説明

全車輪油圧駆動乗用芝刈機

【課題】
1個の油圧ポンプにより全車輪に個別に設けられた各油圧モータを駆動する形式の乗用芝刈機において、傾斜地を下って芝刈作業を行う際に、「全車輪駆動方式」と「前輪駆動方式」との切り替えを自動的に行うことである。
【解決手段】
主管路L0 における1つの駆動ループ回路が形成可能な位置に組み込まれた一個の油圧ポンプAにより、各車輪WF,WBに設けられた各油圧モータMF,MBをそれぞれ個別に駆動する形式の全車輪油圧駆動乗用芝刈機において、後輪WBの接地圧が小さくなって後輪WBに滑りが発生する直前の時点、及び後輪WBの接地圧の増大により前記滑りの発生がなくなった時点を基準にして、「全車輪駆動方式」と「前輪駆動方式」とを相互に切替えられるように、油圧回路C1 内にチェックバルブV1 と自動切替バルブV2 とリリーフバルブV3 とを組み込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1個の油圧ポンプにより全車輪に個別に設けられた各油圧モータを個別に駆動する形式の乗用芝刈機において、傾斜地を下って芝刈作業を行う際に、機体の全車輪が駆動される方式(以下「全車輪駆動方式」という)と前輪のみが駆動される方式(以下「前輪駆動方式」という)とが、後輪の接地圧が小さくなって滑りを生ずる直前の時点、及び前輪の作用する油圧力が保持圧から駆動圧に変化する時点で相互に自動的に切り替えられる全車輪油圧駆動乗用芝刈機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1個の油圧ポンプによって全車輪に個別に設けられた各油圧モータを駆動する全車輪油圧駆動乗用芝刈機の構成と、その問題点について説明する。図11は、4輪構造の全車輪油圧駆動の乗用芝刈機の従来の油圧回路C2 を示す図である。4輪構造の全車輪油圧駆動の乗用芝刈機は、2個の前輪WFは、それぞれ個別の油圧モータMFで駆動されると共に、2つの後輪WBは、それぞれ個別の油圧モータMBで駆動されて、全車輪がそれぞれ個別の油圧モータで駆動される。1個の油圧ポンプAの圧力の作用する主管路L0 に対して4本のモータ管路(並列管路)L1,L2,L3,L4 が並列に接続され、主管路L0 には1個の油圧ポンプAが全体として1つの「駆動ループ回路」を形成するようにして組み込まれ、前輪用の2個の油圧モータMFと後輪用の2個の油圧モータMBからなる計4個の各油圧モータMF,MBは、それぞれ各モータ管路L1,L2,L3,L4 に組み込まれている。
【0003】
このため、平地において直前進又は直後進する場合には、例えば前輪及び後輪が同径で、しかも油圧モータの容量が同一であると、全車輪の周速度が同一となる必要があるので、油圧ポンプAから供給される圧油の流量Qは、各モータ管路L1,L2,L3,L4 に(Q/4)に等分して分配されて計4個の各油圧モータMF,MBを同一回転数で回転させる。この結果、乗用芝刈機は、直前進又は直後進する。一方、平地において前進又は後進の状態で旋回する場合には、内側の車輪は外側の車輪よりも周速度を小さくする必要があると共に、円旋回以外の旋回では同一側の前後の各車輪の周速度を微妙に異ならしめる必要があって、計4個の各油圧モータMF,MBは、乗用芝刈機をスムーズに旋回するのに必要な回転数を自ら選択するため、油圧ポンプAから供給される圧油の流量は、各モータ管路L1,L2,L3,L4 に非等分に分配される。このため、1個の油圧ポンプAにより4個の各油圧モータMF,MBを全て駆動する形式の油圧回路を備えた全車輪油圧駆動の乗用芝刈機は、芝面での旋回時において全車輪を常に必要回転数だけ回転させられて、特定の車輪が過回転、或いは不足回転することがないので、常に旋回がスムーズとなって、車輪により芝生が損傷されない利点がある。
【0004】
しかし、山部と谷部を有する芝面において、傾斜地を下って芝刈作業を行う場合においては、図13及び図14に示されるように、平地走行時に比較して2個の前輪WFの接地圧(P11)が大きくなると共に、2個の後輪WBの接地圧(P12)が小さくなり、勾配が大きくなる程、前輪WFの接地圧(P11)と後輪WBの接地圧(P12)との差が大きくなるため、以下に述べる問題が発生していた。なお、図14(イ),(ロ)は、それぞれ傾斜地の勾配に対する機体の前輪及び後輪の接地圧と保持圧の関係を示すグラフであって、同図の「保持圧」とは、傾斜地において機体が停止又は油圧ポンプの吐出量が零で下っている状態である。即ち、接地圧(P11)の大きな前輪WFの各油圧モータMFは、傾斜地の勾配が限界を超えて大きくなると、前輪WFにより駆動回転されるため、本来の油圧モータとしての機能のみならず、油圧ポンプとしての機能も有するに至ると共に、接地圧の小さな後輪WBの各油圧モータMBは、供給される圧油によってのみ回転する油圧モータとして機能しているために、前輪WFの各油圧モータMFの吐出側の圧力(P1)と流入側の圧力(P2)の関係は逆転して、後者が前者よりも大きくなる。このような関係を有する油圧ポンプAの流入側の圧力(P2)は、自重(重力作用)により機体が急勾配の傾斜地を下ろうとするのを阻止して現状を保持させる油圧力であるため、「保持圧」と称されている。即ち、吐出側の圧力(P1)よりも大きくなった流入側の圧力(P2)は、前輪WF及び後輪WBの双方の油圧モータMF,MBを逆回転させるように作用する。このため、後輪MBの接地圧が小さくなって、芝面に対する摩擦抵抗が小さくなると、後輪WBの回転数は前輪WFの回転数よりも小さくなり、更に勾配が増して接地圧が小さくなると、後輪WBは停止した後に、逆回転するに至る。この結果、後輪WBが傾斜面に追随して回転できないために傾斜面に対して後輪が引きずられて滑る状態(以下、「ロック状態」という)となって、機体が後輪操舵の場合には、ハンドル操作が不能となって機体が暴走し、本来の経路の芝刈作業が行えなくなると共に、後輪の滑りにより芝生を大きく損傷させてしまう問題が発生していた。
