説明

入力装置

【課題】 タッチパッドに指を触れて一方向へ大きくスライドさせたときに、逆向きの操作であるとの誤った判別がなされるのを防止しやすい入力装置を提供する。
【解決手段】 タッチパッド11を操作する操作面15aを親指5でY1方向へスライドさせると、タッチパッド11では、接触領域が31a,31b,31cの順で広くなるとともに、接触領域の図心である基準点が途中からY2方向へ逆走しているとの誤った判別が行われる。このとき、操作面15aの基端部15b側に特定領域33を設定しておき、接触領域が特定領域33を含み且つY1方向へ所定の長さの範囲に延びているときは、逆走検知状態であると判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指を接触させて操作信号を生成する入力装置に係り、特に、指の接触面積の変化などに伴う検知誤差を補正できる入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電話機能、メール送受信機能、ゲーム機能、カメラ撮影機能、あるいはビデオ撮影機能を備えた携帯機器や、リモートコントローラとして使用される携帯機器などには、指の接触を検知するタッチパッドを有する入力装置が備えられているものが多い。
【0003】
この入力装置は、タッチパッドのどの位置に指が接触したかを検知することで、キースイッチが操作されたのと同種の操作信号が生成される。さらに、タッチパッドに触れた指の移動状態を検知することで、移動情報を含む操作信号が生成される。移動情報を含む操作信号は、十字配列のキーが操作されたときの操作信号や、スライド式のキーが操作されたときの操作信号、あるいは押し込み式のキーが操作されたときの操作信号などと同種の信号である。
【0004】
しかし、タッチパッドはその表面に触れた指の面積に応じて検知状態が変化するため、操作者が意図している操作が操作信号として正確に反映されないことがある。例えば、携帯機器を片手で保持しながら、親指をタッチパッドの表面でスライドさせる操作では、親指が指先方向へ進むにしたがって、タッチパネル表面での指の接触面積が増大するため、操作しようとする位置と実際の操作信号の位置情報との間に誤差が発生しやすい。
【0005】
特許文献1に記載された発明では、タッチパッドで検知された指の接触領域の頂点を操作点と判断して、この頂点の動きに応じた操作信号が生成される。特許文献2には、特許文献1と同様に指の接触領域の頂点を操作点とするとともに、指の接触領域の幅寸法を補正パラメータとして操作点を補正する発明が開示されている。
【0006】
特許文献3には、タッチパッドで検知された指の接触領域の中心点を入力しようとする座標点として認識するとともに、接触面積の増加率を補正パラメータとして座標点の補正を行う発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−204811号公報
【特許文献2】特開2010−204812号公報
【特許文献3】特開2008−192791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された発明のように、タッチパッドの接触領域の頂点を操作点として認識する手法では、特許文献2においても指摘されているように、指が動き始めたときに頂点がほとんど移動しないと認識されることがあり、正確な操作信号を生成するのは難しい。
【0009】
特許文献2に記載のように接触面積の幅寸法を補正パラメータとしたり、特許文献3に記載されているように接触面積の増加率を補正パラメータとする手法を採用しても、操作者がタッチパッドの表面で指を移動させようとする意志を操作信号として正確に反映させることが難しい。
【0010】
例えば、携帯機器を片手で保持して、タッチパッドに触れた親指をその指先に向けてスライドさせようとすると、親指の移動に伴って、指とタッチパッドとの接触面積が、指元に向かって徐々に広がる傾向となる。この場合、接触領域の頂点や中心点も指元に向けて移動するために、操作者の操作意図を操作信号に正確に反映させるのが難しい。
【0011】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、タッチパッドに触れた指を移動させたときに、その移動方向を操作信号に反映できる確率を高くした入力装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、指の接触領域を検知するタッチパッドと前記タッチパッドから得られた検知信号に基づいて操作信号を生成する制御部とを有する入力装置において、前記制御部では、
