説明

免疫グロブリン2

【課題】哺乳動物における一本鎖免疫グロブリンの産生方法により作製した一本鎖抗体を提供する。
【解決手段】 哺乳動物の抗体産生細胞において、異種VHH重鎖遺伝子座を発現させるステップを含む、哺乳動物におけるVHH単一重鎖抗体の産生方法により抗体を産生する。産生されるVHH単一重鎖抗体は、VHH重鎖遺伝子座が、ラクダ科動物起源のVHH領域と、非ラクダ科動物起源のJ領域と、非ラクダ科動物起源のD領域と、定常重鎖領域とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は哺乳動物における一本鎖免疫グロブリンの産生方法に関する。特に、本発明は、哺乳動物における一本鎖ラクダ科動物VHH抗体の産生方法に関する。本発明の方法を使用して作製した一本鎖抗体およびその使用もまた記載する。
【背景技術】
【0002】
抗体の抗原結合ドメインは、以下の二つの異なる領域(重鎖可変ドメイン(VH)および軽鎖可変ドメイン(VL:VκまたはVλであり得る))を含む。抗原結合部位自体は、六つのポリペプチドループ(三つのループはVHドメイン(H1、H2、およびH3)に由来し、三つはVLドメイン(L1、L2、およびL3)に由来する)によって形成されている。VHおよびVLドメインをコードするV遺伝子の種々の一次レパートリーは、遺伝子セグメントの組み合わせ再編成によって産生される。VH遺伝子は、三つの遺伝子セグメント(VH、D、およびJH)の組み合わせによって産生される。ヒトでは、ハプロタイプに依存して、約51個の機能的VHセグメント(Cook and Tomlinson,1995,Immunol.Today,16,237)、25個の機能的Dセグメント(Corbettら,1997,J.Mol.Biol.,268,69)、および6個の機能的JHセグメント(Ravetchら,1981,Cell,27,583)が存在する。VHセグメントは、VHドメインの第1および第2の抗原結合ループ(H1およびH2)を形成するポリペプチド鎖領域をコードする一方で、VH、D、およびJHセグメントが組み合わされてVHドメインの第3の抗原結合ループ(H3)が形成される。VL遺伝子は、たった二つの遺伝子セグメント(VLおよびJL)の組換えによって産生される。ヒトでは、ハプロタイプに依存して、約40個の機能的Vκセグメント(Schable and Zachau,1993,Biol.Chem.Hoppe−Seyler,374,1001)、31個の機能的Vλセグメント(Williamsら,1996,J.Mol.Biol.,264,220;Kawasakiら,1997,Genome Res.,7,250)、5個の機能的Jκセグメント(Hieterら,1982,J.Biol.Chem.,257,1516)、および4個の機能的Jλセグメント(Vasicek and Leder,1990,J.Exp.Med.,172,609)が存在する。VLセグメントは、VLドメインの第1および第2の抗原結合ループ(L1およびL2)を形成するポリペプチド鎖領域をコードする一方で、VLおよびJLセグメントが組み合わされたVLドメインの第3の抗原結合ループ(L3)が形成される。この一次レパートリーから選択された抗体は、少なくとも中程度の親和性で、ほとんど全ての抗原の結合に十分に多様であると考えられる。高親和性抗体は、再構成遺伝子の「親和性変異」によって産生され、結合の改良に基づいた免疫系によって点変異が作製および選択される。
【0003】
重鎖遺伝子座は、重鎖Cμの定常領域をコードするエクソンの前の二つの短いコード領域DおよびJ上に組換えられて(VDJ組換えとして公知)、IgMとして公知の完全な抗体重鎖遺伝子が得られる、多数の可変鎖遺伝子(VH:実際は完全な遺伝子ではないが、第1のコードエクソン+転写開始部位を含む)を含む。その後、可変部がIgM定常領域の下流に存在する別の定常領域で組換えられた場合にクラスのスイッチングが起こりIgD、IgG、IgA、およびIgE(Cμの遺伝子の下流に存在する種々のCδ、Cγ、Cα、Cεのエクソンによってコードされる)が得られる。この過程で介入性の定常領域が欠失する。軽鎖遺伝子座(最初にκ遺伝子座)で類似の過程が経られ、この過程が経られない場合にλ遺伝子座中で抗体が産生される(概説として、Rajewski,K.,Nature、381、751〜758頁、1996を参照のこと;さらなる概説として、テキストブック「免疫学」、Janeway,C.,Travers,P.,Walport,M.,Capra.J.,Current Biology Publications/Churchill Livingstone/Garland Publishing、第4版、1999、ISBN0−8153−3217−3を参照のこと)。
【0004】
ラクダ科動物(ラクダ、ヒトコブラクダ、およびラマ)は、正常な重鎖抗体および軽鎖抗体(一つの抗体中に2個の軽鎖および2個の重鎖を含む)に加えて、一本鎖抗体(重鎖のみを含む)を含む。これらは、VHH遺伝子と呼ばれるVHセグメントの個別のセットによってコードされる。一本鎖抗体の抗原結合は、従来の抗体を使用して認められるものと異なるが、同一の方法(すなわち、可変領域の高頻度変異およびこのような高親和性抗体を発現する細胞の選択(親和性変異)による)で高親和性が得られる。VHおよびVHHは、ゲノム中に散在している(すなわち、これらは互いに混合しているようである)。VHおよびVHHのcDNA中での同一のDセグメントの同定により、VHおよびVHHのDセグメントの共用が示唆される。抗体を含む天然のVHHは、定常重鎖領域の全CH1ドメインを欠く。CH1ドメインをコードするエクソンはゲノム中に存在するが、CH1エクソンの5’側での機能的スプライス受容体配列の欠損によりスプライシング時に除去される。結果として、VDJ領域がCH2エクソン上にスプライシングされる。このような定常領域(CH2、CH3)上でVHHが組換えられる場合、一本鎖抗体(すなわち、軽鎖相互作用を含まない二つの重鎖の抗体)として作用する抗体が産生される。抗原の結合が従来の抗体で認められる結合と異なるが、同一の方法(すなわち、可変領域の高頻度変異およびこのような高親和性抗体を発現する細胞の選択による)で高親和性が得られる。
【0005】
NMRおよびX線結晶学技術を使用して単離VHドメインの構造が決定されている(Spinellら、1996,Nat.Structural biol.,3,752)。データは、免疫グロブリンの折りたたみがラクダ科動物VHHドメインで十分に保存されていることを示す。二つのβシート(一方は4本のβ鎖を含み、他方は5本のβ鎖を含む)が相互に密集し、C22とC92との間の保存されたドメイン内ジスルフィド結合によって安定化されている。Fv中の正常なVHのVL境界に対応するラクダVHHドメインの側は、非常に異なる構造を有する。ヒトVHと比較すると、この領域で4個のアミノ酸が置換されている。
【0006】
全てのヒトおよびマウスVH抗原結合ループ構造の調査から、限られた数の立体配座しか可能でないことが明らかである。第1および第2の抗原結合ループについてそれぞれ三つおよび四つの異なる立体配座が記載されている。これらの標準的な構造は、ループの長さおよび重要な位置での特定の残基の存在によって決定される。H3ループは、長さおよび配列が非常に変化する(Wuら、1993,Proteins:structure,funct.and genet.,16,1)。驚いたことに、ラクダVHドメインの抗原結合ループは、ヒトおよびマウスVHHドメインの標準的なループ定義から逸脱している。ループの長さおよび重要な部位の残基がラクダVHとヒトVHとの間で非常に類似しているので、この逸脱を予測することはできない。ラクダVHドメイン中のさらなる標準的なループ構造により、従来の抗体由来のFvフラグメント中のVHドメインの構造レパートリーよりも長いパラトープの構造レパートリーが得られる。さらに、ヒトまたはマウス抗体よりも第1の抗原結合ループ周囲の超可変領域が拡大される。第1の超可変領域の伸長および付随する従来の抗体中のVHの抗原結合表面と比較して拡大した抗原結合表面により、VLドメインの欠乏が一部補われると考えられる(Riechmann,L.&Muyldermans,S,1999,231,25〜38)。
【0007】
より大きな重鎖および軽鎖抗体分子よりも構造分析に適切であるだけでなく、シングルドメインラクダ科動物VHH抗体により、小型で有効な抗原結合単位が得られる。このような抗体は種々の治療可能性を有する。さらに、ラクダ科動物一本鎖抗体は、重鎖と軽鎖との両方を有する抗体にとっては接近困難な抗原と結合することができることが見出された。この能力は抗原表面の空洞に挿入することができる10個のアミノ酸またはそれ以上の巨大な突出した第3の超可変ループの存在によると考えられる。酵素の触媒部位がそのタンパク質表面上の最も巨大な空洞にしばしば存在する場合、これは特に顕著である。(Ladowski,R.A.,1996,Protein Science,5,2438)。このような部位は、通常、従来の抗体に免疫原性を示さない(Novotny,J.ら、1986,Proc.Nat.Acad.Sci.USA,83,226)。ラクダVHHcAb−Lys3の構造では、24残基のH3ループがリゾチームの活性部位に深く侵入しており(Transue,T.R.ら、1998,Prot:Structure,Funct and Genet.,32、515)、ラクダ重鎖抗体は特異的酵素インヒビターを形成する潜在性を有することを示す。
【0008】
最近、細菌中で単離されたラクダVHHドメインが産生された(Riechmann,Lら、Journal of Immunological Methods,231,1999、25〜38)。しかし、細菌発現系は、翻訳後に修飾を行うことができないという欠点を有する。このような修飾(特に、グリコシル化事象)は、特にインビボ環境下における抗体の有効な機能化に重要である。
【0009】
