説明

内燃機関の燃焼室構造

【課題】 内燃機関の燃焼室構造において、上死点付近で点火プラグ近傍に可燃性ガスの乱れ(渦流)を集中させる。
【解決手段】 燃焼室8の上面を画成するべく、シリンダヘッド3の下面4に設けられた燃焼室壁面7を有し、燃焼室壁面に、その中央部に開口する点火プラグ挿入孔11と、点火プラグ挿入孔の周囲に配置された2つの吸気ポート12、13及び2つの排気ポート14、15とが設けられた内燃機関1の燃焼室構造であって、燃焼室壁面において点火プラグ挿入孔の外周に設けられた点火プラグ領域35及び各ポートの外周に設けられた各ポート領域36、37、38、39が、互いに稜部41〜48により区画された、それぞれ互いに独立した凹面をなすようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼室構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の内燃機関において、シリンダヘッドの下面に燃焼室の上部となる燃焼室壁面を凹設し、2つの吸気ポートと、2つの排気ポートと、点火プラグを挿入するための点火プラグ挿入孔とを燃焼室壁面に開口させたものがある。このような燃焼室では、燃焼室壁面の中央部に点火プラグ挿入孔を配置し、点火プラグ挿入孔の回りに2つの吸気ポートが互いに隣り合い、2つの排気ポートが互いに隣り合う態様で配置されている。このような燃焼室において、吸気ポートから流入する可燃性ガスを点火プラグ付近に導くべく、タンブル流の発生を促進するために、吸気ポートの燃焼室への開口端の周縁部を、円錐面に形成したものがある(例えば、特許文献1)。吸気ポートの開口端周縁部を円錐面にすることによって、吸気ポートと吸気バルブとの隙間から燃焼室に流入する可燃性ガスは円錐面に沿ってピストン側へと円滑に流れるため、タンブル流が促進される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−215921号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上死点付近においては、可燃性ガスは圧縮され、タンブル流が崩壊する。可燃性ガスの着火性及び燃焼効率を高めるためには、上死点付近において、点火プラグ周りで可燃性ガスの乱れ(乱流強度)を高めるとよい。すなわち、点火プラグ近傍に可燃性ガスの乱れを集中させるようにするとよい。
【0005】
本発明は、以上の背景を鑑みてなされたものであって、内燃機関の燃焼室構造において、上死点付近で点火プラグ近傍に可燃性ガスの乱れ(渦流)を集中させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、燃焼室(8)の上面を画成するべく、シリンダヘッド(3)の下面(4)に設けられた燃焼室壁面(7)を有し、前記燃焼室壁面に、その中央部に開口する点火プラグ挿入孔(11)と、前記点火プラグ挿入孔の周囲に配置された2つの吸気ポート(12、13)及び2つの排気ポート(14、15)とが設けられた内燃機関(1)の燃焼室構造であって、前記燃焼室壁面において前記点火プラグ挿入孔の外周に設けられた点火プラグ領域(35)及び前記各ポートの外周に設けられた各ポート領域(36、37、38、39)が、互いに稜部(41〜48)により区画された、それぞれ互いに独立した凹面をなすことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、点火プラグ領域が燃焼室壁面の中央部に配置され、凹面を形成しているため、上死点付近において、可燃性ガスが点火プラグ領域に集中し、圧縮されて渦流(乱れ)が発生する。そのため、着火性及び燃焼効率が向上する。
【0008】
本発明の他の側面は、前記点火プラグ領域は、球面状の凹面に形成されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、上死点付近において、点火プラグ領域で可燃性ガスによる渦流の発生が促進される。
【0010】
本発明の他の側面は、前記ポート領域間の前記稜部の少なくとも1つは、その先端の曲率半径が3mm以下であることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、稜部が急峻となり、ガスの流れを阻害し易くなる。そのため、吸気ポートから排気ポートへの可燃性ガスの吹き抜けが抑制される。
【0012】