前記タッチパッドの検知信号から、前記接触領域が第1の方向へ移動していると検知されたときに、第1の方向への移動情報を含む操作信号が生成され、
前記接触領域が第1の方向へ移動した後にそれとは逆方向である第2の方向へ移動したと検知されたときは、前記接触領域が第2の方向に設定された特定領域まで連続して延びていないときに、第2の方向への移動情報を含む操作信号が生成され、前記接触領域が前記特定領域まで連続しているときは、本来の操作方向とは異なる逆走検知状態であると判断されることを特徴とするものである。
【0013】
本発明は、好ましくは前記タッチパッドが、電極間に静電容量が形成されて、指が接近したときに電極から得られる出力が変化する静電検知方式であり、
前記接触領域は、所定の面積を有する領域として検知され、前記接触領域の内部に設定された基準点の移動を検知して、前記接触領域が第1の方向へ移動しているか第2の方向へ移動しているかが判断される。例えば、前記基準点は、前記接触領域の図心である。
【0014】
本発明の入力装置は、接触領域の移動方法が第1の方向から第2の方向へ切替えられと判断したときに、接触領域が第2の方向に位置する特定位置まで連続していたら、操作者の意図は指を第2の方向へ動かそうとしているのではない、と判断する。この判断により、例えば、携帯機器が片手で保持されて、タッチバッドに触れた親指を指先方向へ進行させている操作状態のときに、誤った方向への操作であると判断される確率を低下させることができる。また、親指以外の指をタッチパッドに触れた状態で指先方向へスライドさせるときにも、同様にして誤検知状態となるのを防止しやすい。
【0015】
本発明は、前記特定領域は、前記基準点が第1の方向へ移動した後に第2の方向へ移動したときに、その移動方向の切替え点から第2の方向へ所定距離だけ離れた場所に設定される。
【0016】
基準点の移動方向が第1の方向から第2の方向へ切り替わる度に、プログラムの制御動作によって、切替え点から第2の方向へ所定距離離れた場所に特定領域を設定すると、特定領域を、常に切替え点から一定距離だけ離れた位置に設定でき、逆走検知状態であることを正確に判断しやすい。
【0017】
あるいは、前記特定領域は、前記タッチパッドの端部またはその近傍に設定されるものであってもよい。この場合には、第2の方向へ延びて特定領域まで連続する接触領域が、予め決められたしきい値よりも長く連続しているときに逆走検知状態であると判断することが好ましい。
【0018】
本発明は、逆走検知状態であると判断されたときは、操作信号に含まれる移動情報を停止状態とする。
【0019】
あるいは、逆走検知状態であると判断されたときは、第2の方向への移動に切り替わる以前の第1の方向への移動情報に基いて、前記接触領域が第1の方向への移動を継続しているとする擬似移動情報を含む操作信号が生成される。
【0020】
さらに、前記接触領域の移動が停止したと検知されたときに、前記擬似移動情報の生成を停止してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、タッチパッドに触れた親指または他の指を指先方向へ進行させたときに誤検知状態が発生するのを防止しやすくなる。したがって、操作者がタッチパッドに触れた指を移動させようとしたときに、その意図に反する操作信号が生成されるのを防止しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態の入力装置を搭載した携帯機器が片手で保持されて操作されている状態を示す説明図、
【図2】本発明の実施の形態の入力装置の構成を示す説明図、
【図3】(A)(B)(C)は、タッチパッドに触れた親指のスライド操作を示す説明図、
【図4】(A)(B)(C)は、図3(A)(B)(C)の操作に対応する接触領域の変化を示す説明図、
【図5】入力装置の動作の一例を示すフローチャート、
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に示す携帯機器1は、電話機能やメール送受信機能を有するものであり、筐体2に液晶パネルなどの表示装置3と本発明の実施の形態の入力装置10が装備されている。なお、携帯機器は、ゲーム機能を搭載したゲーム装置、カメラ撮影機能やビデオ撮影機能を搭載した撮影装置、さらにはテレビ受像機などの電子機器を操作するリモートコントローラなど、入力装置10を搭載できるものであればどのような機種でもよい。
【0024】
入力装置10は、静電検知方式のタッチパッド11を有している。図1では、携帯機器1が右手で保持され、入力装置10が親指5で操作されている状態が示されている。
【0025】
