説明

光送信モジュール

【課題】温度補償回路や複雑な制御方法を用いなくても、低温域で良好な通信品質を得る光送信モジュールを提供すること。
【解決手段】光送信モジュールは、半導体レーザ素子(31)と、前記半導体レーザ素子が出力する光の強度に応じて電流を流す受光素子(32)と、前記受光素子に直列に設けられる温度可変抵抗(34)と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体レーザを用いた光送信モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光トランシーバに対し、広い温度帯域で動作させる要求が高まっている。特に温度コントローラ(ペルチェクーラ)を使用しない送信側光モジュールでは、従来は+80℃〜−5℃の温度範囲が要求されていたが、近年では例えば+90℃〜−20℃での温度動作範囲を要求することが増えている。
【0003】
高温域ではレーザダイオード(LD)の発光効率が低下することによるパワー不足や、緩和振動周波数(fr)の低下により、通信品質が低下し十分なマスクマージンが取得できなくなることが問題となる。しかし、これらの問題はレーザダイオードの特性改善や光トランシーバ・光送信モジュールの放熱構造の改善により解決しつつある。
【0004】
一方、低温域ではレーザダイオードの発光効率が上昇し、低い動作電流でも所望のパワーが得られる。しかし、動作電流が低下すると、レーザダイオードに印加される実効電流も低下してしまう。その結果、緩和振動周波数の低下などにより通信品質が低下し、十分なマスクマージンを確保することが出来なくなってしまうという問題が生じる。
【0005】
この問題を解決するために、温度補償回路を組み込む構造や、温度毎に制御方法を変える方法が提案されている。特許文献1にはペルチェ素子によって温度を制御する温度補償回路を含む光モジュールが開示されており、特許文献2には、温度によってレーザダイオードの制御方法を変化させる光送信器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−247482号公報
【特許文献2】特開平9−312441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
温度補償回路や温度によりレーザダイオードの制御方法を変化させるような構成を用いると、回路の複雑化を招き、例えば構造の大型化やコストアップが問題となる。
【0008】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであって、その目的は、前述のような温度補償回路や複雑な制御方法を用いなくても、低温域で良好な通信品質を得ることの出来る光送信モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下
の通りである。
【0010】
(1)半導体レーザ素子と、前記半導体レーザ素子が出力する光の強度に応じて電流を流す受光素子と、前記受光素子に直列に設けられる温度可変抵抗と、を含むことを特徴とする光送信モジュール。
【0011】
(2)(1)において、前記温度可変抵抗は温度が低くなるほど抵抗が高くなることを特徴とする光送信モジュール。
【0012】
(3)(1)または(2)において、前記温度可変抵抗はサーミスタであることを特徴とする光送信モジュール。
【0013】
(4)(1)から(3)のいずれかにおいて、前記受光素子はフォトダイオードであることを特徴とする光送信モジュール。
【0014】
(5)(1)から(4)のいずれかにおいて、直列に接続される前記受光素子および前記温度可変抵抗からなる回路は、前記半導体レーザ素子の光出力を制御する回路に接続される、ことを特徴とする光送信モジュール。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光送信モジュールにおいて、温度補償回路や複雑な制御方法を用いなくても、低温域で良好な通信品質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態にかかる光送信モジュールの構成の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる光送信モジュールの等価回路を示す回路図である。
【図3】温度可変抵抗の温度と抵抗値との関係の例を示す図である。
【図4】温度とモニタフォトダイオードに印加される電圧との関係の例を示す図である。
【図5】光強度が一定の場合におけるモニタフォトダイオードに印加される電圧とその出力電流との関係を示す図である。
