以上であることが好ましい。該フィルムの全光線透過率があまりに低いと、フィルムへの入射光量に対して、フィルムからの出射光量の割合が減少してしまい、光の利用効率が低くなるおそれがある。
【0029】
光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムのヘイズは、50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、60%以上があることがさらに好ましい。ヘイズがあまり低いと十分な光拡散効果が現れないおそれがある。
【0030】
光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムの少なくとも一面の60度鏡面光沢度は、50%以下であることが好ましく、45%以下であることがより好ましく、35%以下であることがさらに好ましい。60度鏡面光沢度があまり大きいと、例えば光学用フィルムと液晶パネルが接触した場合、干渉稿による虹模様が発生するおそれがある。
【0031】
光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムの波長590nmでの入射光の面内リタデーション値は、30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましい。
例えば、本発明における光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムを液晶表示装置に用いる場合は、液晶表示に利用される光が偏光であることから、光学歪の小さいフィルムが要求され、30nm以下のリタデーション値であることが好ましい。液晶表示装置用の中でも偏光分離シート保護に用いられる偏光分離シート保護フィルムとして本発明の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムを用いる場合には、下述の理由から、偏光分離シートより出射してくる偏光の偏光方向をなるべく乱さないように、リタデーション値が低いことが好ましく、リタデーション値は20nm以下であることがより好ましい。
液晶表示装置は、図2に示すように、バックライトユニット8上に液晶パネル11が設置されており、バックライトユニット8から出射される光が液晶パネル11へ入射するように構成されている。偏光分離シート9は、通常、バックライトユニット8と液晶パネル11との間に配置されるものであり、バックライトユニット8から出射されてくる無偏光光を互いに直交関係にある2つの偏光光に分離し、一方の偏光光のみを選択的に透過して液晶パネル11側に出射し、もう一方の偏光光をバックライトユニット8側に戻して、バックライトユニット内で反射させた後、再度、偏光分離シート9に入射させて再利用することで、光の利用効率を向上させるようにしたものである。したがって、偏光分離シート9の保護のために該シート9の両方または一方の面に積層や貼合して用いられる偏光分離シート保護フィルム10としては、該シート9より出射してくる偏光の偏光方向をなるべく乱さないように、リタデーション値が低いことが好ましく、20nm以下のリタデーション値であることがより好ましい。
【0032】
<光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムの製造工程>
本発明の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムは、上述したポリカーボネート系樹脂からなり、少なくとも一方の面がマット面であるものが好ましい。光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムの製造方法としては、上述したポリカーボネート系樹脂を溶融押出する方法や、該樹脂を溶液製膜する方法等が挙げられる。中でも、300℃、1.2kg荷重でのMVRが11〜35cm3/10minであるポリカーボネート系樹脂を溶融押出する方法によれば、表面欠陥の発生が抑制された光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムを、連続的に安定して、生産安定性が良好に製造することができる。マット面の形成方法としては、溶融押出成形時に外周面に凹凸形状が形成された金属ロールである、いわゆるマットロールを用いた転写による方法や、マット化剤となる透明微粒子を配合したポリカーボネート系樹脂を用いて溶融押出成形において表面に凹凸を形成させる方法等が挙げられる。なお、本発明の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムとしては、主として上述したポリカーボネート系樹脂を含有していればよく、例えば他の樹脂をブレンドしていてもよく、また、例えば他の樹脂との多層溶融押出成形によって得られる2種2層や2種3層等の多層フィルムであってもよい。なお、これら他の樹脂についても、ポリカーボネート系樹脂と同様に、必要に応じて、透明微粒子や上述の他の成分を配合してもよい。
【0033】