図1に示すタッチパッド11は四角く平坦な形状であり、指で操作されたときにその指の接触領域が検知され、さらに接触領域の移動状態が検知される。タッチパッド11の形状は、上下や左右に細長いものや円形のものであってもよい。また、タッチパッド11は、その表面に操作箇所を示す各種キーが固定表示として表示されているものであってもよいし、透明なタッチパッドの背部に液晶パネルなどの表示装置が配置されて、タッチパネルの操作箇所を示すキー表示などが変化する画像で示されるものであってもよい。あるいは、タッチパッドと薄型のスイッチ機構とが重ねられて構成されているものであってもよい。
【0026】
図2に示すように、タッチパッド11は、薄い樹脂シートなどで形成された絶縁層12を有している。絶縁層12の一方の表面に、複数のX電極13が互いに一定の間隔を空けて平行に設けられ、他方の表面に、複数のY電極14が互いに一定の間隔を空けて平行に設けられている。X電極13とY電極14は絶縁層12を挟んで互いに直交する向きに配置されている。
【0027】
絶縁層12の他方の表面に、隣り合うY電極14の間に配置された複数の検出電極18が設けられている。検出電極18は、Y電極14と一定の間隔を空けてY電極14と平行に延びており、且つ絶縁層12を挟んでX電極層13と交叉している。
【0028】
図3に示すように、絶縁層12は樹脂シートで形成されたカバー層15で覆われており、カバー層15の表面が操作面15aとなっている。
【0029】
図2に示すように、入力装置10には、駆動・検出回路16が設けられている。全てのX電極13と全てのY電極14が、駆動・検出回路16に接続されている。複数の検出電極18は、共通の出力ライン18aに集約されて導通しており、この出力ライン18aが駆動・検出回路16に接続されている。
【0030】
タッチパッド11が駆動されるときは、駆動・検出回路16から複数のX電極13と複数のY電極14に矩形波の電圧が順番に与えられる。複数のX電極13のそれぞれと複数のY電極14のそれぞれに対し、前記電圧が異なるタイミングで印加時間が重複しないように順番に与えられる。それぞれの電極に電圧が印加されるときに、出力ライン18aから得られる出力が駆動・検出回路16で検知される。
【0031】
それぞれのX電極13と検出電極18との間、およびそれぞれのY電極14と検出電極18との間に、電極間の対向面積と絶縁層12の誘電率とで決まる静電容量が形成されている。そのため、いずれかのX電極13に矩形波の電圧が印加されると、その立ち上がりと立ち下がりのタイミングで、検出電極18に瞬時に電流が流れる。タッチパッド11に指が接近していないときは、どのX電極13に電圧が印加されているときでも、出力ライン18aに流れる電流値が変化せずほぼ一定である。
【0032】
いずれかのX電極13に電圧が印加されたときに、そのX電極13の近くでタッチパッド11の操作面15aに指が触れていると、ほぼ接地電位である指に多くの電流が流れるために、X電極14に与えられた電圧の立ち上がりと立下りのタイミングで出力ライン18aに流れる電流値が低下して、駆動・検出回路16で検出される検知出力が低下する。
【0033】
同様にして、いずれかのY電極14に矩形波の電圧が印加されると、その立ち上がりと立ち下がりのタイミングで、検出電極18に瞬時に電流が流れる。タッチパッド11に指が接近していないときは、どのY電極14に電圧が印加されても、出力ライン18aに流れる電流の合計値は変化せずほぼ一定である。
【0034】
いずれかのY電極14に電圧が印加されたときに、そのY電極14の近くでタッチパッド11に指が触れていると、指に多くの電流が流れるために、Y電極14に与えられる電圧の立ち上がりと立ち下がりのタイミングで検出電極18に流れる電流値が低下して、駆動・検出回路16で検出される検知出力が低下する。
【0035】
図2に示すように、入力装置10に制御部20が接続されている。制御部20はCPUとメモリなどから構成され、所定のプログラムに応じて種々の制御動作を実行する。図2では、プログラムで実行される複数の制御動作の段階が、接触領域演算部21や基準点演算部22などとしてブロック図で示されている。
【0036】
駆動・検出回路16から、複数のX電極13と複数のY電極14のどの電極に電圧が印加されているかの情報が制御部20の接触領域演算部21に与えられ、同時に、出力ライン18aから駆動・検出回路16に与えられる検出出力(検出電流)が、ディジタル値に変換されて接触領域演算部21に与えられる。
【0037】
接触領域演算部21では、どの電極に電圧が印加されているかの情報と、そのときに出力ライン18aから得られる検出電流の大きさとから、操作面16aのどの場所に指が接触しているかを演算することができる。