【図6】本発明の実施形態にかかる光送信モジュールにおけるレーザダイオードの動作電流と、従来の光送信モジュールにおけるレーザダイオードの動作電流との温度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。出現する構成要素のうち同一機能を有するものには同じ符号を付し、その説明を省略する。本実施形態では、光トランシーバ内で使用される送信側光モジュール(TOSA:Transmitter Optical SubAssembly)について説明する。
【0018】
図1は本発明の実施形態にかかる光送信モジュール1の構成の一例を示す図である。本図は光送信モジュール1を側面から見た図である。光送信モジュール1は、ステム10と、集光レンズ51およびキャップ52と、筐体部61と、レセプタクル62とを有する。ステム10と筐体部61とにより囲まれた部分には光送信用素子及び回路が設けられており、また、レセプタクル62により光伝送路に接続される。
【0019】
ステム10は円盤状の台座とその台座の上に設けられ円柱を半分に割った形のLD固定部とからなる。LD固定部にはレーザダイオード31(半導体レーザ素子)が設けられる。またステム10の台座上には絶縁体33と温度可変抵抗34とが設けられ、また絶縁体33の上にはモニタフォトダイオード32が設けられている。モニタフォトダイオード32はレーザダイオード31が出力する出射光強度を計測する。リードピン22から25は、ステム10を貫通するように設けられている。リードピン22とリードピン23とはそれぞれワイヤ41およびワイヤ42とによってレーザダイオード31に接続されている。絶縁体33の上面は金メッキされており、リードピン24とワイヤ43によって接続されている。また温度可変抵抗34の上面と、モニタフォトダイオードの上面とはワイヤ44によって接続され、温度可変抵抗34の下面はステム10の台座に接している。リードピン21はステム10の台座のLD固定部と反対側の面から延びるように設けられており、ステム10はリードピン21を介してGND配線に接続される。なお、リードピン25はオープンの端子である。
【0020】
レーザダイオード31が台座とは反対の側に出力する光は、集光レンズ51に入力される。集光レンズ51はキャップ52に支持され、集光レンズ51によりレーザダイオード31から出力された光(光信号)がファイバ63に集光される。こうすることにより、レセプタクル62を介して接続された外部の伝送路に光信号を送信することができる。
【0021】
図2は、本発明の実施形態にかかる光送信モジュール1の等価回路を示す回路図である。レーザダイオード31は、リードピン22,23から供給される電気信号によりレーザ光を出力し、出力されたレーザ光の一部はモニタフォトダイオード32に入力される。また、モニタフォトダイオード32と温度可変抵抗34とは、リードピン21やリードピン24からみて、直列に接続されている。
【0022】
温度可変抵抗34は、本実施形態の例ではサーミスタであり、このサーミスタは負の温度係数を持つ。つまり、このサーミスタは温度が低くなるほど抵抗が高くなる特性をもつ。図3は、温度可変抵抗34の温度と抵抗値Rthとの関係の例を示す図である。また、モニタフォトダイオード32と温度可変抵抗34とからなる回路の両端には、+5Vの電圧が印加されており、温度可変抵抗34の抵抗によってモニタフォトダイオード32の両端に印加される電圧Vpdが変化する。図4は、温度とモニタフォトダイオード32の両端に印加される電圧Vpdとの関係の例を示す図である。以下の表に、25℃、−5℃、−20℃における温度可変抵抗34の抵抗値Rthと、モニタフォトダイオード32に印加される電圧Vpdとの関係を示す。温度が低下すると、挿入された温度可変抵抗34の抵抗値Rthが増加し、その抵抗値Rthの増加に応じてモニタフォトダイオード32に印加される電圧Vpdが低下する。
【0023】
【表1】

【0024】
モニタフォトダイオード32は、同じ強度の光を受光しても、印加される電圧Vpdによって出力するモニタ電流Ipdが変化する特性をもつ受光素子である。図5は、光強度が一定の場合におけるモニタフォトダイオード32に印加される電圧Vpdと、モニタフォトダイオード32の出力電流であるモニタ電流Ipdとの関係を示す図である。印加される電圧がある上限(この例では4V)を超えるとモニタ電流Ipdが一定になるが、それ以下では電圧Vpdとモニタ電流Ipdとの間に比例関係がある。
【0025】
リードピン24およびリードピン21(GND配線)はAPC(Automatic Power Control)制御を行う回路に接続されている。APC制御においては、光トランシーバは、リードピン24およびGND配線から得られるモニタ電流Ipdに基づいて、このモニタ電流Ipdが予め定められた値になるようにレーザダイオード31に供給する電流や電圧を制御し、レーザダイオード31の光出力を制御する。