【0005】
上記した問題点を解消するために、切替バルブを使用して、全車輪を駆動する「全車輪駆動方式」と前輪のみを駆動する「前輪駆動方式」とを手動により切り替える切替バルブV10を組み込んだ油圧回路(C3)が採用されている。図12(イ),(ロ)は、それぞれ4輪構造の全車輪油圧駆動の乗用芝刈機の「全車輪駆動方式」及び「前輪駆動方式」における油圧回路C3 を示す図である。駆動方式を切り替える切替バルブV10は、図11に示される従来の油圧回路(C1)において、前輪WF用の各油圧モータMFが組み込まれた各モータ管路L1,L2 と、後輪WB用の各油圧モータMBが組み込まれた各モータ管路L3,L4 とを分断する位置に組み込まれている。
【0006】
このため、図12(イ)に示される「前輪駆動方式」の場合には、上記油圧回路と同様となって、平地において直前進又は直後進する場合である。一方、急勾配の傾斜地を下って芝刈作業を行う場合には、図12(ロ)に示される回路となるように運転者が手動により切替バルブV10を切り替える。これにより、1つの「駆動ループ回路」を形成していた主管路L0 は、前輪WF用の各油圧モータMFが組み込まれた各モータ管路L1,L2 を含む前輪側の「駆動ループ回路」と、後輪WB用の各油圧モータMBが組み込まれた各モータ管路L3,L4 を含む後輪側の「アイドルループ回路」との2つの「ループ回路」に分割される。この結果、油圧ポンプAの圧油は、前輪WF用の各油圧モータMFのみに供給されると共に、後輪側の「アイドルループ回路」は、油圧ポンプAの圧油が供給されないで、後輪WBの従動回転によって内部の低圧油が「アイドルループ回路」内において循環する状態となる。即ち、各前輪WFのみが駆動回転されて、各後輪WBは、従動回転される「前輪駆動方式」に切り替えられる。
【0007】
このため、各後輪WBが「ロック状態」となって操舵不能となる問題点は解消されるが、切替バルブV10の操作は、作業者の判断により行うので、切替操作が遅れて「前輪駆動方式」で急勾配の傾斜地を下がってしまった場合には、後輪WBが「ロック状態」となる上記問題点が発生する。一方、切替操作が早まった場合には、機体の速度が増速された「前輪駆動方式」による刈切長が長くなって、見栄えの悪い部分(回転刃の回転数が一定のままで機体が増速すると、増速前に比較して芝生が荒く刈り取られる)の長さが長くなる問題が発生する。このように、切替バルブV10の操作のタイミングが非常に難しく、しかも下り勾配の傾斜地に達した都度、切替操作を行う必要があって、極めて面倒であるという問題があった。
【0008】
また、手動による切替バルブV10を備えた上記油圧回路C3 において、芝刈機が下り勾配の傾斜地に達して「保持圧」が発生したことを検出して、この検出信号により前記切替バルブV10を自動開閉するように改良した油圧回路も採用されている。改良に係る前記油圧回路は、回路内における「保持圧」の発生信号により切替バルブV10を作動させて、「全車輪駆動方式」と「前輪駆動方式」とを自動的に切り替えるものである。
【0009】
しかし、上記した改良に係る油圧回路では、回路内における「保持圧」の発生を駆動方式の切替基準としているため、後輪に滑りが発生しない下り勾配においても「前輪駆動方式」に切り替えられるために、機体の走行速度が増速する「前輪駆動方式」での刈取長が長くなって、刈面の見栄えが悪い部分の面積が大きくなると共に、「全車輪駆動方式」と「前輪駆動方式」とが相互に頻繁に切り替えられ、その結果、機体の速度が頻繁に増速又は減速されて、機体に作用する小さな衝撃力により機体が「ガクガク」した状態で走行する問題があった。この問題は、機体の前進時のみならず、後進時においても同様に発生する。このように、「保持圧」の発生により駆動方式を切り替える本油圧回路は、駆動方式の切替の基準を作業者により変更できないのが致命的な問題であった。なお、本発明に関連する先行特許文献は存在しない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、1個の油圧ポンプにより全車輪に個別に設けられた各油圧モータを駆動する形式の乗用芝刈機において、傾斜地を下って芝刈作業を行う際に、後輪の接地圧が小さくなって後輪に滑りが発生する直前の時点、及び前輪に作用する油圧力が保持圧から駆動圧に変化する時点を基準にして、「全車輪駆動方式」と「前輪駆動方式」とを相互に切替えることにより、傾斜地を下って芝刈作業を行う場合に発生する前輪駆動方式による刈取長を可能な限り短くして刈取状態を良好にし、しかも駆動方式の切替回数を少なくすると共に、切替え時において機体に作用する衝撃力を緩和して、傾斜地を下って行う芝刈作業をスムーズに行えるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための請求項1の発明は、主管路に対して車輪数と同数のモータ管路が並列に接続され、各モータ管路には、前輪用と後輪用の各油圧モータが前記主管路において圧油が流れる方向に沿って二分された形態でそれぞれ組み込まれて、前記主管路における1つの駆動ループ回路が形成可能な位置に組み込まれた一個の油圧ポンプにより、各車輪に設けられた各油圧モータをそれぞれ個別に駆動する形式の全車輪油圧駆動乗用芝刈機であって、前記主管路における車両後進時に油圧ポンプから吐出された圧油が流れる部分であって、しかも前輪用と後輪用の各モータ管路を二分する位置に組み込まれて、後輪側から前輪側に向けての圧油の流れのみを許容するチェックバルブと、前記主管路における油圧ポンプから吐出された圧油が流れる方向に沿って前輪用及び後輪用の各モータ管路を二分し、しかも前記チェックバルブよりも後輪側の位置に、各モータ管路と並列に接続した切替バルブ管路に組み込まれて、前記チェックバルブを挟んでその両側の部分から取り出された各パイロット圧により開閉する自動切替バルブと、前記主管路における前記チェックバルブを基準にして後輪側の部分に前記各モータ管路及び切替バルブ管路に対して並列に接続したリリーフバルブ管路に組み込まれるリリーフバルブとを備えていることを特徴としている。