<ロールを用いたマット面の形成方法>
いわゆるマットロールを用いたマット面の形成方法としては、溶融押出成形時に外周面に凹凸形状が形成された金属ロールを用いて、凹凸形状を転写する方法であり、例えば特開2009−196327号公報、特開2009−202382号公報に記載の方法などを挙げることができる。
【0034】
図1は、本発明の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムの製造プロセス(以下、本発明の製造プロセスという)の一例を示す概略説明図である。
同図に示すように、この製造プロセスは、溶融押出機1を準備し、押出機に投入されたポリカーボネート系樹脂は溶融混錬され、ポリマーフィルター2を通過後、ダイ3(Tダイ)を介して樹脂が広げられ、ダイ先端からフィルム状となって押し出される。
【0035】
ポリマーフィルター2としては、3〜12インチ程度のリーフディスク型フィルターが10〜80枚程度積層されたものが好ましく、市販のものを採用することができる。ポリマーフィルター2のフィルター孔サイズとしては、ゴム状重合体の凝集物を濾過できるものであればよい。具体的には、ポリマーフィルター2のフィルター孔サイズとしては、得られるフィルムにおける表面欠陥の発生を抑制する観点から、5〜20μmが好ましく、5〜15μmがより好ましい。
【0036】
ダイ3としては、通常、Tダイが用いられる。ダイ3は、光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムが単層フィルムの場合、1種の樹脂を単層で押し出す単層ダイが好ましく、2種2層や2種3層等の多層フィルムの場合、それぞれ独立して押出機から圧送された2種以上の樹脂を積層して共押出しする多層ダイが好ましく、多層ダイとして、フィードブロックダイ又はマルチマニホールドダイが好ましい。
【0037】
次いで、ダイ3から押し出された樹脂は、略水平方向に対向配置された第1冷却ロール4と第2冷却ロール5の間に挟み込まれ、少なくとも1つの表面にマット面を形成し、第3冷却ロール6により、緩やかに冷却し、光学用フィルム7を得ることができる。
【0038】
第1冷却ロール4は、直径が25〜100cm程度であり、ゴムロールまたは金属弾性ロールからなる。
【0039】
前記ゴムロールとしては、例えば、シリコンゴムロールやフッ素ゴムロール等が挙げられ、離型性を上げるために砂を混ぜたものを採用することもできる。ゴムロールの硬度は、JIS K6253に準拠して測定したA60°〜A90°の範囲内であるのが好ましい。ゴムロールの硬度を前記範囲内にするには、例えばゴムロールを構成するゴムの架橋度や組成を調整することによって任意に行うことができる。
【0040】
前記金属弾性ロールとは、ロールの内部がゴムで構成されているものや、流体を注入しているものであり、その外周部が屈曲性を持った金属製薄膜で構成されているものである。具体的には、ロールの内部がシリコンゴムロールで構成され、厚さ0.2〜1mm程度の円筒形のステンレス鋼製薄膜が該ロールの外周部に被覆されたものや、ロールの内部に水や油等の流体を注入しているものでは、厚さ2〜5mm程度のステンレス鋼製の円筒形薄膜をロール端部で固定し、内部に流体を封入しているものなどが挙げられる。
【0041】
このような第1冷却ロール4としては、金属材料や弾性体で構成されたもので、鍍金等で鏡面状に仕上げされたものを用いる。なお、金属弾性ロールの金属製薄膜やゴムロールの表面は必ずしも平滑である必要はなく、下記で説明する第2冷却ロール5と同様に表面に凹凸形状を設けても何ら問題はない。
【0042】
第2冷却ロール5は、直径が25〜100cm程度であり、外周面に凹凸形状が形成された金属ロールからなる。具体的には、金属塊を削りだしたドリルドロールや、中空構造のスパイラルロール等のロール内部に流体、蒸気等を通してロール表面の温度を制御できる金属ロールなどが挙げられ、これら金属ロールの外周面にサンドブラストや彫刻等によって所望の凹凸形状が形成されたものを用いることができる。
【0043】
第2冷却ロール5の外周面に形成される凹凸形状としては、算術平均粗さ(Ra)で0.1〜10μm程度のマット形状などや、特定のピッチや高さを有する凹凸形状などが挙げられる。前記算術平均粗さ(Ra)は、JIS B0601−2001に準拠して表面粗さ計で測定して得られる値である。
【0044】
尚、フィルムの両方の表面にマット層を形成させる場合は、上記凹凸形状を外周面に形成された冷却ロール同士の間に該樹脂を挟み込めばよい。
【0045】
凹凸形状が転写された光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムは、第2冷却ロール5に巻き掛けられた後、引取りロールにより引取られて巻き取られる。このとき、第2冷却ロール5以降に第3冷却ロール6を設けてもよい。これにより、光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムが緩やかに冷却されるので、該フィルムの光学歪を小さくすることができ、さらに第2冷却ロール5への接触時間も安定して確保できるため、第2冷却ロール5に付与した凹凸形状を安定して転写させることが可能となる。第3冷却ロール6としては、特に限定されるものではなく、従来から押出成形で使用されている通常の金属ロールを採用することができる。具体例としては、ドリルドロールやスパイラルロール等が挙げられる。第3冷却ロール6の表面状態は、鏡面であるのが好ましい。