【0038】
図2に示すように、X電極13の本数はあまり多くなく、X電極13がX方向へ間隔を空けて配置されている。接触領域演算部21では、隣り合うX電極13,13の一方に電圧が与えられたときと他方に電圧が与えられたときの検出出力の比に基づいて演算が行なわれ、隣り合うX電極13,13の間のX座標が例えば128の座標点に区分されて、それぞれの座標点に指が触れているか否かが検知される。同様に、Y座標においても、Y電極14,14の間が複数の座標点に区分されて、それぞれの座標点に指が接触しているか否かが検知される。
【0039】
図3(A)(B)(C)には、タッチパッド11の操作面15aに触れた親指5の位置が徐々に変化する様子が示されている。接触領域演算部21では、操作面15aと親指5とが接触していると判断される接触領域31a,31b,31cが互いに可変する面積を有する領域として演算される。この接触領域31a,31b,31cが、実際に親指5が触れている領域の形状および面積となるべく一致するように、駆動・検出回路16の検出感度などが設定されている。
【0040】
図2に示すように、制御部20に基準点演算部22が設けられている。接触領域演算部21において、図4に示すように、接触領域31a,31b,31cが演算された後に、接触領域31a,31b,31cの中のいずれかの座標点が基準点32a,32b,32cとして演算される。実施の形態では、接触領域31a,31b,31cの領域形状の図心(重心)が基準点32a,32b,32cとして演算される。
【0041】
なお、基準点32a,32b,32cを図心以外の座標点として求めることも可能である。例えば、接触領域31a,31b,31cのY1側の縁部と図心との中間点を基準点32a,32b,32cとすることなどが可能である。
【0042】
図2に示すように、制御部20に方向カウンタ23が設けられている。制御部20では、基準点32a,32b,32cの移動方向および移動量が方向カウンタ23においてカウントされる。
【0043】
制御部20から携帯機器1の本体制御部に与えられる操作信号には、方向カウンタ23において検出された方向に関する情報と、カウンタを加算しまたは減算した移動量の情報が含まれる。本体制御部では、この方向の情報と移動量の情報に基づいて、表示装置3の画面に表示されたカーソルを移動させたり、図形を移動させたり、画面をスクロールさせるなどの表示制御が行われる。
【0044】
図2に示すように、制御部20には補正判別部24が設けられている。補正判別部24は、接触領域演算部21で演算された接触領域の位置と面積の情報と、基準点演算部22で演算された基準点の移動情報とから、異常な検知動作が行われているか否かを監視して、補正制御を行うことができるようになっている。
【0045】
図3(A)(B)(C)は、入力装置10の操作方法の一例として、携帯機器1を片手で保持し、親指5をタッチパッド11の操作面15aに触れて、指先をY1方向へスライドさせることを意図した動作を示している。
【0046】
図3(A)に示すように、親指5の先部を操作面15aに触れたとき、接触領域演算部21では、図4(A)に示す接触領域31aが演算され、基準点演算部22において、接触領域31aの図心である基準点32aが演算される。操作面15aの基端部15bから基準点32aまでの距離はYaである。
【0047】
図3(A)から図3(B)にかけて、親指5の指先をY1方向へスライドさせると、親指5の指先と操作面15aとの接触面積がやや増大し、図4(B)に示す接触領域31aが演算され、その図心が基準点32bとして演算される。図4(A)から図4(B)にかけて、操作面15aの基端部15bから基準点までの距離がYaからYbに変化する。Yb>Yaであり、Y1方向へ移動している移動情報を含む操作信号が生成される。
【0048】
図3(B)から図3(C)にかけて、親指5がY1方向へさらにスライドさせられている。このとき親指5の指元が操作面15aに接触するため、図4(C)に示すように、接触領域演算部21で演算される接触領域31cがY2方向へ広がる。このとき、基準点演算部22で演算される図心である基準点32cは図4(C)のときよりもY2方向で移動し、操作面15aの基端部15bから基準点32cまでの距離YcはYc<Ybとなってしまう。
【0049】
その結果、操作者の意図は、親指5をY1方向へ向けて長くスライドさせているのにもかかわらず、算出された基準点は、図3(B)以後にY2方向へ逆走していると判断されることになる。
【0050】