【0012】
請求項1の発明によれば、傾斜地を下って芝刈作業を行う際に、チェックバルブにより前輪の保持圧と遮断された後輪の保持圧と、低下した後輪の接地圧との相乗作用により当該後輪が滑りを開始する直前の保持圧によりリリーフバルブが開かれて、当該後輪の保持圧が開放されると共に、当該開放直後において自動切替バルブに作用する前輪側及び後輪側の各パイロット圧の差の増大により当該自動切替バルブが開かれることにより、後輪側の各モータ回路、切替バルブ回路、及び後輪側の主管路において低圧油の「アイドルループ回路」が形成されて、全車輪駆動方式から前輪駆動方式に自動的に切り替えられる。このように、リリーフバルブが開放するように作動する圧力差は、後輪に滑りが発生する直前の保持圧(正確には、当該保持圧と油圧ポンプから吐出された圧油の圧力との差)に設定してあるので、傾斜地の下り勾配が増すことにより後輪の滑りが発生する直前において、後輪側には、前輪の保持圧がチェックバルブにより遮断された状態で、低圧油による「アイドルループ回路」が形成されるため、後輪は従動回転されて滑りの発生がなくなる。一方、後輪側に「アイドルループ回路」が形成されている状態において、前輪に作用する油圧力が保持圧から駆動圧に変化すると、上記と逆の順序に油圧回路における圧油の流れが変化して、前輪駆動方式から全車輪駆動方式に自動的に切り替えられる。
【0013】
このため、全車輪駆動方式に対して機体が増速する前輪駆動方式による刈取作業は、下り傾斜地の勾配が大きくて後輪に滑りが発生する部分のみであるため(即ち、下り傾斜地における前輪駆動方式が必要不可欠な勾配の大きな部分においてのみであるため)、前輪駆動方式による刈取長は短くなって、下り勾配の傾斜地における刈取状態が良好となる。また、自動切替バルブが開いて、後輪側に「アイドルループ回路」が形成されるのは、リリーフバルブが開いた後において、自動切替バルブに作用する前輪側及び後輪側の各パイロット圧の差が一定圧以上に増大した後であって、リリーフバルブが作動してから自動切替バルブが作動するまでの間は、後輪の駆動力が所定の時間を有して低下して全車輪駆動方式から前輪駆動方式に切り替えられるので、駆動方式の切替え時における芝生の損傷を最小限に抑えることができると共に、駆動方式の切替え時において機体に作用する衝撃力は殆どなく、駆動方式の切替えがスムーズに行われるため、運転操作が楽となる。
【0014】
また、請求項2の発明では、傾斜地を後進で上ったり、或いは下ったり、更には平地で後進したりする場合のように、後進で芝刈作業を行う場合には、チェックバルブの作用によって、油圧ポンプから吐出された圧油は、後輪用の油圧モータには及ばない構成であるので、傾斜地の勾配の変化とは無関係に常に前輪駆動方式であって、走行中の駆動方式の切替えによる芝刈状態の変化がなくなる利点がある。
【0015】
また、請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記主管路における車両前進時に油圧ポンプから吐出された圧油が流れる部分であって、しかも前輪用と後輪用の各モータ管路を二分する位置に組み込まれる第1手動切替バルブと、前記主管路における前記チェックバルブを基準にして後輪側の部分の圧力をパイロット圧として前記自動切替バルブに対する伝達及びその遮断を行う第2手動切替バルブとを備えていることを特徴としている。
【0016】
請求項3の発明によれば、非芝刈作業時には、第1及び第2の各手動切替バルブをいずれも閉じることにより、前輪側及び後輪側の各主管路は、第1手動切替バルブとチェックバルブとにより遮断されると共に、チェックバルブを挟んで後輪側の主管路の圧力が自動切替バルブに対してパイロット圧として作用しないために、前輪側において「駆動ループ回路」が形成されると共に、後輪側において「アイドルループ回路」が形成されて前輪駆動方式となり、機体の走行速度が速くなる。一方、芝刈作業時には、第1及び第2の各手動切替バルブをいずれも開いて、当該第1及び第2の各手動切替バルブが組み込まれていない状態にすると、上記した理由によって、下り勾配の傾斜地において勾配に応じて全車輪駆動方式と前輪駆動方式とが自動的に切り替えられる。
【0017】
請求項4の発明は、請求項3の発明において、前記第1手動切替バルブは、開通路とチェックバルブとのいずれかが選択される構成であることを特徴としており、前記第1手動切替バルブは、チェックバルブを作用状態にすることにより主管路が閉じられるため、主管路を閉じた場合において第1手動切替バルブの部分からの油漏れが少なくなる利点がある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、1個の油圧ポンプにより全車輪に個別に設けられた各油圧モータを駆動する形式の乗用芝刈機において、傾斜地を下って芝刈作業を行う際に、下り勾配の変化に応じて、後輪の接地圧が小さくなって後輪に滑りが発生する直前の時点、及び後輪の接地圧の増大により前記滑りの発生がなくなった時点を基準にして、「全車輪駆動方式」と「前輪駆動方式」とが相互に自動的に切替えられるので、下り勾配の傾斜地における芝刈作業中に発生する前輪駆動方式による刈取長を可能な限り短くして刈取状態を良好にすることができ、しかも駆動方式の切替回数を少なくすると共に、切替え時において機体に作用する衝撃力を緩和して、上り下りの傾斜地における刈取作業をスムーズに行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、最良の実施形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。図1は、本発明に係る駆動方式自動切替機能を有する全車輪油圧駆動乗用芝刈機の油圧回路図である。最初に、従来の油圧回路C2 ,C3 との関係において本発明に係る油圧回路C1 の構成について説明し、その後に、平地又は傾斜地と機体の前進又は後進との組み合わせに関する芝刈機の種々の刈取状態における駆動方式について逐一説明する。なお、油圧回路C1 の説明に関して、従来の油圧回路C2 ,C3 と同一部分には、同一符号を使用する。