本発明の他の側面は、前記各ポート領域は、少なくとも前記各ポートの近傍が、120°以下の円錐角を有する円錐面からなる凹面に形成されていることを特徴とする。ここで、円錐角とは、円錐をその中心軸を通る平面で切断した際に、断面に現れる円錐の2つの母線がなす角度をいう。
【0013】
この構成によれば、各ポートの開口端周縁部の広がりが小さくなるため、各ポートに対応するガスの流れは、広がりが抑えられ、互いに干渉し難くなる。また、吸気ポートにおいては、燃焼室に流入するガスの方向を一の方向に絞ることができ、タンブル流の発生を促進することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上の構成によれば、内燃機関の燃焼室構造において、上死点付近で点火プラグ近傍に可燃性ガスの乱れを集中させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】シリンダヘッドの燃焼室を拡大して示す断面図
【図2】燃焼室を下方から見た斜視図
【図3】燃焼室を下方から見た平面図
【図4】図3のIV−IV断面図
【図5】図3のV-V断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明を自動車のエンジンに適用した実施形態について詳細に説明する。本実施形態に係るエンジン1は、4バルブDOHC型のエンジンである。図1に示すように、エンジン1は、シリンダブロック2とシリンダブロック2に締結されたシリンダヘッド3とを有している。以下の説明では図1に示すように、シリンダブロック2に対してシリンダヘッド3が設けられた側を上方とする。
【0017】
シリンダヘッド3は、その下部に、シリンダブロック2の上端面に接合する平面状の下端面4を有している。シリンダブロック2には、図示しないピストンを上下動可能に収容するシリンダ5が形成されている。シリンダ5は、上下方向に延在し、シリンダブロック2の上端面に開口している。シリンダヘッド3のシリンダ5に対応する部分には、上方へと略半球状に凹んだ燃焼室壁面7が形成されている。燃焼室壁面7は、シリンダ5及びピストンと協働して燃焼室8を画成する。すなわち、燃焼室壁面7は、燃焼室8の上面を構成する。
【0018】
図2及び図3に示すように、燃焼室壁面7の中央部、すなわち燃焼室壁面7が形成する凹部の最深部(最底部)には、点火プラグ(図示しない)を挿入するための点火プラグ挿入孔11が形成されている。点火プラグ挿入孔11の周囲には、第1吸気ポート12、第2吸気ポート13、第1排気ポート14及び第2排気ポート15が、点火プラグ挿入孔11を中心として概ね90°間隔で、点火プラグ挿入孔11を囲むように形成されている。第1吸気ポート12と第2吸気ポート13とが互いに隣り合い、第1排気ポート14と第2排気ポート15とが互いに隣り合っている。点火プラグ挿入孔11を基準として、第1及び第2吸気ポート12、13が配置された側を吸気側、第1及び第2排気ポート14、15が配置された側を排気側とする。
【0019】
図1に示すように、燃焼室壁面7の各ポート12〜15の開口端には、環状のバルブシート16〜19が埋め込まれている。バルブシート16〜19の内周面は、燃焼室8側が広がった円錐面状のテーパ面21〜24となっており、このテーパ面21〜24にポペットバルブである吸気バルブ又は排気バルブ(図示しない)が着座し、各ポート12〜15が開閉される。
【0020】
各吸気ポート12、13は、燃焼室壁面7への開口端から上方へと延びた後、屈曲して吸気側へと延びてシリンダヘッド3の側面に開口している。各吸気ポート12,13には、吸気バルブのステム部が通過する吸気バルブガイド26が嵌め込まれた吸気バルブ孔27が形成されている。本実施形態のエンジン1では、燃焼噴射装置(図示しない)は、吸気ポート12、13に設けられ、吸気ポート12、13内において燃料が噴射され、空気と混合される。各排気ポート14、15は、燃焼室壁面7への開口端から上方へと延びた後、屈曲して排気側へと延びてシリンダヘッド3の側面に開口している。各排気ポート14,15には、排気バルブのステム部が通過する排気バルブガイド28が嵌め込まれた排気バルブ孔29が形成されている。シリンダヘッド3の各ポート12〜15の周囲の適所には、冷却水通路31が形成されている。
【0021】