そこで、補正判別部24では、以下の補正制御によって、誤って逆走検知状態が発生する頻度を低下できるようにしている。
【0051】
補正制御では、図4(C)に示すように、操作面15aの一部に特定領域33が設定される。この特定領域33は、操作面15aの基端部15bよりもややY1側の場所でY方向に所定の長さを有する領域に設定される。または、基端部15bを含んでY方向に所定の長さを有する領域に設定される。
【0052】
図4(A)から(B)に示すように、基準点32a,32bが第1の方向であるY1方向へ移動していると認識された後に、図4(C)に示すように、基準点32cが第1の方向と逆向きである第2の方向へ向けて移動し、しかも第2の方向への移動距離が予め決められたしきい値よりも大きくなったときに、次のような補正のための判別を行う。
【0053】
図4(B)に示す基準点32bが第1の方向から第2の方向への移動の切替え点であるとしたときに、切り替わり時の接触領域31bが途切れることなくY2方向へ移動して接触領域が特定領域33の一部に入り込み、その接触領域が特定領域33を含んでY1方向へ所定長さを超えた範囲であるときに、逆走検知状態であると判断する。
【0054】
補正判別部24において逆走検知状態であると判断されたときの第1の対処方法は、操作信号に含まれる移動情報を、移動方向が切り替わった時点の基準点32bに固定する。第2の対処方法は、移動方向が切り替わる以前の基準点32aから基準点32bまでの第1の方向の移動情報をメモリに保存しておき、逆走検知状態であると判断したときに、記憶された移動情報に基づいて、指が基準点32bからさらにY1方向へ移動しているという擬似移動情報を含む操作信号を生成する。そして、操作面15aから指が離れたら、擬似移動情報を停止する。
【0055】
特定領域33は、操作面15aにおいて予め決められた領域に固定領域として設定されていてもよい。また、機器を操作する前に設定プログラムを起動して、操作者の親指5の長さなどに応じて、特定領域33の位置とそのY方向への長さや面積を任意に設定できるようにしてもよい。
【0056】
または、移動方向がY1方向からY2方向へ切り替わったときに、そのときの基準点32bを基準として、そこからY2方向へ予め決められた距離だけ戻った位置に特定領域33を設定してもよい。例えば、移動方向が切替えられたときの基準点が図4(B)の基準点32bよりもY1方向に進んだ位置であるときは、特定領域が図4(C)の特定領域33よりもY1側に寄った位置に設定される。
【0057】
この方法では、基準点の移動方向の切替え点がどの位置であっても、切替え点と特定領域33との距離を適性に保つことができ、その後に逆走検知状態となったか否かを、常に同じ基準で判断できるようになる。
【0058】
特定領域33は、指をスライドさせるときに接触面積が逆方向へ延びることを検知するためのものであり、どの向きに設定されるかは、それぞれの入力装置10の構造に応じて決められる。図の実施の形態では、図1に示すように、携帯機器1が右手で保持されて、操作面15aに触れた親指5をY1方向へスライド操作することが多いために、特定領域33が、操作面15aのY2側の基端部15b付近または基端部15bを含む領域に設定される。しかし、特定領域33は、Y2方向以外の端部またはその付近に設定されることもある。または、親指以外の指で例えば人差し指を図3に示すように大きくスライドさせるときにも、同様に特定領域33を設定しておくことで、実際の指のスライド方向と相違する逆走検知状態となるのを防止できる。
【0059】
図5は、補正判別部24による補正動作をまとめたフローチャートである。
ST1(ステップ1)では、基準点が第1の方向へ向けて同一方向へ移動しているか否かを監視し、同一方向へ移動していると判断されたときはST2に移行して、図2に示す方向カウンタ23を移動距離に応じて加算していく。このとき、機器本体の本体制御部に同一方向への移動情報を含む操作信号が与えられる。
【0060】
ST1において、基準点の移動方向が逆向きである第2の方向へ切り替わったと判断したら、ST3に移行し、基準点の第2の方向への移動距離がしきい値以上であるか否かを判別する。ST3において、基準点の第2の方向への移動距離がしきい値未満であると判断したら、操作面15aに触れている指を微小距離だけ動かしている意図であると判断し、または指が停止しているがノイズによって基準点が微動しているかのような信号が生成されていると判断する。このとき、ST4に移行し、方向カウンタ23を減算して第2の方向への微小な移動情報を含む操作信号を生成し、または方向カウンタ23をクリアして、移動情報の生成を停止する。
【0061】