【0046】
第2冷却ロール5に巻き掛けられた樹脂フィルムを、第2冷却ロール5と第3冷却ロール6との間に通して第3冷却ロール6に巻き掛けるようにする。第2冷却ロール5と第3冷却ロール6との間は、所定の間隙を設けて解放状態としても、両ロールに挟み込んでも構わない。なお、樹脂フィルムをより緩やかに冷却する上で、第3冷却ロール6以降に第4冷却ロール,第5冷却ロール,・・・と複数本の冷却ロールを設け、第3冷却ロール6に巻き掛けたマットフィルムを順次、次の冷却ロールに巻き掛けるようにしてもよい。
【0047】
<マット化剤を用いたマット面の形成方法>
また、マット面の他の形成方法として、マット化剤となる透明微粒子を配合した樹脂を用いて溶融押出成形において表面に凹凸を形成させることができる。特に、マット化剤を用いる場合には、多層溶融押出成形において、表層を形成する樹脂のみにマット化剤となる粒子を配合させることで、表面に凹凸を形成させる方法が好ましく用いられる。通常、マット化剤の添加により表面凹凸を得る場合には、一定量以上のマット化剤を添加することが必要となり、コスト的な観点から多層溶融押出成形において、表層を形成する樹脂のみにマット化剤を含有させる方法が一般的に用いられる。この際の多層押出成形方法としては、例えば、前述した特開2009−196327号公報、特開2009−202382号公報に記載の方法を挙げることができ、この場合にはマット化剤の効果により表面凹凸が形成されることから、第2冷却ロール5は通常の表面状態が鏡面の金属ロールを採用することもできる。
【0048】
また、この際に使用するマット化剤は、通常、いわゆる光拡散剤と言われる粒子を用いることが一般的であり、光拡散剤としては、例えば、メタクリル酸メチル系重合体粒子、スチレン系重合体粒子、シロキサン系重合体粒子などの有機系粒子、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、シリカ(酸化ケイ素)、無機ガラス、タルク、マイカ、ホワイトカーボン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの無機系粒子などが挙げられる。なお、無機系粒子は、熱可塑性樹脂中に均一に分散されるように、脂肪酸などの表面処理剤で表面処理されていてもよい。
【0049】
本発明の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムは、光学特性として、高い光線透過率が求められることが多いことから、マット化剤としては透明性の良好な粒子が好適に使用できる。また、表面の凹凸感を確保できる程度のマット化剤を添加し、かつ高い光線透過率を保つ観点から基材樹脂との屈折率差があまり大きくない粒子が好適であり、通常、屈折率差が0.1程度以内であることが好ましい。多層溶融押出成形においては、表層を形成する樹脂と屈折率差があまり大きくない粒子を選択することが好ましい。なお、使用するマット化剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
上記マット化剤として用いられるメタクリル酸メチル系重合体粒子は、メタクリル酸メチルを主体とする重合体の粒子であり、この重合体は、メタクリル酸メチルと、これ以外の分子内にラジカル重合可能な二重結合を1個有する単官能単量体と、分子内にラジカル重合可能な二重結合を2個以上有する多官能単量体とを共重合させてなる架橋重合体であるのがよい。
【0051】
上記メタクリル酸メチル系重合体粒子におけるメタクリル酸メチル以外の単官能単量体の例としては、先にメタクリル酸メチル系樹脂の単量体の例として挙げたメタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステル、スチレン系単量体、並びに(メタ)アクリル酸エステル及びスチレン系単量体以外の単量体と同様のものが挙げられ、スチレンが好適に用いられる。
【0052】
上記メタクリル酸メチル系重合体粒子における多官能単量体の例としては、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、プロピレンエチレングリコールジメタクリレート、テトラプロピレンエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレートなどの多価アルコールのメタクリレート類;1,4−ブタンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、プロピレンエチレングリコールジアクリレート、テトラプロピレンエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの多価アルコールのメタクリレート類;ジビニルベンゼン、ジアリルフタレートなどの芳香族多官能化合物などが挙げられる。かかる多官能単量体はそれぞれ単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0053】