同一の研究では、ラクダVHHドメインの遺伝子を発現ベクターに挿入し、Cos細胞で発現させて多ドメインタンパク質を作製した。一つの例では、インタクトな単一重鎖のみの抗体を、ヒトIgG1のヒンジおよびエフェクター機能ドメインの前への特定のラクダVHHクローニングによって作製した。Cos細胞での発現は、これらの細胞中で翻訳後修飾が起こるという細菌発現系を超える利点を有する。これは、これらの抗体が抗原結合で完全に活性であるという所見と一致した。これらの構造を作製するためのDNAは、一般に、B細胞から作製された成熟(すなわち、親和性変異を受けた抗体)抗体から単離される。インビトロ環境下で哺乳動物中に発現したこれらの一本鎖抗体は、一以上の抗原に結合することができ、これらはクラス(イソ型)のスイッチングおよび親和性変異(高頻度変異)を経ることができない。したがって、Cos細胞中で発現した一本鎖抗体は、哺乳動物内に作製された天然に存在する抗体のように抗体進化過程を経ない。これは、高親和性で結合する特異的抗体が産生される抗体進化過程である。したがって、正常な抗体進化過程を経ることができるような哺乳動物における一本鎖VHH抗体の産生方法が当分野で依然として必要である。
【0010】
さらに、ファージディスプレイテクノロジーを使用して、ラクダ科動物一本鎖抗体も選択および発現されている(Riechmann,L.&Davies,S.J.Biomol.NMR,6,141)。さらに、抗体構築物は成熟B細胞または脾臓から単離された核酸から作製される(したがって、上記と同様である)にもかかわらず、発現した抗体は、その抗原と選択性および高親和性をもって結合する特異的抗体の産生に必要なクラススイッチングおよび体細胞高頻度変異(親和性変異)を経ない。
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは、B細胞における初期抗体発生時にラクダ科動物一本鎖抗体分子が進化する(クラススイッチングおよび親和性変異による)機構がわかれば、この系をインビボで再現することができることがわかった。これにより、構造、治療、および診断に適用するために進化した一本鎖抗体を大量に産生することが可能である。
【0012】
[発明の要約]
重鎖と軽鎖との両方を含む抗体分子は、B細胞の発生時にクラススイッチが行われる。骨髄中で発生するB細胞は、IgMに結合した膜を発現する。発生時に分泌型IgGが発現される。軽鎖と重鎖との両方を有する抗体の場合、J領域はCμ領域上で組換えられてVH、D、およびJ領域を含むIgMが産生される。IgM産生細胞は異なる定常重鎖領域へのスイッチングによってさらに成熟して、例えばIgAを産生する。組換え機構は、IgMのVH部分で組換えられる偽軽鎖を含み、この偽軽鎖は初期B細胞系統のあいだに存在する。
【0013】
本発明者らは、一本鎖抗体がB前駆細胞発生時にクラススイッチおよび/または親和性成熟(抗体の進化)を経る機構により本明細書中で定義されるVHH遺伝子座が作製され、その天然の環境下で産生されたラクダ科動物抗体と類似または同一の進化過程を経る特異的な一本鎖VHH抗体が産生されることを理解した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、第1の態様では、本発明は、哺乳動物において異種VHH重鎖遺伝子座を発現させるステップを含む、哺乳動物におけるVHH単一重鎖抗体の産生方法を提供する。
【0015】
好ましくは、VHH重鎖遺伝子座は、
(a)一つのVHHエクソンをそれぞれ含む少なくとも一つのVHH領域と、一つのDエクソンをそれぞれ含む少なくとも一つのD領域と、一つのJエクソンをそれぞれ含む少なくとも一つのJ領域とであって、該VHH領域、該D領域、および該J領域は組換えによりVDJコード配列を形成することができ、
(b)少なくとも一つのCγ定常重鎖遺伝子を含む定常重鎖領域であって、発現した場合、機能的CH1ドメインや機能的CH4ドメインを発現しない定常重鎖領域と、
(c)ステップ(b)のCγ定常重鎖遺伝子を使用してステップ(a)のJ領域を直接組換えることができる少なくとも一つの組換え配列(rss)と
を含み、前記遺伝子座は発現した場合、完全な単一重鎖IgG分子(scIgG)を形成することができる。
【0016】
さらなる態様では、本発明は、哺乳動物においてラクダ化VH重鎖遺伝子座を発現するステップを含む、哺乳動物におけるラクダ化VH単一重鎖抗体の産生方法を提供する。
【0017】
好ましくは、ラクダ化VH重鎖遺伝子座は、
(a)核酸配列がラクダ科動物VHHエクソン(「ラクダ化VHエクソン」)と同一であるように変異させた一つのVHエクソンをそれぞれ含むVH領域と、一つのDエクソンを含むD領域と、一つのJエクソンを含むJ領域とであって、該VH領域、該D領域、および該J領域は組換えによりVDJコード配列を形成することができ、
(b)少なくとも一つのCγ定常重鎖遺伝子を含む定常重鎖領域であって、発現された場合、機能的CH1ドメインも機能的CH4ドメインも発現しない定常重鎖領域と、
(c)ステップ(b)のCγ定常重鎖遺伝子を使用してステップ(a)のJ領域を直接組換えることができる少なくとも一つの組換え配列(rss)と
を含み、前記遺伝子座は、発現された場合、完全な単一重鎖IgG分子(scIgG)を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の好ましい一本鎖抗体遺伝子座を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、単一重鎖抗体の場合、クラススイッチングしてscAb(完全な単一重鎖抗体ポリペプチド鎖)を形成することを示した。この機構は、好ましくは骨髄中でステップ(b)の定常重鎖領域のCγ重鎖領域遺伝子でステップ(a)のJ領域を直接組換えてscIgG(一本鎖IgG分子)を産生するステップを含む。したがって、構築物中での組換えシグナル配列(rss)の存在により、ステップ(a)のJ領域がステップ(b)のCγ遺伝子に直接連結される。
【0020】
本発明の局面においては、哺乳動物はヒトではない。トランスジェニック哺乳動物は、ラクダ科動物よりも有利に小さく、且つ保存が容易で、所望の抗原での免疫化が容易である。理想的には、トランスジェニック哺乳動物は、ウサギ、モルモット、ラット、またはマウスなどのげっ歯類である。マウスが特に好ましい。ヤギ、ヒツジ、ネコ、イヌ、および他の家畜または野生動物を含む別の哺乳動物を使用することもできる。
【0021】
本発明の方法で一本鎖抗体が発現された場合、哺乳動物に内因性の重鎖遺伝子座が欠失されているかサイレントであることが有利である。その後の適切な技術は、WO00/26373またはWO96/33266および(Li and Baker,2000,Genetics,156(2),809〜821;Kitamura and Rajewsky,1992;Kitamura and Rajewsky,1992,Nature,356,154〜156)に記載されている。
【0022】
本発明の用語「VHH単一重鎖抗体」は、重鎖のみ(一般に、2本)から構成され、いかなる軽鎖も含まない抗体分子を意味する。各重鎖は、可変領域(VHH、D、およびJエクソンによってコードされる)および定常領域を含む。定常領域は、多数のCH(定常重鎖ドメイン)をさらに含み、有利には、二つ(定常領域遺伝子によってコードされている、一方はCH2ドメインであり、他方はCH3ドメイン)を含む。本明細書中で定義されるVHH一本鎖抗体は、機能的CH1ドメインを保有せず、機能的CH4も欠く。これは、機能的CH1ドメイン(従来の抗体では軽鎖の定常ドメインのための固定場所を保有する)を欠き、このことは本発明の重鎖抗体と軽鎖が結合して従来の抗体を形成することができないことの原因となる。
【0023】
本発明の用語、「ラクダ化VH単一重鎖抗体」は、重鎖のみ(一般に、2本)から構成され、いかなる軽鎖も含まない抗体分子を意味する。各重鎖は、可変領域(「ラクダ化VHエクソン」、D、およびJエクソンによってコードされる)および定常領域を含む。定常領域は、少なくとも一つの定常領域遺伝子を含む。各定常領域遺伝子は、多数の定常領域エクソン(各エクソンは定常領域CHドメインをコードする)を含む。一般に、定常領域は二つのCHドメイン(一方はCH2ドメインであり、他方はCH3ドメイン)を含む。本明細書中で定義されるラクダ化VH一本鎖抗体は、機能的CH1ドメインを保有せず、さらに機能的CH4も欠く。これは、機能的CH1ドメイン(従来の抗体では軽鎖の定常ドメインのための固定場所を保有する)を欠き、このことは本発明の重鎖抗体と軽鎖が結合して従来の抗体を形成することができないことの原因となる。
【0024】
本発明の局面では、用語「異種」は、哺乳動物に対して内因性ではない、本明細書中に記載のVHH重鎖遺伝子座を意味する。哺乳動物がラクダ科動物(すなわち、ラクダまたはラマ)である場合、その発現はラクダまたはラマでそれぞれ通常は見出されないVHH遺伝子座である。
【0025】
本発明の「VHH重鎖遺伝子座」は、「VHH領域」、「J領域」、「D領域」、および「定常重鎖領域」から構成される。各VHH領域は一つのVHHエクソンを含み、各J領域は一つのJエクソンを含み、および各D領域は一つのDエクソンを含み、各定常重鎖領域は一以上の定常重鎖領域遺伝子を含む。さらに、各VHH領域は、実質的に、一以上の機能的VHエクソンを含まない。
【0026】
本発明の局面における「VHHエクソン/領域」は、得られたエクソン/領域が、本発明のDエクソン/領域、Jエクソン/領域、および定常重鎖領域(いくつかのエクソンを含む)で組換えられて、核酸が発現した場合に本明細書中で定義されたVHH一本鎖抗体が産生される限り、天然に存在するVHHコード配列(ラクダ科動物で見出される配列)、その任意のホモログ、誘導体、またはフラグメントを記載する。
【0027】
本発明の「ラクダ化VH重鎖遺伝子座」は、本明細書中で定義された「ラクダ化VH領域」、「J領域」、「D領域」、および「定常重鎖領域」から構成される。各ラクダ化VH領域は一つのラクダ化VHエクソンを含み、各J領域に一つのJエクソンを含み、および各D領域に一つのDエクソンを含み、各定常重鎖領域は、一以上の定常重鎖領域エクソンを含む。
【0028】