【0020】
本発明に係る油圧回路C1 は、従来の油圧回路C2 ,C3 と同様に、1個の油圧ポンプAの圧力の作用する主管路L0 に対して4本のモータ管路L1,L2,L3,L4 が並列に接続され、主管路L0 には1個の可逆性の油圧ポンプAが全体として1つの「駆動ループ回路」を形成するようにして組み込まれ、前輪用の2個の油圧モータMFと後輪用の2個の油圧モータMBからなる計4個の各油圧モータMF,MBは、それぞれ各モータ管路L1,L2,L3,L4 に組み込まれている。ループを形成する主管路L0 は、機体の前進時に油圧ポンプAから吐出されて各油圧モータMF,MBの流入口に圧油を流す第1主管路L01と、各油圧モータMF,MBの流出口から流出された圧油を油圧ポンプAの流入口に流す第2主管路L02とから成る。
【0021】
第2主管路L02における前輪用の2つの各モータ管路L1,L2 と後輪用の2つの各モータ管路L3,L4 を当該第2主管路L02を圧油が流れる方向に沿って二分する位置には、機体の前進時を基準にして後輪側の油圧モータMBから流出された圧油が前輪側の油圧ポンプAの側に向けての流れは許容するが、その逆の流れを阻止するチェックバルブV1 が組み込まれている。当該チェックバルブV1 は、傾斜地の下り勾配が大きくなった場合に、前輪側の各モータ管路L1,L2 に形成される「駆動ループ回路」とは別の「アイドルループ回路」を後輪側の各モータ管路L3,L4 に形成可能にするためのバルブである。また、ループを形成している主管路L0 における油圧ポンプAから吐出された圧油の流れる方向に沿って前輪用及び後輪用の各モータ管路L1,L2,L3,L4 を二分する部分であって、しかも機体の前進時において油圧ポンプAに向けて圧油が流れる第2主管路L02の前記チェックバルブV1 及び後述の第1手動切替バルブV4 よりも下流側の部分には、前記各モータ管路L1,L2,L3,L4 と並列に切替バルブ管路L5 が接続されて、当該切替バルブ管路L5 には、当該切替バルブ管路L5 を開閉する自動切替バルブV2 が組み込まれている。自動切替バルブV2 は、チェックバルブV1 で分断された第2主管路L02の当該チェックバルブV1 の両側の部分の各圧力P3 ,P4 をパイロット圧として作用させて、自身に備えた復帰スプリングSの復帰圧力Psと前記各圧力P3 ,P4 との関係によって、開通路1と閉通路2のいずれかを選択するバルブである。
【0022】
また、主管路L0 における前記チェックバルブV1 よりも後輪側の部分には、各モータ管路L1,L2,L3,L4 及び切替バルブ管路L5 に対して並列となってリリーフバルブ管路L6 が接続され、当該リリーフバルブ管路L6 にリリーフバルブV3 が組み込まれている。リリーフバルブV3 は、下り傾斜地において勾配が大きくなって後輪WBの保持圧が大きくなった場合に、第2主管路L02におけるチェックバルブV1 よりも後輪側の部分の圧力(保持圧)P3 と、第1主管路L01における後述の第1手動切替バルブV4 よりも後輪側の部分の圧力P2 との圧力差が設定値を超えた場合に開く定差式のリリーフバルブであって、当該バルブV3 が開く場合の前記圧力差を調整する調整スプリング3を備えている。
【0023】
また、本発明に係る油圧回路C1 には、「全車輪駆動方式」と「前輪駆動方式」とを手動により切り替えるための第1及び第2の各手動切替バルブV4 ,V5 が組み込まれている。第1手動切替バルブV4 は、第1主管路L01に組み込まれていて、機体の前進時において油圧ポンプAから吐出された圧油が後輪側に流れるのを阻止するチェックバルブ4と、同様の圧油が後輪側に流れるのを許容する開通路5とを備えていて、電磁力によりいずれか一方が選択される。また、第2手動切替バルブV5 は、「前輪駆動方式」の状態において、「アイドルループ回路」を形成している第2主管路L02のチェックバルブV1 よりも後輪側の部分の圧力P3 がパイロット圧として前記自動切替バルブV2 に作用するのを阻止すると共に、「全車輪駆動方式」の状態において、前記パイロット圧が自動切替バルブV2 に作用するように切り替えるためのバルブであって、タンク6に通じるドレン通路7と開通路8とを備えていて、電磁力によりいずれか一方が選択される。なお、図1においてP1 は、第1主管路L01における第1手動切替バルブV4 よりも前輪側の部分の圧力を示す。第1及び第2の各手動切替バルブV4 ,V5 については、前者のチェックバルブ4と後者のドレン通路7とが同時に「作用状態」になると共に、前者の開通路5と後者の開通路8とが同時に「作用状態」となる。更に、第1手動切替バルブV4 を構成するチェックバルブ4は、第1主管路L01を遮断する作用を果たすものであり、管路遮断時において油漏れが少ない利点があるが、一般の遮断弁(閉通路)で構成することも可能である。
【0024】
