説明

全輪操舵用ステアリング装置

【目的】 本発明は、全輪操舵においてスリップアングルを零とする全輪操舵用ステアリング装置を提供することを目的としている。
【構成】 タイロッドアーム(15)と一体のナックルがキングピン(18)わりに回転自在に取付けられ、そのナックルに左右の車輪(64、63)が回転自在に取付けられ、両タイロッドアーム(15)がタイロッド(1、1a)で連結されている全輪操舵用ステアリング装置において、各タイロッド(1、1a)を2分割して第1の部分(2)と第2の部分(3)とで構成し、第1の部分(2) と第2の部分(3)とを軸線方向に摺動可能な連結手段で連結している。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、タイロッドアームと一体のナックルがキングピンまわりに回転自在に取付けられ、そのナックルに左右の車輪が回転自在に取付けられ、両タイロッドアームがタイロッドで連結されている全輪操舵用ステアリング装置に関する。
【0002】
【従来の技術と問題点】すべての車軸がリジッドアクスルで、全輪操舵ができるステアリング装置は知られている。
【0003】そして、従来は全輪操舵車において左右輪の操舵角を調整する操舵角調整装置とその制御装置とはないので、例えば図3を参照して、低速域で同相操舵を精度よく行うためには、キングピン18、18を結ぶ線と左右のタイロッドアーム15、15とこれらを連結するタイロッド11からなるリンク系を平行リンクとすることが必要である。すなわち、舵角αR=αL=βR=βLとなる。
【0004】しかしながら、この平行リンクでは図4に示すように逆相操舵を行う場合には、各輪のセンタは前輪同志、後輪同志がそれぞれ平行となり、旋回中心は一致せず、車両は旋回中心Cを中心として旋回するのでタイヤには大きなスリップアングルが生じ、タイヤの偏磨耗の原因となっていた。
【0005】また、逆相時に、タイヤにスリップアングルが生じないように図5に示すように、キングピン間隔lkより短いタイロッド間隔ltを有するタイロッド12、12aとすると、図6に示すように、同相操舵で左右輪の操舵角が異なるのでタイヤには大きなスリップアングルが発生し、タイヤの偏磨耗の原因となっていた。 この場合、αR<αL、βR<βLとなる。
【0006】
【知見】上述の検討結果、タイロッドの長さを伸縮すれば、同相操舵、逆相操舵のいずれの場合においても、スリップアングルの少ない全輪操舵装置とする事が可能であることが分かった。
【0007】したがって、本発明は、全輪操舵においてスリップアングルを零とする全輪操舵用ステアリング装置を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、タイロッドアームと一体のナックルがキングピンまわりに回転自在に取付けられ、そのナックルに左右の車輪が回転自在に取付けられ、両タイロッドアームがタイロッドで連結されている全輪操舵用ステアリング装置において、各タイロッドを2分割して第1の部分と第2の部分とで構成し、第1の部分と第2の部分とを軸線方向に摺動可能な連結手段で連結している。
【0009】また、前記連結手段は、前記タイロッドの第1の部分に雄ねじを設け、その雄ねじと螺合する雌ねじを有するスライダを設け、そのスライダをスライダハウジングに回転自在に取付け、そして、前記スライダの外周にギヤを設け、そのギヤに噛合うピニオンを有するステッピングモータを備え、そのステッピングモータは前記スライダハウジングに取付けて構成されている。
【0010】そして、前記ステッピングモータを制御するコントローラを設け、そのコントローラは各車輪の転舵角を検出する舵角センサからの信号により、2輪操舵の場合は、左右の車輪センタ延長線と後車輪の軸線とが一致するようにタイロッドアームの初期角が定められ、全輪操舵逆相の時は、車両の重心点から車両のセンタに対して直行する軸と各前後左右の車輪のセンタの延長線とが一致するようにタイロッドアームの初期角が定められ、全輪操舵同相の時は、すべての車輪を平行にするようにタイロッドアームの初期角を定める機能を有している。
【0011】
【作用効果の説明】本発明は上記のように構成されているので、2輪操舵(2WS)の場合、コントローラからの信号により、左右の前車輪センタ延長線が後車輪の軸線と一点で交差するようタイロッドアームの初期角を定め、第1の部分と第2の部分とで構成されたタイロッドの長さが連結手段で定められ、一般の2WSの車両と同様に作動する。