本発明の局面における「ラクダ化VHエクソン/領域」は、配列がラクダ科動物エクソンの配列と同一であるように変異されたラクダ科動物以外の哺乳動物(例えば、ヒト)由来の天然に存在するVHコード配列を記載する。本発明のラクダ化VHエクソンには、エクソン/領域が、D領域/エクソン、J領域/エクソン、および本発明の一以上のエクソンを含む定常重鎖領域で組換えられて本明細書中に定義されたラクダ化VH一本鎖抗体を作製することができる限り、その範囲内に、エクソンの任意のホモログ、誘導体、またはフラグメントも含まれる。
【0029】
VHHおよびVHエクソンは、天然に存在する供給源に由来するものであってもよく、当業者に周知の方法および本明細書中に記載の方法を使用して合成することができる。
【0030】
同様に、本発明の局面において、用語「Dエクソン」および「Jエクソン」には、ラクダ科動物または他の哺乳動物種で見出される、天然に存在するDエクソン配列およびJエクソン配列が含まれる。用語「Dエクソン」および「Jエクソン」には、その範囲内に、誘導体、ホモログ、およびフラグメントも含まれ、結果として、エクソンは本明細書中に記載の重鎖抗体遺伝子座の残りの成分(ラクダ化VHまたはVHH)で組換えられて本明細書に記載の一本鎖抗体を作製することができる。Dエクソン/領域およびJエクソン/領域は、天然に存在する供給源に由来するものであってもよく、当業者に周知の方法および本明細書中に記載の方法を使用して合成することができる。
【0031】
さらに、本発明の重鎖抗体遺伝子座(VHHまたはラクダ化VHのいずれか)は、定常重鎖ポリペプチド(定常重鎖領域)をコードするDNA領域を含む。
【0032】
各定常重鎖領域は、Cγである、少なくとも一つの定常領域重鎖遺伝子を実質的に含み、その結果、一本鎖IgGを作製することができる。各定常重鎖遺伝子は、ラクダ科動物または非ラクダ科動物起源であってよく、Cδ、Cγ14、Cε、およびCα12からなる群から選択される一以上の定常重鎖エクソンを含む。好ましくは、本発明の重鎖抗体遺伝子座中の少なくとも一つの定常重鎖領域エクソンは、ヒト、マウス、またはウサギ起源である。有利には、少なくとも一つのCγ重鎖エクソンは、ヒト起源である。発現された場合、定常重鎖領域は、二本鎖抗体中に存在する機能的CH1およびCH4を欠く。有利には、修飾された(非機能的)CH1ドメインを有する唯一またはそれ以上のCγ2および/またはCγ3遺伝子は、本発明の定常重鎖領域に存在する。
【0033】
本明細書中で定義された「定常重鎖領域エクソン」(「CHエクソン」)には、天然に存在するCHエクソン配列(ラクダ科動物、ヒト、またはウサギおよびマウスを含む他の哺乳動物で見出される配列など)が含まれる。用語「CHエクソン」には、定常重鎖領域の成分である場合、CHエクソンが本明細書中で定義された機能的単一重鎖抗体(VHHエクソンまたはラクダ化VHエクソンによってコードされるいずれかの領域を含む)を形成することができる限り、その範囲内に、誘導体、ホモログ、およびフラグメントも含まれる。
【0034】
一般に、CH遺伝子は、一般に本明細書に記載の単一重鎖抗体を構築する二つのポリペプチドを有する各定常重鎖ポリペプチドの異なるドメインをコードする三つまたは四つのエクソン(CH1〜CH4)を含む。しかし、前に考察したように、VHHおよびラクダ化VH一本鎖抗体は機能的CH1(軽鎖ドメイン固定領域を含む)やCH4を保有しない。したがって、本発明の単一重鎖抗体遺伝子座は、機能的CH1またはCH4ドメインを発現しない一以上の遺伝子を保有する。定常重鎖領域遺伝子のCH1およびCH4エクソンの変異、欠失、置換、または他の処理によってこれが起こり得る。
【0035】
本発明の好ましい実施形態では、一本鎖VHH遺伝子座は少なくとも一つの定常重鎖遺伝子を含む。ここで、CH1およびCH4ドメインをコードする核酸は、変異され、欠失され、もしくは置換され、または処理され、そのため、本明細書で定義される発現されたVHH一本鎖抗体の定常重鎖は、機能的CH1ドメインおよびCH4ドメインを含まない。
【0036】
疑義を避けるために、上記で言及される、用語「ウサギ起源」または「ヒト起源」は、本発明の重鎖抗体遺伝子座(ラクダ化VHまたはVHH)を含む一以上のエクソンの核酸配列が、天然に存在するウサギまたはヒト抗体遺伝子座エクソンと同一であることを意味する。当業者は、これらのエクソンは天然の供給源に由来するものであってもよく、当業者に周知の方法および本明細書中に記載の方法を使用して合成することもできると認識する。
【0037】
各VHHまたは「ラクダ化VH領域」は、一つのVHHエクソンまたは「ラクダ化VHエクソン」をそれぞれ含む。各J領域およびD領域は、一つのJエクソンおよびDエクソンをそれぞれ含む。好ましくは、各重鎖遺伝子座は、一つを超える、二つを超える、三つを超える、四つを超える、五つを超える、六つを超えるJ領域/エクソン、および/またはD領域/エクソンを含む。最も好ましくは、本発明のVHH遺伝子座またはラクダ化VH遺伝子座は、ラクダ科動物と同数のVHHエクソン/領域および/またはDエクソン/領域および/またはJエクソン/領域を含む。
【0038】
有利には、本発明のこの態様の方法は、本明細書で定義されたヒト、ウサギ、またはマウス起源の一以上の定常重鎖エクソンを含むVHH重鎖遺伝子座またはラクダ化VH重鎖遺伝子座の発現による一本鎖抗体の産生である。すなわち、好ましくは、本発明の単一重鎖抗体を、ハイブリッドラクダ科動物/ヒト遺伝子座、またはハイブリッドラクダ科動物/ウサギ遺伝子座、またはハイブリッドラクダ科動物/マウス遺伝子座の発現によって産生する。本発明のこの態様の特に好ましい実施形態では、本発明の方法によって発現した単一重鎖遺伝子座は、ラクダ科動物起源の全てのVHHエクソンならびにヒト起源、ウサギ起源、またはマウス起源の全てのD、J、および定常重鎖領域エクソンを含む。本発明のこの態様のさらに好ましい実施形態では、本発明の方法によって発現した単一重鎖遺伝子座は、全てのラクダ化VHエクソン、ならびにヒト起源、またはウサギ起源、またはマウス起源の全てのD、J、および定常重鎖領域エクソンを含む。
【0039】
本発明の上記態様の好ましい実施形態では、重鎖遺伝子座は、あるベクターから別のベクターに遺伝子座を直接カセット化することができる一以上のカセット部位をさらに含む。有利には、一以上のカセット部位は、遺伝子座の5’リーダー配列および/または遺伝子座の3’非翻訳領域に存在する。好ましくは、一以上のカセット部位は、遺伝子座の5’リーダー配列中および遺伝子座の3’非翻訳領域中の両方に存在する。直接的なカセット化により、例えば、タグおよびシグナルなどの付加のために核酸を細菌発現ベクターに移動させることが可能である。
【0040】
しばしば抗体供給源と異なる起源の脊椎動物種への抗体の投与によりこれらの投与した抗体に対する免疫応答が開始されるので、上記のハイブリッド単一重鎖抗体のこの作製アプローチは、ヒト治療用の抗体産生に特に有用でありうる。したがって、ハイブリッドラクダ科動物/ヒト一本鎖抗体は、ヒトに投与した場合、ラクダ科動物の一本鎖抗体よりも潜在的に免疫原性が低い。
【0041】
本発明の局面において、同一には、実質的に同一であることが含まれる。実質的に、同一とは、80%を超えて相同性、好ましくは85%、90%、95%を超えて相同性である。より好ましくは、96、97、98%を超えて相同性である。最も好ましくは、実質的に、同一は、変異ヒトVH領域はラクダ科動物VHH領域と99%を超えて相同性であることを意味する。
【0042】
さらなる態様では、本発明は、VHHエクソンによってコードされる抗体の一部がラクダ科動物起源のエクソンによってコードされ、残りの抗体分子がヒト起源のエクソンによってコードされている、本発明の方法によって得ることができるVHH単一重鎖抗体を提供する。
【0043】
なおさらなる態様では、本発明は、VHHエクソンによってコードされる抗体の一部がラクダ科動物起源のエクソンによってコードされ、定常重鎖領域がウサギ起源の一以上のエクソンによってコードされている、本発明の方法によって得ることができるVHH単一重鎖抗体を提供する。
【0044】
なおさらなる態様では、本発明は、VHHエクソンによってコードされる抗体の一部がラクダ科動物起源のエクソンによってコードされ、定常重鎖領域がマウス起源の一以上のエクソンによってコードされている、本発明の方法によって得ることができるVHH単一重鎖抗体を提供する。
【0045】
なおさらなる態様では、本発明は、本発明の方法によって得ることができるラクダ化単一重鎖抗体を提供する。
【0046】
有利には、本発明のこの態様のラクダ化VH単一重鎖抗体は、本明細書中で定義されたヒト起源のエクソンによって全体がコードされる。
【0047】
本発明のこの態様のさらに好ましい実施形態では、ラクダ化VH単一重鎖抗体は、ウサギ起源の一以上のエクソンによってコードされる定常重鎖領域を含む。
【0048】
なおさらなる実施形態では、本発明のこの態様のラクダ化VH単一重鎖抗体は、マウス起源の一以上のエクソンによってコードされる定常重鎖領域を含む。
【0049】
本発明の方法によって産生される抗体は、抗体が正常な環境下で産生された一本鎖ラクダ科動物抗体と類似または同一のクラススイッチングプロセスを経るという点で先行技術を超える利点を有する。本発明の方法によって得ることができる抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であってもよい。有利には、抗体はモノクローナル抗体である。当業者に公知の方法を使用して、抗体を産生することができる。有利には、モノクローナル抗体の産生にハイブリドーマを使用することができる。これらの技術は当業者に周知であり、本明細書中に記載されている。
【0050】
なおさらなる態様では、本発明は、本発明のVHH重鎖遺伝子座を含むベクターを提供する。
【0051】
なおさらなる態様では、本発明は、本発明のラクダ化VH重鎖遺伝子座を含むベクターを提供する。
【0052】
適切なベクターは、当業者に周知である。有利には、全免疫グロブリン重鎖遺伝子座をコードするのに十分な大量の核酸の挿入に適切なベクターが好ましい。適切なベクターには、YACおよびBACなどの酵母および細菌人工染色体が含まれる。有利には、本明細書中に定義された単一重鎖抗体遺伝子座をコードする核酸の異なるベクターへの直接的なカセット化を行うことができるようにベクターを構築する。例えば、単一重鎖抗体をコードする逆転写cDNAを、細菌発現ベクターに「カセット化」して、タグ、シグナル、またはエピトープなどを付加することができる。