次に、図2ないし図10を参照にして、平地又は傾斜地と機体の前進又は後進との組み合わせに関する芝刈機の種々の走行状態で芝刈作業を行う場合における駆動方式について逐一説明する。なお、図2ないし図10において、油圧回路C1 の管路の各部分の圧力の大きさは、線の太さにより表示(区別)してあるが、この線の太さは、同一の図面における相対的な大きさの差を表示しているのみであって、他の図面との関係においては圧力の大きさの差は考慮しておらず、また前輪WF及び後輪WBは図示していない。
【0025】
〔前輪2輪駆動で平地を前進〕
図2は、平地において芝刈作業を行うことなく、前輪2輪駆動で前進走行する場合の油圧回路図である。この平地走行の場合には、第1手動切替バルブV4 のチェックバルブ4を「作用状態」にすると共に、第2手動切替バルブV5 のドレン通路7を「作用状態」にして、油圧ポンプAを駆動させる。この場合は、油圧ポンプAから吐出された圧油は、第1主管路L01において第1手動切替バルブV4 のチェックバルブ4で遮断されて、後輪用の各油圧モータMBの側には流れないと共に、前輪用の各油圧モータMFから流出された圧油は、第2主管路L02においてチェックバルブV1 により遮断されて、後輪側の各油圧モータMBの側には流れない。また、第2手動切替バルブV5 は、ドレン通路7が「作用状態」となっていて、第2主管路L02におけるチェックバルブV1 よりも前輪側の圧力P4 は、自動切替バルブV2 に対してパイロット圧として作用しているが、第2主管路L02におけるチェックバルブV1 よりも後輪側の圧力P3 は、自動切替バルブV2 に対してパイロット圧として作用していない。このため、(P3 >Ps)の関係が成立するため、自動切替バルブV2 は開通路1が「作用状態」となる。なお、第2主管路L02のチェックバルブV1 の部分においては、後輪側の圧力P3 は前輪側の圧力P4 よりも小さいので、チェックバルブV1 の部分では後輪側から前輪側には低圧油は流れない。
【0026】
この結果、前輪用の各油圧モータMFが組み込まれた各モータ管路L1 ,L2 と、圧力P1 ,P4 を発生する前輪側の主管路L0 との間において、各油圧モータMFにより各前輪WFが駆動される「駆動ループ回路」が形成されると共に、後輪用の各油圧モータMBが組み込まれた各モータ管路L3 ,L4 及び切替バルブ管路L5 と、圧力P2 ,P3 を発生する後輪側の主管路L0 との間において、従動回転する各後輪WBにより管路内の低圧油が循環させられる「アイドルループ回路」が形成されて、平地において前輪WFの2輪により機体が駆動されて前進走行する。なお、「アイドルループ回路」における後輪側の各油路モータMBの流入側及び流出側の各圧力P2 ,P3 は等しく、当該各圧力P2 ,P3 と、油圧ポンプAの吐出側、及び流入側の各圧油の圧力P1 ,P4 とは、(P1 >P4 >P2 =P3 )の関係にある。
【0027】
このように、芝刈作業を行うことなく、前輪2輪駆動で平地で前進する場合には、前輪側の主管路L0 にのみ「駆動ループ回路」が形成されて、後輪側の主管路L0 には「アイドルループ回路」が形成されるために、油圧ポンプAの回転数が同一の場合には、後述の4輪駆動に比較して、増速されるため、ゴルフ場等の芝生の部分まで走行する場合に、高速で移動できる。
【0028】
〔前輪2輪駆動で緩傾斜地を前進下り〕
図3は、芝刈作業を行うことなく、前輪2輪駆動で勾配αの緩傾斜地を前進で下る場合の油圧回路図である。勾配αの緩傾斜地において、前輪2輪駆動で前進して下る場合は、平地で前進走行する場合に比較して、前輪WFの接地圧P11が平地よりも大きくなるために、油圧ポンプAの流入側の圧力P4'が、平地における圧力P4 よりも僅かに大きい(P1 >P4'>P4 )点が異なるのみで、他は全て平地の場合と同様である。
【0029】
〔前輪2輪駆動で平地を後進〕
図4は、芝刈作業を行うことなく、前輪2輪駆動で平地を後進走行する場合の油圧回路図である。この後進走行においては、油圧ポンプAが逆回転するために、平地で前進走行する場合に比較して、「駆動ループ回路」内の圧油、及び「アイドルループ回路」内の低圧油がいずれもが逆方向に循環する点、及び「駆動ループ回路」において第2主管路L02内の圧油の圧力P4 が第1主管路L01内の圧油の圧力P1 よりも高い(P4 >P1 >P2 =P3 )点の2点が異なるのみである。
【0030】
〔前輪2輪駆動で緩傾斜地を後進下り〕
図5は、芝刈作業を行うことなく、前輪2輪駆動で勾配αの緩傾斜地を後進で下る場合の油圧回路図である。勾配αの緩傾斜地において、前輪2輪駆動により後進して走行する場合は、油圧ポンプAが逆回転するために、同様の緩傾斜地で前進して走行する場合に比較して、「駆動ループ回路」内の圧油、及び「アイドルループ回路」内の低圧油がいずれもが逆方向に循環する点、及び「駆動ループ回路」において第2主管路L02内の圧油の圧力P4 が第1主管路L01内の圧油の圧力P1'よりも高い(P4 >P1'>P2 =P3 )点の2点が異なるのみである。なお、前輪2輪駆動で緩傾斜地を下る場合は、平地で後進する場合に比較して前輪WFの接地圧が小さくなるので、「駆動ループ回路」の第1主管路L01内の圧油の圧力P1'は、平地を後進する場合における第1主管路L01内の圧油の圧力P1 よりも僅かに低い(P1'<P1 )。
【0031】
〔4輪駆動で平地を前進〕