かかるメタクリル酸メチル系重合体粒子の屈折率は、通常1.46〜1.55程度であり、ベンゼン骨格やハロゲン原子の含有量が多いほど大きな屈折率を示す傾向がある。このメタクリル酸メチル系重合体粒子は、例えば、懸濁重合法、ミクロ懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法などにより製造することができる。
【0054】
上記マット化剤として用いられるスチレン系重合体粒子は、スチレンを主体とする重合体の粒子であり、この重合体は、スチレンと、これ以外の分子内にラジカル重合可能な二重結合を1個有する単官能単量体と、分子内にラジカル重合可能な二重結合を2個以上有する多官能単量体とを共重合させてなる架橋重合体であるのがよい。
【0055】
上記スチレン系重合体粒子におけるスチレン以外の単官能単量体の例としては、メタクリル酸メチルの他、先にメタクリル酸メチル系樹脂の単量体の例として挙げたメタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステル、スチレン系単量体、並びに(メタ)アクリル酸エステル及びスチレン系単量体以外の単量体と同様のものが挙げられ、メタクリル酸メチルが好適に用いられる。
【0056】
上記スチレン系重合体粒子における多官能単量体の例としては、先にメタクリル酸メチル系重合体粒子の多官能単量体の例として挙げたものと同様のものが挙げられ、それぞれ単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
かかるスチレン系重合体粒子の屈折率は、通常1.53〜1.61程度であり、ベンゼン骨格やハロゲン原子の含有量が多いほど大きな屈折率を示す傾向がある。このスチレン系重合体粒子は、例えば、懸濁重合法、ミクロ懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法などにより製造することができる。
【0058】
上記マット化剤として用いられるメタクリル酸メチル系重合体粒子及びスチレン系重合体粒子で用いられる多官能単量体の割合は、全単量体を基準として、通常0.05〜15質量%程度であり、好ましくは0.1〜10質量%である。多官能単量体の量があまり少ないと、粒子の架橋程度が十分でなく、押出成形において熱や剪断がかかった場合に粒子が大きく変形し易く、結果として所望の光拡散効果が得られ難くなる。また、多官能性単量体の量があまり多いと、押出成形時に外観不良が発生し易くなる。
【0059】
上記マット化剤として用いられるシロキサン系重合体粒子は、例えば、クロロシラン類を加水分解し、縮合させる方法により製造される重合体の粒子である。
クロロシラン類としては、例えば、ジメチルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、フェニルメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシランなどが挙げられる。シロキサン系重合体は架橋されていてもよい。架橋させるには、例えば、シロキサン系重合体に過酸化ベンゾイル、過酸化2,4−ジクロルベンゾイル、過酸化p−クロルベンゾイル、過酸化ジキュミル、過酸化ジ−t−ブチル−2,5−ジメチル−2,5−(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンなどの過酸化物を作用させればよい。また、末端シラノール基を有する場合には、アルコキシシラン類と縮合架橋させてもよい。架橋された重合体は、ケイ素原子1個あたり、有機残基が2〜3個程度結合した構造であることが好ましい。
かかるシロキサン系重合体は、シリコーンゴム、シリコーンレジンとも称される重合体であって、常温では固体のものが好ましく用いられる。シロキサン重合体粒子は、かかるシロキサン重合体を粉砕することで得ることができる。線状オルガノシロキサンブロックを有する硬化性重合体やその組成物を噴霧状態で硬化させることで、粒状粒子としてもよい。また、アルキルトリアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物をアンモニア又はアミン類の水溶液中で加水分解縮合させることで粒状粒子として得てもよい。
かかるシロキサン系重合体粒子の屈折率は通常1.40〜1.47程度である。
【0060】
マット化剤として用いられる粒子の重量平均粒子径は、所望の表面凹凸形状に従い、適宜選定すればよいが、所望の表面凹凸形状を有し、かつ、優れた光学特性を有するためには、0.5〜50μmが好ましく、1〜40μmがより好ましく、2〜30μmが更に好ましい。また、粒子は、球状であることが一般的であるが、矩状、鱗片状、針状、板状などの形状のものも用いることができる。