【0012】また、全輪操舵同相モードの場合、左右の前輪は舵角センサにより、例えば右輪舵角を検出し、コントローラはタイロッドアームの初期角を定め、左輪の舵角を演算し、制御信号が連結手段に送られ、連結手段のステッピングモータ、ピニオンによりスライダを駆動して左輪が演算した舵角(右輪と同じ)になるまで第1の部分と第2の部分とで構成されたタイロッドが伸長される。
【0013】また、前・後輪の関係は従来技術のモード切換装置により前・後右輪は同方向に同じ舵角だけ操舵される。そして、左右の後輪は、前輪の場合と同様に、右輪の舵角を検出し、制御信号が連結手段に送られて、後軸の左右両輪の舵角が等しくなるまでタイロッドが伸長される。
【0014】また、全輪操舵逆相モードの場合は、舵角センサにより右前輪の舵角を検出し、コントローラはタイロッドアームの初期角を定め、前左輪の舵角を演算し、制御信号が連結手段に送られ、連結手段のステッピングモータ、ピニオンによりスライダを駆動して左輪が演算した舵角になるまで第1の部分と第2の部分とで構成されたタイロッドが短縮される。
【0015】この場合、コントローラは車両の重心点から車両のセンタに直行する軸上の一点に、前後左右の各輪の瞬間旋回中心が一致するよう制御する機能を有している。 前後輪の関係は従来技術のモード切換装置により後輪は逆向きとなるように操舵され、前記と同様にコントローラからの信号によりタイロッドの長さが制御される。
【0016】したがって、すべての場合にタイヤのスリップアングルは零となるよう制御される。
【0017】
【実施例】以下、図面を参照して、本発明の実施例を説明する。
【0018】図1は4輪操舵(4WS)ステアリング装置における逆相モードの例を示し(平面図)、右前輪63と左前輪64とはそれぞれキングピン18、18で図示しないフロントアクスルにタイロッドアーム15、15と一体に構成されたナックルを介して回動自在に取付けられ、そのタイロッドアーム15、15はタイロッド1で連結され、そのタイロッド1は後述する連結手段を有している。
【0019】また、ナックルにはステアリングアーム58が固着され、そのステアリングアーム58はドラグリンク56を介して、ステアリングギヤボックス52のピットマンアーム54に連結され、そのギヤボックス52にはステアリングホイール50が取付けられている。そして、ステアリングアーム58には従来技術であるモード切換装置40のリレーリンク60が連結され、右後輪65のステアリングアーム58aにはリレーリンク60aがパワシリンダ62を介して連結されている。 さらに、前輪と同様に、後輪のタイロッドアーム15a、15aはタイロッド1aで連結されている。
【0020】図2は前記タイロッド1および1aの連結手段を示し、第1の部分2には雄ねじ2aが設けられ、その雄ねじ2aにはスライダ5の一端に設けられた雌ねじ5aが螺合され、その外周はラジアルスラストベアリング8を介してスライダハウジング4に回転自在に支持されると共に位置決めされ、スライダ5の他端にはギヤ5bが設けられ、その端部はベアリング9を介してハウジングリテーナ4aで軸支され、第1の部分2の端部は前記ギヤ5bの内周に設けられたブッシュ5cで支持されている。
【0021】そして、ハウジングリテーナ4aの端部には雌ねじを有する突出部4bが設けられ、タイロッドの第2の部分3の一端が螺合され、孔4cに設けられたロックボルトで固定され、ハウジングリテーナ4aには前記ギヤ5bと噛合うピニオン6が取付けられたステッピングモータ7が取付けられている。
【0022】また、図1をも参照して、そのステッピングモータ7は電気回路で前記コントローラ30に接続され、そのコントローラ30は電気回路で舵角センサ20、モード切換装置40、後輪のタイロッド1aのステッピングモータ7にそれぞれ接続されている。
【0023】なお、符号2bはラバーブーツを示している。
【0024】したがって、まずコントローラ30で逆相モードにセットしてモード切換装置40に信号を送り、パワシリンダ62のロッドを引込んで逆相にし、右前輪に設けられた舵角センサ20からの信号によりコントローラ30は左前輪の舵角を演算し、タイロッド1の連結手段のステッピングモータ7に信号を送って左前輪が旋回中心Cを向くようにタイロッド1の長さを合わせ、次いで、左後輪が旋回中心Cに向くようにタイロッド1aの連結手段のステッピングモータ7に信号を送りタイロッド1aの長さを合わせる。