図6は、4輪駆動で平地を前進して芝刈作業を行う場合の油圧回路図である。芝刈作業を行う場合には、第1手動切替バルブV4 の開通路5を「作用状態」にすると共に、第2手動切替バルブV5 の開通路8を「作用状態」にして、油圧ポンプAを駆動させる。この場合は、油圧ポンプAから吐出された圧油は、第1主管路L01において第1手動切替バルブV4 の開通路5を通過して、後輪用の各油圧モータMBの側に流れると共に、後輪用の各油圧モータMBから流出された圧油は、第2主管路L02においてチェックバルブV1 を通過して油圧ポンプAの側に流れる。また、第2手動切替バルブV5 は、開通路8が「作用状態」となっていて、第2主管路L02におけるチェックバルブV1 を挟んで両側の各圧力P3 ,P4 は等しくて、自動切替バルブV2 に対してパイロット圧として作用している。そして、第1主管路L01の各圧力P1 ,P2 、第2主管路L02の各圧力P3 ,P4 及び自動切替バルブV2 の復帰スプリングSの圧力Psとの間には、(P1 =P2 >P3 =P4 )、(P4 <P3 +Ps)の各関係が成立しているため、自動切替バルブV2 は閉通路2が「作用状態」となって、当該自動切替バルブV2 が閉じられる。
【0032】
このように、自動切替バルブV2 が閉じられると共に、第2主管路L02におけるチェックバルブV1 を挟んだ両側の部分の各圧力P3 ,P4 は等しくて、当該チェックバルブV1 は、後輪側から前輪側に向けての圧油の流れのみを許容するため、油圧ポンプAから吐出された圧油は、第1手動切替バルブV4 の前において各モータ管路L1 ,L2 を流れて前輪用の各油圧モータMFを駆動させると共に、第1手動切替バルブV4 を通過して各モータ管路L3 ,L4 を流れて後輪用の各油圧モータMBを駆動させ、後輪用の各油圧モータMBから流出した圧油は、チェックバルブV1 を通過して油圧ポンプAに戻される。このため、全体として一つの「駆動ループ回路」が形成されて、4輪駆動となる。4輪駆動であるため、油圧ポンプAの回転数が同一の場合には、前輪2輪駆動に比較して、機体は減速されて、機体は芝刈作業に適した低速度で走行する。
【0033】
〔4輪駆動で緩傾斜地を前進下り〕
図7は、4輪駆動で勾配αの緩傾斜地を前進で下って芝刈作業を行う場合の油圧回路図である。勾配αの緩傾斜地において、4輪駆動で前進して芝刈作業を行う場合は、平地で前進して芝刈作業を行う場合に比較して、前輪WFの接地圧P11が平地よりも大きくなるために、第2主管路L02の圧力P3', P4'が、平地における圧力P4 よりも僅かに大きい(P1 >P3'=P4'>P3 =P4 )点が異なるのみで、他は全て平地で芝刈作業を行う場合と同様である。なお、勾配αの緩傾斜地においては平地の場合と同様に、油圧ポンプAの吐出側の圧力P1 は流入側の圧力P4'よりも大きい状態を維持していて、油圧回路内には「保持圧」は発生していない。
【0034】
〔4輪駆動で急傾斜地を前進下り〕
図8−Aは、4輪駆動で勾配βの急傾斜地を前進で下って芝刈作業を行う場合において4輪駆動が維持されている状態の油圧回路図である。勾配αの緩傾斜地から勾配αよりも大きな勾配βの急傾斜地に移行して、4輪駆動で前進して急傾斜地を下って芝刈作業を行う場合は、前輪WFの接地圧P11と後輪WBの接地圧P12との差が大きくなると共に、自重(重力作用)により急傾斜面を下ろうとする作用が増大するために、油圧ポンプAの吐出側の圧力P1 と流入側の圧力P4 との関係が逆転して、流入側の圧力P4 が吐出側の圧力P1 よりも大きくなって、油圧回路内に「保持圧」が発生する。この「保持圧」が発生しても、第2主管路L02のチェックバルブV1 を挟んで両側の部分の各圧力P3 ,P4 が等しい関係は、「保持圧」の発生前と同様であるので、当該「保持圧」が小さい間は、チェックバルブV1 の部分を後輪側から前輪側に向けて「保持圧」の発生原因となっている高圧油が流れ続ける。
【0035】
そして、急傾斜地の勾配が更に大きくなって勾配γ(α<β<γ)に至ると、「保持圧」が更に大きくなって、チェックバルブV1 に作用している第2主管路L02の圧力P4 は更に大きくなり、リリーフバルブV3 に作用している第2主管路L02の圧力P3 と第1主管路L01の圧力P2 との差圧〔P3 −P2 (=P1 )〕が、当該リリーフバルブV3 が作動を開始する設定圧P10に達すると、当該リリーフバルブV3 が開かれる。図8−B及び図8−Cは、それぞれ4輪駆動で勾配γの急傾斜地を前進で下って芝刈作業を行う場合において4輪駆動から前輪2輪駆動に切り替えられる前後の各油圧回路図である。ここで、リリーフバルブV3 が作動を開始する「設定圧P10」は、急傾斜地の勾配が大きくなることにより、後輪WBの接地圧P12が小さくなって、当該後輪WBに「滑り」が発生する直前の第2主管路L02の圧力P3 (保持圧として後輪WBに作用する油圧力)と第1主管路L01の圧力P2 との差圧である。個々の乗用芝刈機において、予め後輪が「滑り」を開始する時点の傾斜地の勾配は、機体の重量、機体の重心位置、芝面に対する後輪の摩擦抵抗等の既知データにより予め判明しているので、前記「設定圧」は、個々の芝刈機に対応して設定可能であって、この「設定圧」は、リリーフバルブV3 の調整スプリング3により調整可能である。
【0036】
そして、リリーフバルブV3 が開いてリリーフバルブ管路L6 に第2主管路L02から第1主管路L01の側に向けて圧油が流れると、後輪側の第1主管路L01と第2主管路L02とが連通すると共に、チェックバルブV1 によって、前輪側の第2主管路L02の圧力P4 は高圧に保持されたままとなるので、「保持圧」を発生させていた後輪側の第2主管路L02の高圧の圧力P3 は、急激に低下して、後輪側の第1主管路L01の圧力P2 (当該圧力P2 は、前輪側の第1主管路L01の圧力P1 と等しい)と同等となる。このようにして、後輪側の第2主管路L02の圧力P3 が低下すると、自動切替バルブV2 にパイロット圧として作用するチェックバルブV1 を挟んで両側の第2主管路L02の各圧力P3 ,P4 の差が大きくなって、(P4 >P3 +Ps)の関係が成立するに至ると、自動切替バルブV2 の開通路1が「作用状態」となって、当該自動切替バルブV2 が開いて、「アイドルループ」が形成される〔図8−C参照〕。