【0053】
なおさらなる態様では、本発明は、本発明のVHH遺伝子座で形質転換された宿主細胞を提供する。
【0054】
なおさらなる態様では、本発明は、本発明の異種VHH重鎖遺伝子座を発現するトランスジェニック哺乳動物を提供する。
【0055】
なおさらなる態様では、本発明は、ラクダ化VH重鎖遺伝子座を発現するトランスジェニック哺乳動物を提供する。
【0056】
本発明の局面においては、用語「トランスジェニック哺乳動物」には、その範囲内にトランスジェニックヒトは含まれない。好ましくは、本発明のトランスジェニック哺乳動物は、ラクダ科動物よりも小さい。好ましくは、トランスジェニック哺乳動物は、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、およびウサギからなる群から選択される。有利には、トランスジェニック哺乳動物は、マウスである。
【0057】
有利には、トランスジェニック動物に内因性の重鎖遺伝子座を、本発明のトランスジェニック哺乳動物において欠失するかサイレントにする。その後の適切な技術は、WO00/26373またはWO96/33266および(Li and Baker,2000,Genetics,156(2),809〜821;Kitamura and Rajewsky,1992;Kitamura and Rajewsky,1992,Nature,356,154〜156)に記載されている。
【0058】
抗体産生細胞は、本発明のトランスジェニック動物に由来し、例えば、本明細書中で定義されたVHH一本鎖抗体を産生するためのハイブリドーマの調製で使用することができる。さらにまたはあるいは、本発明のトランスジェニック哺乳動物から核酸配列を単離し、当業者に周知の組換えDNA技術を使用した一本鎖抗体の産生に使用することができる。あるいはまたはさらに、特異的一本鎖抗体を、本発明のトランスジェニック動物の免疫化によって産生することができる。
【0059】
したがって、さらなる態様では、本発明は、本発明のトランスジェニック哺乳動物を抗原で免疫化することによる一本鎖抗体の産生方法を提供する。
【0060】
本発明のこの態様の好ましい実施形態では、哺乳動物はマウスである。
【0061】
本発明の局面では、用語「哺乳動物の免疫化」は、抗原に対して免疫応答が誘発されるように本発明のトランスジェニック哺乳動物に抗原を投与することを意味する。適切な哺乳動物の免疫化方法は、当業者に周知であり、本明細書中に記載されている。適切な抗原は、天然物であっても合成物であってもよい。天然に存在する抗原には、例えば、酵素または補因子であり得るタンパク質、ペプチド、および核酸分子が含まれる。当業者は、このリストが網羅的なものではないこと認識している。
【0062】
さらなる態様では、本発明は、細胞内結合試薬としての本明細書中に記載の単一重鎖抗体の使用を提供する。
【0063】
さらなる態様では、本発明は、酵素インヒビターとしての本発明の一本鎖抗体の使用を提供する。
【0064】
なおさらなる態様では、本発明は、疾患の予防薬および/または治療薬の調製における、本発明の方法によって得ることができる抗体の使用を提供する。
【0065】
最後の態様では、本発明は、疾患の予防または治療における本発明の重鎖抗体遺伝子座の使用を提供する。
【0066】
[定義]
「遺伝子」は、完全なmRNAをコードする一以上のエクソンを含む。「抗体遺伝子」は、V、D、Jエクソンを含み、これらが組換えられてVDJコード領域を形成する。さらに、これらは、一以上の定常重鎖エクソンを含む定常重鎖領域で組換えられる。V、D、J、およびCエクソンには多数のサブグループが存在する。一つの特定のV領域は一つのエクソンを有し、一つのD領域は一つのエクソンを有し、一つのJ領域は一つのエクソンを有し、一つのC領域は複数のエクソンを有する。全体として、一つのVエクソン、一つのDエクソン、一つのJエクソン、および一つのC領域が選択された場合、組換え後に完全な遺伝子が形成される。
【0067】
「エクソン」および「イントロン」。エクソンは、デオキシヌクレオチドのコード配列またはメッセンジャー配列である。すなわち、エクソンは、成熟したmRNAまたはrRNA分子中で最終的に発現する真核生物の任意のDNA配列である。エクソンは、一般に、イントロンが散在している。イントロンは、非コードDNA配列である。すなわち、イントロンは、成熟したRNA分子中で最終的に発現されないDNA配列である。イントロンは新規に転写されたRNAからスプライシングによって除去されて成熟したmRNAが作製される。
【0068】
本発明の「VHH重鎖遺伝子座」は、「VHH領域」、「J領域/エクソン」、「D領域/エクソン」、および「定常重鎖領域」から構成される。各VHH領域は、一つのVHHエクソンを含む、各J領域は一つのJエクソンを含む、各D領域は一つのDエクソンを含む、各定常重鎖領域は一以上の定常重鎖領域エクソンを含む。
【0069】
本発明の局面における「VHHエクソン」は、得られたエクソンが、本明細書中で定義されたVHH領域の成分である場合、本発明の少なくとも一つのD領域、少なくとも一つのJ領域、および少なくとも一つの定常重鎖領域で組換えられて、核酸が発現した場合に本明細書中で定義されたVHH一本鎖抗体を作製することができる限り、天然に存在するVHHコード配列(ラクダ科動物で見出される配列)およびその任意のホモログ、誘導体、またはフラグメントを記載する。
【0070】
本発明の「ラクダ化VH重鎖遺伝子座」は、本明細書中で定義された一以上の「ラクダ化VH領域」、一以上の「J領域」、一以上の「D領域」、および「定常重鎖領域」から構成される。各ラクダ化VH領域は、一つのラクダ化VHエクソン、各J領域に一つのJエクソン、および各D領域に一つのDエクソンを含み、各定常重鎖領域は、一以上の定常重鎖領域遺伝子を含む。
【0071】
本発明の局面における「ラクダ化VHエクソン」は、配列がラクダ科動物エクソンの配列と同一であるように変異されたラクダ科動物以外の哺乳動物(例えば、ヒト)由来の天然に存在するVHコード配列を記載する。本発明のラクダ化VHエクソンには、得られたエクソンが、本明細書中に定義されたラクダ化VH領域の成分である場合、少なくとも一つのD領域、一つのJ領域、および本発明の一つの定常重鎖領域で組換えられて本明細書中に定義されたラクダ化VH一本鎖抗体を作製することができる限り、その範囲内に、エクソンの任意のホモログ、誘導体、またはフラグメントも含まれる。
【0072】
本明細書中で定義された「定常重鎖領域エクソン」(「CHエクソン」)には、天然に存在するCHエクソン配列(ラクダ科動物、ヒト、またはウサギおよびマウスを含む他の哺乳動物で見出される配列など)が含まれる。用語「CHエクソン」には、定常重鎖領域の成分である場合、CHエクソンが本明細書中で定義された機能的単一重鎖抗体を形成することができる限り、その範囲内に、誘導体、ホモログ、およびフラグメントも含まれる。一般に、CHエクソンは、各定常重鎖ポリペプチドの異なる部分(ドメイン)をコードする四つの異なる型(CH1〜CH4)から構成される。しかし、本発明によるVHHおよびラクダ化VH一本鎖抗体は機能的CH1ドメイン(軽鎖ドメイン固定領域を含む)や機能的CH4ドメインを保有しない。定常重鎖領域エクソンの多数のサブグループが存在する。異なる抗体クラスは、異なるCHエクソンを保有し、例えば、IgM分子は一以上のCμ定常領域エクソンを保有し、IgGは一以上のCγエクソンを保有する。
【0073】
本発明の用語、「VHH単一重鎖抗体」は、重鎖のみ(一般に、2本)から構成され、いかなる軽鎖も含まない抗体分子を意味する。各重鎖は、可変領域(VHH、D、およびJエクソンによってコードされる)および定常領域を含む。定常領域は、一般に二つ(一方はCH2ドメインであり、他方はCH3ドメインである)を含む定常重鎖領域エクソンによってコードされる多数のCHドメインをさらに含む。本明細書中で定義されたVHH一本鎖抗体は、機能的CH1ドメインも機能的CH4も保有しない。これは、機能的CH1ドメイン(従来の抗体では軽鎖の定常ドメインのための固定場所を保有する)を欠き、このことは本発明の重鎖抗体と軽鎖が結合して従来の抗体を形成することができないことの原因となる。scIgG2および/またはscIgG3として公知の抗体のサブクラスは、Cγ2および/またはCγ3遺伝子を含む。
【0074】
本発明の用語、「ラクダ化VH単一重鎖抗体」は、重鎖のみ(一般に、2本)から構成され、いかなる軽鎖も含まない抗体分子を意味する。各重鎖は、可変領域(「ラクダ化VHエクソン」、D、およびJエクソンによってコードされる)および定常領域を含む。定常領域エクソンによってコードされる定常領域は、多数のCHドメイン(一般に二つ(一方はCH2ドメインであり、他方はCH3ドメインである)を含む)をさらにコードする。本明細書中で定義されたラクダ化VH一本鎖抗体は、機能的CH1ドメインも機能的CH4ドメインも欠く。これは、機能的CH1ドメイン(従来の抗体では軽鎖の定常ドメインのための固定場所を保有する)を欠き、このことは本発明の重鎖抗体と軽鎖が結合して従来の抗体を形成することができないことの原因となる。
【0075】
本明細書中で使用される、「抗体」は、選択された標的に結合することができる抗体または抗体フラグメントをいい、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体、設計された抗体(キメラ抗体、CDR移植抗体、およびヒト化抗体を含む)、ならびにファージディスプレイまたは別の技術を使用して産生された、人為的に選択された抗体が含まれる。小抗体フラグメントは、その小さなサイズおよびその後の優れた組織分布によって診断および治療で適用するための有利な性質を有する。
【0076】
「抗体の進化」は、抗体発生時に得られ、且つそれにより選択的に結合し、高い親和性を示す抗体が作製されるクラススイッチおよび親和性変異(体細胞高頻度変異)の過程を記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0077】
[発明の詳細な説明]
[一般的技術]