【0061】
多層押出成形時の表層におけるマット化剤として用いられる粒子の配合割合は、樹脂と粒子の合計量100重量%に対して、35重量%以下であり、好ましくは30重量%以下である。粒子の配合割合が35重量%より大きいと、粒子を配合した樹脂の溶融押出成形が難しくなり好ましくない。
【0062】
本発明の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムは、拡散作用、変角作用、他部材とのスティッキング防止や接触などによるフィルム表面の保護などの様々な目的で用いられ、例えば、液晶表示装置において、バックライトユニットに組み込まれる光拡散フィルム、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、輝度向上フィルムなどや、偏光分離シートの保護フィルム、反射フィルムや導光フィルム等に使用できる。また、光ディスクや照明用フィルムなどにも適用することができ、本発明はこれらの用途に限定されるものではない。中でも、液晶表示装置における偏光分離シートの保護フィルムとして好ましく用いることができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、以下の実施例中、含有量ないし使用量を表す部は、特記ないかぎり重量基準である。
【0064】
以下の実施例および比較例で使用した押出装置の構成は、次の通りである。
溶融押出機1:ベント付きスクリュー径115mm一軸押出機(東芝機械(株)製)
ポリマーフィルター2:フィルター孔サイズ10μm
ダイ3:Tダイ(単層ダイ)
【0065】
溶融押出機1、ポリマーフィルター2、ダイ3、第1〜第3冷却ロール4〜6を図1に示すように配置し、各冷却ロール4〜6を以下のように構成した。
【0066】
<ロール構成>
第1冷却ロール4、第2冷却ロール5および第3冷却ロール6を以下のように構成した。
第1冷却ロール4:外径450mmφで硬度A70°のシリコンゴムロール
第2冷却ロール5:外径450mmφでブラスト処理によって算術平均粗さ(Ra)3.5μmの凹凸形状が形成されたステンレス鋼製の金属ロール(ドリルドロール)
第3冷却ロール6:外径450mmφで鏡面仕上げのステンレス鋼製の金属ロール(ドリルドロール)
【0067】
以下の実施例および比較例で使用したポリカーボネート系樹脂は、次の通りである。
ポリカーボネート系樹脂(A):住友ダウ(株)製の「カリバー301−15」。300℃、1.2kg荷重でのMVRは14cm/10min。粘度平均分子量は20200。
ポリカーボネート系樹脂(B):住友ダウ(株)製の「カリバー301−10」。300℃、1.2kg荷重でのMVRは10cm/10min。粘度平均分子量は22200。
ポリカーボネート系樹脂(C):住友ダウ(株)製の「カリバー301−40」。300℃、1.2kg荷重でのMVRは38cm/10min。粘度平均分子量は16500。
【0068】
(実施例1、比較例1〜2)
表1に示すポリカーボネート系樹脂を115mmφの単軸の溶融押出機1に供給し、ダイ3の手前に設置したフィルター孔サイズが10μmのポリマーフィルター2を通過させた後、ダイ3から、300kg/hrの吐出量でフィルム状の樹脂を押出し、該樹脂を第1冷却ロール4(設定温度:34℃)と第2冷却ロール5(設定温度:130℃)との間に挟み込み、第2冷却ロール5に巻き掛け、次いで、第2冷却ロール5と第3冷却ロール6(設定温度:135℃)との間に通し、さらに第3冷却ロールに巻き掛けて、一方の面に凹凸形状が転写された厚み130μmの光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム7を24時間連続成形した。
【0069】
24時間連続成形後に得られた各光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム(実施例1、比較例1〜2)について、以下の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0070】
<全光線透過率(Tt)およびヘイズ(H)>
JIS K7361−1に準拠して、光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムの全光線透過率(Tt)を測定した。
JIS K7136に準拠して、光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムのヘイズ(H)を測定した。
【0071】
<リタデーション値>
得られた光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムから50mm角サイズで試験片を切り出し、微小面積複屈折率計(王子計測機器(株)製の「KOBRA−CCO/X」)により590nmにおけるリタデーション値を測定した。
【0072】
<表面光沢度>