【0026】
上述のように温度可変抵抗34により温度が低くなるほどモニタフォトダイオード32の両端にかかる電圧が低くなり、モニタ電流Ipdも低くなる。すると、APC制御を行う回路は、モニタ電流Ipdをある値にするように制御するため、レーザダイオード31に電流をより多く流し、出射光強度を増加させる。すると、低温時においてレーザダイオード31に十分な実効電流を流すことが可能となる。
【0027】
図6は、本発明の実施形態にかかる光送信モジュール1におけるレーザダイオード31の動作電流Ildと、従来の光送信モジュールにおけるレーザダイオードの動作電流Ildpとの温度変化を示す図である。本発明の実施形態にかかる光送信モジュール1は、従来の光送信モジュールに比べて、低温になればなるほどレーザダイオード31に流す動作電流Ildと動作電流Ildpとの差が多くなる。この例では、本実施形態にかかる光送信モジュール1の方が−20℃の時で約40%多く実効電流を確保することが出来る。
【0028】
この実効電流の違いにより、通信品質が改善し、マスクマージンが向上する。以下の表に、温度可変抵抗34がある場合と無い場合とにおけるマスクマージンの値の例を示す。ここで、マスクマージンは10.7GBit/sにおけるSONETマスクである。
【0029】
【表2】

【0030】
−5℃、−20℃いずれの温度でも温度可変抵抗無しの場合と比較して良好なマスクマージンを得ることができる。
【0031】
ここで、温度可変抵抗34としてサーミスタを使用することにより、従来のCANパッケージ内に全ての回路を構成することが可能になり、光送信モジュールを大型化すること無く、低温での通信品質を向上させることができる。また、サーミスタをモニタフォトダイオード32と直列に接続するという、複雑な温度補償回路に比べればはるかに簡易な構成で低温での通信品質を向上させることができる。これにより、光送信モジュールを大型化・コストアップすることなく、低温時におけるマスクマージンを向上させることができる。
【0032】
また、APC制御は常温での光強度を基準にした制御でよい。このようなAPC制御でも、温度変化がモニタフォトダイオードのモニタ電流Ipdに反映されるため、例えば低温になると光強度を常温時と等価にしようと制御し、出射光強度を増加させる。常温での光強度を基準にしたAPC制御は温度コントローラを用いない光トランシーバの光送信モジュールでも以前から行われているものであり、このような光トランシーバの光送信モジュールを上述のものに入替えるだけで低温での通信品質を向上させることができる。
【符号の説明】
【0033】
1 光送信モジュール、10 ステム、21,22,23,24,25 リードピン、31 レーザダイオード、32 モニタフォトダイオード、33 絶縁体、34 温度可変抵抗、41,42,43,44 ワイヤ、51 集光レンズ、52 キャップ、61 筐体部、62 レセプタクル、63 ファイバ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザ素子と、
前記半導体レーザ素子が出力する光の強度に応じて電流を流す受光素子と、
前記受光素子に直列に設けられる温度可変抵抗と、
を含むことを特徴とする光送信モジュール。
【請求項2】
前記温度可変抵抗は温度が低くなるほど抵抗が高くなる、
ことを特徴とする請求項1に記載の光送信モジュール。
【請求項3】
前記温度可変抵抗はサーミスタである、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光送信モジュール。
【請求項4】
前記受光素子はフォトダイオードである、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光送信モジュール。
【請求項5】
直列に接続される前記受光素子および前記温度可変抵抗からなる回路は、前記半導体レーザ素子の光出力を制御する回路に接続される、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光送信モジュール。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−134356(P2012−134356A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285766(P2010−285766)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(301005371)日本オプネクスト株式会社 (311)
【Fターム(参考)】