特記しない限り、本明細書中で使用した全ての技術用語および科学用語は、(例えば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリッド形成技術、および生化学において)当業者に一般的に理解されている意味を有する。分子、遺伝子、および生化学的方法(一般に、Sambrookら、「分子クローニング:実験マニュアル」、第2版、1989,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor、N.Y.およびAusubelら、「分子生物学ショートプロトコール」、1999,第4版,John Wiley&Sons,Inc.(引用することにより本明細書の一部をなすものとする)を参照のこと)および化学的方法について標準的な技術を使用する。さらに、標準的な免疫学的技術については、Harlow&Lane、「実験マニュアル」、Cold Spring Harbor、N.Y.を言及する。
【0078】
[本発明のVH/h重鎖遺伝子座]
第1の態様では、本発明は、哺乳動物において異種VHH重鎖遺伝子座を発現させるステップを含む、哺乳動物におけるVHH単一重鎖抗体の産生方法を提供する。
【0079】
さらなる態様では、本発明は、哺乳動物においてラクダ化VH重鎖遺伝子座を発現するステップを含む、哺乳動物におけるラクダ化VH単一重鎖抗体の産生方法を提供する。
【0080】
本発明の種々のVHH重鎖遺伝子座の構築は、発明の要約に記載されている。
【0081】
有利には、本発明の遺伝子座は、一以上のFRT(flp組換え標的)部位(http://www.esb.utexus.edu)および二つまたはそれ以上のLoxP部位(8bp非対称スペーサー領域によって分離された二つの13bp逆方向反復からなる)を含む(Brian Sauer,Methods of Enzymology,1993,第225巻,890〜900)。
【0082】
好ましくは、本発明の遺伝子座中に少なくとも二つのloxP部位が存在する。遺伝子座中のFRT部位の存在により、1コピーのトランスジェニックを産生可能であり、Lox部位の存在により、必要ならばIgMおよびIgD重鎖遺伝子を欠失可能である。
【0083】
(A)ベクター
本発明はまた、本発明の構築物を含むベクターを提供する。実質的に二つのベクター型(複製ベクターおよび形質転換ベクター)が得られる。
【0084】
(I)複製ベクター
本発明の構築物を、BACベクターなどの組換え複製ベクターに組み込むことができる。このベクターを使用して、適合宿主細胞中で構築物を複製することができる。したがって、さらなる実施形態では、本発明は、本発明の構築物の複製ベクターへの移入、ベクターの適合宿主細胞への移入、および構築物を複製する条件下での宿主細胞の成長による本発明の構築物の産生方法を提供する。構築物を、宿主細胞から回収することができる。適切な宿主細胞には、大腸菌などの細菌、酵母、哺乳動物細胞株、および他の真核生物細胞株(例えば、昆虫Sf9細胞(バキュロウイルス))が含まれる。
【0085】
(II)形質転換ベクター
本発明の構築物を、構築物をレシピエントゲノムに挿入して形質転換することができるベクターに組み込むことができる。本発明の構築物に加えて、このような形質転換ベクターには、一以上の以下の成分を含み得る。
【0086】
[プロモーター]
プロモーターは、典型的には、哺乳動物細胞中で機能的であるプロモーターから選択されるが、原核生物プロモーターおよび他の真核生物細胞中で機能的なプロモーターを使用することができる。プロモーターは、典型的には、ウイルスまたは真核生物遺伝子のプロモーター配列に由来する。例えば、プロモーターは、発現される細胞のゲノムに由来するプロモーターであり得る。真核生物プロモーターに関して、これらは偏在的様式(αアクチン、βアクチン、チューブリンなど)または組織特異的様式(免疫グロブリン遺伝子のプロモーター)で機能するプロモーターであり得る。これらはまた、特定の刺激に反応するプロモーター(例えば、ステロイドホルモン受容体に結合するプロモーター)であり得る。ウイルスプロモーター(例えば、モロニーマウス白血病ウイルス長末端反復(MMLV LTR)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター、またはヒトサイトメガロウイルス(CMV)IEプロモーター)を使用することもできる。異種遺伝子の発現レベルを細胞の生存期間中に調節することができるように誘導されるプロモーターもまた有利であり得る。誘導可能は、プロモーターを使用して得られた発現レベルを調節することができることを意味する。
【0087】
さらに、任意のこれらのプロモーターを、さらなる調節配列(例えば、エンハンサー配列)の付加によって修飾することができる。抗体産生細胞での発現を調節することができる組織特異的エンハンサーが好ましい。特に、インビボでの抗体遺伝子の首尾のよい活性化に必要な重鎖エンハンサー(Serwe,M.and Sablitzky,F.,EMBO J.,12、2321〜2321頁、1993)を含み得る。遺伝子座調節領域(LCR)(特に、免疫グロブリンLCR)を使用することもできる。二つまたはそれ以上の異なるプロモーター由来の配列エレメントを含むキメラプロモーターを使用することもできる。
【0088】
[他のベクター成分]
プロモーターおよび構築物に加えて、本発明のベクターは、好ましくは、ベクターが挿入される哺乳動物におけるベクターの最適な機能に有用な他の要素を含む。これらの要素は当業者に周知であり、例えば、Sambrookら、「分子クローニング:実験マニュアル」、Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989に記載されている。
【0089】
[ベクターの構築]
哺乳動物の胚の形質転換で使用されるベクターを、例えば、Sambrook,Fritsch,and Maniatis編、「分子クローニング:実験マニュアル」、Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989に記載の当分野で周知の方法(制限エンドヌクレアーゼ消化、ライゲーション、プラスミドおよびDNAおよびRNAの精製、ならびにDNA配列決定などの標準的な技術が含まれるが、これらに限定されない)を使用して構築する。一般に、ベクター構築は、以下のステップを含む。
【0090】
a)公開されたノックアウト手順の一つ(例えば、Kitamara,D.and Rajewski K.,Nature,352,154〜156頁,1992)を使用して、内因性マウス遺伝子座を不活化する。
【0091】
b)本明細書中に記載の適切な重鎖領域のDJおよびIgM領域を、ヒトPAC、BAC、およびYACライブラリー由来の組換えDNAとして局在化し、制限酵素フラグメント(例えば、Sal1フラグメント)としてクローン化する。この領域はまた、インビボでの抗体遺伝子の遺伝子座の首尾のよい活性化に必要な重鎖エンハンサーを含む(Serwe,M.,Sablitzky,F.,EMBO J.,12,2321〜2321頁,1993を参照のこと)。
【0092】
c)多数のVHHまたは「ラクダ化VHエクソン」を、従来技術による適切なゲノムDNAライブラリーの構築によってコスミドとして最初にクローン化する。本明細書中に記載のVHエクソンの間にVHHエクソンを置くので、その後VHHエクソンとともにクローン化する。したがって、VHおよびVHHエクソンのアレイが作製される。この遺伝子アレイを、MluI(または他の制限酵素)フラグメントとして単離することができる。
【0093】
d)3’ヒト免疫グロブリン重鎖LCR(遺伝子座の発現に必要な調節領域)を、SceI制限フラグメントとしてクローン化する。
【0094】
e)定常領域重鎖エクソンを、個別の制限フラグメントとしてクローン化する。各エクソンによってコードされるCH1および/またはCH4ドメインを、CH1エクソンおよび/またはCH4エクソンのスプライス受容体配列の除去(Nguyenら、前出)による細菌中での相同組換え(Imamら、2000)によって機能性を喪失させる。
【0095】
ステップb〜eにより、a)に記載の不活化マウス遺伝子座の機能を受け継いだ「VHH重鎖遺伝子座」または「ラクダ化VH重鎖遺伝子座」(図3)の一片が得られる。これらの遺伝子座を、各フラグメントの適切な順序での適切なベクター(例えば、上記の全制限部位を含むリンカー領域を含むBACベクター)へのクローニングによって構築する(
1255061988609_0
)。本発明の方法によって作製された遺伝子座は、一般に、約200〜250kBのサイズである。当業者に周知の標準的な実験技術によって遺伝子座をベクターから単離および精製することができる。本発明の「VHH重鎖遺伝子座」または「ラクダ化VH重鎖遺伝子座」をコードする精製核酸(図3)を、その後標準的な技術によってa)に記載のノックアウトマウス由来のマウス受精卵に移入して、一以上の本発明の遺伝子座を発現するトランスジェニックマウスを得ることができる。
【0096】
[本発明の一本鎖抗体]
本発明の用語「単一重鎖抗体」および「VHH重鎖遺伝子座」には、任意の供給源(例えば、関連する細胞ホモログ、他の種由来のホモログ、およびその変異型または誘導体)から得た相同ポリペプチド配列および核酸配列も含まれると理解される。
【0097】
したがって、本発明は、本明細書中に記載の単一重鎖抗体およびVHH重鎖遺伝子座の変異型、ホモログ、または誘導体を含む。
【0098】
本発明の局面では、相同配列は、少なくとも30個を超えるアミノ酸レベルか、好ましくは50、70、90、または100個のアミノ酸で少なくとも80、85、90、95,96、97,98、99、99.5、99.6、99.7、99.8.99.9%同一、好ましくは少なくとも98または99%同一のアミノ酸配列を含む。相同性を類似性という見地から考えることもできるが(すなわち、類似の化学的性質/機能を有するアミノ酸残基)、本発明の局面では、配列同一性の言葉で相同性を表現することが好ましい。
【0099】
相同性の比較を目視によって行うことができ、より通常には、容易に利用可能な配列比較プログラムの支援によって行うことができる。これらの市販のコンピュータプログラムは、二つまたはそれ以上の配列の相同性%を計算することができる。