【0025】この場合、右前輪の舵角をαR、左前輪の舵角をαL、右後輪の舵角をβR、左後輪の舵角をβLとするとαR<αL、βR<βLの関係となる。
【0026】よって、タイヤにはスリップアングルが生ずることはなく、偏磨耗が発生しない。
【0027】4WSの同相操舵時には、モード切換装置は同相操舵にセットされ、右前輪の舵角を舵角センサ20で検出し、全ての車輪の舵角が等しくなるようにコントローラ30から信号を送り、前後のタイロッドの長さを連結手段で調整する。この場合はαR=αL=βR=βLとなりタイヤにスリップアングルは生じない(図3R>3)。
【0028】
【発明の効果】本発明は、上記のように構成されているので、以下の優れた効果を奏する。
【0029】(1) 4WSで逆相操舵の場合は、車両の重心から車両のセンタに直角な線上の一点に4輪のセンタの延長線が一致するので、タイヤのスリップアングルは生じない。
【0030】(2) 4WSで同相操舵の場合は、4輪が同方向に同一舵角で操舵されるのでタイヤのスリップアングルは生じない。
【0031】(3) 2WSの場合は、一般の2WSの車両と同様に後輪の軸線上の一点に左右前輪のセンタの延長が一致するよう制御される。
【0032】(4) したがって、タイヤが偏磨耗する事がない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す4WS装置(逆相モード時)の全体構成平面図。
【図2】図1の連結手段を示す側断面図
【図3】従来技術の同相操舵を重視した例を示す図。
【図4】図3に示す従来技術の逆相操舵時の状態を示す図。
【図5】従来技術の逆相操舵を重視した例を示す図。
【図6】図5に示す従来技術の同相操舵時の状態を示す図。
【符号の説明】
1、1a…タイロッド
2…第1の部分
2a…雄ねじ
3…第2の部分
4…スライダハウジング
4a…ハウジングリテーナ
5…スライダ
5a…雌ねじ
5b…ギヤ
6…ピニオン
7…ステッピングモータ
8…ラジアルスラストベアリング
9…ベアリング
15、15a…タイロッドアーム
20…舵角センサ
30…コントローラ
40…モード切換装置
52…ステアリングギヤボックス
54…ピットマンアーム
56…ドラグリンク
58…ステアリングアーム
60、60a…リレーリンク
62…パワシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 タイロッドアームと一体のナックルがキングピンまわりに回転自在に取付けられ、そのナックルに左右の車輪が回転自在に取付けられ、両タイロッドアームがタイロッドで連結されている全輪操舵用ステアリング装置において、各タイロッドを2分割して第1の部分と第2の部分とで構成し、第1の部分と第2の部分とを軸線方向に摺動可能な連結手段で連結したことを特徴とする全輪操舵用ステアリング装置。
【請求項2】 前記連結手段は、前記タイロッドの第1の部分に雄ねじを設け、その雄ねじと螺合する雌ねじを有するスライダを設け、そのスライダをスライダハウジングに回転自在に取付け、そして、前記スライダの外周にギヤを設け、そのギヤに噛合うピニオンを有するステッピングモータを備え、そのステッピングモータは前記スライダハウジングに取付けて構成された請求項1に記載の全輪操舵用ステアリング装置。
【請求項3】 前記ステッピングモータを制御するコントローラを設け、そのコントローラは各車輪の転舵角を検出する舵角センサからの信号により、2輪操舵の場合は、左右の車輪センタ延長線と後車輪の軸線とが一致するようにタイロッドアームの初期角が定められ、全輪操舵逆相の時は、車両の重心点から車両のセンタに対して直行する軸と各前後左右の車輪のセンタの延長線とが一致するようにタイロッドアームの初期角が定められ、全輪操舵同相の時は、すべての車輪を平行にするようにタイロッドアームの初期角を定める機能を有する請求項1に記載の全輪操舵用ステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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