図2及び図3に示すように、燃焼室壁面7は、点火プラグ挿入孔11の開口端の周囲に形成された点火プラグ領域35と、第1吸気ポート12の開口端(バルブシート16)の周囲に形成された第1吸気ポート領域36と、第2吸気ポート13の開口端(バルブシート17)の周囲に形成された第2吸気ポート領域37と、第1排気ポート14の開口端(バルブシート18)の周囲に形成された第1排気ポート領域38と、第2排気ポート15の開口端(バルブシート19)の周囲に形成された第2排気ポート領域39との5つの領域に区画されている。各領域35〜39は、それぞれ互いに独立した凹面に形成されている。各領域35〜39が互いに独立した凹面となっているため、各領域35〜39の各境界に沿ってそれぞれ稜部41〜48が形成されている。
【0022】
点火プラグ領域35は、第1吸気ポート領域36との境界に第1稜部41を有し、第2吸気ポート領域37との境界に第2稜部42を有し、第2排気ポート領域39との境界に第3稜部43を有し、第1排気ポート領域38との境界に第4稜部44を有している。第1〜第4稜部41〜44は、連続して環状をなし、点火プラグ領域35を囲んでいる。
【0023】
第1吸気ポート領域36と第2吸気ポート領域37との境界には第5稜部45が形成されている。第5稜部45は、一端が第1稜部41と第2稜部42との交点に連続し、吸気側へと延びて他端が燃焼室壁面7の周縁に連続している。
【0024】
第2吸気ポート領域37と第2排気ポート領域39との境界には第6稜部46が形成されている。第6稜部46は、一端が第2稜部42と第3稜部43との交点に連続し、吸気−排気方向と直交する方向へと延びて他端が燃焼室壁面7の周縁に連続している。
【0025】
第2排気ポート領域39と第1排気ポート領域38との境界には第7稜部47が形成されている。第7稜部47は、一端が第3稜部43と第4稜部44との交点に連続し、排気側へと延びて他端が燃焼室壁面7の周縁に連続している。
【0026】
第1排気ポート領域38と第1吸気ポート領域36との境界には第8稜部48が形成されている。第8稜部48は、一端が第4稜部44と第1稜部41との交点に連続し、吸気−排気方向と直交する方向へと延びて他端が燃焼室壁面7の周縁に連続している。
【0027】
点火プラグ領域35は、1つの連続した球面に形成されている。点火プラグ挿入孔11には、点火プラグ(図示しない)がその先端に設けられた接地電極が点火プラグ挿入孔の開口端が突出する形で挿入され、固定される。すなわち、接地電極は燃焼室8内に位置している。
【0028】
図1に示すように、第1吸気ポート領域36は、第1吸気ポート12の燃焼室壁面7への開口端(バルブシート16)近傍が円錐面(円錐台面)に形成されている。円錐面は、その中心軸線が、第1吸気ポート12の燃焼室壁面7への開口端(バルブシート16)の軸線Aと一致するように配置されており、その円錐角θ1が120°以下となるように設定されている。換言すると、軸線Aを含む平面で切断した際の断面において、円錐面の母線と軸線Aとのなす角(θ1/2)が60°以下となるように設定されている。第1吸気ポート領域36を構成する面は、バルブシート16から離れるに従って、軸線Aを含む平面で切断した際の断面で見て、軸線Aとのなす角度が漸減するように湾曲した曲面となっている。
【0029】
図4に示すように、第2吸気ポート領域37は、第1吸気ポート領域36と同様に、第2吸気ポート13の燃焼室壁面7への開口端(バルブシート17)近傍が円錐面に形成され、その円錐角θ2が120°以下となっている。第2吸気ポート領域37を構成する面は、バルブシート17から離れるに従って、バルブシート17の軸線Bを含む平面で切断した際の断面で見て、軸線Bとのなす角度が漸減するように湾曲した曲面となっている。
【0030】
図1に示すように、第1排気ポート領域38は、第1吸気ポート領域36と同様に、第1排気ポート14の燃焼室壁面7への開口端(バルブシート18)近傍が円錐面に形成され、その円錐角θ3が120°以下となっている。第1排気ポート領域38を構成する面は、バルブシート18から離れるに従って、バルブシート18の軸線Cを含む平面で切断した際の断面で見て、軸線Cとのなす角度が漸減するように湾曲した曲面となっている。第2排気ポート領域39は、図示しないが、第1排気ポート領域38と対称形をなしている。
【0031】
第5〜第8稜部45〜48は、その突出端の曲率半径が3mm以下となるように、設定されている。
【0032】
以上のように構成したエンジン1では、図5に示すように、点火プラグ領域35を他の領域36〜39とは区画された球状の凹面に形成したことによって、圧縮行程において、可燃性ガスが点火プラグ領域35に集中し易くなり、上死点付近において、圧縮によって発生する可燃性ガスの乱流(渦流)が点火プラグ領域35に集中する。そのため、着火性が向上し、燃焼効率が向上する。