【0100】
連続する配列について相同性%を計算することができる(すなわち、ある配列を他の配列と整列させて、一度に一残基ずつある配列中の各アミノ酸を他の配列中の対応するアミノ酸と直接比較する)。これは、「非ギャップアラインメント(ungapped alignment)」と呼ばれる。典型的には、比較的少数の残基(例えば、50個未満の連続アミノ酸)に対してこのような非ギャップアラインメントを行う。
【0101】
これは非常に簡単且つ一貫した方法であるにもかかわらず、例えば、別の同一な配列対において、一つの挿入または欠失によりその後のアミノ酸残基がアラインメントから外されることを考慮できないので、全アラインメントを行った場合、相同性%が大幅に減少する可能性がある。したがって、ほとんどの配列比較方法は、相同性スコア全体に過度のペナルティーを与えずに挿入および欠失の可能性を考慮する最適なアラインメントが得られるようにデザインされている。局部的な相同性が最大になるように配列アラインメント中に「ギャップ」を挿入することによってこれを行う。
【0102】
しかし、これらのより複雑な方法は、同数の同一アミノ酸についてできるだけ少数のギャップを有する配列アラインメント(二つの比較配列間のより高い関連性を反映する)により多数のギャップを有するものより高いスコアが得られるように、アラインメントで起こる各ギャップに「ギャップペナルティー」を割り当てる。典型的には、ギャップの存在について比較的高コストを負荷させ、ギャップ中の次の各残基についてより少数のペナルティーを科す「アフィンギャップコスト」を使用する。これは、最も一般的に使用されるギャップスコアリングシステムである。勿論、高ギャップペナルティーにより、より少ないギャップを使用した最適化されたアラインメントが作製される。ほとんどのアラインメントプログラムはギャップペナルティーを修正することができる。しかし、配列比較にこのようなソフトウェアを使用する場合、デフォルト値を使用することが好ましい。例えば、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(以下を参照のこと)を使用する場合、アミノ酸配列のデフォルトギャップペナルティーは、1ギャップについて−12であり、各伸長について−4である。
【0103】
したがって、最大相同性%の計算は、最初にギャップペナルティーを考慮した最適なアラインメントの作製が必要である。このようなアラインメントの実行に適切なコンピュータプログラムは、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(University of Wisconsin,U.S.A.;Devereuxら、1984,Nucleic Acid Research,12,387)である。配列比較を行うことができる他の例には、BLASTパッケージ(Ausubelら、1999,前出、第18章を参照のこと)、FASTA(Atschulら、1990,J.Mol.Biol.,403〜410)、および比較ツールのGENEWORKSスーツが含まれるが、これらに限定されない。BLASTおよびFASTAは共にオフラインおよびオンラインで利用可能である(Ausubelら、1999,前出、7−58〜7−60を参照のこと)。しかし、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい。
【0104】
最終相同性%を同一性に関して測定することができるにもかかわらず、アラインメントプロセス自体は、典型的には、全か無かの対比較に基づかない。その代わり、一般にスコアを化学的類似性または進化距離に基づいた各対比較に割り当てるスケール変換類似性スコア行列を使用する。一般的に使用されるこのような行列の例は、BLOSUM62行列(プログラムのBLASTスーツ用のデフォルト行列)である。GCG Wisconsinプログラムは、一般に、公的なデフォルト値または供給されている場合にはカスタムシンボル比較テーブルのいずれかを使用する(さらなる詳細についてはユーザーマニュアルを参照のこと)。GCGパッケージについては公的なデフォルト値を使用し、他のソフトウェア(BLOSUM62など)の場合はデフォルト行列を使用することが好ましい。
【0105】
一旦ソフトウェアによって最適なアラインメントが得られると、相同性%、好ましくは配列同一性%を計算することが可能である。ソフトウェアは、典型的には、配列比較の一部として計算し、数値で結果が得られる。
【0106】
[本発明の一本鎖抗体の産生方法]
(A)トランスジェニック動物
本発明の遺伝子座およびベクターを動物に移入して、トランスジェニック動物を産生することができる。したがって、本発明はまた、本明細書中に記載の構築物を含むトランスジェニック動物を提供する。
【0107】
当業者に明らかな任意の技術(例えば、微量注入)を使用して、レシピエント動物ゲノムへの遺伝子座の挿入を行うことができる。受精卵への核酸の移入後、当業者に周知の標準的方法を使用して再移植する。通常、代理宿主を麻酔し、卵を卵管に挿入する。特定の宿主に移植した卵の数は異なるが、通常、種が自然に出産する子孫の数に匹敵する。
【0108】
あるいは、DNAを胚幹(ES)細胞に移入することができ、これを標準的な技術によってトランスジェニックマウスに誘導するために宿主胚に挿入することができる。
【0109】
さらなる実施形態では、DNAを、任意の細胞に移入することができる。これらの細胞の核を使用して、任意の種であってもよい受精卵の核と置換してトランスジェニック動物を得ることができる。この核導入技術は、当業者に周知である。
【0110】
代理宿主のトランスジェニック子孫を、任意の適切な方法によって導入遺伝子についてスクリーニングすることができる。しばしば、少なくとも導入遺伝子の一部に相補的なプローブを使用したサザン分析またはノーザン分析によってスクリーニングする。別のまたはさらなるスクリーニング法として導入遺伝子によってコードされる抗体に特異的なリガンドを使用したウェスタンブロット分析を使用することができる。典型的には、最も高いレベルで導入遺伝子を発現すると考えられる組織または細胞を試験するが、この分析のために任意の組織または細胞型を使用することができる。
【0111】
トランスジェニック哺乳動物と適切なパートナーとの交配またはトランスジェニック哺乳動物から得た卵および/または精子のインビトロ受精によってトランスジェニック哺乳動物の子孫を得ることができる。インビトロ受精を使用した場合、受精した胚を代理宿主に移植するかインビトロでインキュベートするかそれらの両方を行うことができる。トランスジェニック子孫を産生させるために交配を使用する場合、トランスジェニック哺乳動物を、親系統に戻し交配することができる。上記方法または他の適切な方法のいずれかを使用して、導入遺伝子の存在について子孫を評価することができる。
【0112】
哺乳動物である場合、動物は多様であり得る。動物は、好ましくはげっ歯類などの非ヒト哺乳動物、より好ましくはラットまたはマウスである。これに関して、レシピエント動物が軽鎖を含む抗体を産生することができないか、少なくともこのような抗体の産生能力が低下していることも好ましい。この目的を達成するために、レシピエント動物は、軽鎖がオフになっている抑制されている抗体産生に必要な一以上の遺伝子を有することができる「ノックアウト」動物であり得る。
【0113】
軽鎖を含む抗体を産生することができないか、少なくともこのような抗体の産生能力が低下しているレシピエント動物の使用によって、本発明の方法は、所与の抗原での攻撃誘発時に本発明のトランスジェニック動物から大量の一本鎖抗体および抗体産生細胞を有効に産生することができる。
【0114】
(B)ファージディスプレイテクノロジー
ファージディスプレイ用のベクターに、M13などの繊維状ファージ表面上へのディスプレイのために、例えば、遺伝子IIIタンパク質(pIII)または遺伝子VIIIタンパク質(pVIII)にコードされたポリペプチドを融合する。Barbasら、「ファージディスプレイ:実験マニュアル」、Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001(ISBN0−87969−546−3);Kayら編、「ペプチドおよびタンパク質のファージディスプレイ:実験マニュアル」,San Diego、Academic Press,Inc.,1996;Abelsonら編、「コンビナトリアルケミストリー」、Methods in Enzymology,第267巻,Academic Press,1996年5月を参照のこと。
【0115】
本発明のファージディスプレイ抗体の産生に原核生物宿主が特に有用である。M13などの繊維状ファージ表面へのディスプレイのために抗体可変領域フラグメントを例えば遺伝子IIIタンパク質(pIII)または遺伝子VIIIタンパク質(pVIII)に融合したファージディスプレイ抗体のテクノロジーは、すでに十分に確立されており(Sidhu、Curr.Opin.Biotechnol.,11(6)、610〜6、2000;Griffithsら、Curr.Opin.Biotechnol.,9(1)、102〜8、1998;Hoogenboomら、Immunotechnology,4(1),1〜20,1998;Raderら,Current Opinion in Biotechnology,8,503〜508,1997;Aujameら、Human Antibodies,8,155〜168,1997;Hoogenboom,Trends in Biotechnol.,15,62〜70,1997;de Kruifら、17,453〜455,1996;Barbasら、Trends in Biotechnol.,14,230〜234,1996;Winterら,Ann.Rev.Immunol.,433〜455,1994)、このようなライブラリー由来の抗体フラグメントの作製、拡大、スクリーニング(パン撮り)、および使用に必要な技術およびプロトコールが最近編纂されている(Barbasら、「ファージディスプレイ:実験マニュアル」、Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001(ISBN0−87969−546−3);Kayら編、「ペプチドおよびタンパク質のファージディスプレイ:実験マニュアル」、Academic Press,Inc.,1996;Abelsonら編,「コンビナトリアルケミストリー」,Methods in Enzymology,第267巻、Academic Press,1996年5月(引用することにより本明細書の一部をなすものとする))。そのフラグメントを含む本明細書中に記載の抗体のファージディスプレイのために、有利には、これらをg3pタンパク質に融合する。