【0037】
これにより、(P4 >P1 =P2 =P3 )の関係が成立して、図 8−Cに示されるように、前輪側の「駆動ループ回路」と後輪側の「アイドルループ回路」とが独立して形成され、傾斜地の勾配γが小さくなることによる後輪WBの接地圧の増大により「滑り」の発生の恐れがなくなる時点〔図14(ロ)参照〕まで、「駆動ループ回路」と「アイドルループ回路」とが併存して、「前輪2輪駆動」が維持される。一方、「前輪2輪駆動」の状態において、傾斜地の勾配が小さくなって前輪WFに作用する油圧力が保持圧から駆動圧に変化すると、〔P4 <Ps+P3 (=P2 =P1 )〕の関係が成立して、自動切替バルブV2 が閉じられる。これにより、チェックバルブV1 において後輪側から前輪側への圧油の流れが発生して、「4輪駆動」に戻る。
【0038】
このように、「4輪駆動」の状態で、後輪の「滑り」を発生させる大きな勾配を有する傾斜地を前進で下って芝刈作業を行う場合には、後輪に「滑り」が発生する直前において「4輪駆動」から「前輪2輪駆動」に自動的に切り替えられて、後輪側に「アイドルループ回路」が形成されるため、後輪WBは、急傾斜地を滑ることなく、小さくなった接地圧P12によって従動回転されて、「アイドルループ回路」内の低圧油を循環させると共に、「前輪2輪駆動」の状態において傾斜地の勾配が小さくなって、前輪WFに作用する油圧力が保持力から駆動力に変化すると、自動的に「4輪駆動」に戻される。後輪側に「アイドルループ」が形成された状態においては、後輪WFは、「滑り」を生ずることなく、接地圧P12により従動回転されるために操舵可能である。このため、後輪の「滑り」を発生させる大きな勾配を有する傾斜地を前進で下って芝刈作業を行う場合において、後輪に「滑り」を発生させる程度の大きな勾配の部分においてのみ「前輪2輪駆動」で運転されて、「滑り」の発生の恐れがない部分は全て「4輪駆動」で運転されるので、「4輪駆動」よりも走行速度が速くなる「前輪2輪駆動」で芝刈作業が行われる部分の長さを必要最少長さにすることができて、傾斜地の芝生を綺麗に刈り取ることができる(図15参照)。
【0039】
また、自動切替バルブV2 が開いて、後輪側に「アイドルループ回路」が形成されるのは、リリーフバルブV3 が開いた後において、自動切替バルブV2 に作用する前輪側のバイロット圧P4 と後輪側のパイロット圧P3 の差が一定圧以上に増大した後であって、リリーフバルブV3 が作動してから自動切替バルブV2 が作動するまでの間は、後輪WBの駆動力が短時間内において段階的に小さくなって「4輪駆動」から「前輪2輪駆動」に切り替えられ、急激に切り替えられるのではないため、駆動方式の切替え時における芝生の損傷を最小限に抑えることができる結果、傾斜地における芝生を綺麗に刈り取ることができると共に、駆動方式の切替え時において機体に作用する衝撃力は殆どなく、駆動方式の切替えがスムーズに行われるため、運転操作も楽になる。
【0040】
〔4輪駆動で傾斜地を後進上り〕
図9は、4輪駆動で勾配αの緩傾斜地を後進で上って芝刈作業を行う場合の油圧回路図である。この場合は、油圧ポンプAから吐出された圧油は、第2主管路L02に組み込まれたチェックバルブV1 によって後輪側の各油路モータMBが組み込まれた各モータ管路L3 ,L4 に供給されないので、必然的に前輪側に「駆動ループ回路」が形成されると共に、後輪側に「アイドルループ回路」が形成されて、結果的に「前輪2輪駆動」となる。なお、管路の各部分の圧力は、(P4 >P1 =P2 =P3 )の関係となる。
【0041】
〔4輪駆動で傾斜地を後進下り〕
図10は、4輪駆動で勾配αの緩傾斜地を後進で下って芝刈作業を行う場合の油圧回路図である。この場合も、4輪駆動で傾斜地を後進上りする場合と同様に、結果的に「前輪2輪駆動」となる点は同じであるが、4輪駆動で傾斜地を後進上りする場合に比較して、前輪WFの接地圧が小さくなる分、管路の各部分の圧力P1', P2', P3' は、(P4 >P1'=P2'=P3', P1'>P1 ,P2 >P2',P3 >P3')の関係が成立する。
【0042】
このように、油圧回路C1 を「4輪駆動」にした状態で、機体を後進させた場合は、平地を含めて傾斜地の勾配とは無関係に「前輪2輪駆動」となって、駆動方式の切替えの発生がなくなるため、機体の走行が安定する利点がある。
【0043】
また、請求項1の発明では、第1及び第2の手動切替バルブは不可欠ではないので、上記実施例の油圧回路C1 において第1及び第2の手動切替バルブV4 ,V5 を組み込まない回路は、常に「4輪駆動」となる。上記実施例の油圧回路C1 のように第1及び第2の手動切替バルブV4 ,V5 を組み込んだ回路では、「前輪2輪駆動」と「4輪駆動」とを手動により切り替えられるため、「前輪2輪駆動」の選択により、道路のような芝生面以外の部分を走行する場合に高速走行ができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る駆動方式自動切替機能を有する全車輪油圧駆動乗用芝刈機の油圧回路図である。
【図2】平地において芝刈作業を行うことなく、前輪2輪駆動で前進走行する場合の油圧回路図である。
【図3】芝刈作業を行うことなく、前輪2輪駆動で勾配αの緩傾斜地を前進で下る場合の油圧回路図である。
【図4】芝刈作業を行うことなく、前輪2輪駆動で平地を後進走行する場合の油圧回路図である。
【図5】芝刈作業を行うことなく、前輪2輪駆動で勾配αの緩傾斜地を後進で下る場合の油圧回路図である。
【図6】4輪駆動で平地を前進して芝刈作業を行う場合の油圧回路図である。