JIS Z8741に準拠して、得られた光学用フィルムのマット面(第2冷却ロールに接した面)の60度光沢度を測定した。
【0073】
<外観>
得られた光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムのマット面の外観を目視で評価した。マット面に、凸状の表面欠陥、線状の表面欠陥および皺がなく、外観が良好であった場合は「○」、マット面に、凸状の表面欠陥、線状の表面欠陥または皺があり、外観が不良であった場合は「×」と判定した。
【0074】
【表1】

【0075】
表1から明らかなように、300℃、1.2kg荷重でのMVRが14cm/10minであるポリカーボネート系樹脂(A)からなる実施例1の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムは、マット面に表面欠陥がなく、外観が良好であることがわかる。
【0076】
一方、300℃、1.2kg荷重でのMVRが10cm/10minであるポリカーボネート系樹脂(B)からなる比較例1の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムは、マット面に凸状の表面欠陥および線状の表面欠陥があった。また、300℃、1.2kg荷重でのMVRが38cm/10minであるポリカーボネート系樹脂(C)からなる比較例2の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムは、マット面に皺があった。
【符号の説明】
【0077】
1 溶融押出機
2 ポリマーフィルター
3 ダイ
4 第1冷却ロール
5 第2冷却ロール
6 第3冷却ロール
7 光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム
8 バックライトユニット
9 偏光分離シート
10 偏光分離シート保護フィルム
11 液晶パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系樹脂からなるフィルムであり、
ポリカーボネート系樹脂が300℃、1.2kg荷重でのメルトボリュームフローレートが11〜35cm/10minである光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム。
【請求項2】
ポリカーボネート系樹脂の粘度平均分子量が17000〜21500である請求項1に記載の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム。
【請求項3】
厚みが30〜300nmであり、全光線透過率が85%以上である請求項1または2に記載の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム。
【請求項4】
ヘイズが50%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム。
【請求項5】
表面光沢度が50%以下である請求項1〜4のいずれかに記載の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム。
【請求項6】
波長590nmの入射光のリタデーションが30nm以下である請求項1〜5のいずれかに記載の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム。
【請求項7】
少なくとも一方の面がマット面である請求項1〜6のいずれかに記載の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム。
【請求項8】
マット面がマットロール転写により形成されたものである請求項7に記載の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム。
【請求項9】
液晶表示装置に使用される請求項1〜8のいずれかに記載の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム。
【請求項10】
前記液晶表示装置における偏光分離シートの保護に使用される請求項9に記載の光学用ポリカーボネート系樹脂フィルム。
【請求項11】
ポリカーボネート系樹脂を溶融押出して光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムを製造する方法であって、
該ポリカーボネート系樹脂が、300℃、1.2kg荷重でのメルトボリュームフローレートが11〜35cm/10minであることを特徴とする光学用ポリカーボネート系樹脂フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−92217(P2012−92217A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240392(P2010−240392)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】