ST3において、基準点の第2の方向への移動距離がしきい値以上であるとき、ST5では、特定領域33が接触領域に含まれているかを判別する。特定領域33が接触領域に含まれていないときは、指を第2の方向へ動かす意図であると判断し、ST4に移行して基準点の第2の方向への移動距離に応じて方向カウンタ23を減算する。そして、第2の方向への移動情報を含む操作信号が機器本体に与えられる。
【0062】
ST5において、接触領域に特定領域33が含まれていると判断したら、ST6に移行して、接触領域が、特定領域33を含んでY1方向へ所定長さ以上の範囲まで延びているか否かの判別を行う。接触領域が特定領域33のみであるとき、または接触領域が特定領域33を含んでいるがY1方向へ所定の長さで延びていないときは、指で特定領域33を触れることを意図していると判断し、ST4に移行して基準点の第2の方向への移動距離に応じて方向カウンタ23を減算する。
【0063】
ST6において、接触領域が、特定領域33を含んでY方向へ所定長さ以上の範囲で延びているときは、図3(C)に示す逆走検知状態であると判断し、ST7に移行して逆走検知を補正する処理が行われる。
【0064】
なお、図2に示すタッチパッド11の変形例として、絶縁層12のX電極13が設けられている面において、複数のX電極13の間に検出電極18が設けられていてもよい。
【0065】
または、タッチパッド11は、検出電極18が設けられていない構造であってもよい。この場合、X電極13に順番に電圧が印加されているときに、全てのY電極14が検出電極として機能し、Y電極14に順番に電圧が印加されているときに、すべてのX電極13が検出電極として機能する。
【符号の説明】
【0066】
1 携帯機器
2 筐体
3 表示装置
5 親指
10 入力装置
11 タッチパッド
12 絶縁層
13 X電極
14 Y電極
15 カバー層
15a 操作面
15b 基端部
16 駆動・検出回路
18 検出電極
20 制御部
21 接触領域演算部
22 基準点演算部
23 方向カウンタ
24 補正判別部
31a,31b,31c 接触領域
32a,32b,32c 基準点
33 特定領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指の接触領域を検知するタッチパッドと前記タッチパッドから得られた検知信号に基づいて操作信号を生成する制御部とを有する入力装置において、
前記制御部では、
前記タッチパッドの検知信号から、前記接触領域が第1の方向へ移動していると検知されたときに、第1の方向への移動情報を含む操作信号が生成され、
前記接触領域が第1の方向へ移動した後にそれとは逆方向である第2の方向へ移動したと検知されたときは、前記接触領域が第2の方向に設定された特定領域まで連続して延びていないときに、第2の方向への移動情報を含む操作信号が生成され、前記接触領域が前記特定領域まで連続しているときは、本来の操作方向とは異なる逆走検知状態であると判断されることを特徴とする入力装置。
【請求項2】
前記タッチパッドは、電極間に静電容量が形成されて、指が接近したときに電極から得られる出力が変化する静電検知方式であり、
前記接触領域は、所定の面積を有する領域として検知され、前記接触領域の内部に設定された基準点の移動を検知して、前記接触領域が第1の方向へ移動しているか第2の方向へ移動しているかが判断される請求項1記載の入力装置。
【請求項3】
前記基準点は、前記接触領域の図心である請求項2記載の入力装置。
【請求項4】
前記特定領域は、前記基準点が第1の方向へ移動した後に第2の方向へ移動したときに、その移動方向の切替え点から第2の方向へ所定距離だけ離れた場所に設定される請求項2または3記載の入力装置。
【請求項5】
前記特定領域は、前記タッチパッドの端部またはその近傍に設定される請求項1ないし3のいずれかに記載の入力装置。
【請求項6】
逆走検知状態であると判断されたときは、操作信号に含まれる移動情報を停止状態とする請求項1ないし5のいずれかに記載の入力装置。
【請求項7】
逆走検知状態であると判断されたときは、第2の方向への移動に切り替わる以前の第1の方向への移動情報に基いて、前記接触領域が第1の方向への移動を継続しているとする擬似移動情報を含む操作信号が生成される請求項1ないし5のいずれかに記載の入力装置。
【請求項8】
前記接触領域の移動が停止したと検知されたときに、前記擬似移動情報の生成を停止する請求項7記載の入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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