【0116】
(C)ハイブリドーマ
組換えDNAテクノロジーを使用し、確立した手順を使用して、細菌、または好ましくは哺乳動物細胞培養において本発明の一本鎖抗体を産生することができる。選択された細胞培養系は、好ましくは、一本鎖抗体産物を分泌する。
【0117】
習慣として標準の培養培地(例えば、任意選択的に哺乳動物血清(例えば、ウシ胚血清)、または微量元素および成長維持補助物質(例えば、正常なマウス腹腔滲出細胞などの支持細胞、脾臓細胞、骨髄マクロファージ、2−アミノエタノール、インスリン、トランスフェリン、低密度リポタンパク質、またはオレイン酸など)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)またはRPMI1640培地)の適切な培養培地においてインビトロでハイブリドーマ細胞または哺乳動物宿主細胞を増殖させる。細菌細胞または酵母細胞である宿主細胞の増殖を、当分野で公知の適切な培養培地(細菌については、LB、NZCYM、NZYM、NZM、Terrificブロス、SOB、SOC、2×YT、またはM9最少培地、および酵母については、YPD、YEPD、最少培地、または完全最少ドロップアウト培地)において同様に行った。
【0118】
インビトロ産生により比較的純粋な免疫グロブリン調製物が得られ、これをスケールアップして大量の所望の免疫グロブリンを得ることが可能である。細菌細胞、酵母、または哺乳動物細胞の培養技術は当分野で公知であり、均一な懸濁液培養(例えば、エアリフトリアクターまたは連続撹拌リアクター)または固定もしくは取り込み式細胞培養(例えば、中空糸、マイクロカプセル、アガロースマイクロビーズ、またはセラミックカートリッジ)が含まれる。
【0119】
インビボでの哺乳動物細胞の増殖によって大量の所望の免疫グロブリンを得ることもできる。この目的のために、所望の免疫グロブリンを産生するハイブリドーマ細胞を組織適合哺乳動物に注射して抗体産生腫瘍を成長させる。任意選択的に、注射前に動物を炭化水素(特に、プリスタン(テトラメチルペンタデカン)などの鉱物油)で感作する。1〜3週間後、これらの哺乳動物の体液から免疫グロブリンを単離する。例えば、適切な骨髄腫細胞のBalb/cマウス由来の抗体産生脾臓細胞との融合によって得られたハイブリドーマ細胞または所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞株Sp2/0由来のトランスフェクト細胞を、任意選択的にプリスタンで前処理したBalb/cマウスに腹腔内注射し、1〜2週間後、動物から腹水を採取する。
【0120】
上記または他の技術は、例えば、Kohler and Milstein,1975,Nature,256,495〜497;米国特許第4,376,110号;Harlow and Lane,「抗体:実験マニュアル」,1988,Cold Spring Harbor(引用することにより本明細書の一部をなすものとする)で考察されている。組換え抗体分子の調製技術は、上記の引例および例えば欧州特許第0623679号;欧州特許第0368684号、および欧州特許第0436597号(引用することにより本明細書の一部をなすものとする)に記載されている。
【0121】
細胞培養上清を、好ましくは、免疫ブロッティング、酵素免疫アッセイ(例えば、サンドイッチアッセイまたはドットアッセイ)、または放射免疫アッセイによる所望の標的を発現する細胞の免疫蛍光染色によって所望の抗体についてスクリーニングする。
【0122】
抗体の単離のために、培養上清中または腹水中に存在する抗体を、例えば、硫酸アンモニウムでの沈殿、ポリエチレングリコールなどの含水物質に対する透析、または選択膜による濾過などによって濃縮することができる。必要および/または所望する場合、抗体を、慣習的なクロマトグラフィー法(例えば、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、DEAE−セルロースによるクロマトグラフィーおよび/または(免疫)親和性クロマトグラフィー(例えば、標的分子またはプロテインAを使用した親和性クロマトグラフィー))によって精製する。
【0123】
(3)トランスジェニック動物の免疫化
さらなる態様では、本発明は、本発明のトランスジェニック動物に抗原を投与するステップを含む、本発明の一本鎖抗体の産生方法を提供する。
【0124】
本発明のトランスジェニック動物から産生される一本鎖抗体には、ポリクローナルおよびモノクローナル一本鎖抗体ならびにそのフラグメントが含まれる。ポリクローナル抗体を所望する場合、トランスジェニック動物(例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマなど)を抗原で免疫化し、免疫化動物由来の血清を公知の手順で採取および処置する。ポリクローナル抗体を含む血清が他の抗原に対する抗体を含む場合、目的のポリクローナル抗体を免疫親和性クロマトグラフィーおよび当業者に周知の類似の技術によって精製することができる。ポリクローナル抗血清の産生および処理技術はまた、当分野で公知である。
【0125】
[本発明の一本鎖抗体の使用]
本発明の一本鎖抗体(フラグメントを含む)を、インビボでの治療および予防への適用、インビトロおよびインビボでの診断への適用、インビトロでのアッセイおよび試薬への適用などで使用することができる。
【0126】
本発明の一本鎖抗体の治療および予防での使用は、上記の抗体のヒトなどのレシピエント哺乳動物への投与を含む。
【0127】
「ラクダ化VH単一重鎖抗体」は、ヒトの治療においてラクダ科動物VHH一本鎖抗体分子を超えるいくつかの利点を有する。例えば、ラクダ化VH一本鎖抗体は、VH3遺伝子ファミリーに基づいた抗体の場合にプロテインA結合部位を保有する。さらに、ラクダ化VH一本鎖抗体は、ヒトに投与した場合、ラクダ科動物VHH一本鎖抗体よりも低い免疫原性を示すと予想される。
【0128】
「ラクダ化VH単一重鎖抗体」および「ラクダ科動物VHH単一重鎖抗体」は、従来の二本鎖抗体と異なる物理的特徴を有することも認識される。例えば、機能的CH1重鎖ドメインの欠如により、本発明の抗体は、補体の古典経路の活性化に関与する補体分子C1qに結合しない。
【0129】
少なくとも90〜95%均一な実質的に純粋な一本鎖抗体(フラグメントを含む)は、哺乳動物への投与に好ましく、および98〜99%以上の均一性は、特に哺乳動物がヒトである場合の医薬的な使用に最も好ましい。一旦部分的または所望の均一性に精製されると、本明細書中に記載の一本鎖抗体を、診断もしくは治療(体外を含む)または当業者に公知の方法を使用したアッセイ手順の開発および実行で使用することができる。
【0130】
本発明の選択された一本鎖抗体は、典型的に、炎症状態、アレルギー性過敏症、癌、細菌もしくはウイルス感染、および自己免疫障害(I型糖尿病、多発性硬化症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、クローン病、および重症筋無力症が含まれるが、これらに限定されない)の予防、抑制、または治療ならびに移植片拒絶の予防で使用される。例えば、調節T細胞の欠失またはその漸増の妨害により免疫応答を増強することができ、特に正常な免疫応答を回避する感染の治療で使用することができる。
【0131】
さらに、選択された一本鎖抗体(そのフラグメントを含む)は、正常に存在しない脊椎動物領域での免疫応答の調整に有用かもしれない。例えば、本明細書中に記載の一以上の抗体を、当業者に公知の技術を使用して脊椎動物の組織に灌流させる(注射する)ことができる。このような異所性環境での本明細書中に記載の抗体の存在は、例えば、移植片拒絶時などの免疫応答の調整で有用であり得る。
【0132】
定時的適用では、用語「予防」は、疾患の誘導前の防御組成物の投与を含む。「抑制」は、疾患の誘導後であるが疾患発症前の組成物の投与をいう。「治療」は、疾患病徴が現れた後の防御組成物の投与を含む。
【0133】
疾患の予防または治療における本発明の選択された抗体の有効性をスクリーニングするために使用することができる動物モデル系を利用可能である。感受性マウスにおける全身性紅斑性狼瘡(SLE)の試験方法は当分野で公知である(Knightら、1978,J.Exp.Med.,147,1653;Reinerstenら、1978、New Eng.J.Med.,299,515)。重症筋無力症(MG)を、別の種由来の可溶性AchRタンパク質での疾患の誘導によってSJL/J雌マウスにおいて試験する(Lindstromら、1988,Adv.Immunol.,42、233)。関節炎を、II型コラーゲンの注射によってマウスの感受性系統で誘導する(Stuartら、1984、Ann.Rev.Immunol.,42、233)。微生物熱ショックタンパク質の注射によって感受性ラットでアジュバント関節炎が誘導されるモデルが記載されている(Van Edenら、1988,Nature,331,171)。記載のサイログロブリン投与によってマウスで甲状腺炎が誘導されている(Maronら、1980,J.Exp.Med.,152、1115)。インスリン依存性糖尿病(IDDM)は自然に発症するか、一定のマウス系統(Kanasawaら、1984,Diabetologia,27,113に記載のものなど)で誘導することができる。マウスおよびラットにおけるEAEは、ヒトにおけるMSモデルとして使用する。このモデルでは、脱髄疾患をミエリン塩基性タンパク質の投与によって誘導する(Paterson,1986,Textbook of Immunopathology,Mischerら編,Grune and Stratton、New York,179〜213頁;McFarlinら,1973,Science,179,478;およびSatohら、1987,J.Immunol.,138、179を参照のこと)。