【0033】
また、各吸気ポート領域36、37を、円錐面を含む凹面に形成したため、可燃性ガスを各吸気ポート領域36、37の壁面に沿って下方、すなわちピストン側に導くことができるため、タンブル流を促進することができる。
【0034】
また、各排気ポート領域38、39を凹面に形成し、各吸気ポート領域36、37と各排気ポート領域38、39の境界に下方に向けて突出する第6稜部46及び第8稜部48を形成したため、各吸気ポート12、13から各排気ポート14、15へと直接に流れる吹き抜けを抑制することができる。特に、第6稜部46及び第8稜部48の曲率半径が3mm以下となるように、各稜部46、48の先端を急峻としたため、吹き抜けを確実に抑制することができる。各稜部46、48の先端は、急峻である程、吹き抜けを抑制する効果が大きくなることが期待される。しかしながら、各稜部46、48を急峻にした場合には、金属摩耗により形状の劣化(鈍化)が発生し易くなり形状を安定させることが困難になる。シリンダヘッド3をアルミニウム合金の鋳造によって成形した場合には、鋳型との金属摩耗等によって稜部46,48の形状がばらつく虞がある。そのため、本実施形態では、曲率半径を3mm以下として、吹き抜けを確実に抑制しつつ、品質の均質化を図っている。
【0035】
両吸気ポート領域36、37と点火プラグ領域35との間に第1及び第2稜部41、42を配置し、かつ点火プラグ領域35を凹面としたため、図5に示すように、点火プラグが燃焼室壁面7の上方へと奥まった部分に配置される。そのため、両吸気ポート領域36、37の壁面に付着した燃料液体が、壁面を伝って点火プラグへと到達することが困難になる。これにより、点火プラグの着火性能が安定する。
【0036】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、各ポート領域36〜39を、それぞれ球面に形成してもよい。また、点火プラグ領域35を円錐面にしてもよい。その他、実施形態では4バルブの燃焼室8としたが、5バルブにしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1…エンジン、3…シリンダヘッド、4…下端面、7…燃焼室壁面、8…燃焼室、11…点火プラグ挿入孔、12…第1吸気ポート、13…第2吸気ポート、14…第1排気ポート、15…第2排気ポート、16〜19…バルブシート、35…点火プラグ領域、36…第1吸気ポート領域、37…第2吸気ポート領域、38…第1排気ポート領域、39…第2排気ポート領域、41…第1稜部、42…第2稜部、43…第3稜部、44…第4稜部、45…第5稜部、46…第6稜部、47…第7稜部、48…第8稜部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室の上面を画成するべく、シリンダヘッドの下面に設けられた燃焼室壁面を有し、前記燃焼室壁面に、その中央部に開口する点火プラグ挿入孔と、前記点火プラグ挿入孔の周囲に配置された2つの吸気ポート及び2つの排気ポートとが設けられた内燃機関の燃焼室構造であって、
前記燃焼室壁面において前記点火プラグ挿入孔の外周に設けられた点火プラグ領域及び前記各ポートの外周に設けられた各ポート領域が、互いに稜部により区画された、それぞれ互いに独立した凹面をなすことを特徴とする内燃機関の燃焼室構造。
【請求項2】
前記点火プラグ領域は、球面状の凹面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃焼室構造。
【請求項3】
前記ポート領域間の前記稜部の少なくとも1つは、その先端の曲率半径が3mm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の内燃機関の燃焼室構造。
【請求項4】
前記各ポート領域は、少なくとも前記各ポートの近傍が、120°以下の円錐角を有する円錐面からなる凹面に形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の内燃機関の燃焼室構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−113126(P2013−113126A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257503(P2011−257503)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】