【図7】4輪駆動で勾配αの緩傾斜地を前進で下って芝刈作業を行う場合の油圧回路図である。
【図8−A】4輪駆動で勾配βの急傾斜地を前進で下って芝刈作業を行う場合において4輪駆動が維持されている状態の油圧回路図である。
【図8−B】4輪駆動で勾配γの急傾斜地を前進で下って芝刈作業を行う場合において前輪2輪駆動に切り替えられる直前の油圧回路図である。
【図8−C】4輪駆動で勾配γの急傾斜地を前進で下って芝刈作業を行う場合において前輪2輪駆動に切り替えられた後の油圧回路図である。
【図9】4輪駆動で勾配αの緩傾斜地を後進で上って芝刈作業を行う場合の油圧回路図である。
【図10】4輪駆動で勾配αの緩傾斜地を後進で下って芝刈作業を行う場合の油圧回路図である。
【図11】4輪構造の全車輪油圧駆動の乗用芝刈機の従来の油圧回路C2 を示す図である。
【図12】(イ),(ロ)は、それぞれ4輪構造の全車輪油圧駆動の乗用芝刈機の「全車輪駆動方式」及び「前輪駆動方式」における油圧回路C3 を示す図である。
【図13】傾斜地を前進で下って芝刈作業を行う場合の前輪WF及び後輪WBの各接地圧P11,P12を示す図である。
【図14】(イ),(ロ)は、それぞれ傾斜地の勾配に対する機体の前輪及び後輪の接地圧と保持圧の関係を示すグラフである。
【図15】本発明に係る油圧回路C1 及び従来の油圧回路を備えた各芝刈機によって傾斜地を前進で下って芝刈作業を行う場合の「4輪駆動」と「前輪2輪駆動」との各部分を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
A:油圧ポンプ
1 :油圧回路
0 :主管路
01:第1主管路
02:第2主管路
1 〜L4 :モータ管路
5 :切替バルブ管路
6 :リリーフバルブ管路
MF:前輪用の油圧モータ
MB:後輪用の油圧モータ
1 :前輪側の第1主管路の圧力
2 :後輪側の第1主管路の圧力
3 :後輪側の第2主管路の圧力
4 :前輪側の第2主管路の圧力
1 :チェックバルブ
2 :自動切替バルブ
3 :リリーフバルブ
4 :第1手動切替バルブ
5 :第2手動切替バルブ
WF:前輪
WB:後輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主管路に対して車輪数と同数のモータ管路が並列に接続され、各モータ管路には、前輪用と後輪用の各油圧モータが前記主管路において圧油が流れる方向に沿って二分された形態でそれぞれ組み込まれて、前記主管路における1つの駆動ループ管路が形成可能な位置に組み込まれた一個の油圧ポンプにより、各車輪に設けられた各油圧モータをそれぞれ個別に駆動する形式の全車輪油圧駆動乗用芝刈機であって、
前記主管路における車両後進時に油圧ポンプから吐出された圧油が流れる部分であって、しかも前輪用と後輪用の各モータ管路を二分する位置に組み込まれて、後輪側から前輪側に向けての圧油の流れのみを許容するチェックバルブと、
前記主管路における油圧ポンプから吐出された圧油が流れる方向に沿って前輪用及び後輪用の各モータ管路を二分し、しかも前記チェックバルブよりも後輪側の位置に、各モータ管路と並列に接続した切替バルブ管路に組み込まれて、前記チェックバルブを挟んでその両側の部分から取り出された各パイロット圧により開閉する自動切替バルブと、
前記主管路における前記チェックバルブを基準にして後輪側の部分に前記各モータ管路及び切替バルブ管路に対して並列に接続したリリーフバルブ管路に組み込まれるリリーフバルブとを備え、
傾斜地を下って芝刈作業を行う際に、前記チェックバルブにより前輪の保持圧と遮断された後輪の保持圧と、低下した後輪の接地圧との相乗作用により当該後輪が滑りを開始する直前において前記リリーフバルブを開いて、当該後輪の保持圧を開放すると共に、当該開放直後において前記自動切替バルブに作用する前輪側及び後輪側の各パイロット圧の差の増大により当該自動切替バルブが開かれることにより、後輪側において低圧油のアイドルループ回路が形成されて、全車輪駆動方式から前輪駆動方式に自動的に切り替えられるように構成したことを特徴とする全車輪油圧駆動乗用芝刈機。
【請求項2】
車両後進時には、チェックバルブの作用により常に前輪駆動方式であることを特徴とする請求項1に記載の全車輪油圧駆動乗用芝刈機。
【請求項3】
前記主管路における車両前進時に油圧ポンプから吐出された圧油が流れる部分であって、しかも前輪用と後輪用の各モータ管路を二分する位置に組み込まれる第1手動切替バルブと、
前記主管路における前記チェックバルブを基準にして後輪側の部分の圧力をパイロット圧として前記自動切替バルブに対する伝達したり、その遮断を行う第2手動切替バルブと、
を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の全車輪油圧駆動乗用芝刈機。
【請求項4】
前記第1手動切替バルブは、開通路とチェックバルブとのいずれかが選択される構成であることを特徴とする請求項3に記載の全車輪油圧駆動乗用芝刈機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8−A】
image rotate

【図8−B】
image rotate

【図8−C】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2008−221861(P2008−221861A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58286(P2007−58286)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(591187841)株式会社共栄社 (13)
【出願人】(505476803)金馬電航株式会社 (2)
【Fターム(参考)】