【0134】
一般に、本発明の選択された一本鎖抗体を、精製された形態で薬理学的に適切なキャリアと共に使用する。典型的には、これらのキャリアには、水性もしくはアルコール/水性溶液、乳濁液もしくは懸濁液、生理食塩水および/または緩衝化媒質を含む任意のものが含まれる。非経口賦形剤には、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース、ならびに塩化ナトリウムおよび乳酸加リンゲル液が含まれる。懸濁液中でポリペプチド複合体を保持する必要がある場合、適切な生理学的に許容可能なアジュバントを、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、およびアルギン酸塩などの増粘剤から選択することができる。
【0135】
静脈内賦形剤には、流動物ならびに栄養補填剤および電解質補填剤(リンゲルデキストロースベースのものなど)が含まれる。防腐剤および他の添加物(拘禁約、抗酸化剤、基レート剤、および不活性ガスなど)もまた存在し得る(Mack,1982,「レミントン薬学」,第16版)。
【0136】
本発明の選択された一本鎖抗体(フラグメントを含む)を、個別に投与する組成物としてか他の薬剤と組み合わせて使用することができる。これらには、シクロスポリン、メトトトレキセート、アドリアマイシン、またはシクロスポリンなどの種々の免疫治療薬および免疫毒素を含んでもよい。医薬組成物には、本発明の選択した抗体もしくはT細胞または本発明の選択された抗体の組み合わせと組み合わせた種々の細胞傷害薬もしくは他の薬剤の「カクテル」を含み得る。
【0137】
本発明の医薬組成物の投与経路は、当業者に一般的に既知の任意の経路であり得る。治療(免疫治療が含まれるるが、これに限定されない)のために、本発明の選択された抗体、受容体、またはその結合タンパク質を、標準的な技術によって任意の患者に投与することができる。投与は、任意の適切な様式(非経口、静脈内、筋肉内、腹腔内、経皮、肺経路、適切には、カテーテルでの直接注入が含まれる)によることができる。投薬量および投与頻度は、年齢、性別、患者の健康状態、他の薬物同時投与、禁忌、および医師が考慮する他のパラメータに依存する。
【0138】
本発明の選択された抗体を、保存のために凍結乾燥し、使用前に適切なキャリアで再構成することができる。公知の凍結乾燥および再構成技術を使用することができる。当業者は、凍結乾燥および再構成により種々の程度で機能活性が損なわれ、それを補うために使用レベルを調整しなければならないことを認識する。
【0139】
さらに、本発明の抗体を診断目的で使用することができる。例えば、本明細書中に記載の抗体を作製し、疾患状態の時または所与の疾患状態の時の全体的にレベルが変化時に特に発現される抗原に対して惹起することができる。
【0140】
診断または追跡目的などの特定の目的のために、標識を付加することができる。適切な標識には、任意の以下の放射性標識、NMRスピン標識、および蛍光標識が含まれるが、これらに限定されない。標識の検出手段は、当業者に周知である。
【0141】
適切な放射性標識の例には、テクネチウム99m(99mTc)またはヨウ素23(123I)が含まれる。ヨウ素123、ヨウ素313、インジウム111、フッ素19、炭素13、窒素15、酸素17、ガドリニウム、マンガン、または鉄などの標識により、NMRを使用した標識の検出が可能である。11CメチオニンおよびFDGなどの標識は、陽電子放出断層撮影技術での使用に適切である。PETの使用手順およびプロトコールの説明は、当業者に周知である。
【0142】
適切なフルオロフォアはGFPまたはその変異体である。GFPおよびその変異体を、当分野で公知の方法に従った融合ポリペプチドとしての発現によって、本発明の抗体または標的分子と共に合成することができる。例えば、所望のGFPと免疫グロブリンまたは標的とのインフレームでの融合物として転写単位を構築し、従来のPCRクローニング技術およびライゲーション技術を使用して上記のベクターに挿入する。
【0143】
本発明の抗体を、シグナルを発生することができる任意の薬剤で標識することができる。シグナルは、検出可能な遺伝子産物の発現の誘導などの任意の検出可能なシグナルであり得る。検出可能な遺伝子産物の例には、生体発光ポリペプチド(ルシフェラーゼおよびGFPなど)、特定のアッセイによって検出可能なポリペプチド(βガラクトシダーゼおよびCATなど)、宿主細胞の成長特性を調整するポリペプチド(HIS3などの代謝に必要な酵素など)、またはG418などの抗生物質耐性遺伝子が含まれる。
【0144】
本発明の選択された抗体を含む組成物またはそのカクテルを、予防および/または治療のために投与することができる。一定の治療への適用では、選択した細胞集団を少なくとも部分的に阻害、抑制、調整、死滅、またはいくつかの他の測定可能なパラメータを達成するための適量を、「治療有効量」と定義する。この投薬量を達成するために必要な量は、疾患の感受性および患者自身の免疫系の一般的状態に依存するが、一般に、kg体重あたり0.00005〜5.0mgの選択された一本鎖抗体の範囲であり、0.0005〜2.0mg/kg/用量がより一般的に使用される。予防への適用のために、本発明の選択されたポリペプチドまたはそのカクテルを含む組成物を、類似またはわずかに低い投薬量で投与することもできる。
【0145】
一以上の本発明の選択された抗体を含む組成物を、予防および治療上の設定で使用して、哺乳動物中の選択された標的細胞集団の変更、不活化、死滅、または除去を補助することができる。さらに、本明細書中に記載のポリペプチドの選択されたレパートリーを、体外またはインビトロで選択的に使用して、標的細胞集団を死滅もしくは枯渇させるか、異種細胞集団から除去することができる。哺乳動物由来の血液を、体外で選択された抗体、その細胞表面受容体、または結合タンパク質と組み合わせることにより、所望でない細胞を死滅させるか、標準的な技術によって哺乳動物に戻すために血液から取り出すことができる。
【0146】
さらなる態様では、本発明は、細胞内結合試薬としての本明細書中に記載の単一重鎖抗体の使用を提供する。
【0147】
本発明の抗体を任意の細胞型で発現させ、結合させ、任意の細胞内成分の機能に影響を与えることができる。細胞内成分は、例えば、細胞骨格成分、遺伝子発現および/または発現調節に関与する分子、細胞成分機能の調節に関与する酵素もしくは分子であり得る。当業者は、このリストが完全であることを意図しないことを認識する。例えば、成分が酵素インヒビターである場合、本発明の抗体は、酵素活性を増減することができる。酵素の活性部位は、しばしば、タンパク質表面上の最も大きな空洞に存在する。このような部位は、通常、従来の抗体に対して免疫原性を示す(Novotnyら,1986,Proc.Nat.Acad.USA,83,226)。本発明の一本鎖抗体の長いH3ループは、酵素の活性部位に深く侵入しており、それにより有効な酵素インヒビターとして作用することが可能である。
【0148】
特に、本発明の一本鎖抗体および/またはそのフラグメントおよび/またはその組成物は、広範な適用(例えば、皮膚用クリーム形態および膣適用形態など)で抗ウイルスおよび/または抗菌薬として特に有用であり得る。さらに、本発明の抗体フラグメントおよび組成物は、治療装置(日和見感染が蔓延している場所など)で使用することができる。例えば、抗体、そのフラグメント、および組成物は、院内環境、特に集中治療室で特に有用であり得る。さらに、本発明の抗体、そのフラグメント、および組成物は、人工組織または天然の組織のいずれかの移植材料の処置で使用することができる。例えば、CMVまたは他のウイルスに感染したステントまたは骨髄。
【0149】
さらに、本発明の抗体に他の機能(輸送ペプチドおよび/または酵素活性(例えば、キナーゼ、プロテアーゼ、ホスファターゼ、デアセチラーゼ、アセチラーゼ、ユビキチン化酵素、SUMO化酵素、メチラーゼ酵素)を提供する機能的部分など)を付加することができる。さらに、他の抗体を、本発明の一本鎖抗体またはそのフラグメントに結合させることができる。当業者は、このリストは完全であることを意図しないことを認識している。
【0150】
上記明細書中に記載の全ての刊行物は、本明細書中で引用することにより本明細書の一部をなすものとする。本発明の範囲および精神から逸脱することなく本発明の記載の方法および系の種々の修正形態および変形形態が当業者に明らかである。本発明を特定の好ましい実施形態と組み合わせて記載しているが、特許請求の範囲に記載の本発明は、このような特定の実施形態に過度に制限されないと理解すべきである。実際、生化学、分子生物学、および生物工学または関連分野に属する当業者に明らかな本発明の実施のために記載された様式の種々の修正形態は、特許請求の範囲内であることが意図される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
VHH単一重鎖抗体であって、VHH重鎖遺伝子座が、ラクダ科動物起源のVHH領域と、非ラクダ科動物起源のJ領域と、非ラクダ科動物起源のD領域と、定常重鎖領域とを含む、VHH単一重鎖抗体。
【請求項2】
請求項1に記載のVHH単一重鎖抗体であって、VHH重鎖遺伝子座が、ラクダ科動物起源のVHH領域と、ヒト起源のJ領域と、ヒト起源のD領域と、定常重鎖領域とを含む、VHH単一重鎖抗体。




【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−13479(P2010−13479A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235360(P2009−235360)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【分割の表示】特願2002−583470(P2002−583470)の分割
【原出願日】平成14年4月24日(2002.4.24)
【出願人】(503391164)エラスムス・ユニヴェルジテイト・ロッテルダム (1)
【Fターム(参考)】